A Day in The Life

主に映画、ゲーム、同人誌の感想などをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここはいいトシしたおっさんのブログ。

梅田ブルク7「FALL」見てきました!

2023-02-11 23:24:53 | 映画感想
 見たい映画が次々公開されるので、見られるときに見ておこうということで今日は梅田ブルク7に行ってきました。
 今回見てきたのはこれ!
 
 
 地上600メートルの鉄塔に登った二人の女性の脱出劇を描いたシチュエーション・スリラー。で合ってる?
 こういうワンアイデアのシチュエーション重視の作品は割と好きなので、公開を楽しみにしてました。
 いやーなかなかおもしろかったです。
 トレーラーの段階ではフォロワー6万人のインスタグラマーの女性が主役だと思ってましたが、実際にはそっちの女性ハンターは主人公・ベッキーの親友というポジションでした。
 例によって例のごとく、本作についても予告やトレーラー以上の情報はなしということで見に行ったのでけこう驚きがありました。
 わたくし本作はシチュエーションありきで、登場人物はおまけと言うか承認欲求を満たしたいがためにバカやってるパリピくらいに思ってましたが、主人公であるベッキーにもその親友であるハンターにもしっかりバックボーンがあって、なおかつそのバックボーンをうまく「脱出不能の地上600メートルでのサバイバル」というシチュエーションと合致してて予想以上にしっかりした映画でした。
 ベッキーは夫であるダン、そして親友のハンターとロッククライミングをしている最中に、滑落事故でダンを失います。それがトラウマとなりふさぎこむ毎日を送っているベッキー、ついに睡眠薬の大量服用で自殺を図ろうとしたときにハンターからの連絡があり、本作の舞台となる地上600メートルの鉄塔を登るというチャレンジを行うことになるわけです。
 エネルギッシュで怖いもの知らずなハンターに対し、ベッキーは鉄塔上りを承諾したものの、途中途中で後悔したり立ち止まったりしてるのが対照的。ハンターは基本的に上しか見てないのに対し、ベッキーは頻繁に下を見てしまうんですよね。
 これは取りも直さず、ベッキーの意識が未来ではなくまだ過去に囚われていることを表していると言えるでしょう。そして「地上600メートルの鉄塔の上」というシチュエーションで下を見てしまう=ここで再び過去にとらわれてしまったらもう落ちて助からない。
 それでもなんとかベッキーは、ハンターの助けもあって鉄塔の登頂に成功します。このへんまでは、いわゆるトラウマ克服ものの流れですよね。
 しかし、問題はここから。行きはよいよい帰りは怖いというわけで、はしごが壊れてしまったせいで下に降りられなくなってしまいます。さらにスマホの電波は届かない、充電は切れる、食料はなし、水はわずかという状況でいかにして生き延びるかが本作の焦点となります。
 もうこの辺から下っ腹のあたりがヒュンヒュンしっぱなしなんですよね。
 冒頭のロッククライミングのシーンもかなりヒュンヒュンでしたが、本編の鉄塔に比べたら壁があるだけまだだいぶマシ。
 鉄塔の頂上に到達したときの眺めは当然そりゃあ見事なものではあるんですが、あまりにも周りに何もなさすぎて、その開放感はすぐに大きな不安感にとって変わるのが印象的でした。刹那的な成功体験とそれを得るための巨大なリスク、って絵面でしょうかね。
 そしてサバイバル劇と並行して進行していくのがハンターがベッキーに隠していた秘密の露呈。ハンターは実はベッキーの夫であるダンと関係を持っていたのです。
 ハンターは開き直るわけでもなくベッキーに自分の心情を吐露し謝罪します。こうした極限状況下での人間関係や秘密の暴露はこじれの原因になるのがお約束ですが、ふたりはそうしたこともなく和解します。しかし……。
 本作でふたりが登っていく鉄塔は老朽化が激しく、ふたりが登っていくにつれてネジが外れたり鉄骨がちぎれたりして観客の不安を煽っていきます。見終わったあとで思えば、この「徐々に壊れる鉄塔」が、徐々にヒビが入っていくふたりの関係に重なって見えるんですよね。
 結論から先に言うと、サバイバルものでよくあるような言い争いや減っていく水や食料の奪い合いなどは最後まで起こりません。それが逆説的に怖い。ベッキーがこの極限状態の中で親友が夫と不倫してたことを知ってなお和解するって流れがそもそもおかしいでしょうよ。
 そんな疑念を裏付けるかのように、中盤で鉄塔のアンテナ部分に落ちたバッグを回収しようとしたハンターが、実はロープに捕まり損なって死んでいたことが判明します。この件をハンターの幻覚が説明してるのはちょっとシュールだった……。
 これ、十中八九ベッキーが意識してか無意識にかハンターをロープに捕まらせなかったと思うんですよね。作中ではベッキーとハンターは安全のための命綱でお互いの体を繋いでいます。しかし、ここだけは頂上より下にあるアンテナ部分に命綱の長さが足りないため、ハンターは危険を犯して命綱を外してるんですよ。さらに言えば、命綱を外したハンターの生殺与奪権は完全にベッキーの手に握られている。おそらくベッキーはこのシチュエーションに無意識に心が傾いてしまったんじゃないでしょうか。
 思えば、このシーンの少し前、逆にベッキーのほうが落下して、ハンターが必死に命綱を手繰り寄せて彼女を救うシーンがあります。このときハンターは素手なので、手に怪我をしてるんですよね。しかし上記のベッキーがハンターを引き上げた(はずの)シーンでは、ベッキーは手に怪我をしている様子がありません。これも「実はベッキーはハンターを引き上げていないんじゃないか?」と思う理由のひとつです。
 そして最大の理由としては、作中でしばしば繰り返される「適者生存」という言葉。この言葉はふたりが鉄塔の下でハゲワシに食われている動物を見たときに出てきた言葉なんですが、じゃあ本作で最終的に「生存」したのは誰か?ということを考えると……。
 こうして感想を書いてるといろいろそれっぽいポイントが思い浮かんできました。たとえば、鉄塔の頂上から降りられなくなったふたりは、脱出のためにさまざまな手段を講じます。その手段の中で印象的だったのが、ベッキーがドローンを充電するために鉄塔の頂点にある警告灯のソケットを利用するというシーン。
 電球を取り外したものの、プラグが短くソケットに届きません。そこでベッキーはためらいなく結婚指輪を金具代わりにしてなんとかドローンを充電します。そして充電したあと、この指輪を回収しません。
 さらにはベッキーは、最終的に実は落下していてアンテナ部分に引っかかってハゲワシの餌食になっていたハンターの死体に、最後の頼みの綱であるスマホを入れた靴を埋め込んで地上に投げ落とします。結果、壊れずに地上に落ちたスマホからベッキーの父に連絡が届き、彼女は助かるんですが……。
 これ、「最愛の夫、その夫と不倫していた親友」という彼女を縛っていたものを投げ捨てることでベッキーは生き残れた、適者生存したとは言えないでしょうか。
 本作はいわゆるワンシチュエーションものと見せかけておいて、ベッキーが過去を文字通り捨てて精算して生まれ変わるという話だったんじゃないでしょうか。
 そもそも「地上600メートルの鉄塔からの脱出劇」というだけで2時間も持たせられるわけがないんですよね。そうした意味でのサバイバル要素は実は本作においてはあくまでシチュエーションにしか過ぎないのかも。実際、ろくに装備も持たない彼女たちに取れる手段はそんなにありませんし、主要な登場人物はベッキーとハンターのふたりだけだし、なにより頭頂部へ続くはしごが真っ先に壊れてしまっているので、結局最後にベッキーが救出されるまで、彼女らの行動範囲は鉄塔の頂点付近に限定されています。シチュエーションとしては完全に進退窮まってるんですよね。
 なので、本作はむしろ「地上600メートルという外界から切り離されたシチュエーションで失った夫と親友が不倫してたことを知った結果、主人公であるベッキーがどういう選択を行ったのか」という部分こそが肝となる作品なんじゃないでしょうか。
 高所恐怖症の方にはかなり内臓のあたりがヒュンヒュンする作品ではありますが、高いところで怖がらせるだけの作品ではないということは言っておきましょう。
コメント
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