電脳筆写『 心超臨界 』

何もかもが逆境に思えるとき思い出すがいい
飛行機は順風ではなく逆風に向かって離陸することを
ヘンリー・フォード

デジタルICTの特徴を一言でいうなら「物理的枠組の融解」である――坂村健さん

2008-01-29 | 04-歴史・文化・社会
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[やさしい経済学―21世紀と文明]
「デジタル文明の行方」東京大学教授・坂村健
  [1] 漂流し始めた社会
  [2] 物理的枠組み
  [3] 規格世界の流動化
  [4] 第三の変化
  [5] 人間の関与
  [6] 情報的価値とは
  [7] 広がる国内格差
  [8] デジタル化の未来


「デジタル文明の行方」[2] 物理的枠組み
【「やさしい経済学―21世紀と文明」08.01.28日経新聞(朝刊)】

ビジネスから政治までの社会の営み、さらには文明、文化といったものはすべて、比重の大小はあるにしろ、その本質的な部分で「情報処理」を伴っている。そして、その情報処理は、人類文明の長い歴史を通して20世紀前半まで、つまりはその大半の期間、紙に代表される物質を伴うのが必須だった。

実は、現代の社会の営みのさまざまな形式・手順・規則、さらには法律・国家といったものは、この物質的情報処理の時代に、その拘束条件を前提として確立したものだ。

20世紀中期以降、電気的ICT(情報通信技術)の時代になる。電気や電波を使い、一部の情報が物質を伴わずに送れるようになる。しかし、電気的通信路の利用コストは距離に応じて高く、電波帯域は限られた資源で利用者を制限せざるをえなかった。その結果、送れる情報は限られ、通信相手が受信するために待機しないといけないとか、放送は一対多の一方向しか許さないなどの多くの物理的制約が残った。技術の進歩も今に比べればゆったりしていたため、範囲的にも時間的にも変化の規模は限られた。

例えば、テレビやラジオでニュースが放送されるようになっても、新聞は生き残ったし、大きく部数を減らすこともなかったように、社会の枠組みは軋(きし)みを上げたものの、その弾性限界の中で対応することができたのだ。

そして、20世紀の本当に終りに差し掛かり、デジタルICTの時代になる。この第三世代の特徴とは、一言でいうなら「物理的枠組の融解」である。すべての情報をデジタル化することで、物理的メディアを特定せずに、記録、伝送、蓄積することができる。過去の記録を一瞬で探すこともできるし、地球の裏側から数秒前の最新情報を取り寄せることもできる。

現代の社会の営みを想定していた枠――まとまった量の情報のやり取りには物理的実体が必要だとか、多くの人に情報を広めるには大きな資本が必要だとか、情報のコピーを行なうと必ず劣化するとか、情報の書き換えには必ず痕跡が残るとか――そういう枠をなくしたのがデジタルICTだ。

問題はここでデジタルICTが与えたのは、従来の物質的なICTの枠からの自由であって、そこには方向性がないということだ。枠が破壊されたあとに、自由だけが残るという状況に社会は耐えられない。新しい枠を求めて今世界はさまよっているのである。

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