頭の中は魑魅魍魎

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『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン

2013-08-16 | books
アイスランド、地中から人骨が発見された。かなり古いもののようだ。60年くらい前のものだろうか。いったい誰の遺骨なのだろうか… レイキャヴィクの犯罪捜査官のエーレンデュルは、娘から「助けて、お願い」という電話をもらう。離婚した妻との娘。ドラッグの常用者。娘を探すと意識不明の重体だった… 戦時中。前夫との子供を抱えながら知り合った男と再婚した女。新しい夫はすぐに手を上げるようになった。ただひたすら暴力を受ける日々。荒む心。アメリカ軍が近くに駐屯することになった。そこで仕事を見つけた夫。物資を横流しするようになった。それが何者かに密告されて牢屋に行った。夫がいなくなり幸せな日々。アメリカ軍の兵士と仲良くなった。しかし… 人骨発見と、刑事の娘の病状、1940年代のドメスティック・バイオレンス。3つの話が並行して描かれる。その先にあるものは…

うーむ。うーむ。重い。重たい。暗い。暗澹としている。というようなダークな話は好物なので問題ない。人骨が誰のものであったかという謎解きについても、すごくミステリ小説として堪能させてもらった。それもいい。

問題はDV。というより、この作品の最大のキモはDVだろう。訳者がこんな作品を世に出していいのかと悩んだだけのことはある。肉体的、精神的な暴力が人間をどれだけ破壊するのか、その力をまざまざと見せつける。

アメリカでサイコスリラーがブームになったとき、サイコキラーは幼少時に虐待を受けたから、経済的利益や怨恨という動機ではなく、快楽を動機に殺人を犯すのだ、という解釈を何度も読んだ(と記憶している。)心理学者による分析によるとそういうことのかも知れないが、エンターテイメント小説は必ずしも現実的に、あるいは科学的に正しくある必要はないので、なんでもかんでもDVのせいにしやがって、と思っているうちにサイコスリラーから離れていったように思う。(記憶は嘘をつくので違うかも知れない)(いや、記憶という他人のせいにしてはいけない。私は嘘をつくので違うかも知れない。)

DVからしばらく離れていたら、これだ。腰椎に針を押し込まれたような感じ。痛みを通り越して、自分が自分ではないような感じ。暴力をふるわれる側の痛みはもちろん、ふるう側の痛みも伝わってくる。

しかしこの小説が与えてくれたのは、果てしもなく冷たい悲しみだけではなく、救われるような温かい優しさだった。人間の根源のあるのははたしてどちらなのだろうか。アイスランドミステリあなどりがたし。「湿地」も面白かった。北欧のミステリ小説やドラマが自分の肌に合うということは、北欧に旅行したらすごく楽しめるとか、北欧に住んだら幸せになれる、ということを暗示しているのだろうか。

では、また。

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