(パキスタンのテロ発生件数出所:パキスタン平和研究所 【2023年4月18日 JETRO】)
【ひと頃に比べたらテロ激減・・・とは言うものの、未だに頻発】
このブログを開始したのは2006年ですが、その頃パキスタンは「テロ地獄」と形容されていたように、テロの頻発国でした。その後政府・軍部とも国内イスラム過激派を一掃する取り組みが進み、治安は大幅に改善されたようです。
****初めてのパキスタン出張に向けた安全対策****
テロの脅威や窃盗・強盗に要注意
テロの脅威や窃盗・強盗に要注意
パキスタンの治安情勢を俯瞰(ふかん)する上で特筆すべきは、テロ発生件数(注)が近年大幅に減少している点だろう。
ピーク時の2009年には同国全土でテロ件数は3,816件に上り、死者・負傷者数は2万5,000人を超えた。2013年に始まった政府の過激派組織への掃討作戦が功を奏し、テロ発生件数はその後、減少を続け、2022年には262件にまで縮小したが、後述するTTPによる停戦合意破棄によりテロの脅威が高まっている点には注意が必要だ(冒頭グラフ)。
テロ発生件数はピーク時から9割減
2022年のテロ発生件数を州・地域別にみると、北西部のハイバル・パフトゥンハー(KP)州が169件と、65%を占めている。日本人ビジネスパーソンが渡航する可能性があるカラチ(6件)、パンジャブ州(3件)、首都イスラマバード(2件)は非常に少ない。(中略)
TTPが政府との停戦合意を破棄、テロが増加
パキスタン北西部を拠点とする過激派組織パキスタン・タリバン運動(TTP)は2022年11月、政府との停戦合意を破棄し、テロ攻撃の開始を宣言した。その結果、国内のテロ件数は上昇に転じている。
12月には治安が厳しく維持されているイスラマバードで自爆テロがあった。2023年2月にはカラチ中心部で警察署を襲う事件が発生した。
TTPによる攻撃はアフガニスタンと国境を接する北西部KP州に集中しているとはいえ、カラチ中心部でテロが発生したことで、日本人駐在員コミュニティーもテロリスクへの認識を新たにしている。TTPは法執行機関(軍や警察)を標的にすることを宣言しているため、警察署などへは近づかないことが重要だ。(後略)【2023年4月18日
JETRO】
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かつてに比べると激減したとは言え、未だにテロが頻発しています。そもそも、ピーク時の年間3,816件というのが異常。1日10件以上。 10分の1以下に減っても連日に近い状況です。
【南西部バルチスタン州で分離独立運動を行うバルチスタン解放軍(BLA) 3か所で攻撃、死者39人】
その主体は上記記事にある北西部KP州を中心に活動するイスラム過激派組織パキスタン・タリバン運動(TTP)、そしてもうひとつが南西部バルチスタン州で分離独立運動を行うバルチスタン解放軍(BLA)です。
****武装集団がバスなどから乗客降ろし銃撃 少なくとも23人殺害…パキスタン当局****
パキスタン南西部で、武装集団がバスやトラックなどから乗客を降ろして銃撃し、現地当局は26日、少なくとも23人が殺害されたと発表しました。地元メディアなどによりますと、銃撃があったのはパキスタン南西部バルチスタン州の高速道路です。
現地当局は26日、武装集団がバスやトラックなどから乗客を降ろして身分証を確認したあと銃撃し、少なくとも23人が殺害されたと発表しました。 犠牲者のほとんどが、中部パンジャブ州の出身とみられています。
武装集団は車両10台に火をつけたうえで、現場から逃走しました。
この襲撃は、パキスタンからの分離独立を目指す武装勢力「バルチスタン解放軍」が、高速道路に近づかないよう警告してから数時間後に起きたということですが、これまでのところ犯行声明は出されていません。
バルチスタン州ではこれまでにも、分離独立を目指す武装勢力がパンジャブ州出身者を排除しようと襲撃する事件が度々起きています。【8月26日 日テレNEWS】
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上記事件に合わせて、バルチスタン州の別の場所では警察が襲われています。
****パキスタンの銃撃戦で死者計33人に****
パキスタンメディアによると、南西部バルチスタン州で25日夜に武装集団が絡む銃撃戦があり、治安部隊と市民ら10人が死亡した。バス乗客らの殺害と合わせて死者は計33人となった。【8月26日 共同】
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更に、同州中部ボランでは鉄道橋が爆破され、6人の遺体が見つかった報じられていますので、死者合計は39人に。
【BLA 中国人を標的とするほか、国境を接するイランとの紛争原因にも】
バルチスタン解放軍(BLA)はパキスタン軍を支配するパンジャブ人の他、バルチスタン州で「一帯一路」事業を展開する中国人をしばしば標的にした攻撃を行っています。
****中国人を何度も襲撃している「バルチスタン解放軍」とはどんな組織か―独メディア****
2023年9月3日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、パキスタンでしばしば中国人を襲撃している「バルチスタン解放軍」について紹介する記事を掲載した。
記事は、パキスタン・バルチスタン州にあるグワダル港で8月13日、23人の技術者を乗せた中国企業の車列が襲撃されたと紹介。中国人の死傷者は出なかったが、中国はパキンスタに対し、襲撃事件の徹底究明と犯人への厳罰、現実的かつ効果的な対策を講じることによる再発防止を要求したと伝えた。
その上で、襲撃事件を起こしたとみられるバルチスタン解放軍(BLA)について、2004年に設立され、パキスタンの治安部隊やバルチスタン地域に住むバロチ人以外の人々、特にパキスタン軍を支配するパンジャブ人を攻撃していると説明。
10年には組織内に自爆テロ部隊「マジード殉教者旅団」が結成され、11年12月にバルチスタン州都クエッタで、パキスタンのシャフィク・メンガル元内務相を標的とした自動車自爆攻撃を仕掛けたとした。
また、18年8月にはダルバンディンで中国人技術者を乗せたバスに自爆攻撃を行い、19年5月には中国企業が建設したグワダル港のホテルを、20年6月にはパキスタン証券取引所をそれぞれ襲撃したほか、昨年4月には現地の孔子学院職員が乗ったバスを襲撃して中国人3人とパキスタン人運転手1人が死亡したと伝えた。
記事は、一部のアナリストからはBLAが米国とインドの「反中国家」の支援を受けているとの見方が出ているほか、バルチスタン州の政治家からは「中国の投資は地元住民に利益をもたらしていない。中国は何十億ドルもの投資を自慢しているが、グワダルはいまだに深刻な水不足に悩まされている。バルチスタンはパキスタンで最も子どもの死亡率が高く、インフラはボロボロで、保健と教育が優先されていない」といった声が出ていると指摘。
ブット元首相の顧問を務めたグワダルの政治家アブドゥル・ラヒム・ザファル氏が「中国の投資はかえって住民の苦しみを悪化させている。中国人の安全を確保するために、当局は地元住民の移動の自由を制限している」と語ったことを紹介した。
一方で、BLAによる襲撃や脅威、そして現地住民の不満があるからといって、中国がパキスタンでのプロジェクトを停止することはないと多くの人が考えていると紹介。
ある安全保障専門家が「中国人はこうした攻撃に対して心の準備をしている。彼らはリスクの存在を知っている。損失を被ったとしても、中国・パキスタン経済回廊でのプロジェクトを諦めることはないだろう」との見解を示したと伝えた。【2023年9月5日 レコードチャイナ】
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バルチスタン解放軍は中国が地元の資源を搾取し続けており、それを停止しない限り攻撃を続けると警告しています。
BLA以外にも中国人を標的にしたテロを行う組織があります。
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(BLA以外の)他の地元武装勢力も中国権益を狙ったテロを繰り返している。
2021年7月、北西部のカイバル・パクトゥンクワ州で中国人技術者ら30人以上が乗るバスに爆発物を積んだ車両が突っ込み、少なくとも中国人9人を含む13人が死亡した。事件後、パキスタン政府はイスラム過激派「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の戦闘員が爆発物を積んだ車両でバスに突っ込んだと発表した。
また、同年4月には、バルチスタン州の州都クエッタにあるセレナホテルで爆発物を用いたテロ事件があり、4人が死亡、11人が負傷したが、事件後にTTPが犯行声明を出した。当時このホテルには在パキスタン中国大使が宿泊していたとみられるが、事件当時大使はセレナホテルに滞在しておらず無事だった。
水力発電ダム建設現場で働く中国人技師5人が狙われた 2024年3月最近でも今年3月、パキスタン北部の山岳地帯で中国人技術者らが乗る12台の車列が襲撃を受け、中国人5人を含む6人が死亡し、4月にも中国企業が建設や運営を担うグワダル港を武装集団が襲撃する事件が起こっている。【4月22日 FNNプライムオンライン】
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今年4月にはカラチで日本人5人が乗った車が攻撃を受けましたが、中国人と間違われたのでは・・・との見方もあります。
****パキスタンで日本人5人が乗った車両に自爆テロか、警察が襲撃犯射殺…ロイター****
在カラチ日本総領事館によると、パキスタン南部カラチで19日午前7時(日本時間午前11時)頃、日本人男性5人が乗った車両が襲撃された。1人がガラスの破片で足に軽傷を負い、病院で手当てを受けた。残りは無事だという。
5人はカラチに拠点を置く日系企業の駐在員で、車列を組んで通勤途中だった。近付いてきた武装勢力の戦闘員が持っていた爆弾が爆発した後、銃撃戦になった。警備員など数人が負傷した模様だ。
ロイター通信によると、地元警察は自爆テロとの見方を示し、襲撃犯を射殺した。犯行声明はまだ出ていない。
パキスタンでは3月、北西部カイバル・パクトゥンクア州で爆発物を積んだ車が中国人らの乗る別の車に突っ込み、中国人技師5人を含む計6人が死亡した。【4月19日 読売】
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中国人を標的にすることが多いBLAは、中国との関係で問題となりますが、バルチスタン州はイランとも接しており、イラン・パキスタン関係にも影響しています。
****パキスタンがイラン内の武装組織拠点を攻撃、9人死亡…越境攻撃への報復か****
パキスタン外務省と軍は18日、イラン南東部のシスタン・バルチスタン州にある武装組織の拠点を無人機やロケット弾で攻撃したと発表した。イラン国営テレビによると、攻撃で女性と子供を含む9人が死亡した。イランによる16日の越境攻撃への報復とみられる。
パキスタン軍によると、18日未明にパキスタンからの分離独立を狙う武装組織「バルチスタン解放軍」などの拠点を攻撃した。パキスタン外務省は攻撃で「テロリスト数人」を殺害したと発表した。イラン国営テレビは、州副知事の話として、パキスタン国境近くの村で数回の爆発音が聞こえたと報じた。
イラン外務省は18日、パキスタンの駐イラン臨時代理大使を呼び、強く抗議した。
パキスタンとイランは長年、国境地帯で武装集団をかくまっていると互いに非難している。
イランは16日、国内でテロを繰り返す反政府組織の拠点があるとして、パキスタン南西部バルチスタン州をミサイルと無人機で攻撃した。パキスタン側は子供を含む5人が死傷したと発表した。
17日に両国外相が電話で会談した際、パキスタン側は「挑発的行為へ応酬する権利を留保している」と述べ、報復の可能性を示唆していた。相次ぐ越境攻撃により、地域情勢の緊迫化が懸念されている。【1月18日 読売】
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【2月に行われた総選挙もテロ標的に】
パキスタン国内的には、2月に行われた総選挙もテロの標的とされました。
****パキスタンで総選挙前日に爆発、少なくとも28人死亡*****
パキスタン南西部バルチスタン州で(2月)7日、2件の爆発があり、少なくとも28人が死亡し、多数が負傷した。当局が発表した。同国は8日に総選挙を控えている。
最初の爆発があったのは、バルチスタン州ケッタ市の北部ピシン地区で、16人が殺された。
続いてキラ・サイフラー地区でも爆発があり、12人が死亡した。
いずれも、武装組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出した。どちらの爆発でも、オートバイに爆発物を仕掛けたと主張している。 パキスタンでは総選挙に関連し、暴力事件や不正の報告が相次いでいる。(中略)
パキスタン最大のバロチスタン州は資源が豊富な一方、同国で最も貧しいとされる。暴力事件が絶えず、数十年にわたってさまざまな組織が自治権拡大を求めて闘争を続けている。中には武装したグループもある。アフガニスタンとの国境では、「パキスタンのタリバン運動」(TTP)を含むイスラム主義の武装組織が活動している。(中略)
バルチスタン州にたまる不満
8日の総選挙を前に、バルチスタン州とカイバル・パクトゥンクワ州では暴力事件が相次いでおり、今回の事件も予想外の出来事ではなかった。
バルチスタン州で活動する武装組織「バルチスタン解放軍」(BLA)は1月中頃、選挙訓練事務所の爆発事件について犯行声明を発表。人々に選挙をボイコットするよう呼びかけていた。その直後、政党事務所への手りゅう弾攻撃が、州内の各都市で報告された。
バルチスタン州の有権者の多くは、同州の議席数の少なさから、国内の政党から見放されていると感じている。バルチスタンとのつながりがほとんどない候補者を押し付けられていると感じることも多いという。
また、投票が不公平という指摘もある。BBCウルドゥ語は先月、ターバトの街で多くの人から、「これは選別だ」という声を聞いた。
バルチスタン州政府は、8日の投票は予定通り行うと発表している。【2月8日 BBC】
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北西部のハイバル・パフトゥンハー(KP)州ではパキスタン・タリバン運動(TTP)が、南西部バルチスタン州ではバルチスタン解放軍(BLA)が活動している、首都イスラマバードや最大都市カラチでも・・・となると、要するにパキスタン全土でいつどこでテロが起きてもおかしくないということです。以前に比べると随分少なくはなりましたが。