孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  微妙な人種問題 進む非白人化 移民制度改革法案の二面性

2013-06-25 23:07:57 | アメリカ

(アメリカ・カリフォルニア州とメキシコを隔てる“壁”(ボーダー・フィールド州立公園) 鉄道のレールを突き立てただけのこの柵は、足が濡れるのを気にしなければ簡単に通り抜けられるものですが、監視体制がどうなっているのかは知りません。“flickr”より By Kyle Mahan
なお、【2007年7月 NATINAL GEOGRAPHIC】http://nationalgeographic.jp/nng/magazine/0707/feature05/gallery/02.shtmlに、厳重なものから「?」なものまで、アメリカ・メキシコを隔てる各地のいろんな壁の興味深い写真が掲載されています。)

差別禁止・是正措置は逆差別か
アメリカにおいて、人種の問題が複雑でデリケートな問題であることは言うまでもないことです。
今でこそ人種差別的な言動はタブーとなっていますが、私が子供の頃は、アメリカはまだ「白人専用」といった看板が街に見られるような社会でしたので、最近の差別をタブー視する価値観というのはつい最近のことです。

当然がら、人々の心の中に残る差別や拒否感の問題は、公の場での差別の禁止とはまた別の問題として、黒人大統領が誕生した今も根深いものがあるのは想像に難くないところですが、このあたりの心情は、単一の民族が大多数を占める日本人にはうかがい知れない部分も多々あるかと思います。

最近目にした、アメリカの人種問題関連の話題が2件。
ひとつは、公民権運動の中心的役割を果たした「投票権法」の現在での必要性の問題です。
アメリカでは、「投票権法」によって、“過去に差別的な手段で有権者登録のハードルを高くした州や郡を指定し、選挙に関する規定を変更する際は、連邦政府の事前承認を得るよう義務づけている”そうです。

****投票に残る人種差別 制限禁じる米法の必要性、近く判決****
マーティン・ルーサー・キング牧師らが率いた公民権運動から半世紀。当時夢見たように、米国の人種差別は過去の問題になったのか。そんな根源的な問いかけに対する判決が、連邦最高裁で近く言い渡される。

訴訟の対象となっているのは、1965年に制定された「投票権法」。人種や出自を理由とした投票制限を禁じる内容で、黒人の地位向上につながった一連の公民権法の中でも効果的な役割を果たしてきた。
過去に差別的な手段で有権者登録のハードルを高くした州や郡を指定し、選挙に関する規定を変更する際は、連邦政府の事前承認を得るよう義務づけている。

だが、2010年にアラバマ州シェルビー郡が「法律の延長は議会の裁量を超えている」として提訴。事前審査や、審査対象の自治体を定めた規定の無効を求めている。
同郡の弁護士を務めるフランク・エリス氏は「半世紀前とは変わった。黒人や白人の子供が一緒に遊び、白人が多い町でも黒人の町長がいる。にもかかわらず、事前審査を課すのはあまりに重い」と話す。

訴訟は無計画に起こされたわけではない。人種を前提とした法律規定の撤廃を目指し、活動を続けてきたエドワード・ブルーム氏(61)が同郡に訴訟を提案した。「組織的な差別は米国からほとんどなくなっている。法律は『逆差別』になりかねない」とブルーム氏は解説する。

しかし、必要性を訴える人もいる。同州セルマは1965年3月、公民権運動のため行進していた黒人らに警察が暴行を加え、投票権法が生まれるきっかけとなった場所。この時、暴行を受けた民主党のジョン・ルイス下院議員(73)は「人種問題は劇的に進歩したが、後戻りは許されない」と語る。

昨年の大統領選でも有権者に特定の身分証明書の提示を求めたり、期日前投票を制限したりと、マイノリティーにとって不利となる法改正が複数の州で実施された。「いつかは、投票権法が必要ない日が来るはずだ。ただ、今はまだ問題が多すぎる」とルイス氏は話す。(シェルビー郡〈米アラバマ州〉=中井大助)【6月24日 朝日】
*********************


もうひとつは、大学入試における積極的差別是正措置の問題。マイノリティー優遇措置が逆差別にあたるのではないかとの訴えです。

****米入試訴訟:少数人種優遇、違憲か 最高裁、差し戻し****
学生の多様性を確保するため「人種」を入学選抜基準に採用している米テキサス大学の入試制度は違憲として訴えていた積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)訴訟で、米連邦最高裁は24日、下級審が「厳格な審査」をしていないとして、大学側の主張を支持した連邦控訴裁への差し戻しを命じた。
これにより、大学の入試制度が違憲となる可能性が出てきた。

2008年に同大を不合格になった白人女性のフィッシャーさんが、選ばれなかったのは同大の選抜制度により「不法に差別された」ためとして提訴。1審に続き11年の2審判決でも敗訴し、上告していた。

最高裁は「控訴裁は実際に入試制度がどう運用されているか厳密な検討なしに大学側の主張を認めた」とし、原判決を無効とした。

同措置は黒人など人種的少数派を優遇するため1960年代に導入された制度。ミシガン大法科大学院が訴えられた同様の訴訟で連邦最高裁は03年、総合的な判断材料の一つとして人種を考慮するのは「合憲」としていた。【6月25日 毎日】
******************

「投票権法」、積極的差別是正措置双方とも、差別是正に大きな役割は果たしたことは別として、現在ではもはや必要なく、その存続は逆差別ともなるという白人側からの訴えのようです。

そうした主張の妥当性については、最初にも述べたように日本人にはうかがい知れない部分も多々あるところで、アメリカ社会の実情もわかりませんので、ここでは触れません。

白人新生児が過半数を割る、白人の「自然減」】
ただ、近年のアメリカ社会では白人の割合が減少しており、新たな微妙な問題を今後生み出すことも想像されます。
下記は1年前の記事です。

****米国の赤ちゃん、史上初めて白人系が少数派に 米国勢調査****
米国で生まれた新生児のうち、白人系はもはや多数派ではないことが、米国勢調査局が17日に発表した統計結果で明らかになった。

米紙ニューヨーク・タイムズが報じた統計結果によると、2011年7月までの1年間に生まれた米国の新生児は、ヒスパニック、アフリカ系、アジア系、混血系など非白人系が50.4%を占め、米国史上初めて白人系が過半数を割った。

ヨーロッパからの白人移民によって建国され、初期には労働力として多数のアフリカ系の人々が奴隷として連れてこられた米国の現在の人口比の変化は、ある程度は予測されたことだった。
近年は中南米からのヒスパニック系移民が増加しており、新生児における白人系比率の低下に拍車をかけたとみられる。

ニューヨーク・タイムズ紙は米調査機関「ピュー・ヒスパニック・センターの人口統計学者、ジェフリー・パッセル氏の話として、ヒスパニック系の人口増加傾向は続くとみられると伝えた。ヒスパニック系住民の平均年齢が、出産適齢期のピークにあたる27歳だからだ。
パッセル氏によれば、2000年から2010年までの期間に米国で生まれたヒスパニック系の数は、米国に新たに移民したヒスパニック系の人数を超えたという。

一方、米国の新生児を人種別にみれば、白人系が49.6%と依然として最大のシェアを保っている。米国人全体でも白人系が63.4%で多数派だ。

米シンクタンク、ブルッキングス研究所のウィリアム・フライ氏はニューヨーク・タイムズ紙に、非白人系の新生児が白人系を上回ったこの転換点を「米国の社会が、ほとんどが白人系だったベビーブーマー時代から、よりグローバル化した多民族国家へと変容しつつある事実を示したもの」との見解を示している。【2012年5月17日 AFP】
*******************

下記は、白人が「自然減」となったという今年6月の記事です。

****米国で白人の死亡数が出生数を上回る―近代史上初めて*****
米国の近代史で初めて白人の死亡数が出生数を上回った。今後、回復基調にある米国経済が勢いを付ける上で、マイノリティーや新たな移民が人口増加に果たす役割が大きくなるとみられる。

米国勢調査局が13日に発表した統計と、ニューハンプシャー大学の人口統計学者ケネス・ジョンソン氏による全米保健医療統計センターのデータ分析によると、2012年6月までの1年間に死亡した非ヒスパニック系白人の数は同期間の出生数を約1万2400人上回り、初めての「自然減」となった。

一方、国勢調査局のデータは、移民によって白人人口の絶対数が昨年増加したことを示した。

ブルッキングス研究所の人口統計学者ウィリアム・フレイ氏は、このデータを分析すると、非ヒスパニック系白人の人口増加が鈍化するにつれて、若年人口に占めるマイノリティーの比率が上昇していると話す。5歳未満の米国人は依然として大半(50.1%)が白人だが、ヒスパニック系やアジア系を中心とするマイノリティーが2年連続で新生児の過半数を占めているため、この比率は今後低下すると見られている。

米国の白人人口は近年増加ペースが鈍化していたが、人口統計学者は今後もしばらく出生数が死亡数を上回ると予想していた。国勢調査局は、死亡数が出生数を上回る「自然減」は2020年頃から起き始め、白人人口はその数年後から減少に転じると見込んでいた。(中略)

脆弱な景気回復を受けて多くの女性が出産を先延ばしにしていることも影響している。人口統計学者はこの傾向は反転する可能性もあるとみているが、国勢調査局のデータはそれ以上に強力かつ長期的な人口動態の変化を浮き彫りにしている。

白人人口の高齢化に伴って出産適齢期の白人女性が減少していることが、白人の出生数の低下につながっている。この傾向が変化する見込みは低く、同時にアフリカ系やヒスパニック系を含む若年成人の出産数も減少している。
人口を一定に保つ出生率を表す人口置換水準は米国の場合約2.1だが、出生率は現在これを下回る1.9となっている。【6月17日 WSJ】
******************

不法滞在者1100万人を社会の影から引き出す一方で、新たな不法移民を防ぐ対策強化
黒人やヒスパニック系住民のウェイトが増していることは、大統領選挙の際、こうした住民の支持が多い民主党と、逆の立場の共和党という関連でもよく取り上げられるところですが、近い将来、白人が過半数を割り込み、アメリカが少なくとも数の上では「白人の国」でなくなることは避けられない事実でしょう。

また、人口増という社会の活力を維持するためには、移民の役割が重要となってきます。そのことは、アメリカ社会の非白人化を更に加速させることになります。

人口構成が特に増加しているのはヒスパニック系で、移民の主力となっています。
特に、国境を接するメキシコからは不法移民も多く、共和党を中心に強い反発があります。
一方で、アメリカ社会がこうした移民労働力を前提にして成立しており、今後その重要性は増すことはあっても減ることはありません。不法移民にしても、その流入を許容することはできないが、既に存在するその労働力を無視することもできないという微妙なところです。

****移民受け入れ、経済成長にプラス=改革法案の早期成立要請―米大統領****
オバマ米大統領は24日、納税など一定の条件を満たした不法移民に市民権取得の道を広範に開くことを柱とした移民制度改革に関し、「移民の取り込みが経済成長や雇用創出に貢献することは、全ての財界指導者が認識している」と述べるとともに、早期の法案成立を議会に改めて促した。

移民制度改革をめぐっては、大統領提案に基づき超党派の上院議員が提出した法案が施行されれば、今後10年間で1970億ドル、その後の10年間でさらに7000億ドルの財政赤字削減が見込めるとの報告書を議会予算局(CBO)がまとめている。

大統領はこれに触れ、「今こそ改革を成し遂げるときだ」と訴えた。ホワイトハウスで開かれた移民制度改革に関する企業経営者らとの協議に先立ち記者団に語った。【6月25日 時事】 
*******************

今回の移民制度改革法案では、“2011年12月以前に入国した不法移民は重い有罪判決を受けていないことなどを条件に、500ドル(約5万円)の罰金を支払えば「暫定的な登録移民」としての地位を申請でき、合法的に働くことができるようになるのが法案の柱。10年後に永住権、さらにその3年後に市民権の申請が可能になるという。”【5月22日 日経】ということで、不法滞在者1100万人を社会の影から引き出し、一定条件下で合法化しようというものです。
その一方で、オバマ政権は不法移民増加を批判する共和党を懐柔するため、厳しい不法移民取締り強化策を盛り込んでいます。

****軍事化」する米メキシコ国境、移民制度改革法案****
国境警備隊2万人の増員、数百キロに及ぶフェンス、無人偵察機やレーダー、センサーに数十億ドルを投入──メキシコからの不法移民流入を食い止めようと、米議会では軍事的な対抗手段が提案されている。

米上院は24日、画期的な移民制度改革法案の中で最も重要な修正案を承認したが、治安悪化に対する共和党の懸念を和らげることを意図したこの修正案は、米・メキシコ国境を西半球で指折りの厳重警戒地域にしようとしている。
批判派はこの計画を「ステロイド剤を使った国境警備」(副作用が多いという意味)と呼び、修正案策定を担当した共和党議員さえ密入国の取り締まり手段としては「やり過ぎ」かもしれないと認めている。

今回の修正案が承認されたことで、過去30年近くで最も抜本的な移民制度改革法案は上院を通過する見込みだ。法案が下院に送られた後の見通しには流動的な面もあるが、年内に成立するという楽観的な見方もある。

移民制度改革法案の主眼は、メキシコ人が大半を占める米国内の不法滞在者1100万人を社会の影から引き出し、最初の申請から13年後には市民権の申請ができるようにすることだ。さらに農業やハイテク分野での就労ビザ制度改正や、雇用証明書の電子化、包括的な出入国追跡などが盛り込まれている。

しかし、ロナルド・レーガン政権下の1986年以来となる大規模な移民制度改革法成立の可能性を高めるため、バラク・オバマ大統領率いる民主党は共和党への妥協を重ね、当局が新たな不法移民の流入に直面する事態を避けることを保証した。

そして共和党のボブ・コーカー、ジョン・ホーベン両上院議員が策定した妥協案によって、2002年にはわずか1万人だった合衆国国境警備隊は、現在の約1万8000人から3万8405人に増員される。平均すると全長3200キロの米・メキシコ国境で1キロ当たり約12人が配備されることになる。

■もうかるのは軍事企業?
修正案に賛成する議員らは、先住民居留地以外の場所にある既存の長さ約480キロの進入車両防御フェンスを、もっと厳重な「徒歩越境者防御フェンス」に変えることも望んでいる。
フェンスはさらに80キロ分を増設し、合計で約1130キロの高いフェンスを設置する計画だ。
一部のフェンスは、メキシコと米テキサス州が接し、約2020キロの自然の国境となっているリオグランデ川沿いに設置される。

さらに修正案は国境警備装備の増強も詳細に定めている。32億ドル(約3100億円)の予算を投入し、無人偵察機4機、ヘリコプター40機、ボート30隻、振動・画像・赤外線による地上無人センサー4595台、さらに数百台の固定監視カメラと移動監視システムなどを導入する。

移民制度改革法案の原案を民主党議員4人と共に策定した共和党議員4人の1人、ジョン・マケイン上院議員は21日、米FOXニュースに対し「私が勧告したであろう内容以上の内容かと聞かれれば、その通りだと答える」と語った。「しかし、われわれは人々を安心させなければならない」

ワシントンD.C.周辺では、この国境警備強化案はジョージ・W・ブッシュ大統領が2007年に命じたイラクへの米軍増派と比較され始めている。
民主党のパトリック・レーヒー上院議員は「米軍増派との比較は的を射ている。なぜならばこの法案は、米南西部の数百のコミュニティーを軍事化するものだからだ」と述べ、国境警備態勢の変更は「(米軍事・エネルギー大手)ハリバートンが欲しがるクリスマスプレゼントのリストのようだ」と冷笑した。【6月25日 AFP】
*******************

もっとも、順調なメキシコ経済、メキシコでの出生率低下を受けて、かつてとは逆に、今やアメリカからメキシコに戻る人々の方が、アメリカへの流入を上回る現象が起きている・・・という話は、2012年6月26日ブログ「アメリカ アリゾナ州移民法に関する連邦最高裁判断 一方で、国境での人の流れに大きな変化も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120626)で取り上げました。

事態は刻々と変化しています。従来の“不法移民取締り”的な発想では現実から遅れてしまうことも考えられます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする