頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『約定』青山文平

2014-12-20 | books
江戸時代を生きる者たちを描く短編集。

食えなくなって江戸で用心棒をする侍。安く借りた家で道場を開いたが門弟はいない。そこへ現れた行き倒れ。助けてあげると……<三筋界隈>
藩の外から儒者を呼ぶことになった。しかし招致に反対する者もいる。儒者の警護を任された自分は、幼馴染と切り合いになるかも知れない……<春山入り>
養父は一人息子を失ったため、私はいつか婿をもらって島内の名を継ぐものだとばかり思っていた。しかし養父は私に嫁に行けと言う。夫となった男は悪い人ではないがなんだか物足りない。夫が江戸に行っている間に屋敷でトラブルが起こって……<乳房>
三年前に果し合いの約束をした。にもかかわらず相手は来ない。そして清志郎は切腹した。誰との果し合いだったのか……<約定>
名主の鑑と称えられる男の苦悩とは……<夏の日>

うーむ。無駄を削りに削った文体。架空で無名な人物たちが浮かび上がるような描写。練り上げられたプロット。完璧な小説がここにある。

どれか一つを問われたら、<乳房>が一番の好み。

歳を喰ってみて初めて、人がどう転ぶかは、あらかた運であることに気づくそうだ。もっと早く気づけばよかったが、とも口にされていたよ

気を入れて剣に精進した者ならば、誰もが己の躰に刃筋を埋め込ませている。わざわざ頭で思い描かずとも、躰が覚えていて、抜いて振れば、そこに己の想う刃筋が描かれる。そのように技と躰を研ぎあげた剣士が刀に求めるものはただ一つ、己が刃筋を邪魔しないことだ。

畢竟、人が暮らしやすい場所とは、己を分かってくれる他者がいる場所である。周りの武家が皆、能く聴く耳を持っていれば、年貢の率を落とさずとも百姓は居着くとな。


約定

今日の一曲

約定は約束。約束の土地と言えば、promised landということで、Bruce Springteenで"The Promised Land"



では、また。

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