NHKスペシャルで放映された『天使か悪魔か 羽生善治人工知能を探る』では、将棋の永世名人羽生がアメリカやイギリスなどを訪れ、人工知能の開発の最前線を見聞して来た。人類にとって火・石器の発明や産業革命にも匹敵すると言われている人工知能。天才羽生がその進化に見たものは何か・・・という視点でこの番組は制作されていた。(写真:取材中、羽生は実験される側にも回った)
サンフランシスコでは、エンリティック社を訪ね、専門の医師でも見つけられない癌を早期発見する人工知能開発の様子を取材。ディープランニングの技術を使い、健康な人と肺ガンの人のX線画像を大量に分析させた。すると人工知能はデープランニングを用いて、肺ガンの人の画像にだけ現れる特徴を見つけ出した。それによって、1ミリに満たないガン細胞を検出で出来るようになったとのこと。(写真:右・下、赤い小さい点が肺ガンと放映された)
車の自動運転の分野でも切り札はディープランニングであるという。今年、ラスベガスで行われた世界最大の家電見本市では、ディープランニングによるぶつからない車が展示された。人工知能が操る6台の車は、学習開始当初はぶつかり合っていたが、運良く衝突を避ける度にそのときの操作を学習。更にその知識を6台の車が共有。すると僅か4時間で全くぶつからないまでに進化した。トヨタ人工知能研究所の技術責任者は「今や自動車は人工知能にタイヤが着いたものに変貌しようとしています。膨大な運転データを人工知能に学ばせ、賢くて安全な車を作り出すのです」と語っていた。夢のような話で、私はそんな車に乗りたくもあり乗りたくもなし。
シンガポールでは国家レベルでの人工知能の応用が報告され、人工知能の暴走を防ぐ試みをも羽生は取材していた。(写真:主権都市国家シンガポール)
既に人間の理解を越えつつある人工知能。人間の脅威となることはないのか。オックスホード大学人類未来研究所では人類滅亡の12のリスクを報告書にまとめた。リスクには、気候変動や核戦争に並んで人工知能の暴走が挙げられていた。対イ・セドル戦第4局は人工知能の暴走がα碁の敗因と言われている。人工知能の暴走を防ぐ試みをも羽生は取材していた。
(ロボットに人間の感情を持たせる仕組みも取材)
終わりに、羽生は「人工知能は私の想像絶するスピードで進化していました。将棋の世界でも柔軟に発想すれが新しい発見があり、地平が広がる。その未知の領域に人工知能は人間より先に辿り着こうとしています。囲碁や将棋の世界だけでなく、色んな分野で人工知能が人間を追い越していく予感がします」と語り、「人工知能そのものは天使でもなく悪魔でもありません。要は人間の使い方次第です」と結んでいた。
その通りだと思うが、私はその先に大きな問題があると思っている。NHKが決して語らないだろう問題点がある。人工知能は人間の暮らしをバラ色に変えるように見える反面、例えば軍事力強化のためにも使われ得る。人工知能は「天使か悪魔か」という問題の立て方だけではなく、唐突に聞こえるかも知れないが、人工知能を実効支配をするのは「権力側か庶民側か」なのだと私は思っている。