孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  物価上昇や汚職・公費無駄遣いなどに大規模抗議デモ 鈍い経済回復

2013-06-20 23:13:02 | ラテンアメリカ

(19日、ブラジル コンフェデレーションズカップ会場周辺で、警官隊とにらみ合うデモ隊 【6月20日 時事】http://www.jiji.com/jc/zc?k=201306/2013062000140&g=int)

【「ワールドカップより教育、貧困対策を」】
日本では、ブラジルで開催されているコンフェデレーションズカップ・対イタリア戦における日本チームの予想外の健闘に一喜一憂した人も多いかと思いますが、現地ブラジルでは経済低迷・物価上昇を背景にコンフェデ杯や来年のワールドカップ開催に反対する大規模デモが行われています。

****W杯より教育・貧困対策」 ブラジルで20万人デモ****
サッカー日本代表も参加している「コンフェデレーションズカップ」が開催されているブラジルで17日、コンフェデ杯や来年のワールドカップ(W杯)開催に反対する大規模デモが起きた。

ロイター通信によれば、過去20年間で最大規模となる約20万人が参加しており、大会運営への影響を懸念する声も出始めた。
首都ブラジリアでは、数百人の暴徒が国会議事堂の屋根に上ったほか、リオデジャネイロでは若者らが州議会庁舎に乱入した。他都市でも、デモ隊と警官隊が小競り合いを起こしている。

国内で食料価格が高騰するなか、サンパウロで2日、地下鉄やバスなどの運賃が3レアル(約130円)から3・2レアルに引き上げられたことを契機にデモが各地で発生した。

デモ隊は連日、「W杯より教育、貧困対策を」「(反政府デモを行った)トルコを見習え」などと書かれたプラカードを掲げ、政府に激しく抗議している。
最新の世論調査では、2014年に実施される大統領選で再選を目指すルセフ大統領の支持率は、11年の就任以来初めて下がり、57%(前回から8ポイント減)となった。【6月19日 産経】
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公共交通機関の値上げ(バス基本料金の3レアル(1.4ドル)から3.2レアルへの値上げ)に端を発した政府への抗議デモは6月上旬から断続的に続いていましたが、コンフェデ杯開催で“コンフェデ杯や来年のワールドカップ準備に公費を無駄遣いしている”とターゲットが絞られ、インターネットを通じて拡大したようです。
これまでのデモはお祭り騒ぎ的な雰囲気もありましたが、次第に一部過激化する場面も出てきています。

****ブラジルのデモ過激化…コンフェデ杯開催地でも****
物価上昇や汚職、公費無駄遣いなど広範な社会問題の改善を求めるブラジルの大規模デモは、19日もサンパウロなど各地で続いた。

グロボテレビなどによると、サッカー・コンフェデレーションズ杯のブラジル―メキシコ戦が行われた北東部フォルタレザでは、会場のカステラン競技場に近付こうとした約2万5000人のデモ隊と治安部隊が衝突、投石などで複数の負傷者が出た。

リオデジャネイロ近郊ニテロイではデモ隊の一部が暴徒化し、バスなどに放火。これまでデモの大半は平和的だったが、次第に過激化の様相を呈している。ブラジル政府は18~19日、治安維持のため、リオなど5都市に連邦警察の特別部隊を派遣した。【6月20日 読売】
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【「わが政府は変革を求める声に耳を傾けている」】
この事態に、「サッカーの神様」ペレ氏が19日、テレビで「今起きている騒ぎをすべて忘れてくれ。コンフェデレーションズカップを批判しないで、ブラジルチームを応援してほしい」と訴えたそうですが、15日の日本戦でゴールを決めたブラジル代表FWのネイマール選手は、抗議デモに共感を示し「ブラジルがもっと公正で、安全で、健康的で、正直になることを望む」と語っています。【6月20日 毎日より】

ルセフ大統領は「抗議の声に耳を傾ける」との声明を出し、事態沈静化に躍起になっています。
〝ジルマ・ルセフ大統領は18日、デモ発生以来初めてのコメントでデモへの支持を表明したとBBCが伝えた。
「わが政府は変革を求める声に耳を傾けている」と国民の怒りをなだめながら、「デモでは世代を超えて共にブラジル国旗を振り、国歌を歌い、よりよい国に向けて奮闘している。これぞ民主主義」とデモ参加者にリップサービスを送った。”【6月19日 Neswweek】

「これぞ民主主義」とは、いささか調子がよすぎる感もありますが・・・。
“警察は催涙ガス、ゴム弾などの実力行使で鎮圧しているとニューヨーク・タイムズ紙は報じた。事実、多くの暴力行為が録画されユーチューブに投稿されている。現在は警察がゴム弾を使用しないことをデモの指導者たちと合意し、落ち着きを取り戻しつつある”【同上】と、同じく反政府抗議行動に直面しているトルコ・エルドアン首相の強硬姿勢とは異なる対応を示しています。

回復が鈍いブラジル経済
広大な国土と豊かな資源を持ち、長らく“未来の経済大国”と言われていたブラジルですが、対外債務が累積し、財政は破綻、1993年には2500%の物価上昇率というハイパーインフレーションも経験しています。

しかし、“金融危機を乗り越えると、カルドーゾ政権下で成長を遂げるようになり、ルーラ政権では発展途上国向けの貿易拡大が行われ、ブラジルは長く続いた累積債務問題の解消へ向かう。その後の経済の回復とともに2007年には国際通貨基金への債務を完済し、債務国から債権国に転じた”【ウィキペディア】と成長軌道に乗り、特に政治手腕にもたけたルラ前大統領のもとでBRICsのメンバーとして、文字通りの“経済大国”を実現。国際的存在感も増し、2011年にはイギリスを抜いて世界第6位の経済規模になっています。

“最近までブラジルは世界の中で最もうらやまれる国の1つだった。過去10年の大半にわたって輸出がブームを迎え、内需が拡大し、あるいは野心的な社会保障プログラムが導入されたことにより、国内総生産(GDP)成長率は平均で年4%を超え、3000万人以上の国民が貧困から脱することになった。”【6月19日 ロイター】

ただ、ここ数年は経済が失速し、2010年に7.5%だった成長率は、11年(2.7%)、12年(0.9%)となっています。
2013年も回復は難しい情勢です。
スイスのIMD(経営開発国際研究所)が発表した2013年の国際競争力ランキングにおいても、ブラジルは2012年の46位から51位へと5つ順位を下げる結果となっています。【JETRO経済動向レポートより】

****ブラジル経済、回復鈍く1~3月の実質成長率1.9%****
ブラジル地理統計院(IBGE)は29日、2013年1~3月の実質経済成長率が前年同期比で1.9%だったと発表した。前の四半期(1.4%)は上回ったものの引き続き低調。タイなど他の新興国と異なり、ブラジルでは中央銀行がインフレの抑制を重視、引き締め姿勢を維持している。かじ取りが難しい状況が続きそうだ。

(中略)エコノミストの予想平均による13年の成長率見通しは約2.9%で、11年(2.7%)、12年(0.9%)に続く低水準になるとの見方が強まっている。
 
(中略)ブラジルは資源高を背景に成長してきたが、複雑な税制やインフラ不足といった「ブラジルコスト」といわれる課題への取り組みが鈍かった。関税引き上げなど保護主義的傾向もあり、不振の遠因になっている。【5月30日 日経】
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具体的に市民生活を苦しめているのがインフレで、そのインフレ対策優先のため景気刺激策がとれない状況が続いています。

****ブラジル、0.5%利上げ 景気低迷でもインフレ抑制策****
ブラジル中央銀行は29日、通貨政策委員会で、政策金利を0.5%幅引き上げ、年8.0%にすると発表した。利上げは2会合連続。景気は低迷しているが、食料品などの物価が上昇しており、インフレ抑制を優先せざるを得ない状況となっている。(中略)

インフレへの懸念は、昨年から強まっていた。トマトなどの価格が目に見えて上がり、トマトを使う料理を注文しないよう来店者に求めるレストランが話題になるなどした。
政府は「インフレはコントロールできている」と何度も強調してきたが、今年3月の消費者物価指数(IPCA)は中銀が定める目標の上限(前年同月比6.5%)を上回り、4月、1年9カ月ぶりの利上げに踏み切っていた。

一方で、経済は低空飛行が続く。29日に発表された1~3月の経済成長率は前年同期比で1.9%。中国の景気減速などを背景に、成長を引っ張ってきた鉱業部門が6.6%落ち込むなど、不安材料が少なくない。

こうした中での金融引き締めは景気をさらに冷やしかねないとして慎重な声もあったが、インフレへの懸念は確実に高まっており、金融緩和で景気刺激を図る日本や米国、他の新興国とは対照的な決定となった。【5月30日 朝日】
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競争力が低下した国内産業を保護・支援するための保護貿易的な政策が裏目に出ているとの指摘もあります。

****ブラジルをめぐる主要な政治的リスク****
・・・・税金の高さや労働コスト、通貨高により、ブラジルの製造業者は安価な輸入品に太刀打ちできなくなっている。ルセフ大統領は税控除やその他のインセンティブを通じて一部の業界に優遇策を導入する一方、オートバイや電子レンジといった特定の輸入品にかかる税率を引き上げた。

だが、エコノミストは製造業の競争力を高めるための税制や労働法規の抜本改革が、ブラジルの産業界を実質的に上向かせる転換点になると指摘する。これらの改革は、動きの鈍い議会であいまいなままになっており、エコノミストは経済を実質的に刺激する策は少ないと指摘する。

 <貿易障壁が裏目に>
ルセフ大統領の景気支援に向けた取り組みは、対象セクターを海外との競争から保護することにもつながっており、ブラジルを中南米地域で孤立させ、一部の多国籍企業の事業計画を困難なものにしている。

ブラジルは今年初め、メキシコとの貿易協定について再交渉し、3年間にわたって同国からの自動車輸入を制限。これが中南米の2大国の関係を冷え込ませた。アルゼンチンとも自動車や他の分野で貿易抑制に向けた措置を取った。
これらの措置に対して海外の関係者の不満は増しており、ブラジルが措置を継続させる場合には世界貿易機関(WTO)が報復的な措置を求める可能性も高まってる。(後略)【2012年7月5日 ロイター】
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今後については、中国経済の減速の影響も懸念されています。
中国は、ブラジルにとり最大の輸出相手国であり、輸出全体に占める中国向けの割合は、2007年の6.7%から2012年には17.0%と大きく拡大しています。

こうした厳しい経済情勢にあっても、これまでは高い支持率を維持してきたルセフ大統領ですが、前出【6月19日 産経】にあるように、さすがに支持率低下が出てきています。
このまま支持率低下が続けば、2014年大統領選挙では喉頭がんの治療が完了させたルラ前大統領の再出馬・・・ということも考えられます。ルラ前大統領ご本人にも、招致した五輪を自分の手で・・・という思いもあるでしょう。
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