孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベトナム  国会で国家主席や首相、閣僚などへの信任投票実施 首相への多くの批判票

2013-06-12 22:55:13 | 東南アジア

(【6月11日 ベトナムの声放送局】より http://vovworld.vn/ja-JP/ニュース/国会信任投票結果を発表/159908.vov)

首相:低信任が32%
ベトナムは中国と同様に、政治的には共産党一党支配、経済的には「ドイモイ」のもとで市場経済を積極的に導入した体制にありますが、汚職・不正への国民の批判が強く、そうした批判を払しょくすべく国家主席や首相、閣僚などに対する信任投票が国会で実施されれました。

結果は、全員が信任はされたものの、ズン首相に対する厳しい評価も明らかになっています。

****首相信任も低評価、不満浮き彫り ベトナム国会初の信任投票****
共産党一党支配下にあるベトナムの国会は11日、国家主席や首相、閣僚など47人に対する初の信任投票の結果を発表した。

汚職などの課題を抱え、国民の批判を浴びるグエン・タン・ズン首相をはじめ全員が信任された格好だ。だが、首相への評価は極めて低く、国民と同様の不満が議員の間、ひいては党内にも内包されている実情を浮き彫りにしている。

信任投票は10日に実施され、498人の国会議員のうち492人が投票した。投票は各議員が、首相などに対する評価を「高信任」「信任」「低信任」の3つから選ぶ方法がとられた。

この結果、首相は「低信任」が160票と、グエン・バン・ビン国家銀行(中央銀行)総裁の209票、ファム・ブー・ルアン教育・訓練相の177票に次ぎ、47人中3番目の低評価となった。チュオン・タン・サン国家主席の「低信任」は28票にとどまった。

信任投票は今年から毎年1回行われる。「低信任」が3分の2を超え、あるいは2年連続で過半数となった場合、辞任するか、第二弾の信任投票に付される。そこで不信任が過半数となれば、解任される。首相は今回、解任を免れた形だ。

首相は金融機関の膨大な不良債権の処理、国営企業の改革、汚職などの課題に苦慮し、国民の反発が強い。こうした情勢を背景に、信任投票制の導入を唱えたのはグエン・フー・チョン共産党書記長だった。
信任投票という形で体制内を引き締め改革を促す一方、そうした姿勢を国民にアピールする-。そこには、党と政府への国民の信頼低下が政治体制の危機に発展しかねない、という危機感があったという。国会も党の指導下にあり、国会議員の約9割は共産党員。党での信任投票の実施も検討されているようだ。

今回の結果を、現地の上級エコノミストのレ・ダン・ゾアイン氏は「首相には満足していない、という強い警告のメッセージだ」と強調する。だが、ホーチミン市民の一人は「首相への多少の圧力にはなるだろうが、状況は何も改善されはしない」と冷めている。【6月11日 産経】
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ズン首相に対する党内の批判は以前からあり、昨年末には共産党一党支配体制にありながら、国会で退任を促す質疑を議員から受ける場面もあり話題となりました。

****ズン首相に公然と退任迫る ベトナムで異例の国会質疑****
共産党が一党支配するベトナムの国会で14日、グエン・タン・ズン首相が議員に退任を促される異例の場面があった。テレビで中継された一般質疑の場で、経済低迷の責任を問われた。首相は先月、国会で経済政策の誤りを認めるなど、厳しい状況が続いている。

発言したのは、ズン・チュン・クック議員。経済が低迷している問題などを念頭に、ズン首相に「あなたは党に重い責任を負っているが、国民への責任は軽いのか。謝るだけでなく本当の責任をとるときだ」と詰め寄った。
ベトナムに「辞職の文化を」とも述べ、穏やかな口調ながら退任を促した。別の議員からは「経済立て直しの失敗が、党の指導力への信頼を損なっている」との批判も出た。
ズン首相は「私はこれまでと同様、真摯(しんし)に遂行していく」と述べた。

ベトナムは共産党一党制。グエン・フー・チョン党書記長を筆頭に、チュオン・タン・サン国家主席、ズン首相のトップ3人を中心とする集団指導体制をとる。国会は500人の議員で構成。首相に対して議員が公然と辞任を迫るのは極めて異例だ。

ベトナム経済は今年上半期の国内総生産(GDP)成長率が前年同期比約4・4%で過去10年の最低水準となるなど低迷。最近は、国営の造船会社や海運会社で経営破綻(はたん)や汚職事件が相次ぎ、党内外で経済政策のかじ取りを問題視する声が高まっていた。

批判に対し首相は、10月22日の国会での政府報告で「政治的責任を深刻に受け止め、政府の弱点と欠点を誠実に認める」と述べ、自ら責任を認める異例の発言をしていた。ズン首相は5年任期の2期目。【2012年11月16日 朝日】
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そうした事情から、ズン首相への批判票はある程度予測はされていましたが、“対象者47人中3番目に多い批判票を集める結果となり、結果を別室のモニターで眺めていた地元記者たちから、どよめきが上がった”【6月12日 朝日】とのことです。
国会議員は9割を共産党員が占め、投票前は「批判票を投じにくいのでは」との見方があったそうです。

多くの首相批判票の背景には、“ベトナムでは昨年、国営企業の破綻(はたん)や汚職が相次いで表面化したうえ、経済成長率が13年ぶりの低水準になった”【6月11日 朝日】ことから、ズン首相ら政府首脳への批判が強まっていることがあります。

この信任投票制度については、国営メディアは「国民の権利を確かなものにし、政治システムに劇的な変化をもたらす制度」と意義をアピールしています。
前出記事にもあるような「首相への多少の圧力にはなるだろうが、状況は何も改善されはしない」といった冷めた見方もありますが、一党支配体制という枠内ではあるにせよ、一定の自浄効果は期待できるのではないでしょうか。

体制変革の動きと批判締め付け
このほか、ベトナムでは国名から“社会主義”をはずす案も検討されています。
一時は「国名変更は審議しない」という報道がなされ、この案は潰れたかと思われましたが、一応検討が続いているようです。

****国名変更、審議継続=「社会主義」維持が多数派―ベトナム****
開会中のベトナム国会での憲法改正案審議の中で、国名を「社会主義共和国」から「民主共和国」に変更する案が依然検討されていることが28日分かった。ベトナム・ニュースなど地元メディアが報じた。

ファン・チュン・リー国会法律委員長(憲法改正案起草委員会編集長)は20日、「社会主義国家建設の目標を明確にすべきだ」と表明。国会に提出された憲法改正案には「社会主義共和国」と明記されていたため、地元メディアは「国名変更は審議しない」と報じていた。

ベトナム国内では、ホー・チ・ミン初代国家主席が1945年に独立宣言した際の「民主共和国」に戻すべきだという意見も依然多いとみられるが、ベトナム・ニュースなどによれば、国会議員の中では「社会主義共和国」の国名維持派がほとんどだという。【5月28日 時事】
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改正論の背景には、“憲法改正草案では、共産党の一党支配など基本的な政治体制は変わらないが、国営企業の役割が縮小されるなど社会主義的な色彩は薄まっている。「社会主義」の名が時代に合わないと感じている国民のほか、英雄のホー主席への親しみから、変更を支持する声が出るとみられている。”4月14日 朝日】といったことがあります。

一党支配体制の枠組みについての異論も出ているようです。
“採算性の低い国営企業への融資でかさんだ不良債権問題や公務員の汚職体質も政府への不信を招き、1月に元政治家や著名知識人らが共産党一党独裁体制の変革を求める異例の意見書を公表した”【6月10日 毎日】

もっとも、体制側の締め付けはこのところむしろ強まっていることも報じられています。
上記のような体制批判が表面化していることへの危機感の表れでしょう。

****政府転覆罪で終身刑、ベトナム****
ベトナム中部フーイエン(Phu Yen)省の裁判所は4日、政府転覆を企てたとして罪に問われていた22人の被告に対し、禁錮10年から終身刑までの厳しい判決を言い渡した。

被告側の弁護人が同日、明らかにした。 同様の罪では過去数年で最も規模の大きなものとなった裁判。厳しい判決内容は反政府勢力を弾圧する同国の政策の一環と見られており、国際社会からは弾圧を懸念する声が高まっている。

被告側のグエン・フオン・クエ弁護人がAFPに語ったところによると、終身刑を言い渡されたのはグループの指導者とされるファン・バン・トゥ被告。残る21被告には禁錮10~17年と最高5年の自宅軟禁の判断が下された。国選弁護人のグエン氏は「被告のほぼ全員が政府転覆を企てたとの起訴内容を認めた。量刑は妥当だ」と話した。

これに対しニューヨークを本拠とする国際的人権擁護組織ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)のアジア局局長代理フィル・ロバートソン氏は、「量刑の重さに強い衝撃を受けている。ベトナムにおける基本的人権への新たな打撃」と批判した。

国営メディアによると、被告22人はエコツーリズム運営を隠れみのとして「反動」グループを組織し、政府を中傷。その指針や政策をゆがめた文書を作成したとされた。

ベトナムでは2009年から言論弾圧が厳しくなり、ヒューマン・ライツ・ウオッチによると、2012年には少なくとも活動家33人が、公民権や政治の権利主張を罰することのできるあいまいな法律に基づいて有罪判決を受けた。1月にはカトリックの平和活動家、ブロガー、学生を含む活動家ら13人が有罪判決を下されており、米政府が批判している。
グエン・タン・ズン首相は2012年12月、インターネットを利用した当局への中傷、さらには反共産党および反政府宣伝活動を厳しく取り締まるよう指示した。【2月5日AFP】
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今回の国会での信任投票も、こうした体制批判が高まることへの自己防衛策の一環でしょうが、先にも述べたように、その効果は一定に期待もできます。
少なくとも、密室での権力闘争に明け暮れる中国共産党に比べれば、開かれた感があります。
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