かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

「ドリームジェノミクス」もラスト1ヶ月、です。

2008-02-17 22:31:18 | Weblog
 今年はまれに見る多雪年ですね。今日も朝のうちは晴れ間も見えていたのに、昼過ぎには見る間に牡丹雪が降り乱れ、地面が瞬く間に白く変わりました。じきに止んだのですぐに溶けてしまいましたが、そもそも昼間に地面を変色させるほど降る、ということからして、ここ数年無かったことです。

 さて、乗り換える携帯をどうしようか、とサイトを検索してみたり、某「本部」から「指令」のあったとある企画の中身を考えたり、本を読んだり洗濯物を干したり雪にあわてて取り込んだりなどなどしている間に、一日が過ぎていきました。なべて世はことも無し、という平和な一日です。これで風邪が治ってくれたら言うこと無いのですが、これだけはなかなか改まる様子が無く、もうしばらくは困った状態を耐え忍ばねばならない模様です。
 そういうさなかではありますが、連載小説「ドリームジェノミクス」は、ようやくクライマックスの1章に取り掛かりました。予定では、この1章を7分冊して掲載し、最後に後日譚1章を付して文字通り、大団円、と相成ります。季節が順調に移り変わるなら、桜がほころび始めるかどうか、というころあいになることでしょう。連載開始からちょうど半年、となりますが、そんな長旅もあとがきまで加えたら、あと残すところ1ヶ月、最後まで気を抜かずきっちり手直しも入れて、物語をしめて参りたいものです。まあそうすると、「次」どうするか、は4月以降に決めることになるわけですね。そろそろ考えていかないとなりませんね。

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15.奇跡 その1

2008-02-17 16:38:54 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
「高原さん!」
 美奈は思わず高原に駆け寄った。だが、もはや為す術もないことは美奈が見ても明らかだった。高原が薄い目を開けて美奈を見上げた瞬間、見事に両断された白衣の切れ目からぱっと赤い飛沫が飛び散った。見る見る白衣が内側から真っ赤に染まり、高原の顔から血の気が引いていく。
「し、しっかりして! 高原さん!」
 それでも美奈は高原に取りすがり、必死になって呼びかけた。この呼びかけが、高原に最後の気力を振り絞らせた。
「君か・・・無事だったのだな・・・」
「しゃべったら駄目! すぐ、直ぐに助けが来るわ!」
 だが高原も、自分が越えてはならない一線をまたいでしまったことは自覚していた。我が手で恨みを晴らすことが出来なかったことは悔しいが、まだやるべき事が残っている。旦夕に迫った命を強引につなぎ止めた高原は、震える手で今は消防車のように変化した白衣のポケットから、小さなアンプルを取りだした。
「いいか・・・この薬を、鼻から吸引・・・するんだ・・・」
 何とか言い終えると、高原はうっと目を剥き、激しくせき込んで大量の血を吐いた。
「高原さん!」
 わずかに残っていた襟元も赤く染めた高原は、すがりつく美奈の手を強引に振りほどき、その掌にアンプルを押し付けた。
「いいか・・・。生き残りたかったら、三人とも、この、薬を吸うんだ・・・。そうすれば・・・助かる」
「これを? これを吸えばいいの?」
 ようやく自分の手の中に注意を向けた美奈に、高原は弱々しく微笑んだ。
「そうだ・・・。では、よく聞けよ・・・、私からの、最後のレクチャーだ・・・。夢の中での闘いは、イメージする力が、全てを、決める・・・。自分が、もっとも強いと感じる姿を・・・、思い浮かべろ・・・。それが、君、達の、最強戦闘・・・、フォームになる・・・。いい、か、・・・お、思いを、思いを集中する・・・ん・・・だ・・・」
「美奈ちゃん! 早く逃げて!」
 突然の蘭の呼びかけに、美奈ははっと顔を上げた。その脇を、小さな影が猛然と走り抜けていった。一瞬遅れてその姿を追った美奈は、アルファとベータが、迫り来る死夢羅に飛び込んでいくのを見て息を呑んだ。
「よい機会だ。お前達もその男と共に果てるがいいぞ」
 死夢羅の鎌が飛び込んできたアルファとベータを水平に薙ぎ払った。一瞬の判断で飛び離れた二匹は、闇の瘴気を浄化する、真白き閃光に全身を包み込んだ。途端に真の力を開放し、数十倍に膨れ上がった聖なる魔獣が、三人の仲間を助けるべく、死夢羅の前に立ちはだかった。
「麗夢の使い魔どもめ、無駄なあがきよ!」
 死夢羅はマントを翻して魔の瘴気を倍増させると、その暗黒の奥から闇の眷属を召還した。ゆらゆらと揺れる半透明なウツボの如き夢魔達が次々と姿を現し、奇怪な実体を得て広がっていく。アルファとベータは、一匹も後ろにはやるまいと、脱兎のごとく飛びかかった。
「・・・今の・・・うちだ・・・、早く!」
 虫の息の高原が、最後の力を振り絞って美奈の身体を蘭とハンスの方へ押した。美奈はあふれ出る涙を拭い、二人にアンプルを渡した。
「ダ、大丈夫ナノデスカ? コノ薬?」
 ハンスは、まだ半信半疑で美奈からアンプルを受け取った。その気持ちは蘭も同じであるが、だからといって他に方法はない。
「あの高原がこれしか助かる方法がないって言ったんなら、きっとそうなんでしょうよ。もし毒だったとしても、あの様子じゃそれほど変わらないわ」
 アルファ、ベータの奮戦で夢魔達の動きは抑えられてはいた。だが、何分数が多い。さしもの二匹もじりじりと後退を余儀なくされている。程なく、自分たちもあの修羅場に巻き込まれるのは確実だった。
「私、高原さんが本当に夢魔を亡ぼしたいと思っていたその気持ちを信じます。だからきっとこれもそのための力になるはずです!」
「マ、待ッテ!」
 慌ててハンスが止めようとしたが、美奈は言い終わるとすかさずアンプルのふたを取り、中身の微粉末を鼻に吸い込んだ。
「ま、やるしかないわね、ハンスも覚悟決めなさいよ」
 続けて蘭もアンプルの先を鼻にあてがい、一気にその中身を吸い込んだ。ハンスはやれやれと首を振ると、美奈と蘭の後を追った。
「集中して思い浮かべるんです。自分の一番強いと信じる姿を。それが私たちの最強の戦闘フォームになるって、高原さんが言ってました」
「最強の戦闘フォーム・・・」
「一番強イ姿・・・」
 美奈の一言に、蘭とハンスも目をつぶってイメージを追った。美奈も自分の強いと思う姿を念じた。その脳裏に、凛々しくも弓を引く先輩の姿が浮かんできた。ついで夢魔の女王と闘う麗夢の姿。数瞬後、死夢羅と夢魔達、そしてアルファとベータは、次第に強く輝く三人を包み込んだ暖かい光に気がついた。その中で、何かが息づきはじめている。やがてその光の中から現れてきた三人の姿に、アルファとベータは喜びに満ちた驚きを覚え、死夢羅と夢魔達はわずかな怯みを帯びた驚愕に囚われた。高原の遺志を継いだ三人の戦士が、今まさに生まれようとしていた。
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