孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  「アメリカに防衛費用を支払え!」 トランプ復活で見捨てられるのか?

2024-08-22 22:29:55 | 東アジア
(米ミサイル駆逐艦「ラルフ・ジョンソン」(facebook.com/7thfleetから)【8月22日 フォーカス台湾】)

【緊張が続く台湾海峡】
特に新たな動きがあった訳でもありませんが、台湾をめぐる安全保障に関係する記事を今日いくつか目にしたので、そのあたりの話です。

“新たな動き”ではありませんが、台湾海峡では緊張状態が続いています。

****米駆逐艦、台湾海峡を通過 人民解放軍が監視・警告****
中国人民解放軍は22日、台湾海峡を通過した米駆逐艦を監視し、警告を発したと表明した。

米海軍第7艦隊は駆逐艦ラルフ・ジョンソンが台湾海峡を国際法に従って通過したと発表。通過は「定期的」なものだと表明した。

人民解放軍東部戦区は「法規則に従って(米駆逐艦に)対応」するため海・空軍を派遣したと表明。「東部戦区の部隊は常に厳戒態勢を維持し、国家の主権と安全保障、地域の平和と安定を断固として守る」と述べた。【8月22日 ロイター】
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米軍は“国際法に従って”と、中国側も“法規則に従って”と、互いにその正当性を主張しています。

なお“ドイツ海軍のシュルツ少将は独艦船2隻が来月、台湾海峡を通過する可能性があると明らかにした。命令を待っているという。実行すれば2002年以来となる。”【8月19日 ロイター】とも。

【「アメリカに防衛費用を支払え!」 トランプ氏の台湾軽視発言】
こうした緊張状態にある台湾に関して、「もしトラ」のトランプ前大統領は「台湾はわれわれのチップ・ビジネスを盗んでいる」「台湾は米国に防衛保証の対価を支払うべきだ」と台湾に対し厳しい主張しており、トランプ復活の場合どこまでアメリカが台湾に関与するのか疑問視する見方もあります。

****「アメリカに防衛費用を支払え!」軍事援助の約束を無視したトランプの台湾批判にある危うさ****
トランプが、台湾は米国に防衛の対価を支払うべし、台湾は米国のチップ・ビジネスを盗んでいる等と発言したことにつき、2024年7月17日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、キャスリン・ヒル特派員の解説記事を掲載している。
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トランプ前米大統領は、台湾は米国に防衛保証の対価を支払うべきだと述べた。発言は、台湾に激震を走らせ、アジアにおける米国の同盟国やパートナーにとっての次期大統領選の重要性を浮き彫りにした。

共和党の大統領候補トランプは、ブルームバーグのインタビューで、米軍が提供する暗黙の安全保障に言及しつつ、台湾は「われわれのチップ・ビジネスを盗んで」おり、「(米国に)防衛の費用を支払うべきだ」と述べた。

台湾は武器のほとんどを米国から購入しており、米国の防衛企業にとって最大の市場の一つである。過去1年間、米国議会は軍事援助を認める法案も可決している。

台湾の卓栄泰・行政院長(首相に相当)はこれに対し、台湾と米国は関係をさらに良い方向に発展させることを目指すと述べた。

米国は長年にわたり、台湾の防衛を支援するという曖昧な約束をして、台湾の安全保障の事実上の守護者となってきた。中国は台湾を自国の領土と主張し、台湾が中国の支配に服することを拒否し続ければ攻撃すると脅してきた。

台湾関係法に基づき、米国は、非平和的な手段で台湾の将来を決定しようとするいかなる努力も米国にとって重大な懸念であるとみなし、台湾に防衛兵器を提供し、台湾の安全を脅かす勢力に対抗する米国の能力を維持することを約束している。

バイデン大統領は、米国の台湾防衛へのコミットメントを繰り返し確認し、そのためには軍を派遣するとまで述べた。しかし、トランプは、米国が台湾を中国による攻撃から守るのは「とても、とても難しい」と言った。 

トランプは、台湾のチップ産業が米国のビジネスを犠牲にして繁栄してきたと非難した。トランプは「彼らはわれわれのチップ産業のほぼ100%を奪った。今、われわれは彼らに何十億ドルもの資金を与え、わが国で新しいチップを製造させ、それを彼らの国に持ち帰らせようとしている」と述べた。

米国内で生産をするよう米国から強く求められた台湾積体電路製造(TSMC)は、アリゾナ州に3つの工場を建設するのに650億ドルを投資する。その見返りに、同社は最大66億ドルの補助金と50億ドルの融資を受ける予定だ。

卓行政院長は、軍事費の着実な増加や男子の徴兵制の復活等ここ数年の台湾の自衛力強化の努力を指摘すると同時に、他国からの支援の重要性も強調した。米国の防衛協力と頻繁な支持表明が台湾に「地域の平和と安定に共通の責任を持つ国際社会の一員としての決意をさらに固めさせてきた」とも述べた。
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(論評)
米国の「台湾関係法」
(中略)米国政府は台湾との間に外交関係がないにもかかわらず、「台湾関係法」(1979年4月14日)を議会で通過させ、国内法上、実質的に台湾に「防御的性格の武器を供与すること」(第2条)を約束している。

さらには、「台湾関係法」の中には、次のような規定もある。「台湾人民の安全、または社会、経済の制度に危害を与える如何なる武力行使にも対抗しうる合衆国の能力を維持する」(2条B項)。

今日、米国による台湾への武器供与は中台間の軍事バランスを維持する上で不可欠な役割を果たしており、台湾にとって、米国はこの地域の平和と安全を守り、現状を維持する上で不可欠の盟友と言える。また、台湾は主要武器のほとんどを米国から購入している。

武器供与を含む軍事支援の内容については、重要な国家機密に属するため公開されていないものが多い。ただし、はっきりしていることは、米台間で十分な協議が行われた上で価格等も決められるのであり、トランプの言うように、台湾が米国に必要な代価を支払っていないというのは事実に反するのだろう。

防衛へ努力重ねる台湾
台湾は半導体生産の技術大国であるが、トランプは「台湾がもともと米国における半導体技術、生産において、米国の維持していた技術を奪った。今や、台湾は米国の犠牲の上に、拠点工場を米国に移した」と述べて、台湾を非難した。その上で、「台湾は防衛費を支払うべきだ。これではわれわれは保険会社と何ら変わりはない」と不満をぶつけている。

台湾の卓行政院長は、近年台湾は防衛費を増強しており、徴兵制度もそれに見合って変えてきており、台湾政府としてはこれからも台湾防衛のために努力する考えであることに変わりはないと強調した。(中略)

トランプの台湾非難は、米台間の「台湾関係法」以来の歴史を無視した一方的なものと言わざるを得ない。【8月22日 WEDGE】
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台湾の防衛費はGDPの2.45%を占め、GDP成長率を上回る増加となっています。

****台湾25年防衛費は7.7%増、GDP伸び上回る見通し****
台湾の行政院(内閣)は22日、2025年予算案について、防衛費が前年比7.7%増の6470億台湾ドル(202億5000万ドル)になると発表した。域内総生産(GDP)の2.45%を占め、政府の予想する同年のGDP成長率(3.26%)を上回る。

台湾は軍の近代化を重要政策と位置づけており、中国の脅威の高まりに対応し、台湾製潜水艦の開発を含め防衛費を増強する方針を繰り返し示してきた。

25年防衛費には戦闘機の新規購入とミサイル製造増強のための904億台湾ドルの特別予算が含まれる。

25年予算案は、野党が過半数を占める立法院(国会)の承認が必要。

中国は3月、24年国防費を前年比7.2%増の1兆6700億元(2341億ドル)とする方針を示している。今年の経済成長率目標である5%前後を上回る伸びだが、アナリストによると、GDPに占める割合は約1.3%にとどまる。【8月22日 ロイター】
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【ペンス前副大統領のトランプ痛烈批判 一方、トランプ氏のもとで台湾防衛は強化されるとの見方も】
トランプ前大統領の台湾との同盟関係を軽視するような発言に関して、トランプ前政権で副大統領を務め、その後トランプ氏と袂を分かったペンス前副大統領は「危険なほど狭い理解と無知」と痛烈に批判しています。

****ペンス氏、トランプ氏の台湾発言批判 「危険なほど狭い理解と無知」****
米共和党のペンス前副大統領は21日のワシントン・ポスト紙(電子版)に寄稿し、中国が統一圧力を強めている台湾への支援を軽んじるトランプ前大統領の発言について、「世界における米国の役割に対する危険なほどの狭い理解と、米国の離脱がもたらす広範囲にわたる影響への無知を反映している」と酷評した。(中略)

トランプ氏は、米ブルームバーグ通信が7月に公開したインタビューの台湾防衛に関するやりとりの中で、米国と台湾は約1万5290キロ離れているが、中国から台湾は約110キロだと指摘。「我々は保険会社のようなものだ。台湾は我々に防衛費を支払うべきだ」などと不満を示した。

ペンス氏らは寄稿で、「共和党内で台湾やその他の同盟国を見捨てることを主張する、厄介な孤立主義の傾向が表れつつある」と指摘した。

トランプ氏の台湾との距離に関する発言を挙げて批判し、台湾が中国に統一されれば米国の安全保障の約束は「空約束」とみなされ、米国に中国を阻止する能力も意思もなければ多くの国は自国防衛のために核兵器開発に向かうと説明。このため核軍拡競争を引き起こす可能性があるなどと警告した。

そのうえで「米国は台湾を断固として支援しなければならない。それが米国の国益にかなうからだ」と強調。トランプ氏らを念頭に「孤立主義者に惑わされている余裕はない」と訴えた。

ペンス氏はトランプ氏を副大統領として支えたが、2020年大統領選の敗北を覆そうとしたトランプ氏への協力を拒否し、21年1月の連邦議会襲撃事件後にたもとを分かった。【8月22日 毎日】
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トランプ前大統領が同盟関係を軽視しており、台湾を見捨てる・・・との見方に対し、それは誤解であり、むしろ台湾防衛を強化する考えだとの反論も。 ただし、そのような考えはトランプ氏自身ではなく、“トランプ氏に近い外交・安全保障の専門家たち”や“トランプ氏に近いシンクタンク”の考えのようですが。

****対中戦略骨子案に「台湾の独立」トランプ氏に近い外交・安保チームが戦略の柱に 見捨てるどころか防衛強化示す****
わが国は、中国、北朝鮮、ロシアという「3つの核保有国」の脅威に直面している。この脅威に対応するためにも、外交・安全保障、特に米国との関係が極めて重要になる。 厄介なのは、米国の動向についての日本のマスコミ報道は一方的なものが多いということだ。

(中略)日本のマスコミの多くは、民主党ひいきの報道が多い一方、トランプ氏に対しては否定的だ。そのためか、「米国第一」のトランプ氏が再選されると、日米同盟がおかしくなるだけでなく、「台湾などは見捨てられるのではないか」みたいに誤解している人もいる。

だが、トランプ氏に近い外交・安全保障の専門家たちと話をすると、台湾を見捨てるどころか、台湾防衛を強化するつもりだ。

日本では、外交・安全保障政策を官僚たちが作成することが多いが、米国の場合は民間シンクタンクが担当している。トランプ氏に近いシンクタンクの1つが「米国第一政策研究所(AFPI:America First Policy Institute)」だ。このメンバーが今年1月に訪日した際、「中国共産党の悪意の影響に対抗する」と題した10項目の対中戦略骨子案を持参してきた。

戦争が嫌いなトランプ氏らしく、貿易、金融、経済、インテリジェンスなど非軍事手段によって中国に対抗しようとしているが、台湾について以下のように記されている。

《9 台湾人の政治的孤立を解消すること 台湾は、米国の正式な外交関係を持たない唯一の民主主義国家である。われわれは台湾との外交、文化、経済的な結びつきを奨励し、巨大な共産主義国家である隣国の脅威にさらされている、小さくて成功した中国民族の民主主義国家である台湾を支援することの重要性について、米国民を教育すべきである》

米国民の「教育」掲げ
台湾防衛について米軍が関与するためには、米国世論と議会の支持が必要だ。そこで米軍が関与できるよう、米国民に「教育」すべきだとしている点がポイントだ。

《10 台湾の独立を維持するために必要な軍事支援を台湾に提供すること 米国は、台湾の自衛を強化するという公約を守り、台湾が中国共産党の侵略から自国を守るために必要と考えられる防衛装備品や訓練の取得を妨げる制限を撤廃しなければならない》

まず、「台湾の独立(Independence)」と書いている点に注目してほしい。そして、台湾の自衛を強化するため、中国大陸への反撃能力を含む防衛装備品の輸出と軍事訓練の提供を解禁すべきだと主張しているのだ。

要は、「台湾有事」への備えが、トランプ氏に近い外交・安保チームの対中戦略の柱なのだ。日本も台湾に関して思い切った安全保障政策を打ち出さなければならなくなるだろう。【8月22日 江崎道朗氏 夕刊フジ】
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トランプ前大統領がそうした理論的な思考を無視するかのように、直観的行動、取引重視の行動に走りやすいことは前政権でも明らかになったところです。

【懸念される台湾軍人と中国の“緊密”な関係】
台湾自身の防衛努力に関しては、防衛費の伸びの数字などをあげましたが、一方で台湾軍人と中国の間の“緊密”な関係が懸念されています。

****台湾軍人が中国に機密情報売り渡すスパイ組織構築 8人に実刑 軍用ヘリで亡命計画も****
台湾の退役・現役軍人が軍の機密情報を中国側に売り渡すスパイ組織を構築していたとして、台湾高等法院(高裁)は22日、8人の被告に対し最高で懲役13年の実刑判決を言い渡した。このうち陸軍航空部隊の現役中佐は軍用ヘリで中国側に亡命する計画を立てていた。

台湾高等検察署(高検)や台湾メディアによると、スパイ組織は主犯とされる台湾の退役軍人が中心となり2021年以降に構築。10人が収賄罪や軍事秘密交付罪などで起訴され、22日の判決ではうち1人が無罪となった。主犯とされる退役軍人は海外に逃亡し指名手配されている。

懲役9年の判決を言い渡された陸軍航空特戦指揮部の中佐は、大型輸送ヘリ「CH47チヌーク」を操縦して中国に投降するよう教唆され、そのための計画を練っていたという。また別の現役軍人の被告は、指示を受けて「中国人民解放軍に投降したい」と語る動画を撮影していたという。【8月22日 産経】
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以前、「(台湾)軍幹部の9割ほどは退役後、中国に渡る。軍の情報提供を見返りに金稼ぎし、腐敗が常態化している」という日経記事に台湾側が激怒するということもありました。

****「それでも中国が好きだ」 台湾軍に潜む死角****
台湾、知られざる素顔①

「おかげで中国での商売が駄目になった。レストランは閉め、台湾に帰って出直しだ」
台湾人の50代男性、鄭宗賢(仮名)は最近まで中国に脅されていた。2010年代、台湾軍で幹部を務めた鄭。退役後は「軍幹部OBのお決まりのルート」(軍関係者)に乗り、中国で商売を得た。台湾軍の情報を中国側に提供できるうちは商売は順調だった。

だが次第に行き詰まる。軍を離れ、中国に提供できる情報が減ったからだ。同じ台湾軍に入隊した息子に情報を頼ったが、息子は応じなかった。

「用無し」となった鄭に、中国は容赦しない。レストランは当局の嫌がらせで閉鎖に追い込まれた。だが鄭は「それでも中国が好きだ。恨みはない」と振り返る。

台湾統一を掲げる中国が実際に軍事侵攻したら――。向き合う台湾軍の事情は複雑だ。
もともと中国がルーツ。49年、国民党軍は共産党軍に敗れ、台湾に逃れた。中国大陸の奪還を誓ったが、夢に終わる。国民党軍は結局、台湾を守る「台湾軍」として衣替えを余儀なくされた。

その屈辱が軍内に強く残る。「我々こそ中国だと、今なお台湾独立に反対する教育が軍内で盛んだ」(軍事専門家)
17万人を抱える台湾軍では将校などの幹部も依然、中国人を親などに持つ中国ルーツの「外省人」が牛耳る旧習が続く。歴代国防部長(大臣)も外省人がほぼ独占する。

「そんな軍が有事で中国と戦えるはずがない。軍幹部の9割ほどは退役後、中国に渡る。軍の情報提供を見返りに金稼ぎし、腐敗が常態化している」(関係者)。鄭もそんな一人だった。

1月初旬。台湾高等検察署(高検)高雄分署は台湾軍の機密情報を中国側に漏らしたとして、元上校(大佐)と現役将校の計4人を拘束した。

2週間後には元立法委員(国会議員)の羅志明と海軍元少将が、台湾高雄地方検察署(地検)に取り調べを受けたことが判明。中国の統一工作などに便宜を図ったとされた。2021年には国防部ナンバー3の副部長(国防次官)の張哲平まで捜査対象となった。

「いまだに中国に協力するスパイが軍に多いことが台湾最大の問題だ」。ある陸軍OBはこう明かす。米国が長年、台湾への武器売却や支援に慎重だったのも中国への情報流出を恐れたためだ。(後略)【2023年2月28日 日経】
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台湾側はこうした報道内容を否定していますが、記事を裏付けるような事件がたびたび明らかになるのも事実です。
これが実態なら、中国の侵攻阻止なんて絵空事にもなってしまいます。

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