孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブラジル  物価上昇や汚職・公費無駄遣いなどに大規模抗議デモ 鈍い経済回復

2013-06-20 23:13:02 | ラテンアメリカ

(19日、ブラジル コンフェデレーションズカップ会場周辺で、警官隊とにらみ合うデモ隊 【6月20日 時事】http://www.jiji.com/jc/zc?k=201306/2013062000140&g=int)

【「ワールドカップより教育、貧困対策を」】
日本では、ブラジルで開催されているコンフェデレーションズカップ・対イタリア戦における日本チームの予想外の健闘に一喜一憂した人も多いかと思いますが、現地ブラジルでは経済低迷・物価上昇を背景にコンフェデ杯や来年のワールドカップ開催に反対する大規模デモが行われています。

****W杯より教育・貧困対策」 ブラジルで20万人デモ****
サッカー日本代表も参加している「コンフェデレーションズカップ」が開催されているブラジルで17日、コンフェデ杯や来年のワールドカップ(W杯)開催に反対する大規模デモが起きた。

ロイター通信によれば、過去20年間で最大規模となる約20万人が参加しており、大会運営への影響を懸念する声も出始めた。
首都ブラジリアでは、数百人の暴徒が国会議事堂の屋根に上ったほか、リオデジャネイロでは若者らが州議会庁舎に乱入した。他都市でも、デモ隊と警官隊が小競り合いを起こしている。

国内で食料価格が高騰するなか、サンパウロで2日、地下鉄やバスなどの運賃が3レアル(約130円)から3・2レアルに引き上げられたことを契機にデモが各地で発生した。

デモ隊は連日、「W杯より教育、貧困対策を」「(反政府デモを行った)トルコを見習え」などと書かれたプラカードを掲げ、政府に激しく抗議している。
最新の世論調査では、2014年に実施される大統領選で再選を目指すルセフ大統領の支持率は、11年の就任以来初めて下がり、57%(前回から8ポイント減)となった。【6月19日 産経】
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公共交通機関の値上げ(バス基本料金の3レアル(1.4ドル)から3.2レアルへの値上げ)に端を発した政府への抗議デモは6月上旬から断続的に続いていましたが、コンフェデ杯開催で“コンフェデ杯や来年のワールドカップ準備に公費を無駄遣いしている”とターゲットが絞られ、インターネットを通じて拡大したようです。
これまでのデモはお祭り騒ぎ的な雰囲気もありましたが、次第に一部過激化する場面も出てきています。

****ブラジルのデモ過激化…コンフェデ杯開催地でも****
物価上昇や汚職、公費無駄遣いなど広範な社会問題の改善を求めるブラジルの大規模デモは、19日もサンパウロなど各地で続いた。

グロボテレビなどによると、サッカー・コンフェデレーションズ杯のブラジル―メキシコ戦が行われた北東部フォルタレザでは、会場のカステラン競技場に近付こうとした約2万5000人のデモ隊と治安部隊が衝突、投石などで複数の負傷者が出た。

リオデジャネイロ近郊ニテロイではデモ隊の一部が暴徒化し、バスなどに放火。これまでデモの大半は平和的だったが、次第に過激化の様相を呈している。ブラジル政府は18~19日、治安維持のため、リオなど5都市に連邦警察の特別部隊を派遣した。【6月20日 読売】
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【「わが政府は変革を求める声に耳を傾けている」】
この事態に、「サッカーの神様」ペレ氏が19日、テレビで「今起きている騒ぎをすべて忘れてくれ。コンフェデレーションズカップを批判しないで、ブラジルチームを応援してほしい」と訴えたそうですが、15日の日本戦でゴールを決めたブラジル代表FWのネイマール選手は、抗議デモに共感を示し「ブラジルがもっと公正で、安全で、健康的で、正直になることを望む」と語っています。【6月20日 毎日より】

ルセフ大統領は「抗議の声に耳を傾ける」との声明を出し、事態沈静化に躍起になっています。
〝ジルマ・ルセフ大統領は18日、デモ発生以来初めてのコメントでデモへの支持を表明したとBBCが伝えた。
「わが政府は変革を求める声に耳を傾けている」と国民の怒りをなだめながら、「デモでは世代を超えて共にブラジル国旗を振り、国歌を歌い、よりよい国に向けて奮闘している。これぞ民主主義」とデモ参加者にリップサービスを送った。”【6月19日 Neswweek】

「これぞ民主主義」とは、いささか調子がよすぎる感もありますが・・・。
“警察は催涙ガス、ゴム弾などの実力行使で鎮圧しているとニューヨーク・タイムズ紙は報じた。事実、多くの暴力行為が録画されユーチューブに投稿されている。現在は警察がゴム弾を使用しないことをデモの指導者たちと合意し、落ち着きを取り戻しつつある”【同上】と、同じく反政府抗議行動に直面しているトルコ・エルドアン首相の強硬姿勢とは異なる対応を示しています。

回復が鈍いブラジル経済
広大な国土と豊かな資源を持ち、長らく“未来の経済大国”と言われていたブラジルですが、対外債務が累積し、財政は破綻、1993年には2500%の物価上昇率というハイパーインフレーションも経験しています。

しかし、“金融危機を乗り越えると、カルドーゾ政権下で成長を遂げるようになり、ルーラ政権では発展途上国向けの貿易拡大が行われ、ブラジルは長く続いた累積債務問題の解消へ向かう。その後の経済の回復とともに2007年には国際通貨基金への債務を完済し、債務国から債権国に転じた”【ウィキペディア】と成長軌道に乗り、特に政治手腕にもたけたルラ前大統領のもとでBRICsのメンバーとして、文字通りの“経済大国”を実現。国際的存在感も増し、2011年にはイギリスを抜いて世界第6位の経済規模になっています。

“最近までブラジルは世界の中で最もうらやまれる国の1つだった。過去10年の大半にわたって輸出がブームを迎え、内需が拡大し、あるいは野心的な社会保障プログラムが導入されたことにより、国内総生産(GDP)成長率は平均で年4%を超え、3000万人以上の国民が貧困から脱することになった。”【6月19日 ロイター】

ただ、ここ数年は経済が失速し、2010年に7.5%だった成長率は、11年(2.7%)、12年(0.9%)となっています。
2013年も回復は難しい情勢です。
スイスのIMD(経営開発国際研究所)が発表した2013年の国際競争力ランキングにおいても、ブラジルは2012年の46位から51位へと5つ順位を下げる結果となっています。【JETRO経済動向レポートより】

****ブラジル経済、回復鈍く1~3月の実質成長率1.9%****
ブラジル地理統計院(IBGE)は29日、2013年1~3月の実質経済成長率が前年同期比で1.9%だったと発表した。前の四半期(1.4%)は上回ったものの引き続き低調。タイなど他の新興国と異なり、ブラジルでは中央銀行がインフレの抑制を重視、引き締め姿勢を維持している。かじ取りが難しい状況が続きそうだ。

(中略)エコノミストの予想平均による13年の成長率見通しは約2.9%で、11年(2.7%)、12年(0.9%)に続く低水準になるとの見方が強まっている。
 
(中略)ブラジルは資源高を背景に成長してきたが、複雑な税制やインフラ不足といった「ブラジルコスト」といわれる課題への取り組みが鈍かった。関税引き上げなど保護主義的傾向もあり、不振の遠因になっている。【5月30日 日経】
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具体的に市民生活を苦しめているのがインフレで、そのインフレ対策優先のため景気刺激策がとれない状況が続いています。

****ブラジル、0.5%利上げ 景気低迷でもインフレ抑制策****
ブラジル中央銀行は29日、通貨政策委員会で、政策金利を0.5%幅引き上げ、年8.0%にすると発表した。利上げは2会合連続。景気は低迷しているが、食料品などの物価が上昇しており、インフレ抑制を優先せざるを得ない状況となっている。(中略)

インフレへの懸念は、昨年から強まっていた。トマトなどの価格が目に見えて上がり、トマトを使う料理を注文しないよう来店者に求めるレストランが話題になるなどした。
政府は「インフレはコントロールできている」と何度も強調してきたが、今年3月の消費者物価指数(IPCA)は中銀が定める目標の上限(前年同月比6.5%)を上回り、4月、1年9カ月ぶりの利上げに踏み切っていた。

一方で、経済は低空飛行が続く。29日に発表された1~3月の経済成長率は前年同期比で1.9%。中国の景気減速などを背景に、成長を引っ張ってきた鉱業部門が6.6%落ち込むなど、不安材料が少なくない。

こうした中での金融引き締めは景気をさらに冷やしかねないとして慎重な声もあったが、インフレへの懸念は確実に高まっており、金融緩和で景気刺激を図る日本や米国、他の新興国とは対照的な決定となった。【5月30日 朝日】
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競争力が低下した国内産業を保護・支援するための保護貿易的な政策が裏目に出ているとの指摘もあります。

****ブラジルをめぐる主要な政治的リスク****
・・・・税金の高さや労働コスト、通貨高により、ブラジルの製造業者は安価な輸入品に太刀打ちできなくなっている。ルセフ大統領は税控除やその他のインセンティブを通じて一部の業界に優遇策を導入する一方、オートバイや電子レンジといった特定の輸入品にかかる税率を引き上げた。

だが、エコノミストは製造業の競争力を高めるための税制や労働法規の抜本改革が、ブラジルの産業界を実質的に上向かせる転換点になると指摘する。これらの改革は、動きの鈍い議会であいまいなままになっており、エコノミストは経済を実質的に刺激する策は少ないと指摘する。

 <貿易障壁が裏目に>
ルセフ大統領の景気支援に向けた取り組みは、対象セクターを海外との競争から保護することにもつながっており、ブラジルを中南米地域で孤立させ、一部の多国籍企業の事業計画を困難なものにしている。

ブラジルは今年初め、メキシコとの貿易協定について再交渉し、3年間にわたって同国からの自動車輸入を制限。これが中南米の2大国の関係を冷え込ませた。アルゼンチンとも自動車や他の分野で貿易抑制に向けた措置を取った。
これらの措置に対して海外の関係者の不満は増しており、ブラジルが措置を継続させる場合には世界貿易機関(WTO)が報復的な措置を求める可能性も高まってる。(後略)【2012年7月5日 ロイター】
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今後については、中国経済の減速の影響も懸念されています。
中国は、ブラジルにとり最大の輸出相手国であり、輸出全体に占める中国向けの割合は、2007年の6.7%から2012年には17.0%と大きく拡大しています。

こうした厳しい経済情勢にあっても、これまでは高い支持率を維持してきたルセフ大統領ですが、前出【6月19日 産経】にあるように、さすがに支持率低下が出てきています。
このまま支持率低下が続けば、2014年大統領選挙では喉頭がんの治療が完了させたルラ前大統領の再出馬・・・ということも考えられます。ルラ前大統領ご本人にも、招致した五輪を自分の手で・・・という思いもあるでしょう。
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トルコ  反首相抗議運動で明らかになったエルドアン政権のメディア統制

2013-06-19 22:33:44 | 中東情勢

(警官が赤いドレスの女性に催涙ガスを噴射した瞬間をとらえたロイター通信の写真 警察側の暴力を示すものとして、ソーシャルメディアを通じて広まりました。 “flickr”より By Céline Royale  http://www.flickr.com/photos/95417653@N05/8975438333/in/photolist-eF8t7M-dBTE76-b2fbPp-dv4EaQ-eNDG2K-eDXCEg-8obH1w-8CxSok-bkKL7h-8bdDwP-amwGPx-eKbTgG-cLM8mE-dvQpSD-8WgHvs-8bfx3i-8ai1Yj-9ToYVX-dBeMkJ-eCXnwK-8wMPpY-8Nu2fL-9Ndk7f-8yVXVe-cLMa3S-cLM9mQ-dqoLK9-aUaMWB-7Pfib2-dWebjn-dWEvEh-ecDwrU-bqnfT4-a1gEmy-aLeRdz-cKRxLN-aXgRki-du97g3-cnf7Vh-cnJYgA-dibrRz-auqTLq-cLM8Lh-7RnLgF-8hrJPh-azcvAt-8WiP1M-8VgSmL-81tANV)

【「われわれの民主主義は再び挑戦を受け、勝利を果たした」】
トルコの最大都市イスタンブール中心部のゲジ公園で始まった市民の抗議行動は、当初の公園再開発問題からエルドアン首相の強権姿勢・イスラム化政策に対する抗議へと拡大しましたが、政府側と抗議市民側の対立は解けず、警察による催涙ガスや放水車を使った強制排除に至っています。

エルドアン首相は、これを“勝利”と表現し、今後についても抗議行動には厳しく対応していくことを明らかにしています。

*****デモへの勝利を宣言=「今後容認せず」と警告―トルコ首相****
トルコのエルドアン首相は18日、与党公正発展党(AKP)の会合で、イスタンブール中心部で反政府デモ隊を強制排除したことなどを踏まえ、「われわれの民主主義は再び挑戦を受け、勝利を果たした」と宣言した。AFP通信が伝えた。

首相は、デモは国家に対する裏切り者や、それを支える外国勢力によって起こされたと改めて強調。「今後、暴力行為に手を染める者や組織を容認する余地は全くない」と述べ、激しい抗議デモが行われた場合、厳しい対応を取ると警告した。【6月18日 時事】
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市民の抗議行動を力で排除することを“勝利”と認識すること自体に、エルドアン首相の進めてきたトルコ型イスラム民主主義のほころび、エルドアン首相の強権体質を感じます。
なお、市民の抵抗運動は収束したわけではなく、無言で立ちつくす「無言の抵抗」「沈黙のデモ」も行われています。

****脅しに屈しない」=無言の抵抗、再び数百人に―トルコ****
トルコのエルドアン首相の強権体質に反発する数百人が18日夜から19日未明にかけ、イスタンブール中心部のタクシム広場で黙って立つ「無言の抵抗」に参加した。首相はデモ隊が治安部隊に抵抗すれば厳しい措置を取ると明言しているが、参加者は「脅しには屈しない。表現の自由を守る」と誓っていた。

無言の抵抗は17日夜に男性1人が始めたのがきっかけで、18日未明には数百人規模に達した。治安部隊に妨害されるなどしながらも続けられ、18日夕ごろから職場や学校から帰宅する途中の人々が次々と加わり、再び規模を拡大させた。【6月19日 時事】 
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「無言の抵抗」はツイッターなどを通じて参加者が増え、市民ら数千人が参加したとも報じられています。
公園の周辺には多数の警官が展開し、参加者らを遠巻きにして警戒にあたっており、ギュレル内相は「公共の秩序を乱さない限り介入しない」と述べ、静観する構えを示しています。【6月19日 読売より】

【「魂を売り渡した」主要メディア ソーシャルメディアで広がる“赤いドレスの女”】
トルコではエルドアン首相・与党AKPのイスラム主義と世俗主義勢力の間に根深い対立があることは、これまでも注視されていたことで目新しいことではありません。
また、今回の反首相抗議行動を行っている市民勢力が必ずしもトルコ全体を代表している訳でもありません。

ただ、今回の騒動によって、イスラム民主主義のモデルとして国際的にも高く評価されてきた、エルドアン首相の進める“民主主義”にメディア統制という大きな問題があることが顕在化しています。

****トルコ、デモ報道に圧力 外国人拘束・FB監視****
トルコのデモ隊を強制排除したエルドアン政権が、攻撃の矛先をメディアに向けている。デモを伝えた外国メディアの記者や、ソーシャルメディアの利用者を相次いで拘束。一方、「自主規制」をしてきた地元の主要テレビは民衆の信頼を失った。

「BBC、CNN、ロイター通信はうそをでっちあげてばかりだ」
エルドアン首相は16日夕、イスタンブールで支持者を前にメディア批判を繰り返し、「挑発的なソーシャルメディアのやりとりと報道を調査する」と宣言した。

外国メディアの記者の拘束も相次いでいる。12日にはデモの拠点タクシム広場でバリケード撤去の様子を撮影中のカナダ放送協会の記者2人が、14日にも広場で警察車両を撮影していたロシア人記者がそれぞれ拘束された。このロシア人記者は「警官に足と股間を蹴られた」と訴えている。

ゲジ公園で強制排除があった15日夜、朝日新聞記者も警察に阻まれ、公園周辺でずっとサーチライトを当てられた。外国テレビのカメラマンは「取材させてくれない。こんな国はない」と悔しさをにじませた。

ソーシャルメディアの監視も強まっている。地元メディアによると、ツイッターやフェイスブック(FB)でデモを扇動したとして、西部イズミルで35人、南部アダナで13人が逮捕。政権は、首相が「害悪」と名指しするツイッターに対し、課税や法的規制なども検討している模様だ。

トルコ当局は12日、「若者の精神の発展を阻害した」として、デモを報じた反政権系テレビ局4社にそれぞれ1万1千リラ(約56万円)の罰金を科した。

 ■地元局は自主規制
一方、地元の主要メディアは当初、デモや衝突の様子をほとんど報じなかった。
先月31日のデモ隊と警察の最初の大規模衝突を、主要各局はごく短くしか扱わず、今月1日夜には、米CNNインターナショナルが現場から生中継したが、地元資本のCNNトルコ語版はペンギンのドキュメンタリー番組を放映した。民放大手のNTVも2日夜、ヒトラーのドキュメンタリーを放送した。

怒ったデモ隊は、拠点のタクシム広場でNTVの車両を破壊。「魂を売り渡した」とNTV本社前で連呼した。NTVの親会社や系列銀行の株価は急落し、銀行では約20億円分の口座と、1500人分のクレジットカードが解約された。
デモに参加していた弁護士エルジン・アイベックさん(32)は「BBCを見ないと何が起きているか全くわからなかった」と憤る。

デモ隊側の頼みの綱はソーシャルメディアだ。外国メディアの報道や集合時刻を伝えるのに活用した。
警官が赤いドレスの女性に催涙ガスを噴射した瞬間をとらえたロイター通信の写真は、その成功例の一つだ。会社員セマ・カラサムさん(26)は「警察は信用できない」というメッセージを添えて「あらゆる方法で転送した」。過剰な暴力の証拠として爆発的に広がり、デモ拡大を後押しした。

 ■自由度低く、葛藤も
かつて政権批判も辞さなかったメディアを飼いならしたのは、首相だった。
2008年ごろ、トルコ最大のメディアグループ「ドアン」が、寄付金横領事件に首相の親族が関与した疑惑を報じると、首相はドアンへのネガティブキャンペーンを展開。ドアンは不正経理を理由に総資産の8割を超す31億ドル(約3千億円)の罰金が科され、記者らの逮捕も相次いだ。

サバンジ大のアルシン・カライジュオル教授(政治学)は「首相がメディアを政敵とみなして追い詰めたことで、自主規制するようになった。今や首相の言いなりだ」と指摘する。国際NGO・国境なき記者団が今年まとめた報道の自由度ランキングで、トルコは179カ国中154位という。

 ■現場では葛藤も続く
NTV関係者は「クルーは毎日公園で取材に当たっており、現場では不満がたまっていた」と明かす。
親会社のジェム・アイデン最高経営責任者は4日、数百人の従業員を前に「今から報じるべきことを報道していく」と約束したが、信頼の失墜は著しい。

英BBCは14日、NTVがデモについてのBBC制作番組を放映しなかったとして「いかなる介入も容認できない」と批判し、提携関係の即時停止を発表。16日の首相の演説は、すべての主要地元テレビが約2時間、コマーシャルなしで生中継した。【5月18日 朝日】
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【「ソーシャルメディアは社会に対する最悪の脅威だ。」】
エルドアン首相は、大手メディアと違って権力の意のままにならないソーシャルメディアが腹に据えかねるようで、2日には「今、ツイッターと呼ばれる脅威が登場している。そこでは、嘘というものの最たる例を見ることができる。私にすれば、ソーシャルメディアは社会に対する最悪の脅威だ。」と、最大級の非難を行っています。

今回の騒動にあっても、「ツイッターで暴動を呼びかけた」として多くの若者らが拘束されていますが、政権側は更にツイッター規制を強化する方針のようです。

****トルコ:政権、ツイッター規制も検討****
トルコで続く反政権デモで、内務省などは17日、今回の反政権デモ拡大の一因とされるツイッターなどの規制に関する検討を始めた。地元メディアが18日、報じた。実施されれば、ソーシャルメディアでの発言の自由の抑圧として非難を浴びる可能性もある。(中略)


地元紙によると、内務省や司法省は、ツイッター上などでの「インターネット犯罪」対策のための法案の策定を開始。司法省はすでに、第3の都市イズミルなどで、「デモを刺激する書き込み」をツイッター上にしたことなどを理由にデモ参加者らを拘束している。エルドアン首相は2日に開いた記者会見で、ツイッターを虚偽の情報が多数含まれた「トラブルメーカー」と呼び、批判していた。(後略)【6月19日 毎日】
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EUで深まるトルコの「表現・集会の自由」への疑念
こうしたトルコの混乱に、国連事務総長も憂慮を表明しています。

****国連事務総長:トルコ情勢に憂慮 初の声明****
潘基文(バン・キムン)国連事務総長は18日、反政権デモ隊と治安当局との衝突が続くトルコ情勢について「憂慮している」との声明を報道官を通じて発表した。トルコの反政権デモを巡り事務総長が声明を出すのは初めてで、国際社会に懸念が広がっていることを示した。

事務総長は、エルドアン政権とデモ隊の双方に「最大限の自制と建設的な対話」を要請する一方、「平和的な集会を開く権利と表現の自由が完全に尊重されるときに、(社会の)安定は保障される」と主張し、政権側のデモ取り締まりに注文を付けた。【6月19日 毎日】
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オリンピック招致への影響も取りざたされていますが、そうした話や国連事務総長の憂慮以上にトルコにとって影響があるのは、EU諸国のトルコを見る目でしょう。
EU加盟を求めてきたトルコに対し、EU諸国の中には“イスラム国家トルコ”への抵抗感が強く、なかなか交渉が進展していません。

EU側の慎重姿勢にトルコ側は苛立ちを募らせてきましたが、今回の騒動で見せたエルドアン政権の強権的姿勢はそうしたトルコに対する違和感を更に強めることも推測されます。

****トルコ、EU加盟交渉に影響 デモ鎮圧に懸念相次ぐ****
反政府デモへの強硬姿勢を続けるトルコ政府に欧州諸国が懸念を深めている。欧州連合(EU)加盟候補国であるトルコをめぐっては最近、停滞中の加盟交渉を再び活性化させようとの動きが出ていた。だが、EUの要請にもかかわらず事態沈静化の気配はみえず、こうした機運にも水を差す形になりかねない。

EUのアシュトン外交安全保障上級代表は9日、トルコ政府の対応を「警察による過剰な実力行使」と批判し、対話による解決を求める声明を発表。EU加盟に必要な「人権、基本的自由」の保障には、「表現・集会の自由が含まれている」とも警告した。

トルコはEUの前身、欧州共同体(EC)に加盟申請後、2005年に加盟交渉を開始した。だが、人権問題や対立するキプロスの国家承認問題などが壁となり、交渉対象の35政策分野中、交渉入りしたのは13分野、合意到達は1分野にとどまっており、10年半ば以降、交渉は滞っている。

ただ、トルコの加盟に反対だったサルコジ氏が大統領を退いたフランスが今年、さらに1分野で交渉を始める用意を示し、加盟に慎重なドイツのメルケル首相も同様の態度をみせるなど、域内では軟化の兆しも出ている。EUは追加分野の交渉を7月にも開始すると伝えられている。
トルコの加盟実現は容易ではないが、中東で影響力を高めるトルコを引きつけておきたいとの意向がEU側にあるとみられる。

しかし、反政府デモへの対応を受け、ルパンタン仏欧州問題担当相は「行動は一方的であってはならない」と述べ、トルコ政府がデモ鎮圧をやめない場合の交渉開始への影響を示唆。EU拡大担当のフューレ欧州委員も、「加盟交渉の再活性化と基本的権利に対する支持は表裏一体だ」と批判を強めている。【6月12日 産経】
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【「必要なら軍を投入する」】
国内的な影響としては、軍との関係がどうなるのか・・・ということがあります。
従来、軍部は世俗主義の守護神としてエルドアン首相らのイスラム主義にはクーデターを含めた強い抵抗を示してきましたが、最近はエルドアン首相側が軍部を抑え込み、有利な立場に立っているとも見られています。

今回騒動では軍部は沈黙を守っていますが、エルドアン首相は、秩序維持のため軍投入の可能性にも言及しています。

****トルコデモ 活動家ら一斉捜査 沈黙軍部、集まる関心****
 ■AKP、左派勢力弱体化狙いか
トルコのメディアによると、同国の警察当局は18日、反政府デモに関与した左派系活動家らの一斉捜査に着手し、首都アンカラや最大都市イスタンブールで100人以上の身柄を拘束した。

デモの完全鎮圧に向けた動きが加速する中、エルドアン政権側は17日、秩序維持のため軍投入の可能性に言及。「世俗主義の守護者」としてしばしば政治介入してきた軍部の動向に関心が集まっている。

当局は「捜査はデモ扇動者が対象」としている。政権やイスラム系与党・公正発展党(AKP)には、この機に対立する世俗的な左派勢力をさらに弱体化させる狙いもあるとみられる。

エルドアン首相は18日、「民主主義の勝利だ」と宣言。大規模デモ後もAKP優位の構図が揺るがない中、国民が少なからず注目するのが、世俗主義勢力の“牙城”とされる軍部だ。

1920年代、建国の父ムスタファ・ケマル(アタチュルク)に率いられ共和制樹立の礎となった軍部は、厳格な政教分離に基づくアタチュルク主義を信奉。政治が不安定化した60年と80年にクーデターで全権を握ったほか、97年には、同国で初めてイスラム系政党が主導したエルバカン政権を退陣させるなど、政治性が強いことで知られる。

2003年に発足したAKPのエルドアン政権も、軍部と強い緊張関係にあるとされる。しかし、政権側はこれまでに、政権転覆計画に関与したなどとして軍元高官ら数百人を起訴、軍部の切り崩しを進めてきた。

今回のデモで軍部は沈黙を守っているものの、アルンチ副首相は17日、「必要なら軍を投入する」と言明。政権側のブラフ(脅し)だとの見方が強い一方、軍部掌握を進めるAKPの自信の表れと見ることもできる。
デモには軍部と対立する極左組織も多く参加していることから、デモ鎮圧に関しては軍部の理解を得られるとの計算が働いている可能性もある。

軍部が今後、デモに同調する可能性は低いが、インターネット上では、AKP支持者からも「軍をこの問題に引き込むのは(政権にとり)もろ刃の剣だ」との意見も目立っている。【6月19日 産経】
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イスラム主義のエルドアン首相の指示で、世俗主義勢力の抵抗運動を軍が鎮圧・・・というのは、一昔前には考えられないことです。
もし、そういう事態になれば、いくら軍部を抑え込んでいるとは言っても、相当に激しい反発が軍部の中に起きることも推測されます。
軍は牙を失ってしまったのか、文民統治が確立したのか・・・試されることにもなります。
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アフガニスタン 全土での治安権限委譲  外交攻勢とテロで政権を揺さぶるタリバン

2013-06-18 23:09:27 | アフガン・パキスタン

(6月18日、アフガニスタン・カブールで発生した爆弾爆発の現場から去る同国の警察官ら 【6月18日 AFP】http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2951188/10926687)

【「今後はわれわれの勇敢な部隊が全ての治安維持任務を担う」】
本来であれば、今日18日は長年の戦禍に苦しんできたアフガニスタンにとって「歴史的瞬間」であるはずなのですが、アフガニスタン国内でも、アフガニスタンでの戦闘に疲れたアメリカでも、アフガニスタン情勢を伝えるメディアにおいても、どうもそういった雰囲気は見られません。カルザイ大統領は別にして。

14年末までのアメリカなど外国軍隊の撤退というタイムスケジュールのひとつにすぎないということもあるのですが、先行きに関する不安感から現状を手放しに喜べないというところもあります。

*****全土の治安指揮宣言=カルザイ大統領「歴史的瞬間」―アフガン****
アフガニスタンのカルザイ大統領は18日、アフガン治安部隊が全土で治安維持の指揮を執ると宣言した。米国主導の攻撃でタリバン政権が崩壊してから約12年、アフガン情勢は大きな節目を迎えた。

国際治安支援部隊(ISAF)は2011年以降、アフガン各地で順次、治安権限の移譲を進めてきた。今回、最後の約90地区を移譲することで、反政府勢力との戦闘任務から退き、アフガン治安部隊の訓練など後方支援に回る。

カルザイ大統領は権限移譲の式典で「今後はわれわれの勇敢な部隊が全ての治安維持任務を担う」と宣言。「これはわが国にとって歴史的な瞬間だ」と強調した。

ISAFの主体となる北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長も「10年前は存在すらしなかったアフガン治安部隊も、隊員35万人の強固な組織に成長した」と称賛。必要が生じれば、国際部隊が戦闘任務を支援するとしつつも、「14年末のISAFの任務完了までには、アフガンの治安は完全にアフガン人によって守られることになる」と述べた。【6月18日 時事】
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01年9月のアメリカ同時多発テロへの報復戦争として同年10月に始まったアフガニスタン戦争ですが、アメリカの主導する国際治安支援部隊(ISAF)とタリバンとの泥沼の戦いを経て、2011年7月以降、駐留外国軍からアフガニスタン治安部隊への治安権限移譲がアフガン各地で順次行われ、既に人口の8割が暮らす約300地区で完了しています。

タリバンの勢力が強く治安が不安定な東部・南部を多く含む約90地区が残されていましたが、その90地区の治安維持権限も今回アフガニスタン側へ委譲され、今後はアフガニスタン治安部隊が戦闘作戦などの主導権を握り、全土で治安維持の責任を負うことになります。

“現在約10万人いる駐留外国軍(うち米軍約6万6000人)は今後、アフガン軍の訓練など後方支援に回り、14年の任務完了へ向け順次撤収する。”【6月18日 毎日】というスケジュールになっています。

今回の権限移譲はNATOの定めたスケジュールに沿ったものですが、“カルザイ大統領がこの日程を維持したのは、来年、任期満了で退任する前に国の復興をアピールするためとみられる。また「外国軍が駐留する限り攻撃を続ける」と主張してきたタリバンに対し、アフガン政府側との和解や、大統領選への参加など政治参加を促す狙いもあるようだ。”【同上】とも見られています。

アメリカなどは早くアフガニスタンの泥沼から手を引きたい・・・というのが本音でしょうが、後をまかされたアフガニスタン治安部隊に治安維持の能力が本当にあるのか・・・という疑問は大方が抱くところです。
「歴史的瞬間」の記念式典当日にもタリバンによる爆弾テロが起きています。

****アフガニスタン部隊に全治安権限移譲、NATO軍から****
・・・・アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は、首都カブール郊外の陸軍士官学校で演説し、警察と軍は反政府勢力と戦う用意が出来ていると語った。ただ同日もカブールでは爆弾が爆発する事件が起きており、同国の不安定な現状を浮き彫りにした形となった。

治安権限移譲の記念式典直前に発生した爆発は、議会へと向かう有力議員の車列を標的にしたもので、巻き込まれた民間人3人が死亡している。

「われわれの治安・防衛部隊が指揮を執る」と、カルザイ大統領は式典でアフガニスタンと北大西洋条約機構(NATO)の幹部らを前に語った。式典の場所と日時は、武装組織の襲撃の懸念から非公開とされていた。
「今後、治安上の全ての責任と指揮は我々の勇敢な部隊が執る。アフガニスタン人に治安権限が移譲されたことを国民が知れば、軍と警察は今まで以上に支持されるだろう」

アフガニスタンの治安部隊にタリバンを押さえ込む力があるかどうかは不明だが、今後もNATO軍が後方支援や航空支援、さらには戦闘における緊急事態では重要な役割を果たすことになる。

だが、NATOのアナス・フォー・ラスムセン事務総長は、18日に治安権限を移譲したことで、アフガニスタンの治安部隊は2011年3月に始まった5段階の移行プロセスを完了させることになると述べた。【6月18日 AFP】
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“隊員35万人の強固な組織”とは言うものの、急ごしらえでしで、隊員の資質にも懸念があり、しかもタリバン側と通じている者も多く混入しているとも見られ、一般的には信頼度が低いアフガニスタン治安部隊ですが、アメリカなどからの装備支援と訓練によって、タリバンを凌駕する戦闘力を備えるまでに成長しているといった指摘もあります。

「何をするかわからない」と、政府軍が国民から恐れられる事例は紛争国には多々ありますが、恐れられるのではなく、固い規律と強い意思を持って国民から信頼される存在になれるかどうかが、今後の分かれ道でしょう。
汚職・腐敗が横行しているといわれるカルザイ政権にあって、急ごしらえの治安部隊にそれを期待するのは難しい話ではありますが。

テロによって、弱体化したカルザイ政権を揺さぶる狙い
一方のタリバンも長い戦闘で疲弊し、最高指導者オマル師の生存は相変わらず不明な状況で、組織的にかなり弱体化・混乱しているという指摘もあります。軍事的な攻勢をかける力はなさそうです。
今後は、外国部隊撤退を睨んで、外交攻勢をかけながら、その一方でテロによって弱体化したカルザイ政権を揺さぶる戦略をとると見られています。

****タリバーン、攻勢に拍車 外交とテロ駆使 アフガン空港砲撃****
アフガニスタンの首都カブールで10日、タリバーンを名乗る武装集団が国際空港近くの建物に立てこもり、空港にロケット弾を撃ち込んだ。

アフガン大統領選や米軍撤退をにらんで、タリバーンは外交攻勢をかけているが、その一方でテロによって、弱体化したカルザイ政権を揺さぶる狙いがあるとみられている。

現場は、米軍主導の国際治安支援部隊(ISAF)の空軍司令部などがある軍民両用のカブール空港の敷地から、道路1本を隔てた4~5階建ての建設中の民家2軒。警察当局によると、早朝、車で乗り付けた武装集団は、上層階にロケット弾や機関銃、手投げ弾などを大量に運び込み、約300メートル離れた空港内の軍用倉庫群に攻撃を始めた。

その後、建物を取り囲んだ治安部隊と銃撃戦となり、2人が自爆し、残る5人全員が約5時間後に射殺された。タリバーンが犯行声明を出した。カブール空港は早朝から閉鎖され、正午前まで全便の発着を見合わせた。

タリバーンは今年、カブール市内だけでも、国際移住機関(IOM)や、国防省、情報機関、交通警察などを標的とした攻撃を繰り返してきた。
自爆要員を含む数人の決死隊が、治安部隊に全員殺害されるまで数時間にわたり戦闘を繰り広げるケースが目立つ。国防省報道官は「重要施設の周りの建物から攻撃を仕掛ける手法が増えており、事前に抑え込むのは非常に困難だ」と認める。

アフガンでは来年、4月の大統領選に加え、年末には米軍戦闘部隊の完全撤退が予定されている。政治情勢が激変するのを前に、タリバーンは最近、日本やフランス、イランで開かれた国際会合に代表団を派遣し、和平への意思をアピールするなど、外交面での動きを活発化させていた。

カルザイ大統領は9日から、タリバーンの外交拠点となっている中東カタールを訪問中で、直接交渉の糸口をつかむため、仲介役のカタール政府当局者との協議が予定されていた。

元外交官で政治アナリストのアフマド・サイディ氏は「タリバーンは国際的にソフトイメージを振りまきつつ、国内ではテロを激化させ、カルザイ政権の無力さと、自らの存在感を示そうとしている」と指摘する。【6月11日 朝日】
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アフガニスタン当局及び外国軍当局は、犯人グループがアフガニスタン治安部隊によって制圧されたことを、治安部隊が最近役割を果たしつつあることの証明であるとしていますが、そもそも首都重要拠点が攻撃にさらされることに治安上の問題があるとも見られています。

不透明な外交交渉の道筋
外交交渉に関しては、下記のような報道もあります。

****ドーハに事務所開設か アフガン反政府勢力****
アフガニスタンで反政府武装勢力タリバンとの和平交渉を主導するカルザイ政権の「高等和平評議会」の報道官は17日、タリバンが対外的な窓口となる事務所をカタールの首都ドーハに近く公式に開設する可能性があると述べた。アフガン・イスラム通信が報じた。

情報源は明らかにしていない。アフガンに駐留する国際治安支援部隊(ISAF)の戦闘部隊は来年末までに撤退するが、タリバンは戦闘を続けており、和平交渉が焦点となっている。

同報道官は、タリバンの事務所が政権とタリバンとの交渉だけに使用されると強調した。【6月17日 共同】
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ドーハにタリバンの事務所を設置する案は昨年、アメリカとタリバンとの接触で浮上したものです。そのときは、タリバンがアメリカ側への不信を深めて接触を断ち、立ち消えになりました。
カルザイ大統領には、アフガニスタン政府主導でドーハ事務所設置計画を復活させる狙いがあると思われ、3月末にもカタールを訪問しています。

しかし、タリバンはカルザイ政権を認めていません。
“タリバンのムジャヒド報道官は、AFP通信に対し、「タリバン事務所開設は、タリバンとカタール政府間の協議事項でカルザイ(大統領)とは関係ない。カタールにいる我々の代表は(カルザイ氏側とは)会いもしないし話もしない」と発言。タリバンとアフガン政府が和平交渉に入るのは難しい情勢だ。”【4月1日 毎日】

ただ、来年4月には大統領選挙が行われ、カルザイ大統領は退陣します。
そのあたりで、タリバン側もアフガニスタン政権との交渉に入る余地も出てくるのではないでしょうか。
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アメリカ  波紋が広がる通信情報収集監視問題

2013-06-17 22:39:49 | アメリカ

(1971年頃のNSA内部 この頃はイギリス情報機関と共同で、ソ連情報機関の暗号解読のための秘密プロジェクト“VENONA”を行っていたと思われます。“flickr”より By marsmettn tallahassee
この種の情報機関がどのような機密情報を扱っているのかは、大統領を含めた政治責任者もよく把握できていない・・・というのは、映画・小説の世界ではよくある話ですが・・・)

オバマ政権の下で令状なし傍受は拡大
6月11日ブログ「アメリカ  明らかにされた国家安全保障局によるネット情報監視 当局は「法律の範囲内のもの」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130611)で取り上げた、元CIA職員で、米国家安全保障局(NSA)で外部請負業者からの出向職員として働いていたエドワード・スノーデン氏が明らかにした、アメリカの通信情報監視システムの問題は、その後も新たな事柄が報じられています。

これまで、電話通信に関しては、電話番号、発生時間や長さを含む通話記録の「メタデータ」の収集、インターネットに関しては、監視裁判所による認可を得た上でのサービス事業者を介しての「PRISM」によるデータ吸い上げ、フィルタリング(主に外国人を対象)といった監視内容が報じられていましたが、より包括的な監視システムの全体像が明らかにされています。

****米国:情報収集体制が判明…プログラム4種が監視*****
米ワシントン・ポスト紙は16日、米国家安全保障局(NSA)によるテロ対策を目的とした通信情報収集体制を報じた。電話とインターネット情報のそれぞれについて、電話番号やアドレスなどの「メタデータ」と、通話やチャット内容など「コンテンツ」を収集する計四つのプログラムで構成されているという。

公になった「プリズム」はその一つで、いずれもブッシュ前政権(2001〜09年)の後期に導入され、オバマ政権が引き継いだとみられる。米国の「監視社会」の一端が明らかになった。

同紙によると、運用されているプログラムは(1)メタデータを電話情報から収集する「メインウエー」(2)メタデータをインターネット情報から収集する「マリーナ」(3)コンテンツを電話情報から収集する「ニュークレオン」(4)コンテンツをインターネット情報から収集する「プリズム」の四つ。

当初は「ステラーウインド」との総称で呼ばれたが、ブッシュ政権内で違法性を指摘され、再構築されたという。
メタデータは「数兆」に上り、時間、場所、端末、参加者などが分かるが、交信内容は収集しない。英紙が報じた米通信大手に米国人の通話履歴の提出を裁判所を通じて求めたのは「メインウエー」による運用という。

また、米英紙が報じたインターネット大手9社の中央サーバーに接触して交信内容などの情報を入手したケースは「プリズム」の活動の一環という。

クリントン、ブッシュ政権でNSA局長を務めたヘイデン元中央情報局(CIA)長官は16日、米テレビ番組で、デジタル情報収集についてメタデータ系とコンテンツ系があることを認めたうえで「歴代の軍の監察総監が検証し、悪用はないと判断している。テロに限定した運用だ」と述べた。(後略)【6月17日 毎日】
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朝のTVニュースでは、オバマ大統領は、通話やチャット内容など「コンテンツ」ではなく、電話番号やアドレスなどの「メタデータ」を集めただけだ・・・という主旨の説明で盗聴イメージを払しょくしようとしていましたが、実際のところはどうでしょうか・・・。

通信情報監視に関するアメリカの歴代政権、特にオバマ大統領の基本的な姿勢については、下記のように報じられています。

****プリズム問題で露呈した、オバマ政権下で拡大する通信傍受とクラウドサービスの危うさ――土屋大洋・慶応義塾大学大学院教授****
米国民へのスパイ活動を規制する外国情報監視法

米国オバマ政権による大規模な情報収集プログラムであるプリズムが問題になっている。
しかし、政権による通信傍受の是非という問題を理解するためには、ニクソン政権のウォーターゲート事件にまでさかのぼらなくてはならない。

1972年に起きたウォーターゲート事件は、共和党のリチャード・ニクソン大統領が、中央情報局(CIA)に命じて、民主党の党本部などを盗聴させていたという問題である。
第二次世界大戦を契機に作られたCIAは、米国外での情報収集・工作活動を行うものと考えられていたが、国内でスパイ活動を行っていたことが問題とされた。それも安全保障上の脅威に対するスパイ活動ではなく、政治的なスパイ活動であったことも問題とされた。

ニクソン大統領は一連の疑惑の中で辞任するが、米国内でのインテリジェンス機関によるスパイ活動を禁じるために、連邦議会の上院議員だったフランク・チャーチ議員を中心に、1975年に委員会が組織され、この委員会の提言が、1978年の外国情報監視法(FISA)の成立につながった。

FISAは、簡単に言えば、米国内でのスパイ活動について規定している。市民権または永住権を持つ米国人に対するスパイ活動を禁止しており、必要な場合は、FISCと呼ばれる特別な裁判所から令状をとることになっている。

このFISA法案が議会で審議されているとき、米国のインテリジェンス機関を総括する中央情報長官であり、CIAの長官でもあったのが、ジョージ・H・W・ブッシュである(ただし、法案成立前に離任)。

ところが、FISAは息子のジョージ・W・ブッシュが大統領の時に大問題となる。
2001年の対米同時多発テロ(9.11)が起きた後、ブッシュ大統領はFISAの規定にもかかわらず、令状を取らない大規模な通信傍受を国家安全保障局(NSA)に認めた。それは、9.11のテロリストたちがさまざまな形でインターネットを使っており、9.11後の非常時にいちいち全部に令状をとる余裕がなくなったからだ。

この措置をブッシュ大統領は議会の指導者たちには説明していたが、公には知られていなかった。
ところが、2005年末にニューヨーク・タイムズ紙がこの問題をスクープした。報道の翌日、ブッシュ大統領はラジオ演説でこれを認め、テロとの戦いの中で必要な措置だと主張した。FISAが求める令状がとられないまま、米国民が監視の対象となっている可能性があった。その数は数千人に上ると見られた。

これに対して多くの訴訟が起こされ、当初は政権側に不利な司法的判断が多く出された。ところが、2008年にブッシュ政権は、時限付きで令状なし傍受を合法化するFISA改正法案を議会に提出し、成立を求めた。

2008年の前半は民主党のバラク・オバマ候補とヒラリー・クリントン候補が激しく民主党候補の座を争っていた。この改正法案がブッシュ政権から出てきたとき、民主党の両候補は当然ながら改正反対の立場を表明した。

ところが、オバマ候補は途中で態度を変え、改正支持に回った。オバマ候補は人権重視だと信じていた支持者たちは一斉にオバマ候補の変心に抗議し始めた。
オバマ陣営はインターネットのチャット会議などを通じて、テロ対策に必要な措置だと訴え、結果的には失点につながらなかった。

オバマ候補が同年11月の大統領選挙で勝利し、2009年1月にオバマ政権が成立すると、オバマ政権の下で令状なし傍受は縮小するどころか、むしろ拡大していった。(後略)【6月17日 DIAMOND online】
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政治的には「核なき世界」「銃規制」などリベラルな側面をアピールするオバマ大統領ですが、現実の手段としては「無人機攻撃の多用」や「秘密裡の通信傍受容認」など、あまり表の世界を騒がすことなく、相手が気づいたときのはすでに勝負が決まっているような“スマート”というか“陰湿”というか、そういう手法が好む傾向もあるようです。

なお、現代監視社会にあっては、いろんな個人情報が“活用”されており、運転免許写真も例外ではないようです。
日本ではどうなのでしょうか?

****免許用写真、捜査に転用=1億人超分―米****
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は16日、運転免許の登録の際に撮影された1億2000万人以上の顔写真がデータベース化され、顔識別技術を活用した警察当局の捜査に利用されていると報じた。こうした転用はほとんど公にされず、基準があいまいなため、当局の裁量の幅が大きくなっているという。【6月17日 時事】
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イギリス、G20盗聴疑惑
今回の通信情報監視問題は、アメリカだけでなくイギリスにも飛び火しています。
イギリス政府は、これまでのところ、NSAが得た情報を利用しているとの疑惑を否定しています。

****米情報機関ネット監視…英外相、利用疑惑を否定****
米情報機関「国家安全保障局(NSA)」がインターネット上の個人情報などを収集していた問題で、ヘイグ英外相は10日、英下院で答弁し、英政府がNSAが得た情報を利用しているとの疑惑を否定した。

英紙ガーディアン(8日付)は、通信傍受や暗号解読を任務とする英情報機関「政府通信本部(GCHQ)」が、少なくとも2010年からNSAから情報の提供を受け、こうした情報を元に昨年、英国籍の人物に関する197件の報告書を作成したと報じていた。

外相は「記事は根拠がない」と否定した上で、「英政府は情報機関の活動について詳細にコメントしない。漏れた情報に関して肯定も否定もしない」と述べた。【6月11日 読売】
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あまり説得力のない“否定”ですが、英情報機関自身によるG20での盗聴疑惑も明るみになっています。
しかも、電子メールやパスワードも入手のため、偽のンターネット・カフェを設置したとも。

****英国もG20で盗聴?偽ネット・カフェ設置も****
17日付英紙ガーディアンは、英政府の情報機関「政府通信本部(GCHQ)」が、ブラウン前政権下で2009年4月に開催された主要20か国・地域(G20)首脳会議や同年9月のG20財務相・中央銀行総裁会議で、参加国閣僚らの電話や電子メールを傍受していたと報じた。

米政府による通信監視に内外から懸念の声が高まる中、キャメロン英首相は、主要8か国首脳会議(G8サミット)の場で同問題を非公式に協議する方針。報道が事実とすれば、オバマ米大統領のみならず、自身も他の首脳陣から説明を求められることになりそうだ。

同紙によると、記事は、米情報機関「国家安全保障局(NSA)」の通信監視を暴露したエドワード・スノーデン氏(29)から入手した情報を基に作成した。GCHQの通信傍受の対象は主にトルコと南アフリカ両国当局者で、英国が望む方向に議事を運ぶのが目的だった。

傍受のみならず、会場には英対外情報部(MI6)と協力して偽のインターネット・カフェを設置、利用者の電子メールやパスワードも入手したという。【6月17日 読売】
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このG20盗聴疑惑に関しては、菅義偉官房長官は「政府としてのコメントは差し控えたい」としています。

中国国営紙「彼の『犯罪』は、米当局による人権侵害について内部告発したというものだ」】
スノーデン氏は、アメリカ国内の情報監視システムだけでなく、アメリカによる中国を対象にしたハッキングも暴露しています。
アメリカは、中国によるサイバー攻撃を主要な問題として中国側に対応を迫っていましたが、同様のことをアメリカも中国に対して行っていたということで、アメリカにとっては気まずい問題です。

スノーデン氏が香港に滞在していることも含めて、スノーデン氏の行動の裏に中国の関与があるという憶測もなされています。
チェイニー前米副大統領は、スノーデン氏を「売国奴」と評しています。

****スノーデン氏は「売国奴」=中国関与の可能性も―前米副大統領****
チェイニー前米副大統領は16日のFOXテレビの番組で、当局の情報収集活動を暴露した元中央情報局(CIA)職員エドワード・スノーデン氏について、米国民の安全を脅かす「売国奴だ」と強く非難した。現在の滞在先が香港であることに関し、中国が暴露に関与した可能性があるとの見方も示した。

チェイニー氏は、スノーデン氏の守秘義務違反は犯罪に当たると強調。今回の暴露について「米国の安全保障に重大な損害を与える機密漏えいとして、記憶に残る限り最悪のケースだ」と語った。

また、「中国というのは普通、自由を求める人間が行きたがる場所ではない」と指摘。「事前に中国側と何らかの接点を持っていた疑いがある」と述べるとともに、スノーデン氏がまだ公にしていない情報を中国側が得ている恐れがあると懸念を示した。【6月17日 時事】
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一方、香港では15日、民主派、親中派双方の団体が米総領事館前でデモを行い、“「世界のために暴露したスノーデン氏を守れ」と声を上げた”【6月15日 読売】とのことです。

スノーデン氏の身柄引き渡しに関して、中国政府はコメントを控えていますが、中国国内メディアは次第に熱を帯びてきているようです。

*****スノーデン氏米国送還は「裏切り行為」、中国国営紙が社説****
中国国営紙は16日、米政府による市民監視プログラムの存在を暴露したエドワード・スノーデン氏の身柄を米当局に引き渡すことは、スノーデン氏の信頼に対する「裏切り」であり、中国当局の「面目を失う結果」をもたらすと社説で述べた。

米国家安全保障局(NSA)で外部請負業者からの出向職員として勤務し、現在は香港に潜伏中のスノーデン氏の身柄引き渡しについて、中国国内のメディアが上げた声としては、これまでで最も強いものとなった。

米当局による大規模なインターネット監視体制──この中には中国を対象にしたハッキングとされる事例もあった──が暴露されたことを受けて米中関係が緊張する中、米当局はスノーデン氏の刑事捜査に着手した。
中国外務省は先週、スノーデン氏について「提供する情報はない」と述べ、堅くその口を閉ざしたままだ。

一方、中国メディアはこれまで、スノーデン氏の送還を拒否するべきだとの世論に中国当局も従っているはずだと報じていた。

17日付の国営環球時報の社説は、さらに一歩踏み込み、スノーデン氏を送還した場合に生じるだろう、中国の「面目を失う結果」について論じた。
「一般の犯罪と異なり、スノーデン氏は誰1人傷つけていない。彼の『犯罪』は、米当局による人権侵害について内部告発したというものだ」(環球時報)
「スノーデン氏を米国に送還することは、スノーデン氏の信頼を裏切るだけでなく、世界中からの期待を失望させるものになるだろう。香港のイメージは永久に損なわれることになる」

香港の英字紙サンデー・モーニング・ポストが16日に発表した調査によると、米当局が身柄引き渡しを求めた場合にスノーデン氏を送還するべきかどうかという質問に対し、するべきでないと回答した香港市民は49.9%に上った。一方、スノーデン氏の送還に賛成した人はわずか17.6%で、32.4%は分からないと回答した。調査には509人が回答したという。【6月16日 AFP】
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もし、中国の人権問題を告発した者(中国当局にとっては社会の安定を害する重大犯罪者)がアメリカに滞在していて、中国から身柄引き渡しを求められたらアメリカは絶対に応じないでしょう。
香港について外交上の主権を有する中国が、アメリカの中国へのハッキングを公表した人物の身柄引き渡しを拒否するのは、“当然のこと”です。

ただ、実際問題としてどのように対応するかは、見返り・反発の強さ等を含めて検討される別問題で、面子をとるのか、実利を求めるのか・・・中国はこのカードをどのように扱うのが得策か検討中というところでしょう。

ただ、今回の問題の本質は、中国の関与云々やアメリカ・中国の外交ゲームではなく、現代社会における情報監視をどのように考えるかということです。
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パキスタン  女子学生通学バス爆破、搬送先病院も襲撃

2013-06-16 22:13:33 | アフガン・パキスタン

(クエッタの女子大の通学バス 今回爆破されたバスも、テロ直前まではこんな様子だったのでしょう。 “flickr”より By Rehana. http://www.flickr.com/photos/29699247@N02/5710441980/in/photolist-9GBvsd-9EchRP-cbcqow-c9XJsY-daCsfQ-aZsYtr-9GBRKw-9Gyq6X-9GyqnK-7yLZoK-byrKmX-bkwRMj-byrKmM-byrKni-bkwRM3-as4uzW-eznPTP-dW8snZ-eMM5ac-9MEjBb-9NNs8w-9NNs8o-8yPFnW-e2Kzcp-e2Rec9-e2RegY-e2Redb-e2Re9A-e2ReaW-dBFJon-8vB7pv-8vB7rn-7K8Dbv-7zbuHD-ac4sUZ-e2Kz5P-e2Refw-ecSa3S-aco6BX-dt1rSm-dw1Cjz-7PKAHp-9JCFzV-9JFvjq-9JFwHd)

女性が教育を受ける権利を訴え、パキスタンでイスラム武装勢力に頭部を撃たれて重傷を負い、その後イギリスでの治療で奇跡的な回復を見せているマララ・ユスフザイさん(15)が自伝を出版するという話は、3月29日ブログ「イスラム社会の女性 マララさんの自伝出版 シリア難民家族の重苦しい戦いの日々」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130329)で取り上げたところですが、マララさんの行動が映画化されることになったそうです。

****マララの勇気」映画に=銃撃のパキスタン少女、7月から印・英で撮影―インド****
パキスタンで女性が教育を受ける権利を訴え、イスラム教原理主義組織に銃撃されたマララ・ユスフザイさん(15)。その行動を描いた映画「グル・マカイ」の撮影が近く始まる。監督はインド映画の中心地ムンバイ在住のアムジャド・カーン氏(39)。出演者もほぼ固まったといい、「世界中にマララの勇気を届けたい」と意気込みを語った。

7月からインドやパキスタン、英国などで撮影を始める。主演はバングラデシュ出身のファティマ・シェイクさん(16)。シェイクさんの両親は娘がテロの標的になると懸念を示すが、カーン氏によると「本人は非常に乗り気」だという。【6月16日 時事】 
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映画化の詳しい背景などは一切知りませんが、3月29日ブログでも述べたように、彼女が伝えるメッセージがパキスタンやアフガニスタン、更には世界の教育機会に恵まれない状況に置かれている女性の社会環境改善の一助となることを期待します。また、映画の撮影が無事に行われ、多くの人々に彼女のメッセージが届くことを願います。

ただ、残念なことに、マララさんの話題を取り上げるたびに、「しかし、今のパキスタンは・・・」という話の展開になってしまいます。

****パキスタンで女子大生を標的にした攻撃、25人死亡****
パキスタン南西部バルチスタン州の州都クエッタで15日、女子大学生が乗ったバスが武装集団によって爆破され、14人が死亡、19人が負傷した。政府当局者が明らかにした。
その約90分後、負傷者が搬送された病院が襲撃され、準軍事組織の辺境州防衛部隊報道官によると、さらに11人が死亡、17人が負傷した。

2番目の攻撃が行われたのは、負傷者が搬送された同市の医療機関ボラン・メディカル・コンプレックスの救急病棟。武装集団は銃撃した後、病院内に立てこもった。
チョードリー・ニサル・アリ・カーン内相が報道陣に語ったところによると、こう着状態が数時間続いた後、治安部隊が建物に突入し、人質35人が解放されたという。病院内では自爆攻撃もあったという。

パキスタンで今年起きた死者を出す攻撃のうち2件がクエッタで起きている。2件ともパキスタンでは少数派のイスラム教シーア派を標的にしており、今回の攻撃で犠牲となった学生は、シーア派住民の間で人気のある女子大学の生徒だった。

現在のところ犯行声明は出されていないが、クエッタはパキスタンの最大宗派であるイスラム教スンニ派と、同国の人口約1億8000万人のうち20%を占める少数派のシーア派との宗派間対立の中心地となっている。【6月16日 AFP】
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なんとも痛ましい事件ですが、負傷者が搬送された病院を更に襲撃するというのも、随分と執拗な攻撃です。
“負傷者でごった返していた病院では爆弾が2度爆発し、武装勢力が医師や患者を人質にとって病院を占拠した。銃撃戦で、地元当局者や兵士らに犠牲者が出たもよう”【6月15日 産経】とのことです。

また、【6月15日 産経】は、“イスラム教スンニ派過激組織で少数派のシーア派住民へのテロを繰り返している「ラシュカレジャングビ」が犯行を認めた”と伝えています。

クエッタではシーア派イスラム教徒に対するテロが頻発しており、1月10日にも市内のビリヤード場において、連続して爆発が発生し、少なくとも81人以上が死亡、120人以上が負傷。
更に、2月16日には、クエッタ市内の市場で爆弾テロが発生し、少なくとも80人以上が死亡、190人以上が負傷しています。【日本外務省「クエッタにおける爆弾テロの発生に伴う注意喚起」より】

両事件とも、今回同様に、非合法スンニ派過激派組織「ラシュカレ・ジャングビー(LeJ)」が犯行声明を発出したと伝えられています。

同じ都市で、1月、2月、更に6月に、数十人規模の死者を出すテロが繰り返し起きるというのは、日本の感覚では信じられないことです。

クエッタのシーア派住民の多くは100年以上前に隣国アフガニスタンから移住してきた少数民族ハザラ人の子孫で、モンゴロイド系の容姿を持つため容易に区別がつき、過去、何度もテロの標的になっています。

今回の事件は、シーア派、少数民族ハザラ人、女子学生というイスラム過激派の標的とされやすい条件が重なっています。

****パキスタンでシーア派住民ら狙いテロ 政府の無策への批判高まる****
・・・・シーア派住民を狙ったテロでは、ハザラ人以外にも南部カラチや北部の住民が犠牲になっている。昨年4月に、ギルギット周辺で両派の対立が深まり外出禁止令が出され、観光客の邦人らが一時、ホテルから出られなくなった。昨年1年間で、全土で400人以上のシーア派住民が死亡する最悪の事態となっている。

宗派対立が激化している原因について、パキスタンのシンクタンク、平和研究所のムハンマド・アミル・ラナ所長は11日、産経新聞の電話取材に「1990年代は、政府は過激派を殺害したり、両派の対話を呼びかけたりしていたが、最近は何の措置もとられていない」とザルダリ政権の無策ぶりを批判。

ジャーナリストのイクラム・ホティ氏は、「パキスタンは国家として、社会的にも、治安面でも、財政的にも機能障害を起こしている」と述べ、物価高騰などによる社会不安が背景にあることに言及した。(後略)【1月11日 msn産経】
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もっとも、「戦場」のような危険にさらされているのはクエッタやシーア派住民だけではありません。

****パキスタン南部:最大都市カラチ「戦場と同じ****
パキスタンの最大都市カラチ周辺が、隣国アフガニスタンの旧支配勢力タリバンと連携する武装勢力「パキスタン・タリバン運動」に事実上支配されていることが地元の治安問題研究者などの分析で分かった。
当局は「支配」について否定するが、カラチ警察のテロ対策責任者は毎日新聞の取材に「タリバンはカラチを標的にしている。市内の治安状況は戦場と同じ」と、極めて治安が悪化していることを認めた。

パキスタンでは2001年に米国主導で始まったアフガニスタンでの戦争の影響でテロが頻発してきた。国際テロ組織アルカイダと連携、アフガン国境に近い北西部を拠点としてきた武装勢力「パキスタン・タリバン運動」は活動範囲を広げ、昨年7月ごろから南部カラチでもテロを激化させるようになった。

最大の商業都市でもあるカラチが武装勢力に完全に支配されると、国の経済に大打撃を与えるだけでなく、核保有国でもある同国の治安悪化は米欧の南西アジア戦略にも影響を与える可能性がある。

パキスタン最高裁は昨年11月、カラチが州都のシンド州政府に対し「タリバンが潜伏している問題を深刻に受け止めよ」と、治安対策強化を命じる決定を出した。カラチ在住の元政府高官は「2万人の武装勢力が内外に潜伏し、市周辺部は武装勢力に事実上支配されている」と話す。

カラチでは大量の警官や軍兵士が警戒する中、下院選投票日の5月11日には「反テロ」を訴える政党事務所で爆弾テロが起き、12人が死亡した。カラチ港からアフガン駐留外国軍に物資を運ぶ運送会社の社長は「市街地から10キロも離れると無法地帯だ」と話す。

カラチ警察のテロ対策責任者、アワン特別捜査部長は「市内で活動する武装勢力は20〜30の小集団に分かれ、街中に溶け込んでおり、捜査を困難にしている」と話す。公式統計はないが、地元記者によると、カラチでは過去2年で最低でも3000人がテロの犠牲になったという。【6月4日 毎日】
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5月に行われた総選挙では、イスラム教徒連盟シャリフ派(PML―N)が単独過半数を獲得し、5日、PML―N総裁であるナワズ・シャリフ元首相(63)が圧倒的賛成多数で新首相に選出されました。
シャリフ首相はイスラム武装勢力との対話による和平実現を目指していますが、アメリカ無人機による攻撃は選挙後も続き、武装勢力側は交渉拒否を発表しています。

「テロ地獄」と化しているパキスタンの現状に、なんらか有効な手立てが講じられるか・・・見通しはあまり明るくないようです。
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欧州  増加するEU域内の労働者移動

2013-06-15 23:45:13 | 欧州情勢

(スペインで失業の登録をするために並ぶ人々 【6月14日 ロイター】http://jp.reuters.com/article/jp_eurocrisis/idJPTYE95D04T20130614)

欧州の経済状況は相変わらずですが、特に若者の失業率が高く、社会を不安定化させる要因ともなっています。

****4月のユーロ圏失業率、12.2%で最悪水準を更新 若年層を直撃*****
欧州連合(EU)統計局が発表した4月のユーロ圏失業率は12.2%となり、24か月連続で過去最悪水準を更新した。

仕事のない若者の窮状は深刻化し、経済専門家らは金利引き下げを求める声を一層強めている。
悪化の一途をたどる失業率は、欧州の「ロスト・ジェネレーション(失われた世代)」である25歳以下の若者にとって、不況脱出の見込みがほとんどないことを示している。

EU統計局によると、ユーロ圏17か国の4月の失業者数は前月比9万5000人増の1930万人に上った。4月までの過去12か月間で、ユーロ圏では20万人近くが失業手当受給者に加わった。若年総失業者数はEU全体で560万人(23.5%)、ユーロ圏では360万人(24.4%)だった。

ギリシャでは4月時点で3人に2人の若者が失業している。スペインでは2人に1人、イタリアとポルトガルでは5人に2人の若者が失業中だ。【6月1日 AFP】
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3人に2人、あるいは、2人に1人が失業という状態で、どうやって生活しているのか不思議なぐらいですが、そうした経済危機にある国では国内での就職をあきらめ、国外に仕事を求める流れが強まっています。

そうした移住先としては、欧州にあっては比較的経済状態が良いドイツ(3月の失業率は5.4%)がまずあげられます。

****ドイツへの移住、経済危機国から急増 昨年****
スペインやギリシャなど経済危機に苦しむ南欧諸国からドイツへの移民が増えている。仕事を求めての移住が多いと見られ、危機が長引く中で、経済好調なドイツに人も流れている実態が改めて明らかになった。

ドイツ連邦統計庁が7日発表した2012年の移住統計(暫定値)によると、外国からドイツへの移住者数は11年より12万3千人多い約108万1千人だった。

このうち、スペインからは前年比45%増の約3万人、ギリシャからは43%増の約3万4千人、ポルトガルからは同じく43%増の約1万2千人、イタリアからは40%増の約4万2千人と、南欧諸国からの増加が目立った。また、スロベニアやハンガリーなど東欧諸国からも増えた。【5月11日 朝日】
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ドイツへの移民が増加する以前は、イギリスがEU加盟国内での移住先として多く選ばれていました。
移民の増加は、移民先の低所得層との仕事の奪い合い、労働条件の悪化という経済的摩擦のほか、文化的摩擦、治安の悪化など大きな社会問題を惹起しますので、移民受け入れ国での移民排斥のような動きを刺激することにもなります。

イギリスにおいて高まっているEU離脱論、地方選挙での「英国独立党」の躍進の背景にも、そうした移民増加への不満があります。

****英国:EU離脱の是非、議会で激論****
欧州連合(EU)からの離脱の是非を巡る英国議会の議論が白熱化している。

15日には、与党・保守党の反EU派議員92人が今国会のエリザベス女王の施政方針演説に対し、「離脱の是非を問う国民投票に言及がなかったのは遺憾」として異例の修正動議を提出。否決されたものの与党内で採決が割れる事態になった。閣内にもEU離脱に公然と賛成する意見も出ており、キャメロン首相の求心力低下が目立っている。

同日夜に行われた採決では、305人の保守党議員のうち116人が賛成したが、連立与党の自民党、野党・労働党が反対し否決された。反EU派議員は、月内にも国民投票法案を議員立法で提出する方針で、対立はさらに続く見込みだ。

英国では、低賃金労働者の流入や規制を押し付けられることへの不満から反EU感情が根強く、ユーロ圏で債務危機が深刻化した2011年以降は世論調査で「EU離脱」の回答が「残留」を上回っている。
今年行われた地方選挙では、EU離脱と移民規制を掲げる「英国独立党」が大きく躍進。支持層が重なる保守党内の危機感が一気に高まった。

キャメロン首相は今年1月、「15年の次期総選挙で保守党が勝利すれば17年末までに国民投票を行う」と表明したが、反EU派は「口約束だけでは国民に真剣さが伝わらない」と法制化を強く求めていた。

12日には、ゴーブ教育相とハモンド国防相の2閣僚が「いま国民投票が行われれば離脱に投票する」と発言。ローソン元財務相ら党重鎮からも離脱を支持する意見が相次いでおり、党内には「総選挙前に国民投票を実施すべきだ」との声まで出始めている。

EU離脱に対しては、保守党の連立相手の自民党や、企業活動への影響を懸念する経済界の反対意見が強い。キャメロン首相は賛否双方への配慮から「国民投票の前に、まずEUの改革を目指す」として明確な態度表明を避けているが、労働党は「首相はもはや党のコントロールを失っている」と攻勢を強めており、首相にとって頭の痛い状況が続いている。【5月16日 毎日】
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特に、域外のイスラム圏や紛争国などからの移民は摩擦も大きく、5月末にはこれまで移民に比較的寛容だったスウェーデンでも連日の暴動がおきるなど欧州各国で問題化しており、各地で排外的極右勢力の台頭などを招いています。
EU域内の労働者移動においても、基本的には同じ問題を抱えています。

こうした話はこれまでの幾度も取り上げてきた移民の負の側面ですが、共同体としては労働力の移動は当然のことであり、また、労働力の移動によって域内経済状態の平準化・安定化、ひいては共同体全体の活性化も期待できます。

****労働者の「圏内大移動」が欧州を救う****
ヨーロッパで起こっている歴史的な移民現象は経済悪化の兆しではなく景気回復への最後の希望だ

為替レートが国の実力に応じて変動しないユーロ圏では、経済破綻した国だからといって通貨が安くなり、それによって外から投資や仕事を呼び寄せられるということがない。だとすれば、人のほうから動くしかない。実際、それが今ヨーロッパで起こっていることだ。

スペインの王立エルカノ研究所の調査によると、30才未満の若者のうち約7割が国外へ移住することを考えていると言う。ポルトガルに至っては、過去2年間ですでに人口の2%が移住している。自国を捨て国外に出る人の数は2008年から倍増しているのだ。

極めつけはアイルランドかもしれない。毎月3000人以上が国外移住するという記録的な大移動が起こっているのだ。これほどの移民が出るのは、19世紀にアイルランドで起こった「ジャガイモ飢饉」以来。移住する人の中にはポーランドから来ていた出稼ぎ労働者が自国に戻っている数も含まれているが、多くはアイルランド人だ。

こうした移民の行き先はというと、お察しの通り経済が比較的好調なドイツが人気だ。ドイツの連邦統計局によると、昨年、約100万人もの移民がドイツへ押し寄せており、これは一昨年から13%の増加だ。特にスペイン、ギリシャ、ポルトガルそしてイタリアからの移民は12年と比較して5割近く増えているという。  
だが、他の移民たちは職にありつくために、かつて先祖たちが移り住んで行った「伝統的な移民先」にも向かっているようだ。アイルランド人ならイギリスへ、スペイン人は南米へ、そしてイタリア人はアメリカへ、といった具合だ。

こんな社会現象の話を聞くと、欧州経済はますます悪くなっていると思うかもしれない。だが、EUの高官は「圏内移民」こそ、欧州が経済危機から脱却するカギになると言う。アメリカと比べて労働者の圏内移動が少ないことは、彼にとって黙って見過ごせない深刻な問題なのだ。

もちろん、そんなに手っ取り早く都合のいい政策などそうありはしない。たとえばポルトガル人が急にフィンランド語を話せるようになるわけもない。

だが、EUという単一の労働市場をもっとアピールするためにできることはある。例えば資格や、移住後も年金が移管される仕組みを整えるといったことが挙げられるだろう。
圏内移民には、為替変動による資本移動ほどの調整力はない。だが、しばしば制御不能になる為替相場と違い、政治的な努力は実りやすい。【6月13日 Newsweek】
********************

ただ、熟練労働者、専門的技術者の移動は、出身国にとっては長期的影響をもたらす「頭脳流失」という側面もあり、OECDでは警戒しています。【6月13日 ロイターより】

圏内移民が“政治的な努力は実りやすい”かどいうかはともかく、政治的に厄介な問題を引き起こしがちなことはイギリスなどの例を見ればわかるとおりで、為替変動や資本移動以上に難しい対応が要求されます。
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インド  次期首相候補として注目されるモディ・グジャラート州政府首相の消えない過去

2013-06-14 23:19:44 | 南アジア(インド)

(インド人民党大会でのモディ・グジャラート州首相 “flickr”より By 757Live )

経済成長の立役者、イスラム教徒虐殺暴動への関与も
インドでは、最近のシン政権の不人気ぶりから、2014年の総選挙での国民会議派の敗北・政権交代の見方も出てきていること、また、政権交代を目指す野党・インド人民党のリーダーとして、インドにあっては珍しらしく効率的な経済運営で高い成長率を誇るインド西部グジャラート州のナレンドラ・モディ首相(62)が注目されていることは、2012年12月26日ブログ「インド 性犯罪罰則強化を求める抗議活動 不評の国民会議派シン政権 政権交代の可能性も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121226)で取り上げたことがあります。

そのときのブログでは、ヒンズー至上主義のインド人民党のなかにあって、モディ州首相は2002年暴動時のイスラム教徒虐殺への関与も疑われており、そのような人物の政権獲得が今後のインドにとって妥当かどうか疑念があることも指摘しました。
政権獲得を目指すインド人民党(BJP)は9日、西部ゴア州で開かれた党大会で、グジャラート州のモディ首相を次期総選挙対策委員長に任命し、同党の「選挙の顔」として、モディ氏が党の首相候補となる可能性が高まっています。

****インド:グジャラート州首相、来年選挙の野党選対委員長に*****
インドの最大野党・インド人民党は9日、西部ゴアで党大会を開き、来年予定される総選挙へ向け、西部グジャラート州のナレンドラ・モディ州政府首相(62)を選挙対策委員長に選んだ。
カリスマ的な人気を誇るモディ氏は、次期首相への待望論が強く、モディ氏の陣頭指揮で総選挙を戦うことになった。

2001年からグジャラート州政府首相を務めてきたモディ氏は、外国企業誘致などで国内で最も豊かな州に育てたことで知られる。党ベテラン幹部の間では、党務に携わってこなかったモディ氏を首相候補にすることへの反発が強いが、モディ氏人気を無視できず、選対委員長に選んだ。
モディ氏は選対委員長就任後、「インドから(与党)国民会議派を駆逐するため、あらゆる手を尽くす」と宣言した。

モディ氏はヒンズー至上主義者として知られ、イスラム教徒らの間では反発も根強い。02年にグジャラート州で起きた暴動(イスラム教徒を中心に住民1000人以上死亡)では、「モディ氏が警察を出動させず、イスラム教徒の大量殺りくを許した」と非難され、欧米諸国から渡航禁止処分を受けてきた経緯もある。

一方、与党・国民会議派は、物価上昇や近年相次いだ政治家の汚職スキャンダルなどから支持を失ってきた。
総選挙では、初代首相ネールのひ孫、ラフル・ガンジー国民会議派副総裁(43)を中心に戦おうとしているが、ラフル氏は「指導力不足」が指摘されている。

インドの主要テレビ局CNN・IBNが5月初めに実施した世論調査では、「次期首相」としてモディ氏の名前を挙げたのは38%で、シン首相の13%、ラフル氏の14%を大きく引き離した。

インドはネールが率いた国民会議派とインド人民党の2大政党が政権を交互に取ってきた。国民会議派は04年の総選挙以来、10年近く与党の座にあり、14年総選挙での政権奪還が人民党の最重要課題だ。【6月9日 毎日】
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モディ氏が首相を務めるグジャラート州は、インドにありがちな恒常的な電力不足もなく、官僚主義的対応の非効率も少ないということで、欧米企業の投資先として注目されています。

一方、死者が2000人にも達したとも言われる2002年暴動の関与については本人は否定していますが、当時、モディ政権の閣僚だった人物がヒンズー教徒に凶器を渡してイスラム教徒攻撃をそそのかしたとして、禁固28年の刑を受けています。

事件はヒンズー民族主義への逆風を招き、2004年の総選挙ではモディ氏が所属するインド人民党(BJP)が国民会議派に敗北し、政権を失うことになりました。

****次期インド首相候補として頭角現すグジャラート州首相、過去の宗教暴動で傷も****
多くのインド国民にとって、インド西部グジャラート州のナレンドラ・モディ首相(62歳)は「時の人」となっている。2014年に予定されている総選挙で、マンモハン・シン首相を倒す可能性のある野党インド人民党(BJP)の有力政治家として、にわかに注目が集まっている。

グジャラート州をインドで最も高い成長を遂げている州の一つに躍進させた立役者として高く評価されていることがその理由だが、一方では、10年前にヒンズー教徒が多数のイスラム教徒を虐殺した宗教暴動を阻止しなかったとして批判されている人物でもある。

モディ首相は12月に行われるグジャラート州の選挙で勝利し、4期目を務めると予想されているが、同州の選挙で大勝すれば、2014年の国政選挙でマンモハン・シン首相の有力な対抗馬になるとみられている。

モディ首相が今月、選挙運動のため村々を訪れた際は熱狂的な群衆に取り囲まれ、「現人神」と称えられている彼を一目見ようと、行く先々で多くの人々が集まった。
バスの中でインタビューに応じたモディ氏は「これだけ多くの人が集まっているのをご覧なさい」と自慢げに語った。各地では人々がモディ氏を見るため屋根に上り、盛んに手を振る姿が見られた。

しかし、インド国内の多くの地域や海外では、モディ氏は2002年にグジャラート州で起きた宗教暴動と結びついた形で記憶されている。当局の発表では、暴動ではイスラム教徒を中心に1000人以上が死亡したとされているが、NGOや他のグループは、死者は2000人に達したと主張している。
その結果、モディ政権は「犯罪政権」とみなされ、西側諸国から全く相手にされてこなかった。

だが、そうした政治的な逆風とは裏腹に、汚職や官僚的体質が蔓延しているインドにおいてグジャラート州は効率的な行政機構を築き上げ、米フォード(F.N: 株価, 企業情報, レポート)など多くの西側企業から、投資先として熱い注目を集めるようになった。

モディ首相の大きな影響力を裏づけるかのごとく、英国の駐インド大使が先週グジャラート州を訪問し、モディ首相と会談。それはモディ首相にとって、インドの政治リーダーの一人として認知される上で大きな前進となった。
米政府は2005年にモディ首相が申請した旅行ビザの支給を拒否したが、今年になって米国のムンバイ総領事が公の場でモディ首相と同席。米国とモディ首相の和解を示す兆しとして注目された。

モディ首相の将来は、グジャラート州の好調な経済を持続させ、多くのインド国民、特にイスラム教徒の不信感を払しょくできるかどうかにかかっている。
政治アナリストのParanjoy Guha Thakurta氏は「モディ氏はインドの企業家らの大きな期待を集める可能性があり、彼らがインドの首相になってほしいと公言する唯一の人物だ」としながらも、「モディ氏はイメージを改めるためあらゆる手を尽くしているが、イスラム教徒を攻撃の標的とし、虐殺した時代の記憶を拭い去ることはできないだろう」と語っている。

本人は強く否定しているものの、2002年の暴動の際、モディ首相はイスラム教徒虐殺を止めようとせず、むしろ密かに暴動を煽っていたと非難されている。
当時、モディ政権の閣僚だったMaya Kodnani氏は、ヒンズー教徒に凶器を渡し、イスラム教徒攻撃をそそのかしたとして、禁固28年の刑を受けている。(中略)

 <2ケタの経済成長>
・・・・インド経済が急速に鈍化しているにもかかわらず、グジャラート州は2ケタの成長を遂げている。インドの大半の地域を苦しめている恒常的な電力不足も、グジャラート州では無縁だ。
企業関係者は、モディ首相によってグジャラート州でのビジネスがスムーズに進むようになったと評価している。同州では、工場建設のための土地取得が順調に進むほか、インドの他の州で見られがちな官僚主義的対応による遅れが比較的少ないという。(中略)

もっとも、グジャラート州は以前からインド経済の牽引役を果たしてきたとして、同州の経済的成功はモディ首相の手柄ではないと指摘する向きもある。
ただ、モディ首相を批判する人々ですら、グジャラート州に新規事業を勧誘し、大企業を誘致するため2年ごとに投資家向け会合を開いてきた首相の姿勢は評価に値するとしている。【2012年 10月 30日 ロイター】
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経済の隆盛によって貧民街から脱け出すイスラム系住民も現れつつあるものの・・・
2002年の暴動によって“グジャラート州のイスラム系住民は何世紀もの間異教の人々と共存してきたが、現在は貧民街に追いやられている”【2007年12月25日 日経ビジネスonline】という状況になりましたが、モディ州首相が牽引する経済成長によって、貧民街から抜け出すイスラム教徒も出てきていることも事実でしょう。

****諸問題を解決するのは政治ではなく経済*****
州住民の多くは、暴動がもたらした傷が癒えつつあるのかもしれないという望みを持っている。道路、電力、水道などの基本的な要求が満たされた今、様々な背景を持つグジャラート州の住民が次に求めているのは仕事だ。

ダンドゥカという寂れた村に住む、現在10年生(日本の高校1年生ぐらいに相当)のメフムード・アジメリ君(20歳)は生計を立てるために100キロ離れたジャスダン地区まで通って綿のマットレスを作る仕事をしている。友人のほとんどがトラック運転手か人力車回しだ。モディ氏をあまり良くは思っていない彼らも、この地域の経済成長には驚くばかりだ。「ダンドゥカに産業があったらいいのに」とアジメリ君はこぼす。

グジャラート州の中心都市アーメダバードでは、経済の隆盛によって貧民街から脱け出すイスラム系住民も現れつつある。サーバルマティー川の西側の旧市街から東側の新市街へと移っているのだ。子供たちは昔そうだったように、宗教を問わない学校に通う。

インド最大の格付け会社クリシルや製薬メーカーのザイダス・グループのコンサルタントを務めるスニル・パリク氏はこうした動きを歓迎しているが、グジャラート州の政治が簡単に変わるとは思っていない。「結局のところ、経済の成長だけがこの州の結束をもたらすのだ」(パリク氏)。【2007年12月25日 日経ビジネスonline】
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上記は2007年末の記事ですから、経済成長が続くなかで、現在では更にチャンスをつかんだイスラム系住民も多くなっているものと思われます。

そうは言っても、成長の恩恵を受けていない住民も多数存在すとも思われます。
弱者への配慮を欠いた成長路線が経済格差を招くことは、インドだけでなく世界共通の現象ともなっています。
良好な経済状態は問題解決を容易にはしますが、問題解決への積極的政治姿勢が不可欠です。モディ州首相にその資質があるかどうかとなると、疑問を感じます。

活動を続けるインド共産党毛沢東主義派
成長から取り残された貧困層の不満は社会を不安定化させます。
インドでは、以前より左翼武装組織のインド共産党毛沢東主義派が活発な活動を行っています。
特に、インド北部から東部に広がる「赤い回廊」と呼ばれる密林地域では、警察の力も十分に及ばないとも言われています。
(2010年5月29日ブログ「インドの「赤の回廊」 繰り返される「インド共産党毛沢東主義派」のテロ活動」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100529)

貧しい農民が中心となり、貧困の改善やカースト(身分制度)による差別の撤廃を要求、「社会主義革命」を掲げて武力闘争を続けるインド共産党毛沢東主義派ですが、そうしたイデオロギッシュな毛派は70年代の後半に完全に消滅し、90年代に入って登場した現在の毛派と直接の関係はほとんどないとも言われています。
ただ、経済成長の陰で拡大する格差への不満が、今も活動が絶えない背景にあるとも思われます。

その毛派のテロ活動が最近また目立っています。

****インド毛沢東派が与党政治家を襲撃、少なくとも23人死亡****
インド中部チャッティスガル州で25日、与党・国民会議派の州幹部や支持者らを乗せた車列が共産党毛沢東主義派(Maoist)の武装勢力約300人に襲撃され、少なくとも23人が死亡、32人が負傷していたことが分かった。州警察当局が26日に明らかにした。

毛沢東主義派は1967年以来、貧困層に平等に土地や雇用機会が行き渡るような共産主義社会の構築を目指して反政府運動を続けている。インド中部や東部の森林地帯で政治家や治安当局への襲撃を繰り返しているが、今回の地雷と銃撃による急襲は過去3年間で最悪のものといえる。

国民会議派のソニア・ガンジー(Sonia Gandhi)総裁は、毛沢東主義派に対して、「卑劣な行為だ」と非難した。【5月27日 AFP】
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****インド:毛派が列車襲撃、10人死傷****
インド東部ビハール州ジャムイで13日、武装集団約100人が列車(乗客約1500人)を襲撃し、鉄道警察官1人と乗客2人を殺害、運転士ら7人が負傷した。

警察によると、襲撃したのは「インド共産党毛沢東主義派」(通称「毛派」)のメンバーや支持者。乗車していた鉄道警察約10人と銃撃戦となり、鉄道警察の武器を奪って逃走したという。鉄道警察の4人が誘拐されたとの未確認情報もある。

毛派は先月25日、中部チャッティスガル州で、与党・国民会議派の政治家や支持者の車列を襲撃し、28人を殺害、約40人を負傷させていた。貧困層の解放を目指す毛派は、近年の経済成長の影でインドで広がる貧富の差を問題視しているとみられ、攻撃を激化させている可能性がある。【6月13日 毎日】
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貧困、民族対立、身分制度・・・「世界最大の民主主義国」インドが抱える問題は、共産党による実質的一党支配体制の中国が抱える問題同様、根深いものがあります。
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イラン大統領選挙  “保守派候補間の争い”から“改革派が支持する保守穏健派善戦”へ、流れに変化

2013-06-13 22:37:43 | イラン

(“(保守穏健派)ロハニ師の演説に集まった支持者ら。宗教色を嫌い、ベールを形だけかぶって髪の毛を出した女性の姿が目立った=8日、テヘラン、北川学撮影”【6月11日 朝日】)

最も非民主的な大統領選
今月14日、イランでアフマディネジャド大統領の任期満了に伴う大統領選挙が行われます。
アフマディネジャド大統領は3選禁止の規定により立候補できません。

核開発問題でアメリカと対立し、シリア・アサド政権支持や中東各国のシーア派勢力支援などで国際的になにかと問題となっているイランの今後に影響する選挙として注目されます。

ただイランの場合、選挙で選ばれる大統領はあくまでも「行政府の長」で、その権限は限られています。核開発などの最終決定権は軍の最高司令官も務める最高指導者ハメネイ師にありますので、大統領の交代によって国の方向が大きく変化するということはありません。

そうは言っても、誰が大統領になるかによって、経済制裁を受けている現状で、国際交渉における対応には影響するところがありますし、国民がどういう立場の者を選択するのかはハメネイ師周辺の意思決定にも影響があるでしょう。

実際、現在のアフマディネジャド大統領は同じ保守派の立場にはありながら、ハメネイ師とは確執があり、必ずしも最高指導者の操り人形という訳でもありませんでした。

そういう事情もあって、最高指導者ハメネイ師側からすれば、今回選挙ではもっと扱いやすい者を大統領に据えたいという強い希望があり、候補者の資格審査でもその思惑が露骨に表れています。

このところ力で政府側に抑え込まれている改革派の支持を集めて選挙戦の中心に躍り出ることも期待された経済重視で現実主義の保守穏健派ラフサンジャニ元大統領の立候補は、資格審査を行う「護憲評議会」によって認められませんでした。
また、ハメネイ師と対立するアフマディネジャド大統領側近のマシャイ元大統領府長官の立候補も認められませんでした。

****イラン大統領選:ラフサンジャニ氏の立候補認めず*****
イラン内務省は21日、大統領選挙立候補者の資格審査を進めていた「護憲評議会」が登録者686人のうち8人の立候補を認めたと発表した。

国民の期待が高まっていたラフサンジャニ元大統領(78)と、アフマディネジャド大統領側近のマシャイ元大統領府長官(52)の立候補は認めなかった。この結果、6月14日の投票に向けた選挙戦はハメネイ師に近い保守派を軸に展開される見通しとなった。

ハメネイ師に近い宗教指導者らで構成される護憲評議会は、核問題交渉責任者のジャリリ最高安全保障委員会事務局長(47)のほか、ガリバフ・テヘラン市長(51)やベラヤティ元外相(67)ら保守派の有力者を候補として認めた。今後、候補者絞り込みの調整が行われるとみられる。

一方で、ラフサンジャニ師と関係が近いロウハニ元最高安全保障委員会事務局長(64)と、改革派のアレフ元副大統領(61)の立候補も認めた。改革派は09年の前回選挙以降、弾圧を受けて勢力が弱体化。複数のグループがすでにラフサンジャニ師への支持を表明しており、勢いをそがれた形だ。

ハメネイ師との確執により、保守派から分かれて独自候補を擁立したアフマディネジャド大統領は、派閥内から候補を出すことができなかった。ロイター通信によると、マシャイ氏は審査が不当として異議を申し立てる方針。【5月22日 毎日】
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出馬が許された候補者8人のうち6人がハメネイ師に近い保守派ということになりました。
事前の資格審査で、反対派有力候補を潰してしまうということで、選挙戦はハメネイ師に近い保守派候補の間の争いになったとも見られ、イランの変化を期待する向きからは失望を買うところとなっています。

“今回候補者たちは有権者ではなく、ハメネイのほうを向いて選挙活動をしている、とも揶揄される。テレビ討論会でも、彼らは核開発問題やシリアの内戦、欧米の制裁で深刻化する経済危機など敏感な問題の議論は極力避けている。”

“今回の選挙は79年のイスラム革命以来、最も非民主的なのかもしれない。「イランがこれまで完全な民主主義だったことはない。それでも09年の大統領選では、民主主義が尊重される部分もあった」と、ランド研究所のナダーは言う。「だが今回、それはまったく期待できない」
あまりの不公正さに、国際社会だけでなく、国民の関心も投票前にそがれている。”【6月18日号 Newsweek】

改革派と保守穏健派 ロウハニ師に一本化
しかし、投票日直前のここにきて、風向きが少し変わったような感もあります。

8人の候補者のうち、改革派でハタミ前大統領に近い立場にはあるものの、あまり国民的支持が高くないアレフ元副大統領が選挙戦から撤退し、改革派からの支持も期待できる、ラフサンジャニ元大統領にも近い保守穏健派ロウハニ元最高安全保障委員会事務局長への一本化が行われました。
アレフ氏は撤退声明で「ハタミ前大統領(改革派)の考えを受け、国民の利益のために決断した」と述べています。

****イラン大統領選:元副大統領が選挙戦からの離脱表明****
14日投票のイラン大統領選で、唯一の改革派候補だったアレフ元副大統領(61)が10日夜、選挙戦からの離脱を表明した。改革派にも浸透する保守派ロウハニ元最高安全保障委員会事務局長(64)側と連携するためとみられる。これに先立ち同日、最高指導者ハメネイ師に近い保守派ハダドアデル元国会議長(68)も撤退を表明し、候補は6人となった。

改革に理解を示すロウハニ師に票を集めるため、アレフ氏離脱を求める声が高まっていた。アレフ氏は改革派のハタミ前大統領からの10日の書簡で離脱を勧められ決断。イラン学生通信(ISNA)によると、ハタミ師は11日、ロウハニ師に投票すると明らかにした。

ロウハニ師は、米欧との関係改善を模索するなど現実的路線を志向した保守穏健派ラフサンジャニ元大統領からの信頼が厚く、ラフサンジャニ師の求心力も候補一本化の実現に作用したとみられる。

ハダドアデル氏は、ガリバフ・テヘラン市長(51)、ベラヤティ元外相(67)と候補の絞り込みを模索してきた「2+1連合」の1人で、離脱理由を「保守強硬派の勝利を後押しするため」と説明。ロウハニ師の躍進を警戒し保守強硬派結集に先手を打った可能性がある。【6月11日 毎日】
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保守穏健派ロウハニ師の政治姿勢については、下記のように報じられています。

****対米外交を批判*****
・・・・そのロウハニ師はテレビ討論会や各地の演説で、核開発問題に関する外交交渉について、「(米欧との)関係を改善し制裁緩和を目指すべきだ」などと主張。強硬保守派候補で、現在の核交渉責任者でもあるジャリリ最高安全保障委員会事務局長らの路線を強く批判している。

核兵器開発が疑われるイランは国連安全保障理事会や米欧各国から制裁を科されており、ここ数年はその影響で外貨収入源である原油輸出が低下、国民は高率のインフレに悩まされている。
自身もかつて核交渉責任者を務めたロウハニ師には、国民の関心が高い経済悪化の問題を外交の不手際と結びつけることでジャリリ氏の支持層を切り崩す狙いがあるとみられる。

強硬保守派内でも、ハメネイ師の外交顧問であるベラヤティ元外相が「制裁緩和が国民の願いだ」と述べるなど非妥協的なジャリリ氏の交渉手法に批判的な声が出ており、外交問題は選挙戦の重要争点となりつつある。

ただ、核開発はハメネイ師の直轄事業とされ、国民にも核開発そのものへの異論は少ない。核問題で“弱腰”と受け止められれば不利に働く恐れもあるだけに各候補の言及は慎重だ。(後略)【6月13日 産経】
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なお、上記記事にもあるように、核開発推進という点ではロウハニ師を含めた全候補者が一致しています。

****全候補が「核推進」=選挙戦で強硬姿勢―イラン大統領選****
14日投票のイラン大統領選では国際社会が注目する核開発問題について、すべての候補者が選挙戦を通じ、「外国の圧力に屈せずに推進する」という強硬姿勢を鮮明にした。

核開発はイラン国民の間でナショナリズムを体現する問題となっており、開発停止を求める米欧に弱腰ととられる発言をすれば支持を失いかねないという事情がある。

米欧との核交渉を担当する最高安全保障委員会事務局長を務めるジャリリ候補(保守強硬派)は12日、テヘランで行われた集会で、支持者を前に「妥協に死を。核を守る戦いは交渉でなく、(敵の攻撃に屈しない)殉教によって成し遂げられる」と訴えた。

核交渉では譲歩の姿勢を示さず、国際社会での評判は芳しくないジャリリ氏だが、選挙戦では「交渉停滞」こそ大きなアピール材料になる。支持者はジャリリ氏を「核候補」と呼び、かたくなな姿勢を「最高指導者に忠実な証しだ」と称賛する。

一方、改革派のハタミ政権時代に核交渉を担当した元最高安全保障委員会事務局長のロウハニ候補(保守穏健派)について、保守強硬派は選挙戦で「(核開発に必要な)ウラン濃縮の停止に応じるなど妥協した」と攻撃。これに対し、ロウハニ氏は「(妥協というのは)全くのでたらめだ」と強く反論し、イランは自身の任期中に核の技術を獲得したと強調した。【6月13日 時事】 
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保守穏健派ロウハニ師善戦、決着は決選投票か
いずれにしても、改革派の一本化工作が功を奏したのか、経済制裁が続く現状への不満が噴出しているのか、世論調査ではロウハニ元最高安全保障委員会事務局長の支持が高くなっていることが報じられています。

****イラン大統領選:保守派6候補、14日投票****
イランのアフマディネジャド大統領の任期満了に伴う大統領選挙は保守派6候補が争うなか、14日に投票が行われる。

米国を拠点とする調査会社「iPOS」の世論調査では、当初は低調だった改革派に近い保守穏健派のロウハニ元最高安全保障委員会事務局長(64)が、トップを独走していた保守強硬派のガリバフ・テヘラン市長(51)を最終盤で追い抜く展開だ。しかし、どの候補も投票総数の過半数に達せず、上位2候補による決選投票となる見通し。

iPOSは5月31日から毎日、約1000人のイラン在住の有権者(18歳以上の男女)に電話で「今日投票するなら誰か」と質問。最高指導者ハメネイ師に近い保守強硬派ガリバフ氏が10日まで首位だったが、11日に保守穏健派ロウハニ師が26.6%の支持を受け、ガリバフ氏を1.8ポイントリードした。

唯一の改革派候補だったアレフ元副大統領(61)が10日夜に出馬を辞退し、改革派や保守穏健派ラフサンジャニ元大統領がロウハニ師支持を正式表明したことで、勢いが増したとみられる。

調査では、独立系候補とされるレザイ元革命防衛隊最高司令官(58)が16.3%、有力視されていた保守強硬派ジャリリ最高安全保障委員会事務局長(47)は13.7%と厳しい情勢。

一方、イランの保守系ウェブサイト「アレフ」は12日、アレフ氏が離脱した後の世論調査結果を掲載。ガリバフ氏(21.5%)をロウハニ師(19.1%)が猛追し、ジャリリ氏(12.5%)とレザイ氏(12.1%)が続く情勢を伝えている。

ただ、イランでは世論調査で正確な回答を得るのが難しいとされる。iPOSの調査でも投票当日の態度を4割以上の人が「決めていない」と回答するなど不確定要素があることから、調査と結果が異なる可能性もある。

投票は午前8時(日本時間午後0時半)、6万6000カ所以上の投票所で開始。午後6時に締め切られるが、内務省の判断で延長も可能。有権者は約5500万人。【6月13日 毎日】
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統計学的に正確な世論調査が難しい途上国や政治的自由が制約されている国での世論調査は、大きく外れることが珍しくありませんが、保守穏健派ロウハニ師の勢いが増しているようです。
もっとも、最終決着は決選投票に持ち越されそうな情勢でもあります。
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ベトナム  国会で国家主席や首相、閣僚などへの信任投票実施 首相への多くの批判票

2013-06-12 22:55:13 | 東南アジア

(【6月11日 ベトナムの声放送局】より http://vovworld.vn/ja-JP/ニュース/国会信任投票結果を発表/159908.vov)

首相:低信任が32%
ベトナムは中国と同様に、政治的には共産党一党支配、経済的には「ドイモイ」のもとで市場経済を積極的に導入した体制にありますが、汚職・不正への国民の批判が強く、そうした批判を払しょくすべく国家主席や首相、閣僚などに対する信任投票が国会で実施されれました。

結果は、全員が信任はされたものの、ズン首相に対する厳しい評価も明らかになっています。

****首相信任も低評価、不満浮き彫り ベトナム国会初の信任投票****
共産党一党支配下にあるベトナムの国会は11日、国家主席や首相、閣僚など47人に対する初の信任投票の結果を発表した。

汚職などの課題を抱え、国民の批判を浴びるグエン・タン・ズン首相をはじめ全員が信任された格好だ。だが、首相への評価は極めて低く、国民と同様の不満が議員の間、ひいては党内にも内包されている実情を浮き彫りにしている。

信任投票は10日に実施され、498人の国会議員のうち492人が投票した。投票は各議員が、首相などに対する評価を「高信任」「信任」「低信任」の3つから選ぶ方法がとられた。

この結果、首相は「低信任」が160票と、グエン・バン・ビン国家銀行(中央銀行)総裁の209票、ファム・ブー・ルアン教育・訓練相の177票に次ぎ、47人中3番目の低評価となった。チュオン・タン・サン国家主席の「低信任」は28票にとどまった。

信任投票は今年から毎年1回行われる。「低信任」が3分の2を超え、あるいは2年連続で過半数となった場合、辞任するか、第二弾の信任投票に付される。そこで不信任が過半数となれば、解任される。首相は今回、解任を免れた形だ。

首相は金融機関の膨大な不良債権の処理、国営企業の改革、汚職などの課題に苦慮し、国民の反発が強い。こうした情勢を背景に、信任投票制の導入を唱えたのはグエン・フー・チョン共産党書記長だった。
信任投票という形で体制内を引き締め改革を促す一方、そうした姿勢を国民にアピールする-。そこには、党と政府への国民の信頼低下が政治体制の危機に発展しかねない、という危機感があったという。国会も党の指導下にあり、国会議員の約9割は共産党員。党での信任投票の実施も検討されているようだ。

今回の結果を、現地の上級エコノミストのレ・ダン・ゾアイン氏は「首相には満足していない、という強い警告のメッセージだ」と強調する。だが、ホーチミン市民の一人は「首相への多少の圧力にはなるだろうが、状況は何も改善されはしない」と冷めている。【6月11日 産経】
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ズン首相に対する党内の批判は以前からあり、昨年末には共産党一党支配体制にありながら、国会で退任を促す質疑を議員から受ける場面もあり話題となりました。

****ズン首相に公然と退任迫る ベトナムで異例の国会質疑****
共産党が一党支配するベトナムの国会で14日、グエン・タン・ズン首相が議員に退任を促される異例の場面があった。テレビで中継された一般質疑の場で、経済低迷の責任を問われた。首相は先月、国会で経済政策の誤りを認めるなど、厳しい状況が続いている。

発言したのは、ズン・チュン・クック議員。経済が低迷している問題などを念頭に、ズン首相に「あなたは党に重い責任を負っているが、国民への責任は軽いのか。謝るだけでなく本当の責任をとるときだ」と詰め寄った。
ベトナムに「辞職の文化を」とも述べ、穏やかな口調ながら退任を促した。別の議員からは「経済立て直しの失敗が、党の指導力への信頼を損なっている」との批判も出た。
ズン首相は「私はこれまでと同様、真摯(しんし)に遂行していく」と述べた。

ベトナムは共産党一党制。グエン・フー・チョン党書記長を筆頭に、チュオン・タン・サン国家主席、ズン首相のトップ3人を中心とする集団指導体制をとる。国会は500人の議員で構成。首相に対して議員が公然と辞任を迫るのは極めて異例だ。

ベトナム経済は今年上半期の国内総生産(GDP)成長率が前年同期比約4・4%で過去10年の最低水準となるなど低迷。最近は、国営の造船会社や海運会社で経営破綻(はたん)や汚職事件が相次ぎ、党内外で経済政策のかじ取りを問題視する声が高まっていた。

批判に対し首相は、10月22日の国会での政府報告で「政治的責任を深刻に受け止め、政府の弱点と欠点を誠実に認める」と述べ、自ら責任を認める異例の発言をしていた。ズン首相は5年任期の2期目。【2012年11月16日 朝日】
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そうした事情から、ズン首相への批判票はある程度予測はされていましたが、“対象者47人中3番目に多い批判票を集める結果となり、結果を別室のモニターで眺めていた地元記者たちから、どよめきが上がった”【6月12日 朝日】とのことです。
国会議員は9割を共産党員が占め、投票前は「批判票を投じにくいのでは」との見方があったそうです。

多くの首相批判票の背景には、“ベトナムでは昨年、国営企業の破綻(はたん)や汚職が相次いで表面化したうえ、経済成長率が13年ぶりの低水準になった”【6月11日 朝日】ことから、ズン首相ら政府首脳への批判が強まっていることがあります。

この信任投票制度については、国営メディアは「国民の権利を確かなものにし、政治システムに劇的な変化をもたらす制度」と意義をアピールしています。
前出記事にもあるような「首相への多少の圧力にはなるだろうが、状況は何も改善されはしない」といった冷めた見方もありますが、一党支配体制という枠内ではあるにせよ、一定の自浄効果は期待できるのではないでしょうか。

体制変革の動きと批判締め付け
このほか、ベトナムでは国名から“社会主義”をはずす案も検討されています。
一時は「国名変更は審議しない」という報道がなされ、この案は潰れたかと思われましたが、一応検討が続いているようです。

****国名変更、審議継続=「社会主義」維持が多数派―ベトナム****
開会中のベトナム国会での憲法改正案審議の中で、国名を「社会主義共和国」から「民主共和国」に変更する案が依然検討されていることが28日分かった。ベトナム・ニュースなど地元メディアが報じた。

ファン・チュン・リー国会法律委員長(憲法改正案起草委員会編集長)は20日、「社会主義国家建設の目標を明確にすべきだ」と表明。国会に提出された憲法改正案には「社会主義共和国」と明記されていたため、地元メディアは「国名変更は審議しない」と報じていた。

ベトナム国内では、ホー・チ・ミン初代国家主席が1945年に独立宣言した際の「民主共和国」に戻すべきだという意見も依然多いとみられるが、ベトナム・ニュースなどによれば、国会議員の中では「社会主義共和国」の国名維持派がほとんどだという。【5月28日 時事】
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改正論の背景には、“憲法改正草案では、共産党の一党支配など基本的な政治体制は変わらないが、国営企業の役割が縮小されるなど社会主義的な色彩は薄まっている。「社会主義」の名が時代に合わないと感じている国民のほか、英雄のホー主席への親しみから、変更を支持する声が出るとみられている。”4月14日 朝日】といったことがあります。

一党支配体制の枠組みについての異論も出ているようです。
“採算性の低い国営企業への融資でかさんだ不良債権問題や公務員の汚職体質も政府への不信を招き、1月に元政治家や著名知識人らが共産党一党独裁体制の変革を求める異例の意見書を公表した”【6月10日 毎日】

もっとも、体制側の締め付けはこのところむしろ強まっていることも報じられています。
上記のような体制批判が表面化していることへの危機感の表れでしょう。

****政府転覆罪で終身刑、ベトナム****
ベトナム中部フーイエン(Phu Yen)省の裁判所は4日、政府転覆を企てたとして罪に問われていた22人の被告に対し、禁錮10年から終身刑までの厳しい判決を言い渡した。

被告側の弁護人が同日、明らかにした。 同様の罪では過去数年で最も規模の大きなものとなった裁判。厳しい判決内容は反政府勢力を弾圧する同国の政策の一環と見られており、国際社会からは弾圧を懸念する声が高まっている。

被告側のグエン・フオン・クエ弁護人がAFPに語ったところによると、終身刑を言い渡されたのはグループの指導者とされるファン・バン・トゥ被告。残る21被告には禁錮10~17年と最高5年の自宅軟禁の判断が下された。国選弁護人のグエン氏は「被告のほぼ全員が政府転覆を企てたとの起訴内容を認めた。量刑は妥当だ」と話した。

これに対しニューヨークを本拠とする国際的人権擁護組織ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)のアジア局局長代理フィル・ロバートソン氏は、「量刑の重さに強い衝撃を受けている。ベトナムにおける基本的人権への新たな打撃」と批判した。

国営メディアによると、被告22人はエコツーリズム運営を隠れみのとして「反動」グループを組織し、政府を中傷。その指針や政策をゆがめた文書を作成したとされた。

ベトナムでは2009年から言論弾圧が厳しくなり、ヒューマン・ライツ・ウオッチによると、2012年には少なくとも活動家33人が、公民権や政治の権利主張を罰することのできるあいまいな法律に基づいて有罪判決を受けた。1月にはカトリックの平和活動家、ブロガー、学生を含む活動家ら13人が有罪判決を下されており、米政府が批判している。
グエン・タン・ズン首相は2012年12月、インターネットを利用した当局への中傷、さらには反共産党および反政府宣伝活動を厳しく取り締まるよう指示した。【2月5日AFP】
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今回の国会での信任投票も、こうした体制批判が高まることへの自己防衛策の一環でしょうが、先にも述べたように、その効果は一定に期待もできます。
少なくとも、密室での権力闘争に明け暮れる中国共産党に比べれば、開かれた感があります。
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アメリカ  明らかにされた国家安全保障局によるネット情報監視 当局は「法律の範囲内のもの」

2013-06-11 23:01:00 | アメリカ

(「市民の名の下で何が行われ、また市民に対して何が行われているのかを公に知らせたいというのが、私の唯一の動機だ」と語る、機密を漏えいしたエドワード・スノーデン氏 “flickr”より By AJstream)

エシュロン
電話やインターネットの個人情報が政府によって監視されている・・・・というのは、映画の世界ではごく当たり前の話になっています。

現実世界においては、「エシュロン」がアメリカ・国家安全保障局(NSA)を中心とした世界的情報監視システムとして有名です。(アメリカ政府はエシュロンの存在を公式には認めていません。)
青森県の三沢基地にレーダー施設が、日本におけるエシュロン傍受施設であるとも言われていますが、真相は定かではありません。

******************
エシュロンはほとんどの情報を電子情報の形で入手しており、その多くが敵や仮想敵の放つ電波の傍受によって行われている。1分間に300万の通信を傍受できる史上最強の盗聴機関といわれている。

電波には軍事無線、固定電話、携帯電話、ファクス、電子メール、データ通信などが含まれており、同盟国にある米軍電波通信基地や大使館・領事館、スパイ衛星、電子偵察機、電子情報収集艦、潜水艦を使って敵性国家や敵性団体から漏れる電波を傍受したり、時には直接通信線を盗聴することで多量の情報を収集していると言われている。

今日では、データ通信の大部分は、光ファイバーを利用した有線通信によって行われており、傍受することは極めて困難である。それでも例えば、20世紀末までは海底ケーブルの中継器に傍受装置を取り付けることで光ファイバでも盗聴が可能であったが、1997年以降からは電気アンプから光学的に増幅するアンプに変わったために不可能になった。

電気通信事業者の協力を得てデータ収集を行っている可能性も指摘されている。電子フロンティア財団は、NSAがサンフランシスコのSBCコミュニケーションズ(現AT&T)施設(Room 641A)に傍受装置を設置してインターネット基幹網から大量のデータを収集・分析していたとし、アメリカ合衆国政府およびAT&Tに対し訴訟をおこしている(アメリカの連邦法はNSAやCIAが国内で盗聴はもちろんのこと、一切の諜報活動を為すことを禁じている。これは活動即ち、政府が主権者たる国民を敵視している事を意味するからである)。

この情報収集活動には、米国のみならずエシュロンに加盟している各国もアンテナ施設の設置を認めるなど、さまざまな形で協力していると言われている。【ウィキペディア】
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【「PRISM」】
この「エシュロン」との関係はわかりませんが、アメリカ情報機関・国家安全保障局(NSA)が大量のインターネット上の情報や電話通信記録を入手していることが暴露され、改めてパライバシー保護と対テロ防止のための安全対策の兼ね合いが問題となっています。

****米情報機関、ネット通信監視…外国人情報を収集*****
米英の有力紙が5、6の両日、米情報機関「国家安全保障局(NSA)」が大量のインターネット上の情報や電話通信記録を入手していたと相次いで報じた。
オバマ政権は「テロ対策のための合法的な活動」としているが、プライバシー保護とのバランスを巡る議論が再燃しそうだ。

米紙ワシントン・ポスト(電子版)は6日、NSAが2007年以降、会員制交流サイトのフェイスブックやグーグル社などインターネット大手9社の中央サーバーにほぼ無制限にアクセスし、通信内容を大量入手していたと報道。

これに先立ち、英紙ガーディアン(同)は5日、NSAが米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズ社から数百万人分の電話通信記録の提出を受けていたと伝えた。

米情報機関を統括するクラッパー国家情報長官は6日夜、声明を出し、両紙の報道を事実上、認めた。長官は、ネット情報の収集については「重要で合法的な活動」と強調した上、「最重要情報が多数含まれ、様々な脅威から米国を守るために使われている」とした。対象は「米国外に住む外国人に限られる」という。
ワシントン・ポスト紙は、テロやスパイ活動、大量破壊兵器の拡散に関与した疑いがもたれる人物が対象と伝えている。【6月7日 読売】
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対象となっているとされるインターネット大手9社は、マイクロソフト、ヤフー、グーグル、フェイスブック、アップル、スカイプ、AOL、YouTube、PalTalkの各社で、一番早かったのはマイクロソフトで2007年から行われています。
NSAがインターネット上のデータ収集に使っている監視プログラムは「PRISM(プリズム)」と呼ばれており、対象データは、メール、写真、音声、動画、文書、接続ログなど殆どすべてです。
PRISMの分析者はまず「selectors(検索ターム)」から外国人かどうかを見分けて(当たる確率は51%)、情報収集を始めるそうです。

このメディア情報に対し、アメリカ国家情報長官は、アメリカ政府が企業サーバから単純に情報を収集しているかのような情報は誤解によるもので、裁判所の監督下で合法的に行われていると反論しています。

****米国家情報長官、「PRISM」プログラムについて説明:「法律範囲内のもの****
極秘監視プログラム「PRISM」報道に関する批判を受け、米国家情報長官が声明を発表し、PRISM関連の活動が「法律の範囲内のもの」で「米議会で十分に討議され、承認されたもの」であることを明らかにするとともに、PRISMについて、米政府が企業サーバから単純に情報を収集していないとする概況報告書を公開した。

概況報告書は、冒頭に米国家情報長官James R. Clapper氏の名前を冠し、「PRISMは、秘密の収集もしくはデーターマイニングためのプログラムではない」ことを述べている。「政府内コンピュータシステムであり、電子通信サービス事業者から国外に関する情報資料を米政府が裁判所の監督下で合法的に収集することの支援に使われる」(概況報告書)

概況報告書には次のようにも書かれている。
「外国諜報活動偵察法(Foreign Intelligence Surveillance Act:FISA)の702項に基づき、米政府は、米電子通信サービス事業者のサーバから一方的に情報を得ない。そのような情報すべては、FISA裁判所承認に加え、米司法長官および米国家情報長官の文書による命令に基づいた事業者の認識の下で取得されている。」

Clapper氏は、概況報告書を紹介する自身の声明において、調査活動の目的が国外に関する情報資料を得ることにあり、その情報には、米国および同盟国に対するテロやサイバー攻撃の防止に必要なものが含まれると説明している。

「最近の報道により大きな間違った印象が持たれている。極秘情報の更なる公開がなされなければ、不正確さのすべてを正すことはできない。しかし、私は、最近発生した不正な情報公開について、添付された詳細を機密解除することがまやかしの一部を一掃する一助となり、報じられていることに対する必要な文脈の追加となることを願っている。」【6月10日 CNET News】
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名前の挙がった企業も否定しています。
****アップル「聞いたことない」―米政府の監視プログラム****
米アップルは、同社を含むハイテク大手数社のシステムにアクセス権を与えていたとされる米政府の監視プログラム「PRISM」についての報道を受け、そのようなプログラムは「聞いたことがない」との声明を出した。(中略)

アップルは声明で、「われわれは、いかなる政府省庁にもシステムに直接アクセスできる権限は与えていない。また、政府省庁が顧客データの提示を要求するには裁判所命令が必要だ」と述べた。【6月7日 WSJ】
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政府・企業の説明によれば、PRISM(プリズム)は、当初の報道によって示唆したような政府が生データに直接アクセスして、すべてのデータを掘り出すようなプログラムではなく、特別な監視裁判所による広範囲な認可を得た上で、政府が膨大な量のデータを吸い上げ、フィルターにかけることを許す、目的がより絞られたシステムだということのようです。

なんだか門外漢にはよくわかりませんが、“PRISMが具体的にはどういうシステムかについて、クラッパー長官は詳しくは述べていないが、プライヴァシー問題を専門にする独立系技術者のアシュカン・ソルタニは、PRISMがインターネット企業に裁判所命令を提示して回答とデータを受信するプロセスを自動化するための、ある種のAPIのようなものではないかと憶測している。”【6月11日 WIRED】

ただ、そのであっても問題は残るとの指摘もあります。

****米国家安全保障局の「プリズム」の威力はどれほどか****
・・・・国土の安全保障に関するコンサルティング業務を行うポール・ローゼンツバイク氏はLaw Blogの取材に対し、「それは生の通信に対する無制限の直接的なアクセスではないことをわれわれは知っている」と話した。

しかし、政府の監視システムに批判的な団体である電子フロンティア財団のテクノロジー・プロジェクトを担当する責任者、ピーター・エカーズリー氏によると、プリズムについてはまだ多くの謎が残されているという。  

エカーズリー氏は「このシステムの規模や適用範囲について、われわれが知らないことが依然として多く残されている」と述べ、例えば、政府がどの程度広く監視の網を投げているのか、また標的にされている人々は何人いるのか、情報が何に利用されているのか、という点はあまり知られていないと指摘した。・・・・【6月11日 WSJ】
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また、“外国諜報活動偵察法(FISA)の秘密裁判所は2011年、政府がFISAをゆがめて憲法に違反した情報収集活動を行っているという意見を述べたが、それは非公開にされた”という問題もあるようです。【6月11日 WIRED】

実際の運用については、“FISAに基づく情報収集の要請が実際にどのように行われているのかについては、政府は明らかにしていない。わかっているのは、米司法省による米議会への年次報告で明らかにされていることだけで、この報告には必要最低限のデータしかない。2012年の報告によれば、政府は記録を入手するために秘密裁判所に1,856件の申請を行っており、どれも却下されていない。この数字は2011年の申請件数(1,745件)を約5%上回る。”【同上】とのことで、政府が希望すれば現実にはそのまま認められるというのが実態のようです。

世論は容認
冒頭で触れたように、映画などを通して、政府による秘密の監視活動が行われていることは半ば常識のようにもなっており、今さら「じぇじぇじぇ!」という感もありませんが、アメリカ世論はその必要性について一定に理解を示しているようです。

****電話記録収集、56%が容認=テロ対策に理解―米調査***
米調査機関ピュー・リサーチ・センターとワシントン・ポスト紙は10日、国家安全保障局(NSA)が行っている電話通信記録の収集について、56%がテロ捜査の手法として容認できると答え、容認できないと回答した41%を上回ったとする合同世論調査結果を発表した。

連邦政府によるテロ対策と個人のプライバシー保護のどちらがより大切と思うか尋ねた質問では、62%がテロ対策を挙げ、プライバシー保護と答えた34%の2倍近くに上った。2006年の調査で同様の質問をした際も65%対32%で「テロ対策派」が上回っており、世論に大きな変化はないと結論付けている。【6月11日 時事】
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香港からの身柄引き渡しを請求した場合、中国の対応は?】
一方、今回の機密漏えいを行った元CIA職員で、在日米軍基地にあるNSAで外部請負業者からの出向職員として4年間働いていたエドワード・スノーデン氏は香港にいるようですが、アメリカが引き渡しを求めた場合、中国がどのように対応するかが注目されます。

****米政府の個人情報極秘収集、暴露した人物を「徹底追及」の構え****
米政府が極秘裏に個人のインターネット利用や通話の記録を収集していた問題で10日、米議員らからはスノーデン氏の行為を「国家への反逆」と非難し、香港からの身柄引き渡しを即刻求める声が上がる一方、当局周辺はスノーデン氏を徹底追及する構えを見せている。

政府による監視プログラムの存在を暴露したエドワード・スノーデン氏(29)の所在は現在、不明となっている。

米国家安全保障局(NSA)から仕事を請け負う民間会社に勤めていたコンピューター技術専門家のスノーデン氏は、9日付の英紙ガーディアン上で、米政府の監視プログラムに関する情報を漏えいした本人であることを明かした後、宿泊していた香港のホテルをチェックアウトした。

NSAが世界各地で個人のネット使用や通話記録を監視していたことを暴露したスノーデン氏は、透明性の確保を求める人々や自由至上主義者らの間で一躍、英雄となった。

しかし、米上院情報問題常設特別調査委員会の委員長を務める民主党のダイアン・ファインスタイン議員は、詳細は述べなかったものの、米当局はスノーデン氏を徹底的に追及すると語った。

フロリダ州選出の民主党上院議員ビル・ネルソン氏は、「これは内部告発などではない。(国家に対する)反逆行為だと思う」と述べ、スノーデン氏を国家反逆罪で起訴すべきだと主張している。

中国の特別行政区である香港は、10年以上前に米国との間で犯罪人引渡条約を結んでいる。

米国務省のジェン・サキ報道官によれば、香港との犯罪人引渡条約は1996年に締結し98年に発効。現在も有効で、長年にわたり米政府は積極的に活用してきたと同報道官は述べた。

また議員らが党派を超えてスノーデン氏の早期米国送還を求める一方、米紙ワシントン・ポストの世論調査では、個人情報の保護よりもテロの脅威に関する捜査をより重視するとの結果が示された。

スノーデン氏はガーディアン紙とのインタビューで、アイスランドへの亡命を希望する意向を語っているが、アイスランドの入国管理当局は正式な要請は受け取っていないとした上で、スノーデン氏がアイスランドに入国した上での亡命申請が必要だと語った。

米政府が香港当局にスノーデン氏の身柄引き渡しを正式に要請した場合、香港の主権を持つ中国政府が介入する可能性については、政治アナリストらの見方は割れている。【6月11日 AFP】
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