頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源』ダロン・アセモグル&ジェイムズ・ロビンソン

2013-08-18 | books
ジャレド・ダイヤモンドの「銃、病原菌、鉄」は、その国が地理的に世界のどこにあるのかが繁栄するか衰退するかの鍵になるということを丁寧に解説してくれた。すごく面白かった。しかし、心の奥の方でまで、確かにその通りだなと思ったわけではなくて、どこかピンと来ないような気もしていた。

なぜ大英帝国は繁栄したのか、後進国アメリカはなぜこれほどまでに繁栄したのか、ギリシャ、エジプト、インド、あるいはスペイン、ポルトガル、かつて栄華をきわめた国が跡形もなく没落してしまったのはなぜか。自分で考えてみたりすることはあったけれども、普遍的な、これだなというものは私の頭では何一つ思いつかなかった。

それで読んだのがこの本。表紙がなんつーかよくあるあれな感じなので、内容もあれだろうとパラパラめくってみた。すると立ち読みしてるだけで面白さがプンプンと匂ってきた。読めばどっぷりとハマる。自分がインカ帝国で暮らしているよう。スペインの者となって収奪してるよう。イングランドの者となってアメリカに入植したものの食べ物がなくて苦労しているような気分になる。

まさに、こういう本が読みたかった!待ってました。

本書は国家が衰退するか繁栄するかは地理や文化ではなく、経済上の制度と政治上の制度にあるとする。仮説を提示した上で、なぜそう言えるのかを丹念に歴史を紐解きながら考えてゆくという本。いやいやいや。これは面白い。面白すぎて読み終わるのがもったいなくなって、途中で他の本を挟んでしまった。なんというか、体のあちこちにあって自分では存在を意識してないツボを一つ一つ押されてしまったようだ。あー気持ちいい。

なぜ世界は今現在のようになったのか、少しずつ分かる(ような気になって)きた。幸い世界史の知識がなくても分かるように丁寧かつ易しく書いてくれている。(書かれていること全てを鵜呑みにすべきでもないし、どうして異なる政治的、経済的なシステムが生まれたのかという疑問は完全には解決されずに残るけれど、それは自分で後でゆっくり考えたい)(様々な例があるけれど、結局収奪的(extactive、絶対主義的、独裁的)か/包括的(inclusive、民主的、自由、多くの人間が意思決定に参加できる)か という二元論の繰り返しが続くのは難点と言えば難点だし、収奪/包括以外で説明可能な衰退/繁栄は他にあるのだろうと想像する。しかし論点が明快なので読みやすい)(収奪/包括で説明可能な例だけを読むことになるけれど、それだけでも充分収穫)(いや、待てよ、世界史のほとんどのことが説明可能かも知れない…今度ウィスキー呑みながらゆっくり考えてみよう)

自分用メモ

第一章 <こんなに近いのに、こんなに違う> アリゾナ州ノガレスとメキシコソノラ州ノガレスの違い。スペインによる南米の支配は、植民する側(=後に、一部の特権階級)だけが裕福になれるシステムを作っただけ。アメリカ合衆国では、イングランドがスペインのシステムを真似て失敗した。金も銀もない。食料もない。現地民から略奪できない。植民する側も稼がないといけないのだ。イングランド国王チャールズ1世はボルティモア卿に1000万エーカーの土地の土地を与え、「荘園社会」を作らせた。そこでは入植民の働くインセンティブを与えなければならなかった。それは、土地、経済的自由。→アメリカ合衆国の繁栄は地理的なものではなく、政治制度とそれにともなう経済制度によるものだと言える。

第二章<役に立たない理論> ジャレド・ダイアモンドやマックス・ヴェーバー(プロテスタントの倫理が経済的繁栄をもたらした)を否定する。

第三章以降は箇条書きにて失礼 北朝鮮と韓国の相違 / 必ずしも繁栄が選ばれないのはなぜか? 収奪的制度と包括的制度 / 黒死病がヨーロッパ社会の構造をどう変えたか / ヴェネチアは世界で最も進んだ経済大国だったのに、今では博物館になってしまった(経済制度が収奪的になったから) / 大国オスマン帝国が後進国となったのはなぜか? / 明、清が交易に消極的だったのは創造的破壊を恐れたから。19世紀半ばまで鎖国状態だったのは日本も同じだったが、日本は創造的破壊をして、明治維新に進んだ / オランダのスパイス争奪と東南アジア支配が東南アジア秩序をどう変えたか / フランス革命 / 宝くじの当たりくじを自分のものとしたジンバブエの大統領 / 文化大革命 / コンゴ、コロンビア / アフガニスタンの山あいで住居再建のため数百万ドルの支援があった。支援の2割は国連のジュネーブ本部が経費として受け取り、残りは下請けのNGOに支払われ、そのNGOが2割を経費として受け取り、してうるうちにどんどん金は目減りし、イランで買った材木を輸送する運送費が高く、結局届いた材木は大きすぎて使う当てがない。しかたないので薪として使ったという例 / 旧弊を打倒したツワナ族 / マルクスは言った。「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」 / ノーベル経済学賞を受賞したサイモン・クズネッツは言う。「世界には4種類の国がある。先進国、発展途上国、日本、アルゼンチンだ」 以上、ごく一部しか挙げてない。他にも多くの話題満載。

こういう政治・経済の分野ではめったにお目にかかれない、読み始めたら止まらない、徹夜本。政治にも経済にも興味が持てないけれど、歴史には興味があるという人こそ、読むと歴史を動かす軸である政治そして経済が分かって、より歴史が面白くなってしまうスゴイ本だと思う。上で挙げた難点はあるけれど、だからこそ読みやすい本なのである。政治経済ニンゲンたちだけに独占させるべからず。

では、また。

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