映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ヴィヨンの妻

2009年11月05日 | 邦画(09年)
 「ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~」を日比谷のシャンテ・シネで見てきました。

 以前、山梨文学館で「ヴィヨンの妻」の自筆原稿を見たことがあり、そんな太宰治の小説をどんな風に映画にするのかと興味があり、またご贔屓の浅野忠信が出演することもあって出かけてきた次第です。

 映画では、昔の中央線が出てきたり、「きちじょうじ」とか「むさしこがねい」といった駅名まで映し出されるので、それだけで○のところ、松たか子を巡る3人の男性(浅野忠信、堤真一、妻夫木聡)といった風情で、大変面白く最後まで見ることが出来ました。

 もちろん浅野忠信に太宰治を重ね合わせても構わないものの、別にそうせずとも、優柔不断で煮え切らない今でもどこでも見かける男性が、松たか子の魅力に抗しがたく、くっついては離れ離れてはまたくっつくといった関係を続ける中に、至極真面目な鉄工所作業員・妻夫木聡とやり手弁護士の堤真一が絡み、さらには女給の広末涼子までも加わるので、つまらないはずはありません。
 設定は、確かに終戦直後となっていますが、セットがいかにもスタジオで拵えたものという感じの出来具合で、その中でこうしたいま旬の俳優が、食糧難で痩せ衰えているわけでもなく動き回りますから、何だか現代劇を見ているようです(松たか子も、生活に草臥れた雰囲気など微塵もなく、健康優良児そのものです。中野の小料理屋に集まってくる常連客も、皆恰幅の良い人ばかりです!)。

 だからこの映画が問題だというわけでは決してなく、こうした様子に現代劇を見るのも良し、また終戦直後の混乱期のさまを見ても良し、ということではないかな、と思いました。

 映画評論家の意見は総じて高そうです(マアこうした映画を貶すと、評論家としての見識が疑われてしまう側面はあるのかもしれませんが)。

 前田有一氏は、主演の松たか子は「すごい。原作のヒロインの印象とは違うものの、鑑賞者に暖かい感情を抱かせるキャラクターを作り上げている」し、浅野忠信も「弱い男を魅力たっぷりに演じ、さすがの貫禄」とはいえ、「実話の映画化ではないのだから遠慮なく脚色のしようがあったような気がするのだが、実際はどこか帰結点の定まらない、中途半端な印象を受ける」として60点。おそらく、前田氏は、メッセージ性のあまりない、ラストよりも途中経過を大事にする文芸物の映画は体質的に嫌いではないでしょうか?

 福本次郎氏は、「常に「死にたい」と周囲に漏らし、弱さを積極的にさらけ出して相手を操っていく、あまりにも身勝手なのに不思議な魅力を持った作家と、彼の破天荒な生き方にじっと耐える妻の対比が鮮やかだ」として70点とこの評論家にしては高い点数を与えています。ただ、浅野忠信に太宰治を重ね合わせすぎて見ている嫌いがあるように思われます。

 渡まち子氏は、「放蕩三昧で浮気性、破滅願望が強く自分勝手なのにどこか憎めないという不思議な男を演じる浅野忠信が、素晴らしい」し、「松たか子の柳のような強さも負けずに秀逸」で、「やるせなくてしたたか、そしてどこかこっけいな、大人の恋愛映画だ」として75点を与えていますが、こんなところでしょうか。


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