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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  国内外の選挙結果捏造批判にも居座るマドゥロ大統領 残された選択肢は国を去ること

2024-08-11 22:17:25 | ラテンアメリカ

(【8月8日 AFP】 鍋を叩いて抗議する人々 しかし、それだけでは軍・警察・民兵組織の暴力装置に守られた権力は微動だにしません)

【盗まれた選挙 居座るマドゥロ大統領】
バングラデシュ・ハシナ政権のようにあっけなく崩壊する政権もあれば、一方でどれだけ国内外の批判にさらせれようが、強権的に、選挙結果を捏造しても居座る政権もあります。そのひとつが南米ベネズエラのマドゥロ大統領。

ベネズエラは長年、石油収入に依存し、原油価格が下落した後もばらまき政策を続けた結果、財政が破綻しました。一時は天文学的数字のハイパーインフレーションで市民生活は満足に食事もとれないほどに崩壊。その後も野党弾圧などを理由にアメリカから経済制裁を受け、外貨不足とインフレが常態化しています。

7月22日ブログ“ベネズエラ大統領選挙 投票日は28日 野党候補が大きくリードした状況でマドゥロ大統領の対応は?”でも取り上げたベネズエラ大統領選挙(7月28日)では、マドゥロ大統領が選挙での敗北を認めるというサプライズは起きず、想定されたように結果を捏造して居座る構えを見せています。

マドゥロ政権の影響下にある選挙管理委員会は、全国から集めた投票結果を集計する際、野党側の立会人を排除して集計を進め、その結果、マドゥロ大統領の得票率は51・95%、無名だった野党候補ゴンサレス氏は43・18%と「マドゥロ勝利」を発表しています。

一方、野党側は各地で公表される票を積み上げてゴンサレス氏が7割を得票したと発表していますが、この数字は事前の世論調査や当日の出口調査とおおよそ一致するもので、選挙結果は政権側によって捏造されたものと思われます。

国内では野党側の抗議行動が続き、国際的にもアメリカや中南米諸国から「野党勝利」の主張が出てはいますが・・・

****抗議続くベネズエラ、野党指導者がサプライズ登場****
南米ベネズエラで3日、野党指導者で、逮捕の恐れから潜伏していたマリア・コリナ・マチャド氏が支持者の前に姿を現し、「私たちはかつてないほど強くなった」と訴えかけた。

7月28日実施の大統領選でニコラス・マドゥロ大統領の再選が発表されたことへの抗議が続いており、マドゥロ氏は「大統領職を奪取する」試みだと非難した。

ベネズエラ全土で平和的なデモが継続。マチャド氏は首都カラカスで「ベネズエラは勝利した!」と書かれた横断幕を掲げたトラックに乗って予告なしに登場し、支持者を沸かせた。

マドゥロ氏は選挙後の抗議デモを受けて、マチャド氏を逮捕すると警告。マチャド氏はこの日まで身を隠していた。

支持者らは、大統領選での野党連合候補の元外交官エドムンド・ゴンサレス氏の得票率は67%だったと主張。一部の南米諸国や米国は、同氏を次期大統領として認定している。

ベネズエラに投票結果の詳細を公表するよう求める声もあり、欧州連合加盟国のフランス、ドイツ、イタリア、スペインは3日、選挙結果に「強い懸念」を表明した。

マドゥロ政権と良好な関係を維持しているブラジル、コロンビア、メキシコも、結果の「公平な検証」を求めている。 【8月4日 AFP】
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****ベネズエラ、野党候補の勝利認定すべき=大統領選巡り米国務省高官****
米国のニコルズ国務次官補(西半球担当)は31日、ベネズエラのマドゥロ大統領や諸外国に対し、28日のベネズエラ大統領選で野党候補ゴンサレス氏が勝利したことを認めるよう求めた。

ニコルズ氏は米州機構(OAS)の会合で、ベネズエラの選挙管理当局が詳細な開票結果をまだ公表していないのは、ゴンサレス氏が勝利したことを隠したい、あるいは結果を改ざんする時間が必要だからだと述べた。

選管当局はマドゥロ氏が勝利したと発表しているが、野党や独立系調査機関、多数の外国政府が信頼できないとして反発している。【8月1日 ロイター】
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****ベネズエラ大統領選、中南米5カ国も野党候補の「勝利」を表明****
ベネズエラ大統領選を巡り現職マドゥロ大統領の「当選発表」に国際社会から批判が高まる中、アルゼンチンなど中南米5カ国は2日、野党連合候補の元外交官ゴンサレス氏が勝利したと相次いで表明した。米国やペルーも同様の認識を示しており、米大陸でマドゥロ氏の3選を否定する動きが広がっている。

アルゼンチンのモンディノ外相はX(ツイッター)に「正当な勝者、次期大統領はゴンサレス氏だ」と投稿した。ウルグアイのパガニニ外相もXで「人々の意思が尊重されることを望む」と述べた。このほか、エクアドル、コスタリカ、中米パナマがゴンサレス氏勝利を表明した。(中略)

ベネズエラでは集計に不正があったと抗議するデモが広がり、地元NGOによると、これまでに少なくとも11人が死亡。マドゥロ政権は抗議デモに絡んで1200人以上を拘束した。

2日未明にはゴンサレス氏の陣営本部に武装集団が押し入り、書類などを持ち去った。マドゥロ派による犯行との見方が出ている。【8月3日 毎日】
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国内外の批判があるなかで、中国・ロシアやキューバなどがマドゥロ大統領勝利に祝意を送っています。

与野党は昨年、ノルウェーの仲裁のもと公正で民主的な大統領選を実施することに合意し、アメリカはこれを評価して一時的にベネズエラへの経済制裁を解除するという「アメ」も与えていましたが、有力野党候補マチャド氏を選挙から排除したあげく、無名候補にも敗れると選挙結果を捏造するという結果に。

マドゥロ大統領には民意を反映した選挙を実施する考えはなく、選挙は自身の政権の正統性をアピールするための道具に過ぎません。

国民がいくら鍋やフライパンを叩いて抗議しても、政権を譲る考えはありません。

【軍・警察・民兵組織という暴力装置で守れた権力】
国内が混乱した場合、軍の動向が決定的影響を持つというのが現実で、野党側も軍に国民の側に立つように求めていますが・・・

****ベネズエラ国防相、マドゥロ大統領に軍の「絶対的な忠誠」表明****
ベネズエラのパドリノ国防相は6日、7月28日の大統領選を巡り現職マドゥロ大統領と野党候補だったドムンド・ゴンサレス氏双方が勝利を主張する中、マドゥロ氏に対する軍の「絶対的な忠誠」を再確認すると表明した。

ゴンサレス氏と野党連合を率いたマリア・コリナ・マチャド元国会議員は5日公表の書簡で軍に「国民の側に立つ」よう求めていた。

パドリノ氏はテレビ演説で、野党側の要求を「愚かで非理性的」と一蹴し、「われわれの団結と確立された制度を壊そうと狙っているが決して壊すことはできない」と強調。軍幹部や警察が同氏の周りを囲んだ。

野党側はゴンザレス氏の得票数が600万票強と、マドゥロ氏の270万票の2倍以上だったと主張。3万台の投票機分の投票用紙の写しをインターネット上で公開している。

選挙管理委員会は投票用紙の写しを公表しておらず、7月29日以降、ウェブサイトもダウンしている。【8月7日 ロイター】
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軍幹部も既得権益を得て、体制の枠組みの一環となっているものと推測されます。

チャベス前大統領以来の強固な支持者が一定に存在するのも事実ですが、軍・警察そして民兵組織という暴力装置に守られた権力は鍋やフライパンを叩いただけでは微動だにしないのが現実です。

【マドゥロ強権支配が更に6年続くのか 残された選択肢は国を去ることだけ】
国民に残された対応としては、国を去ることだけか・・・

“経済苦と強権統治から逃れようと、すでに全人口の4分の1にあたる770万人以上がブラジルやコロンビア、米国などに逃れ、今後さらに増えるとみられる。”【8月5日 読売】

****また6年...独裁者マドゥロ「怪しい再選」で次に起きること ベネズエラ国民4人に1人が移住を検討****
<26年ぶりの変革に国民は期待を寄せたが、今回も勝ったのは現職ニコラス・マドゥロ大統領。「不正が行われた」との見方がもっぱらだ>

ベネズエラ大統領選挙が行われた7月28日、国民は夜遅くまで起きて開票結果を見守った。1998年に左派のポピュリスト、ウゴ・チャベスが政権の座に就いて以来の大きな政治的変革を期待したのだ。

だが勝利したのは、チャベスの後継者で3期目を目指す現職のニコラス・マドゥロ。独裁的な左派政権がさらに6年間、続くことになる。

(中略)ゴンサレスは支持者に対し、デモなどは行わず、暴力に訴えることのないよう呼びかけた。これを受けて、首都カラカスの多くの地区では29日、鍋やフライパンをたたく音が響いた。これは中南米の伝統的な抗議行動のやり方で、「カセロラソ」と呼ばれる。

政権打倒を狙った試みはこれまで何度も行われたし、経済制裁などの外国からの圧力もあったが、いずれも結果には結び付かなかった。専門家や政治家は政権交代の可能性について悲観的な見方を示す。

「国際社会の選択肢は限られているし、(マドゥロ政権と野党側や諸外国との)対話からも、近い将来ベネズエラで大きな政治的変革が実現する見通しは暗いことがうかがえる」と、アンデス大学(コロンビア)のサンドラ・ボルダ教授は本誌に語った。

マドゥロ政権発足以降の10年間に、数百万人のベネズエラ国民が国を去った。ハイパーインフレの原因となった経済政策や周辺諸国からの圧力、そして新型コロナウイルスのパンデミックがその流れに拍車をかけた。

米シンクタンクの移民政策研究所のデータによれば、2010年以降、アメリカへのベネズエラ人移民の数はほぼ3倍に増えた。

ベネズエラ情勢の先は見えない。フリオ・ボルヘス元国会議長ら野党指導者からは、軍に対して「国民の意思を守る」行動を取るよう呼びかける声まで出ている。

ベネズエラの調査会社デルフォスが6月に行った全国規模の世論調査によれば、約4人に1人が外国への移住を検討していて、その主な理由は経済問題だという。ちなみに移住を考えている人のうち、約半数は大統領選で野党が勝利したり、経済情勢が改善すれば国に残ると答えている。

今後、マドゥロが野党への圧力を強めるシナリオもあり得る。特に標的になりそうなのがマチャドだ。タレク・ウィリアム・サーブ検事総長は、マチャドが「アメリカの勢力」と手を組んで、大統領選の開票システムをハッキングしたと非難している。

国際社会におけるベネズエラの政治的孤立がさらに深まる可能性もある。もっともマドゥロはこれまで、そうした状況をうまく切り抜けてきた。

例えば19年にはフアン・グアイド国会議長(当時)が暫定大統領への就任を宣言し、2人の大統領が並び立つという事態が続いた。グアイドはアメリカなど西側諸国の支持を集めたが、マドゥロ政権を倒すことはできず失脚。フロリダで亡命生活を送っている。【8月6日 Newsweek】
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気が滅入る現実です。

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LGBTを西側の価値観として否定する中ロ 米ではキリスト教福音派が否定の急先鋒 民間矯正施設も

2024-08-10 23:39:46 | ジェンダー

(映画「ある少年の告白」より 「神の教えに背く同性愛者」として矯正施設に送られた少年の実話に基づく映画)

【国連安保理でも取り上げられたパリ五輪ボクシング女子問題】
パリ・オリンピックでは熱戦が続いていますが、ジェンダーの観点で話題になったのがボクシング女子のイマネ・ケリフ選手(アルジェリア)。

彼女はよく女子スポーツで問題になるトランスジェンダーではなく、「長年、女子の試合で競技してきた。女性として生まれ、登録され、人生を生き、ボクシングをして、女性のパスポートを所持している」選手(IOC広報のマーク・アダムス氏)ですが、IBA(国際ボクシング協会)は2022年および2023年の世界選手権期間中に実施された2回の検査の結果、女子競技に参加するための条件を満たさなかったとしています。

相手選手が途中棄権したことで、ケリフ選手の「女性」としての資格が問題になりました。今回は同選手の資格問題自体を云々することが主旨ではありませんので、詳細は割愛します。

スポーツにおける「女性」としての資格に関連してひとつだけ感じることを言えば、そういう「資格」というのはそれほど自明のことではないようにも感じています。

例えば、染色体に男性的な特徴があるとか、男性ホルモンの値が高いので「女性」としての資格がない・・・といえば、「なるほど」と思いがちですが、「早く走れる」「早く泳げる」「体力がある」「高く跳べる」等々のスポーツ選手の「競技に向いた資質」というのは多分に遺伝子レベルの特徴にも関連していることが多いのでは。

かつてオリンピックで五つの金メダルを獲得したオーストラリアの水泳選手イアン・ソープ氏は絶対的な強さを誇っていましたが、同氏の足のサイズは35㎝もあるとか。多分に泳ぎにも影響するでしょう。

一般人より泳ぎに有利な体形を有していることは問題とされず、男性ホルモン値が高い「女性」は資格がないとされる・・・そこに、それほど自明の差があるのか・・・身体的な問題を「資格」としてつきつめていくと、そもそも「競技」が成り立つのか?・・・そういうことを最近よく思います。

なお、ケリフ選手は金メダルを獲得しましたが、「五輪の価値を守り、他者をいじめてはならない。これが私のメッセージだ。将来の五輪で二度とこうしたことが起きないことを願う」と試合後の記者会見で訴えたそうです。

話を戻します。イマネ・ケリフ選手の話を持ち出したのは、ジェンダー・LGBTの問題に象徴される価値観の違いが、従来の右・左といった古典的政治思想に代わって、国際政治あるいは国内政治における対立軸となりがちなためです。

ケリフ選手の問題は国連安保理の場にも持ち出されました。

****安保理、ボクシング女子騒動で対立 ロシアにアルジェリア反発****
国連安全保障理事会が女性と平和、安保にテーマに開いた7日の会合で、ロシアがパリ五輪ボクシング女子の性別適格性騒動に言及し、渦中の選手の出身国アルジェリアが強く反論する場面があった。

ロシアのドミトリー・ポリャンスキー国連次席大使は、西側諸国が五輪運営を独占していると主張。LGBT(性的少数者)を巡る政治的意図をその他諸国に無理矢理押し付け、女性の権利と尊厳を損なっていると非難した。

その上で、パリ五輪のボクシング女子に出場するイマネ・ヘリフ選手(アルジェリア)と林郁婷選手(台湾)の性別適格性を巡る問題を議論に持ち出し、「国際ボクシング協会(IBA)のホルモン検査で失格した選手ら、つまりIBAと常識によると男性だが、その選手によって女子選手が公然と暴力を受けている。全く忌まわしいことだ」と述べた。

これに対しアルジェリア上級外交官のトゥフィク・クードリ氏は強く反論し、「ヘリフさんは勇敢なボクサーで、女性として生まれ、女性として過ごしてきた」と指摘。「漠然とした政治的意図を持つ人たちは別にして、その点に一片の疑問もない」と強調した。

ヘリフ選手と林選手は昨年の世界選手権で性別適格性検査をクリアせず、IBAの規定違反で失格となった。ただ、IBAはガバナンス問題でボクシング統括団体としての地位を剥奪され、パリ五輪では国際オリンピック委員会(IOC)が競技を統括しているため、出場が認められていた。【8月8日 ロイター】
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【LGBT権利擁護を西側の価値観として排除するロシア・中国】
“LGBT(性的少数者)を巡る政治的意図をその他諸国に無理矢理押し付け、女性の権利と尊厳を損なっている・・・” ロシアがそういう主張をするのはある意味当然で、ロシアはロシア的価値観を重視し、欧米的価値観の象徴としてLGBTについて極めて厳しい対応をとっています。

****ロシア最高裁、LGBT活動を「過激派」認定 コミュニティーの不安募る****
ロシアの最高裁判所は11月30日、「国際的なLGBT(性的マイノリティー)市民運動」と呼ばれるものを過激派組織と断定し、全国での活動を禁止した。

このような組織は法人として存在しないにもかかわらず、判決は司法省からの申し立てによって下された。

ロシアではウラジーミル・プーチン大統領の下、保守的な考え方や「伝統的な家族観」が推進されている。こうしたなか、LGBTに関する活動は西側の価値観であり、ロシアに敵対するものとされている。LGBTコミュニティーへの抑圧も、ロシアの道徳を守る手段とみなされている。

3年前に改正された憲法では、婚姻が男女間のものを意味することが明確になった。同性婚は認められていない。

昨年には、同性愛に関する宣伝禁止法を強化する法律も強化された。書籍や映画、オンラインなどで同性愛を流布することが違法とされ、違反者には重い罰則が科せられる。(後略)【2023年12月1日 BBC】
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LGBTの権利擁護を西側の価値観として、これを排除するということでは中国も同様です。

****中国で性的少数者への暴力横行 施設に送り「転向療法」で虐待****
世界で性の多様性への理解が進む中、中国でLGBTQなど性的少数者を施設に送り込み「転向療法」と称して殴打するなどの虐待が横行していることが11日、分かった。被害者らが暴力の実態を証言した。

保守的な考えに基づく偏見に加え、性的少数者の権利擁護を「西側の価値観」と警戒する習近平指導部の姿勢が性差別に拍車をかけている。  

被害者や支援者らによると、転向療法を行う病院や民間施設は、上海市や河北、湖北、四川各省などに100カ所近く点在。入所者の多くが家族に半強制的に連行された10~20代の若者だという。  

「おまえなど気持ち悪くて役立たずだ」。性的指向や性自認の「矯正」を行う施設で、指導官が入所者を殴打したり人前で裸にさせたりした。性的虐待の被害もあった。  

施設では外部との連絡を制限するためスマートフォンやパソコンを没収される。髪は短く切られ、軍隊のような厳しい訓練のほか「男性は働き女性は子を産む」といった伝統的な性別役割の授業を受けさせられる。【2月11日 共同】
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【アメリカ国内でLGBTを否定するキリスト教福音派】
では“西側”の盟主たるアメリカにおいてはLGBTの権利が擁護されているのか・・・

確かにアメリカのTVドラマなど観ていると、びっくりするぐらい普通にLGBTで溢れており、LGBTでない者の肩身が狭いぐらい・・・

その一方で、中絶をめぐる女性の権利と並んで、LGBTに関する見方は国を二分する対立の最前線となっており、大統領選挙を左右する問題です。

LGBTに否定的な考えの急先鋒が「キリスト教福音派」と呼ばれる人たちで、トランプ前大統領を熱烈に支持しています。

****トランプ前大統領を支持するキリスト教「福音派」(前編)…アメリカ政治を動かす宗教パワーとは****
(中略)
「福音派」とは、キリスト教プロテスタントの一部の宗派を指す。聖書を歴史的な書物ではなく、「御言葉(みことば)=神の言葉」だとして信じて、聖書に忠実な信仰生活をおくる人々だ。

聖書を絶対的なものとみなすため、性的少数者や人工中絶の権利について否定的な考えを持つ。具体的に聖書にはこう書かれている。

レビ記18章22節:「あなたは女と寝るように男と寝てはならない。これは憎むべきことである。」→同性愛、同性婚に否定的な立場
エレミヤ書1章5節:「あなたがまだ生まれないさきに、あなたを聖別し〜」→神は胎児もひとりの人間とみなすため、人工中絶は殺人と同じだとして、否定的な立場

ピュー研究所によると、「福音派」はアメリカの成人人口の4分の1を占めている。うち81%がトランプ氏に投票すると答えていて、選挙には大きな影響力を持っているのだ。(後略)【8月7日 日テレNEWS】
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****トランプ前大統領を支持するキリスト教「福音派」(後編)…「性的倒錯がアメリカを覆っている」****
(中略)
「性的倒錯がアメリカを覆っている」…米国の現状を嘆く福音派牧師
(中略)トランプ氏を支持するロック牧師は、今のアメリカの政治状況について「サタン(悪魔)が文化に影響を与えて、世界中のあらゆるモノがLGBTQを推進している」と嘆いた上でこう述べた。

ロック牧師:「性的倒錯がこの国を覆ってる。絶対に同性婚を覆すべきで、中絶を覆して、連邦政府として禁止して犯罪にすべきです」「聖書には神を忘れた国は呪いを受けて地獄になると書かれています」

保守的な「福音派」の恐れとは…アメリカ建国とキリスト教
元々アメリカは、宗教的な迫害から逃れてきたキリスト教徒が建国した国とされ、プロテスタントの価値観が浸透した"キリスト教国家"的な側面を持っていた。歴代大統領は就任式の時に聖書の上に手を置いて宣誓を行うし、公立学校では聖書朗読も行われていた。

しかし、時代が進むと共に価値観が多様化し、リベラルの影響が強くなり状況が変わる。1962年には公立学校での礼拝が違憲とされ、73年には中絶の権利が認められ、2015年には同性婚が認められる最高裁判決が出た。

聖書の記述は神の言葉としてとらえキリスト教原理主義的な側面を持つ「福音派」。彼らはリベラル的な考えがアメリカに浸透して国の形を変えていくと感じ、自分たちが守ってきた伝統的な価値観が覆されつつある状況に危機感を強めたのだ。(中略)

キリスト教価値観に反すように見えるトランプ氏をナゼ福音派は支持?
(中略)
グレグ・ロック牧師 「トランプ師を支持する最大の理由は、私が言うべきことを言わせてくれる人だからです。彼は歴史上最もアメリカに親しみ、言論の自由に親しんでいる大統領(候補)です」「誰だって失敗する。私は彼を見て、不倫したとか離婚したとか言うつもりはない。私は牧師を選ぼうとしているのではない。大統領を選ぼうとしているのです」

ロック牧師はこう述べた上で、「メディアは嘘をつくので、トランプ氏が過去に何をやったかなんてどうでも良い」と付け加えた。

またワシントンの政治集会で出会った福音派の女性は、「聖書に出てくるダビデも姦淫の罪を犯しました。神様は不完全な人を用いられるのです。しかし、私たちには罪を許す神様がいます。トランプ氏は自分の罪を告白して、神様に導かれているのです。だから私たちは許しているので彼に投票できます」との答えが返ってきた。(後略)【8月7日 日テレNEWS】
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【性的問題に関する民間矯正施設に全米で12万~20万人の未成年者が送り込まれる】
こうした価値観が成人人口の4分の1を占める「キリスト教福音派」にあることもあって、アメリカでは性的指向を矯正する民間矯正施設が1万か所もあって、12万~20万人の未成年者が本人の意思ではなく送り込まれているとか。ロシアや中国ではなく、アメリカで・・・

****「僕は真夜中に拉致されゲイ矯正施設に送られた」...床を引きずられ監禁状態に、全米に1万か所を超える施設が*****
<「最悪だったのは、金を出したのが僕の父親だったこと」──10カ月に渡る民間矯正施設での監禁生活から抜け出して、声なき人々の代わりに声を上げる>

15歳だったある日の真夜中、僕は2人の見知らぬ男たちに誘拐された。

恐ろしくて抵抗などできなかった。僕は飛行機に乗せられアメリカ大陸の反対側に連れて行かれ、10カ月後に脱出するまで監禁状態に置かれた。

あの日のことは忘れられない。2人の男の車は真っ黒に舗装された道を走った。行き先など分からない。窓からは煙のようにたなびく雲がかかったユタ州の山々が見えた。

たどり着いた先には、並んで立つ細長い2つの建物があった。「エレベーションズRTC」という表札が出ていて、焼けつく日差しの下でも暗い影をまとっていた。

僕は灰色の廊下を文字どおり引きずっていかれた。洋服は脱げて床に落ち、ヒリヒリと痛む肌に冷たい水が染みた。僕は裸で床に崩れ落ちた。内側から煮えたぎる怒りが噴き出してきた。3日間、僕はひたすら泣き続けた。

最悪だったのは、金を出してこんなことをさせていたのが僕の父親だったことだ。両親が離婚した後、僕は父に引き取られていた。とてもつらい日々だった。

あの頃ちょうど僕は、本当の自分を理解し、受け入れられるようになっていた。そして今後はゲイであることを公表して自分らしく生きたい、母と一緒に暮らしたいと父に話した矢先の出来事だった。

エレベーションズは営利目的で運営されている民間の矯正施設だ。問題を抱えたティーンエージャーの社会復帰を支援するとうたっているが、実際には金を払う人間の言うがままらしい。

担当のセラピストによれば、僕がここに送り込まれたのは父の期待に背いたからだった。

何カ月もの間、僕は施設の廊下を当てもなく歩き回った。監禁されていることにも施設の雰囲気にも息が詰まりそうだった。日記帳に僕は、旅する探検家が主人公の物語を書いた。物語の世界に入りたいと心底思った。

10カ月後に僕はようやく、母とラビ(ユダヤ教の聖職者)と弁護士のおかげで施設を出ることができた。

被害者の声を届けたい
同様の施設で、同じような目に遭った(遭っている)人は僕以外にもたくさんいる。「ストップ制度的児童虐待」という団体によれば、こうした施設に入れられている未成年者は全米で12万~20万人もいるという。

今年に入り、僕はエレベーションズと担当セラピスト、そして父に対し、僕が受けた虐待と苦痛への損害賠償を求める訴訟を起こした。

裁判所や議員たち、そして一般の人々に問題を知ってもらうことも目的の1つだ。またこれは、今も施設にいる多くの未成年者や、施設によって生涯にわたる傷を負わされた人々に代わり、僕が起こさなければならない行動だった。

こうした施設に入所させられた人々の間では、鬱や薬物依存になったり、虐待したりされたりする人間関係に陥ったり、果ては自殺するといった事例が非常に多いといわれる。全米に1万カ所以上あるといわれるこうした施設への規制強化を求めて、僕たちは力を合わせなければならない。

僕は18歳になり、この秋からはカリフォルニア州の大学に通う。1年前には考えられなかったことだ。声なき人々の代わりに声を上げ、社会に貢献する力を付けたいと思っている。僕は未来に向けて前進していく。【8月9日 Newsweek】
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社会の一般的価値観、あるいは宗教的価値観にそぐわない者を「矯正」の名のもとに強制的に施設に隔離収容するということは、19世紀、戦前までは珍しいことではありませんでしたが、現代アメリカでも・・・・というのが驚きでもあります。

アメリカでは1973年まで、同性愛は精神障害とみなされていました。WHOが「国際疾病分類」から同性愛を削除したのが1990年。

性的指向の矯正治療への専門家の批判、2014年にトランスジェンダー(17歳)が自殺した事件などを受けて、オバマ大統領が矯正治療の中止を訴える声明を発表。十数州で矯正治療を禁止する法律が成立しています。

1万か所、12万~20万人という数字の確かさについては知りません。
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ウクライナ  6日、1000人規模でロシアに越境攻撃 その意図は?

2024-08-09 22:47:03 | 欧州情勢

(ウクライナ軍が攻撃を行ったクルスク州スジャで撮影されたロシアメディアの映像【8月9日 NHK】)

【ウクライナ軍 6日から、1000人規模でロシア西部クルスク州へ越境攻撃 ロシア産天然ガスの欧州への積み替え地点スジャを制圧か】
ロシア軍の侵攻を受けてウクライナ領内での戦闘が続くウクライナですが、そのウクライナがここ数日、逆にロシア領内への越境攻撃を実施しています。

ロシア軍によれば、ウクライナ側は6日朝、ロシア西部クルスク州に兵士約1000人と装甲車および戦車20台以上の陣容で進入したとのことで、作戦は今も継続中です。

****ウクライナ 最大規模の越境攻撃 国境から10キロまで前進 ガス輸送施設など制圧か****
ロシアによるウクライナ侵攻以降、最大規模とみられるウクライナ側によるロシア西部への越境攻撃が続いています。国境から10キロの地点まで前進したとの見方も出ていて、プーチン政権も事態を重く受け止めているとみられます。

ロシア側はウクライナと国境を接する西部クルスク州に、ウクライナ軍が6日から、1000人規模で越境攻撃を開始し、これに対する掃討作戦が8日も続いているとしています。

今回の攻撃について、アメリカのシンクタンク戦争研究所は7日、ウクライナ軍が国境から10キロの地点まで前進したことが確認されたと指摘。11の集落を制圧したとの見方を示しました。

また、ロシアの軍事ブロガーは、ヨーロッパに天然ガスを送るパイプラインの施設があるクルスク州のスジャをウクライナ側がほぼ制圧したと伝えています。

今回の攻撃を受け、プーチン大統領は政権幹部らと対応について協議を重ねていて、8日にはクルスク州のスミルノフ知事代行から現地の状況について報告を受けました。

一方、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は8日、「侵略者には相応の結果が伴う」とSNSに投稿しましたが、ウクライナ軍が攻撃に関与しているかどうかについては言及しませんでした。【8月9日 TBS NEWS DIG】
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スジャはモスクワの南西530キロメートルの地点にあり、ウクライナ経由で欧州に輸出されるロシア産天然ガスの積み替え地点。スジャの北東60キロの地点にはクルスク原子力発電所があります。

クルスク原子力発電所付近でもドローン攻撃や銃撃などが行われているとみられています。【8月9日 テレ朝newsより】

ウクライナ経由で欧州に輸出されるロシア産天然ガス需要自体が減少していますので、ウクライナによるスジャのガス施設制圧の欧州への影響は、下記のように若干の価格上昇にはつながっているものの、さほど大きくない模様です。

****ウクライナ攻撃でガス相場上昇 ロシア施設制圧情報、供給懸念****
ロシア西部クルスク州に越境攻撃したウクライナ軍が、ロシアからウクライナ経由で欧州に天然ガスを輸出する同州スジャのガス関連施設を制圧したとの情報を受け、供給懸念からガスの相場が上昇した。

ただウクライナ経由のガス供給量は欧州全体の需要の数%にとどまり、影響は限定的との見方が専門家の間では強い。

ロシア通信によると、欧州の代表的な天然ガスの先物価格は8日、千立方メートル当たり450ドルを上回り、昨年12月以降の最高値となった。

ロシアのエネルギー専門家アレクサンドル・ソプコ氏によると、ロシアからウクライナ経由で欧州に供給されるガスは欧州の需要全体の約4.5%。【8月9日 共同】
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ロシアとウクライナが激しく戦争している間も、ロシア産の石油・天然ガスがウクライナ経由で送られているというのもやや奇妙な話ですが、ロシア産エネルギーに今も頼る国もあるので、そうそう勝手に止める訳にいかないのでしょう。

そのロシア産の石油・天然ガスに頼る国が、NATO・EUにありながらウクライナに批判的でロシアに同調するオルバン首相のハンガリー。

さすがにウクライナもいつまでもロシア産石油・ガスの国内通過を見過ごすことはできない・・・ということで、問題にもなっています。

****EU、ハンガリーに「脱ロシア」圧力…露産原油輸入「代替調達先の確保を」****
ロシアからの原油輸入をウクライナが妨げているとして、親露国ハンガリーが欧州連合(EU)に仲裁を求めた。EUは取り合わず、ハンガリーに代替調達先の確保を求めた。原油禁輸の例外扱いを2年以上続けてきたハンガリーに「脱ロシア依存」を迫ったものだ。

ロイター通信によるとウクライナが6月下旬に露石油大手ルクオイルに制裁を科したため、ウクライナのパイプラインを経由した原油の供給が停止したとハンガリーは訴えている。

EUは2022年5月、ウクライナを侵略したロシアからの原油禁輸で原則合意したが、反対した内陸国ハンガリーなどに譲歩し、パイプライン経由の原油輸入は一時的に例外扱いとした。

米紙ポリティコによると、ハンガリーは依然、原油輸入の7割をルクオイルなど露産に依存し、備蓄が底をつけば9月に電力不足に陥るとの危機感を抱いている。

ウクライナの措置にはロシアの軍費調達に打撃を与えつつ、自国への軍事支援に反対するハンガリーに意趣返しする意図がにじむ。ロシアは原油輸出で昨年は1120億ドル(約17兆円)を稼いだとの試算もあり、「ウクライナの領土通過を許すのはばかげている」(国会議員)との声がある。

英紙フィナンシャル・タイムズによると、ハンガリーが仲裁を求めたEUの執行機関・欧州委員会は書簡で「ロシアの化石燃料からの脱却を積極的に進めるべきだ」と指摘。欧州委報道官も1日、クロアチアのパイプラインを使ってロシア以外の国からの輸入を検討すべきだと述べ、仲裁に入らない考えを示した。

ハンガリーと欧州委との関係は、ビクトル・オルバン首相の独断の訪露などで険悪化している。ハンガリー側は「加盟国のエネルギー安全保障が脅かされているのにブリュッセルは沈黙を保っている」として、裏で糸を引いているのは欧州委だと反発を強めている。

ハンガリーは天然ガスもロシアに依存する。EUの制裁対象とはなっていないが、ウクライナがパイプライン通過を認める期限は年末に切れる。ウクライナは延長を否定しており、ハンガリーとの「エネルギー摩擦」は激化しそうだ。【8月4日 読売】
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【ウクライナ 作戦の意図に言及せず ロシア軍の戦力分散を狙ったものか?】
上記の「エネルギー摩擦」の話が今回のウクライナ軍のロシアへの越境攻撃に関わっているのかどうかはわかりませんが、話を越境攻撃に戻すと、ウクライナ側はその意図などについてはコメントしていません。

ゼレンスキー大統領は8日夜の演説で、越境攻撃には直接言及しなかったが、「ロシアはわが国に持ち込んだ戦争の結果を思い知るべきだ」と語っています。

****「ロシアは戦争の結果を思い知るべき」 ゼレンスキー氏****
ウクライナがロシアに大規模な越境攻撃を開始して3日目の8日、ウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は演説で、ロシアは自らが仕掛けた戦争の結果を「思い知るべき」だと述べた。(中略)

ゼレンスキー氏は8日夜の演説で越境攻撃には直接言及しなかったが、「ロシアはわが国に持ち込んだ戦争の結果を思い知るべきだ」と述べた。

さらに「ウクライナ人は目標を達成する方法を知っている。そして、われわれは戦争による目標達成を選んだわけではない」と付け加えた。

ロシア国防省は8日、軍がウクライナ側部隊を「引き続き撃破している」と発表。空爆、ロケット弾攻撃、砲撃などによって押し戻そうと試みているとして、現地に予備部隊を緊急派遣し、クルスク州へのさらなる「侵入を阻止している」と説明した。【8月9日 AFP】
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ウクライナ領内の戦闘でも兵員・武器が不足しているウクライナ軍の現状、かりにロシア領内の一部を制圧をしても長期に占領を維持することは困難と想像されることなどを考えると、今回のウクライナの越境攻撃の意図がどこにあるのか不思議でした。(長期に占領できるなら、今後の停戦交渉でウクライナ東部返還を求める際の交渉材料にもなりますが・・・・)

ウクライナ側が作戦意図を説明していませんので、私のような素人だけでなく軍事専門家の間にも同様疑問があるようですが、ロシア軍の一部をウクライナ東部の前線から移動させることが狙いだとする指摘も。

****ウクライナはなぜロシアに越境攻撃を仕掛けたのか****
ウクライナは6日、国境を接するロシア・クルスク州への越境攻撃を開始した。「一体なぜ?」――。これが、一部の軍事専門家から上がった疑問だった。

ウクライナが戦場で抱える最大の問題はマンパワーだ。兵士の数で上回るロシアは、ウクライナ東部ポクロフスクにじりじりと近づいている。

そのため、数百人のウクライナ兵をロシアに送り込むこと自体、言ってみれば、状況にそぐわない動きだと見る向きもあるだろう。しかし、誰もがそう受け取っているわけではない。

「明確な計画の一部」
「これは偶発的なものではない」と、戦争の専門家コスティヤンティン・マショヴェッツ氏はフェイスブックに投稿した。「これは明らかに、一つの明確な計画の一部だ」

軍事アナリストのミハイロ・ジョロコフ氏も、この見方に同意する。ジョロコフ氏はBBCに対し、ロシアがウクライナ東部の前線から一部部隊を再配置せざるを得なくなったと語った。

「複数の公式報告からは、(ウクライナ東部)ドネツク州に投下されたロシアの滑空爆弾の数がはるかに減ったことが分かる」「つまり、滑空爆弾を搭載した機体は今、ロシア領内の別の場所にいるということだ」

ウクライナがロシアの領土を占拠しようとしている可能性は極めて低い。しかし、今回のロシア領への侵入の目的がロシア部隊を引き寄せることだったとすれば、侵入からそれほど時間がたたないうちにそれが達成されつつあるのは確かだ。

戦地の近況も、一役買っているかもしれない。
ロシアはウクライナ北東部ハルキウ州への大規模な越境攻撃を開始した。

アメリカが5月に、ウクライナが米供与の兵器でロシア国内の標的を攻撃することを限定的に許可して以降、ロシアの前進スピードは鈍化しているようにみえる。

ウクライナはその後の3カ月間、同国北部スーミ州に対して、ロシア軍が同様の攻撃を試みるのではないかとの懸念を募らせてきた。

戦争がエスカレートすることを西側諸国が常に懸念していることを考慮すると、ロシア領内で今回の規模の作戦を行うことに、何らかの許可が与えられていた可能性は高い。

この攻撃について多くを語るウクライナの高官はほとんどいない。ウクライナ大統領府は「ノーコメントだ、今のところは」と、BBCに述べた。

ロシア領内への同様の侵入は以前にもあったが、ウクライナの正規軍がこのようなかたちで投入されたのは初めてだ。

ロシアに「不意打ち」
国境の向こう側(ロシア側)では、さらに多くの情報が飛び交っている。
ロシアの軍事チャンネルは、今回の越境攻撃には数百人規模の部隊が参加し、いくつかのロケット弾やドローンによる攻撃があったといち早く報じた。

地元当局もまた、迅速に死傷者数や避難者数を発表した。近隣地域は家を追われた人々の受け入れを表明した。
そして、同地域では非常事態も宣言された。

クルスク州の町スジャ方面に部隊を再配置していることさえも、ロシア国防省は認めた。

ロシアの頂点に立つウラジーミル・プーチン大統領は、安全保障の責任者から公に説明を受けた。外務省報道官は、ウクライナの越境攻撃は「野蛮」な「テロリストによる」攻撃だと述べた。

こうした反応はまさに、ロシアが熟知しているはずの戦争で不意打ちを食らったことを示唆するものだった。ロシアはつい昨日まで、ウクライナ軍を圧倒しながら着実に領土を獲得していた。しかし今では、ロシアはこれまでとは別のことを考えなくてはならない。

クレムリン(ロシア大統領府)はすでに、今回の攻撃を、ウクライナでの戦争を続けるべき理由の証しだとしている。ロシアはいまだに、ウクライナ侵攻を「防衛」措置と定義している。

「クルスク州での出来事から得られるのは、答えよりも疑問の方が多い」と、前出の軍事アナリスト、ジョロコフ氏は示唆する。

もしウクライナが、北部へのロシアによる大規模攻撃を遅らせたり、さらには阻止したりできれば、ウクライナにとっては間違いなく、この作戦は価値があったということになる。

「ウクライナに戦争を持ち込んだ侵略者に圧力をかければかけるほど、平和は近づいてくる」と、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は毎晩定例の演説で述べた。
「公正な力によって、公正な平和は実現される」【8月8日 BBC】
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【ロシア国内には越境攻撃を許した軍の対応に不満・苛立ちも】
ロシアが「不意打ち」をくらった・・・と、上記記事にはありますが、ロシア国内の軍事ブロガーはそうは見ていないようです。ウクライナ軍がクルスク州に侵攻するのは見え見えだったのに、ロシア軍は何もしなかった・・・と。

****ウクライナ地上軍がロシアに初の大規模侵攻、ロシア軍はなぜ来ない?****
<長く防戦一方だったウクライナ軍が、ロシア国境のクルスク州に侵攻し、猛攻を仕掛けている。国境地帯にウクライナ軍が集結し、攻めてくるのは「わかっていたのに」と、ロシアのブロガーは憤る>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は8月7日、遅ればせながら沈黙を破り、西部クルスク州にウクライナ軍が越境攻撃を仕掛けたことを認め、この侵攻を「大規模な挑発」と呼んで強く非難した。

「クルスク地域で起きていることをこれ以上看過できない」と、プーチンは国家安全保障会議で述べた。「知ってのとおり、ウクライナはまたもや大規模な挑発を仕掛け、ミサイルを含む各種兵器で民間の建物、住宅、救急車などを無差別に攻撃している」(中略)

ロシアの他の軍事ブロガー数人もテレグラムで、いくつかの村が奪われたと伝え、侵攻は前々から準備されていたとして、「この世の地獄」のような惨状を招いたクレムリンの後手対応を痛烈に批判している。

「ウクライナ軍がクルスク州に侵攻するのは見え見えだった」と、ロシアのウクライナ侵攻を支持するブロガーのアナスタシア・カッシェバロワはテレグラムに投稿した。ウクライナ軍が国境地帯に「兵力を結集していることも分かっていた。毎度のことながら、私たちには何もかも分かっていて、現地の兵士もちゃんと報告したのに、上層部は何もしなかった」。

「(侵攻軍の)部隊がわれらの領土を動き回っている。だが、わが部隊は見当たらず、歩兵もいない」と嘆いたのは、テレグラムのチャンネル「コールサインOSETIN」だ。「大砲も戦車も、何の装備もない。誰もこの事態に備えていなかったのか。稼働しているのは飛行隊とオペレーター、前線航空管制官、それに国境警備隊くらいのものだ」

軍事ブロガーのRavrebaは、クレムリンはこの状況を「完全に無視している」と吐き捨てた。
「ロシアの新しい国防相(アンドレイ・ベロウソフ)は、ムチか斧で脅されなければ腰を上げない将軍たちをどやしつけるよりも、祖父たちが盗んだ資産を勘定するほうが気楽なのだろう」

プーチンは国家安全保障会議後、国防省の当局者、ロシア連邦保安局(FSB)の国境警備隊、それにバレリー・ゲラシモフ軍参謀総長と個別に会い、現状について協議すると述べた。【8月8日 Newsweek】
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アメリカの反応は・・・“米国務省のマシュー・ミラー報道官は、米政府はクルスク州での状況について、ウクライナ当局と連絡を取っていると言及。ロシア国境付近に限定して容認している米国供与の兵器使用に関する規制は引き続き有効だが、ウクライナの行動はこの規制に違反していないと述べた。”【8月8日 日テレNEWS】

どう違反していないのかはよくわかりませんが・・・。

ウクライナ軍は上記越境攻撃に加え、ロシア領内軍事施設への攻撃を強めています。

****ロシア西部の軍飛行場を攻撃、ウクライナ発表 誘導爆弾破壊****
ウクライナ軍は9日、ロシア西部リペツク州のロシア軍飛行場を同日未明に攻撃し、保管されていた誘導爆弾を破壊したと発表した。攻撃により一連の爆発が起きたとしている。

ウクライナはロシアの空爆能力やミサイル発射能力を弱めるため、ロシアの空軍基地を攻撃している。

ウクライナ軍は通信アプリ「テレグラム」に「大規模な火災が発生し、複数の爆発が起きた」と投稿。攻撃対象となったのロシアの軍用機Su−34、Su−35、MiG−31を駐機する飛行場だったという。

治安当局者がロイターに明らかにしたところによると、攻撃はドローン(無人機)で行われた。飛行場には数十機の航空機とヘリコプターが駐機していたほか、700発の誘導爆弾を格納した倉庫もあった。

リペツク州のアルタモノフ知事は9日、ウクライナのドローンによる「大規模攻撃」で爆発が起きたとし、一部地域から住民を避難させていると明らかにした。9人が負傷したほか、電力供給に影響が出ているとしている。【8月9日 ロイター】
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今回の越境攻撃が短期作戦で終わるのか、今後も継続・強化されるのか・・・よくわかりません。
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北朝鮮  7月末豪雨で金正恩総書記は「孤立した住民1000人を見殺しにした」のか?

2024-08-08 22:31:06 | 東アジア

(【8月6日 FNNプライムオンライン】水害被災地を視察する金正恩総書記 片時もタバコを手放すことはなかったとか それはかまわないけど・・・)

【「わが身を顧みず、人民のために奔走する最高指導者」を演出】
北朝鮮では7月27日の豪雨により中朝国境を流れる鴨緑江が一部氾濫、韓国報道によれば死者・行方不明者が1100〜1500人と推計される甚大な被害が出ているとされています。

金正恩政権も異例の党政治局非常拡大会議を開催し、金正恩総書記自らが被災地に乗り込むなどの対応をとっています。

****北朝鮮の豪雨、1000人超死亡か 韓国赤十字が支援協議呼びかけ****
7月下旬に北朝鮮で発生した豪雨被害を巡り、韓国の大韓赤十字社の朴鍾述(パクジョンスル)事務総長は1日、被災者に対し、緊急援助物資を提供する用意があると発表した。具体的な品目や方法などについて協議するため「早急な呼応を期待している」と北朝鮮側に呼びかけた。

韓国統一省は同日、北朝鮮住民に多くの被害が出たとして慰労の意を表明。大手紙「朝鮮日報」は韓国政府当局者の話として、豪雨による死者・行方不明者が1100〜1500人と推計されると報じている。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信によると、7月27日に北部で記録的な豪雨があり、北西部・平安北道(ピョンアンプクド)の新義州(シンウィジュ)などで水害が発生した。

金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記は同29〜30日に開催した党政治局非常拡大会議で、十分な災害防止対策が取られていなかったと指摘。「許しがたい人命被害」を出した責任者の処分を求めた。会議では、被害地域に約4400世帯分の住居を建設することなどが採択された。

韓国統一省関係者によると、政治局非常拡大会議は、金正恩体制になって以降、2回目。前回は2020年7月に新型コロナウイルスが流行した際に行われた。【8月1日 毎日】
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北朝鮮側は安北道新義州市などで住民約5000人が孤立したものの、約4200人をヘリコプターで救助したと対応が出来ていることをアピールしていますが、人命被害の具体的な規模は伝えていません。

金正恩総書記は、甚大な人的被害を報じる韓国メディアを敵国の「謀略宣伝だ」と批判しています。

****金正恩氏、韓国メディアを批判 「洪水死者1500人」は謀略****
北朝鮮メディアは3日、金正恩朝鮮労働党総書記が2日、豪雨による洪水被害に関し、最大1500人の死者が出ているとする一部の韓国メディアの報道を敵国の「謀略宣伝だ」と批判したと報じた。

金氏は洪水が起きた北西部新義州で約4200人を救助したとされる、朝鮮人民軍のヘリコプター部隊への訪問に合わせて演説した。

家屋や農耕地の浸水など洪水被害が広がっていることを受け、北朝鮮内の動揺を抑える狙いとみられる。

金氏は「被害が最も大きかった新義州で人命被害が一件も出なかったのは奇跡だ」と主張。救出活動中にヘリが不時着したが、無事だったとも述べた。【8月3日 共同】
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金正恩総書記が被害の実態を隠していることも想像されますが、金氏が被害の実態を知らされていない可能性も指摘されています。

災害で多数の人が亡くなったことで、過去には公開処刑になった幹部もおり、北朝鮮当局は人命被害には極めて敏感だとか。そうした状況で被害をできる限り小さく報告していることも想像されるとの指摘も。
今回も、責任を転嫁するように警察トップの社会安全相が更迭されています。

被害実態が正しく報告されないとしたら、金正恩政権の恐怖支配のもたらす歪みです。

一方、金正恩総書記自ら被災地で陣頭指揮に当たる様子(タバコ片手にですが)が国内向けにアピールされています。「わが身を顧みず、人民のために奔走する最高指導者」の演出です。

****金正恩総書記の頭がゴムボート移動中に木に接触…1000人以上死亡か?北朝鮮洪水で被災地をタバコ片手に直接視察****
未曾有の災害に襲われている北朝鮮で目撃されたのは、鋭い視線で被災現場を視察する最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)総書記の姿。(中略)朝鮮中央テレビは7月31日、金総書記がその災害現場を視察する様子を公開。

ぬかるむ地面で滑らないよう、両手を支えられながらエスコートされ、ゴムボートに乗り込みます。ヘルメットやライフジャケットなど装備することなく出発。
ボートの中央には灰皿が用意され、たばこを片手に現場に鋭い視線を向けます。

しかし、濁流をどんどん奥へ進んだその時、ボートがバランスを崩し、一瞬ひやりとする場面も。

そして、ボートが木々の中に入ると頭に垂れ下がった枝が。すぐに髪形を直すも、険しい表情を見せて何やら指さし、視察を続けます。

アクシデントに見舞われた金総書記でしたが、片時もタバコを手放すことはありませんでした。(中略)

金総書記は、視察した現場のすぐ近くに止めた特別列車の中で緊急会議を開催。被災者の住宅や堤防の建設などをすぐに行うよう指示したということです。【8月5日 FNNプライムオンライン】
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タバコ云々はともかく、被災地に中央の偉い方が乗り込むと、現場はその対応でかえって混乱する・・・というのはよくあることですが、まして、ご機嫌をそこねたら収容所送り・処刑も・・・という神のような存在の金正恩氏が乗り込んでくるのですから、現場は被害者救助そっちのけでその対応に追われたであろうことは容易に想像できます。

【「増水で孤立した住民1000人を見殺しにした」との報道も】
ウクライナ侵攻で武器不足に悩むロシアへの武器工場的役割を担うことで、北朝鮮とロシアの接近が最近目立ちますが、そのロシア・プーチン大統領は支援を申し出ていますが、金氏は謝意を示しながらも、すでに対策が講じられていると返答したとか。

****プーチン氏、洪水被害の北朝鮮にお見舞いメッセージ****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、大規模な洪水被害に見舞われている北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記にお見舞いのメッセージを送った。大統領府(クレムリン)が3日、明らかにした。

プーチン氏は、「暴風雨により愛する人をなくした人々にお見舞いの言葉と支持を伝えていただきたい」「あなたは常にわれわれの援助と支援を頼ることができる」と、電報で金氏に伝えた。(中略)

プーチン氏は「緊急人道支援」も申し出たが、金氏は謝意を示しながらも、すでに対策が講じられていると返答。ただし「いずれ援助が必要になった際にはモスクワの真の友人たちに要請するだろう」と述べた。(後略)【8月4日 AFP】
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外交儀礼的な支援申し出を丁重にお断りするというのは、日本の地震被害などでもよくあることですが、孤立住民の中国側への避難移動を申し出た中国提案を金正恩氏が拒否した、その理由は脱北が懸念されるから、あるいは現場に向かう金正恩氏のため・・・という報道が本当であれば、まさに「住民を見殺しにした」と言える話です。

****金正恩が「増水で孤立した住民1000人を見殺し」にした理由****
(中略)先月、豆満江同様に中朝国境を流れる鴨緑江の流域で大雨が降り、大水害が発生した。中国側は、増水により中州で孤立していた住民を救助する用意があると北朝鮮側に伝えたが、これを北朝鮮が断っていたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安北道(ピョンアンブクト)の幹部によると、先月27日午後から28日明け方にかけて、新義州(シニジュ)市内が浸水したのは、28日午前2時に太平湾ダムの水門を開いたことによるもので、当局は事前に市民に対して避難命令を出した。

しかし、既に鴨緑江は増水しており、黄金坪(ファングムピョン)、柳草島(リュチョド)、威化島(ウィファド)、於赤島(オジョクト)、そして義州(ウィジュ)郡に属する九里島(クリド)の5つの中洲の住民は、避難するタイミングを逃して孤立してしまった。

この中で、新義州市内中心部につながる橋があるのは柳草島と威化島だけで、於赤島と九里島にはそもそも橋がかけられていない。そして、黄金坪には橋がかけられているが、つながっているのは中国だ。

柳草島の住民は橋を渡って避難できたが、威化島にかかる橋は水が床版を越え、避難の最中に水の流れに足を取られ流されてしまう人が続出した。この幹部によると、中洲の住民1000人以上が死亡、行方不明となったが、そのほとんどが威化島の住民だったという。

別の幹部によると、丹東市公安局は、平安北道安全局(双方とも警察)に、孤立した住民を救助する用意があると伝えた。しかし、金正恩総書記はこれを拒否し、多くの住民が犠牲になった。以下はこの幹部の語った詳しい証言内容だ。

「大雨が降り続いていた27日夕方に、鴨緑江は危険水位を越えていた。雨が止む気配なかったことから、同日午後、中国の丹東市公安局とわが国(北朝鮮)の平安北道安全局は、鴨緑江にある一部の発電所の水門を開くことについて議論した。水門は中国側の同意があってこそ開くことができるが、増水しきった状態で水門を開けば下流にある中洲が浸水することは明らかだった」

「そこで丹東市公安局は、中洲の住民を安全に中国に移動させる用意があると平安北道安全局に伝えたが、報告を受けた金正恩総書記はこれを拒否した」

この付近にある鴨緑江の中洲の多くは、北朝鮮領であっても中国側に近い場合が多い。於赤島の場合、万里の長城の最東端と言われている虎山長城からは「一歩跨」と言って、ほんの数歩ながら北朝鮮領に入れる。それほど近いのだ。

では、なぜ金正恩氏は、中国側の提案を断ったのか。

「金正恩氏は、中洲の住民を中国に避難させた場合、韓国に逃げるかも知れないとの理由で許さなかった。そうこうしているうちに日が暮れて、ヘリコプターでの救助ができなくなってしまった」

それでも丹東市公安局は、万が一の事態に備えて黄金坪と威化島、九里島の対岸にバスと救急車を夜通し待機させた。北朝鮮が救助を開始したのは、夜明け後の28日午前6時半からで、その1時間半後に金正恩氏が現場に到着したが、すでに雨は止み、水が引き始めていたころだった。

「中国に避難させたら韓国まで逃げてしまう」は大げさであっても、水害の混乱に乗じて脱北するという懸念は、あながち間違っていない。

平時の行方不明は、脱北の可能性があるとして政治的事件の扱いとなるが、災害時ならそこまで厳しく問われない。それを利用し、死んだことにして脱北してしまうのだ。

また、金正恩氏が自ら被災地に乗り込むのに、被災者の多くが中国側に救助されたとあっては、顔が立たない。住民を犠牲にしてまで、救助を指揮し、温かく見守る「絵」を撮るために、中国側の提案を断った可能性も考えられる。

いずれにせよ、体制と最高指導者の権威を保つためなら、何百、何千の人命の犠牲など厭わないのが、独裁国家・北朝鮮なのだ。【8月7日 デイリーNKジャパン】
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タバコ片手の「人民のために奔走する最高指導者」演出は喜劇ですみますが、上記報道が真実なら恐怖の悲劇です。

【収容所収監数増減に見る恐怖政治の実態】
北朝鮮の恐怖支配の実態については、下記のような報道も。

****北朝鮮収容所で9千人死亡「国家への不満増大、懲罰強化で」****
人権蹂躙の温床と指摘される北朝鮮の管理所(政治犯収容所)の収監者数が、昨年と比べ約9000人減った約19万人であると、デイリーNKの内部情報筋が伝えている。

北朝鮮当局の社会統制強化により新規の入所者が増加したが、死亡者数の方がさらに多く、トータルで収監者数が減ったというのが情報筋の伝言だ。

収容施設事情に詳しいデイリーNKの北朝鮮内部情報筋によると、今年6月末現在で国家保衛省と社会安全省が集計した政治犯収容所の収監者数は約19万人だ。これは昨年の収監者数と比べ約4.6%減少した数値だ。(中略)

情報筋は「人員変動の主な原因は新型コロナウイルス感染症以後、政治的不満要素の増加にともなう入所者増加と、国家の強力な懲罰生産課題および統制による死亡者発生のため」と説明した。

昨年に比べて人員が減少したのは14・15・17・25号管理所で、ここで死亡者が多数発生したものと見られる。
反面、16・18号管理所は昨年に比べて収監者が増加したことが把握された。

情報筋は「18号管理所で収監人員が増加した原因は、国家に対する内部不満要素の増加と政治的意見表出者および政策反対者が急増したこと」とし、「今年初め、社会統制を強化し国家転覆につながる小さな要素も初期の段階で速やかに取り除くため、収容能力を拡大しろという指示があった」と説明した。

また、16号政治犯収容所には今年、家族連れや子ども、高齢者が多く入ったとも説明した。
これと関連して彼は「以前は家族単位で送られる例が多かったが、今は親戚まで含め一族がぜんぶ送られてくる」とも伝えた。

北朝鮮の「連座制」の対象が直系家族にとどまらず、親戚までをも含む広い範囲に適用されているということだ。 社会統制の水位を高め、政治犯に関する連座制度を強化している可能性がある。【8月8日 デイリーNKジャパン】
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北朝鮮の住民の中には「早く南が攻め込んで来てくれないか」という声がある・・・といった話も「さもありなん」といったところ。
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長崎原爆の日 記念式典にイスラエルを招かず ロシアと同列に抗議して欧米各国の大使欠席

2024-08-07 22:03:41 | 日本

(9日の原爆の日に開かれる平和祈念式典のリハーサルが、長崎市の平和公園で行われました。【8月7日 日テレNEWS NNN】)

【ガザ 戦闘がやむ兆しなく、連日の学校・病院空爆】
ハマスが殺害されたハニヤ氏の後任に強硬派のシンワール氏を選んだことがニュースになっていますが、パレスチナ・ガザ地区の状況は変わらず、戦闘が止む兆しはありません。

自らの政治生命延命のためにも戦闘を続けたいイスラエル・ネタニヤフ首相、強硬派のシンワール氏のハマス最高幹部選任で停戦協議の先行きは悲観的です。

****ガザ地区戦闘開始10か月 死者3万9653人に 戦闘がやむ兆しなし****
ガザ地区でイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まって、7日で10か月となります。ハマスの最高幹部が訪問先のイランで殺害されたことを受け、イランなどが報復の構えを示す一方、イスラエルは対抗措置を行う姿勢で、地域の緊張が続いています。

ガザ地区でイスラエルとの戦闘を続けるハマスのハニーヤ最高幹部が先月31日、訪問先のイランで殺害されたことを受けて、イランはイスラエルによる攻撃だとして報復する構えで、イランが支援する武装組織も報復に加わる可能性が指摘されています。

殺害から1週間となる7日にはイランの呼びかけでOIC=イスラム協力機構の外相級の緊急会合が開かれることになっていて、イランとしてはイスラム諸国からの理解と支持を得たい考えです。

また、イランの支援を受けるレバノンのイスラム教シーア派組織、ヒズボラの最高指導者ナスララ師は6日「われわれは強力で効果的な報復を行う」と述べて、報復を行う姿勢を強調しました。

イスラエルの北部では、6日もヒズボラによる無人機攻撃があり、地元メディアは市民や兵士など19人がけがをしたと伝えるなど、緊張が続いています。

イスラエルのガラント国防相は5日に続いて6日も空軍の部隊を視察し「日を追うごとにわれわれは防衛態勢を強化し、攻撃能力も高めている」と述べ対抗措置を行う姿勢を示し、イラン側を改めてけん制しました。

一方、ガザ地区ではイスラエルとハマスの戦闘が始まって7日で10か月となりますが、イスラエル軍は南部ハンユニスなどで攻勢を強めていて、戦闘がやむ兆しはありません。

ガザ地区の保健当局は6日、これまでの死者が3万9653人にのぼったとしていて、犠牲者が増え続けています。

ハマス ガザ地区トップの指導者をハニーヤ最高幹部の後任に
イスラム組織ハマスは6日、ガザ地区のトップのヤヒヤ・シンワル指導者を、殺害されたハニーヤ最高幹部の後任として政治局長に選んだと発表しました。

イスラエル軍はシンワル指導者を去年10月のハマスによる大規模な奇襲攻撃の首謀者だとして非難し、ハマスの壊滅に向けた殺害のターゲットとしています。

シンワル指導者がハマスの政治部門のトップとなったことでイスラエルとの停戦交渉への影響も注目され、中東の衛星テレビ局アルジャジーラは交渉のプロセスが複雑化し、交渉が長引く可能性があると指摘しています。【8月7日 NHK】
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イスラエル軍はハマスの「司令センター」になっていると主張して連日学校や病院を攻撃しており、子供を含む民間人の犠牲者が増加しています。

****学校空爆で子供含む17人死亡=イスラエル、また民間施設標的―ガザ****
パレスチナ自治区ガザ北部ガザ市で3日、イスラエル軍が学校を空爆した。パレスチナ通信はこれに関し、少なくとも子供ら17人が死亡したと伝えた。学校は市民の避難先になっていたという。イスラエルとイスラム組織ハマスの交戦が続く中、民間施設に対するイスラエルの攻撃が相次いでいる。

AFP通信などによると、イスラエル軍も学校を攻撃したことを認め、敷地内にハマスの「司令センター」や武器製造施設があったと主張した。ハマスは否定している。【8月4日 時事】 
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****イスラエル軍「ハマスの司令センター」と主張、ガザの学校や病院など空爆…住民ら40人以上死亡****
ロイター通信は4日、イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザの学校や病院などを同日空爆し、避難していた住民ら40人以上が死亡したと報じた。

報道によると、中心都市ガザ市にある2か所の学校が攻撃され、少なくとも30人が死亡した。軍は、学校がイスラム主義組織ハマスの「司令センター」になっていると主張したが、ハマスは否定している。

ガザ中部の病院への爆撃では敷地内の避難民テントに直撃し、5人が死亡、18人が負傷した。ガザ北部では難民キャンプが空爆され、11人が死亡したという。ガザ保健当局によると、昨年10月の戦闘開始以来、死者数は約3万9600人に上る。【8月5日 読売】
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住民を人間の盾とするハマスも卑劣ですが、それを容赦なく爆撃するイスラエルも・・・

【長崎 イスラエルを招かず 「政治化」を問題視する欧米各国は大使欠席】
こうしたガザ地区の状況は、日本の長崎原爆の日にも影響。
長崎市が9日の「原爆の日」に開く平和祈念式典に、イスラエルを招かなかったことに対し、日本以外の先進7カ国(G7)の駐日大使が欠席する方針となっています。

****G7各国駐日大使、長崎平和式典を異例の欠席へ イスラエル〝排除〟を問題視****
長崎市が9日の「原爆の日」に開く平和祈念式典に、日本以外の先進7カ国(G7)の駐日大使が欠席する方針であることが7日、長崎市などへの取材で分かった。

各国は代理を出席させるが、大使が一斉に欠席するのは異例。長崎市は、イスラム原理主義組織ハマスと戦闘を続けるイスラエルの式典への招待を見送っており、各国は式典を「政治化するものだ」などと問題視している。

長崎市への取材によると、同市はウクライナに侵略したロシアと、その同盟国のベラルーシと同様、イスラエルを式典に招かなかった。

不招待の理由について「式典を平穏かつ厳粛な雰囲気のもとで開催できないリスクがあると判断した。イスラエルに招待状を発出するか判断を保留していたが、情勢に変化がなかった」としている。

同市によると、6カ国は公使や総領事ら代理を派遣する。

在福岡米領事館は7日、式典に同館のアシーケ首席領事が出席すると発表した。米大使館関係者によると、エマニュエル大使は「(原爆で)亡くなられた方を悼む目的の式典を政治化されたくない」との理由で欠席を決めたという。エマニュエル氏は9日は東京・増上寺で営まれる原爆死没者の追悼会に出席する予定。

在日フランス大使館も産経新聞の取材に対し、セトン大使が出席しないと表明。「中東での状況は主権国家に対するロシアの侵略戦争と比較することはできない」と言及し、イスラエルを招待しない決定は「遺憾だ」と指摘した。

カナダ大使館もマッケイ駐日大使が欠席する理由として、「式典に招待しないことは、イスラエルをロシアやベラルーシと同様に扱うものだ」とコメントした。ドイツ、イタリアの大使館からは回答が得られなかった。

日本を除くG7各国の駐日大使らは7月19日付で、イスラエルの招待を求める連名での書簡を長崎市の鈴木史朗市長宛てに送っていたことも判明。書簡では、式典にイスラエルを招待しないことに「懸念を共有」し、イスラエルをロシア、ベラルーシと同列に扱うことは「誤解を招く」と指摘した。【8月7日 産経】
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イギリスのロングボトム大使は記者団に対し、「ウクライナという独立国に侵略したロシアやベラルーシと違い、イスラエルは自衛権を行使している。同様の扱いをしては誤解を招く」との考えを示していますが、自衛権だろうが何だろうが、やっていることは同じ。

逃げ場を失った避難民が身を寄せる学校・病院も容赦なく爆撃される状況に、原爆の被害を経験した長崎市民が当時の悲惨な状況を重ね合わせ、納得できない思いを抱くことは「政治的」というより「自然」なものでしょう。

ガザの状況に「自衛権」の主張で目を覆うことの方が「政治的」と言えます。(大使が欠席する各国も、現在のガザの状況を良しとしている訳ではありませんが)

あまり自己主張をすることが少ないとされる日本ですが、長崎が原爆被害者の立場から戦争の悲惨さに思いを寄せ、それを発信することはよいことだ思います。

日本政府は「誰を招待するかは主催者である長崎市において判断されることであり、政府としてコメントする立場にない」(林官房長官)とのスタンス。

ガザの状況への踏み込んだ発言も欲しいところですが、欧米諸国との関係を考えるとこのあたりが限界なのでしょう。せめて長崎の思いの足を引っ張ることがなければ。

なお、イスラエルは広島には招かれて大使が出席しています。
また、ロシアは広島・長崎の両方に招かれていません。

****広島・長崎は「偽善」=核の威嚇「臆測」と反発―ロシア大使****
ロシアのノズドレフ駐日大使は6日のタス通信のインタビューで、広島と長崎の原爆の日の式典にロシアを招待しなかった両市の判断を「偽善」と批判し、遺憾の意を示した。

岸田文雄首相が広島市の平和記念式典のあいさつで言及した「ロシアによる核の威嚇」も「臆測」だと反発した。【8月6日 時事】 
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バングラデシュ  ハシナ首相辞任、国外へ 軍主導で暫定政権発足 最高顧問にユヌス氏

2024-08-06 22:55:35 | 南アジア(インド)

(5日、ダッカで、首相公邸になだれ込んだデモ参加者=AFP時事【8月6日 読売】)

【ハシナ首相辞任・国外脱出と急展開 背景にハシナ政権の強権的傾向への野党や市民の反発】
バングラデシュにおける政府職員の採用の一部を独立戦争に参加した退役軍人の家族らに割り当てる優遇措置に対する学生を中心とする若者らの抗議活動激化、治安当局と衝突については、7月19日ブログ“バングラデシュ  独立戦争参加の軍人家族への政府職員採用優遇措置をめぐる混乱拡大”でも取り上げましたが、事態はハシナ首相の辞任・亡命という形で急展開しています。

少なくとも163人が死亡したとされる7月段階の抗議行動は、犠牲者の増加、7月21日に最高裁が優遇枠を大幅に縮小する決定を下したことなどを受けて、いったんは停止したように見えました。

****バングラ学生デモ、48時間停止へ****
バングラデシュで公務員採用の特別枠に抗議する学生らの団体は22日、多大な犠牲を伴う改革要求デモの続行は望まないとして、48時間、抗議行動を停止することを決めた。

中核団体のリーダーのナヒド・イスラムさんはAFPに対し、「われわれは特別枠制度を改革しようとこの運動を始めた」「だが、大量の血、多数の死、生活・財産への多大な損害を代償としての改革は望まない」とし、48時間のデモ停止を決めたと語った。

AFPが警察と病院の発表を集計したところ、これまでにデモで警官数人を含む少なくとも163人が死亡している。 【7月23日 AFP】
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しかし、8月に入り再燃。
7月段階から、ハシナ首相は単なる学生の抗議行動ではなく、「誰が何の目的で無政府状態に追い込んだのか明らかにする」と野党が裏で画策しているといった認識をほのめかしてしましたが(おそらく、それは間違っていなかったでしょう)、8月段階ではその野党が更に圧力を強め、ハシナ首相の辞任を求める形にもなっています。

****抗議デモ再燃、50人超死亡=首相辞任要求、野党の圧力か―バングラデシュ****
バングラデシュで4日、学生団体の呼び掛けによる抗議デモが再燃し、地元報道によると、全土で50人超が死亡した。

7月のデモは公務員採用の特別枠撤廃が主な要求だったが、今回はハシナ首相をはじめ閣僚の辞任を求めるなど先鋭化。学生の参加は一部で、野党側が支持者を使って政権に圧力をかけているとの見方がある。

政府はデモを受け、4日夜以降の外出禁止令を発令。5日からの3日間を休日にすると発表した。ハシナ氏は4日、「今、破壊活動を行っているのは学生ではなくテロリストだ。テロリストに抵抗するよう国民に訴える」と語った。【8月4日 時事】 
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ハシナ首相は、デモ隊の暴力行為の責任は、主要野党のバングラデシュ民族主義党(BNP)やイスラム協会(JI)にあると非難。「暴力を働いているのは、学生ではなく、国家を不安定化させようとするテロリストだ」と主張。

バングラデシュの独立後の政治を簡単に説明すると、ハシナ首相率いるアワミ連盟(AL)とジア党首率いるバングラデシュ民族主義党(BNP)が政権交代を繰り返す形で展開してきました。

ハシナ首相が独立運動を率いたラーマン初代大統領の娘であるのに対し、ジア党首はラーマン初代大統領の政敵であったジアウル・ラーマン元大統領の未亡人。

ラーマン初代大統領もジアウル・ラーマン元大統領も、ともに敵対勢力によって殺害されるということで、ハシナ首相とジア党首は互いに相手側に遺恨を抱く不倶戴天の仇同士です。

2009年以降は、野党(BNP)側の選挙ボイコットなどもあって、ハシナ首相・ALが政権を独占していますが、両者の対立は消えていません。

****政権続投にくすぶる不満****
(中略)
1月の総選挙は、野党がハシナ氏の強権政治を批判し、ボイコットしている。衝突は与党アワミ連盟のハシナ政権に対する野党や市民の反発が噴出して起きた形だ。(中略)

バングラデシュを巡っては、今年1月の総選挙を、(有力野党)BNPが政党有力者が拘束されたままだなど(ジア党首も自宅軟禁)としてボイコット。各地で投票所や列車への放火が相次いだ。

投票率は約40%と前回の半分に低迷し、米国は「選挙は自由で公正ではなかった」と批判していた。

今回の衝突は、多くの国民が反発する中で続投した政権への不満がくすぶる中で発生し、バングラデシュの民主主義や治安維持が問われる形になっている。【8月5日 産経】
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かつてバングランデシュの反政府活動には、抗議のゼネスト「ホルタル」への参加を地域住民に暴力的に強制するなど頻繁に暴力が使用されていたように、反政府活動に暴力が伴う政治風土みたいなものもありますので、今回の抗議行動も多くの死者を出す激しいものになったと想像されます。

また、抗議行動が再燃した背景には、強権的に抗議行動を封じ込めようとしたハシナ首相への不満もあったようです。

****バングラデシュのデモ激化、死者100人近く 首相の辞任要求で衝突****
(中略)
今月4日にデモが再燃。背景にあるのが、ハシナ政権の強権的な姿勢に対する不満だ。政府は7月のデモに際し、軍による鎮圧に乗り出し、1万人以上を拘束。国連児童基金(ユニセフ)によると、少なくとも32人の子供が死亡し、デモを取材していた複数の記者も殺害された。

ダッカ大のサイド・マンズールル・イスラム名誉教授は地元紙プロトム・アロに、当初は「平和的な運動だった」と指摘。しかし、「初めから学生たちは敵とみなされ、武力で抑え込まれたことで事態が悪化した。与党は学生たちの怒りと感情を理解するのに失敗した」と分析した。

かつてアジアの最貧国の一つだったバングラは近年、高い経済成長を続けている。しかし、若者の雇用不足は深刻で、地元メディアによると、就学も就職もしていない「ニート」の割合は4割近くに上る。今年1月の総選挙では最大野党がボイコットしており、政権の強権化も懸念される。【8月5日 毎日】
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【軍は暫定政権発足へ 最高顧問にハシナ首相と対立したユヌス氏 ジアBNP党首は自宅軟禁解除】
このまましばらく混乱が続くのだろう・・・と思っていたのですが、ハシナ首相辞任・国外脱出、軍による暫定政権発足という形で事態は急展開。

****バングラデシュ首相が辞任、ヘリでインドへ 反政府デモ激化****
ロイター通信によると、バングラデシュのハシナ首相が5日、辞任した。ハシナ氏は軍用ヘリコプターでインドへ向かった。

バングラデシュでは4日、ハシナ氏の辞任を求めるデモ隊が治安部隊や与党支持者と衝突し、100人近い死者が出た。首都ダッカの首相公邸は5日、数千人の市民に占拠された。

陸軍のザマン参謀総長は5日、国民向けのテレビ演説を行った。現在、暫定政権の樹立に向けて協議していることを明かし、市民らに暴力行為をやめるよう呼びかけた。

AFP通信によると、学生らの抗議活動が激化した7月以降、300人以上が死亡。ハシナ氏はデモ隊を「テロリスト」と呼んで軍による鎮圧に乗り出し、激しい反発を招いていた。【8月5日 毎日】
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ニューデリー近郊の空軍基地に到着したハシナ首相は、近日中にイギリスに向かうと見られています。

ハシナ首相の辞任劇は、かなり緊迫した状況だったようです。

****迫るデモ隊、最後まで辞任拒み…バングラデシュ前首相、逃亡の内幕****
首相公邸に迫るデモ隊、到着まであと45分――。バングラデシュの地元紙プロトム・アロは6日、ハシナ前首相が突然、国外逃亡するまでの内幕を報じた。周囲が説得したが、ハシム氏は最後まで辞任を拒んだことが明らかになった。

反政府デモを主導する学生らが5日、首都ダッカに集結して抗議活動に加わるよう市民に呼びかけていた。警官隊は各地で催涙ガスを放つなどしてデモ隊を排除しようとしたが、同紙によると、警察幹部は「もはや警察でも持ちこたえられない状況になっている」とハシナ氏に説明した。

ハシナ氏が状況を受け入れようとしないため、当局幹部は別室にいたハシナ氏の妹のレハナ氏に説得を頼んだ。それでもハシナ氏は拒んだが、当局幹部は海外にいるハシナ氏の息子のサジーブ・ワゼド氏に連絡。ワゼド氏が電話でハシナ氏と話し、ハシナ氏は辞任を了承したという。

その時点で、既に大勢の学生らが首相公邸に向かっていた。公邸に到着まで45分しかないとの情報があり、ハシナ氏は最後の演説を録音する間もなく、慌ただしく公邸を後にした。

インドメディアによると、ハシナ氏は軍用ヘリコプターで5日夕にインドの首都ニューデリー近郊の空軍基地に到着した。現在は英国亡命を模索しているという。【8月6日 毎日】
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中国・天安門でもそうであったように、もし軍が本気で実弾を使用して鎮圧すれば、事態は変わります。強権的とは言われるハシナ首相もそこまでは要請しなかった?

あるいは「もはや警察でも持ちこたえられない状況になっている」・・・最後の段階で軍は政権と距離を置いたのでしょうか?

首相辞任後の素早い暫定政権発足に向けた動きなど見ると、軍が政権を見放したようにも見えます。
2006年にも軍は、ジア首相のBNP政権を辞職させて暫定政権を発足させ、汚職撲滅・イスラム過激派対策に乗り出しています。このとき軍はバングラデシュ政治の中核たるハシナ氏・ジア氏の両氏を拘束する荒療治を行いましたが、結局両氏がいないとバングラデシュ政治は回らないということにも。

暫定政権については、学生側の求めるノーベル平和賞受賞者で経済学者のムハマド・ユヌス氏(84)を最高顧問とすることになるようです。

****ノーベル平和賞のユヌス氏、バングラ暫定政権の最高顧問就任に同意…抗議デモ主導の学生団体が求める****
バングラデシュでシェイク・ハシナ首相が辞任する発端となった抗議デモを主導した学生団体は6日、ノーベル平和賞受賞者で経済学者のムハマド・ユヌス氏(84)を最高顧問とする暫定政権を求めるとSNSで明らかにした。地元紙デイリー・スターによるとユヌス氏は就任に同意した。議会もこの日解散され、暫定政権発足の動きが加速している。

ユヌス氏は貧困者向けの少額融資を行う「グラミン銀行」を創設。過去に政界進出を目指し、ハシナ氏との関係が冷え込んだ。1月に労働法違反で有罪となった際は、政権の意向を受けた判決との批判も出た。 ユヌス氏は、滞在先のパリから近く帰国するという。

議会解散の方針は、軍や各政党、学生団体との協議を経てモハンマド・シャハブッディン大統領が5日に表明していた。今後、合意形成を図りながら統治体制を構築していくとみられる。
 
首都ダッカでは5日夜までビルの放火などが続いた。6日から外出禁止令は解除されたが、多くの縫製工場は閉鎖されたままだ。

バングラ情勢に詳しい村山真弓・日本貿易振興機構理事は「暫定政権は治安と経済の回復に向けた取り組みを国民の理解を得ながら進めるべきだ。その見通しが一定ついて本来の政権に引き継ぐまで数か月かかる可能性がある」と指摘する。【8月6日 読売】
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ユヌス氏は“貧困層の自立を支援する「グラミン銀行」を創設したユヌス氏は1月、労働法に違反した罪で有罪判決を受けた。同氏は政界進出を目指したことがあり、高い人気を脅威に感じたハシナ前政権の圧力とみる向きもあった。”【8月6日 時事】と、ハシナ首相とは敵対していました。

【ハシナ首相が牽引した経済成長は? ハシナ首相と相性が良かったインド・日本は?】
ハシナ首相とは因縁の仲だったジア氏(BNP党首)は自宅軟禁を解かれています。

****バングラデシュ大統領、議会解散 元首相を自宅軟禁から解放****
バングラデシュのシャハブッディン大統領は6日、暫定政権の樹立に向け議会を解散した。大統領府が発表した。

同国では5日、ハシナ首相が退陣を求める抗議活動を受けて辞任し、国外に逃亡した。

大統領府は、ハシナ氏の政敵で自宅軟禁下にあった野党バングラデシュ民族主義党(BNP)党首、ジア元首相が解放されたことも明らかにした。

政府に対する抗議活動を行っている学生は議会が解散されなければ、さらに抗議デモを行うと警告していた。

大統領府の声明によると、今回の決定は軍、政党、学生、一部の市民社会組織の代表との会合を受けて下された。

今後、ザマン陸軍参謀長が学生の代表と暫定政権の樹立について協議する予定。暫定政権は発足後、直ちに選挙を実施する見通し。【8月6日 ロイター】
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今後、軍の関与の程度・期間は? ハシナ首相と敵対した主要野党のバングラデシュ民族主義党(BNP)やイスラム協会(JI)の力が強まるのか?

内政的には、強権的傾向を批判されるハシナ首相は、一方でバングラデシュの経済成長を牽引してきましたので、今後の経済動向が注目されます。

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ハシナ政権下のバングラは高い経済成長を実現した。バングラは若者を中心とする低価格の「ファストファッション」の縫製がさかんで、世界有数の縫製品輸出国でもある。かつてはアジアの最貧国の一つだったが、26年には国連が分類する「後発開発途上国」から脱する見込みだ。

その一方で、経済格差の拡大や政権の強権化に対する反発も高まっていた。野党BNPは政治家や支持者ら2万人以上が当局に拘束されたとして、今年1月の総選挙をボイコットしていた。【8月5日 毎日】
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外交面では、ハシナ首相はバングラデシュを大きく取り囲むようなインドとの良好な関係を築いてきました。また、野党BNPとイスラム主義政党はパキスタンおよび中国に近いと見られています。これまでインドはハシナ政権を支持してきましたが、バングラデシュの今後を懸念を持って注視していると思われます。

****バングラデシュ政府にすりよるインド政府****
(中略)
インド政府は、ほぼ15年間、東の隣国バングラデシュとの関係構築に多大な投資を行ってきたが、抗議活動については公には慎重な姿勢を保ってきた。インド外務省は、この騒乱を「バングラデシュの内政問題」と表現しながらも、インドにとってのこの事件の重要性に注目した。外務省の報道官ランディール・ジャイスワル氏は、S・ジャイシャンカール外相が「自ら状況を監視している」と述べた。

では、なぜインドはバングラデシュの情勢を懸念しているのだろうか?
まず、インドは常に平和な周辺地域を望んでおり、それによって自国の経済発展に自由に注力できる。インドはバングラデシュと4096キロの国境を接しており、インド政府はバングラデシュでのいかなる騒乱もインドのアッサム、西ベンガル、ミゾラム、メガーラヤ、トリプラの各州に波及する恐れがあると懸念している。これらの州の多くは過去に暴力的な反乱を経験しており、すでに影響を受けていると考えられている。

パキスタンとの国境と中国との国境が緊張状態にある中、インドはバングラデシュとの国境の平和を確保したいと考えている。インド政府はすでにミャンマー内政の騒乱を警戒しており、バングラデシュの南(訳注:東南部)に位置する軍事政権下にあるミャンマーとの国境にフェンスを設置すると発表した(訳注:インドはバングラデシュを挟む最東部でミャンマーと国境を接している)。

最初は学生主導の運動として始まった抗議活動にイスラム教徒や反インド主義者、その他の勢力が加わっているとの報道を受け、インド政府はハシナ政権および国民との関係改善に向けて過去15年間行ってきた投資が水の泡になるのではないかと懸念している。(中略)

最近の騒乱はインドとバングラデシュ間の貿易に影響を及ぼしており、すでに低迷しているバングラデシュ経済にさらに大きな打撃を与えると予想される。

したがって、ハシナ政権の弱体化、そして野党のBNP(訳注:バングラデシュ民族主義党の略称)とイスラム主義政党(訳注:バングラデシュイスラム会議など国内に13の政党を数える)の強化は、インドにとって悪いニュースである。BNPとイスラム主義政党はパキスタンおよび中国に近いと見られており、したがってインドの利益に反する。中国およびパキスタンとの緊張関係を考えると、インド政府はバングラデシュで彼らの影響力が増大するのを容認するわけにはいかない。

インドはまた、バングラデシュをインド太平洋戦略の重要な一部であり、アクト・イースト政策(訳注:2014年に発足したインドのモディ政権が推進する外交政策で、東アジアとの関係を強化し、経済連携を図る)における重要な提携先であると考えている。

そしてハシナ首相は、これらの問題に関するインドの考えを受け入れ、歓迎してきた。ハシナ首相が困難に直面するたびにインドが彼女を支持することを選んだのも不思議ではない。【8月5日 ウェッブ・アフガン】
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日本もハシナ政権とは相性がよかったので、今後イスラム主義が強まるようなことがあれば問題となります。
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日本と友好的な関係を築いてきたことでも知られる。ハシナ氏は14年に来日した際の講演で、独立に伴う国旗制定時にラーマン氏が「日本に魅せられ、日の丸のデザインを取り入れた」と語り、日本への親近感をアピールした。バングラの国旗は、豊かな自然を表す緑の地に、独立のために流した血を示す赤い丸が描かれている。【8月5日 毎日】
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イランやヒズボラの報復攻撃、早ければ24〜48時間以内(米国務長官)

2024-08-05 23:09:28 | イラン

(【8月5日 ABEMAnews】)

【米国務長官 イランやヒズボラが早ければ24〜48時間以内にイスラエルに攻撃を開始するとの見方をG7外相に伝える】
7月31日、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤ氏が、イラン新大統領就任式賓客として訪れていたイランの首都テヘランでイスラエルの攻撃により殺害。

8月1日、イスラエル軍は、ハマスの軍事部門トップ、ムハンマド・デイフ氏の殺害を確認したと発表。イスラエル軍は7月13日、パレスチナ自治区ガザ地区南部ハンユニスでデイフ氏を狙った空爆を行っていました。

7月30日、イスラエル軍の攻撃により、レバノン首都ベイルート南部郊外の建物にいたフアド・シュクル司令官が死亡。

一連のハマス・ヒズボラ幹部へのイスラエルの攻撃で、中東情勢が非常に危うい状況になっていることは、8月3日ブログ“イスラエルによるハマス最高指導者・ヒズボラ幹部殺害 イランの報復は必至”で取り上げたところです。

賓客として訪れたハニヤ氏を首都で殺害されたイラン及びすでに緊張が高まっていたヒズボラの報復は必至ですが、ブリンケン米国務長官が主要7カ国(G7)の外相に対し、イランやヒズボラが早ければ24〜48時間以内にイスラエルに攻撃を開始するとの見方を伝えたとのことです。

****イランのと復巡り緊迫 24〜48時間以内に攻撃との見方も****
 イランやレバノンのイスラム教シーア組織ヒズボラによるイスラエルへの報復攻撃を巡り、緊張が高まっている。米ニュースサイト「アクシオス」は4日、ブリンケン米国務長官が主要7カ国(G7)の外相に対し、イランやヒズボラが早ければ24〜48時間以内にイスラエルに攻撃を開始するとの見方を伝えたと報じた。

米政府はイラン側に自制を求めるとともに、防衛体制の構築を図っている。

ブリンケン氏は、イラン側への外交的な圧力を強めて報復攻撃をできるだけ小規模にするため、G7の外相との協議を招集。日本外務省によると、声明では「全ての当事者に対し、報復的な暴力の連鎖の継続を回避し、緊張の度合いを下げ、緊張緩和に向けて建設的に関与することを改めて強く求める」とした。

また、ブリンケン氏は4日、イランの隣国イラクのスダニ首相とも電話協議し、緊張緩和に向けた措置を取ることで一致した。米国はこうした外交努力を続けると同時に、イラン側からの攻撃に対する準備も進めており、中東に艦艇や戦闘機を追加で配備した。

イスラエルメディアによると、同国のネタニヤフ首相は4日の閣議で、イランなどの報復攻撃が迫っているとの見方について「われわれを攻撃すれば高い代償を科す」と警告。イラン側をけん制するとともに、防衛能力に自信を見せた。

イランが4月にイスラエルによる在シリアのイラン大使館空爆への報復として、計300発以上の弾道ミサイルなどを発射した際、イスラエルは米軍などの支援を受けて「99%」の迎撃に成功している。

パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏は7月31日、イランの首都テヘランでイスラエルによるとみられる攻撃で殺害された。イランの最高指導者ハメネイ師は報復を宣言している。【8月5日 毎日】
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“4月にイスラエルによる在シリアのイラン大使館空爆への報復として、計300発以上の弾道ミサイルなどを発射した際、イスラエルは米軍などの支援を受けて「99%」の迎撃に成功している”とのことですが、あのときは、イラン側もイスラエル側の被害を大きくしないために、早期に発表するとか、到達までに時間を要するドローンも多用するなど、抑制的攻撃でした。

おそらく今回はイラン側は攻撃レベルを上げてくると思われます。

「弾道ミサイルなどの飛しょう体の数は前回を確実に上回る。イスラエルの軍関係施設を中心に狙うと見られる」「今回はヒズボラの司令官も殺害されている。イランも撃つ、ヒズボラも撃つ、イエメンのフーシ派やイラク国内の民兵組織の一部も加勢し、飽和攻撃のような形で、最終的にイスラエルの防空能力を損なう形にもっていくのが狙いだと見られる」(慶應義塾大学の田中浩一郎教授)【8月3日 NHK】

【イスラエル・ヒズボラの全面戦争になれば中東以外の地域からもイスラム教徒が参戦 各国は退避勧告】
****「戦争引き起こしても構わない」イスラエルへの報復攻撃宣言するイラン “攻撃差し迫っている”米メディア*****
イスラエルへの報復攻撃を宣言するイランは、緊張緩和を求めるアラブ諸国の呼びかけを拒否し、「戦争を引き起こしても構わない」と伝えたとアメリカメディアが報じました。(中略)

アメリカやアラブ諸国はイランに自制を求めていますが、ウォール・ストリート・ジャーナルによると、イランは緊張緩和を求める呼びかけに拒否する姿勢を示しているということです。そのうえで、アラブ諸国の外交官に「攻撃によって戦争を引き起こしても構わない」と伝えたと報じています。(後略)【8月5日 TBS NEWS DIG】
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ただ、「戦争引き起こしても構わない」とは言いつつも、イランもイスラエルと本格的戦争に突入するまでの意思は(少なくとも現段階では)ないと想像されますので、イランによるイスラエル直接攻撃は単発のものになるのではないでしょうか。 イスラエルに大きな被害が出て、更にイランに報復する・・・といった事態になれば別ですが。

より長期的な本格的な戦争が懸念されるのは国境を接するレバノン・ヒズボラの方でしょう。

****最強武装組織ヒズボラ vs. イスラエル...戦争になればイランや中東以外からも戦闘員が参戦する****
<衝突は危険なレベルにエスカレートしている。地域戦争を阻止するにはガザ停戦と人質解放が必要だが、ネタニヤフはこれを拒否。既にタリバンも「戦闘員を送る」と表明しており、中東は一触即発の危機にある>

中東が地域戦争の危機に瀕している。イスラエルとレバノンのシーア派組織ヒズボラの衝突が、極めて危険なレベルにエスカレートしたためだ。アメリカ政府は両者を譲歩させようと外交努力を重ねているが、成果は上がらない。
戦争を回避するにはイスラエルとヒズボラ、双方の支持者を巻き込んで大がかりな合意を取り付けるのが急務だ。

ヒズボラとその支持者を勢いづかせたのは、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相のパレスチナ自治区ガザへの対応だった。

ガザに侵攻した際、ネタニヤフはイスラム組織ハマスの殲滅と人質解放を目標に掲げた。だがどちらも達成できずに孤立し、その支配力は衰えている。戦争の終結についても戦後のガザ統治についてもビジョンを持たずに無差別攻撃を繰り広げた結果、ネタニヤフの地位は揺らぎ、国際社会でのイスラエルの立場も危うくなった。

10万の戦闘員と最新兵器
今や国民の大半が退陣を求めるネタニヤフは、閣内の強硬派およびイスラエル国防軍(IDF)指導部の支持により辛うじて首相の地位にしがみついている。支持層の超正統派ユダヤ教徒からも見放され、建国以来の盟友アメリカとの信頼関係も揺らいだ。

IDFの将校たちは弾薬不足と兵士の疲弊に懸念を表し、ヒズボラ対応に注力できるようにハマスとの停戦を受け入れてほしいと首相に訴えた。

だがネタニヤフは強硬姿勢を崩さない。6月18日には、ガザ戦争を終わらせヒズボラとの戦いに軸足を移すのに必要な弾薬の供給を渋っていると、ジョー・バイデン米政権に言いがかりを付けた。

ヒズボラがイスラエルにとって厄介な存在なのは確かだ。ネタニヤフは7月24日に米議会の上下両院合同会議で演説。ヒズボラおよび支援国のイランと戦うことはイスラエルのみならずアメリカの利益だと強調し、次のように述べた。

「(レバノンと国境を接する)イスラエル北部では8万の市民が家を追われ、自国内で事実上の難民となっている。彼らを故郷に帰すことに、われわれは全力を尽くす。そしてこれを外交的に成し遂げることを望んでいる。だがはっきりさせておく。国境の安全を回復し市民を故郷に帰すために必要とあらば、イスラエルはどんなことでも実行する」

1980年代前半にヒズボラが政治・民兵組織として台頭して以来、イスラエルはその弱体化や撲滅を図ってきた。しかし2006年のレバノン侵攻をはじめ、試みはことごとく失敗。イスラエルと戦って生き延びるたび、ヒズボラは中東で影響力を拡大した。イランと、ハマスなどその同盟組織も影響力を増した。

現在のヒズボラは世界最強の準国家的武装組織だ。伝えられるところによれば百戦錬磨の戦闘員を10万人も擁し、最新鋭のミサイルやドローンを含む幅広い武器をそろえており、その組織力、また兵站における同盟組織との協力体制には目を見張るものがある。

緩衝地帯の設置が急務
ヒズボラは殉教を信仰の証しとするイラン主導の武装組織ネットワーク「抵抗の枢軸」の要。7月28日に就任したイランのマスード・ペゼシュキアン新大統領も、ヒズボラへの堅い支持を明言した。

イスラエルと全面戦争になれば、イランとその代理勢力から数万の戦闘員がヒズボラに加わるだろう。中東以外の地域からもイスラム教徒が参戦するだろう。アフガニスタンのタリバンは、既に戦闘員を送ると表明している。

イスラエル、アメリカおよびその多くの同盟国はヒズボラをテロ組織と見なしてきた。だがアラブ連盟はアラブおよびイスラム世界におけるその人気の高まりを受けヒズボラをテロ組織に指定しないことを6月29日に決定した。

イスラエルはもはや中東の支配的勢力と目されてはいない。ガザでの戦闘、ヒズボラやイエメンのフーシ派やイランとの交戦はイスラエルの脆弱性を露呈させた。

レバノンの首都ベイルートをガザと同じように焼き尽くす兵力を、イスラエルは今も保持しているかもしれない。だがわずかでも余力を残してヒズボラとの戦いに片を付けるには、アメリカの直接介入が欠かせない。

とはいえ秋に大統領選を控え、イスラエルの安全を守ると主張するアメリカも、レバノンでの対ヒズボラ戦を支援するのは非常に難しい。

アメリカが積極的にイスラエルを支援すれば、ロシア、中国、北朝鮮は待ってましたとばかりにイランとヒズボラに加勢するだろう。

イスラエル、ヒズボラおよび双方の支持者は外交を通じて合意を取り付け、イスラエル・レバノン国境の両側に緩衝地帯を設ける必要がある。そのためにイスラエルとハマスはまずガザ停戦と人質の解放に合意し、パレスチナ問題の恒久的解決の礎を築かなければならない。

現時点でネタニヤフはこれを拒否している。ネタニヤフは汚職疑惑で係争中の身。ガザ侵攻が終結すれば政権を追われ、裁判で有罪になるかもしれないと恐れているのだ。

武力衝突と外部の介入が平和と安定をもたらすどころか問題を悪化させることを、中東の歴史は幾度となく示してきた。中東が一触即発の危機にある今、求められるのは冷静な判断だ。【8月5日 Newsweek】
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上記記事は、ハニヤ氏殺害などに触れられていないので、それ以前に書かれたもののように思われます。とすれば事態は更に逼迫しています。

イランとヒズボラは当然に攻撃のタイミング・規模などを調整しています。同時に攻撃するのか、事態を制御不能にしないために敢えてずらすのか・・・はわかりませんが。

ヒズボラは世界最強の準国家的武装組織・・・かつてイスラエルに負けなかったのは事実ですが、現在の戦力がどの程度なのかは知りません。

事態の切迫を受けて、各国は自国民のレバノンからの退避を勧告、航空会社も周辺地域の航空便を運休する動きが進んでいます。

****レバノンから退避を 各国が自国民に勧告****
イスラム組織ハマスの指導者とレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ幹部が相次いで殺害され、イランおよび親イラン派勢力がイスラエルへの報復措置を表明している事態を受け、各国は新たな中東戦争の前線になるとみられているレバノンに滞在中の自国民に対し、早急に出国するよう勧告している。

米英などに続き、サウジアラビアとフランスも、自国民にレバノンからの退避を要請。

仏外務省は自国民に対し、レバノンの「治安状況が極めて不安定」であるため、同国への渡航を中止するよう緊急要請し、同国に滞在している人々には早急に出国するよう呼び掛けている。フランスは、イラン在住の自国民にも「一時退避」を要請している。

欧米の複数の航空会社も、レバノンをはじめ周辺地域の航空便を運休。カタールの国営カタール航空は、少なくとも5日まで、同国の首都ドーハとレバノンの首都ベイルートを結ぶ航空便を「昼間のみの運航」に制限すると発表した。(後略)【8月5日 AFP】
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【アメリカはネタニヤフ首相にガザ停戦を強く求めるものの、イランから攻撃に対してはイスラエル防衛堅持】
事態を悪化させている原因に、イスラエル・ネタニヤフ首相のガザでの頑なな戦闘継続姿勢がありますが、アメリカ・バイデン大統領は相当に苛立っているようにも。電話会談で「甘く見るんじゃねえぞ!」と凄んだとか。

****バイデン氏、ハマスと停戦交渉進めているというネタニヤフ氏に「でたらめ言うな」「米大統領を甘く見るな」****
米国のバイデン大統領が、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と1日に電話会談した際、イスラム主義組織ハマスとの停戦合意に向け交渉を進めていると述べたネタニヤフ氏に対し、「でたらめを言うな」と反発した。イスラエル主要紙ハアレツなどが4日報じた。

報道によれば、バイデン氏は会談でネタニヤフ氏に、ハマスとの停戦合意と人質解放に向けた交渉について「今すぐ取引に応じるべきだ」と迫った。ネタニヤフ氏は「我々は交渉を進めている」と強調すると、バイデン氏が反発。「米大統領を甘く見るな」と異例の強い表現で交渉の進展を求め、会談を終えたという。

米高官はハアレツに「ネタニヤフ氏は交渉ではなく戦闘を長引かせようとしている」と指摘し、イスラエルに武器弾薬を提供してきた米国による支援継続が「難しくなってきている」と語った。イスラエルの交渉団は3日にエジプトを訪れ、停戦合意に向けた協議を行ったが、進展はなかったとみられる。

ロイター通信によると、イスラエル軍は3日、パレスチナ自治区ガザの中心都市ガザ市の学校を空爆し、避難していた15人が死亡した。一方、パレスチナ人の男が4日、イスラエルの商都テルアビブ郊外でイスラエル人の男女2人を刺殺した。男は駆けつけた警官に射殺された。【8月4日 読売】
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ネタニヤフ首相は戦争を止めたら汚職裁判やハマス襲撃の責任問題で政治生命が終わりますので、なんとか戦争を継続したいようです。

それにしても、こういう首脳間の会話がどうして漏れてくるのでしょうか。誰かが勝手に漏らしているとも思えませんので、イスラエル側かホワイトハウスの意図的なリークなのでしょう。

何のために? イスラエル側の「アメリカの対応が厳しい」というアピール?あるいはアメリカ側の「これだけ精一杯イスラエル側に厳しく対応している」とのアピールでしょうか。

アメリカもイスラエル・ネタニヤフ首相の強硬姿勢にどこまで付き合うのか悩ましいところでしょうが、ネタニヤフ首相への厳しい自制要請の一方で、イスラエルを守るという基本姿勢は変わりません。

****米軍、中東へ増派 イスラエルを守るためにイランと戦争か****
(中略)
米国防総省の報道官は2日、国防総省が「イランおよびイランのパートナーやその代理勢力による中東地域の緊張激化の緩和に向けた」対応を取っていると述べるとともに、「イスラエル防衛への(アメリカの)強固な関与」をあらためて表明した。

アメリカはイスラエルにとって最強の同盟国であり、昨年10月7日にハマスがイスラエルに越境攻撃して以降、イスラエルに対する外交的・軍事的支援を繰り返し表明している。(中略)

1日夕、ジョー・バイデン米大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談し、イスラエル防衛に関与していくというアメリカの姿勢をあらためて伝えた。

国防総省の報道官は2日、「中東における空母打撃群のプレゼンスを維持するため、(ロイド・オースティン国防)長官は、中央軍の担当地域に派遣中のセオドア・ルーズベルトの空母打撃群を、空母エイブラハム・リンカーンの空母打撃群に交替させるよう命じた」とも述べた。また「長官は戦闘機部隊の中東への追加派遣も命じた。空からの支援能力を強化するためだ」とも述べた。

国防総省はまた、「弾道ミサイル防衛が可能な巡洋艦や駆逐艦を米欧州軍および中央軍の担当地域に追加(配備)することを命じる」とともに、陸での弾道ミサイル防衛を追加配備する」準備を整えているという。

「支援のために軍事態勢を変える」
これに先立ち、オースティン国防長官は報道陣に対し、「もしイスラエルが攻撃されるなら、間違いなくイスラエルの防衛を助けることになる」と述べた。

2日、オースティンはイスラエルのヨアブ・ガラント国防相に対し、イスラエルへの軍事支援の実施に向けて「現在、また今後も防衛力態勢を変えて」いくと伝えている。

4月、イランはイスラエルに対し、無人機やミサイルによる過去最大規模の攻撃を行った。アメリカはイギリスやフランスなどイスラエルと同盟関係にある国々とともに迎撃を支援した。(中略)

ネットメディアのアクシオスによれば3日、米中央軍のマイケル・クリラ司令官がイスラエルとヨルダンを経由して中東に到着した。旅程は以前から計画されていたというが、イランからの攻撃に対する備えについて話し合ったとみられている。(後略)【8月5日 Newsweek】
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大統領選挙のさなか、アメリカにとってイスラエルを見捨てるという選択肢はないのかも。ただ、アメリアの一貫したイスラエル擁護姿勢がネタニヤフ政権の強硬姿勢を支えてきたという側面も。
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イギリス  イスラム過激派と極右勢力に脅かされる“多様な民族から成る民主主義”

2024-08-04 22:16:14 | 欧州情勢

(不法移民に抗議する集団の一人が発煙筒を掲げた(3日、英リヴァプール)【8月4日 BBC】)

【“偽情報”に触発された極右勢力によ移民排斥暴動】
イギリスでは“偽情報”に触発された極右勢力によ移民排斥暴動が拡大しています。

****「移民を追い出せ」イギリスで極右が扇動する“移民排斥デモ”拡大 きっかけは“偽情報”の拡散****
イギリス各地で過激な「移民排斥デモ」が広がっています。きっかけは、ある事件をめぐりインターネット上で拡散された“偽情報”でした。

記者「今、黄色いジャケットを着た警察官を境に奥がヘイトデモの集団、大きな声をあげています。そしてこちら手前側がそれに抵抗するカウンターデモの集団ですが、まさに一触即発の状態が続いています」

3日、イギリス中部リバプールで、極右集団が主導する移民へのヘイトデモと、それに反対するデモの参加者数千人がにらみ合う事態になりました。

発端となったのは、先月、リバプール近郊の町で17歳の少年がダンス教室に押し入って参加者を次々と刺し、子ども3人が亡くなった事件です。

少年は、アフリカのルワンダ出身の両親のもとイギリスで生まれ育ったということですが、インターネット上では事件直後から、「イスラム教徒」であり「小型ボートで入国した移民だ」とする“偽情報”が拡散されたのです。

その後、“偽情報”を利用した極右集団が移民やイスラム教徒へのヘイトデモを煽り、各地で暴動に発展。建物や車などが放火される事態に…。

ロンドンでは100人以上が逮捕されたほか、リバプールでも警察官2人が骨を折るなどしました。

ヘイトデモ参加者
「子どもが刺されたり、車で轢き殺されたり、そんなのはもうたくさんだ。彼らを追い出せ」

ヘイトデモに反対する人
「罪のない移民に対し、『この国に来るな』と罵り、殺された子どもを利用し暴動を引き起こすような人種差別主義者に抵抗するため、ここに来ました」

現地メディアは、この週末に30以上のヘイトデモが計画されていると報じています。【8月4日 TBS NEWS DIG】
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****英各地で極右の暴動続く 警察「粗暴なチンピラ」と批判、ネオナチらの関与確認****
英中部リバプール近郊での児童刺殺事件をめぐるデマ情報を発端とする極右勢力による暴力的なデモが3日、リバプールや中部マンチェスターなど英国各地で実施された。

リバプールでは暴徒らによる投石で警官2人が顔を負傷して病院に運ばれた。警察はデモ参加者11人を逮捕。北部ランカシャー州では保養地ブラックプールを中心に20人が逮捕された。

英警察当局は3日の声明で、極右勢力の行動は「事件で死傷した少女への思いやりや敬意を欠く。彼らは粗暴なチンピラだ」と厳しく批判した。

その上で「連中は向こう数日間、同様の行動を繰り返すのは確実だ」と指摘し、英全土に警官隊を増派して暴力行為を徹底的に取り締まると表明した。

スターマー首相は3日、緊急閣議を開いて対応を協議した。クーパー内相は記者団に「英国の街頭に犯罪的な暴力と無秩序が存在する余地はない」と述べ、暴徒らは「代償を支払うことになる」と警告した。

警察などによると、一部都市でのデモで極右団体「英国防衛連盟」やネオナチ組織の関与が確認された。デモ参加者は右翼思想の同調者や、フーリガンなどの反社会的集団が大半を占めるとみられている。

デモ参加者には右派政党「リフォームUK」を率いる大衆迎合政治家のファラージ下院議員の支持者も含まれているとされ、ファラージ氏が殺人事件に関し「不法移民の犯行だった」などとする偽情報を追認したことでデモ激化に拍車をかけたとの批判も出ている。【8月4日 産経】
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上記記事でも指摘されているように、事態を悪化させたとされるのが、ブレグジットを扇動したことでも有名な右派ポピュリストのファラージ氏。(先の総選挙では同氏が率いるリフォームUKは5議席を獲得しています)

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(中略)
リフォームUK ファラージ党首 「真実が隠されているのではないかと疑っています」

厳格な移民政策を掲げる右派政党の党首は、警察の発表を疑問視する発言をSNSに投稿。事件の翌日には、極右団体が主導したとされる移民に対するヘイトデモが起き、イスラム教の寺院であるモスクの一部や警察車両などが破壊されました。【8月2日 TBS NEWS DIG】
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“偽情報”の問題は、“偽情報”を作るツールが一般化し、情報を拡散させる媒体も普及したことで、各国が悩む今日的な世界共通問題ですが、アメリカ大統領選挙でも。

****イーロン・マスク氏がXでハリス副大統領の偽動画を拡散 批判の声にも「アメリカでパロディーは合法だ」と主張****
アメリカの実業家のイーロン・マスク氏は自らが所有するXで、民主党の事実上の大統領候補となったハリス副大統領の偽動画を拡散させ、Xの規約違反ではないかと批判の声が上がっています。

動画はハリス氏陣営が公開した選挙動画を保守系のユーチューバーが加工したものとみられていて、ハリス副大統領に似た声で「私は女性で、有色人種だ。私の発言を批判する人は性差別主義者、人種差別主義者だ」とするナレーションが入っています。

マスク氏は26日、「これは素晴らしい」とだけコメントをつけて動画を拡散し、この投稿は1億3000万回以上表示されています。

Xの規約には「人々を欺いたり、混乱させたりする可能性のある合成、または加工されたメディアを共有してはならない」などと記載されていて、アメリカメディアからはマスク氏の投稿が規約違反にあたるとする指摘が相次いでいます。

マスク氏は「アメリカでパロディーは合法だ」と主張していて、動画は投稿されたままとなっています。【7月30日 TBS NEWS DIG】
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SNS所有者が“偽情報”を拡散させる・・・旧ツイッターの投稿内容に対する管理が厳しすぎる現状を変えたいということでツイッターを買収したイーロン・マスク氏。““言論の自由”を守ると説明していますが、何を発信しても構わないと捉える人が増えてしまうのではないかという懸念の声も。実際、所有者本人が・・・困った人です。

「メディア王」マードック氏のように、所有するメディアを自分の政治信条主張のために使うというのはイーロン・マスク氏だけの話ではありませんが、“偽情報”拡散は明らかに反則です。

【移民とイスラム過激派によるテロ事件】
この“偽情報”の問題はまた別機会に扱うとして、イギリスではブレグジットの最大理由が流入する不法移民を少なくするという主張であったように、以前から移民、特にイスラム教徒に対しては厳しい目があります。
実際に、イスラム過激派のテロも起きています。

ですから、今回の移民排斥暴動も単に“偽情報”によって・・・ということだけでなく、そういう事態が起きる下地があったと言えます。

****イギリスが目を背ける移民とイスラム過激派の「不都合な真実」****
<人種差別と言われかねないから誰も口にしないが、イギリスは明らかに移民の問題を抱えている>

僕の地元の英イングランド東部エセックス州で10月15日、デービッド・エイメス下院議員が刺殺された事件は、イギリス全土に衝撃と悲しみをもたらした。だがその後、殺人とテロの容疑で逮捕された男がソマリア系英国人だと分かったことには、さほど驚きの声は上がらなかった。

イギリスには、誰の目にも明らかなパターンがある。戦争で荒廃した国やイスラム諸国から来た移民が、その人口比に見合わずあまりに多くのテロ攻撃に関与しているということだ。

(中略)2017年のマンチェスター・アリーナ爆破事件(10人の子供を含む22人の罪なき人々が犠牲になった)。2020年に起こった英南部レディングの公園での刺殺事件(3人が死亡)。2017年のロンドンの地下鉄爆破事件では、爆破装置が全てきちんと作動していたら数十人が死亡する可能性があった(不十分だったため「たった30人の負傷者」が出ただけだった)。

2017年にロンドン橋で起こった車の暴走と刺殺事件(8人が死亡、48人が負傷)、2019年に同じくロンドン橋近くで起こったナイフでの襲撃事件(2人が死亡、3人が負傷)。2017年の英国会議事堂前での車の暴走事件では警察官1人を含む5人が死亡。2013年にはロンドンで若き英軍兵士が頭部を切断される事件が起きた。そして、「イギリスの9.11」とも言われ、52人が死亡、数百人が負傷した2005年7月7日のロンドン同時爆破テロ。

これらのほかにも、おそらくイギリス国外では報道されていない「地味な」襲撃事件がいくつもある。たとえばロンドン南部のストレタムでの刃物襲撃事件は、負傷者が出たものの幸い死者は(射殺された襲撃犯以外は)いなかった。

推定900人に上る英国人が外国に渡って過激派組織「イスラム国」(IS)に参加したとみられており(中には英国なまりのため「ビートルズ」のあだ名で呼ばれていた者も)、その中には英当局に気付かれることなく既にイギリスに帰国している者もいる。

イギリスには明らかに問題があり、僕たちには対処法が分からない。エイメス議員の殺害後に公の場で交わされた議論は、いかにして「政治家の安全を強化するか」や、国全体で「政治的議論をトーンダウンさせるか」などだった。まるでブレグジットをめぐる種々の分断までがイスラム過激派テロの原因になったかのような論調だ。

僕たちは問題の核心を直視したくないがために、集団的否定の状態に陥っている。核心とは、イギリスの市民や政治家を攻撃しようとする、少数だが確実にいる過激主義者たちがこの国に流入して、この国で育まれているという現実だ。イギリスが移民の問題を抱えていると公然と示唆すること、さらにはある特定の移民を名指しすることは、人種差別と取られかねないからタブーとなっている。

テロをイスラム系移民(主にリビア、イラク、パキスタンやモロッコなど「特定の国」の出身者)と結びつけて単純化する心理は理解できる。だが現実はもっとずっと複雑で懸念すべきものだ。

テロリストの中にはイギリスにやって来たばかりの亡命希望者もいるが、英国市民としてこの国で生まれ育った移民2世もいる。イスラム過激主義に改宗した非イスラム諸国の出身者の場合もある(2001年の靴爆弾のテロリストみたいに、時には白人英国人の場合も)。

驚くほど多くが刑務所で受刑中に過激思想に染まっているが、大学で過激化した者もいる。仕事も将来の希望もない者もいれば、立派な仕事に就いている者もいる(2007年のテロ未遂事件の容疑者にはNHSの医師も含まれていた)。

イスラム過激派テロリストの経歴は1つのパターンに収まるものではなく、それが問題の解決をより複雑にしているのだ。

もちろん国は、「何もしていない」わけではない。テロ分子の監視にはかなりの資源をさいている。(中略)

事件の後にはいつも、なぜ状況を変えることができないのだろうという大局的な議論が起こる。でも、僕たちは社会として影響を受けている。テロ対策はカネがかかるし、それに資源を取られれば当然ながら組織犯罪対策や違法薬物取引対策など別の分野の資金が減ることになる。

国会議事堂やヒースロー空港などの一部の場所は、重武装の警官が配置された堅牢な要塞のようになっている。エイメス議員が地元有権者との懇談「サージェリー」の最中に襲撃されたことで、健全なる民主主義の柱とも言える議員と有権者との対面の機会を制限しなければならなくなるのではないか、との危機感も広がっている。

当然ながら、移民の大半は平和的で法を順守する人々だし、イスラム教は殺人をしてはならないと説いていると認識することは重要だ。

だが同時に、イギリスはイスラム過激派の問題を抱えており、移民は恩恵だけでなく問題も国に持ち込むこと、そして現在の対処法では命や生活への脅威を減らすことが精いっぱいで、今後もさらなる攻撃が起こるだろう、という明白な事実から、目を背けないこともまた重要だ。【2021年10月30日 Newsweek】
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【パレスチナ・ガザ紛争で高まる社会的緊張】
パレスチナ・ガザでの紛争、英政権のイスラエル支持姿勢に対し、イスラム教徒や共感する人々による抗議行動も起きています。

保守党・スナク前首相は、多様な民族から成る英国の民主主義がイスラム教や極右の過激派による計画的な攻撃にさらされているとして、抗議行動に対してより厳しい態度で臨むよう警察当局に求めていました。

****英国の多様な民族の民主主義が危機に、首相が厳格な対応要請*****
スナク英首相は1日、首相官邸前でスピーチし、多様な民族から成る英国の民主主義がイスラム教や極右の過激派による計画的な攻撃にさらされていると述べ、ヘイトスピーチや犯罪行為の増加を踏まえて、抗議行動に対してより厳しい態度で臨むよう警察当局に求めた。

スナク氏は「世界で最も成功を収めた多民族・多宗教の民主主義を構築したという偉大な成果が計画的な攻撃を受けていることに強い懸念を抱いている」と発言。深刻な混乱と犯罪行為が衝撃的な増加を見せていると危機感を示した。

国民には、抗議を行い、ガザ市民の生活を守るよう求める権利があるが、それを口実に、過激組織であるハマスへの支持を正当化することはできないと強調。警察に対して、こうした抗議行動については単に活動を抑制するのではなく、取り締まりを行うよう要請した。

英国ではイスラム過激派ハマスと戦闘状態にあるイスラエルへの支持を表明した一部の議員が脅迫を受けたことから、議員に対して今週、セキュリティー対策用に新たな資金が支給された。【3月4日 ロイター】
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【労働党の中道への路線変更で支持政党を失うイスラム教徒】
スナク前首相は不法移民抑制対策としてルワンダ移送という強硬策を実施しようとしていましたが、労働党への政権交代によってこの計画は破棄されています。

****スターマー英首相、不法移民ルワンダ移送「廃止」 保守党は党首選へ****
英国のスターマー首相(労働党)は6日、不法入国する移民らをアフリカ中部ルワンダに移送するとした保守党政権時代の法律を「廃止する」と述べた。ロイター通信などが伝えた。

4日投開票の総選挙で労働党は、ルワンダ移送ではなく「海上警備の強化」で密航を取り締まるとしていた。

英国では近年、英仏海峡をボートで渡ってくる不法移民が増加。保守党は総選挙で勝利した場合、移送を実行する予定だったが、大敗した。スターマー氏は、「この移送案は(移民増加を止める)抑止力として機能していない」と廃止の理由を説明した。(後略)【7月7日 毎日】
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スターマー労働党政権が移民・イスラム教徒に寛容になったかと言えば、現実はむしろ逆。

労働党は左派コービン前党首時代はイスラム教徒の受け皿になっていましたが、そうした左派への偏りが中間層の支持を失う原因になっているとしてスターマー党首は軌道修正。パレスチナ問題でもイスラエルを支持しています。

スターマー労働党はそうした中道路線への回帰で党勢を回復して総選挙にも圧勝しましたが、それに伴って、イスラム教徒は受け皿がなくなるということにもなっています。

****イギリス総選挙、大きく動いたムスリムとユダヤ系の票 今後も続くのか****
過去2回のイギリス総選挙で、有権者の投票動向は実に大きく変化した。全体を見てもそうだが、特に国内の二つのグループについて深く掘り下げると、驚異的な変化が見て取れる。

特に大きく変化したのは、労働党とムスリム(イスラム教徒)有権者の関係だけでなく、労働党とユダヤ系有権者の関係だ。(中略)

2019年の前回総選挙と今回の総選挙を比べると、ムスリム系有権者の労働党の得票率は、複数の選挙区で明らかに低下した。(中略)

ガザ戦争への労働党の姿勢に対するイスラム教徒の怒りのため、イスラム教徒の有権者が多い複数の選挙区で労働党は苦戦した。影の閣僚だったジョナサン・アッシュワース議員の落選は、その中でも特に注目された「自分の周りでは労働党への怒りがあまりに強く、今では自分が労働党関係者だというのが恥ずかしくなるほどだ」と、ラーマン氏は言う。(中略)

労働党に投票するイスラム教徒が減ったのは、まぎれもなく労働党党首の責任だと、ラーマン氏は言う。
労働党党首のサー・キア・スターマーは昨年10月、英メディアLBCのインタビューで、ガザ地区内で電力や水の供給を止める「権利」がイスラエルにはあると発言し、地方議員を含む多くの党内関係者に批判された。党首の報道官は後日、スターマー氏イスラエルには全般的な自衛権があると言おうとしただけだと説明した。

続いて昨年11月、スコットランド国民党(SNP)がガザの即時停戦を求める動議を下院に提出すると、労働党の執行部は採決を棄権するよう所属議員に指示した。これを受けて、労働党の地方議員が数人辞任した。そして、多くのイスラム教徒にとって、自分の選挙区を代表する労働党下院議員への信頼はこれで失われてしまった。(中略)

イスラム教徒はイングランドとウェールズの人口の約6.5%を占めると推定される。同様にスコットランドでは約2%、北アイルランドでは約1%だ。

そのイスラム教徒の80%以上が、2019年には労働党に投票したと考えられている。それに対して、2024年の選挙直前の調査では、ムスリムの労働党への支持率は全国的に最大20ポイント低下した。それよりさらに低下したことがはっきりしている選挙区もある。(後略)【7月17日 BBC】
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政治的代弁者を失ったイスラム教徒の一部が政治への信頼を失い、過激化するという危険も懸念されます。
そして何か事件が起きれば、それに極右勢力が過敏に反応することも。
多様な民族から成る民主主義を維持するには冷静な判断と大きな努力を必要とします。
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イスラエルによるハマス最高指導者・ヒズボラ幹部殺害 イランの報復は必至

2024-08-03 23:27:17 | 中東情勢

(7月31日、イランの首都テヘランのパレスチナ広場で、イスラム組織ハマスのハニヤ氏の写真を手に、その殺害を非難する参加者=AP 【8月2日 日経】)

【ハニヤ氏など、相次ぐイスラエルによるハマス・ヒズボラ幹部殺害】
中東ではイスラエルによる相次ぐハマス、ヒズボラ幹部殺害によって、緊張が高まっています。

****ハマス最高指導者ハニヤ氏、イスラエルの攻撃で殺害 テヘランで****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスは31日、同組織の最高指導者イスマイル・ハニヤ氏がイランの首都テヘランでイスラエルの攻撃により殺害されたと発表した。

ハマスは「兄弟であり指導者であり戦士であるイスマイル・ハニヤは、(イランの)新大統領の就任式に出席後、シオニスト(イスラエル)によるテヘランの拠点への攻撃で死亡した」と発表した。

イランの革命防衛隊も同日、テヘランにあるハニヤ氏の住居が「攻撃」を受け、警護員1人と共に死亡したと発表した。 一方、「事件」の詳細は不明とし、現在「調査中」だとしている。

ハニヤ氏は30日に行われたイランのマスード・ペゼシュキアン新大統領の就任式に出席するため、テヘランを訪れていた。
ハニヤ氏死亡の報道についてイスラエル軍にコメントを求めたが、現時点で回答を得られていない。 【7月31日 AFP】
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発生時間的にはハニヤ氏に先立つ形になりますが・・・

****イスラエル、ハマス軍事トップ・デイフ氏殺害を確認 ハニヤ氏に続き****
イスラエル軍は1日、イスラム組織ハマスの軍事部門トップ、ムハンマド・デイフ氏の殺害を確認したと発表した。軍は7月13日、パレスチナ自治区ガザ地区南部ハンユニスでデイフ氏を狙った空爆を行い、同氏が死亡したかどうか分析を進めていた。

デイフ氏は昨年10月の越境攻撃の首謀者の一人とされ、イスラエルが最重要の標的としていた。実際に殺害されたとすれば、ハマス壊滅を掲げるネタニヤフ政権にとっては大きな「戦果」となるものの、停戦交渉が停滞するのは必至だ。ハマスはコメントを出していないが、空爆が行われた際、イスラエルの主張を「虚偽」と主張していた。

デイフ氏は1987年にハマスに加入し、第1次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)に参加。95年以降、イスラエルに対する自爆テロを主導し、2002年に軍事部門トップに就任すると、地下トンネル網の整備などを進めた。

ハマス幹部を巡っては、最高指導者のハニヤ氏も7月31日、イランの首都テヘランで、ミサイル攻撃を受けて殺害されている。【8月1日 毎日】
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また、本格的戦争への危険が懸念されているレバノン・ヒズボラについても。

****ヒズボラ、司令官の死亡確認 イスラエルのベイルート空爆で****
レバノンに拠点を置く親イラン武装組織ヒズボラは31日、イスラエル軍の攻撃により、首都ベイルート南部郊外の建物にいたフアド・シュクル司令官が死亡したと確認した。

ヒズボラの指導者ナスララ師が、31日に行われる司令官の葬儀で演説する予定という。

これに先立ち、レバノン治安当局筋2人は、空爆後にシュクル司令官の遺体ががれきの中から発見されたと明らかにしていた。

イスラエル軍は30日、ベイルートの南部郊外を空爆し、ヒズボラの司令官を殺害したと発表。27日に起きたゴラン高原へのロケット弾攻撃の報復と説明していた。【8月1日 ロイター】
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【停戦交渉停滞は必至】
これらの殺害のなかで政治的影響が大きいのがハマス最高指導者ハニヤ氏の殺害。
イスラエル・ネタニヤフ首相はその成果を誇示しています。

****親イラン組織に「打撃」 イスラエル首相、成果誇示****
イスラエルのネタニヤフ首相は7月31日、テレビ演説し、パレスチナのイスラム組織ハマスやレバノンの民兵組織ヒズボラなどの親イラン勢力に「壊滅的な打撃を与えた」と強調した。ハマスのハニヤ最高指導者の暗殺を念頭に、直接の言及を避けながら「われわれへの攻撃は重い代償を支払うことになる」と述べ、成果を誇示した。

ハニヤ氏の暗殺後、ネタニヤフ氏が公に発言するのは初めて。イスラエルは暗殺を認めていないが、イランやハマスはイスラエルの仕業と断定し報復を宣言。中東情勢は緊迫の度を増している。

ネタニヤフ氏は国民に対し「困難な日々が待ち受けているが、あらゆるシナリオに備えている」と主張。いかなる脅威にも断固として対応すると呼びかけた。

ハマス政治部門幹部のハイヤ氏は31日、イランの首都テヘランで記者会見し、ハニヤ氏の暗殺を受け、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡るイスラエルとの停戦交渉に意味がなくなったと訴えた。(後略)【8月1日 共同】
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ハマスが対決姿勢を強めるのは当然として、停戦交渉仲介国からも反発が。交渉停滞は必至と見られています。

****ハマス最高指導者暗殺に中東の仲介国反発 ガザ停戦交渉は停滞必至****
パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏がイスラエルによるとみられる攻撃で殺害されたことを受け、ガザの停戦交渉を仲介していたカタールやエジプトが反発を強めている。

今回の事態で、イスラエルとハマスの停戦交渉が停滞するのは必至で、これまでの仲介がないがしろにされたも同然だからだ。ガザでの人道危機が深まる中、打開策は見えていない。

「一方の当事者が相手の交渉者を暗殺しておきながら、どうやって仲介を成功させようというのか」。カタールのムハンマド首相兼外相は7月31日、X(ツイッター)にこう投稿し、「平和(の実現)には真剣なパートナーが必要だ」と訴えた。

ハマスとイスラエルの停戦に向けた交渉では、3段階で休戦し、人質解放などを進める案が協議されている。7月には、ハマスが従来求めてきた「恒久的な停戦」の実現を一時棚上げし、休戦開始後に改めて交渉することで譲歩したと報じられ、合意への期待が高まった。だが、その後の交渉でも大きな進展はみられなかった。

こうした中、ハマス側で交渉の中心的な役割を担っていたハニヤ氏が暗殺されたことに仲介国は強く反発する。エジプトは31日の声明で「イスラエルに紛争拡大を抑える意思がないことを示しており、ガザでの停戦に向けた努力を台無しにしている」と批判した。

ただ、カタール外務省によると、ムハンマド氏は31日、ブリンケン米国務長官と電話協議し、ガザ停戦を実現する必要性を強調して、仲介を続ける意向を示した。カタールやエジプトが交渉の仲介をやめれば、紛争が中東全域に拡大する懸念が強まるため、仲介国も交渉努力を続ける以外に道はないのが実情だ。【8月1日 毎日】
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【イランの報復は必至、問題はいつ、どのような報復がなされるか? イスラエルの反応は?】
ハニヤ氏殺害の具体的方法についてはミサイル攻撃と部屋に設置された爆弾の二つの説があってはっきりしませんが、イスラエル情報機関モサドが実行部隊としてイラン部隊を雇ったとの報道も。

****ハニヤ氏殺害に関与か 20数人が逮捕 イスラエルが爆弾設置にイラン治安部隊雇ったか****
イスラム組織「ハマス」の最高指導者・ハニヤ氏の殺害に関与したとして、訪問先だったイランで少なくとも二十数人が逮捕されたことが分かりました。

ニューヨークタイムズは捜査に詳しい2人の情報として、テヘランでのハニヤ氏の殺害に関わった疑いで少なくとも二十数人が逮捕されたと報じました。

逮捕されたのはイランの情報機関の幹部や軍の関係者に加え、ハニヤ氏のいた建物のスタッフなどが含まれるといいます。

また、イギリスのテレグラフ紙はイスラエルの諜報機関「モサド」が建物に爆弾を仕掛けるためにイランの治安部隊を雇ったと伝えています。

当初はヘリコプターの墜落で死亡したイランのライシ前大統領の葬儀にハニヤ氏が参列した際に殺害する計画だったとしています。

しかし、この時は建物内に人が多くいたことから実行されず、雇われた治安部隊は国外に逃亡したということです。【8月3日 テレ朝news】
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イラン革命防衛隊は上記を否定する「建物の外から飛翔体で殺害された」とする捜査結果を発表しています。

イスラエル・モサドが敵対国イランで二度にわたり多くの協力者を得られたとしたら、イランの内情を考えるうえで興味深いところ。イラン革命防衛隊としては認めたくないかも。

それはともかく、新大統領就任式の賓客であるハニヤ氏をイラン首都で殺害され、その実行にイラン治安部隊が使われたということになると、イランの面子は丸潰れです。面子だけの話ではなく、今後のハマスやヒズボラとの信頼関係を考えても相当のアクションが必要とされます。

イランによる報復は必至で、問題はいつ、どのような規模で行われるのか、どこを狙うのか? それにイスラエルがどのように反応するかです。

4月にシリアにあるイラン大使館が攻撃されたことへの報復では、イランはイスラエルへの直接攻撃を行ったものの、ミサイル到達前に攻撃実施を発表し、敢えてイスラエル到達までに時間を要するドローンを多用するなど、イスラエル側の防御を可能にし、その実害を極力抑える配慮がなされました。今回は?

すでに、4月の時よりも大規模攻撃の準備が行われているとも。

****“イランの報復 数日から1週間の間に”の見方 中東の緊張続く****
ガザ地区でイスラエルとの戦闘を続けるイスラム組織ハマスの最高幹部が訪問先のイランで殺害され、イランなどが報復を行うとする中、アメリカのメディアはイランがどのような報復を行うか決めた兆候はないものの、数日から1週間の間に行われるとする見方があるとの当局者の話を伝えていて、中東での緊張が続いています。

パレスチナのガザ地区でイスラエルと戦闘を続けるハマスのハニーヤ最高幹部が7月31日、訪問先のイランで殺害されたことを受け、イランの最高指導者ハメネイ師はイスラエルが攻撃したとして報復を行う考えを示しています。

また、ハマスに連帯を示すレバノンのシーア派組織ヒズボラもイスラエルの空爆で幹部が殺害されたことを受けて報復する構えです。

これについて、アメリカの有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、イランがどのような報復を行うか決定した兆候はないものの、数日から1週間の間に行われるとする見方があるとの当局者の話を伝えています。

また、アメリカのCNNテレビは複数のアメリカ当局者の話として、報復は数日のうちに行われる可能性があると伝えました。

イランはことし4月にもシリアにあるイラン大使館が攻撃されたあと、多数のミサイルや無人機による報復を行いましたが、当局者はイランが、後ろ盾になっている武装勢力と連携することで、より大規模で複雑な攻撃になる可能性があるとも指摘しています。

アメリカ国防総省は、イスラエルへの支援を強化するため、国防長官が巡洋艦などの追加派遣を指示したことを明らかにしていて、イランなどからの報復をめぐり中東の緊張が続いています。

専門家「あと1日か2日の間に」
イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授はイランの出方について「ことし4月のイスラエルに対しての報復攻撃よりも大規模な動きが軍に見られる。報復は確実に行う、しかもあと1日か2日の間に起きるだろうという兆候に見える」と分析しています。

イランはことし4月、シリアにあるイラン大使館が攻撃を受けた報復として、イスラエルへの多数の無人機やミサイルによる大規模な攻撃に踏み切っています。

田中教授は、より大規模な報復が予測される理由として「前回の攻撃ではイスラエルに対して十分な警告が届いていないということで、より激しい形での報復を行うことが不可欠であると結論づけた。

今回、賓客として招いた要人が首都で重要な政治イベントの流れのなかで殺害された。イスラエルへの怒りだけでなくイランが沈黙すると、ハマスなどとの信頼関係が損なわれる危険性があり、積極的な行動を示す結論が導きだされた」との見方を示しました。

どのような報復攻撃を行うかについては「イランからの直接攻撃は不可欠で、弾道ミサイルなどの飛しょう体の数は前回を確実に上回る。イスラエルの軍関係施設を中心に狙うと見られる」としています。

そのうえで「今回はヒズボラの司令官も殺害されている。イランも撃つ、ヒズボラも撃つ、イエメンのフーシ派やイラク国内の民兵組織の一部も加勢し、飽和攻撃のような形で、最終的にイスラエルの防空能力を損なう形にもっていくのが狙いだと見られる」と分析しています。【8月3日 NHK】
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イスラエルはアイアンドームという優れた防空システムを有していますが、多数のミサイルを同時に撃ち込む飽和攻撃にあうと防ぎきれない可能性もあります。

イランがそうした飽和攻撃を行うのか? その結果イスラエル側に被害が出た場合、イスラエルはどのように反応するのか?

【自制要請が無視されたアメリカ イスラエル防衛姿勢は維持、中東に米軍追加派遣】
アメリカ・ブリンケン国務長官は、ハニヤ氏殺害について「米国は関与しておらず、事前通告も受けていない」と説明しています。

アメリカはハリス副大統領が、7月下旬に訪米したイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、強いトーンで停戦協議の早期妥結を求めるなど、イスラエルに攻撃の自制・停戦交渉促進を求めていましたが、それが無視された形にもなっています。

****バイデン大統領がネタニヤフ首相に不満か ハマス指導者暗殺巡り****
パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が滞在先のイランで暗殺されたことを巡り、バイデン米大統領が暗殺に関わったとみられるイスラエルのネタニヤフ首相に不満を募らせている模様だ。仲介してきたイスラエルとハマスとの停戦案の合意の障害になりかねないためで、イスラエル側に自制を求めている。

米ニュースサイト「アクシオス」によると、バイデン氏は1日にネタニヤフ氏と電話協議した際、想定されるイラン側からの攻撃に対する防衛支援を伝える一方、イスラエルがその後再び緊張を高める行動を取った場合には、米国の支援を期待しないよう警告。停戦合意に向けて早急に取り組むよう求めた。

バイデン氏は5月に人質の解放などを含む包括的な停戦案を発表し、イスラエルとハマスの合意に向けてカタールやエジプトと仲介に取り組んできた。11月の大統領選への出馬を断念したバイデン氏は、来年1月までの任期中に停戦と人質の解放を実現し、「レガシー(遺産)」としたい意向も透ける。

ネタニヤフ氏は暗殺事件前の7月下旬にホワイトハウスでバイデン氏と会談し、停戦について協議していた。アクシオスは関係者の話として、バイデン氏が1日の電話協議でネタニヤフ氏に対して、「会談で停戦合意について話したにもかかわらず、暗殺に踏み切った」と不満を示したという。

ネタニヤフ氏を巡っては自身の政治的な保身のために、戦闘を続けているとの見方が根強くある。バイデン氏は1日に記者団に、「(ハニヤ氏の暗殺は)停戦交渉の役には立たない」と述べ、いらだちを隠さなかった。

一方で、バイデン政権は現状では、イスラエルの防衛に関与する姿勢を変えていない。イランやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラからの「報復」が懸念される中、米国防総省は2日、中東に艦艇や戦闘機を追加で派遣すると発表した。弾道ミサイルの迎撃能力を持つ巡洋艦や駆逐艦を追加配備し、戦闘機部隊も追加で派遣する。また、空母「セオドア・ルーズベルト」に代わって、空母「エーブラハム・リンカーン」の派遣も決めた。【8月3日 毎日】
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米軍の艦艇や戦闘機の追加派遣は、イスラエルの防衛に関与するアメリカの基本姿勢堅持を示すものであると同時に、イラン側の報復に対する牽制でもあるでしょう。

かねてよりイスラエル・ネタニヤフ首相は自らの政権・政治生命延命のために戦闘拡大を望んでいると言われていますが、そうだとしたら、その思惑によって中東は危険な状況に引きずり込まれます。その影響は日本を含む世界に及びます。
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米ロ間で実現した冷戦以降では最大規模の身柄交換 バイデン政権は外交の成果をアピール

2024-08-02 23:19:18 | アメリカ

(【8月2日 テレ朝news】アンドルーズ空軍基地でバイデン大統領とともに身柄交換者を出迎えるハリス副大統領)

【米ロ 東西冷戦以降では最大規模の身柄交換】
ウクライナをめぐり対立が続くアメリカとロシアの間で、トルコの情報機関が仲介する形で「東西冷戦以降では、最大規模の身柄交換」が8月1日に行われました。

*****「冷戦後最大規模」 欧米側8人、ロシア側16人の収監者を身柄交換****
米政府は1日、米国やロシアなどの収監者計24人の身柄交換が行われたと発表した。ロシアで収監中だった米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの米国人記者エバン・ゲルシコビッチ氏も含まれる。欧米メディアは「東西冷戦以降では、最大規模の身柄交換」と報じている。

北大西洋条約機構(NATO)の加盟国で、ロシアとも良好な関係を保つトルコの情報機関が仲介し、首都アンカラで1日に身柄の交換が行われた。

米政府などによると、ロシア側は米国人やドイツ人ら16人を釈放し、欧米側はロシア人8人を引き渡した。このほか、子ども2人もロシアに渡った。

釈放された米国人と米国の永住権保持者は計4人で、ゲルシコビッチ氏のほかは、2020年にスパイ罪で禁錮16年の判決を言い渡された元米海兵隊員ポール・ウィラン氏▽米政府系「ラジオ自由欧州・ラジオ自由(RFE・RL)」の記者、アルス・クルマシェワ氏▽ロシアの反政権活動家のウラジーミル・カラムルザ氏。また、ロシアの人権活動家のオレク・オルロフ氏や野党指導者のイリヤ・ヤシン氏らも釈放された。

米政府高官によると、米政府はロシアの反体制派指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏も身柄の交換に含めようと試みていたが、2月に収監されていた北極圏の刑務所で死亡し、実現しなかったという。

一方、欧米諸国が釈放した中には、ドイツでロシア南部チェチェン共和国の元戦闘員を殺害し、19年に終身刑を言い渡された露連邦保安庁(FSB)の工作員、ワジム・クラシコフ元大佐が含まれる。

米政府高官によると、ロシアはクラシコフ元大佐の釈放を執拗(しつよう)に求めていた。バイデン米大統領はショルツ独首相と電話などで意見交換を重ね、ショルツ氏は最終的に「あなた(バイデン氏)のためにこれをする」として、釈放を承諾したという。

また、バイデン氏は7月21日、大統領選からの撤退を発表する1時間前にも収監者がいるスロベニア側に電話し、最終調整に当たったという。

米国人記者のゲルシコビッチ氏は23年3月、露中部エカテリンブルクで取材中にFSBに拘束された。その後、防衛企業に関する機密情報を米中央情報局(CIA)の指示で収集したとして起訴され、7月に懲役16年の判決を受けていた。

ゲルシコビッチ氏らを乗せた飛行機は1日夜、ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着し、バイデン氏とハリス副大統領が出迎えた。

バイデン氏はこれに先立ち、ホワイトハウスで演説。とりわけドイツの譲歩が重要だったとし、「同盟国なしでは実現できなかった。信頼できる友人と協力することの重要性を示す例だ」と強調した。多国間の協調に否定的なトランプ前大統領を念頭にした発言とみられる。【8月2日 毎日】
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アメリカ側が引き渡した8人のうち3人はアメリカで拘束されていた人物ですが、ドイツ、ポーランド、ノルウェーの各1人、スロベニアの2人も含まれています。
ロシア側が引き渡した16人のうち15人がロシア、1人がベラルーシで拘束されていました。
上記7か国が関係する大型の身柄交換となっています。

【プーチン大統領が固執した暗殺者引き渡し】
ロシア側が拘ったのが上記記事にもあるようにドイツでロシア南部チェチェン共和国の元戦闘員を殺害し、19年に終身刑を言い渡された露連邦保安庁(FSB)の工作員、ワジム・クラシコフ元大佐でした。

****プーチン氏が身柄交換で要求した「闇の人物」****
ドイツで有罪判決を受けた殺人犯の釈放でプーチン氏が発する二重のメッセージ

当地にある公園でロシア政府と敵対する人物を殺害した罪で有罪判決を受けた同国の殺し屋で元情報部員のワジム・クラシコフ氏は、終身刑に服していたドイツの刑務所で看守にこう言った。「私が刑務所で朽ち果てるようなことをロシア連邦は許さないだろう」

同氏が自慢げに語った予想は8月1日に現実のものとなった。冷戦後で最大規模となる身柄交換の一環で、クラシコフ氏はドイツ当局によって釈放され、ロシア側に引き渡された。(中略)

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は自ら、クラシコフ氏の帰国を求めていた。プーチン氏にとって、この暗殺者の釈放は二重のメッセージを伝えるものとなる。

一つは、ロシア政府はたとえ敵対者が西側に逃げ込んだとしても、その人物を見つけ出して捕まえるというメッセージ。もう一つは、プーチン政権に忠実であり続ける者は見捨てないというメッセージだ。

プーチン大統領は2月、FOXニュースの番組司会者(当時)タッカー・カールソン氏とのインタビューで、クラシコフ氏を含めた身柄交換への関心を明確に示した。クラシコフ氏の名前は出さなかったものの、西側のある国の首都における殺人の罪で収監されているロシアの愛国者だと説明した。

プーチン氏は「その人物は愛国心から悪党を排除した。彼がそれを自分の意思で行ったかどうかは別の問題だ」と述べていた。

クラシコフ氏は2019年8月のある日の白昼、ドイツの首都ベルリン中心部にある公園で、ロシアの反体制派指導者ゼリムカン・カンゴシュビリ氏を射殺した。現場は連邦首相府や国会議事堂のすぐ近くだった。ロシアは、カンゴシュビリ氏がロシア治安部隊を標的にするイスラム過激派だったとしている。【8月2日 WSJ】
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【バイデン政権は「外交の成果」アピール ハリス副大統領のポイントにも】
一方、アメリカ側・バイデン政権にとっては米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの米国人記者エバン・ゲルシコビッチ氏の解放が「目玉」となります。

“ロシアはゲルシコビッチ記者を偽りのスパイ容疑で1年余りにわたり勾留していた。記者はロシアでのわずか3日間の非公開裁判で懲役16年の判決を受け、辺境の地にある厳重警備の刑務所への収監を言い渡されていた。”【8月2日 WSJ】

また、2020年にスパイ罪で禁錮16年の判決を言い渡された元米海兵隊員ポール・ウィラン氏も、トランプ政権期に逮捕され、トランプ政権では解放が実現できず、バイデン政権によって解放されたということで、政治的にはバイデン政権の大きなポイントとなりえます。

そうした大統領選挙に向けた政治的アピールを強調すべく、空港ではバイデン大統領とハリス副大統領二人が揃って解放者を出迎えました。

なお、ロシアではプーチン大統領が出迎えており、米ロそれぞれが政治的に最大限活用しようという思惑が窺えます。

****米露など身柄交換、米大統領選でハリス氏に追い風 多国間連携で成果、トランプ氏は焦り****
バイデン米政権が1日、ロシアとの身柄交換で米国人記者らの帰国を実現させたことは、11月の米大統領選を前に大きな外交的成果となった。

多国間連携を重視する姿勢が奏功し、民主党の候補者指名を受けるハリス副大統領(59)への援護射撃にもなる。当選すれば米国人拘束者の解放を実現するなどと対露交渉に自信をみせていた共和党のトランプ前大統領(78)には誤算となった。

1日深夜、バイデン大統領(81)とハリス氏は、帰国した米紙ウォールストリート・ジャーナルのゲルシコビッチ記者らをワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地で出迎えた。

これに先立ちバイデン氏は、拘束者の家族とともに記者会見し「彼らの残酷な体験は終わった。もう自由だ」と祝福。7カ国が関与した今回の身柄交換は「外交の妙技」によるものだと誇った。サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は会見で、家族の心労を思って言葉に詰まる場面も。米メディアはこうした動きを克明に追いかけた。

取材活動中に露当局に拘束されたゲルシコビッチ氏らの解放問題はバイデン政権にとり、自国民保護だけでなく、米国が重んじる「報道の自由」などの価値からも重大な懸案だった。ウクライナ軍事支援と並行しての対露交渉は難航し、米国内の不満は高まった。

その中で多国間の身柄交換を実現させたことは、しばしば「弱腰」と批判されるバイデン政権の再評価につながる可能性がある。

外交誌フォーリン・ポリシー(電子版)によると、ハリス氏も今年2月のショルツ独首相との会談で、互いの側近1人を除くスタッフを退席させ、機微に触れる身柄交換の協議に当たったという。外交経験の不足が指摘されるハリス氏には重要な成功体験といえる。

一方、バイデン政権が対露交渉で成果を挙げたことはトランプ氏に痛手となる。今回の帰国者のうち、元海兵隊のウィラン氏はトランプ政権期の18年に露国内で逮捕され、拘束期間は約6年にわたった。トランプ氏は自身では実現できなかった業績を、批判してきたバイデン政権に実現された格好だ。

トランプ氏は1日、身柄交換を受けて交流サイト(SNS)に投稿した最初のコメントで、バイデン政権の交渉チームは「恥さらしだ!」と罵倒。解放された人々やその家族への祝意や共感を示す文言はなく、焦燥を色濃くにじませた。【8月2日 産経】
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****冷戦終結後“最大”の身柄交換 バイデン大統領らロシアから釈放の3人を出迎え****
ロシアとアメリカの間で冷戦終結後、最大とされる身柄交換で釈放されたアメリカ人3人が帰国し、バイデン大統領とハリス副大統領が出迎えました。(中略)

バイデン大統領とハリス副大統領が出迎え、抱擁をかわして帰国を喜びました。ハリス氏は、「バイデン大統領が外交にたけているという重要な証拠だ」とした上で「同盟国の重要性を理解しているからこそ実現できた」と述べました。

アメリカメディアは、ハリス氏がトランプ氏と対決する大統領選が迫るなか、バイデン政権としての外交的な成果をアピールする機会となったと伝えています。

一方、ロシア人の受刑者8人も釈放され、プーチン大統領自ら空港で帰国を出迎えました。プーチン氏は、一人一人と抱擁をかわし、「祖国は一瞬たりとも、皆さんのことを忘れてはいない」などと声をかけ、国として表彰すると述べたということです。【8月2日 日テレNEWS】
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アメリカ バイデン大統領
「力を合わせれば不可能なことは何もない、我々はアメリカ合衆国なのだから」

また、ハリス副大統領は今回の身柄交換について「外交の力を理解する大統領を持つことが、いかに重要かを示すものだ」と強調しました。【8月2日 TBS NEWS DIG】
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【殺人犯が解放され、ロシアの不当拘束を助長しかねない懸念も】
不当な拘束から解放されたことは喜ばしいことですが、殺人犯が政治犯との交換で解放されたこと、ロシア政府の不当拘束を助長しかねないことなど、やや「後味が悪い」面もあります。

*****不当拘束助長を懸念 身柄交換「後味悪い」―人権団体****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは1日、米ロなどによる拘束者の大規模な身柄交換について声明を発表し、ロシア政府の不当拘束を助長しかねないと懸念を示した。殺人の加害者と政治犯を交換したことは「後味が悪い」と訴えた。

声明は、人権活動家らの解放を歓迎する一方、「プーチン(ロシア)大統領は、政治犯を明らかに交渉に利用している。さらなる政治的な逮捕や人権侵害につながる恐れがある」と警告した。

今回の身柄交換では、ベルリンで起きた殺人事件で有罪判決を受け終身刑に服していたロシア人工作員が釈放された。これに関し、ドイツ政府のヘーベシュトライト報道官は1日、「決定は容易ではなかった」と説明した。独紙によると、検察関係者の間で「失望感」が広がっているという。【8月2日 時事】
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サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、今回の身柄交換で金銭のやり取りはなかったと述べた。また、合意にこぎ着けるために制裁措置を緩和することもなかったとした。

トランプ氏は詳細を把握していないとした上で「殺人者や凶悪犯」が解放されたのかと問い、「米国は特に拘束者交換で決して良い取引をしない」などと投稿した。【8月2日 ロイター】
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