我が愛する作家の一人葉室麟が「蜩の記」で、第146回直木賞を受賞しました。まずは”お目出度とうございます”の言葉を贈りたいと思います。2005年に「乾山晩愁」で歴史文学賞受賞、2007年に「銀漢の賦」で松本清張賞受賞後、この4年間は「いのちなりけり」「秋月記」「花や散るらん」「恋しぐれ」がいずれも直木賞候補作品に留まっていました。「蜩の記」は5度目のノミネート作品でした。
あるインタビューで「主人公は中年で、悲哀があって地味。これが僕の三点セットです」と答えて笑いを誘っていました。今回の受賞作はその通りですが、愛読者の一人として一言付け加えれば、多くの作品には必ず”凛とした、美しい”女性が登場して来ていました。
織田信長の娘冬は永禄12年(1569年)僅か12歳で、その後蒲生氏郷を名乗る14歳の蒲生忠三郎の元に腰入れします。以来寛永18年(1641年)71歳で没するまでの物語です。
信長の近習として仕えた蒲生氏郷は、才気煥発かつ美貌と風雅の武将として描かれます。信長亡き後は秀吉に仕え、会津42万石の大領を与えられます。文禄4年(1595年)40歳で死去。その後数十年、藩主に嗣子が無かった為、寛永11年(1634年)蒲生家廃絶。冬姫が蒲生家の行く末を見届けるまでの物語でもあります。
戦国の世が”国盗り”を目指す男たちの戦いであったのに対し女たちの戦いとは?。冬姫の戦いは具体的には、まずは信長の側室との戦いです。その後信長の妹お市との、最後は淀君との戦いが待っていました。
信長の妻「濃姫」物語は先日テレビドラマとして放映されました。信長周辺の女性達が色々話題になるなかで、題材に取り上げられることの少なかった「冬姫」は何を目指して戦ったのか。
著者は、強烈な意志で物事を動かそうとする女性として冬姫を描いています。父・信長へのまっすぐな敬慕と夫・蒲生氏郷へのひたむきな愛を胸に、激動の時代を生き抜いた冬姫は、「お江」に優るとも劣らない波乱万丈の生涯を送りました。”女の闘い”も面白く読みました。NHK大河ドラマに登場しそうな予感さえします。