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『往復書簡』湊かなえ

2010-10-12 | books

「往復書簡」湊かなえ 幻冬舎 2010年(初出パピルスと書き下ろし)

「告白」「少女」「贖罪」「Nのために」「夜行観覧車」が世間で高い評価を受ける湊かなえ。そして必ずしも高い評価をしていないのに読み続ける私。今回は中篇が三つ。どれも手紙のやり取りだけで構成されている。

<十年後の卒業文集>

高校同級生の女の子どうしの手紙のやりとり。10年ぶりに結婚式で再会してから手紙をやりとりする。なぜ高校の時付き合っていたちーちゃんじゃなくて静香が浩一が結婚したのか、行方不明になったちーちゃんはどこに、往復書簡から明らかになる真実は・・・

ふむ。ラストはちょっと予想通りだった。湊かなえ作品は相変わらず読みにくい。なぜかと思っていた。私の読むペースと合わないようだ。あるいはリズムか。あるいは・・・

私は彼女とダンスを踊る。滑らかに滑らかに。そして最後に彼女に背負い投げをくらう。巧い小説家とのダンスは最後に背負い投げをくらうと分かっているのに、それまでが滑らかなのでついそれを味わってしまう。そして最後の投げにもつい身を任せてしまう。そしてその全てが気持ちいい。しかし湊とのダンスはぎこちない。こちらが足を引いたのだから足を出して欲しいのに出てこない。こちらが足を出すのだから引いて欲しいのに引いてくれない。

てな感じで、折角よいオチがあっても途中のダンスがつっかえつっかえなのでどうも楽しめた感は薄い。しかし湊かなえはいいと言う人たちは私よりダンスが上手で私はダンスが下手なだけなんだろうか。期待しないで次に向かう。

<二十年後の宿題>

学校の教員になった大場のところへ小学校の時の担任だった竹沢先生から手紙が。昔、事故がありその時に自分が担任していた生徒たちがその後どうしているか知らせて欲しいと。二人の書簡が・・・

うん。これは良かった。最後のオチがたとえ分かってもそこへの持って行き方が巧い。事故とは、川でおぼれそうになった竹沢先生の夫と生徒のどちらを助けるか(むにゃむにゃ。ネタバレしないように)というような話。湊作品は、学校とか生徒と先生の関係はいかにfragileなものかということをテーマにしていることが多い。ちょっとしつこいと思っていたのだが、これはうまくはまった作品だと思う。

<十五年後の補習>

国際ボランティアでアフリカに2年間滞在する純一と残された万里子の手紙。高校時代から知り合いであった過去、離れて分かるお互いのこと・・・

おお!これいいね。とてもいい。ミステリではあるので謎解きの部分もある。そっちより、それ以外の彼と彼女の気持ちがシンクロしそして離れしてゆく様がいい。彼女と映画を観に行く約束をしていたのに、彼女が来れなくなってそれでボランティアの説明会に行ったというくだり。


 あまりにも長く一緒にいすぎて、結婚を考えるタイミングを完全にはずしてしまったのでは、と僕は痛感し、三十歳になる前に、という口実で、きみに結婚を申し込もうと思っていた。しかし、説明会に参加したあとの僕は、きみの目を思い出した僕は、同じ目をしていない僕は、きみにそんなことをする資格はないように思えた。(192頁より引用)


これ巧いなと思った。結婚を申し込む側に資格があるとかないとか考えてしまうというのが真面目な男性であって、それが純一のキャラクターとうまくフィットしている。私もこう見えて意外なほど真面目なので純一の気持ちが痛いほど分かる。と言ったら気持ち悪いか?吐かないように。

以上三篇。<十年後の卒業文集>は最後に回して順序を変えると、よいと思う。終わりよければ全て良しと言うけれど、最初が良くないと以降を読み進めていく気持ちが薄れてしまうから。





往復書簡
湊 かなえ
幻冬舎

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