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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州の中国産太陽光パネル反ダンピング課税に、中国はワインで課税賛成派フランスを狙い撃ち

2013-06-10 22:17:10 | 中国

(中国ではワイン・ブームだそうです。日本でも1980年代のバブル時に高級ワインを買いあさるようなことがありましたが。 “flickr”より By Francois Dorleans )

中国企業に対し国際的な貿易ルールが確実に適用されるようにするための措置
中国・習近平国家主席が“北朝鮮やイランなどの核問題、経済、貿易、環境などの地球規模の問題は、もはや中国ぬきでは解決は難しいとの自信”【6月9日 朝日】を背景に、アメリカ・オバマ大統領にウインウインの関係を築く「新たなタイプの大国関係」を求めた話は、昨日のブログで取り上げたところです。

そうした自信のなせる業か、中国外交には“自国に対する相手の態度によって、友好関係に露骨に差をつける”【4月29日 JB PRESS】という“尊大さ”を指摘する向きもあります。
今回そのターゲットとなったのはフランスです。

サルコジ前大統領時代は、チベット仏教の最高指導者で独立運動のリーダーであるダライ・ラマ14世と面会するなどで、中国との関係には波風がたちましたが、オランド大統領は“中国による人権弾圧については黙認の姿勢を貫いており、中国側はそれを高く評価している。また英国に対する牽制球の意味もあり、オランド大統領を意図的に厚遇しているという。”【同上】とのことで、4月29日にオランド大統領が訪中した際も、中国側は最大級の持てなしを行い、好意的な姿勢を見せていました。

****中国がチベット問題を黙認するオランド大統領に対して、最大級のもてなしを実施****
・・・・オランド大統領がここまで中国に入れ込むのは、不振な輸出をテコ入れすることが主な目的。フランスの中国向け輸出は英国の2倍程度あるが、ドイツと比較すると3分の1以下の水準となっている。ドイツのメルケル首相は財界人を多数連れて何度も中国を訪問しているだけでなく、中国の人権問題に対してまったく口出しをせず、中国側から高い評価を受けている。・・・・【4月29日 JB PRESS】
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そうしたフランスに対する好意的な風向きが一変したのは、EUの中国製太陽光パネルに対する反ダンピング課税の決定からです。

****EUが6日付で中国製太陽光パネルに課税、税率は当初11.8%****
欧州連合(EU)は4日、中国製太陽光パネルに対し反ダンピング(不当廉売)課税を6日付で導入すると発表した。税率は当初11.8%とし、中国側との協議が8月6日までに合意に至らなければ平均47.6%に引き上げる。

EUは中国のメーカーが不当に安い価格で太陽光パネルを販売している証拠はあるとしながらも、EU加盟27カ国のうち独英を含む18カ国が反ダンピング課税導入に反対していたことを踏まえ、導入時の税率を低水準に設定し、中国との貿易摩擦を回避する道を選んだ。

当初は平均税率47%を適用する予定だった。8月に税率が平均47.6%に引き上げられれば、中国産太陽光パネル10+ 件はEU市場から事実上締め出されることになる。同課税は12月に期間5年の恒久課税に移行する。

欧州委員会のデフフト委員(通商担当)は記者会見で、「これは保護貿易主義ではなく、むしろ中国企業に対し国際的な貿易ルールが確実に適用されるようにするための措置だ」と述べた。その上で「中国に対し非常に明確に協議を行う動機を提示した」とし、「協議に向けた明確な糸口を提示するものだが、ボールは今は中国側のコートにある」との認識を示した。

中国側の関係筋は、「弾丸が込められた銃を頭に突きつけられている場合、公正な協議とは言えない」とし、EUの決定について「少なくとも双方に解決策を探る余地が生まれた」としている。

欧州は世界最大の太陽光パネル市場。現在その市場の80%以上を中国企業が握る。欧州市場で大きなシェアを持つ中国メーカーは、インリー・グリーン・エナジー・ホールディング(英利緑色能源) YGE.N、サンテック・パワー・ホールディングス(尚徳太陽能電力) STP.N、トリナ・ソーラー(天合光能) TSL.N など。

ドイツや英国などは、EUが中国企業を域内で排除すれば自国の企業が成長著しい中国市場で金融サービスなどの分野で阻害を受けるとの懸念から課税に反対。
一方、フランスとイタリアは、中国企業が不当な政府補助を受け不当に安い価格でEU域内で販売しているとして課税導入を訴えていた。

スイスのサンクト・ガレン大学で国際貿易を専門とするシモン・エベネット教授は、「今回の太陽光パネルの件は、中国による開放された貿易システムの便乗を諦めさせようとする欧州側の動きであるとの文脈のなかで捉えるべき」との見方を示した。
米国は2012年に中国製太陽光パネルに対し関税措置を導入している。【6月5日 ロイター】
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【「フランスは貿易戦争の標的にされた」】
太陽光パネルの反ダンピング課税への報復措置として、中国は直ちに欧州産ワインのダンピング調査を開始しました。

****中国が欧州産ワインの不当廉売について調査、太陽光パネル関税に対抗****
中国は5日、国内での欧州産ワインの不当廉売について調査を開始した。欧州連合(EU)が、中国製太陽光パネルに対する反ダンピング課税を導入することへの対抗措置と考えられている。

EUは6日から反ダンピング課税を開始するが、域内で協議による解決を望む声が多いことを考慮し、導入時の税率は大幅に引き下げられた。

中国商務省は、話し合いを通じた問題解決に対する中国側の努力や誠意にもかかわらずEUが課税導入に踏み切ったと批判。
ウェブサイトで「欧州側はかたくなで、中国製太陽光パネルの輸入に対して不当な課税を導入した」と主張した。

商務省によると、中国政府は国内のワインメーカーからの要請で、EU産ワインに関する反ダンピング、反補助金の調査を開始した。
税関当局の統計によると、中国の昨年のワイン輸入量は4億3000万リットルで、このうちの3分の2以上は欧州産。フランス産だけでも1億7000万リットルとなる。【6月5日 ロイター】
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中国が取り上げたのがワインということで、太陽光パネル反ダンピング課税を推進したフランスを狙い撃ちした報復と見られています。

****独との分断狙う?仏狙い撃ちか…中国、関税巡り****
欧州産ワインに対する中国の反ダンピング調査発表を受け、フランスのオランド大統領は5日、欧州連合(EU)加盟国に対応策を探る協議を呼びかけた。
仏はEU最大の対中ワイン輸出国で、「貿易戦争の標的にされた」と衝撃が広がっている。
仏政府は同日、「EUが結束して対処すべきだ」との声明を出した。中国製太陽光パネルに対する制裁課税で、EU内は賛否をめぐって分裂したが、仏は課税賛成派の代表だった。

中国が工業製品でなく、あえてワインを報復対象に選んだことに対し、6日付仏紙フィガロは、「中国はドイツをかばった。独仏分断だ」と評した。

仏のワイン輸出額で中国は米英に次いで3位。特にマルゴー、ラフィットなど有名なシャトー(ワイン生産者)が集中するボルドーで、中国は輸出の約5分の1を占める最大市場だ。【6月7日 読売】
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“来日中のフランスのオランド大統領は8日、中国製品を巡り貿易摩擦が起きていることに関し、「平等な貿易を目指すため、こちらも柔軟性を示す必要があるが、一定の限界がある」と中国にくぎを刺した。”【6月9日 毎日】

急拡大する中国ワイン市場
中国では大変なワイン・ブームで、フランス・ボルドーのシャトー(醸造元)を訪問するツアーも中国人の間で大盛況だそうです。
そして、例によって、高級ワインの買いっぷりもすさまじいようです。
ボルドーのシャトーのうち12か所がすでに中国資本になっているとも。

急速に拡大する中国のワイン市場で先行するフランスですが、フランス以外のワインもこれから伸びることが予想されており、フランスとしては今後に向けて対策をとっていこうとしていたところへの今回の反ダンピング調査です。

****中国のワイン消費者、フランスワイン以外にも高い関心**** 
中国のワイン市場では、フランスワインが輸入ワインの約50パーセントを占め、圧倒的な人気を誇っている。
しかしこのところ、イタリア、オーストラリア、カリフォルニア、チリといったワインが徐々に注目を集めるようになってきているようだ。

先ごろ出された、中国で発行されている『財富品質』誌による中国のハイエンドの赤ワイン市場レポートの中で、中国のトレンドを分析している。

レポートでは、中国のワイン市場は現在年平均70パーセント程度の伸びで、今後も伸び続けるとしながらも、そのペースは鈍化する。現在、輸入ワインが全ワインに占める割合は25パーセントだが、5年以内には40パーセントに達すると予測している。

また、中国市場でワインスタイルの多様化が進み、さらに中間層がますますワインを飲みだすため、現在ハイエンドのワインといえばフランスワインワインだが、相対的にフランスワインのシェアは低下すると見ている。

レポートによると、現在中国の富裕層の43パーセントのワイン消費者は、週に2回以上赤ワインを飲み、13パーセントは週5回は飲むとしている。彼らが考える高級ワインとは、1本500元(およそUS80ドル)以上のワインで、彼らはこの価格をハイエンドワインと日常ワインの境界ととらえている。

そのワインを購入するかどうかの基準は、ラベル・年号・口コミで、13パーセントの消費者は高級ワインショップで購入し、16パーセントは海外から購入していると答えている。(中略)

フランスは、近い将来、中国のワイン消費者の理解が進み、ボルドー以外のフランスワインにも目を向けてもらえることを視野に、中国市場に対してボルドー以外のフランスの12の代表的なワイン産地のワイン400種類のプロモーションを、3年計画で進めるとフランス農業大臣が表明している。

フランスは、中国市場でもニューワールドワインとの競争が激化するであろうとの危機感をすでに強く持っているようだ。【2012年5月19日 WORLD FINE WINES】
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「政治制度や発展モデルなどお互いのやり方を否定せず、相手の選択に任せる」という「お互いを尊重する」国に対しては好意的に対応するが、余計な口出しをする国には強圧的対応をいとわないという中国外交です。
もっとも、貿易摩擦での課税の応酬というのはよくある話で、ひとり中国だけではありませんが。
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米中首脳会談  「お互いを尊重する」ことと、既存の国際社会の法や秩序を遵守することの溝

2013-06-09 22:34:29 | アメリカ

(“初の首脳会談は8日、2日間の日程を終えた。北朝鮮や気候変動、サイバー攻撃などの問題で両国の協力関係の促進と互いの政策の理解を深める上で一定の成果を収めた。”【6月9日 AFP 写真も】http://www.afpbb.com/article/politics/2949092/10875352

摩擦や競争があっても協力できる関係を求める点では同じだが・・・
国家主席就任から約3か月という異例の早い段階でアメリカを訪問した習近平・中国国家主席とオバマ・米大統領は2日間にわたる会談を行っています。

今回会談は、習近平国家主席の中米・カリブ訪問にあわせて、カリフォルニアでオバマ米大統領と非公式に会談するという形で、アメリカの「アジア回帰」路線、中国からのサイバー攻撃問題などで両国関係の緊張・悪化を懸念する米中双方の意向に沿って行われています。

習近平国家主席は、冷戦下の米ソ関係のように対立せず、協力できる分野を増やしてウインウインの関係を築く「新たなタイプの大国関係」をアメリカとの間で構築することをアメリカに求めています。
「我々はチャイニーズ・ドリームを実現し、経済繁栄と人民の豊かさを追求したい。アメリカン・ドリームとは(お互いが利益を得る)ウインウインの関係だ」

“背景にあるのは、北朝鮮やイランなどの核問題、経済、貿易、環境などの地球規模の問題は、もはや中国ぬきでは解決は難しいとの自信だ。中国が経済、外交の面で力をつけたいま、唯一の超大国である米国と安定した関係を構築したい、との思いの表れでもある。”【6月9日 朝日】

この「新たなタイプの大国関係」にあっては、中国側は「お互いを尊重する」ことを求めており、この意味するところは「政治制度や発展モデルなどお互いのやり方を否定せず、相手の選択に任せること」というもののようです。

オバマ米大統領も、「(米中は)世界の2大経済、軍事パワーだ」という認識のもとで、米中の軍事交流強化に言及して、「新しいモデルの米中関係の具体例だ」と応じています。

しかし、同時に地球温暖化問題などで応分の役割を果たすことも求め、また、「米国は各国が同じルールに従い、貿易が自由かつ公平で、米中両国がサイバーセキュリティーや知的財産保護に協力して対処するような国際経済のあり方を追求する」と述べ、既存の国際社会の法や秩序を守り、強引なやり方は控えることが両国関係の前提とらることを示しています。

中国側が求める「お互いを尊重する」ことと、アメリカが求める既存の国際社会の法や秩序の遵守の間には、まだ深い隔たりもあります。

具体的な会談の内容は各メディアが報じているところですが、米中首脳会談にミシェル・オバマ米大統領夫人が姿を見せず、中国側が期待していた彭麗媛(ポンリーユワン)・中国国家主席夫人とのツーショットが実現しなかったあたりに、中国側の主張する「新たなタイプの大国関係」路線に引きずり込まれることを警戒するアメリカ側の姿勢がうかがえるような気がします。

****ツーショット期待したのに…米大統領夫人不在、中国に広がる失望 首脳会談****
米中首脳会談にミシェル・オバマ米大統領夫人が姿を見せなかったことで、中国側に失望が広がっている。
国民的歌手としても人気の彭麗媛(ポンリーユワン)・中国国家主席夫人とのツーショットへの期待もあっただけに、肩すかし感が漂っている。

彭夫人は7日夕、パームスプリングス美術館を訪れた。米中メディアによると、彭夫人はアジア系の生徒に出迎えられ、設置されたばかりの北京の芸術家の彫像を見物。同行したのはブラウン・カリフォルニア州知事のアン夫人だった。

一方のミシェル夫人は、6日はバージニア州で民主党の州知事候補の資金集め会合に出席。AP通信によると、10日に次女サーシャさんの12歳の誕生日を控え、首都ワシントン近辺にとどまるという。
AP通信の中国側への取材によると、事前の打ち合わせで米国側は、ミシェル夫人も同行するような話しぶりだったという。

公式訪問ではないため同行しないのも不思議ではないとの見方がある一方、「彭夫人に冷たい」(豪紙)との批判も。AP通信は「彭夫人の外交上の役割に誇りを持つ中国人には極めて不満」「完璧を求める中国人は必ずや落胆する」との中国の学者やジャーナリストのコメントを紹介した。【6月9日 朝日】
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もっとも、こうした中国側の不満に配慮してか、オバマ大統領と彭夫人の面会がセットされたとのことです。

一方、中国側はあくまでも自国の路線は堅持し、アメリカなどの人権改善要求には応じないという強硬な姿勢を見せています。

****劉暁波氏義弟に懲役11年=「迫害」と批判、上訴へ―米中首脳会談終了直後に判決****
中国・北京市懐柔区人民法院(裁判所)は9日、ノーベル平和賞を受賞した獄中の反体制作家・劉暁波氏の義弟で、詐欺罪に問われた劉暉氏(43)に対し、懲役11年の実刑判決を下した。

劉暁波氏の妻で、夫の平和賞受賞決定後2年8カ月間にわたり自宅軟禁されている劉霞氏は実弟の判決公判を傍聴後、予想外の重い判決に「迫害であり、不合理な判決だ」と憤慨した。

劉暉氏の弁護人を務める莫少平氏が時事通信に明らかにした。莫氏は「間違った判決だ」と批判し、上訴する意向を示した。

この日の判決は、米カリフォルニア州で行われた習近平国家主席とオバマ大統領の会談終了直後に言い渡された。米側は、劉暁波氏の釈放や劉霞氏の軟禁解除を求めており、オバマ氏も習氏に人権問題の重要性を提起。
しかし中国共産党は、判決を通じて劉夫妻に圧力をかけるとともに、人権改善を要求する国際社会に断固とした対応を示した形だ。【6月9日 時事】
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中国の言う「お互いを尊重する」ということには、こうした中国国内の問題に口出しするな・・・ということなどが含まれていますが、それでは中国と“ウインウインの関係”は築けません。

もっとも、中国との経済関係が深まり、政治的関係も複雑な状況において、ストレートに口出し・批判することは返り血を浴びる覚悟も必要で、そのやり方には慎重な配慮も求められます。

そうした既存の国際社会の法や秩序にそぐわない面が中国に多々あるため、一気に米中蜜月とは行かないでしょうが、2020年代には世界一の規模の経済になると予測されている中国ですから、アメリカにおいても米中関係が今後一層重要視されていくことは間違いないでしょう。

薄まる日本の存在感
そうした米中接近のなかで日本の影が薄くなることを懸念する向きもあるようですが、ある程度はやむを得ない流れでもあり、その流れでのなかで冷静に対応を考える必要があります。

「日本経済がこのまま衰えると、米国にも世界にも、だんだん相手にされなくなる。日本経済が復活することが外交のためにも重要だ」・・・もちろん日本経済の復活は日本国民にとって重要ですが、日本経済が復活したところで、中国との経済規模の差はますます開くことから目をそらすことはできません。

「米国にとって、中国より日本のほうがよほど大事。摩擦が少ないから、日米関係が目立たないだけ」・・・現実を直視すれば、アメリカにとっては中国との関係が最重要課題でしょう。
もちろんそのことと、安全保障問題で日中が衝突した場合に日本を支援するかどうかという問題は別です。
中国との関係は重要ですが、同盟国を見捨てては西側世界のリーダーとしての立場が維持できません。
ただ、そういう危機的状況にならないように、日本にも譲歩を求めることはあるでしょう。
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サウジアラビアを中心に感染が続く「中東呼吸器症候群」

2013-06-08 23:39:57 | 疾病・保健衛生

(“flickr”より By 757Live )

全世界への脅威の一つ
H7N9型鳥インフルエンザは3月末から4月にかけて中国で感染が拡大し、世界的なパンデミックも懸念されました。
今も完治していない患者がおり、5月31日には上海で38人目の死者が出ていますが、5月中旬以降は新規感染もなく、封じ込めにほぼ成功したようです。

ただ、夏以降に再び感染拡大する危険もあるとのことで、脅威が“終わった”訳ではありません。

****ピーク越え」は時期尚早=H7N9感染源、鳥が濃厚―WHO****
中国のH7N9型鳥インフルエンザ感染に関し、世界保健機関(WHO)のケイジ・フクダ事務局長補は21日、ジュネーブで記者会見し、新たな感染報告が2週間近くないものの、夏以降に感染例が再び増える可能性もあると警告した。ピークを越えたと考えるのは時期尚早であるとし、各国に警戒を続けるよう呼び掛けた。

フクダ氏は、WHOや中国保健当局などの合同チームが4月に実施した現地調査結果から、現時点でウイルス感染源は鳥の可能性が高いと指摘。「感染源が他にあるかどうかが今後の調査の焦点になる」と述べた。

一方、会見に先立ち中国国家衛生計画出産委員会は感染状況を報告した。確認された計130件のうち、鳥と接触した感染者は69%と説明。「家禽(かきん)が最大のリスク要因」として、生きた家禽を扱う市場の閉鎖が感染拡大防止につながったとの見解を示した。【5月22日 時事】 
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このH7N9型鳥インフルエンザの陰に隠れてあまり目立ちませんでしたが、中東・サウジアラビアを中心に、2002年のSARSにも似た新型コロナウイルスによる感染が広がっています。

“コロナウィルスとは、代表的な風邪(呼吸器感染)を引き起こす原因とされているウイルスのことで、2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)もこれに含まれる。新型のコロナウイルスは2012年サウジアラビアで発生が報告されて以来、じわじわと報告が増え続けている”【6月5日 医療人材。NET】

この新型コロナウイルス感染は発生地域から「中東呼吸器症候群」と命名され、死者数は31名になっています。

****中東呼吸器症候群、サウジで新たに1人死亡 世界全体の死者51人(“31人”の誤り:筆者注)に****
世界保健機関(WHO)は7日、サウジアラビアで中東呼吸器症候群(MERS)を発症していた男性1人が死亡し、この病気による世界全体の死者は31人になったと発表した。

新たに死亡したのは同国東部アフサーに住む83歳の男性で、先月27日に中東呼吸器症候群を発症し、同月31日に亡くなったという。今年4月には、同じ地域の医療機関で、中東呼吸器症候群の原因となるマーズコロナウイルスの集団感染が発生している。

WHOによると、サウジアラビアでこれまでにマーズコロナウイルスへの感染が確認されたのは41人で、うち26人が死亡している。2012年9月から現在までに検査機関などで確認されWHOに報告された感染者の数は世界全体で55人となっている。

「新型コロナウイルス」と呼ばれていたこのウイルスは先月、感染者が中東地域に集中していることから、「中東呼吸器症候群」ウイルス(マーズコロナウイルス)と命名された。【6月8日 AFP】
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中東ではサウジアラビアのほか、UAE、ドバイで、また中東と人の移動が多い欧州のイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、北アフリカのチュニジアで感染が報告されています。
中東呼吸器症候群は呼吸器だけでなく肝臓や賢蔵や腸などにも感染するおそれがあり、多臓器不全の可能性を持っているためにSARSを上回る脅威になるとして注意が呼びかけられています。

致死率が50%を超え、治療方法、感染防止方法が全く分かっていないことから、WHOのチャン事務局長は5月下旬、「現在私にとって最大の懸念は新型コロナウイルスである。一つの国だけで対処できるものではなく、全世界への脅威の一つである。」と語っています。

ウイルスのヒトからヒトへの感染力が強いと、一気に拡大するおそれがあります。WHOの発表では、いまのところは「人から人に感染する可能性がある」ものの、「ヒト・ヒト感染は限定的」と見られています。
ただ、よく言われるようにウイルスは変異しますので、今後の保証はありません。

****コロナウイルス:人間同士も感染 WHOが可能性示唆****
・・・・WHOは12日の報道声明で、多数の国で感染が同時多発していることから、感染者と長期間、同室で過ごすなど「密接な接触」がある場合、「人から人に感染する可能性がある」と警鐘を鳴らした。その一方、「ヒト・ヒト感染は限定的で、今のところ、ウイルスが大規模な感染を引き起こす能力を持っている証拠は見つかっていない」とも指摘した。

WHOによると、新型ウイルスに感染すると、重い肺炎を発症する場合が多い。感染者の多くは高齢男性。感染経路などの詳しい事情は分かっていない。【5月13日 毎日】
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新型の感染症が起きたとき、世界中への感染拡大のきっかけとなることが懸念されるのが、世界各国から100万人単位の人々が集まり、帰国する、イスラム教徒のメッカ巡礼です。
しかも、今回はメッカのあるサウジアラビアが感染の震源地です。

****メッカ:巡礼イスラム教徒の間に新型ウイルスへの不安****
サウジアラビア西部にあるイスラム教の聖地メッカへ巡礼に向かうイスラム教徒の間で、新型肺炎(SARS)ウイルスに似た新型コロナウイルスへの不安が広がっている。

これまでメッカへの巡礼者2人が新型ウイルスによる感染症で死亡している。6月以降、巡礼者が増えると予想されるため、イスラム教徒が多い国では懸念が強まっている。

「巡礼中は十分に休養を取り、決して無理はしないように」。エジプト保健省は今月中旬、巡礼者に対し、新型ウイルスに注意を呼びかける声明を発表。マスクの着用や手洗いの励行など14項目の予防策を列挙した。21日にはメッカから帰国したチュニジア人男性(66)が新型ウイルスによる感染症で死亡したことが判明した。

新型ウイルスは昨年9月、サウジを訪れたカタール人男性から見つかった。世界保健機関(WHO)によると、感染者は中東や欧州で44人に上り、うち22人が死亡。感染例の半数以上はサウジだ。感染の詳しいメカニズムは不明だが、WHOは人から人に感染する可能性を指摘している。

メッカでは例年、ラマダン前後に巡礼者が多く、今年は6〜8月に巡礼者が増えると予想される。さらに10月には200万人以上が集うハッジ(大巡礼)が控えている。ただ、イスラム教徒の義務でもある巡礼を規制するのは難しく、各国ともサウジへの渡航については制限していない。【5月24日 毎日】
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“イスラム教徒の義務でもある巡礼を規制するのは難しく”とは言うものの、今後の状況次第では対策が必要になります。

【「顧みられない熱帯病」】
感染症関連で、明るい話題を目にしました。
貧困に苦しむ途上国では3大感染症(エイズ、マラリア、結核)による犠牲者も多いのですが、三大感染症以外にも、熱帯地域の途上国では貧困層を中心に多くの寄生虫、細菌感染が蔓延しています。

ただ、こうした感染症の対象となっている熱帯地域貧困層は購買力に乏しいため、医薬品業界としては薬剤開発のインセンティブに欠け、「顧みられない熱帯病」とも呼ばれています。デング熱、狂犬病、メジナ虫症などがこれにあたります。
(デング熱:2010年10月13日ブログ「アジア各国でデング熱の感染拡大」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101013

*****途上国向け新薬、一丸で 官民で95億円基金 欧米追い「熱帯病」治療薬****
途上国向けの新薬開発を支える基金を、政府と製薬業界が今春つくった。今後5年で官民で計95億円を出資し、途上国に患者がたくさんいるのに、よい治療法がまだない病気の薬を業界横断で研究するためだ。新薬を足がかりに、欧米に比べ出遅れるアジアやアフリカの成長市場に入り込むねらいだ。

「1社だけでは難しい途上国向けの新薬開発の橋渡し役になる」。塩野義製薬の手代木功社長(日本製薬工業協会長)は、横浜で1日あった第5回アフリカ開発会議(TICAD5)の会場で、基金設立への期待をこう語った。

基金の名称は「グローバルヘルス技術振興基金」。政府と、塩野義、アステラス製薬、エーザイ、第一三共、武田薬品工業の大手製薬5社と、米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ夫妻の「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」が設立した。

年間約4万人が亡くなる「アフリカ睡眠病」など、途上国でたくさんの患者が苦しむ病気は、世界保健機関(WHO)から「顧みられない熱帯病」と呼ばれている。基金はこうした病気の治療薬を、個別企業や研究機関の枠を超えて研究する資金を提供する。

開発に成功したら、低所得層が使えるようにほぼ原料費で薬を売る計画だ。アステラス製薬の野木森雅郁会長は「短期的な利益は難しいが、長期的にはビジネスに生きる」と話す。
同様な取り組みは、欧米が先行する。米英政府と世界の製薬大手13社は昨年、途上国の「顧みられない熱帯病」17種のうち10種の病気を20年までになくすように協力すると宣言した。

 ■将来の市場拡大、視野
官民で新たに基金をつくる背景には、製薬会社の海外展開の遅れへの危機感がある。日本の製薬会社は海外より規模が小さく、途上国に目を向ける余力がなかった。最大手の武田の長谷川閑史社長は「(途上国では)経験や実績に乏しく、先進国でのとりくみとはかけ離れている」と話す。

途上国向けは、細菌やウイルスで発症する感染症の薬の開発が求められる。先進国向けと同様に大きな研究費が必要だが、現時点では実用化しても売値が安く、利益を見込みにくい。

一方、途上国は大きく伸びていく市場だ。調査会社「IMSインスティテュート」によると、アジアやアフリカなどの途上国の医薬品市場は11年に約1900億ドル(19兆円)だが、5年後にほぼ倍の3450億ドル以上に伸びる見通し。

政府が5日公表した成長戦略の素案でも、途上国向けの医薬品開発が盛り込まれた。エーザイの内藤晴夫社長は「成長の鍵は新興国。感染症患者を減らせば、将来的に現地の購買力がつき、市場も拡大する」と話す。【6月8日 朝日】
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当然、私企業の事業ですので、慈善事業ではなく、なんらかの将来的な見返りを期待しての話ですが、「顧みられない熱帯病」に目が向けられ、患者の手の届く金額で薬剤が供給されることは大きな進展です。
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パプア・ニューギニア  頻発する「魔女狩り」 近年強まる魔術信仰

2013-06-07 22:34:11 | 世相

(パプアニューギニア・ラバウルのマーケット 「魔女狩り」を行うのは、観光パフォーマンスで目にするような鼻に骨を刺して腰みの・羽根飾りを着けた人々ではなく、こうした普通の暮らしをしている人々です。 “flickr”より By Rita Willaert )

貧困によるストレスが魔術を口実にした弱者攻撃の要因になっているとの指摘も
呪術・魔術といったものに頼ることが多いのは、別に科学知識のなかった過去の社会、あるいは現在の未開社会だけの話ではなく、日本を含めた世界に共通する現象です。
科学技術の進んだ現代社会にあっても、世の中の出来事の多くは人の努力だけではどうにもならない部分があり、人々が人知を超えたものに願いを託すというのは人類共通の文化人類学的事象でしょう。

そうは言っても、生命にかかわる話となると放置はできず、厳しい対応が必要になります。
このブログでも何回かとりあげたことがあるのは、アフリカ南部・中部でアルビノ(先天性白皮症)の人々の体の一部を使った魔術が横行し、そのためにアルビノの人々が襲われ、その体が売買されるという風潮です。

****選挙間近、当選祈願で狙われるアルビノ住民 政府に保護要請****
今年後半に総選挙が予定されているアフリカ南東部スワジランドで、アルビノ(先天性白皮症)の人々が、体の一部を当選祈願の呪術の「護符」に使われる恐れがあるとして政府に保護を求めている。

スワジランドを始めとする一部のアフリカ諸国では、伝統薬や魔術を駆使する呪術師が「万能」の存在とみなされている。こうした呪術ではアルビノの手足や体の一部が魔よけとして使われるため、アルビノ襲撃事件が後を絶たない。

南部ンランガーノのアルビノ・コミュニティーのリーダー、Skhumbuzo Mndvoti氏は、AFPの取材に「当局はわれわれの安全を保障しなければならない」と訴えた。「アルビノの人々や、アルビノの子を持つ親たちは、くれぐれも注意する必要がある」

ンランガーノでは、2010年にアルビノの人たちが相次いで殺害され遺体の一部を切り取られる事件が起きている。特に子供2人が首を切り落とされて殺された事件では、地元住民らがパニックに陥った。

シフォ・ドラミニさん(28)は、アルビノ殺害は常態化しているにもかかわらず、これまではアルビノ住民の慣習と関連付けて実態がごまかされてきたと指摘する。「昔から、アルビノの人たちは死期を悟ると誰にも見つからない遠いところへ行って死ぬのだと言い伝えられてきた。でも、本当は彼らは殺されていたんだと思う」

Mndvoti氏は呪術医たちが、アルビノの人体の部位を護符にすれば選挙で勝利したり仕事がうまく行くなどという迷信を人々に植え付けたと非難。アルビノの人々は選挙期間中、「子ども達は集団で登下校し、1人で自宅にいることがないようにするべきだ。大人も、夜間は出歩くのを避けるほうがいい。アルビノ襲撃事件は外が暗くなってから多発している」と警告している。

ンランガーノのアルビノ住民たちは、政府が特別な安全対策を取らない場合は投票をボイコットすると主張している。【5月24日 AFP】
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アフリカ以外で、魔術絡みの殺人を最近よく聞くのが、南太平洋のパプア・ニューギニアです。
TV番組「奥様は魔女」を観て育った世代のため、魔女と言うと何か可愛げなものをイメージしたりもしますが、現実世界の「魔女狩り」は残酷です。

****魔女狩り:20歳女性が焼き殺される パプアニューギニア****
 ◇現場で警官も制止できず
南太平洋・パプアニューギニア西部の山岳部にあるマウントハーゲンで6日、他人の子供を魔術で殺したとして20歳の女性が群衆に焼き殺された。
同国は魔術を違法としているが、魔術を信じる風潮が残り「魔女狩り」が後を絶たない。

国連人権高等弁務官事務所は同国政府に「このような犯罪を止め、加害者を裁き、国際法に従って迅速かつ公平な調査を実施する」よう求めた。

AP通信などによると、きっかけは5日に病院で病死した男児(6)の親族が、ケパリ・レニアータさん(20)という女性の魔術で殺されたと主張したこと。レニアータさんは翌朝、子供を含む多数の住民環視の中、服をはぎ取られ、焼きごてを当てられた。縛られたままガソリンをかけられ、ごみやタイヤの山の上で火を付けられ焼死した。

警察官がいたが、制止できず、誰も逮捕できていない。レニアータさんの夫も容疑者に含まれているとされるが、男児の親族との関係は不明。レニアータさんが殺害を認めたとの情報もある。

約800の部族から成るパプアでは精霊信仰が残る。政府は71年に法律で魔術を禁じたが、人口の8割は今も信じているとされる。マウントハーゲンでは09年にも若い女性が火あぶりにされた。一方、貧困によるストレスが魔術を口実にした弱者攻撃の要因になっているとの指摘もある。【2月11日 毎日】
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上記事件が起きたマウントハーゲンでは、その前週に8歳の女児が性的暴行を受けて殺害された事件があり、魔術で女児を殺した疑いがかけられた高齢女性2人が拷問され、火あぶりにされかけたところを2月11日に警察によって救助されたとも報じられています。【2月19日 AFPより】
“こうしたパプアニューギニアに残る「魔女狩り」の風習については、国連や米国、オーストラリアが非難を表明。パプアニューギニアのピーター・オニール首相も「野蛮」な慣習と強く批判している。パプアニューギニアでは魔術が広く信じられており、不幸や人の死を自然なこととして受け止められない人が多いなか、警察は国民に対し、自らの手で物事を裁く慣習をやめるよう繰り返し呼びかけている。”【2月19日 AFP】

しかし、この種の「魔女狩り」事件は後を絶たないようです。

****パプアニューギニアでまた「魔女狩り」、女性2人が首はねられる****
南太平洋のパプアニューギニアの村で先週、高齢女性2人が魔術を使ったとして、3日間にわたる拷問の末に首をはねられて公開処刑された。地元紙が8日、報じた。

地元紙ポストクーリエによると、現場には警察官が駆け付けたが、感情的になった多数の群衆を前に処刑を止められなかったという。ブーゲンビル州の警察当局者は、同紙に対し「警察は無力だった。なす術がなかった」と語った。駆け付けた警察官らが2人を解放するよう交渉したが、逆に命の危険を感じる状況だったという。

この当局者によれば女性らは、最近死亡した元教師を魔術で殺したと疑われ、遺族らに2日に身柄を拘束された。2人は縛られてこの元教師の出身地であるLopele村に連れていかれ、3日間にわたってナイフや斧で傷つけられた後、公開処刑で首を切り落とされたという。

パプアニューギニアでは数日前にも、魔術を使ったと疑われた女性6人が、熱いアイロンを押し付けられて虐待される事件が起きたばかり。また3月には、20歳の女性が魔術を使ったとして火あぶりの刑で公開処刑されている。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、同国における魔術をめぐる暴力を止めるよう訴えている。【4月8日 AFP】
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魔術の使用を禁じる「魔術法」を廃止
パプアニューギニアでは、こうした「魔女狩り」殺人のほか、今年4月だけでも、オーストラリア人男性が射殺され、一緒にいた女性が集団レイプされる事件、夫、地元ガイドが縛られ、アメリカ人の女性研究者が集団レイプされる事件などの暴力事件が起きています。

政府はこうした暴力事件の横行に対し、死刑復活を含めた厳罰化、「魔術法」廃止を決めています。
これまで魔術の使用を禁じる「魔術法」が存在し、これが「魔女狩り」に悪用されることが多かったようです。

****パプアニューギニア、死刑復活へ 「魔術法」は廃止****
南太平洋パプアニューギニアのピーター・オニール首相は1日、暴力犯罪の撲滅には厳罰が必要だとして、死刑の復活や強姦(ごうかん)罪への終身刑の適用など、現行法を改正する方針を閣議決定したと発表した。
また、物議を醸していた魔術の使用を禁じる「魔術法」を廃止するほか、麻薬やアルコール絡みの犯罪を厳罰化するという。

今回の法改正の焦点は、これまで国家反逆罪、海賊行為、故意の殺人に限られていた死刑の適用範囲を拡大することだ。パプアニューギニアでは1954年以降、死刑は執行されていない。改正後の死刑の方法としては、「薬物注入や電気椅子より人道的で安価だ」として、銃殺刑を検討しているという。

また、「魔術法」廃止に伴い、今後は魔術を行ったことを理由にした「処刑」行為は、通常の殺人と同様に裁かれることになる。1974年に制定された「魔術法」は、敵を陥れるために悪用されているとして国際社会が撤廃を求めていた。

パプアニューギニアでは今年に入ってから、魔術で殺人を行ったとして20歳の女性が火あぶりにされたり、高齢女性が斬首される事件が発生。外国人女性を標的とした集団レイプが相次ぐなど、女性が犠牲となる事件が頻発している。世界各地の人権団体などから改善を求めて100を超える請願書がパプアニューギニア政府に寄せられている。 

法改正は5月末の議会での承認を経て発効する見込み。【5月2日 AFP】
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強まる魔術信仰 魔術によって何らかの経済的な利益を得る人々がいることが原因
“不幸や人の死を自然なこととして受け止められない”ことからの「魔女狩り」とか、“貧困によるストレスが魔術を口実にした弱者攻撃の要因になっている”といったことは、ある程度想像もできますが、“人々が魔術を使ったと非難されることを恐れて事業などで成功したがらないため、これが経済発展の妨げになっている”というほど事態は深刻なようです。
こうした事態は、近年むしろ強まっているようです。

****南太平洋の国々で魔術信仰が増加、研究者らが懸念****
魔術を使って息子を殺したと疑われた女性が火あぶりで殺害される事件があったパプアニューギニアなど南太平洋の島国で、魔術や魔力を信じる傾向が高まっていると、専門家らが警告している。
ソロモン諸島国立博物館の元館長、ローレンス・フォアナオタ氏は、オーストラリアの首都キャンベラで開かれる魔術信仰の問題点を協議する会議を前にAFPの取材に応じ、ソロモン諸島で魔術を信じる傾向が高まっていることへの危惧を示した。魔術によって何らかの経済的な利益を得る人々がいることが原因だという。

こうした傾向について、特に若者の間で早い段階で手を打たなければ、パプアニューギニアのようにソロモン諸島でも実際に殺人に走る人々が出てくると同氏は懸念する。パプアニューギニアでは今年2月、魔術を使って6歳の息子を殺した疑いをかけられた20歳の女性が、服をはぎとられて縛られた上、見物人の前で火をつけられて殺害された。その後も4月に、黒魔術を使ったとして高齢の女性が公開処刑で首をはねられる事件が起きている。2月の事件を受けてパプアニューギニア政府は、暴力犯罪の撲滅には厳罰が必要だとして現行法を改定し、死刑を復活させる方針を打ち出しているが、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルや国連はこれを批判している。

文化研究機関、メラネシアン研究所のジャック・ウラメ牧師は、パプアニューギニアに広がる魔術信仰を一掃するために、キリスト教団体はもっと大きな役割と果たせるはずだと語る。「世代間の断絶が原因で、キリスト教の価値観が次世代に引き継がれていない。それで人々は病気や死の理由付けとして伝統的な魔術信仰に回帰している」またキャンベラで共同議長を務めたオーストラリア国立大学のミランダ・フォーサイス氏は、パプアニューギニアやソロモン諸島、バヌアツなどでは、人々が魔術を使ったと非難されることを恐れて事業などで成功したがらないため、これが経済発展の妨げになっていると指摘した。【6月7日 AFP】
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ミャンマー  根深いイスラム教徒・ロヒンギャ問題

2013-06-06 22:24:13 | ミャンマー

(ミャンマーで暮らすイスラム教徒の子供 “flickr”より By Midhat Abd Elkader  http://www.flickr.com/photos/76052327@N08/8703560723/in/photolist-eg72nM-etC7iQ)

【「忌まわしく非人道的だ」】
ミャンマーのロヒンギャなどのイスラム教徒と国民の大多数を占める仏教徒の対立・衝突については何回も取り上げてきましたが、先月末にも衝突が報じられています。

****ミャンマー東部で仏教徒とイスラム教徒が衝突****
ミャンマー東部シャン州ラショーで28~29日、仏教徒とイスラム教徒の衝突が発生し、男性1人がナイフでめった切りにされ死亡したほか、4人が負傷した。

国営英字新聞「ミャンマーの新しい灯」によると、きっかけは28日に仏教徒の女性が襲撃を受けたことで、孤児院とモスクが放火され全焼したほか、複数の商店や民家が放火されたという。

AFPが地元警察や地元当局に取材したところによれば28日、仏教徒のシャン人の女性がガソリンを売っていたところ、イスラム教徒の男にガソリンをかけられ火をつけられた。逮捕された男は、女性に火をつけたことを認めているという。

地元住民によると29日には、徒党を組んで武器を手にイスラム教徒を探す仏教徒たちが見られた。30日現在は治安部隊が介入し、現地のAFP記者によると町は一見、落ち着きを取り戻しているという。【5月30日 AFP】
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“ミャンマー国内では4月末にも最大都市ヤンゴン北郊の町オッカンで、少年の見習い仏教僧にイスラム教徒の女性がぶつかったことをきっかけに両教徒の大規模な暴動に発展している。両教徒の間では、ささいな事件やうわさで、いつどこで暴動が起きるか分からない緊張感が続いている”【5月29日 毎日】

真偽のほどはともかく、“ガソリンをかけられ火をつけられた”というのは“ささいな事件やうわさ”とは言えませんが、すぐに発火する緊張状態にあることは間違いありません。

この事件と同じ頃、対立の大きな火種となっている西部ラカイン州のロヒンギャに関して、差別的な人口抑制策「ふたりっ子政策」が報じられています。

****ミャンマー「イスラム教少数民族 子供2人まで」 批判相次ぐ*****
ミャンマー西部ラカイン州の一部で29日までに、イスラム教徒の少数民族ロヒンギャ族に、子供を2人までに制限し、一夫多妻制を認めないとする措置が導入された。ロヒンギャ族や人権団体などは「差別だ」と強く反発しており、新たな軋轢(あつれき)を生んでいる。

この措置が導入されたのは、バングラデシュと国境を接するラカイン州の北部にあるマウンドーとブティダウン。いずれも人口の大半がロヒンギャ族で、仏教徒は少数派。ラカイン州では昨年10月、両教徒の衝突で約200人が死亡し14万人の避難民を出している。

今回の措置について、州の報道官は「特定のグループ(ロヒンギャ族)だけに適用され、仏教徒には必要がない。(ロヒンギャ族の)急激な人口増加を管理するものだ」と説明した。

昨年の衝突を調査した政府の調査委員会は今年4月、ロヒンギャ族の急激な人口増加が、仏教徒住民の不安を増幅させ衝突につながったとし、出産率を抑えるよう勧告している。州報道官は「規則は政府の勧告に沿ったものだ」とした。

これに対し、ロヒンギャ族側は「『急激な人口増加』と言うが、これは誤った主張だ。この地では昔からロヒンギャ族が多数派で、人口も過密していた。政府や州は軍事政権時代から、ロヒンギャ族の人口と権利の制限をもくろんできた」と反発している。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは「忌まわしく非人道的だ。州は出産制限措置を正当化するため、政府勧告を利用しようとしている」と非難した。野党・国民民主連盟(NLD)の党首、アウン・サン・スー・チー氏も「人権に反する」と述べた。

州の措置と政府との関係は完全には明らかになっていないが、昨年の衝突ではその後、主なイスラム教国などがミャンマー政府を批判しており、今回も同様の反応が予想される。

一方、東部シャン州では28日、ラーショーで仏教徒がモスク(イスラム礼拝所)や民家に放火するなどして数人が負傷した。29日も1人が死亡、4人が負傷した。【5月30日 産経】
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ロヒンギャ族はミャンマーのイスラム教少数民族の一つで、15世紀に現在のバングラデシュから流入したとの説があり、現在ミャンマー国内では約80万人が暮らしています。ミャンマー政府はロヒンギャ族を不法「移民」と見なして国籍を与えず、武力弾圧などを行ってきました。

一方、バングラデシュでも多くのロヒンギャが劣悪なキャンプ生活を強いられており、逃避したした先のタイやインドネシアでも追い返されるなどの対応を受け、“存在を否定された民族”として、その人権保護が国際的に問題となっています。

確認していない・・・本当であれば・・・「人権侵害だ」】
民主化運動指導者としてのスー・チー氏の対応も注目されてきましたが、ロヒンギャがミャンマー国内で嫌悪されている状況でロヒンギャに肩入れすることは政治的リスクをおかすことにもなり、これまであまり積極的な発言はありませんでした。
そのことが、スー・チー氏に期待を寄せる人々・団体からは失望を買うことにもなっています。

スー・チー氏は、今回の産児制限問題に関しては“「人権に反する」と述べた”とのことですが、“記者団に(産児制限の)命令を確認していないとしながら「本当であれば違法であり、人権侵害だ」と語った。”【5月29日 朝日】とのことで、やや及び腰な慎重姿勢もうかがえます。

****少数民族問題でスー・チー迷走中****
少数民族に課される「2人つ子政策」にようやく重い□を開いたが
・・・・「そういう差別は良くない。人権擁護にも相反する」と、ノーベル平和賞受賞者のスー・チーは先週ヤンゴンで語った。ただし産児制限が実際に行われるかどうかは知らないと語った。
(中略)
ロヒンギャ族の人口は推定約80万人。昨年はラカイン州で起きた民族間の衝突で192人が死亡し、約14万人が避難民となった。だがこのときスー・チーはロヒンギャ族を明確には擁護せず、国際社会から批判された。
(中略)
2人っ子政策と共に一夫多妻制も違法とされるが、これらはロヒンギャ族が直面してきた問題のほんの一部でしかない。不法移民として扱われていることから市民権を認められないため、基本的な行政サービスや教育も受けられない。

スー・チーの側近であるニャンーウィンも「ロヒンギャという民族集団はない」という見解を示している。「ベンガル人が考案した名称だ。だから彼女(スー・チー)はロヒンギャについて何も言えない」

スー・チーは4月に東京を訪れた際にこの問題に触れ、自分は「魔法使いではない」と述ベていた。【6月11日号 Newsweek日本版】
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まあ、「魔法使いではない」野党政治家スー・チー氏への過度の期待は酷な面もあります。
特に、次期大統領を目指すスー・チー氏は、国民多数派の支持を失うようなリスクは避けたい現実もあります。
ただ、民主化勢力を含めたミャンマー国民のロヒンギャへの頑なな姿勢には、どうして民族・宗教の枠から踏み出すことができないのか・・・残念な思いを感じます。

スー・チー氏は以前から大統領を目指すことを否定していませんが、改めてその意思を明確にしています。
当然ながら、重要なのは大統領になることではなく、大統領として何をなすかです。

****大統領に意欲、重ねて表明=スー・チー氏―ミャンマー****
ミャンマーの最大野党国民民主連盟(NLD)党首アウン・サン・スー・チー氏は6日、首都ネピドーで開催中の世界経済フォーラム(WEF)東アジア会議の討論会で、「私は大統領に立候補したい」と述べ、2015年の次期総選挙を経て議会で選ばれる大統領就任を目指す考えを重ねて表明した。

スー・チー氏はこの中で「私が大統領になりたくないように振る舞っていたら、国民に誠実ではない。国民に誠実でありたい」と語った。4月に訪日した際の記者会見で「政党のトップで、国家のトップになりたくない人はいるだろうか」などと語り、大統領職への意欲を示していた。【6月6日 時事】
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不十分との批判はあるものの、前進する民主化・少数民族問題
一方、民主化の不十分さ、少数民族との和解の停滞が指摘される現政権、テイン・セイン大統領ですが、こちらも「魔法使いではない」のでやむを得ないところです。
それでも、幾分かは前向きな話も報じられています。

****ミャンマー大統領、「良心の囚人」を全員釈放へ****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は4日、ラジオ演説をし、政治犯など思想や信条を理由に拘束されている「良心の囚人」を近く、全員釈放する意向を明らかにした。

首都ネピドーでは5日から、各地の財界人が集う世界経済フォーラム東アジア会議が開かれる予定で、民主化への取り組みをアピールする狙いとみられる。

大統領は演説で、「(受刑者が)刑事犯か政治犯かを精査中」と説明。対象となる受刑者の数は明らかにしなかったが、タイに拠点を置く人権活動団体は、160人以上の政治犯が収監されていると指摘している。【6月5日 読売】
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政治的な思惑もあっての判断でしょうが、全ての政治犯が釈放されればミャンマー民主化の大きな成果ともなります。アジア・世界には政治犯を多数拘束している国は珍しくありません。

少数民族との和解については、大統領の意向にもかかわらず、現地の軍が従来からの強硬姿勢を変えないといった面もありました。

“テインセイン政権は12年1月、ビルマ独立(48年)当時から武装闘争を続けてきたミャンマー東部カレン族の武装組織「カレン民族同盟(KNU)」と歴史的な停戦合意にこぎつけた。だが一方で、94年に停戦合意していたKIA(カチン独立軍)との戦闘が再開。「民主化」に逆行する動きに国際社会から厳しい目が向けられていた。”【5月31日 毎日】

そのカチン独立軍との停戦にも合意できたようです。

****ミャンマー政府とカチン独立機構、戦闘停止合意****
2年近く戦闘状態にあったミャンマー政府と北部カチン州の少数民族勢力「カチン独立機構」が5月30日、戦闘停止に合意し、7項目の文書に調印した。6月中にも正式な停戦協定調印が行われる見通しだ。

テイン・セイン政権は、カチンを除く10の主要少数民族勢力と停戦を果たしており、最後に残った主要勢力とも停戦することになる。これにより、すべての勢力との和平を目指す一体交渉の前進が期待される。

カチン州の州都ミッチーナで3日間の協議の末調印された文書には、〈1〉政府軍とカチン側軍事部門「カチン独立軍」の戦闘停止〈2〉カチン側が求める自治権拡大を巡る政治対話継続〈3〉停戦監視委員会の設置〈4〉戦闘で発生した避難民再定住に向けた協力――などが盛り込まれた。【6月1日 読売】
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テイン・セイン大統領は国民によって選ばれた訳ではありませんが、ミャンマーを民主化に向けて大きく転換させた功績は高く評価してよいのではないでしょうか。
大統領を狙えるようなスー・チー氏の現在があるのも、テイン・セイン大統領あってのことです。
ほんの数年前のことを考えると、その実績は「魔法使いのよう」でもあります。いささか褒めすぎでしょうか。
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トルコ  長引く“反エルドアン首相”デモ  強気な性格が裏目に

2013-06-05 22:43:42 | 中東情勢


(抗議デモ参加者から「独裁者」批判を受けるエルドアン首相 ”flickr”より By Michael Fleshman )

【「エルドアンは王のように振る舞い始めた」】
トルコ最大都市イスタンブールで若者を中心とした反政府・反首相の抗議行動が続いています。

デモの発端となったのは、イスタンブール中心部のタクシム広場付近の再開発計画で、公園の木を伐採しようとした行政当局に対し市民グループが中止を求めたという“ささやかな”出来事でした。

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・・・・・デモ隊は、広場の中心に立つアタチュルク(Ataturk)記念碑の向かいあるタクシム・ゲジ公園の取り壊し工事の阻止を求めていた。建設計画では、高度に商業化したイスタンブールに残る緑の「最後の砦」である公園の跡地にショッピングモールを建設し、オスマン帝国時代の兵舎を再建する予定だ。

イスタンブールの裁判所は31日夜、計画の一時停止を命じたが、計画自体が中止されるかは定かではない。

イスタンブール市のカディル・トプバシュ市長は、デモ参加者の多くは「純粋に緑や環境を気にかけている」人々だが、「政治的意図」を持つ者たちに操られていると語った。

公園の取り壊しは、広場周辺を歩行者専用道路とするために昨年11月に始まった建設計画の一環だ。タクシム広場は、昔から集会やデモの場として使われてきた他、人気の観光スポットともなっている。
賛否両論の同計画は、広場周辺の慢性的な交通渋滞の緩和と、外観の美化を目的としている。だが反対派は、計画は広場を魂のないコンクリート商業地域に変え、地元住民を追い出すものだと批判している。【6月1日 AFP】
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この再開発反対デモを警察が強引に鎮圧しようとしたことが、イスラム主義・権威主義的な傾向を強める政府・首相に対する若者ら不満に火をつけ、騒動は雪だるま式に拡大してしまいました。
4日からは左派系労働組合がストに入り、抗議行動を支援しています。

****労組ストでデモ拡大も=収拾困難、一部暴徒化―トルコ*****
トルコ各地に広がった反エルドアン政権デモで、24万人が加入する左派系の主要労働組合が4日から2日間のストライキを開始した。組合員の参加でデモがさらに拡大しそうだ。

衝突が激化してから5日目となる4日未明も、イスタンブールではデモ隊と警官隊が対峙(たいじ)。これまでデモに関連して死者が2人出たことでデモ隊の反発は強まっており、事態は長期化する可能性が出てきた。
人権団体などによると、イスタンブールで1000人以上、首都アンカラでは700人が負傷した。

デモは全国67都市に波及している。西部イズミルでは、イスラム系与党、公正発展党(AKP)の事務所に火炎瓶が投げ込まれるなどデモ隊の一部が過激化している。【6月5日 時事】 
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各紙が報じているように、今回の抗議行動はエルドアン首相への反感という側面が強く出ています。

****トルコデモは「反首相」…世俗主義逸脱と反感****
トルコ各地で続く反政府デモは、5日目となる4日も首都アンカラや最大都市イスタンブールなどで続いた。
今回のデモの背景には、トルコの国是である世俗主義からエルドアン首相が逸脱し始めたと見る、一部国民の強い反感がある。(中略)

大学生アルペル・ペルチンさん(23)は「トルコの貧富の格差は広がるばかり。大学を出てもコネがなければ就職もできない。この上、国がイスラム化すれば、経済成長も止まってしまう」と危機感をあらわにした。
ホテル従業員の男性(40)は「エルドアンは王のように振る舞い始めた。10年の長期政権で勘違いした自信を深め、世俗主義を捨てた」と不満をぶちまけた。

エルドアン氏は2003年の首相就任後、現実路線でトルコに高成長をもたらした。ところが今年に入り、イスラム色を強めている。
トルコ国会は5月、与党・公正発展党の主導で夜間の酒類販売を禁じる法案を可決。 敬虔 ( けいけん )なイスラム教徒として飲酒しないエルドアン首相の意向を受けてのこととされる。英語教師バイラム・エルクルさん(28)は「私もイスラム教徒だが、政治が私生活に立ち入ることは許せない」と憤った。【6月5日 読売】
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卓越した指導力を発揮するも、イスラム化加速も】
国内的には経済成長を実現し、国際的にはイスラム民主主義のモデル国として高い評価を得、また、混乱する中東地域にあってイスラエルやシリア・アサド政権への強い姿勢を明らかにして、トルコは地域大国としての存在感を強めています。

選挙では世俗主義野党を圧倒し、世俗主義の立場からエルドアン首相率いる公正発展党のようなイスラム主義政党の拡大を長年抑え込んできた軍部・司法勢力との力関係も、近年はエルドアン首相に有利な形に逆転していると見られています。

長年トルコ国内でテロ活動を行ってきた武装組織クルド労働者党(PKK)も停戦を明らかにし、5月上旬から段階的にPKK戦闘員がトルコからイラクへ撤退を開始しています。

こうした実績を背景に2020年夏季オリンピックのイスタンブール招致も手の届くところにきています。

歴史に名を残す偉大な宰相への道を歩むエルドアン首相が、自らの業績に大きな自信を持っているのは間違いありません。
ただ、その分、強引な政治手法や本来の立場であるイスラム主義の色合いが強く出てくるようにもなっています。

****アルコール飲料の販売制限=イスラム化の一環か―トルコ****
トルコ国会は24日、アルコール飲料の販売制限や広告の禁止などを盛り込んだ法案を可決した。

トルコは人口の大多数をイスラム教徒が占めるが、政教分離を国是とする世俗国家で飲酒は許容されてきた。今回の措置は、エルドアン政権が進めるイスラム化推進の一環とみられている。

トルコのメディアによると、小売店は午後10時から午前6時までアルコール飲料の販売が禁止されるほか、アルコール飲料会社の広告やスポンサー活動が原則、禁止される。【5月25日 時事】
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****トルコのデモ拡大 イスラム化、反発根強く****
反政府デモが広がるトルコでは、イスラム系の公正発展党(AKP)を率いるエルドアン首相が2003年に就任して以降、徐々にイスラム色の濃い政策を実施してきた。

世俗主義の牙城である軍や司法機関との対立を深め、「独裁的」「強権的」といった批判も出ていた。
デモの拡大は、強権姿勢を強める首相への反発に加え、AKPによる社会の「イスラム化」に対する反動のあらわれでもある。

トルコ政府は今年3月、約30年にわたって政府に対する武力闘争を続けてきたクルド労働者党(PKK)との和解にも歩を進めた。しかし、今回のデモにより、首相は一連の実績を上回るマイナス要因を抱え込みかねないのが実情だ。

トルコでは1923年の共和国移行後、初代大統領ムスタファ・ケマル(アタチュルク)が厳格な政教分離政策を推進。以来、世俗主義は“国是”とされてきた。ところが90年代以降、イスラムの価値観を重視する政党が台頭、世俗主義勢力とのせめぎ合いが表面化するようになった。

地方での支持を背景に政権を獲得したAKPは、禁止されていたスカーフの大学内での着用の容認や、一部でのアルコール販売の制限など、イスラム色の濃い政策を推進してきた。半面、経済自由化で急速な経済成長を実現して高い支持率を誇り、現在は国会で3分の2近い議席を握る。

今回の反政府デモ拡大についてエルドアン氏は3日、世俗主義野党、共和人民党(CHP)が「背後で操っている」との見方を示した。世俗主義勢力の側から見れば、街頭デモに活路を見いだそうとしていると考えることもできる。
主要紙ミリエトのコラムニスト、ギュルセル氏は、今回のデモは「エルドアン政権下での政治の二極化」の帰結だと指摘した。

エルドアン氏は来年予定される大統領選への出馬が取り沙汰され、当選も有力視されている。大統領権限の大幅強化を盛り込んだ憲法改正にも意欲を示しており、デモが収束したとしてもAKPと世俗主義勢力との対立自体は激しさを増す可能性がある。【6月5日 産経】
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デモ参加者は「略奪者」「なまけ者」】
ただ、今回の抗議行動には世俗主義・反イスラム主義勢力だけでなく、PKKとの停戦に反対する民族主義者など、広範な人々が参加していると言われています。

エルドアン首相の強気な姿勢への反感が、経済的格差、イスラム主義の進展、PKK問題などの不満と結びついて噴き出している感があります。
抗議活動に対する警察の厳しい対応も、抗議者の目にはエルドアン首相の傲慢さの表れと映ることでしょう。

一連の騒動にあっても、エルドアン首相は強気の姿勢を崩していません。
2日に行った演説では、「彼らは私を独裁者と呼ぶ。謙虚な公僕が独裁者に例えられるというのなら、私は返す言葉がない」とも述べています。

また、一連のデモの参加者を「過激派」と呼んだ上で、彼らをあおっているのは、世俗主義勢力の中核である最大野党・共和人民党だと非難しています。デモ参加者を「略奪者」「なまけ者」と見下した姿勢も見せています。

3日、モロッコへの外遊を前に開いた会見では、“首相は警官の対応について「ゆるやかだ」と強調。さらに、「国民の半分は(前回の選挙で首相の率いる公正発展党に投票して)支持しており、彼らを何とか自宅にひきとどめているところだ」と述べた。この発言は、政権党の支持者を街に出せばデモ隊との衝突は避けられないが、政権としてそれを抑えているとの趣旨と市民に受け止められた。「市民を脅すような発言」と批判が一気に高まり、「反エルドアン」の声が高まる要因となった”【6月4日 毎日】

モロッコへの外遊に出かけてしまい、その外遊先でも強気な姿勢を崩さないエルドアン首相に代わって副首相が“陳謝”しましたが、抗議者の怒りは収まっていません。

****トルコ反政府デモ5夜連続、政府の陳謝でも鎮静化せず ****
・・・・ビュレント・アルンチ副首相は同日、先週イスタンブールの公園の再開発計画に反対して開かれた平穏な抗議集会を警察が催涙ガスを用いて解散させようとして発生した衝突で負傷したデモの参加者に対し、「環境に配慮して抗議の意を表したにもかかわらず暴力行為の被害を受けた人々におわびを申し上げる」と陳謝した。

ただし、政府が「暴徒」と非難する者に対して謝ったのではないと断った。

さらに同副首相は、「政府は今回の出来事から教訓を得た。政府に国民を無視する権利はなく、また政府は国民を無視できる立場にない。民主主義は反対勢力なくして成立し得ない」とも付け加えた。(後略)【6月5日 AFP】
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近年の反政府行動に共通する要素として、「ツイッター」などソーシャルネットワークが抗議行動を支えています。
抗議者側は、騒ぎを無視しようとするマスメディアを批判していますが、エルドアン首相はソーシャルネットワークを騒ぎの元凶として非難しています。

****トルコ:デモ、SNSで拡大 「報道規制」メディアに矛先****
トルコ各地で続く大規模な反政権デモは6日目を迎えたが収束の兆しは見えず、5日未明、最大都市イスタンブール中心部タクシム広場には1万人近い市民が集まった。

怒りの矛先は、政府による「報道統制」や、「自己規制」を繰り返してきたとされる地元メディアにも向けられている。今回、デモを拡大させた要因の一つは若者たちによる「ツイッター」などソーシャルネットワークの利用だったが、エルドアン首相は会見で、「うそが横行する場所といえばツイッターだ」などと厳しく批判。若者の反感を集めている。

タクシム広場にはデモで破壊されたテレビ局の車が放置されている。車体はペンキで落書きされ、地元記者によると、「政府の御用聞きメディア」などと記されている。

大規模デモが始まったのは5月31日だがテレビ局の大半は報道せず、市民の主な情報源はソーシャルメディアや海外メディアに限られた。31日夜、ネットで状況を知った若者らは主要テレビ局の前に集まり、中継などを求めたという。

批判を受けた大手テレビ局の一つ、NTVは4日、番組の中でテレビ局オーナーの言葉として、「視聴者は(我々に)裏切られたと感じている。(批判は)おおむね妥当なものだ」と述べ、デモを当初、正当に取り上げなかったことを事実上、謝罪した。

「自己規制」の背景には、エルドアン政権による「締め付け」もある。特にタブーとされるのが、軍批判やアルメニア人虐殺問題、クルド問題。05年にはノーベル文学賞を受賞した小説家がアルメニア人虐殺問題に言及したとして「国家への侮辱」を禁じる刑法で処罰された。今年4月には、地元紙でクルド問題を特報しようとしたベテラン記者が突然、解雇されている。
最近はテレビや新聞の記者が「規制」を嫌い、インターネットメディアを創設したり、移籍したりする事例が増えている。

「国境なき記者団」がまとめた13年の報道の自由度ランキングによると、トルコは経済協力開発機構(OECD)加盟国34カ国の中で最下位だ。【6月5日 毎日】
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エルドアン首相は“今、ツイッターと呼ばれる脅威が登場している。そこでは、嘘というものの最たる例を見ることができる。私にすれば、ソーシャルメディアは社会に対する最悪の脅威だ。”【6月4日 Newsweek】と、ツイッター批判を行っています。

【「双頭体制」に影響も
広範な立場の人々が参加した今回の抗議行動ですが、エルドアン政権を支えている支持層には及んでおらず、組織的バックアップ・具体的統一要求もなく、おそらく次第に沈静化すると思われます。アメリカの「ウォール街を占拠せよ」に似た感もあります。
一昔前なら、社会混乱を理由に軍が前面に出てくるという展開もあったでしょうが、今は軍にその力はないでしょう。

強気のエルドアン首相が、「政府は今回の出来事から教訓を得た。政府に国民を無視する権利はなく、また政府は国民を無視できる立場にない。民主主義は反対勢力なくして成立し得ない」(アルンチ副首相)という謙虚な姿勢を示すことは・・・あまりないように思えます。

ただ、与党内にあっては、実力者エルドアン首相と、その代理人的立場にあったギュル大統領の間で、次期大統領を巡って確執があるとも報じられています。

****トルコ「双頭体制」に異変あり****
・・・・エルドアン首相とギュル大統領を比べると、その性格や振る舞いは、まさに水と油だ。

エルドアン首相は庶民的であり、歯に衣着せぬイスラエル批判でアラブ社会でも絶大な人気を博す。しかし、時に激高して、外交の舞台ではしばしば悶着を起こしたりもする。これに対し、ギュル大統領は物腰が柔らかく、豊富な外交経験も手伝って協調性を重視。エルドアン首相の起こす騒動の「火消し役」として立ち回ってもいる。

エルドアン首相の卓越した指導力は、確かに誰もが認めるところだ。ギュル大統領もこの点ではかなわない。しかし、ここに来て、首相の独善的とも言える手腕への疑問視も広がりつつある。(後略)【選択 12年12月号】
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この記事を見た時点では、「そうは言っても、やはりロシアはプーチン、トルコはエルドアンでしょう・・・」と思ったのですが、今回の騒動でエルドアン首相の抱える問題点が表面化してきたとも言えます。
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「ウィキリークス」事件のマニング被告の裁判開始 英雄か、売国奴か?

2013-06-04 22:17:35 | アメリカ

(マニング被告を支持する人々 横断幕やプラカードには、「Exposing War Crimes is not a Crime!」「Speaking Truth is a Duty」「 Truth is Patriotic」といったアピールが見られます。 “flickr”より By Bradley Manning Support... )

知る権利と安全保障確保や公的秩序との複雑なバランスの問題
2010年、内部告発サイト「ウィキリークス」によって膨大な量の米軍機密情報やアメリカ外交機密文書が公開され、世界中にその影響が及びました。

公開された情報には、以下のような情報が含まれています。
2010年4月に公開された、2007年7月12日のイラク駐留アメリカ軍ヘリコプターがイラク市民やロイターの記者を銃撃し殺傷した事件の動画
2010年7月に公開された、アフガニスタン紛争に関するアメリカ軍や情報機関の機密資料約75000点以上
2010年10月に公開された、イラク戦争に関する米軍の機密文書約40万点
2010年11月に公開が開始された、アメリカ外交機密文書約25万点
【ウィキペディアより】

「ウィキリークス」による秘密情報の公開については賛否両論ありますが、明らかにされた情報によって隠されていた戦争の真実を知ることができたのも事実です。

****ウィキリークス:強姦、殺害…イラク戦争の秘密文書公開****
内部告発文書をインターネット上で公開する民間ウェブサイト「ウィキリークス」は22日、イラク戦争に関する秘密文書約40万件を公開した。事前に文書の提供を受けた英ガーディアン紙によると、これまで明らかになっていない民間人犠牲者が1万5000人以上いることなどが文書から判明した。

同紙の分析によると、イラク軍や警察当局により組織的に行われていた拷問や強姦(ごうかん)など数百件の事案について、米政府は情報を得ながらも放置していた。むち打ちや電気ショックなどによる拷問で、容疑者が死亡したことを報告する電報も6件見つかった。

また、中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」も22日、米軍の検問所で民間人数百人が殺害されていたことなどを報じ、「驚くべき新事実」とした。

一方、米ニューヨーク・タイムズ紙は、イラクの武装勢力指導者がイラン革命防衛隊とレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラによって訓練されたことを示す公電があったと報じた。

米国防総省のモレル報道官は記者団に、「許可なく秘密情報を公開したことを強く非難する」と語ったうえで、「流出したのは観察に基づく生情報にすぎず、全体の状況を説明するものではない」と強調した。

ウィキリークスは今年7月、アフガニスタン戦争に関する秘密文書約7万5000件を公開。米捜査当局は、別の情報流出事件で拘束されている情報担当の陸軍上等兵がすべてに関与したとみて調べている。【2010年10月23日 毎日】
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こうした情報リークが「政治の透明化」に資するという評価の一方で、リーク情報の信ぴょう性に関する疑問もあります。

****リーク製造工場」ウィキリークス、謎めいた組織とその成果****
・・・・アイスランドのアクレイリ大学のビルギル・グドムンドソン教授(メディア論、政治学)は「機密文書の流出は良いことだ。世界中の政府や当局者に圧力をかけ透明化が進む可能性がある」と評価した上で、「しかし、そういった行為には大変な責任が伴う。(漏えいされた文書は)どういった選別の過程を経たものなのか、またこの組織が最善の選別をしたと信用して良いのか、といった疑問を投げかけることもできる」と語った。(後略)【10月25日 AFP】
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また、「世界的なのぞき行為」とも評されるような、外交や政治決定の舞台裏の暴露は、外交の機能麻痺、情報の今まで以上の不透明化をもたらす懸念もあります。

****ウィキリークス爆弾で外交は焼け野原に*****
・・・・アサンジは7月にアフガニスタン関連の機密文書を暴露した後、「透明性の高い政府こそが正当な政府だ」と主張していた。だが透明性の高い外交とは、建前しか存在しない「報道発表」レベルであるのが現実だ。

今後、米国務省は同盟国との率直な会話や、敵との秘密裏の交渉が行いづらくなるだろう(アメリカは口が軽いと分かっていたら敵が交渉に応じるわけがない)。

さらに厄介なのは、米政府内での率直なやりとりさえ難しくなること。リーク防止策として文書の機密性が高められ、出回る文書が少なくなり、重要性の高い情報については文書という形で記録されること自体がなくなるだろう。
 
(中略)ベトナム戦争に関する国防総省の機密書類「ペンタゴン・ペーパー」や、ウィキリークスが今年になって暴露したアフガニスタンやイラク関係の文書は、非難の的となっている戦争の内情を暴露したり、既知の事実を再認識させるのに役立った。
だが今回の暴露は、極秘の外交交渉という考え方自体に喧嘩を売っているようなもの。こうしたやり方は間違っているだけでなく、馬鹿げている。(後略)【2010年11月30日 Newsweek】
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“知る権利と安全保障確保や公的秩序との複雑なバランスの問題”という、非常に判断の難しい問題です。

****ウィキリークスへの圧力懸念=表現の自由阻害の恐れ―人権高等弁務官****
ピレイ国連人権高等弁務官は9日、当地での記者会見で、内部告発サイト「ウィキリークス」への寄付が、金融機関による口座閉鎖などで妨害されている問題について、「情報公開への検閲ともいえ、表現の自由を認めた権利に抵触している可能性がある」と述べ、ウィキリークスへの圧力に懸念を示した。

弁務官は、同サイトによる機密情報の暴露が「知る権利と安全保障確保や公的秩序との複雑なバランスの問題を提起した」と指摘。創設者のアサンジ容疑者が情報暴露に関する罪を犯した場合は、「公正な手続きに基づく裁判がそのバランスを判断する」と語った。【2010年12月10日 時事】 
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英雄か、売国奴か?】
こうした大きな問題を投げかけた内部告発サイト「ウィキリークス」に機密情報を漏えいし、機密情報不正入手の罪などに問われている米陸軍情報分析官のブラッドリー・マニング上等兵(25)の軍法会議が3日、アメリカ・メリーランド州のフォートミード陸軍基地で始まりました。

****ウィキリークス事件、マニング被告の公判始まる****
内部告発サイトのウィキリークスに、膨大な量の米軍機密情報を漏えいした罪で訴追されたブラッドリー・マニング陸軍上等兵(25)の裁判が、逮捕から3年以上を経た3日、ついに始まった。

米国史上最大規模の機密漏えいとなったこの事件の公判は、首都ワシントンD.C.近郊のメリーランド州フォートミード陸軍基地で初日を迎えた。
公判に出廷した、顔つきに幼さの残るマニング被告は冒頭陳述で、自身に対する罪状のうち10件については有罪を認めた。これらの罪で有罪になれば禁錮20年の刑を受ける可能性がある。

しかし、罪状のうち最も刑が重く、有罪になれば残りの生涯を全て刑務所で過ごすことになる可能性もある「敵対勢力ほう助」罪については無罪を主張した。

初日の公判には国内外から報道陣が詰めかけ、保安検査場を通過し法廷に入るまで列に並んで2時間待たされるという極めて厳重な警備が敷かれた。法廷内では携帯電話などの電子機器の使用が禁止された。

マニング被告は2009年11月から、2010年5月にイラクで逮捕されるまでの間に、イラクとアフガニスタンからの機密軍事記録に加え、世界各国からの外交公電合わせて約70万件をウィキリークスに提供したとされている。
マニング被告の支援者は同被告を内部告発者と捉えている。フォートミード基地の外では降り続く雨の中、約30人のデモ隊が「ブラッドリー・マニング、英雄」と書いた看板を掲げ、「ブラッドリーを釈放せよ」と叫んだ。

公判は12週間にわたって行われる予定。証拠の一部は、国家安全保障上の理由により非公開で提示されることになっている。【6月4日 AFP】
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「敵対勢力ほう助」罪とは、国際テロ組織アルカイダやウサマ・ビンラディン容疑者らに意図的に情報を漏らしたとするもののようですが、それはいささか強引な罪状にも思えます。

「ウィキリークス」の評価同様に、マニング被告についても、“英雄か、国家の敵か”・・・ふたつの評価があります。

****英雄か、売国奴か?ウィキリークスに軍事機密を流した米兵の実像とは****
■ハッカーから米軍分析官に・
・・・マニング被告はオクラホマ州クレセントで、米国人の父親と英国人の母親の間に生まれた。両親は後に離婚。被告は幼いころからパソコンに興味を示し、初めてウェブサイトを作ったのは10歳のときだったという。

17歳までに同性愛者であることを公表。オクラホマ市(Oklahoma City)内のソフトウェア企業に就職したものの4か月で解雇され、ハッカーの世界に足を踏み入れた。その高度な機密情報アクセス技術が認められ、米軍入隊後は米軍情報部で戦場での情報分析官となる。

「私は、物事がどのように動いているかを常にはっきりさせたいタイプの人間だ。分析官としても真実を解き明かしたいと思っていた」と、マニング被告は予審で述べている。

同性愛者だと公言していたため、訓練期間中には同期からいじめを受けた。上官にも軍の生活に適合できないと判断され、除隊を勧告された。
しかし、被告の高度なIT技術はまさに分析官向きで、除隊勧告は取り消された。

■戦場の現実「心の重荷に」
こうして、イラクに派遣されたマニング被告は、そこで情報分析に当たる中で目撃した出来事に激しい衝撃を受ける。それが、やがて不法に機密情報を入手しウィキリークスに漏えいする動機につながっていった。

バグダッドで米軍の攻撃ヘリコプターが路上の通行人を次々と銃撃し、12人を殺害、子ども2人を負傷させた映像が「心の重荷となった」と、マニング被告は法廷で証言している。「彼ら(米兵)は、守るべき人々を非人間的に扱った。人命を尊重しているとは思えなかった。殺害したイラク人をさして『死にやがった』などと言い、大勢を殺すことができたと喜んでいた」

マニング被告のこうした一面は、被告の支援者らが主張する「米外交政策における最悪の逸脱行為を、良心の声に従って明るみに出した」という人物像と一致する。

■英雄視する支援者たち
かつてベトナム戦争に関する米政府の政策決定を分析した国防総省の文書、通称「ペンタゴン・ペーパーズ」を米ニューヨーク・タイムズに漏えいした米軍事アナリストのダニエル・エルズバーグ氏は、マニング被告を「英雄」と呼び、ノーベル平和賞に値すると評価している。

被告を支援する「ブラッドリー・マニング支援ネットワーク」には、裁判費用としてこれまでに110万ドル(約1億1000万円)の寄付が集まった。

一方、マニング被告の動機には同意できないと考える米国人も少なくない。被告とはハッカー仲間で、インターネット上でのチャット中に当時イラクにいた被告が胸中をつづったメッセージを読んだ後で米当局に通報したエイドリアン・ラモ氏も、その1人だ。「私が目にした書き込みは、とんでもなくひどい行為をしたという告白だった。対応が必要だった」とラモ氏は証言している。【6月3日 AFP】
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イギリスのエクアドル大使館に軟禁状態のアサンジ容疑者 活動は継続
話の当然の流れで、「ウィキリークス」の創始者であるジュリアン・アサンジ容疑者は今どうなっているのか?・・・という話になります。

2010年12月、スウェーデンでの「性犯罪容疑」で国際指名手配されていたアサンジ容疑者はイギリスで拘束されましたが、その後保釈され、イギリスで審議が行われましたが、12年5月、イギリス最高裁は同容疑者のスウェーデンへの移送を認める決定を下しています。

その後、アサンジ容疑者は南米エクアドルへの亡命を求めてイギリスのエクアドル大使館に匿われています。
エクアドルは、同容疑者がスウェーデンから更にアメリカに引き渡されると公電暴露によるスパイ防止法違反罪などで死刑になる恐れもあることから、「第三国に引き渡さないと保証すれば、アサンジュ氏はスウェーデン当局の調べに応じる用意がある。だが、保証できなければ亡命を認めるべきだ」と亡命を認めています。

一方、イギリス当局はエクアドル大使館が入るビルの周囲に大勢の警察官を配置し、一歩でも敷地の外に出たら逮捕する態勢を敷くというにらみ合い状態になっている・・・・というのが、昨年末の報道でしたが、今も状況は変わっていないようです。
“アサンジュ氏をめぐる攻防は「米英VS.中南米諸国」の様相も帯びてきた”【12年8月24日 朝日】とも。
近況等については、下記サイトに詳しく紹介されています。

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アサンジは大使館で無駄に過ごしているわけではないようです。最近「キッシンジャー・ケーブル」と呼ばれる1973年から76年までの米国の外交公電や諜報機関の報告書など170万点をウィキリークスにアップしています。

これはリークではなく国立公文書記録管理局(NARA)に眠っていた機密期限の過ぎた公文書です。本来は10年以上前に公開されているはずなのに、ずっと放置されたままだったものをウィキリークスが入手し、インデックスをつけてデータベース化して、誰でもネットから閲覧検索できるようにしたものです。”【5月29日 Democracy Now!】http://democracynow.jp/dailynews/2013-05-29*********************
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エジプト  経済問題深刻化のなかで深まる政治的混迷

2013-06-03 22:51:43 | 北アフリカ

(2008年2月 補助金により安く抑えられたパンに群がる人々 08年は世界的な食糧価格上昇を受けて、エジプトでも補助金による安いパン供給が削減され、大きな社会混乱を招きました。
食料・燃料など生活必需品価格を補助金で抑制することで国民の不満を糊塗するという構図は今も変わっておらず、その維持は財政難に苦しむ政権にとっては深刻な足かせとなっています。
写真は“flickr”より By Nasser Nouri http://www.flickr.com/photos/41884183@N08/5103679620/in/photolist-8LZG9d-8LZJG3-8LWC9p-8LWJNZ-8LZB4b-8LWzsn-8LZHAN-e18wGs-9eWCGd-ckasas-9pfm6k-9bvgek-bpcnqH-9Apdis-bnzMpD-b6PELD-9juxbw)

国民はモルシ大統領に改革を実行する能力がないと感じている
今や死後ともなりつつあるも言われる「アラブの春」で誕生したエジプト・モルシ政権の混迷が続いています。

もとよりイスラム主義穏健派「ムスリム同胞団」を支持基盤とするモルシ政権に対しては、世俗主義勢力、改革を望む若者グループ、あるいは旧政権時代の既得権益層からの強い反発がありますが、そうした政治対立・混乱から抜け出せないことに加え、経済不振・物価上昇や強権的な政治姿勢によって一般国民の支持も失いつつあります。

****エジプト:モルシ大統領支持30%に低下*****
就任1年を来月迎えるエジプトのモルシ大統領の支持率が、就任当初の72%から30%まで低下したことが、民間調査機関の調査で分かった。
モルシ政権は経済運営に苦慮し、野党勢力との対話にも進展は見えない。政権に批判的な活動家らを名誉毀損(きそん)などの容疑で次々と拘束するなど強権的な手法に対する非難も高まり、支持離れに拍車がかかっている。

「(モルシ大統領は)革命の目的を果たすと言ったが、何もしていない」。2011年の革命を主導した若者団体「4月6日運動」の報道担当者ハリド・マスリ氏は今月13日の記者会見で政権を厳しく非難した。
「4月6日運動」は昨年の大統領選でモルシ氏を支持したが、強権的な政権運営に反発。今月から「反乱」と称して、他の市民団体と連携し、早期の大統領選実施を求める署名を始めた。

大統領の支持率は、憲法改正を巡り野党との対立が激化した昨年11月以降、低下が目立っている。民間調査機関「バシーラ・センター」の4月下旬の調査では「大統領選が明日あった場合、モルシ氏に投票するか」との問いに「投票する」と答えたのは30%にとどまり、「投票しない」の45%を大きく下回った。昨年8月の調査では「投票する」が72%を占めていたが、今年に入り5割を切った。

背景には経済政策への不満がある。12年の政府統計によると、失業者数は約343万人と革命前から100万人以上増え、失業率は12%を超える。物価上昇も止まらず、今年4月までの1年間に小麦が約28%、卵が約22%、牛乳や鶏肉が約15%値上がりした。

さらに最近では批判勢力への強権的な対応も目立つ。「4月6日運動」の創設者アハメド・マーヘル氏(32)ら活動家やジャーナリストが、政権批判に関連した名誉毀損などの容疑で一時的に身柄拘束されるケースが続発。ピレイ国連人権高等弁務官が今月8日に「エジプトは重大な局面を迎えている」と述べるなど、国内外で人権侵害への懸念が広がっている。

大統領は今月7日、野党側から要求されていた内閣改造に踏み切り、財務相など9人の閣僚を交代した。しかし野党が交代を求めていた首相を留任させ、大統領の出身組織である穏健派イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」のメンバーを増やしたため、かえって反発が強まった。

地元シンクタンク・アハラム政治戦略研究所のサイード・オケーシャ氏は「当初の期待感は大きかったが、治安や経済の問題が解決せず、国民はモルシ大統領に改革を実行する能力がないと感じている。今後も支持率低下は続くだろう」と話している。【5月21日 毎日】
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エジプトは国民にパンを買う金もなくしつつある
モルシ政権にとって喫緊の課題は経済です。
エジプト財政は今や「パンを買う金もない」状態ですが、危機的状況を回避するためにのIMFからの融資の条件とされる補助金削減は支持層の不満を爆発させることにもなり、選択できません。

****エジプトは「破綻国家」となるか****
新たな「革命劇」への不穏な胎動
「エジプトは国民にパンを買う金もなくしつつあり、危険水準を越えて『破綻国家』への仲間入りが間近に迫っている。そうなれば中東全体が不安定化する」これはピュリツァー賞を三回受賞しているニューヨーク・タイムズの著名コラムニスト、トーマス・フリードマンが四月に書いたコラムの中に見える一節だ。(中略)

ちなみに「パンを買う金もない」というのは本当である。エジプトではパンの代金の過半を払うのは消費者ではない。その大部分が政府補助金なので、文字どおり政府は国民にパンを買い与えているのだが、世界一安いと言われるパンの公定価格を一円でも上げようものなら、即暴動、となる。しかし、政府の金庫は空っぽで、歳入が増える兆しは全くない。経済は早晩デフォルトを迎える

四月に発表された同国の三月末現在の外貨準備高は約百三十四億ドルと同国の三カ月分の輸入額を下回る危機的状況である。IMFに申し込んでいる四十八億ドルの借款に付けられた補助金削減の条件を呑めばパンをはじめとする基礎食料品や燃料等の値上げは避けられないとあって、ムルシ政権としては金は欲しいが返済はできない、またする気もない、というのが実情だ。

四月上旬、IMFの調査団がエジプトを訪問したが、「交渉はふりだしに戻った」(同調査団)という。エジプトで貧困ライン(一日当たり二ドル)以下の生活をしている国民は二千万人とも三千万人とも言われ、その多くは文字の読めない人たちである。これが、選挙になると大量の支持票が見込めるこの階層を基盤にしているムスリム同胞団のジレンマである。

エジプトがここまで貧しいのは、しかし現政権の責任ではない。それはナセルの時代以来の負の遺産である社会主義的経済構造にメスを入れず、国内産業の生産性向上を図ることなく市場開放をした前政権の失政のツケである。そして彼らは、イスラエルの安全保障にとって最大の脅威である同国を無力化、愚民化するために仕掛けられたとしか言いようのない、莫大な米国の民生・軍事支援を受け入れた。

即ち、和平協定遵守と引き換えに援助漬けにされ、一日二ドル以下の収入でも食うに困らない歪な社会を作り上げてきたのだ。そのような前政権の外交姿勢は一言で言って援助乞い外交であり、「エジプトを放置したら地域全体が不安定化する」と言っては欧米や域内富裕国からの財政支援を仰いでいた。
そして、多額の援助をもらいながら、国民に対しては甘い顔をし、過去何度も事実上の破綻(デフォルト)を経験しているのである。

ムスリム同胞団の意向を体した経済運営を旨とするムルシ政権の政策は、かかる旧政権の悪いところをさらに強調したような「甘やかし体質」であるから、エジプト経済が早晩デフォルトを迎えることはほぼ間違いない。
ただ、過去の危機の際もそうであったように、エジプトの不安定化を望まない当事者(債権国)は多いので、餓死や暴動は起こさずに切り抜けることができるかもしれない。

しかし、今回の場合は既に国民の多くが長い「革命」に疲弊しており、反政府勢力はここぞとばかりにイスラム政権打倒の狼煙を上げるであろうから、財政の危機が政治危機(既に危機的状況であるが、さらなるターニング・ポイントとなる危機)を招く可能性が大きい。(後略)【選択 5月号】
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補助金削減を条件とするIMF・欧米に頼れないモルシ大統領は、4月にロシアを訪問して支援を依頼しましたが、プーチン大統領の反応は芳しくなかったようです。

革命の目的だった『パン、自由、社会正義』は私たちの手にない
一方、反政府勢力側の動きとしては、【5月21日 毎日】にもあるように、早期の大統領選実施を求める署名運動が進められています。

****エジプト:反モルシ700万人署名 「同胞団寄り」に批判****
エジプトで「反乱」と称して、モルシ大統領の辞任と大統領選の早期実施を求める署名活動が話題になっている。

署名活動を主催する団体によると、署名数は3週間で「700万人分」に上った。野党勢力が便乗する形で運動は全国的に広がっており、主催団体はモルシ大統領の就任1年となる6月30日までに全人口の4分の1にあたる2000万人分を集めると気勢を上げている。

「同胞団の支配を打ち倒すぞ」。29日に開かれた「反乱」運動の記者会見で、演壇に立ったメンバーが演説すると、約150人が「反乱」と書かれたバナーを掲げるなどして呼応した。
メンバーらは、モルシ大統領の出身母体である穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団の最高指導者バディア氏が、大統領を操って、同胞団に都合の良い政治を行っていると批判した。

「反乱」運動は5月上旬、首都カイロ在住のジャーナリストやエンジニアなど13人の友人グループが発案。インターネットの交流サイト・フェイスブックや口コミを通じて、運動は一気に広がった。賛同者は、署名用紙やインターネットの専用サイトに、氏名や身分証のID番号などを記入する。

運動には主要野党勢力「国民救済戦線」や、ムバラク独裁政権を倒した2011年の革命を主導した若者グループも参加している。中心メンバーの一人で建築士のホセム・タラートさん(36)は「革命の目的だった『パン、自由、社会正義』は私たちの手にない。行動を起こさなければ変わらない」と話した。6月30日には署名を持って、大統領宮殿前に集結する予定だという。

ただ、重複署名のチェックなどは不十分で、署名の実数は分からない。署名活動に法的根拠はなく、大統領の辞任には直結しない。【6月3日 毎日】
********************

旧政権時代からの勢力が残存するとされる司法も、最高憲法裁判所が2日、イスラム勢力が多数を占める諮問評議会(上院)と憲法制定委員会について「無効」との判断を下して、モルシ政権への圧力を強めています。

****上院と憲法制定委員会は無効、エジプト最高憲法裁判所が判断****
エジプトの最高憲法裁判所は2日、イスラム勢力が多数を占める諮問評議会と憲法制定委員会は無効との判断を下した。
この裁判所の判断により、エジプトは再び政情不安に陥ることが予想される。

最高憲法裁判所は、上院にあたる諮問評議会選挙に関する法律と、新憲法の草案を作成した憲法制定委員会のメンバー選出に関する規定に問題があったとして、違憲であるとの判断を下した。最高裁は、次の議会選挙が行われるまでの間、諮問評議会が解散する必要はないとしたが、実際に立法権を伴うものとなるのかは明らかになっていない。
同国では昨年、下院も解散を命じられているため、上院に立法権が認められないとなると、立法機関の所在が不明となる。

なお、昨年末に施行された新憲法については、国民投票で承認されたとして有効と判断された。
現時点においては、最高裁の判断がどの程度の影響を与えるのかは定かではないが、ムハンマド・モルシ大統領が革命後の民主主義の象徴と喧伝していた、諮問評議会と憲法制定委員会の「正当性」に暗い影を落とすことは確かだ。

新憲法の制定をめぐっては、モルシ大統領の支持母体であるイスラム勢力と、世俗派など反モルシ派との間で激しい対立が起きた。世俗派らは、新憲法がイスラム寄りであり、全国民の声が反映されていないとして反発。大規模デモや暴動にまで発展した。【6月3日 AFP】
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イスラム主義と世俗主義の折り合い
経済情勢の悪化、大統領選の早期実施を求める署名活動、最高裁の違憲判断・・・と、四面楚歌状態のモルシ大統領ですが、これでエジプトが破たんするかどうかという点に関しては、前出【選択 5月号】は、“エジプトは「破綻国家」にはならない”との判断です。

理由は、強力な国軍の存在です。
国軍はエジプト権力機構の中枢にありますが、時代に合わなくなった軍出身のムバラク政権を見捨て、イスラム穏健派のモルシ政権を容認しました。

そして、今後政治・経済情勢が悪化すれば、モルシ政権を見捨てることはあるでしょうが、政治・社会システムの根幹は国軍によって維持され、シリア・ソマリア・イエメンなどのような「破綻国家」になることはない・・・という指摘です。

まあ、それはそうかもしれませんが、大きな政治・経済の混乱が懸念されます。
仮に大統領選挙をやり直しても、選挙結果を受け入れるという双方の合意がない限り、選挙で負けた方がタハリール広場を占拠して騒ぐという事態の繰り返しになります。

エジプトの今後は、イスラム主義と世俗主義の間でどのような折り合いをつけるかという課題にかかっています。
イスラム民主主義のモデル国家とも言われるトルコでも、イスラム主義のエルドアン政権に対する若者らの不満が連日の暴動の形で噴出しているように、極めて難しい問題です。

****過激主義では治まらない****
冒頭に引用したフリードマンは「『アラブの春』といった(何か良いことが起きるといった期待を持たせる)呼称にはもう『引退』していただいた方がよい。政治面、軍事・治安面が大いに混乱する十年ないし四半世紀がアラブ世界で始まっていることを認識すべきだろう」とも主張している。シリアで、イラクで、またリビアやチュニジアでと政権転覆が起きた国あるいはこれから起きる国と違いはあっても、独裁者の代替として登場するイスラム過激主義者による統治でこの地域が治まっていく可能性はない。

とすれば、これからのアラブの十年、ないし二十五年の成否、つまりどのような形で新たな政治秩序が生み出されるかということについては、イスラム過激主義という、実体のある国民感情と政治路線に対し、域内のイスラム教徒自身がどのように折り合いを付けることができるか、ということ、あるいは、過激主義者自身がどのように自らの世俗化を受け入れ、成長していくことができるかにかかっている。【選択 5月号】
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もっとも、どのような政治体制になったとしても、補助金で支えられた国民生活の問題にメスを入れるとなると・・・・難しそうです。
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ボツワナ:中国支援へ大統領が注文 モザンビーク:農業開発に現地農民から批判

2013-06-02 22:00:33 | アフリカ

(日本支援で大規模農業開発計画が進むモザンビーク・ナンプラ郊外の風景 “flickr”より By Thomas Stellmach )

【「互恵的な関係を維持するため大切なのは、投資の量ではなく質だ」】
横浜で開催されているアフリカ開発会議(TICAD5)のため、アフリカ関連の記事が多いので、ブログの方もアフリカ関連の話題。

アフリカへの支援・投資で先行する中国を意識した論調が多いことは先日も取り上げたところですが、経済面でも、政治面でも、アフリカの「優等生」とも言われているボツワナ大統領が中国式の支援に対する注文を行っています。

****ボツワナ大統領:中国支援に注文「労働者はいらない****
第5回アフリカ開発会議(TICAD5)のため来日しているボツワナのイアン・カーマ大統領(60)が1日、毎日新聞との単独会見に応じた。

アフリカで存在感を増す中国の支援への期待を表明する一方、「中国が雇用先を確保したいのは分かるが、労働者を連れて来るならそれは『ノー』だ。まず地元の労働力を最大限に活用すべきだ」と訴えた。

最近アフリカでは、中国の支援に対し、雇用も生まず技術移転もなく「これではアフリカが育たない」といった声も上がっている。

カーマ大統領は「互恵的な関係を維持するため大切なのは、投資の量ではなく質だ」と指摘。また「過去の歴史を踏まえれば、アフリカが不当に安い資源や産品の供給源に陥ってはならない」と強調した。

一方、ボツワナは今年2月、地上デジタルテレビ放送の導入で、アフリカでは初めて日本方式の採用を決定。カーマ大統領は「他方式にはない利点がある。導入を検討している他国にも経験をアドバイスしたい」と述べ、日本の技術力に期待。

さらに「東日本大震災という悲劇から、粘り強く復興を遂げつつあることにも敬意を表したい」と述べた。また、核実験など北朝鮮の挑発についても日本の立場を支持し、北朝鮮との外交関係を一時中断したことを明らかにした。

ボツワナはアフリカ南部にあり、人口約200万人。豊富なダイヤモンド資源をてこに経済発展が進み、中高所得国に分類されている。【6月2日 毎日】
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南アフリカ共和国の北隣に位置するのボツワナは、面積は日本の約1.5倍ですが人口は約200万人。
“1966年に英国から独立した後に見つかったダイヤモンドのおかげで経済発展が続き、統治も安定している。1人当たりの国民総所得は2011年現在、7470米ドルで、工業国の南アフリカを上回る。”【6月2日 朝日】ということです。

2002年には、アメリカの格付け会社ムーディーズが、日本国債の格付けを2段階引き下げてA2とすると発表、この措置によって日本国債の格付けはボツワナと同列になったことが話題になったことがあります。

日本国債の問題はさておき、それだけボツワナの国際的信用力が高いことの表れでもあります。
それは、単に、ダイアモンド資源を活用した経済成長というだけでなく、“独立以来、アフリカでは数少ない複数政党制に基づく民主主義が機能している国として知られ、政局はきわめて安定している。実際に独立以来クーデターや内乱は一度も起きたことがない。”【ウィキペディア】という政治的安定性も評価されてのことで、そこから「アフリカの優等生」という評価にもなる訳です。

そのボツワナにも中国は進出しているようで、人口200万人に対し、在留中国人は3万人とのことですが、現地での中国人への風当たりがきついようです。

****ボツワナで中国人のイメージが悪化、出入国検査を強化―中国紙****
ボツワナは面積約60万平方キロメートルという広大な国土に対し、人口はわずか200万人余りだが、在留中国人は3万人にも上る。そのボツワナの首都・ハボローネにあるセレツェカーマ国際空港で、中国人に対する入国時の検査が強化されている。人民日報海外版が伝えた。

現在、中国人が通関する際には空港職員が荷物をひとつひとつ開けて念入りに検査しており、通関に30分近くかかる状態となっている。到着する友人を出迎えに来た人は「白人や黒人には1人としてこうした検査が行われておらず、中国人らしき人が訪れると決まって厳しく検査されている」と話した。

検査が厳しくされている背景には、中国のイメージが悪化していることにある。ボツワナ国内の高層建築物の多くは中国企業が建設を独占している状態で、空港の拡張工事を請け負っているのも中国企業だが、品質問題で完成が遅れている。また、中国人が象牙を違法に持ち出そうとして出国時に押収される事件も起きている。

現地に住む中国人はイメージの回復やボツワナ社会への理解を広めようと尽力しているが、現地主要紙であるデイリーニュースにはほぼ毎日中国人の悪い面を伝える記事が掲載されており、そうした記事が一面に掲載されることもしばしばあるという。【5月29日 Record China】
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前出のカーマ大統領の発言も、こうした中国批判を背景にしたもののようです。
アフリカ要人の中国批判については、習近平国家主席のアフリカ訪問の時期に合わせて、3月12日付英フィナンシャル・タイムズ紙に掲載されたナイジェリアのサヌシ中央銀行総裁による「中国への愛から目を覚ませ」という寄稿文が話題になりました。

“その中で、サヌシ総裁は、「中国はアフリカから一次産品を奪い、工業製品を我々に売りつけている。これはまさに植民地主義の本質の一つである」、「中国はパートナーであるとともにライバルで、植民地主義の宗主国と同様の搾取を行う能力をもつ国とみるべきである」、「中国はもはや同じ“途上国”ではない」など痛烈な批判を行っています。”【4月30日 WEDGE】

アフリカ支援において、日本は単に先行する中国を量的に追いかけるだけでなく、「互恵的な関係を維持するため大切なのは、投資の量ではなく質だ」というカーマ大統領の発言や、サヌシ総裁の新植民地主義批判などを踏まえて、「特にアフリカにおいて中国の存在感が盛んに最近、指摘されている。しかし日本は、パートナーシップとオーナーシップ、アフリカの自主性、そして対等の立場という基本的な独自の理念を掲げて、アフリカ開発会議(TICAD)をしている。間違いなく他の国とは違う、しっかりとウィンウィンの関係を築ける支援、投資だったと思っている。ぜひアピールしたい。」【岸田文雄外相】という方向性を堅持したいものです。

【「政府は当初の約束を果たさないことが多いので信用できない」】
その意味でも注目されるのが、モザンビークで行われている日本・ブラジルによる農業開発計画「プロサバンナ」です。

モザンビークはマダガスカルの対岸に位置する南アフリカの旧ポルトガル領の国ですが、かつては内戦に苦しみ、日本も国連PKO「国際連合モザンビーク活動(ONUMOZ)」に参加しています。
最近では、世界規模の天然ガス資源が注目されており、特に原発停止で天然ガス依存が高まっている日本は、アメリカからのシェールガス輸入、ロシアからの売り込みと合わせて、モザンビークからのガス輸入を視野に入れています。

****眠れる大地、「緑の実験」 モザンビーク穀倉化計画****
広大なサバンナが広がるアフリカ南東部のモザンビーク。手つかずで眠る肥沃(ひよく)な大地を、日本の支援が大穀倉地帯に変えようとしている。かつて援助したブラジルの成功例をモデルにするが、課題も少なくない。

 ■日本、ブラジル例に支援
首都マプトから飛行機と車を乗り継いで約5時間。北部ナンプラ州の農村に入るとイモ類、カシューナッツなどが生い茂る熱帯サバンナ地帯が続いていた。
ナンプラ州周辺には、日本の耕作面積の3倍にも相当する1400万ヘクタールの豊かな土地が広がる。この眠れる大地を「穀物生産基地」にするプロジェクトが、日本とブラジル、モザンビークの三角協力で進行中だ。

計画名は「プロサバンナ」。国際協力機構(JICA)によると、大規模農業で市場販売や輸出に適した作物を大量生産し、農民の生活を向上させる。伝統的な作物に加え、綿花や大豆などを栽培する、と日本側は意気込む。日本の国土の約半分にあたる熱帯サバンナ地域を対象にする。

自信の源は、ブラジルでの成功体験だ。1970年代末、作物栽培に適さないとされた同国中部の「セラード」と呼ばれる熱帯サバンナ地帯で、日本とブラジルが大豆など穀物生産を拡大させる農業開発事業を進めた。79年から22年間に途上国援助(ODA)で約280億円を拠出し、東京都の面積の1・5倍以上にあたる計34万5千ヘクタールを開発。それまで穀物の輸入大国だったブラジルを、世界有数の輸出大国に成長させた。

これを「緑の革命」と自賛する日本が、次の支援先に選んだのがモザンビークだった。JICAなどによると、対象地域の広大な熱帯サバンナ地帯は、セラードと緯度が近く、「お手本」として以前の経験を活用できるという。ブラジルと同じポルトガル語を公用語とし、企業進出や官民の交流などにも都合が良い。

モザンビーク政府の期待も高い。「農家は発展から取り残されてきた。プロサバンナは新しい技術と機会をもたらす。自分たちを養うのがやっとだった土地で、10倍以上の収穫も期待できる」と、農業省の担当者は力を込める。

 ■貧しい農民、強制移転懸念
だが、計画が順風満帆に進んでいるわけではない。
プロサバンナでは、農地として最低でも10ヘクタール以上の耕作面積が必要とされるが、モザンビークでは5ヘクタール以下の畑を持つ小農がほとんど。
同国最大の農民組織「UNAC」は、計画が進めば農民が強制的に移転させられるなどの恐れがあると指摘。さらに「農民が計画に全く関与できていない」と批判している。

対象地域になっているナンプラ州の農村地帯ナミーナの農家を訪ねた。国道から外れて脇道を車で約20分。ジョゼ・ジュマさん(48)一家がくわやすきで畑を耕していた。
「暮らしは決して楽じゃない」。妻と5人の子どもを養うために、計5ヘクタールの畑で米や豆類を栽培するジュマさん。ほとんど自給自足の暮らしで、余った作物を売っても、稼ぎは年間約1万2千メティカル(約4万500円)に過ぎない。

「政府は雇用も増えて生活も良くなると言うが、違う土地に移転させられてまでは望んでいない。この年では農業以外できない。故郷を奪われるのだけはごめんだ」とジュマさん。

大規模農業による環境汚染を懸念する農家も少なくない。別の農家、ジョアナ・アルベルトさん(32)は「環境に配慮するとは言うし、政府の説明は魅力的だ。でも政府は当初の約束を果たさないことが多いので信用できない」と話す。

 ■収入激減の例も
疑心暗鬼になるのは、悪い前例があるからだ。
北西部テテ州のカテメ。豊富な石炭が周辺に埋蔵されていると分かり、2010年、700世帯以上の農家が約40キロ離れた土地に移転を強いられた。

最初は拒んでいたが移転を受け入れた農家のピアソンヌ・パイバさん(34)によると、政府やブラジルの資源会社は「農産物も増え、収入もよくなる」と説明したという。だが、「実際に住むと、説明とはまったく違っていた。農業に必要な水を引く川も近くにない。畑まで4時間も歩かなくてはならない」。

確かに、以前より良い家屋や学校、舗装された道路を手に入れた。だが、肝心の農地は岩だらけだったり、水源が遠かったりして収入が激減する農家が続出。昨年1月、500人以上が資源会社が使用する鉄道や道路を封鎖するなどして、逮捕者が出る騒ぎとなった。政府と住民の緊張関係はいまだにくすぶる。
テテ州のサミュエル・ブルナール事務次官(54)は「この経験をプロサバンナでも役立てて欲しい」と話す。
【5月29日 朝日】 
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「農地を奪われる」と開発計画を批判する農民団体は、TICAD5が開催されている日本へも代表を派遣しています。

****小規模農家は不安=日本の支援に注文―モザンビーク****
日本がブラジルと手を組み農業開発を進めているアフリカ南部モザンビークから農民団体の代表が来日し、第5回アフリカ開発会議(TICAD5)開催中の横浜市で2日、「小さな農家の不安は強い」と日本の支援に注文を付けた。大規模農業開発で土地が取り上げられるのを恐れている。

シンポジウム「食料をめぐる世界の動きとアフリカの食料安全保障」(オックスファム・ジャパン、日本国際ボランティアセンターなど共催)で語った。
自らも家族で畑を耕す小規模農家というモザンビーク全国農民連盟(UNAC)のマフィゴ代表は「アグリビジネス(農業の事業化)も資源開発も一緒だ。農民が大々的に土地を取り上げられることを過去の経験から知っている」と述べ、小規模農家の意見を聞くよう訴えた。【6月2日 時事】
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「開発」における現地住民との対立という問題は、日本国内を含めてきわめて一般的な問題であり、モザンビークの「プロサバンナ」に限った話ではありません。
なかなかすべての関係者が納得する道というのは現実においては困難なことが多い訳ですが、だからといって「開発」を否定して従来と同じ貧困に甘んじることも賢明ではありません。

地元農民の声をよく聞いて・・・と言うしかないですが、つい先ほど放送されていたTV番組で指摘されていたように、一番の問題は、こうした計画批判を日本に来てやるのが効果的だということ、つまり国内にこうした声を吸い上げる民主的な政治システムが存在していないということでしょう。

一昔前であれば、有無を言わさない政府主導の開発で成長するという開発独裁が広く存在し、マクロ的に見れば結果を出していますが、権利意識が高まり、その発信手段も豊富な現在においては、そうした強引な開発はうまく機能しません。
国内に民主的政治ステムが十分に存在していないだけに、支援する日本側も現地対策は慎重に行う必要があります。「政府は当初の約束を果たさないことが多いので信用できない」という不安を払しょくするための、現地政府への強い働きかけも必要でしょう。

アフリカの人々だけで維持できる仕組みの構築が重要
途上国支援においては、資金を出して建設するだけでなく、その後の維持管理をどうするかという点も重要なポイントになります。

****せっかくの支援が無駄に=アフリカ撤退後が肝心―日本のNGO****
第5回アフリカ開発会議(TICAD5)開催中の横浜市で2日、アフリカ支援を行ってきた日本のNGOによるシンポジウムが開かれ、NGOの連合体「ジャパン・プラットフォーム」の柴田裕子海外事業部長は「援助を終え(撤退後)しばらくして現地に行ってみると、せっかく造ったトイレは管理できず使われていなかったり、井戸は壊れて放置されていたりすることがある」と述べ、アフリカの人々だけで維持できる仕組みの構築が重要と訴えた。

エチオピアに逃れていたスーダン難民の帰還事業を行ってきたNPO法人「ADRA Japan(アドラ・ジャパン)」の橋本笙子理事も「援助漬け」で無気力になった人々を立ち直らせるのは難しいと実感した。
しかし、20数年ぶりに故郷へ戻った難民が大地にひざまずいて喜ぶ姿も見た。やがてADRAの現地事務所に「自分が作った農作物を売りに来た元難民も現れ(自立した姿が)素直にうれしかったこともある」と語った。【6月2日 時事】 
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「殺人ロボット兵器」は「道義的責任の欠落」か?

2013-06-01 22:32:09 | 世相

(「殺人」ではなく、運搬用の「LS3」と名づけられたアメリカの犬型軍用ロボット 4本の足があり、直立歩行できるほか、180キログラム以上の物を背負って約32キロメートル移動できるそうです。 人の指示に従って黙々と荷物を運ぶ様子は可愛げもあります。ただ、これにマシンガンがついて、更に自動化されると「殺人ロボット兵器」にも発展します。【2012年9月15日 チャイナネット】

これまでも何度か取り上げたように、最近の戦闘では無人機が非常に重要な役割を担うようになっており、その是非については多くの議論があるところです。

無人機はそれでも一応人間がコントロールしていますが、高度な人工知能などを備え、敵の識別、状況判断、殺傷まで全自動で実行する自己完結型の殺傷機能を持つ機械「殺人ロボット兵器」の出現が懸念されています。

“米国を中心に先駆的な兵器開発が進んでおり、部分的に自己完結型の殺傷機能を持つ機械が実現。韓国は北朝鮮との軍事境界線がある非武装地帯(DMZ)に歩哨ロボットを試験配備した。”【5月26日 日刊スポーツ】

体制側の「殺人ロボット兵器」と反政府「人間組織」が戦うという、ハリウッドSF映画のような事態も、そう遠くない将来のことかも・・・。
そこで、そうした「殺人ロボット兵器」の開発を禁止しようとする動きもあります。

****殺人ロボット兵器:国連理事会に報告書「開発一時停止を*****
米国などが研究開発する「殺人ロボット兵器」について国連人権理事会(ジュネーブ)のクリストフ・ヘインズ特別報告者(超法規的処刑問題担当)は30日、「ロボットに生死(決定)の権限を持たせるべきでない」として研究開発の一時停止を求める報告書を初めて提出した。

殺人ロボット兵器については複数の国際平和・人権団体が4月に禁止キャンペーンを開始しており、導入への反対の動きが草の根レベルで広がりつつある。

殺人ロボット兵器は、頭脳にあたる組み込みコンピューターや、感覚器にあたる各種センサー装置を装備。人間などの標的を自動的に攻撃・殺傷する「自己完結型」への進化が懸念されている。

米国がアフガニスタンなどで使用する無人機は人間が遠隔操作しているが、殺人ロボット兵器は人の関わる度合いが無人機に比べ圧倒的に低くなる。

報告は、この兵器について、「戦時、平時を問わず生命保護の面で懸念が高まっており、国際人権法に反する可能性もある」と指摘した。そのうえで、「ロボットに生死(決定)の権限を与えるべきでない。法的責任の観点からも配備は受け入れられないかもしれない」とした。

また、各国に研究開発の一時停止を求め、国際社会が明確な政策を作るためにハイレベル委員会を設置することを推奨した。【5月31日 毎日】
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“人間を殺すかどうかの判断を機械に委ねるのは「道義的責任の欠落」”とのことです。

****殺人ロボット兵器」で討議****
・・・・勧告をまとめたのは国連のクリストフ・ヘインズ特別報告者(超法規的処刑問題担当)。人権理を通じ、殺人ロボット兵器の試験、生産、使用などの凍結を宣言するよう各国に要請。専門家を交えた検討委員会を開くことも要求した。

勧告を盛り込んだ報告書では、ロボットが人間の遠隔操作ではなく、組み込まれたコンピューターのプログラムやセンサー装置により、敵の識別、状況判断、殺傷まで全自動で実行する「自己完結型」に進化することへの懸念も表明した。

敵兵のうち、戦闘の意思と能力を失った負傷者や、降伏しようとしている人まで殺す危険性を指摘。国際人権法や人道法の順守が困難になり、人間を殺すかどうかの判断を機械に委ねるのは「道義的責任の欠落」と批判した。ロボットを使えば自国兵が死傷する危険がないため、投入への心理的歯止めが弱まり、紛争頻発を招くとも述べた。

報告書によると、「完全な自己完結型の殺人ロボット」はまだ配備されていない。現時点では無人機のほか、物資輸送用の4足歩行ロボットや小型無人戦車などが開発されているが、いずれも人の手で遠隔操作されている。

英シンクタンクによると、無人機は昨年夏時点で11カ国が保有し、計56機種に上る。無人機の軍事利用はかつて米国やイスラエルにほぼ限られていたが、最近は中国などの新興国も活用。開発競争は過熱している。無人兵器への依存は、殺人ロボット兵器件導入へつながる可能性が高い。

人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのスティーブ・グース氏は、殺人ロボット兵器について「道徳と法の一線を越える。意思決定には常に人間が関わるべきだ」と指摘。4月から同兵器の禁止キャンペーンに乗り出している。【5月26日 日刊スポーツ】
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「殺人ロボット兵器」には“敵兵のうち、戦闘の意思と能力を失った負傷者や、降伏しようとしている人まで殺す危険性”がるとの批判は理解できます。

理解はできますが、今現在使用されている兵器も似たようなものだ・・・という感もあります。
爆撃機から投下される爆弾は、“戦闘の意思と能力を失った負傷者や、降伏しようとしている人”はもちろん。民間人まで含めて一網打尽に殺戮します。投下後は、殺す相手の選別などに人間は関わっていません。
数十km先から撃ち込まれるミサイルも同様でしょう。
核兵器などその極致です。

地雷だって、いったん敷設されると、戦闘員・非戦闘員の区別なく殺戮します。(対人地雷は多くの国で禁止されていますが)

敵兵を殺すように教育された兵士も、「殺人ロボット兵器」と大差ないようにも思えます。

自動小銃での殺し合いならよくて、なぜ核兵器や「殺人ロボット兵器」が悪いのか?
所詮殺し合いである戦争の存在を前提にして、その道具である兵器に、道徳的観点、人道的観点を持ち込むと、よくわからなくなってきます。

「正義の戦争」と同様に、道徳的・人道的な兵器も幻想のように思えます。
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