孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  イスラム過激派と極右勢力に脅かされる“多様な民族から成る民主主義”

2024-08-04 22:16:14 | 欧州情勢

(不法移民に抗議する集団の一人が発煙筒を掲げた(3日、英リヴァプール)【8月4日 BBC】)

【“偽情報”に触発された極右勢力によ移民排斥暴動】
イギリスでは“偽情報”に触発された極右勢力によ移民排斥暴動が拡大しています。

****「移民を追い出せ」イギリスで極右が扇動する“移民排斥デモ”拡大 きっかけは“偽情報”の拡散****
イギリス各地で過激な「移民排斥デモ」が広がっています。きっかけは、ある事件をめぐりインターネット上で拡散された“偽情報”でした。

記者「今、黄色いジャケットを着た警察官を境に奥がヘイトデモの集団、大きな声をあげています。そしてこちら手前側がそれに抵抗するカウンターデモの集団ですが、まさに一触即発の状態が続いています」

3日、イギリス中部リバプールで、極右集団が主導する移民へのヘイトデモと、それに反対するデモの参加者数千人がにらみ合う事態になりました。

発端となったのは、先月、リバプール近郊の町で17歳の少年がダンス教室に押し入って参加者を次々と刺し、子ども3人が亡くなった事件です。

少年は、アフリカのルワンダ出身の両親のもとイギリスで生まれ育ったということですが、インターネット上では事件直後から、「イスラム教徒」であり「小型ボートで入国した移民だ」とする“偽情報”が拡散されたのです。

その後、“偽情報”を利用した極右集団が移民やイスラム教徒へのヘイトデモを煽り、各地で暴動に発展。建物や車などが放火される事態に…。

ロンドンでは100人以上が逮捕されたほか、リバプールでも警察官2人が骨を折るなどしました。

ヘイトデモ参加者
「子どもが刺されたり、車で轢き殺されたり、そんなのはもうたくさんだ。彼らを追い出せ」

ヘイトデモに反対する人
「罪のない移民に対し、『この国に来るな』と罵り、殺された子どもを利用し暴動を引き起こすような人種差別主義者に抵抗するため、ここに来ました」

現地メディアは、この週末に30以上のヘイトデモが計画されていると報じています。【8月4日 TBS NEWS DIG】
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****英各地で極右の暴動続く 警察「粗暴なチンピラ」と批判、ネオナチらの関与確認****
英中部リバプール近郊での児童刺殺事件をめぐるデマ情報を発端とする極右勢力による暴力的なデモが3日、リバプールや中部マンチェスターなど英国各地で実施された。

リバプールでは暴徒らによる投石で警官2人が顔を負傷して病院に運ばれた。警察はデモ参加者11人を逮捕。北部ランカシャー州では保養地ブラックプールを中心に20人が逮捕された。

英警察当局は3日の声明で、極右勢力の行動は「事件で死傷した少女への思いやりや敬意を欠く。彼らは粗暴なチンピラだ」と厳しく批判した。

その上で「連中は向こう数日間、同様の行動を繰り返すのは確実だ」と指摘し、英全土に警官隊を増派して暴力行為を徹底的に取り締まると表明した。

スターマー首相は3日、緊急閣議を開いて対応を協議した。クーパー内相は記者団に「英国の街頭に犯罪的な暴力と無秩序が存在する余地はない」と述べ、暴徒らは「代償を支払うことになる」と警告した。

警察などによると、一部都市でのデモで極右団体「英国防衛連盟」やネオナチ組織の関与が確認された。デモ参加者は右翼思想の同調者や、フーリガンなどの反社会的集団が大半を占めるとみられている。

デモ参加者には右派政党「リフォームUK」を率いる大衆迎合政治家のファラージ下院議員の支持者も含まれているとされ、ファラージ氏が殺人事件に関し「不法移民の犯行だった」などとする偽情報を追認したことでデモ激化に拍車をかけたとの批判も出ている。【8月4日 産経】
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上記記事でも指摘されているように、事態を悪化させたとされるのが、ブレグジットを扇動したことでも有名な右派ポピュリストのファラージ氏。(先の総選挙では同氏が率いるリフォームUKは5議席を獲得しています)

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(中略)
リフォームUK ファラージ党首 「真実が隠されているのではないかと疑っています」

厳格な移民政策を掲げる右派政党の党首は、警察の発表を疑問視する発言をSNSに投稿。事件の翌日には、極右団体が主導したとされる移民に対するヘイトデモが起き、イスラム教の寺院であるモスクの一部や警察車両などが破壊されました。【8月2日 TBS NEWS DIG】
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“偽情報”の問題は、“偽情報”を作るツールが一般化し、情報を拡散させる媒体も普及したことで、各国が悩む今日的な世界共通問題ですが、アメリカ大統領選挙でも。

****イーロン・マスク氏がXでハリス副大統領の偽動画を拡散 批判の声にも「アメリカでパロディーは合法だ」と主張****
アメリカの実業家のイーロン・マスク氏は自らが所有するXで、民主党の事実上の大統領候補となったハリス副大統領の偽動画を拡散させ、Xの規約違反ではないかと批判の声が上がっています。

動画はハリス氏陣営が公開した選挙動画を保守系のユーチューバーが加工したものとみられていて、ハリス副大統領に似た声で「私は女性で、有色人種だ。私の発言を批判する人は性差別主義者、人種差別主義者だ」とするナレーションが入っています。

マスク氏は26日、「これは素晴らしい」とだけコメントをつけて動画を拡散し、この投稿は1億3000万回以上表示されています。

Xの規約には「人々を欺いたり、混乱させたりする可能性のある合成、または加工されたメディアを共有してはならない」などと記載されていて、アメリカメディアからはマスク氏の投稿が規約違反にあたるとする指摘が相次いでいます。

マスク氏は「アメリカでパロディーは合法だ」と主張していて、動画は投稿されたままとなっています。【7月30日 TBS NEWS DIG】
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SNS所有者が“偽情報”を拡散させる・・・旧ツイッターの投稿内容に対する管理が厳しすぎる現状を変えたいということでツイッターを買収したイーロン・マスク氏。““言論の自由”を守ると説明していますが、何を発信しても構わないと捉える人が増えてしまうのではないかという懸念の声も。実際、所有者本人が・・・困った人です。

「メディア王」マードック氏のように、所有するメディアを自分の政治信条主張のために使うというのはイーロン・マスク氏だけの話ではありませんが、“偽情報”拡散は明らかに反則です。

【移民とイスラム過激派によるテロ事件】
この“偽情報”の問題はまた別機会に扱うとして、イギリスではブレグジットの最大理由が流入する不法移民を少なくするという主張であったように、以前から移民、特にイスラム教徒に対しては厳しい目があります。
実際に、イスラム過激派のテロも起きています。

ですから、今回の移民排斥暴動も単に“偽情報”によって・・・ということだけでなく、そういう事態が起きる下地があったと言えます。

****イギリスが目を背ける移民とイスラム過激派の「不都合な真実」****
<人種差別と言われかねないから誰も口にしないが、イギリスは明らかに移民の問題を抱えている>

僕の地元の英イングランド東部エセックス州で10月15日、デービッド・エイメス下院議員が刺殺された事件は、イギリス全土に衝撃と悲しみをもたらした。だがその後、殺人とテロの容疑で逮捕された男がソマリア系英国人だと分かったことには、さほど驚きの声は上がらなかった。

イギリスには、誰の目にも明らかなパターンがある。戦争で荒廃した国やイスラム諸国から来た移民が、その人口比に見合わずあまりに多くのテロ攻撃に関与しているということだ。

(中略)2017年のマンチェスター・アリーナ爆破事件(10人の子供を含む22人の罪なき人々が犠牲になった)。2020年に起こった英南部レディングの公園での刺殺事件(3人が死亡)。2017年のロンドンの地下鉄爆破事件では、爆破装置が全てきちんと作動していたら数十人が死亡する可能性があった(不十分だったため「たった30人の負傷者」が出ただけだった)。

2017年にロンドン橋で起こった車の暴走と刺殺事件(8人が死亡、48人が負傷)、2019年に同じくロンドン橋近くで起こったナイフでの襲撃事件(2人が死亡、3人が負傷)。2017年の英国会議事堂前での車の暴走事件では警察官1人を含む5人が死亡。2013年にはロンドンで若き英軍兵士が頭部を切断される事件が起きた。そして、「イギリスの9.11」とも言われ、52人が死亡、数百人が負傷した2005年7月7日のロンドン同時爆破テロ。

これらのほかにも、おそらくイギリス国外では報道されていない「地味な」襲撃事件がいくつもある。たとえばロンドン南部のストレタムでの刃物襲撃事件は、負傷者が出たものの幸い死者は(射殺された襲撃犯以外は)いなかった。

推定900人に上る英国人が外国に渡って過激派組織「イスラム国」(IS)に参加したとみられており(中には英国なまりのため「ビートルズ」のあだ名で呼ばれていた者も)、その中には英当局に気付かれることなく既にイギリスに帰国している者もいる。

イギリスには明らかに問題があり、僕たちには対処法が分からない。エイメス議員の殺害後に公の場で交わされた議論は、いかにして「政治家の安全を強化するか」や、国全体で「政治的議論をトーンダウンさせるか」などだった。まるでブレグジットをめぐる種々の分断までがイスラム過激派テロの原因になったかのような論調だ。

僕たちは問題の核心を直視したくないがために、集団的否定の状態に陥っている。核心とは、イギリスの市民や政治家を攻撃しようとする、少数だが確実にいる過激主義者たちがこの国に流入して、この国で育まれているという現実だ。イギリスが移民の問題を抱えていると公然と示唆すること、さらにはある特定の移民を名指しすることは、人種差別と取られかねないからタブーとなっている。

テロをイスラム系移民(主にリビア、イラク、パキスタンやモロッコなど「特定の国」の出身者)と結びつけて単純化する心理は理解できる。だが現実はもっとずっと複雑で懸念すべきものだ。

テロリストの中にはイギリスにやって来たばかりの亡命希望者もいるが、英国市民としてこの国で生まれ育った移民2世もいる。イスラム過激主義に改宗した非イスラム諸国の出身者の場合もある(2001年の靴爆弾のテロリストみたいに、時には白人英国人の場合も)。

驚くほど多くが刑務所で受刑中に過激思想に染まっているが、大学で過激化した者もいる。仕事も将来の希望もない者もいれば、立派な仕事に就いている者もいる(2007年のテロ未遂事件の容疑者にはNHSの医師も含まれていた)。

イスラム過激派テロリストの経歴は1つのパターンに収まるものではなく、それが問題の解決をより複雑にしているのだ。

もちろん国は、「何もしていない」わけではない。テロ分子の監視にはかなりの資源をさいている。(中略)

事件の後にはいつも、なぜ状況を変えることができないのだろうという大局的な議論が起こる。でも、僕たちは社会として影響を受けている。テロ対策はカネがかかるし、それに資源を取られれば当然ながら組織犯罪対策や違法薬物取引対策など別の分野の資金が減ることになる。

国会議事堂やヒースロー空港などの一部の場所は、重武装の警官が配置された堅牢な要塞のようになっている。エイメス議員が地元有権者との懇談「サージェリー」の最中に襲撃されたことで、健全なる民主主義の柱とも言える議員と有権者との対面の機会を制限しなければならなくなるのではないか、との危機感も広がっている。

当然ながら、移民の大半は平和的で法を順守する人々だし、イスラム教は殺人をしてはならないと説いていると認識することは重要だ。

だが同時に、イギリスはイスラム過激派の問題を抱えており、移民は恩恵だけでなく問題も国に持ち込むこと、そして現在の対処法では命や生活への脅威を減らすことが精いっぱいで、今後もさらなる攻撃が起こるだろう、という明白な事実から、目を背けないこともまた重要だ。【2021年10月30日 Newsweek】
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【パレスチナ・ガザ紛争で高まる社会的緊張】
パレスチナ・ガザでの紛争、英政権のイスラエル支持姿勢に対し、イスラム教徒や共感する人々による抗議行動も起きています。

保守党・スナク前首相は、多様な民族から成る英国の民主主義がイスラム教や極右の過激派による計画的な攻撃にさらされているとして、抗議行動に対してより厳しい態度で臨むよう警察当局に求めていました。

****英国の多様な民族の民主主義が危機に、首相が厳格な対応要請*****
スナク英首相は1日、首相官邸前でスピーチし、多様な民族から成る英国の民主主義がイスラム教や極右の過激派による計画的な攻撃にさらされていると述べ、ヘイトスピーチや犯罪行為の増加を踏まえて、抗議行動に対してより厳しい態度で臨むよう警察当局に求めた。

スナク氏は「世界で最も成功を収めた多民族・多宗教の民主主義を構築したという偉大な成果が計画的な攻撃を受けていることに強い懸念を抱いている」と発言。深刻な混乱と犯罪行為が衝撃的な増加を見せていると危機感を示した。

国民には、抗議を行い、ガザ市民の生活を守るよう求める権利があるが、それを口実に、過激組織であるハマスへの支持を正当化することはできないと強調。警察に対して、こうした抗議行動については単に活動を抑制するのではなく、取り締まりを行うよう要請した。

英国ではイスラム過激派ハマスと戦闘状態にあるイスラエルへの支持を表明した一部の議員が脅迫を受けたことから、議員に対して今週、セキュリティー対策用に新たな資金が支給された。【3月4日 ロイター】
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【労働党の中道への路線変更で支持政党を失うイスラム教徒】
スナク前首相は不法移民抑制対策としてルワンダ移送という強硬策を実施しようとしていましたが、労働党への政権交代によってこの計画は破棄されています。

****スターマー英首相、不法移民ルワンダ移送「廃止」 保守党は党首選へ****
英国のスターマー首相(労働党)は6日、不法入国する移民らをアフリカ中部ルワンダに移送するとした保守党政権時代の法律を「廃止する」と述べた。ロイター通信などが伝えた。

4日投開票の総選挙で労働党は、ルワンダ移送ではなく「海上警備の強化」で密航を取り締まるとしていた。

英国では近年、英仏海峡をボートで渡ってくる不法移民が増加。保守党は総選挙で勝利した場合、移送を実行する予定だったが、大敗した。スターマー氏は、「この移送案は(移民増加を止める)抑止力として機能していない」と廃止の理由を説明した。(後略)【7月7日 毎日】
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スターマー労働党政権が移民・イスラム教徒に寛容になったかと言えば、現実はむしろ逆。

労働党は左派コービン前党首時代はイスラム教徒の受け皿になっていましたが、そうした左派への偏りが中間層の支持を失う原因になっているとしてスターマー党首は軌道修正。パレスチナ問題でもイスラエルを支持しています。

スターマー労働党はそうした中道路線への回帰で党勢を回復して総選挙にも圧勝しましたが、それに伴って、イスラム教徒は受け皿がなくなるということにもなっています。

****イギリス総選挙、大きく動いたムスリムとユダヤ系の票 今後も続くのか****
過去2回のイギリス総選挙で、有権者の投票動向は実に大きく変化した。全体を見てもそうだが、特に国内の二つのグループについて深く掘り下げると、驚異的な変化が見て取れる。

特に大きく変化したのは、労働党とムスリム(イスラム教徒)有権者の関係だけでなく、労働党とユダヤ系有権者の関係だ。(中略)

2019年の前回総選挙と今回の総選挙を比べると、ムスリム系有権者の労働党の得票率は、複数の選挙区で明らかに低下した。(中略)

ガザ戦争への労働党の姿勢に対するイスラム教徒の怒りのため、イスラム教徒の有権者が多い複数の選挙区で労働党は苦戦した。影の閣僚だったジョナサン・アッシュワース議員の落選は、その中でも特に注目された「自分の周りでは労働党への怒りがあまりに強く、今では自分が労働党関係者だというのが恥ずかしくなるほどだ」と、ラーマン氏は言う。(中略)

労働党に投票するイスラム教徒が減ったのは、まぎれもなく労働党党首の責任だと、ラーマン氏は言う。
労働党党首のサー・キア・スターマーは昨年10月、英メディアLBCのインタビューで、ガザ地区内で電力や水の供給を止める「権利」がイスラエルにはあると発言し、地方議員を含む多くの党内関係者に批判された。党首の報道官は後日、スターマー氏イスラエルには全般的な自衛権があると言おうとしただけだと説明した。

続いて昨年11月、スコットランド国民党(SNP)がガザの即時停戦を求める動議を下院に提出すると、労働党の執行部は採決を棄権するよう所属議員に指示した。これを受けて、労働党の地方議員が数人辞任した。そして、多くのイスラム教徒にとって、自分の選挙区を代表する労働党下院議員への信頼はこれで失われてしまった。(中略)

イスラム教徒はイングランドとウェールズの人口の約6.5%を占めると推定される。同様にスコットランドでは約2%、北アイルランドでは約1%だ。

そのイスラム教徒の80%以上が、2019年には労働党に投票したと考えられている。それに対して、2024年の選挙直前の調査では、ムスリムの労働党への支持率は全国的に最大20ポイント低下した。それよりさらに低下したことがはっきりしている選挙区もある。(後略)【7月17日 BBC】
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政治的代弁者を失ったイスラム教徒の一部が政治への信頼を失い、過激化するという危険も懸念されます。
そして何か事件が起きれば、それに極右勢力が過敏に反応することも。
多様な民族から成る民主主義を維持するには冷静な判断と大きな努力を必要とします。
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