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『人を殺すとはどういうことか 長期LB級刑務所・殺人犯の告白』美達大和

2014-09-16 | books
比較的刑の軽い者が収容される「A級」、重い者が収容される「B級」 懲役が長い者はLongなので「LB級」となる。二人を殺して、無期懲役の判決を受け服役中の著者が、新潮社の編集部に原稿を送ってきた。やり取りの後に完成したのがこの本。

美達大和はペンネーム。一人目はヤクザ組織にいたとき、二人目は金融会社にいたとき債務不履行の債務者を殺害した(ようであるが、特定されないように書いている。)この美達が父親による「白黒はっきりさせる」教育によって、極端なまでに正直で生真面目な性格になってしまった。どうして殺人事件を起こすことになったのか、刑務所とはどういう所か、刑務所で出会った人について、という三本立ての構成になっている。

読んでいて驚くのは、文章が巧いこと。知性の高さもうかがえる。これだけ知性が高ければ、割の合わない殺人など犯すはずがないのに、なぜ。その辺りの所も徹底して描かれていて読ませる。たとえこれが完全なフィクションだとしてもそれはそれで別に構わないと思わせるほど。

刑務所とは、犯した罪を償う(目には目を的、悪い事をしたら自由を奪われる)場であるとともに、教育あるいは更生の場であるとされている(はずである。)しかし現状はだいぶ違う。単に我慢するだけのお仕置き部屋か、三食+エクササイズのユートピアとなってしまっているそうだ。被害者の遺族が読んだら卒倒しそうである。

また、一度犯罪に手を染めた者の再犯率も高いということもある。犯罪を減らすには厳罰化すべきだという考え方もあるが、社会に適応することが難しい者を増やすだけということにもなりかねない。刑務所内の改革が必要なのだという思いを強くした。

人を殺すとはどういうことか―長期LB級刑務所・殺人犯の告白 (新潮文庫)

今日の一曲

囚人と言えば、prisoner 宇多田ヒカルでPrisoner Of Love



では、また。
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