先月の12日(日)に、宮本睦会主催の「宮本落語」で、宝井琴調の講談「赤垣源蔵徳利の別れ」を聴いて、講談の面白さを思い出した。小学生の頃、家庭での唯一の楽しみはラジオ放送で、ラジオドラマ「笛吹き童子」などを夢中になって聞いた。親が聞く浪曲は好きになれなかったが、高学年になるにつれて、面白いなと感じる講談が幾つかあった。宝井琴調の、楽しみを思い出させてくれた語りに触発され、その日、これは是非講談を聴きに行こうと思い定め、会場など調べ始めた。
その矢先、散歩の折、文京区の掲示板で右の張り紙を見て、3月11日(土)、一龍斎春海(はるみ)の口演会に出掛けた。場所は本郷4丁目にある「男女平等センター」。演目は「樋口一葉伝」で、朗読は「わかれ道」。感想を一言で述べれば、“新世界に誘い込まれた”。
落語では“まくら”と言われるあたりを講談では何と言うのだろう?その”まくら”に相当することろから引き込まれた。まずは、講談師となるまでの経歴が語られた。(写真:講談を語る前の写真撮影はOK)
1972年に入門した声優養成所を卒業後、声優名”麻上洋子”として、「宇宙戦艦ヤマト」のヒロイン森雪役、「銀河鉄道999」ではガラスのクレア役などで有名となった。まずはそれらの役の発声に、会場は拍手に包まれ、あっという間に語り手と会場が和気藹々となった。張りのある声とともに、見事な話術。
その後、舞台での演劇活動や劇読(=ドラマティック朗読)の世界に入っていくも、そこでは自分を十分に表現出来ないと悩んでいたときに、人間国宝一龍斎貞水の講談に出会い、“これだ”との一念で貞水に入門。この時1992年、40歳だった。
門下生とし、まずは前座からの修行。例外は無く、雑巾掛けやお茶汲みなどを経験。過去の栄光は捨てて、新世界での、40歳での、ゼロからのスタート。その覚悟の見事さよ!
修行の甲斐あり、2004年真打に昇進。2012年よりは、声優名を「一龍斎春海」に統一して現在に至る。
講談というと登場人物は男。しかし、女性をも語りたいとして創作した物語が紹介された。手足無き人生を送った中村久子伝・金子みすず伝・秩父女義民伝・皇女和宮伝などがある。皆苦労多き人生。その系列のひとつ「樋口一葉伝」が語られた。(写真:朗読での春海)
樋口一葉が小説の師と仰ぐ半井桃水への淡い恋。世間からの誤解を避けるためには逢うのをお止めなさいとの、歌の師中島歌子の忠告に従っての別れ。下谷龍泉寺町に移ってからは数々の力作を発表。”奇蹟の14ヶ月”に「たけくらべ」・「にごりえ」などの名作を創作。しかし肺結核に侵され、24歳での死。貧しくも懸命に生きた一葉への哀惜が強く感じられる語りだった。ぐいぐいと引き込まれていく語りに魅了された。
10分間の休憩後は『わかれ道』(作:樋口一葉)の朗読。その後の質疑応答では私も挙手し、彼女が主に口演する場所を尋ねた。日本橋亭と渋谷金王町講談会が紹介された。金王町講談会は東福寺般若堂地下での公演。この寺は、2010年に算額見学に訪ねた金王八幡宮のすぐ傍にある。第29回講談会には彼女も登場する予定とあり、4月9日(日)に聴きに行くことに決めた。いい歳をしての”追っかけ”だ。