シネマ日記

超映画オタクによるオタク的になり過ぎないシネマ日記。基本的にネタバレありですのでご注意ください。

ミスタアロバーツ

2006-11-09 | シネマ ま行
第二次世界大戦末期、米海軍の輸送船が、前線から遠く離れた南洋に停泊していた。そこではまるで戦時中とは思えないのんびりぶり。のんびりできないのは石頭で自分の名誉ばかり考えている能無し野郎が艦長ジェームズキャグニーであることと、上陸できないので新鮮な食べ物がなかったりすることくらい。艦長がそんな奴なので実際の任務を取り仕切っていたのは、下士官のミスタアロバーツヘンリーフォンダ。彼は乗組員からもっとも信頼される下士官であったが、本人は前線で戦いたくてウズウズしていて、毎週のように転属願いを出しているが、願いはなかなか届かない。

ミスタアロバーツは前線に行けずに輸送艦にいる間の出来事が描かれるのだが、下士官のパルバージャックレモンと軍医と一緒に医療用アルコールなどを使ってスコッチを造ったり、艦長の部屋をぶっ放す練習として洗濯室を爆弾で吹っ飛ばしてしまったり、沖にある病院でシャワーを浴びる看護婦たちを望遠鏡で覗き見したりとなんだか兵隊さんたちが可愛く見えてしまうことばかり。

しかし、やはりこの能無し艦長のせいで、ミスタアロバーツは転属の願いを出せなくなり、クルーとの関係も一時おかしくなってしまったりもする。最後のほうにはきちんとクルーと和解して、クルーたちのおかげでミスタアロバーツの転属も認められるのだけど、その前線でミスタアロバーツは戦死してしまう。このときの知らせを受け取ったジャックレモンの演技が秀逸だ。それまでは、ちょっとおとぼけで調子のいいことばっかり言ってる奴だったのが、ここで突然シリアスな演技を要求される。ことさらに大げさな演技を見せるわけではないのに、あまりにも真に迫っていて、この場面で「あ~ジャックレモンはもうこの世にいないんだなぁ」と映画のことよりもジャックレモンのことをしみじみと考えてしまった。

この作品は戦争を背景に描いているものでありながら、特に戦争の悲惨さとか空しさとかが描かれるわけではない。そこには前線に行きたがる下士官とそれを応援する陽気なクルーがいる。それを皮肉と見ることもできるけど、そんなふうでもない気がする。それになんとなく違和感を感じる人もいると思う。これは1955年の作品だが、この辺りのアメリカ映画にはこういう陽気な兵隊さんを描いた作品が結構あるように思う。正義の戦いに勝利したアメリカ。60年代の泥沼の時代に突入する前のそういう世相を表していたのかなと想像する。