映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

劔岳 点の記

2009年07月05日 | 邦画(09年)
 「劔岳 点の記」を渋谷TOEIで見ました。

 公開後暫く経つのに観客が多かったのには驚きました。木村監督による八面六臂のPR活動も大いに与っているのでしょうが(ラジオにまで出演しています!)、とにかく邦画が盛況なのは何よりです。

 映画自体の仕上がりも素晴らしく、浅野忠信香川照之の演技も出色であり、そのほかの配役も総じて良かったと思いました。 また、至極単純な筋立てながら、陸軍測量部と山岳会との初登頂競争の物語に引っ張られ、最後にチョットしたどんでん返し(一部の見方からすれば、努力が水泡に帰してしまう訳ですから)もあったりして、なかなか楽しめる作品だなと思いました。

 さらに、立山信仰と修験者・猟師などの活動について知識があればモット楽しめたでしょうが、そうした方面に疎い私にとっては、やはり自然が良く撮られていて映像が綺麗だという点に大いに惹かれました。
 前田有一氏は、「その撮影風景を思えば「凄い」と思える映像が続出するが、実のところ、そうした観客の「親切な」想像力がなければ、さほどの驚きはない」と断定していますが、決してそんなことはないと思います。特に、立山から富士山が見える光景は凄いなと思いました(監督が事前に「撮影隊の苦労」を強調したのは、単にPRの仕方の問題に過ぎないでしょう)。

 なお、多少感じた疑問点を挙げるとしたら次のようなものなるでしょうか。
・撮影監督出身の監督が制作した作品だけに、どのシーンも実にヨクきっちりと画面に収まっているものの、かなり横長な画面だけに、尾根歩きといった「横」に動く場面が多く、山岳映画にもかかわらず「縦」の動きが十分に捉え切れていないのではと思われました。特に、ラストの山頂まで登り切る肝心のシーンがカットされてしまっているのは象徴的ではないでしょうか(それに、山頂に取り付くまでの雪渓斜面の急角度もあまり強調されていなかったように思われます←一番大変とされていたのにイトモ容易に登頂してしまった感じでした)?

・長治郎の息子の手紙とか先輩古田の手紙の読み上げなどかなり甘ったるい場面(あるい は定型的なシーン)が色々と挿入されているなと思いました。  
興業的観点から仕方がないとはいえ、極端に言えば、この映画から喋りの部分をかなりカットしてしまったら、随分と骨太の映画―人間と自然との格闘を劇映画として作ったという意味で―が出来上がったのではないでしょうか?

・流れる音楽がすべて通俗的なクラシック音楽というのも、かなり興味を削がれるところです(なぜ今時ヴィヴァルディの『四季』なのか、そのセンスが疑われます)。どうして現代の音楽家に作曲を依頼しなかったのでしょうか(木村監督が師と仰ぐ黒澤明も、こんな音楽の使い方はしていないのでは)?

・モットつまらないことですが、なぜ柴崎が選抜されたのかの説明があっても良かったのでは(実際の行動を見れば、大層優れた人物であることはヨク分かるのですが)?  
 また、陸軍の命令は“山岳会に負けるな”であったはずなのに、千年前の行者の登頂が判明すると、どうして“登頂はなかったことに”との態度に急変してしまうのでしょうか(四等三角点の設置しかできなかったために、元々『点の記』には記録されないにもかかわらず)、他の日本の山もそれまでに陸軍測量部が初登頂していたのでしょうか(なぜ剣岳初登頂にこだわるのでしょうか)?


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2 コメント

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雷鳥も見えたよ (チューリップ玉)
2009-08-05 21:05:27

 肝腎の劔岳登頂の場面が欠落し、立山信仰の関係者たちや富山の関係官署との確執など様々な苦労の描写も少ないのではないかなど、この映画には多少とも突っ込みどころはあります。ただ、この地方古来の立山信仰が映画の背景にあり、古くからの修験道との絡みを考えると、こうした習俗の一端を紹介するだけで、意義の大きな作品だと思われます。皆が指摘するように、なかなか見られない雷鳥が写る等々、立山一帯の自然の実写が素晴らしいことはもちろん、宮崎あおいもかなり凛々しく美しく写っていました。
かつて富山県に縁のあった者として、是非、観賞をお薦めします。
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登ってみたい (クマネズミ)
2009-08-05 21:37:03
チューリップ玉さん、コメントをいただき誠にありがとうございます。
この映画の「立山一帯の自然の実写が素晴らしい」ことから、暫く遠ざかっていた登山を再度始めてみようかと思っていましたら、7月17日の大雪山系遭難事件です。
一定の年齢を超えたら、やはり山はこうした素晴らしい映画を見ることで満足すべきなのかもしれません!
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