真理のひびき 《 人間の生命の力を――中村天風 》

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　　　［箴言八］

　　　人間の　生命の力を　向上的なものであると
　　　正しく気づかぬ人は　其一生を平凡無為で終わることゝなる
　　　The vital power of man is uplifting. He who does not find out this
　　　truth will end his life in mediocrity without achieving anything.


『真理のひびき』
（ 中村天風、講談社 (1996/7/18)、p78 ）

多くいうまでもなく、人間とは万物の霊長たる優秀な生物である。

したがって、その生命力の力は当然向上的なものである。

それは、現在われわれが日々の事実の中で見聞する幾多の新しい発明や、価値高い創見等に想いを到らしたら、この重大な現実は、ただちに直感できるはずである。

然るに、それをそうだと正当に認識して人生を価値高く活きている人は、むしろあまりにも数において少ないかの感がある。

またそういう人に限って、いかなる現実を見聞しても、それは特殊な生まれつきの人か、さもなければ、およそ常人を卓越したその種の才能を、凡人にはとうていできない難行苦行の努力によって克ち得た特別の人と想い込んで、自分などには、そうした「力」は断然無いと、はなから自己断定をあえてしている。

しかも、この自己断定が、自己認識の不完全という軽率さから招来されたものであると気づいていない。

そして、この自己認識の不完全さは、自分人間というものの生命の力が生まれながらに向上的なものであるということを、正しく気づいていない大きい錯覚から生じたものなのである。

しかし、遺憾千万なことに、それさえもなおかつ自覚していないために、頭から自己の力を否定的に考えて、努力しさえすれば誰でも、男女の区別なく、自己を現在よりはるかに価値高く向上させることができるということを、いいかえれば人間の生命の力の本来は努力という推進力を与えさえすれば、ちょうど下り坂の車を加勢を与えて押したのと同様にきわめて容易に向上するものであるということを信じない。

そしていつも自分はだめだというように考えるという憐れな自己否定を平気で行う。するとその当然の結果は、何事に対しても、真剣な努力を継続的に集中させようとしなくなる。

現にたまたま努力するかと思うと、それがしばらくの間だけで永続しない人の多いのが何よりのよい証拠である。

これでは、向上どころか、反対に自己向下を、知らず知らずの間に誘発することになるのみである。

しかし人間かりそめにもこうなったのでは、せっかく人間に生まれ出たかいがいささかもないということになる。

しかも、それもこれも、人間の生命の力に対する自信があまりにも曖昧(あいまい)であるからである。

およそ人間何が憐れだといって、自己を信ずることのできないほど憐れなものはない。

そういう人は、努力さえすれば出世成功のできる人生を、あたらただ何年かその生命をこの世に活かしていたというだけで、結局は平々凡々でその生涯を終わるという愚かな終末で決算してしまう。

要約すれば、こうした人生は、人の生命の力の向上に対する自信欠如の結果から招かれるもので、曰く自業自得というべきである。すなわち“Self done, Self have.”である。

したがって、自己の向上にいささかたりとも不足不満を感ずる人は、この箴言に即して、厳かに反省すべしである。