孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  6日、1000人規模でロシアに越境攻撃 その意図は?

2024-08-09 22:47:03 | 欧州情勢

(ウクライナ軍が攻撃を行ったクルスク州スジャで撮影されたロシアメディアの映像【8月9日 NHK】)

【ウクライナ軍 6日から、1000人規模でロシア西部クルスク州へ越境攻撃 ロシア産天然ガスの欧州への積み替え地点スジャを制圧か】
ロシア軍の侵攻を受けてウクライナ領内での戦闘が続くウクライナですが、そのウクライナがここ数日、逆にロシア領内への越境攻撃を実施しています。

ロシア軍によれば、ウクライナ側は6日朝、ロシア西部クルスク州に兵士約1000人と装甲車および戦車20台以上の陣容で進入したとのことで、作戦は今も継続中です。

****ウクライナ 最大規模の越境攻撃 国境から10キロまで前進 ガス輸送施設など制圧か****
ロシアによるウクライナ侵攻以降、最大規模とみられるウクライナ側によるロシア西部への越境攻撃が続いています。国境から10キロの地点まで前進したとの見方も出ていて、プーチン政権も事態を重く受け止めているとみられます。

ロシア側はウクライナと国境を接する西部クルスク州に、ウクライナ軍が6日から、1000人規模で越境攻撃を開始し、これに対する掃討作戦が8日も続いているとしています。

今回の攻撃について、アメリカのシンクタンク戦争研究所は7日、ウクライナ軍が国境から10キロの地点まで前進したことが確認されたと指摘。11の集落を制圧したとの見方を示しました。

また、ロシアの軍事ブロガーは、ヨーロッパに天然ガスを送るパイプラインの施設があるクルスク州のスジャをウクライナ側がほぼ制圧したと伝えています。

今回の攻撃を受け、プーチン大統領は政権幹部らと対応について協議を重ねていて、8日にはクルスク州のスミルノフ知事代行から現地の状況について報告を受けました。

一方、ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は8日、「侵略者には相応の結果が伴う」とSNSに投稿しましたが、ウクライナ軍が攻撃に関与しているかどうかについては言及しませんでした。【8月9日 TBS NEWS DIG】
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スジャはモスクワの南西530キロメートルの地点にあり、ウクライナ経由で欧州に輸出されるロシア産天然ガスの積み替え地点。スジャの北東60キロの地点にはクルスク原子力発電所があります。

クルスク原子力発電所付近でもドローン攻撃や銃撃などが行われているとみられています。【8月9日 テレ朝newsより】

ウクライナ経由で欧州に輸出されるロシア産天然ガス需要自体が減少していますので、ウクライナによるスジャのガス施設制圧の欧州への影響は、下記のように若干の価格上昇にはつながっているものの、さほど大きくない模様です。

****ウクライナ攻撃でガス相場上昇 ロシア施設制圧情報、供給懸念****
ロシア西部クルスク州に越境攻撃したウクライナ軍が、ロシアからウクライナ経由で欧州に天然ガスを輸出する同州スジャのガス関連施設を制圧したとの情報を受け、供給懸念からガスの相場が上昇した。

ただウクライナ経由のガス供給量は欧州全体の需要の数%にとどまり、影響は限定的との見方が専門家の間では強い。

ロシア通信によると、欧州の代表的な天然ガスの先物価格は8日、千立方メートル当たり450ドルを上回り、昨年12月以降の最高値となった。

ロシアのエネルギー専門家アレクサンドル・ソプコ氏によると、ロシアからウクライナ経由で欧州に供給されるガスは欧州の需要全体の約4.5%。【8月9日 共同】
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ロシアとウクライナが激しく戦争している間も、ロシア産の石油・天然ガスがウクライナ経由で送られているというのもやや奇妙な話ですが、ロシア産エネルギーに今も頼る国もあるので、そうそう勝手に止める訳にいかないのでしょう。

そのロシア産の石油・天然ガスに頼る国が、NATO・EUにありながらウクライナに批判的でロシアに同調するオルバン首相のハンガリー。

さすがにウクライナもいつまでもロシア産石油・ガスの国内通過を見過ごすことはできない・・・ということで、問題にもなっています。

****EU、ハンガリーに「脱ロシア」圧力…露産原油輸入「代替調達先の確保を」****
ロシアからの原油輸入をウクライナが妨げているとして、親露国ハンガリーが欧州連合(EU)に仲裁を求めた。EUは取り合わず、ハンガリーに代替調達先の確保を求めた。原油禁輸の例外扱いを2年以上続けてきたハンガリーに「脱ロシア依存」を迫ったものだ。

ロイター通信によるとウクライナが6月下旬に露石油大手ルクオイルに制裁を科したため、ウクライナのパイプラインを経由した原油の供給が停止したとハンガリーは訴えている。

EUは2022年5月、ウクライナを侵略したロシアからの原油禁輸で原則合意したが、反対した内陸国ハンガリーなどに譲歩し、パイプライン経由の原油輸入は一時的に例外扱いとした。

米紙ポリティコによると、ハンガリーは依然、原油輸入の7割をルクオイルなど露産に依存し、備蓄が底をつけば9月に電力不足に陥るとの危機感を抱いている。

ウクライナの措置にはロシアの軍費調達に打撃を与えつつ、自国への軍事支援に反対するハンガリーに意趣返しする意図がにじむ。ロシアは原油輸出で昨年は1120億ドル(約17兆円)を稼いだとの試算もあり、「ウクライナの領土通過を許すのはばかげている」(国会議員)との声がある。

英紙フィナンシャル・タイムズによると、ハンガリーが仲裁を求めたEUの執行機関・欧州委員会は書簡で「ロシアの化石燃料からの脱却を積極的に進めるべきだ」と指摘。欧州委報道官も1日、クロアチアのパイプラインを使ってロシア以外の国からの輸入を検討すべきだと述べ、仲裁に入らない考えを示した。

ハンガリーと欧州委との関係は、ビクトル・オルバン首相の独断の訪露などで険悪化している。ハンガリー側は「加盟国のエネルギー安全保障が脅かされているのにブリュッセルは沈黙を保っている」として、裏で糸を引いているのは欧州委だと反発を強めている。

ハンガリーは天然ガスもロシアに依存する。EUの制裁対象とはなっていないが、ウクライナがパイプライン通過を認める期限は年末に切れる。ウクライナは延長を否定しており、ハンガリーとの「エネルギー摩擦」は激化しそうだ。【8月4日 読売】
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【ウクライナ 作戦の意図に言及せず ロシア軍の戦力分散を狙ったものか?】
上記の「エネルギー摩擦」の話が今回のウクライナ軍のロシアへの越境攻撃に関わっているのかどうかはわかりませんが、話を越境攻撃に戻すと、ウクライナ側はその意図などについてはコメントしていません。

ゼレンスキー大統領は8日夜の演説で、越境攻撃には直接言及しなかったが、「ロシアはわが国に持ち込んだ戦争の結果を思い知るべきだ」と語っています。

****「ロシアは戦争の結果を思い知るべき」 ゼレンスキー氏****
ウクライナがロシアに大規模な越境攻撃を開始して3日目の8日、ウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は演説で、ロシアは自らが仕掛けた戦争の結果を「思い知るべき」だと述べた。(中略)

ゼレンスキー氏は8日夜の演説で越境攻撃には直接言及しなかったが、「ロシアはわが国に持ち込んだ戦争の結果を思い知るべきだ」と述べた。

さらに「ウクライナ人は目標を達成する方法を知っている。そして、われわれは戦争による目標達成を選んだわけではない」と付け加えた。

ロシア国防省は8日、軍がウクライナ側部隊を「引き続き撃破している」と発表。空爆、ロケット弾攻撃、砲撃などによって押し戻そうと試みているとして、現地に予備部隊を緊急派遣し、クルスク州へのさらなる「侵入を阻止している」と説明した。【8月9日 AFP】
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ウクライナ領内の戦闘でも兵員・武器が不足しているウクライナ軍の現状、かりにロシア領内の一部を制圧をしても長期に占領を維持することは困難と想像されることなどを考えると、今回のウクライナの越境攻撃の意図がどこにあるのか不思議でした。(長期に占領できるなら、今後の停戦交渉でウクライナ東部返還を求める際の交渉材料にもなりますが・・・・)

ウクライナ側が作戦意図を説明していませんので、私のような素人だけでなく軍事専門家の間にも同様疑問があるようですが、ロシア軍の一部をウクライナ東部の前線から移動させることが狙いだとする指摘も。

****ウクライナはなぜロシアに越境攻撃を仕掛けたのか****
ウクライナは6日、国境を接するロシア・クルスク州への越境攻撃を開始した。「一体なぜ?」――。これが、一部の軍事専門家から上がった疑問だった。

ウクライナが戦場で抱える最大の問題はマンパワーだ。兵士の数で上回るロシアは、ウクライナ東部ポクロフスクにじりじりと近づいている。

そのため、数百人のウクライナ兵をロシアに送り込むこと自体、言ってみれば、状況にそぐわない動きだと見る向きもあるだろう。しかし、誰もがそう受け取っているわけではない。

「明確な計画の一部」
「これは偶発的なものではない」と、戦争の専門家コスティヤンティン・マショヴェッツ氏はフェイスブックに投稿した。「これは明らかに、一つの明確な計画の一部だ」

軍事アナリストのミハイロ・ジョロコフ氏も、この見方に同意する。ジョロコフ氏はBBCに対し、ロシアがウクライナ東部の前線から一部部隊を再配置せざるを得なくなったと語った。

「複数の公式報告からは、(ウクライナ東部)ドネツク州に投下されたロシアの滑空爆弾の数がはるかに減ったことが分かる」「つまり、滑空爆弾を搭載した機体は今、ロシア領内の別の場所にいるということだ」

ウクライナがロシアの領土を占拠しようとしている可能性は極めて低い。しかし、今回のロシア領への侵入の目的がロシア部隊を引き寄せることだったとすれば、侵入からそれほど時間がたたないうちにそれが達成されつつあるのは確かだ。

戦地の近況も、一役買っているかもしれない。
ロシアはウクライナ北東部ハルキウ州への大規模な越境攻撃を開始した。

アメリカが5月に、ウクライナが米供与の兵器でロシア国内の標的を攻撃することを限定的に許可して以降、ロシアの前進スピードは鈍化しているようにみえる。

ウクライナはその後の3カ月間、同国北部スーミ州に対して、ロシア軍が同様の攻撃を試みるのではないかとの懸念を募らせてきた。

戦争がエスカレートすることを西側諸国が常に懸念していることを考慮すると、ロシア領内で今回の規模の作戦を行うことに、何らかの許可が与えられていた可能性は高い。

この攻撃について多くを語るウクライナの高官はほとんどいない。ウクライナ大統領府は「ノーコメントだ、今のところは」と、BBCに述べた。

ロシア領内への同様の侵入は以前にもあったが、ウクライナの正規軍がこのようなかたちで投入されたのは初めてだ。

ロシアに「不意打ち」
国境の向こう側(ロシア側)では、さらに多くの情報が飛び交っている。
ロシアの軍事チャンネルは、今回の越境攻撃には数百人規模の部隊が参加し、いくつかのロケット弾やドローンによる攻撃があったといち早く報じた。

地元当局もまた、迅速に死傷者数や避難者数を発表した。近隣地域は家を追われた人々の受け入れを表明した。
そして、同地域では非常事態も宣言された。

クルスク州の町スジャ方面に部隊を再配置していることさえも、ロシア国防省は認めた。

ロシアの頂点に立つウラジーミル・プーチン大統領は、安全保障の責任者から公に説明を受けた。外務省報道官は、ウクライナの越境攻撃は「野蛮」な「テロリストによる」攻撃だと述べた。

こうした反応はまさに、ロシアが熟知しているはずの戦争で不意打ちを食らったことを示唆するものだった。ロシアはつい昨日まで、ウクライナ軍を圧倒しながら着実に領土を獲得していた。しかし今では、ロシアはこれまでとは別のことを考えなくてはならない。

クレムリン(ロシア大統領府)はすでに、今回の攻撃を、ウクライナでの戦争を続けるべき理由の証しだとしている。ロシアはいまだに、ウクライナ侵攻を「防衛」措置と定義している。

「クルスク州での出来事から得られるのは、答えよりも疑問の方が多い」と、前出の軍事アナリスト、ジョロコフ氏は示唆する。

もしウクライナが、北部へのロシアによる大規模攻撃を遅らせたり、さらには阻止したりできれば、ウクライナにとっては間違いなく、この作戦は価値があったということになる。

「ウクライナに戦争を持ち込んだ侵略者に圧力をかければかけるほど、平和は近づいてくる」と、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は毎晩定例の演説で述べた。
「公正な力によって、公正な平和は実現される」【8月8日 BBC】
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【ロシア国内には越境攻撃を許した軍の対応に不満・苛立ちも】
ロシアが「不意打ち」をくらった・・・と、上記記事にはありますが、ロシア国内の軍事ブロガーはそうは見ていないようです。ウクライナ軍がクルスク州に侵攻するのは見え見えだったのに、ロシア軍は何もしなかった・・・と。

****ウクライナ地上軍がロシアに初の大規模侵攻、ロシア軍はなぜ来ない?****
<長く防戦一方だったウクライナ軍が、ロシア国境のクルスク州に侵攻し、猛攻を仕掛けている。国境地帯にウクライナ軍が集結し、攻めてくるのは「わかっていたのに」と、ロシアのブロガーは憤る>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は8月7日、遅ればせながら沈黙を破り、西部クルスク州にウクライナ軍が越境攻撃を仕掛けたことを認め、この侵攻を「大規模な挑発」と呼んで強く非難した。

「クルスク地域で起きていることをこれ以上看過できない」と、プーチンは国家安全保障会議で述べた。「知ってのとおり、ウクライナはまたもや大規模な挑発を仕掛け、ミサイルを含む各種兵器で民間の建物、住宅、救急車などを無差別に攻撃している」(中略)

ロシアの他の軍事ブロガー数人もテレグラムで、いくつかの村が奪われたと伝え、侵攻は前々から準備されていたとして、「この世の地獄」のような惨状を招いたクレムリンの後手対応を痛烈に批判している。

「ウクライナ軍がクルスク州に侵攻するのは見え見えだった」と、ロシアのウクライナ侵攻を支持するブロガーのアナスタシア・カッシェバロワはテレグラムに投稿した。ウクライナ軍が国境地帯に「兵力を結集していることも分かっていた。毎度のことながら、私たちには何もかも分かっていて、現地の兵士もちゃんと報告したのに、上層部は何もしなかった」。

「(侵攻軍の)部隊がわれらの領土を動き回っている。だが、わが部隊は見当たらず、歩兵もいない」と嘆いたのは、テレグラムのチャンネル「コールサインOSETIN」だ。「大砲も戦車も、何の装備もない。誰もこの事態に備えていなかったのか。稼働しているのは飛行隊とオペレーター、前線航空管制官、それに国境警備隊くらいのものだ」

軍事ブロガーのRavrebaは、クレムリンはこの状況を「完全に無視している」と吐き捨てた。
「ロシアの新しい国防相(アンドレイ・ベロウソフ)は、ムチか斧で脅されなければ腰を上げない将軍たちをどやしつけるよりも、祖父たちが盗んだ資産を勘定するほうが気楽なのだろう」

プーチンは国家安全保障会議後、国防省の当局者、ロシア連邦保安局(FSB)の国境警備隊、それにバレリー・ゲラシモフ軍参謀総長と個別に会い、現状について協議すると述べた。【8月8日 Newsweek】
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アメリカの反応は・・・“米国務省のマシュー・ミラー報道官は、米政府はクルスク州での状況について、ウクライナ当局と連絡を取っていると言及。ロシア国境付近に限定して容認している米国供与の兵器使用に関する規制は引き続き有効だが、ウクライナの行動はこの規制に違反していないと述べた。”【8月8日 日テレNEWS】

どう違反していないのかはよくわかりませんが・・・。

ウクライナ軍は上記越境攻撃に加え、ロシア領内軍事施設への攻撃を強めています。

****ロシア西部の軍飛行場を攻撃、ウクライナ発表 誘導爆弾破壊****
ウクライナ軍は9日、ロシア西部リペツク州のロシア軍飛行場を同日未明に攻撃し、保管されていた誘導爆弾を破壊したと発表した。攻撃により一連の爆発が起きたとしている。

ウクライナはロシアの空爆能力やミサイル発射能力を弱めるため、ロシアの空軍基地を攻撃している。

ウクライナ軍は通信アプリ「テレグラム」に「大規模な火災が発生し、複数の爆発が起きた」と投稿。攻撃対象となったのロシアの軍用機Su−34、Su−35、MiG−31を駐機する飛行場だったという。

治安当局者がロイターに明らかにしたところによると、攻撃はドローン(無人機)で行われた。飛行場には数十機の航空機とヘリコプターが駐機していたほか、700発の誘導爆弾を格納した倉庫もあった。

リペツク州のアルタモノフ知事は9日、ウクライナのドローンによる「大規模攻撃」で爆発が起きたとし、一部地域から住民を避難させていると明らかにした。9人が負傷したほか、電力供給に影響が出ているとしている。【8月9日 ロイター】
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今回の越境攻撃が短期作戦で終わるのか、今後も継続・強化されるのか・・・よくわかりません。
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