孤帆の遠影碧空に尽き

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トルコ  長引く“反エルドアン首相”デモ  強気な性格が裏目に

2013-06-05 22:43:42 | 中東情勢


(抗議デモ参加者から「独裁者」批判を受けるエルドアン首相 ”flickr”より By Michael Fleshman )

【「エルドアンは王のように振る舞い始めた」】
トルコ最大都市イスタンブールで若者を中心とした反政府・反首相の抗議行動が続いています。

デモの発端となったのは、イスタンブール中心部のタクシム広場付近の再開発計画で、公園の木を伐採しようとした行政当局に対し市民グループが中止を求めたという“ささやかな”出来事でした。

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・・・・・デモ隊は、広場の中心に立つアタチュルク(Ataturk)記念碑の向かいあるタクシム・ゲジ公園の取り壊し工事の阻止を求めていた。建設計画では、高度に商業化したイスタンブールに残る緑の「最後の砦」である公園の跡地にショッピングモールを建設し、オスマン帝国時代の兵舎を再建する予定だ。

イスタンブールの裁判所は31日夜、計画の一時停止を命じたが、計画自体が中止されるかは定かではない。

イスタンブール市のカディル・トプバシュ市長は、デモ参加者の多くは「純粋に緑や環境を気にかけている」人々だが、「政治的意図」を持つ者たちに操られていると語った。

公園の取り壊しは、広場周辺を歩行者専用道路とするために昨年11月に始まった建設計画の一環だ。タクシム広場は、昔から集会やデモの場として使われてきた他、人気の観光スポットともなっている。
賛否両論の同計画は、広場周辺の慢性的な交通渋滞の緩和と、外観の美化を目的としている。だが反対派は、計画は広場を魂のないコンクリート商業地域に変え、地元住民を追い出すものだと批判している。【6月1日 AFP】
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この再開発反対デモを警察が強引に鎮圧しようとしたことが、イスラム主義・権威主義的な傾向を強める政府・首相に対する若者ら不満に火をつけ、騒動は雪だるま式に拡大してしまいました。
4日からは左派系労働組合がストに入り、抗議行動を支援しています。

****労組ストでデモ拡大も=収拾困難、一部暴徒化―トルコ*****
トルコ各地に広がった反エルドアン政権デモで、24万人が加入する左派系の主要労働組合が4日から2日間のストライキを開始した。組合員の参加でデモがさらに拡大しそうだ。

衝突が激化してから5日目となる4日未明も、イスタンブールではデモ隊と警官隊が対峙(たいじ)。これまでデモに関連して死者が2人出たことでデモ隊の反発は強まっており、事態は長期化する可能性が出てきた。
人権団体などによると、イスタンブールで1000人以上、首都アンカラでは700人が負傷した。

デモは全国67都市に波及している。西部イズミルでは、イスラム系与党、公正発展党(AKP)の事務所に火炎瓶が投げ込まれるなどデモ隊の一部が過激化している。【6月5日 時事】 
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各紙が報じているように、今回の抗議行動はエルドアン首相への反感という側面が強く出ています。

****トルコデモは「反首相」…世俗主義逸脱と反感****
トルコ各地で続く反政府デモは、5日目となる4日も首都アンカラや最大都市イスタンブールなどで続いた。
今回のデモの背景には、トルコの国是である世俗主義からエルドアン首相が逸脱し始めたと見る、一部国民の強い反感がある。(中略)

大学生アルペル・ペルチンさん(23)は「トルコの貧富の格差は広がるばかり。大学を出てもコネがなければ就職もできない。この上、国がイスラム化すれば、経済成長も止まってしまう」と危機感をあらわにした。
ホテル従業員の男性(40)は「エルドアンは王のように振る舞い始めた。10年の長期政権で勘違いした自信を深め、世俗主義を捨てた」と不満をぶちまけた。

エルドアン氏は2003年の首相就任後、現実路線でトルコに高成長をもたらした。ところが今年に入り、イスラム色を強めている。
トルコ国会は5月、与党・公正発展党の主導で夜間の酒類販売を禁じる法案を可決。 敬虔 ( けいけん )なイスラム教徒として飲酒しないエルドアン首相の意向を受けてのこととされる。英語教師バイラム・エルクルさん(28)は「私もイスラム教徒だが、政治が私生活に立ち入ることは許せない」と憤った。【6月5日 読売】
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卓越した指導力を発揮するも、イスラム化加速も】
国内的には経済成長を実現し、国際的にはイスラム民主主義のモデル国として高い評価を得、また、混乱する中東地域にあってイスラエルやシリア・アサド政権への強い姿勢を明らかにして、トルコは地域大国としての存在感を強めています。

選挙では世俗主義野党を圧倒し、世俗主義の立場からエルドアン首相率いる公正発展党のようなイスラム主義政党の拡大を長年抑え込んできた軍部・司法勢力との力関係も、近年はエルドアン首相に有利な形に逆転していると見られています。

長年トルコ国内でテロ活動を行ってきた武装組織クルド労働者党(PKK)も停戦を明らかにし、5月上旬から段階的にPKK戦闘員がトルコからイラクへ撤退を開始しています。

こうした実績を背景に2020年夏季オリンピックのイスタンブール招致も手の届くところにきています。

歴史に名を残す偉大な宰相への道を歩むエルドアン首相が、自らの業績に大きな自信を持っているのは間違いありません。
ただ、その分、強引な政治手法や本来の立場であるイスラム主義の色合いが強く出てくるようにもなっています。

****アルコール飲料の販売制限=イスラム化の一環か―トルコ****
トルコ国会は24日、アルコール飲料の販売制限や広告の禁止などを盛り込んだ法案を可決した。

トルコは人口の大多数をイスラム教徒が占めるが、政教分離を国是とする世俗国家で飲酒は許容されてきた。今回の措置は、エルドアン政権が進めるイスラム化推進の一環とみられている。

トルコのメディアによると、小売店は午後10時から午前6時までアルコール飲料の販売が禁止されるほか、アルコール飲料会社の広告やスポンサー活動が原則、禁止される。【5月25日 時事】
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****トルコのデモ拡大 イスラム化、反発根強く****
反政府デモが広がるトルコでは、イスラム系の公正発展党(AKP)を率いるエルドアン首相が2003年に就任して以降、徐々にイスラム色の濃い政策を実施してきた。

世俗主義の牙城である軍や司法機関との対立を深め、「独裁的」「強権的」といった批判も出ていた。
デモの拡大は、強権姿勢を強める首相への反発に加え、AKPによる社会の「イスラム化」に対する反動のあらわれでもある。

トルコ政府は今年3月、約30年にわたって政府に対する武力闘争を続けてきたクルド労働者党(PKK)との和解にも歩を進めた。しかし、今回のデモにより、首相は一連の実績を上回るマイナス要因を抱え込みかねないのが実情だ。

トルコでは1923年の共和国移行後、初代大統領ムスタファ・ケマル(アタチュルク)が厳格な政教分離政策を推進。以来、世俗主義は“国是”とされてきた。ところが90年代以降、イスラムの価値観を重視する政党が台頭、世俗主義勢力とのせめぎ合いが表面化するようになった。

地方での支持を背景に政権を獲得したAKPは、禁止されていたスカーフの大学内での着用の容認や、一部でのアルコール販売の制限など、イスラム色の濃い政策を推進してきた。半面、経済自由化で急速な経済成長を実現して高い支持率を誇り、現在は国会で3分の2近い議席を握る。

今回の反政府デモ拡大についてエルドアン氏は3日、世俗主義野党、共和人民党(CHP)が「背後で操っている」との見方を示した。世俗主義勢力の側から見れば、街頭デモに活路を見いだそうとしていると考えることもできる。
主要紙ミリエトのコラムニスト、ギュルセル氏は、今回のデモは「エルドアン政権下での政治の二極化」の帰結だと指摘した。

エルドアン氏は来年予定される大統領選への出馬が取り沙汰され、当選も有力視されている。大統領権限の大幅強化を盛り込んだ憲法改正にも意欲を示しており、デモが収束したとしてもAKPと世俗主義勢力との対立自体は激しさを増す可能性がある。【6月5日 産経】
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デモ参加者は「略奪者」「なまけ者」】
ただ、今回の抗議行動には世俗主義・反イスラム主義勢力だけでなく、PKKとの停戦に反対する民族主義者など、広範な人々が参加していると言われています。

エルドアン首相の強気な姿勢への反感が、経済的格差、イスラム主義の進展、PKK問題などの不満と結びついて噴き出している感があります。
抗議活動に対する警察の厳しい対応も、抗議者の目にはエルドアン首相の傲慢さの表れと映ることでしょう。

一連の騒動にあっても、エルドアン首相は強気の姿勢を崩していません。
2日に行った演説では、「彼らは私を独裁者と呼ぶ。謙虚な公僕が独裁者に例えられるというのなら、私は返す言葉がない」とも述べています。

また、一連のデモの参加者を「過激派」と呼んだ上で、彼らをあおっているのは、世俗主義勢力の中核である最大野党・共和人民党だと非難しています。デモ参加者を「略奪者」「なまけ者」と見下した姿勢も見せています。

3日、モロッコへの外遊を前に開いた会見では、“首相は警官の対応について「ゆるやかだ」と強調。さらに、「国民の半分は(前回の選挙で首相の率いる公正発展党に投票して)支持しており、彼らを何とか自宅にひきとどめているところだ」と述べた。この発言は、政権党の支持者を街に出せばデモ隊との衝突は避けられないが、政権としてそれを抑えているとの趣旨と市民に受け止められた。「市民を脅すような発言」と批判が一気に高まり、「反エルドアン」の声が高まる要因となった”【6月4日 毎日】

モロッコへの外遊に出かけてしまい、その外遊先でも強気な姿勢を崩さないエルドアン首相に代わって副首相が“陳謝”しましたが、抗議者の怒りは収まっていません。

****トルコ反政府デモ5夜連続、政府の陳謝でも鎮静化せず ****
・・・・ビュレント・アルンチ副首相は同日、先週イスタンブールの公園の再開発計画に反対して開かれた平穏な抗議集会を警察が催涙ガスを用いて解散させようとして発生した衝突で負傷したデモの参加者に対し、「環境に配慮して抗議の意を表したにもかかわらず暴力行為の被害を受けた人々におわびを申し上げる」と陳謝した。

ただし、政府が「暴徒」と非難する者に対して謝ったのではないと断った。

さらに同副首相は、「政府は今回の出来事から教訓を得た。政府に国民を無視する権利はなく、また政府は国民を無視できる立場にない。民主主義は反対勢力なくして成立し得ない」とも付け加えた。(後略)【6月5日 AFP】
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近年の反政府行動に共通する要素として、「ツイッター」などソーシャルネットワークが抗議行動を支えています。
抗議者側は、騒ぎを無視しようとするマスメディアを批判していますが、エルドアン首相はソーシャルネットワークを騒ぎの元凶として非難しています。

****トルコ:デモ、SNSで拡大 「報道規制」メディアに矛先****
トルコ各地で続く大規模な反政権デモは6日目を迎えたが収束の兆しは見えず、5日未明、最大都市イスタンブール中心部タクシム広場には1万人近い市民が集まった。

怒りの矛先は、政府による「報道統制」や、「自己規制」を繰り返してきたとされる地元メディアにも向けられている。今回、デモを拡大させた要因の一つは若者たちによる「ツイッター」などソーシャルネットワークの利用だったが、エルドアン首相は会見で、「うそが横行する場所といえばツイッターだ」などと厳しく批判。若者の反感を集めている。

タクシム広場にはデモで破壊されたテレビ局の車が放置されている。車体はペンキで落書きされ、地元記者によると、「政府の御用聞きメディア」などと記されている。

大規模デモが始まったのは5月31日だがテレビ局の大半は報道せず、市民の主な情報源はソーシャルメディアや海外メディアに限られた。31日夜、ネットで状況を知った若者らは主要テレビ局の前に集まり、中継などを求めたという。

批判を受けた大手テレビ局の一つ、NTVは4日、番組の中でテレビ局オーナーの言葉として、「視聴者は(我々に)裏切られたと感じている。(批判は)おおむね妥当なものだ」と述べ、デモを当初、正当に取り上げなかったことを事実上、謝罪した。

「自己規制」の背景には、エルドアン政権による「締め付け」もある。特にタブーとされるのが、軍批判やアルメニア人虐殺問題、クルド問題。05年にはノーベル文学賞を受賞した小説家がアルメニア人虐殺問題に言及したとして「国家への侮辱」を禁じる刑法で処罰された。今年4月には、地元紙でクルド問題を特報しようとしたベテラン記者が突然、解雇されている。
最近はテレビや新聞の記者が「規制」を嫌い、インターネットメディアを創設したり、移籍したりする事例が増えている。

「国境なき記者団」がまとめた13年の報道の自由度ランキングによると、トルコは経済協力開発機構(OECD)加盟国34カ国の中で最下位だ。【6月5日 毎日】
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エルドアン首相は“今、ツイッターと呼ばれる脅威が登場している。そこでは、嘘というものの最たる例を見ることができる。私にすれば、ソーシャルメディアは社会に対する最悪の脅威だ。”【6月4日 Newsweek】と、ツイッター批判を行っています。

【「双頭体制」に影響も
広範な立場の人々が参加した今回の抗議行動ですが、エルドアン政権を支えている支持層には及んでおらず、組織的バックアップ・具体的統一要求もなく、おそらく次第に沈静化すると思われます。アメリカの「ウォール街を占拠せよ」に似た感もあります。
一昔前なら、社会混乱を理由に軍が前面に出てくるという展開もあったでしょうが、今は軍にその力はないでしょう。

強気のエルドアン首相が、「政府は今回の出来事から教訓を得た。政府に国民を無視する権利はなく、また政府は国民を無視できる立場にない。民主主義は反対勢力なくして成立し得ない」(アルンチ副首相)という謙虚な姿勢を示すことは・・・あまりないように思えます。

ただ、与党内にあっては、実力者エルドアン首相と、その代理人的立場にあったギュル大統領の間で、次期大統領を巡って確執があるとも報じられています。

****トルコ「双頭体制」に異変あり****
・・・・エルドアン首相とギュル大統領を比べると、その性格や振る舞いは、まさに水と油だ。

エルドアン首相は庶民的であり、歯に衣着せぬイスラエル批判でアラブ社会でも絶大な人気を博す。しかし、時に激高して、外交の舞台ではしばしば悶着を起こしたりもする。これに対し、ギュル大統領は物腰が柔らかく、豊富な外交経験も手伝って協調性を重視。エルドアン首相の起こす騒動の「火消し役」として立ち回ってもいる。

エルドアン首相の卓越した指導力は、確かに誰もが認めるところだ。ギュル大統領もこの点ではかなわない。しかし、ここに来て、首相の独善的とも言える手腕への疑問視も広がりつつある。(後略)【選択 12年12月号】
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この記事を見た時点では、「そうは言っても、やはりロシアはプーチン、トルコはエルドアンでしょう・・・」と思ったのですが、今回の騒動でエルドアン首相の抱える問題点が表面化してきたとも言えます。
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