孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  増大する難民に苦慮、難民審査を国外施設に移す形に厳格化

2012-09-08 20:36:50 | 難民・移民

(2011年7月 出入国管理施設に留め置かれた未成年難民の解放を求めて、警官隊と対峙する難民支援団体の人々 一方で、長年続いた先住民アボリジニへの差別や、08~09年頃に問題となったインド系移民に対するヘイトクライム“カレー・バッシング”など、白豪主義の名残のような異民族排斥の動きもあります。
“flickr”より By Takver  http://www.flickr.com/photos/takver/5918017452/

中継地インドネシアの苦悩「避難民は犯罪者ではないが、自由の身でもないので難しい」】
アフガニスタン、ミャンマー、スリランカ、パキスタン、イラン、イラクなど、紛争を抱える中東・アジアから多くの難民がオーストラリアを目指して渡航しています。
しかし、命がけの危険な密航であり、沈没・座礁による犠牲者が後を絶ちません。

****150人乗り密航船沈没か=難民認定希望者?6人救助-インドネシア沖****
オーストラリア政府の30日の発表などによると、インドネシア沖で、密航船に乗っていたとみられる6人が商船に救助された。豪当局には前日、難民認定希望者150人を乗せたとみられる船からエンジンが故障したとして救助要請があった。インドネシアと豪当局がさらに生存者がいないか付近の海域を捜索している。【8月30日 時事】
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オーストラリアが難民の目的地とされているのは、“豪州では保守政権時代、難民希望者を直接入国させず、近隣のナウルやパプアニューギニアの収容所に隔離する政策をとっていた。2007年の政権交代後、労働党は、難民審査を豪州領内で行うことにした。難民希望者の期待が高まり、世界中の紛争地域などから多数が押し寄せ始めた”【8月19日 朝日】という事情によります。
また、“国外で(難民)申請をすると数年かかるが、豪州にたどり着いて収容施設入居後に審査を受けると1年ほどで定住が認められる”【9月7日 毎日】とのことです。

そこで、オーストラリアを目指す難民の中継地となっているのがインドネシアです。
ジャワ島南部から400キロ弱でオーストラリア領クリスマス島に到着できるためです。

****避難民流入、インドネシア悲鳴 豪州への中継地に****
紛争が続く中東やアジアからオーストラリアを目指す避難民たちが、「中継地」のインドネシアに流れ込んでいる。不法滞在を含めると1万人以上いるとみられ、領海内で沈没する難民船も相次ぐ。

シンガポールにほど近いインドネシア西部ビンタン島の主要都市タンジュンピナン。入管当局の許可を受け、3年前にできた「入国管理収容センター」を訪ねた。
3階建ての同センターには男性341人が収容されている(8月15日現在)。出身国はアフガニスタンが140人で一番多く、次いでミャンマー100人、スリランカ60人、パキスタン11人など。イラン、イラク人もおり、多くがイスラム教徒だ。

入り口から鉄柵扉を四つ抜けた1階では、ミャンマーから避難してきたイスラム教徒の少数派ロヒンギャ族の男性たちがひしめき合って暮らしていた。(中略)

ユヌス・ジュナイド所長によると、同センターは国内に13カ所ある収容所のうち最大で、唯一オーストラリアの支援で建てられた。食費や診療所運営費などは国際移住機関(IOM)の協力で国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が負担している。

約50人のセンター職員は法務・人権省管轄の入管職員で、うち警備担当は30人で3交代制。同所長は「たった10人で収容者300~400人を見張るのは限界があるのに、ボートピープルはどんどん入国してくる。なんとかならないかというのが本音だ」と話す。

建物には鉄条網が張られているが、塀はそれほど高くない。脱走事件も頻繁に起きる。7月16日の未明には55人が扉を壊し、塀を飛び越えて逃げた。うち27人が地元警察などに捕まって戻されたが、残りは今も行方不明だ。アフガン人たちが「何年待てば難民認定されるのか」と騒いだ末、抗議のハンガーストライキをしたこともあるという。

「避難民は犯罪者ではないが、自由の身でもないので難しい」と同所長。収容者は国連へ難民申請をしているが、難民認定が出るのに何年もかかる。認定されなければ本国へ任意帰国か強制送還される。「避難民の気持ちも理解できる。精神分析医も常駐しているが、精神的に参ってしまう人が多い」という。

■豪の入国政策が影響
入国管理当局によると、インドネシアでは今年5月現在で約1200人が難民認定されて第三国への移住を待っているほか、約4600人が難民申請をしている。そのほとんどが、オーストラリアへの移住を望んでいるという。

豪州では保守政権時代、難民希望者を直接入国させず、近隣のナウルやパプアニューギニアの収容所に隔離する政策をとっていた。2007年の政権交代後、労働党は、難民審査を豪州領内で行うことにした。難民希望者の期待が高まり、世界中の紛争地域などから多数が押し寄せ始めた。

この影響をインドネシアがもろに受けた。ジャワ島南部から400キロ弱で豪州領クリスマス島に到着できるため、格好の「中継地」となった。避難民たちはまずインドネシアに入り、あっせん業者の手引きで密航船に乗って豪州を目指す。

政府は今年4月、避難民問題の専門部署を政治・治安調整省内に設置した。責任者のジョニ・ウタウル氏によると、「紛争国からインドネシア経由豪州行き」のルートが密入国請負業者間でできている。「海軍などの巡視船がどこにいるか、どの地域の国境警備が手薄かなども業者は把握しているようだ」という。

アフガニスタン人やスリランカ人などの業者はまず、密航船を手配したうえでジャワ島の貧しい漁村へ行く。数人の漁師に1人50万円ほどの報酬を与え、「豪州領海へ人を運べ。もし豪州当局に捕まったら2年間ほど刑務所に入るが、所内労働で多額の報酬ももらえるから問題ない」と指示。難民希望者をバスなどで漁村に運び、夜、ひそかに出航させるという。

昨年末には、約250人が乗った難民船がジャワ島沖で沈み200人以上が死亡。今年に入ってからも計約7300人を乗せた100以上の難民船が豪州に入ったが、インドネシア領海内で沈没する事故も毎週のようにあり、豪州への批判が高まっている。

豪州のギラード政権は今月、方針の転換を決定。かつての保守政権と同様にナウルなどの収容所を再開することで、難民希望者の流入に歯止めがかかると期待している。(タンジュンピナン=郷富佐子) 【8月19日 朝日】
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【「密航してもすぐに国外に移送する」】
当然ながら、増大する難民は「移民の国」でもあり、また、白豪主義の国でもあったオーストラリアにおいても大きな問題となっています。

難民保護の理念と増大する軋轢という現実のはざまで、オーストラリアも揺れ動いています。
12年3月20日ブログ「難民への対応に見る、オーストラリア社会と日本社会の差」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120320
11年6月11日ブログ「オーストラリア  牛とラクダと難民に見る“人道的”ということ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110611
11年6月6日ブログ「オーストラリア  迷走する難民対策 マレーシアで審査する案に人道上の問題」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110606
10年12月16日「オーストラリア・クリスマス島沖で難民船大破  難民対応に苦慮する豪政府」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101216

そして、上記記事にあるようにギラード政権は、ラッド前首相のもとで緩和した難民対策を、難民審査を南太平洋のナウルなど国外施設に移す形で、再び厳しくすることを決定しました。
ただ、今回決定には国連、そして労働党内部からの批判もあります。

****オーストラリア:難民政策を転換 密航抑制へ国外審査再開****
密航船での難民流入に苦慮するオーストラリアのギラード労働党政権が難民政策の抜本的改革に乗り出す。年間の難民受け入れ上限を引き上げる一方、密航船を抑制するため難民審査を南太平洋のナウルなど国外施設に移す方針に転換。しかし、国連や人権団体は「非人道的措置」と強く批判している。

豪州では07年の政権交代で労働党のラッド政権が誕生。難民の受け入れに寛容な政策を打ち出した。人権団体から「環境が劣悪」と指摘されたナウルとパプアニューギニアの国外2カ所の難民収容施設を閉鎖し、国内での審査に切り替えた。
豪州への難民希望者は、国外で申請をすると数年かかるが、豪州にたどり着いて収容施設入居後に審査を受けると1年ほどで定住が認められる。そのため、アフガニスタンやイランなどから豪州を目指す密航者が急増。中継地のインドネシアには密航をあっせんする組織も存在する。

密航には老朽化した船が使われることが多く、定員超過による沈没事故も多発。09年10月以降、計600人以上が犠牲になっている。先月末にもインドネシア沖でアフガニスタン人など約150人を乗せた密航船が沈没し、100人近くが行方不明になっている。

これを踏まえ、ギラード首相は犠牲者を防ぐためとして方針を転換。閉鎖した国外の難民収容施設の再開を決めた。難民受け入れ数を現在の年間1万3700人から2万人に増やすが、ギラード首相は「増加分は密航者ではなく、国外の被災者が対象」とし、「密航してもすぐに国外に移送する」と強調する。

ただ、審査期間は「数年」とされ、国連のピレイ人権高等弁務官は「無期限の拘束で人権が侵害される恐れがある」と懸念を表明。労働党内からも不満が出ており、方針転換はギラード政権に打撃となる可能性もある。【9月7日 毎日】
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【「難民認定希望者を保護する法的責任を免れるものではない」】
保守党サイドからは“難民船領外押し返し”といった強硬意見も出ているようですが、さすがにそこまでは踏み込んでいません。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、オーストラリアがどのような方法をとるにせよ「難民認定希望者を保護する法的責任を免れるものではない」としています。また、収容所に無期限に拘置することや、難民希望者の精神衛生問題に懸念を表明しています。

****国連は豪領外難民収容に関与せず*****
豪は9月末までにナウルに500人移送
ジュリア・ギラード労働党連邦政府は、3人専門家パネル設立時の約束に従い、同パネルの勧告を全面的に受け入れ、野党保守連合の提唱していたナウル難民収容所再開に向けて動いている。

一方、パネル設立時に、「政府の設立したパネルの勧告は受け入れない」と宣言していたトニー・アボット保守連合リーダーは、パネルが自分たちの提唱の一部を勧告していると分かると直ちにこれを受け入れた。しかし、保守連合が提唱していた、臨時保護ビザと難民船領外押し返しだけはパネルも勧告せず、「非人道的で難民希望者と豪海軍人員を危険に陥れる行為」と批判している。

政府は、陸軍部隊をナウルに派遣し、収容所の修復にあたらせることになっており、「9月末までに難民認定申請者500人をそちらに移送する」と発表した。もう一つの収容所立地、パプア・ニューギニア(PNG)のマヌス島については、PNG政府が公式に収容処理センターの再開を認可した。また、センター運営資金は新しく決められたPNG開発援助パッケージから充てられることになっている。

豪政府の動きに対して、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)地域代理リチャード・トール氏は、「UNHCRは、一定の距離を置いて豪政府の政策の監視と難民条約に基づいた監督業務を行うが、豪政府の計画を支援するつもりはまったくない。センターの活動の運営管理などで事務所はまったく関わらないし、難民条約を遵守し、同じように難民条約批准国であるナウル、PNGと協力し、その条約の枠内で義務を遂行するのが豪政府の責任だ。UNHCRはその計画には一切関わらない。オーストラリアは、難民希望者を他国領土に移送することができるが、そうしたところで難民認定申請処理から最終的な作業まで、その難民認定希望者を保護する法的責任を免れるものではない」と語っている。

また、「UNHCRは、難民希望者を収容所に無期限に拘置することや、難民希望者の精神衛生問題を特に懸念している。難民希望者は祖国で迫害を受けたために脱出してきており、オーストラリアに向けて危険な航海してきた結果、心理的外傷を負っている可能性がある。その人達に十分な医療とケアを維持するのは困難だ」としている。【8月24日 NICHIGO ONLINE】
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アフガニスタン  拡大するアフガニスタン国軍・警察と外国兵士の不信感 権限移譲にも影響

2012-09-07 21:13:02 | アフガン・パキスタン

(12年4月、武器貯蔵庫探索の共同活動を終えて握手を交わす米軍落下傘部隊兵士とアフガニスタン警察官 任務の前、両者は数週間一緒に訓練を重ねたそうです。 “flickr”より By FortBraggParaglide  http://www.flickr.com/photos/fortbraggparaglide/6964577790/

【「最悪の日」】
アフガニスタンにおける同国治安部隊要員による外国兵士殺害が相次いでいることは、8月14日ブログ「アフガニスタン治安関係者による米兵殺害相次ぐ パキスタンの和解プロセスへの対応に変化?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120814)でも取り上げたところです。

その後も同種の事件が続いており、8月29日にはオーストラリア兵士3人が基地内で国軍兵士に殺害されています。
この日、アフガニスタンでのヘリコプターの墜落でやはりオーストラリア兵2人が死亡したこともあって、オーストラリアのギラード首相は太平洋諸島フォーラム(PIF)首脳会議出席を取りやめ急遽帰国、記者会見でオーストラリアにとってベトナム戦争以来の「最悪の日」と語っています。

****アフガン国軍兵士また銃乱射、豪州兵3人死亡****
アフガニスタン南部ウルズガン州のアフガン国軍基地で29日夜、国軍兵士が銃を乱射し、AP通信によると、同基地に立ち寄っていた国際治安支援部隊(ISAF)所属の豪州軍兵士3人が死亡した。

急増するアフガン治安部隊要員による乱射事件には歯止めがかからず、外国軍兵士の死者は、米兵を中心に今年に入って既に45人に上っている。【8月30日 読売】
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14年の治安権限移譲については「予定に変更はない」・・・・
こうした「駐留軍とアフガン治安部隊の信頼関係を揺るがしかねない」事態(ラスムセンNATO事務総長)に、駐留米軍はアフガン警察の訓練を一時中止しています。

****アフガニスタン:駐留米軍、警察訓練を中止****
アフガニスタンに駐留する外国軍兵士がアフガン人の治安部隊に殺害される事件が相次ぎ、駐留米軍がアフガン警察の訓練を一時中止する異常事態になっている。14年の治安権限移譲へ向け地元治安部隊を育てなければならない米国にとり深刻な状況だ。

駐留米軍は2日、米軍主導で2年前に設置された「アフガン地方警察」の新規採用隊員約1000人の訓練を中止すると発表。正式採用済みの約1万6000人についても、全員の身元調査を実施するという。旧支配勢力タリバンなど武装勢力が治安機関に潜伏し、駐留軍を内部から攻撃しているためだ。

アフガン人警察官や国軍兵による攻撃で、今年45人の駐留兵が殺害され、昨年1年間の35人を上回った。8月30日には南部ウルズガン州でオーストラリア兵3人が国軍兵に殺害され、8月だけで計15人が死亡している。

アフガニスタンに国際治安支援部隊(ISAF)を展開させる北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長は3日、ロイター通信に「駐留軍とアフガン治安部隊の信頼関係を揺るがしかねない」と述べ、こうした攻撃の増加に強い懸念を表明した。ただし、14年の治安権限移譲については「予定に変更はない」と語った。

カルザイ大統領は、再発防止を約束したが、「敵・味方」を見分けるのは困難で有効な手立てはない。大統領は3日、国防、内務の両相と情報機関長官を総入れ替えする人事を発表したが、「前国防相が先月、議会の解任決議を受け、辞任に追い込まれたため」(地元記者)とみられる。【9月4日 毎日】
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また、アフガニスタン国防省は国軍兵士の身元調査を行い、疑義のある兵士の解雇・拘束を進めています。

****アフガン国防省、兵士を大量解雇 国際部隊への襲撃巡り****
アフガニスタンで国際部隊の米兵士らがアフガン兵や警察官に射殺される事件が急増していることから、アフガン国防省は5日、反政府武装勢力と関わっている疑いがある国軍兵士数百人を解雇、あるいは拘束したと発表した。

国防省はこの7カ月間、国軍兵士の出身地や経歴などを調査。反政府武装勢力と通じている証拠をつかんだ兵士を解雇し、疑わしい兵士を拘束しているという。国防省の報道官は「何人かは採用の際に不完全かまたはでっちあげた書類を提出したので解雇した」という。

ロイター通信によると、アフガン治安部隊員らに射殺された国際治安支援部隊(ISAF)の隊員は今年に入り45人に上っており、反政府武装勢力タリバーンの潜入も疑われている。

アフガンは2014年末までに治安権限がISAFから移譲されることに合わせて、兵士や警察官を急増させている。そのため採用する際の調査が不十分だったのではないかとの指摘が出ている。
この問題では、駐留米軍が2日、アフガン地方警察官の訓練を8月下旬から一時中断し、地方警察官の再調査を進めていると発表した。(イスラマバード=中野渉) 【9月7日 朝日】
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アフガニスタン側への14年の治安権限移譲の「予定に変更はない」とのことですが、権限移譲すべき国軍・警察を信頼しきれない状況というのは、非常に厳しい事態と言わざるを得ません。

治安部隊のなかにタリバンなどの反政府勢力につながる者が多く存在することは、従来より言われていたところです。
ただ、最近多発する銃乱射による外国兵士殺害事件の多くは、タリバンなどの指示によるもとと言うよりは、アフガニスタン人と外国兵士の間のストレス・人間関係のもつれなどから噴き出した事件のように見えます。

“外国部隊襲撃のさい、イスラム原理主義勢力タリバンはこれまでに何度も犯行を首謀したとの声明を出してきた。しかし、ISAFを主導する北大西洋条約機構(NATO)軍は11日、急増する事件のうち、タリバンが陰で糸を引いているものは10分の1にも満たないとの見方を示した。
その上で、事件の多くはアフガン人と外国人兵士らとの間の個人的ないさかいや、アフガン人が抱えるストレス、外国人との文化の違いに対する不満が原因だと分析した。米兵によるイスラム教の聖典コーラン焼却事件などによる反感の高まりを指すとみられる”【8月24日 産経】

基本的には人間関係の問題ですが、外国兵士側のアフガニスタン治安部隊への不信感が募れば、悪循環で両者の関係は更に悪化する事態も想定されます。

もともと外国兵士に対する感情は複雑なものがあるところに、外国兵士によるタリバン兵士遺体への放尿やコーラン焼却などが、反感を煽る結果にもなっています。

米軍兵士の“不祥事”、刑事責任を問わず処分内容
そうした一連の“不祥事”について、米軍は関係兵士への処分を明らかにしましたが、アフガニスタン側が求めていたよりは軽い処分となっています。

****遺体冒涜などで兵士9人処分=刑事責任は問わず―米軍****
米軍は27日、アフガニスタン駐留米兵による反政府勢力タリバン兵の遺体冒涜(ぼうとく)とイスラム教の聖典コーランの焼却問題に関し、海兵隊兵士3人と陸軍兵士6人の軍法違反を認定し、内部処分を下したと明らかにした。一連の問題では、アフガン政府が厳罰を要求していたが、米軍は刑事責任を問わず、軍規定に基づく処分にとどめることで収拾を図った。【8月28日 時事】
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“軍規定に基づく処分”とは、階級の引き下げや減給などですが、個々の兵士の具体的な処分内容は明らかにされていません。
2月のコーラン焼却事件については、“焼かれたコーランや宗教関連の書籍は100冊近くに上ったという。米陸軍は「取り扱いを誤って燃やしたが、イスラム教を侮辱しようという悪意はなかった」として、6人を行政処分にした”【8月28日 朝日】とのことです。
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ベネズエラ  大統領選挙に向けて想定される、いろいろなシナリオ  先住民虐殺情報の謎

2012-09-06 22:54:40 | ラテンアメリカ

(アマゾン先住民族である「ヤマノミ」は狩猟・採集で生活しており、衣服は殆んど着用しないそうです。
ブラジル・ベネズエラからの保護を受けていますが、近年、ヤノマミ族の居住地域で金が発見され、鉱夫の流入は疾病、アルコール中毒、暴力をもたらしているとも言われています。【ウィキペディアより】
写真は“flickr”より By todogaceta.com http://www.flickr.com/photos/todogaceta/7911312334/

健康問題を抱えるチャベス大統領 追い上げる野党統一候補
南米ベネズエラでは約1カ月後の10月7日に大統領選挙が行われます。
その極端な反米的言動などで何かと世間を騒がせることが多いチャベス大統領が再選を目指しています。
海外での悪評にもかかわらず、国内では石油収入によるバラマキ政策の成果もあって高い人気を誇るチャベス大統領の最大の問題は健康問題です。

チャベス大統領は昨年6月以降、がん性腫瘍を骨盤から摘出する手術を同盟国キューバで2回行っていますが、具体的な発症部位やがんの種類は公表されていません。

7月9日には、がんは完治しており、10月の大統領選に向けた激しい戦いの障害となる健康上の制約はないと2回目の“完治”宣言を行っています
“「こうしてここに立ち、日々体調が良くなっていくのを感じられることを神に感謝している。『健康上の制約』という言葉が選挙活動の(障害となる)要因にはならないと確信している」”【7月10日 AFP】

しかし、キューバでの治療で国を空けることも多く、重体説が何度も流れる状況で、“完治”を信じていない向きも多いようです。
チャベス大統領の政治への評価に加え、そうした健康問題もあって、選挙戦では対立候補のカプリレス前ミランダ州知事が追い上げてきているとも言われていますが、チャベス大統領の人気の壁は厚く、健闘はしているものの壁を突き崩すまでには至っていない・・・というのが大方の見方です。

****ライバルの人気上昇でも、チャベスは強し*****
もし選挙が持久力で決まるものなら、10月7日のベネズエラ大統領選は、野党連合「民主統一会議(MUD)」の統一候補であるカプリレス前ミランダ州知事の大勝だろう。
若く活動的なカプリレスは、現職のチャペス大統領を支持率で追い上げ勢いづいている。一日にいくつもの町を回って演説し、記者の質問に答え、子供たちとバスケもして汗のかきどおしだ。

カプリレスはかつて、チャペス体制に対する暴力を扇動したとして短期間収監されたことがある(後に不起訴となった)。この経歴から彼は、チャペスの社会主義的「ボリバル革命」に立ち向かう闘士、野党の新たなスターとして台頭した。

政権交代はいつ起こってもおかしくない。肥沃な土壌と豊富な石油資源に恵まれながら、13年間のチャペス体制のせいで停電や生活必需品の不足、21%のインフレ率に悩まされている。

チャベスの支持率は、過去最低といってもまだ50%近く、勝算は十分。癌闘病中でもあるというのに強いのは、13年間バラマキ独裁を続けてきたから。ベネズエラ人の2人に1人は何らかの政府援助を受けている(原油収入のおかげた)。

メディアに対する締め付けは中国も驚くほど。カプリレスが全国を遊説する間にも、テレビで数百万人に語り掛ければいい。
「ほとんどの人は、指導者といえばチャベスしか知らない」と引退したベネズエラの外交官ディエゴ・アリアは言う。 カプリレスが汗をかかなければならないわけだ。【9月12日号 Newsweek日本版】
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仮に、カプリレス候補が今後更に追い上げて勝敗の行方が分からないような状況になったら、チャベス大統領が素直に選挙を行うだろうか?という疑問もあるようです。
支持勢力を使って社会混乱状態を起こせば、非常事態宣言を出して選挙を先のばしすることも可能です。

また、カプリレス候補が勝利したとしても、軍部がどのような出方をするのか?議会で過半数を占める現与党勢力がどのような対応に出るのか?・・・いろいろ問題は尽きないようです。

一方、チャベス大統領が勝利すれば、 “本当に職務を全うできるのか?”という大問題があります。
任期6年間の最初の4年間に職務を遂行できなくなった場合は、特別選挙が行われる憲法上の規定があります。
チャベスなき「特別選挙」となれば、与党側の勝利は難しいとも思われますが、そうなると与党側がどのような対応に出るのか・・・という話になります。【8月8日号 Newsweek日本版より】

10月7日の投票日に向けて、また、選挙結果確定後もしばらくは、いろんなケースがあり得るベネズエラ情勢です。

アマゾンに住む先住民族「ヤノマミ族」の虐殺情報、政府・大統領は否定
そのベネズエラで、何やらよくわからない事件が話題となっています。
ベネズエラのブラジル国境に近いアマゾン地域に住む先住民ヤノマミ族の約80名が、ブラジルの金採掘業者に虐殺された・・・・という情報です。

****ベネズエラ、少数民族ヤノマミ族が大量虐殺****
非公式筋の情報によると、ブラジルとの国境に近いベネズエラの熱帯林イロタテリ村で大量虐殺の結果、約80人が死亡した。AP通信が伝えた。RBKの報道によると、アマゾンに住む少数民族のヤノマミ族はすでにベネズエラ政府に対し、虐殺の状況についての調査を依頼している。

ヤノマミ族のリーダー、ルイサ・シャチヴェ・アヒヴェイ氏によれば、襲撃が行われたのは7月初めで、イロタテリ村を通った隣村の住民が村が完全に焼き払われているのを発見。ある家屋からは黒こげの死体が見つかったことから大量虐殺が行われたのではないかとの疑惑が持ち上がった。

事件当時、村の3人の住民は森に狩りに出ていて命拾いした。3人は銃声、爆発音、ヘリコプターの音を聞いており、隣国ブラジルの金鉱山労働者らが貨物輸送にヘリコプターをよく利用することから、アヒヴェイ氏によれば虐殺を行ったのはこうした労働者ではないかとの疑いを抱いている。

襲撃の原因については、イロタテリ村の生き残った3人もヤノマミ族も、炭鉱労働者に襲われそうになったヤノマミ族の女性をこの村の住民が助けたからとの見方を表している。
ベネズエラ政府は現段階ではこの情報を公式的には確認していないものの、調査を開始することを約束している。
【8月30日 The Voice of Russia】
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この先住民虐殺情報に関し、ベネズエラ政府は“虐殺の証拠は発見されなかった”としています。

****アマゾン先住民虐殺か、ベネズエラ政府は「証拠発見できず****
南米ベネズエラのアマゾン地域に住む先住民ヤノマミ族がブラジルの金採掘業者に虐殺されたとの情報について、ベネズエラ政府は同地域を調査した結果、虐殺の証拠は発見されなかったと明らかにした。

ブラジルとの国境に近いベネズエラ南部に住むヤノマミ族の代表組織は先週、ブラジルの金採掘業者が国境を越えて同族の集落をヘリコプターから攻撃したと発表。70人以上が殺害された可能性があるとしている。
攻撃が発生したのは7月とされているが、ヤノマミ族の集落が孤立しているなどの理由から、ベネズエラ政府に連絡するまでに時間がかかったという。

一方、同国当局は先週末、攻撃があったとされる地域を低空飛行して調べたが、虐殺の事実はなかったとの結論に至ったと発表。マルドナド先住民問題担当相は「証拠は見つからなかった」と述べた。

先住民の人権団体は声明を発表し、同地域が遠隔地にあることや、ヤノマミ族が一つの場所に定住しないことから、当局者が虐殺発生現場を見つけることは困難だと指摘。ベネズエラ政府に調査の継続を要求した。

ブラジル政府は先週、ベネズエラに詳細な情報を求め、ブラジル人の関与について問い合わせたと発表。ブラジル外務省は3日、ベネズエラ側から調査支援の要請はまだ受けていないと明らかにした。【9月4日 ロイター】
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5日には、チャベス大統領自身が「虐殺の証拠は存在しない」と発表しています。

****ベネズエラの先住民虐殺、「証拠存在せず」 チャベス大統領****
ベネズエラ南部のブラジルとの国境付近で7月に先住民族のヤノマミ人80人が虐殺されたとされる問題で、同国のウゴ・チャベス大統領は5日、虐殺の証拠は存在しないと述べた。(中略)

5日の記者会見でチャベス大統領は、「(虐殺に関する)証拠や先住民族の証言は、どこからも出てこなかった」と述べ、虐殺の事実を否定した。【9月6日 AFP】
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普段なら「アメリカの陰謀だ」とか、騒ぎを大きくするチャベス大統領が随分あっさりと「何もなかった」と幕引きをしたがっているのが、却って奇妙な感じもします。
ブラジルともめ事を起こしたくない事情でもあるのでしょうか?
もっとも、【8月30日 The Voice of Russia】に見るように、虐殺を主張する側の言い分もかなり曖昧な部分がありますので、本当のところはわかりません。

なお、ベネズエラ・カラカスのアメリカ大使館職員が「選挙戦でチャベス大統領を追い込む予想外の出来事が起こる」と、謎めいた(あるいは、根拠のはっきりしない)発言をしています。
「US Embassy in Caracas predicted an “extraordinary event” that will defeat Chávez in the October 7th Presidential election」(http://www.voltairenet.org/US-Embassy-in-Caracas-predicted-an

上記ページでは、ベネズエラ西北部パラグアナにある同国最大のアムアイ製油所で8月25日に発生した爆発事故による火災(死者48人)との関連を取り上げていますが、どうでしょうか・・・。
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カナダ  ケベック州議会選挙で分離を掲げるケベック党が勝利 勝利演説中に発砲事件

2012-09-05 22:08:29 | 国際情勢

(ケベック党ポリーヌ・マロワ党首(中央女性)の勝利演説中に発砲事件があり、混乱する現場 左右の男性は犯人ではなく、ボディーガードもしくは党関係者です。 “flickr”より By Paraíba http://www.flickr.com/photos/joaoesocorro/7936289488/

第1党に、ただし過半数には届かず住民投票実施は困難
スコットランドのイギリスからの独立の動きについて、2012年1月11日ブログ「イギリス  スコットランド独立を問う住民投票を巡る議論」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120111)で取り上げたことがあります。
スコットランドの歴史的経緯や、イングランドとの異質性はあるにしても、第三者的には“イギリス”という枠組みの存在感が圧倒的なため、「本気かね・・・?」というのが正直な感想です。

似たような問題がカナダにもあります。フランス系住民が多くフランス語のみを公用語とするケベック州の独立問題です。
4日に行われたケベック州議会選挙で、独立を掲げるケベック党が勝利したそうです。
ケベック党はこれにより州首相を手にしますが、過半数には至らず、分離独立の是非を問う住民投票の実施は難しい状況です。

この選挙結果に加えて、ケベック党首の勝利演説中にイギリス系住民による発砲事件が起きたということで、今後の分離問題の扱いが更に難しくなりそうです。

****加ケベック議会選は独立派勝利、党首演説中の発砲事件で1人死亡****
カナダ・ケベック州で4日、議会選が行われ、独立派の野党ケベック党が、与党・自由党を抑え9年ぶりに第1党になった。
ただ、ケベック党のポリーヌ・マロワ党首の勝利演説中、会場内で男が発砲し1人が死亡する事件が起こり、同党勝利に暗い影を落とした。

カナダは比較的犯罪率が低い上、政治にからむ暴力犯罪はまれなため、今回の事件発生で衝撃が広がっている。
議会選では、ケベック党が全125議席中54議席を獲得し、50議席の自由党に小差で勝利。しかし、過半数に届かなかったことから、カナダからの分離の是非を問う住民投票の実施は難しくなった。

同州初の女性首相となるマロワ氏は演説で、ケベック州はいつの日か独立を勝ち得ると支持者に訴えていたが、事件発生を受けボディーガードに付き添われ壇上から避難した。マロワ氏はその後、壇上に再び戻り演説を締めくくった。

警察によると、50歳くらいの男が会場に侵入し2人に向け発砲。2人は重体となり、うち1人の死亡が後に確認された。男は現場で「英国系住民が目を覚まそうとしている」と叫んでいたいう。また、男は会場の建物に放火した疑いも持たれている。

同州では、ケベック党政権時代の1980年と1995年に分離独立の是非を問う住民投票が行われたが、独立派がいずれも敗れている。【9月5日 ロイター】
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95年の分離独立を問う住民投票では、反対が50.6%とかろうじて半数を超え、賛否拮抗した結果となっています。

カナダ人の49%が「ケベック州がカナダから分離独立してもあまり気にならない」】
一方、カナダ国民の間では、ケベック分離問題は覚めた目で見られている・・・という調査も報じられています。
ケベック州の経済的、政治的な影響力が、従前に比べて低下してきているという状況も反映した意識変化のようでもあります。

****カナダ人の半数、ケベック州が独立しても「別に…」 世論調査****
カナダ人の半数は、フランス語住民の多いケベック州がカナダから分離独立しようがしまいが「さして気にならない」と考えているとの世論調査が6月29日、今年の州議会選挙を前に発表された。

世論調査会社イプソス・リードによる2回の調査では、ケベック州以外に暮らすカナダ人の49%が「ケベック州がカナダから分離独立してもあまり気にならない」と回答し、独立したとしても「たいした問題ではない」と回答した。
カナダの国土と人口の5分の1を占めるケベック州では、分離独立の是非を問う住民投票が1980年と95年に2度行われ、ともに否決されている。だが95年の投票は僅差だった。

イプソス・リードのダレル・ブリッカー社長は、「(ケベックの独立という)脅し文句は、長年にわたってあまりに多くの回数繰り返された。人びとはすでにこの議論から離れており、この国は別の方向へ歩み始めたのだろう」と語った。
またブリッカー氏は、カナダ西部の資源豊富な州が影響力を強めるにつれて、ケベック州の経済的、政治的な影響力が失われたと指摘した。

2回の調査はそれぞれ6月11~18日、20~25日に実施され、第1回調査はカナダ人1101人を対象に行われ誤差の範囲は3.0パーセント、第2回は同1009人で誤差範囲3.1パーセントだった。【7月1日 AFP】
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“単純に見ると、独立運動は労働組合と地方の住民に根強い人気があり、不況になると勢いづき、景気が回復すると下火になる。”【ウィキペディア】とのことです。
“1982年のカナダ新憲法をケベック州のみが批准していない”“ケベック州議事堂にはカナダの国旗はなく、ケベック州の旗のみが掲げられている”【ウィキペディアより】と、部外者には理解しづらいものがありますが、分離独立運動はアフリカ・アジアの強権支配的な途上国で起きるものといったイメージもあって、やはり「本気かね・・・?」という印象が否めません。

相当な量が無くなった
ケベック党も過半数は得られなかったということで、さしあたりケベックの世界に与える影響は、特産品メープルシロップの価格が上がるかも・・・という、こちらの話題です。

****カナダのメープルシロップ倉庫で盗難、24億円相当を保管****
カナダ東部のケベック州の倉庫で、メープルシロップが大量に盗まれていたことが分かった。業界団体が31日明らかにした。
倉庫はモントリオールの北東約160キロにあり、約4500トンのメープルシロップが保管されていた。金額にして3000万カナダドル(約23億8000万円)相当だという。業界団体の代表者は、このうちどの程度が盗まれたかは分からないとした上で、相当な量が無くなったと発表した。

メープルシロップの盗難は、定期的なチェックの最中に発覚した。業界団体は闇市場での販売目的で盗まれたとの見方を示した。
世界に供給されるメープルシロップの約75%はケベック州で生産されている。ただ業界団体は在庫があるとし、「供給不足に陥ることはない」としている。【9月3日 ロイター】
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メープルシロップのようにかさばるものを盗んで一体どうするつもりなのか・・・という気もしますが。
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ドイツ・中国の「特別な関係」 欧州の中国への期待と警戒感

2012-09-04 23:14:39 | 欧州情勢

(これまで何回も顔を合わせているメルケル首相と温家宝首相ですが、写真は08年10月北京でのもの。メルケル首相は今よりスリムなような感じもしますが・・・ “flickr”より By emailtoqq http://www.flickr.com/photos/31031559@N07/3137460320/

【「特別な関係」と「共存の罠」】
今朝のTVニュースで、フランス2はドイツ・メルケル首相の訪中を取り上げていました。
メルケル首相は6回目、今年だけでも2回目の訪中です。これまたドイツを6回訪問している温家宝首相や胡錦濤国家主席との会談の他、閣僚の半数を今回訪中に伴い、中国側との合同閣議を開催しています。

また、シーメンスとフォルクスワーゲンのトップを含め、100人以上の独企業幹部も同行し、エアバスなどの大型契約を取りまとめていますが、チベット問題とか人権問題に関する発言は殆んどなかったとか。

こうした蜜月ぶりからも窺われるように、ドイツ・中国の経済関係は拡大の一途をたどり、こまかい数字は忘れましたが、ドイツ・中国の貿易額はフランス・中国の貿易額の数倍に膨らみ、しかもフランスが大幅な対中赤字なのに比べ、ドイツは僅かではあるが黒字だとか。フランス2が取り上げていたのは、同じ時期にスタートした対中関係が、どうしてこんなに差がついてしまったのか?ということでした。

フランスなどとは違い、ドイツは相手国のニーズにあった製品を提供する。進出企業間のネットワークがしっかりしており、猟犬のように共同で狩りをする。対応も後先を考慮して計画的に行う。東ドイツ出身のメルケル首相は中国と雰囲気的にマッチするところがある・・・そういったことを挙げていたように思います。

一方で、独中両国の「特別な関係」(独政府高官)の進展で、欧州の対中政策の歩調に乱れが出かねないとの懸念を指摘する向きもあるようです。

****独中蜜月を欧州憂慮 債務危機で協力、航空機50機納入 協調乱れ「危険****
ドイツが中国との関係を一段と強化している。メルケル首相は今年2度目となる8月末の訪中で、欧州債務危機対応への協力を得ただけでなく、大型商談もまとめた。中国重視には債務危機打開や輸出拡大の狙いがあるが、両国の「特別な関係」(独政府高官)の進展で、欧州の対中政策の歩調に乱れが出かねないとの懸念も浮上している。

 ◆「特別な関係」
8月30、31日に訪中したメルケル首相は胡錦濤国家主席や温家宝首相と会談。温首相からはユーロ圏諸国の国債購入による資金調達支援を継続するとの約束を取り付けた。さらに、欧州航空機大手エアバスの旅客機50機納入など、総額60億ユーロ(約5900億円)超の取引も成立させた。

首相は30日の記者会見で、「中国はアジアの最重要パートナーだ」と明言。中国で活動するドイツ人記者が抱える「報道の自由」の問題やシリア情勢など、見解を異にするテーマへの深入りは避けた。

メルケル首相の訪中は2005年の就任後、計6回に上る。チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談するなど、当初見せた人権問題への厳しい姿勢も最近は控え気味で、関係強化への取り組みが目立つ。

今回の訪中は昨年始まった定期的な政府間協議で、7閣僚と20企業の代表が同行した。協議は来年開催の予定だったが、中国側が定着化のため前倒しを要請、ドイツが応じた。
ドイツにとって中国は欧州連合(EU)域外最大の貿易相手。EUの対中輸出の約半分、輸入の約4分の1を占めており、独中間の貿易総額は09~11年で1・5倍に急増した。危機で他のユーロ圏への輸出が伸び悩む中、今年も対中輸出を伸ばす。独政府高官は「EU域外でこれほどの関係を持つ国は他にない。特別な関係だ」と言い切る。

 ◆“共存”には罠
ドイツの対中重視の背景には、人民元の国際的地位向上を目指す中国がドルとの対抗上、ユーロ存続を望んでいるとの計算もある。

ただ、深まる対独関係をてこに中国が影響力を行使するのでは-との懸念もEUにはある。実際、メルケル首相は30日、欧州企業が中国製太陽電池のダンピング(不当廉売)調査をEUに求めた問題で「対話による解決」を促し、中国に配慮する姿勢をみせた。

シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)のハンス・クンドナニ氏は独中関係について、「ドイツと欧州全体にとり危険な状況だ」と指摘。独有力紙、南ドイツ新聞も「独中経済の“共存”には罠(わな)がある」と警鐘を鳴らしている。【9月2日 産経】
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メルケル首相・温家宝首相ともに両国の良好な関係を称賛しています。
メルケル首相「ドイツと中国の経済関係は多くの点で好調であることは、今回の代表団そして私自身そして同行している経済界のデレゲーション(代表団)も2日の滞在中に確信することができました。」
温家宝首相「2つの国の協力関係はどのような力が加わろうと壊れることはありません。」

また、会談後にメルケル首相の紫禁城を見学した際には、温家宝首相がガイド役をつとめたとか。

経済パートナーとして最重要な立場にある点では、日中関係も同様ですが、最近の緊張をはらんだギクシャクした状況は周知のところです。
隣国という関係にあると、経済関係だけでなく、歴史的問題、文化的軋轢、更には政治的問題あるいは領土・国境や安全保障上の観点など、いろんな要素が絡み合ってきます。
そうは言っても、メルケル・温家宝両首脳の打ち解けた感じは、少し羨ましくも思えました。

温家宝首相「(欧州経済危機を)内心は心配している」】
なお、メルケル首相はエアバスやドイツ製品などの経済的売り込みだけをやっていた訳ではなく、欧州各国の国債購入などでの、欧州経済危機に対する中国の協力を要請しています。

****中国、欧州の国債購入継続 温首相、条件付きで****
中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相は31日まで北京を訪れていたドイツのメルケル首相に対して、「リスクがコントロールされている」ことを条件に、欧州各国の国債を買い続けることを約束した。
同時に、独仏など欧州連合(EU)の大国が、財政危機に直面するギリシャやスペイン、イタリアを支援するよう注文をつけた。

中国にとって最大の貿易相手であるEU向けの輸出額は7月、前年同月比で16.2%減。これが響いて全世界向けでも1.0%増と2年8カ月ぶりの低水準にとどまり、景気の減速感が強まっている。
欧州経済の悪化が自国の経済に大きな影響を与えるだけに、市場に安心感を与える発言をしたもの、とみられる。欧州各国は世界一の規模の外貨準備高を持つ中国から国債や企業への投資を期待している。

温首相は30日の会談後の共同会見で、欧州の政府債務(借金)危機に対して「内心は心配している」と述べ、メルケル首相から説明を受けても「正直に言えば(対策は)順風満帆には進まないだろう」と牽制(けんせい)し欧州に結束を促した。また両国は電気自動車、高速鉄道、再生可能エネルギーなど中国が求める先端技術分野での協力にも合意した。

メルケル首相は7人の閣僚とともに訪中した。胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席や温首相のほか次期政権トップと目される習近平(シー・チンピン)副主席、李克強(リー・コーチアン)副首相とも会談し、関係の構築に努めた。人権やシリア問題などで立場の差はあるものの、エアバス50機35億ドル(約2800億円)の商談をまとめるなど、経済面で成果を得た。

メルケル首相の訪中は就任以来6度目、今年に入って2度目と、欧州が危機に見舞われるなかで中国重視を強めている。(北京=吉岡桂子) 【9月1日 朝日】
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温家宝首相は「欧州の債務問題は引き続き悪化しており、私も心配している。欧州が緊縮財政と経済刺激策のバランスを見つけることを希望する」と語っています。
ギリシャやスペイン、イタリアなどの将来は、ドイツがどこまで支援するかに大きく依存しています。
欧州経済が混乱すれば、欧州を最大の取引先とする中国経済が怪しくなり、ひいては中国を最大の取引先とする日本経済にも影響します。
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イラン  「非同盟諸国会議」でのエジプト・モルシ大統領の演説を意図的に“誤訳”

2012-09-03 22:18:16 | イラン

(「非同盟諸国会議」でのイラン・アフマディネジャド大統領とエジプト・モルシ大統領 両脇は潘基文事務総長とインド・シン首相のようです。 エジプトにとって「非同盟諸国会議」は、かつてナセル大統領がインド・ネルー首相やユーゴスラビア・チトー大統領らとともに呼びかけて始めた華々しい独自外交の舞台でもありました。 “flickr”より By MEAphotogallery http://www.flickr.com/photos/meaindia/7893217382/in/photostream/

モルシ大統領のアサド政権批判に、シリア代表団が退席
イランの首都テヘランで先月26日から31日まで、108カ国の代表が参加して「非同盟諸国会議」が開催されました。核開発をめぐって欧米から経済制裁を受けるイランは、非同盟諸国を味方につけることで国際的な孤立からの脱却を狙う・・・とのことでした。
核の平和利用を主張しているイランは会議中、希望者には中部ナタンツなどの核施設「視察ツアー」も用意し、透明性をアピールする考えとも報じられていました。

会議には国連の潘基文事務総長が、イランによる政治利用を懸念する欧米の反対を押し切って参加。
潘基文事務総長は29日、最高指導者ハメネイ師、アフマディネジャド大統領と会談、イランの核開発について、「(イランは)具体的な行動を示す必要がある」と述べ、国際原子力機関(IAEA)への協力など、具体的な対応を取るよう求めています。【8月30日 読売より】

もう一人、注目された参加者がエジプトのモルシ大統領でした。
79年のイラン・イスラム革命直後に両国が断交して以来、初の首脳訪問ですが、対米追随を脱し“「アラブの盟主」の復権を狙う”モルシ大統領の「新外交」の一環であることは、8月24日ブログ「エジプト  今後の動向が注目されるモルシ政権の独自路線」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120824)でも取り上げたところです。

イラン側は、エジプトとの関係修復で国際的孤立からの脱却をアピールしたいところですが、イランが支持するシリア・アサド政権をモルシ大統領が厳しく批判したことで、イランとしても困惑したようです。

****シリア対応めぐり大荒れ=エジプト大統領が介入呼び掛け―非同盟諸国首脳会議が開幕****
イランの首都テヘランで30日、途上国など100カ国以上が参加する非同盟諸国首脳会議が2日間の日程で始まった。核開発問題で欧米と対立する議長国イランは、欧米主導の国際秩序形成に一石を投じたい考えだが、エジプトのモルシ大統領がシリアのアサド政権を「抑圧的な体制だ」と非難、シリア代表団が退席するなど大荒れの展開となった。

エジプト大統領のイラン訪問は、1979年のイスラム革命後の断交以来初めて。両国関係改善の契機になるとの見方もあったが、モルシ大統領は、イランの同盟相手であるアサド政権を痛烈に批判、関係改善機運に冷や水を浴びせた。

大統領は「正当性を失った抑圧的な体制に対するシリア国民の闘争との連帯は倫理的な義務であり、政治的・戦略的な必然だ。効果的な介入がない限り、流血は止まらない」と訴えた。これに対しシリアのムアレム外相は「暴力を扇動しており、内政干渉だ」と猛反発した。

モルシ大統領が属したエジプト最大のイスラム原理主義組織であるムスリム同胞団は、中東各地に系列組織を持ち、シリアの反体制運動でも主導的な役割を果たしている。イランはシリア問題の対話による解決を訴えているが、非同盟諸国の間で結束した対応を打ち出すのに失敗した形だ。【8月30日 時事】
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【「次は、圧政下バーレーンの革命だ」?】
困ったイランは国内向けには、モルシ大統領のシリア批判を意図的に誤訳して流す・・・という大胆な対応をしています。
しかも、モルシ大統領が「アラブの春」による自国の政権交代を引き合いに、「次は、圧政下シリアでの革命だ」と演説した部分を、国営放送はでは「次は、圧政下バーレーンの革命だ」とペルシャ語で放送するといったように、批判の矛先をシリア・アサド政権でなく、反体制派を支援するバーレーンにすりかえるという“誤訳”ということで、当然ながらバーレーンは怒っています。

****シリア批判封じ:イランが圧力かけ「誤訳」非同盟諸国会議****
先月31日にテヘランで閉幕した非同盟諸国会議(120カ国・機構加盟)首脳会議で、エジプトのモルシ大統領がシリア政権を批判した演説内容を、議長国のイラン政府が、イラン人通訳に圧力をかけて「誤訳」させていたことがわかった。通訳は、モルシ氏がシリア政府の圧政などを批判した部分を、反体制派を支援する「バーレーン政府」と置き換えてペルシャ語に翻訳し、これをイラン国営テレビやラジオが流した。

同会議の運営に関わったイラン革命防衛隊関係者が、毎日新聞の取材に答えた。会議は、アサド政権を擁護するイラン政府が主催。軍事組織の革命防衛隊が深く関与し、会議を通じてシリア支持の流れを作ろうと画策していた。

関係者によると、モルシ大統領がシリア批判を展開することが予測されたため、イラン政府は事前に通訳を呼び出し「シリア批判に触れても翻訳しないように」と徹底したという。
モルシ氏は30日にアラビア語で演説。自国で起きた民主化運動「アラブの春」に言及したうえで「その後、リビアやイエメンでも続き、現在は圧政的な政権に対抗する革命がシリアで起きている」などと語った。しかし、通訳は繰り返し「シリア」の国名を、「バーレーン」に置き変えてペルシャ語に翻訳した。翌日の保守系紙は、モルシ氏のシリア批判を一切伝えていない。

イランは、自国と同じイスラム教シーア派系が政権を握るシリア政府を支持している。スンニ派が中枢を支配するバーレーン政府は、シリアの反体制派を支援する一方、国内ではイランが支持するシーア派の反政府デモに悩まされている。
バーレーン政府は1日、イランに謝罪を求めて抗議。バーレーン国営通信も「こうした捏造(ねつぞう)は受け入れがたい」と反発し、外交問題にも発展している。【9月3日 毎日】
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「誤訳」と言うより「ねつ造」ですが、さすがにイラン国内でも“保守系ラジャ通信は2日、「発言をねじ曲げるのは、おかしい」と報道、国内でも物議を醸している”【9月2日 読売】と批判もあるようです。

【「原子力の平和利用」主張の虚構
最近のイランの核開発疑惑については、時間稼ぎ的な欧米とのやり取りのなかで、着実にウラン濃縮能力を向上させている実態が報告されています。
今回の意図的「誤訳」のように自分に都合のいいように真実をねじ曲げてしまう対応をとっていると、核開発に関する国内外に向けた説明の信頼性も失われます。

****イラン:ウラン濃縮能力、5月比2倍に…IAEAが報告書****
核兵器開発の疑いが持たれるイランで今年5月以降、中部フォルドゥの地下施設にウラン濃縮用遠心分離機1000台以上が増設され、濃縮能力を2倍以上向上させていたことが30日、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長報告書で明らかになった。ウラン濃縮停止を求める欧米の意向を無視して増設を続けている実態が判明。IAEAは9月の理事会で報告書を基にイラン核問題への対応を協議する。

イランは今年2〜5月にフォルドゥで約370台の遠心分離機を増設。5月以降の増設分を合わせると1444台になり、設置総数は2140台となる。現在、稼働しているのは696台にとどまるが、イランは国連安保理常任理事国などと核交渉を続けながら、分離機の増設によって着々と濃縮能力を高めている実態が浮かぶ。

イランは大規模な中部ナタンツの施設で主に濃縮度5%未満のウランを製造する一方、空爆に強い地下施設のフォルドゥでは核兵器転用が容易な濃縮度約20%のウランを製造。両施設で製造された濃縮度20%ウランは計約190キロになり、5月時点より約45キロ増加した。原爆製造には濃縮度を90%以上に高める必要がある。また、核兵器用の高性能爆薬実験が行われた疑いがあるパルチン軍事施設で建物撤去など証拠隠滅の可能性を指摘した。

一方、フォルドゥの施設で先に検出された微量の濃縮度27%ウランについて事務局長報告書では、「技術的なミス」を主張していたイランの説明がIAEA側の追加的な評価結果と「矛盾しない」とした。

イランは「原子力の平和利用」を主張しているが、欧米はフォルドゥ施設閉鎖などを求めて対立している。報告書は「イランが協力を怠っているため、未申告の核物質や活動がないとの確証はもてない」としている。【8月31日 毎日】
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モルシ大統領の「新外交」】
なお、エジプト・モルシ大統領の「新外交」については、“硬軟取り混ぜた現実路線”“対米従属的な外交路線を取ったムバラク政権とは異なる地域ナショナリズム的な主張も掲げる”とも評されています。今後の展開が注目されます。

****エジプト、新外交模索 イラン訪問で対米追従と一線画す****
エジプトのムルシ大統領が、革命後の「新外交」を模索している。米国、イスラエルが敵対視するイランを先月30日に訪問し、ムバラク前政権時代の対米追従路線とは一線を画する一方、イスラエルには「既存の和平条約維持」を約束するなど、硬軟取り混ぜた現実路線だ。

6月末に就任したムルシ氏は、イスラムの理念に沿った「対等、互恵」外交を掲げ、7月11日にまずイスラム教の聖地メッカを抱えるサウジアラビアを訪問。この場で地域の主要国であるエジプト、サウジ、トルコ、イランの4カ国による「中東4者協議構想」を提唱した。内戦状態にあるシリアをめぐり、同国を支援するイラン以外の3国はアサド政権打倒を求めている。シリア問題で国連安全保障理事会が、シリア支持のロシア、中国と政権打倒の米英仏に分断し、機能不全に陥るなか、地域独自の解決策を探る試みだ。

一方、シーア派イランと、サウジを含むスンニ派の湾岸産油国との間では、ペルシャ湾岸の覇権をめぐる主導権争いや対立もある。両国を含む対話の場は、地域全体の緊張緩和や信頼醸成につながる可能性がある。今回のイラン訪問では、イランとの国交回復までは求めなかった。米国やイスラエルの懸念に配慮した形だ。

テヘランで開かれた非同盟諸国首脳会議の場で、ムルシ氏は「シリア人民は自由、公正と尊厳を求める戦いに従事している」と述べ、反体制派への支持を明確に表明。パレスチナ問題では、国家樹立と国連への完全加盟を求めた。
また「アフリカを安保理常任理事国から除外したまま歴史的な不公正を維持することはもはや容認できない」と述べ、「南」の立場から「北」に対し、安保理の改革と拡大、国連総会の役割強化を求めた。

「(革命後の)新生エジプトは、途上国を貧困、依存、疎外の悪循環から救う公正な国際システムの樹立を求める」とも語り、対米従属的な外交路線を取ったムバラク政権とは異なる地域ナショナリズム的な主張も掲げる。
イラン訪問に先立ってムルシ氏は中国を訪れ、経済関係の強化を求めた。日本に対しても、国際協力機構(JICA)を通じたインフラ整備などに強い関心を示している。

9月下旬には、国連総会出席のため、就任後初めて訪米する。ムバラク独裁を支えた歴代米政権に対しては「エジプト人民の利益に反する行為だった」と強く批判するムルシ氏だが、オバマ政権に対しては「革命を支持し、民主化を支援している」と評価。新生エジプトと米国との二国間関係を再定義する機会になるとみられる。(カイロ=石合力) 【9月2日 朝日】
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ロシア  グルジア紛争開戦をめぐり憶測されるプーチン・メドベージェフの溝

2012-09-02 19:39:40 | ロシア

(7月17日 クレムリンでの会議に臨むプーチン大統領とメドベージェフ首相 “flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/7893964090/

【「グルジアへの派兵命令が遅かった」】
先月初め、グルジア紛争4周年に合わせて製作された「2008年8月8日。失われた日」という47分のドキュメンタリー映像がインターネット上で公開され話題となりました。
このドキュメンタリーのなかで、グルジア紛争直前に当時のメドベージェフ大統領に更迭された前参謀総長が、メドベージェフ前大統領(現首相)の開戦決定が遅れたためロシア側の犠牲が大きくなったと、前大統領を批判しています。

****ロシア:前参謀総長が首相批判 08年グルジア派兵で****
08年8月のロシアとグルジアの軍事衝突をめぐり、ロシア軍のバルエフスキー前参謀総長が「軍最高司令官のグルジアへの派兵命令が遅かった」と当時のメドベージェフ大統領(現首相)を批判し、波紋を広げている。

バルエフスキー氏は開戦4周年に合わせて製作され、インターネット上で公開されたドキュメンタリーに出演。ロシア軍はグルジアによる南オセチア攻撃を受けて軍事介入したが、派兵決定が遅れたため民間人らの犠牲が増えたと指摘した。

また、派兵を最終的に決定したのは、当時のメドベージェフ大統領でなく、北京五輪の開会式出席のため中国を訪問していたプーチン首相(現大統領)だったとの見方も示した。

これに対して、メドベージェフ首相は8日、訪問先の南オセチアで「派兵は必要なタイミングで決めた」と反論した。プーチン氏と相談したが、派兵はあくまでも自分の決定だったと強調した。

バルエフスキー氏はグルジアとの軍事衝突直前の08年6月、メドベージェフ大統領から軍参謀総長を解任されていた。背景には軍改革をめぐるセルジュコフ国防相との対立があったとされる。【8月9日 毎日】
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ロシア側が入念に時間をかけてグルジア開戦の準備していたことは、同じ開戦4周年当時、プーチン大統領(開戦当時は首相)自身が明らかにしています。

****グルジア紛争に「事前準備」=介入4年、大統領認める―ロシア****
ロシアのプーチン大統領は8日、同国軍が介入した2008年のグルジア紛争について、「グルジア軍の侵略への対応計画は06年末から07年初頭にかけ、ロシア軍参謀本部によって練り上げられていた」と述べ、紛争に備えていたことを認めた。アルメニアのサルキシャン大統領と会談後の共同記者会見で語った。

プーチン氏は「これは秘密ではない」として、自身が承認した計画の存在を公表。ロシアはこの計画に基づき、グルジアから独立宣言していた南オセチアの軍事組織に対し、必要な訓練を施していたという。8日は紛争へのロシア軍介入から丸4年に当たる。【8月9日 時事】
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この記者会見でプーチン大統領は、軍事介入の決定まで「3日もかかった」と述べ、メドベージェフ前大統領が介入を即決しなかったも明らかにしているそうです。

****8月8日の会見 食い違うプーチンとメドヴェージェフの言い分****
・・・・そして、プーチン氏は、グルジア紛争開戦4周年当日の8月8日の記者会見で、当時、首相として北京五輪開会式出席のため訪問していた北京から7日と8日にメドヴェージェフ氏、セルジュコフ国防相に電話し、開戦に踏み切るかどうかを協議していたと主張したのだ。

また、同氏は軍事介入するように電話で促したかどうかについては明言を避けているが、グルジア側の南オセチアでの軍事行動は事実上8月5日に始まっていたとも指摘しつつ、軍事介入の決定まで「3日もかかった」と述べ、メドヴェージェフ氏が介入を即決できなかったことも暴露する結果となった。

さらに、プーチン氏はグルジアに侵攻する準備は事前にできていたとも述べた。曰く、軍の参謀は、グルジアに対する軍事行動の計画を2006年末準備し、プーチンがそれを2007年に承認していたというのだ(グルジア紛争の直後にプーチン氏の元顧問は、プーチン氏はグルジアへの攻撃を4年前には決心していたとも述べているので、これは事実と思われる)。兵器や軍事要員を用意するだけでなく、南オセチア「軍」の訓練も、ロシア軍と共闘できるように訓練されていたという。

つまり、きちんと準備ができていたのだから、ゴーサインを出せばすぐにロシア軍は対応できたのに、メドヴェージェフ氏はそれをしなかったと言っているようにも理解できよう。
ロシア情勢をウォッチするカーネギー財団モスクワ・センターのニコライ・ペトロフ研究員によれば、「メドヴェージェフの対応にプーチンは怒っており、彼はそれを表明したのだ」という。【8月31日 WEDGE】
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バルエフスキー前参謀総長の“「モスクワの最高指導部は責任を引き受けるのを恐れ」、派兵決定が遅れたため、民間人らの犠牲者が増えた”との批判に、メドベージェフ前大統領は即日に反論しています。

“自らがロシア軍の派遣を決断したのは「グルジア軍の活発な軍事行動が開始されてから2時間半後」で、時期は適切であったとした上で、その決定が遅すぎたとの指摘は「実情を知らないか、意図的な歪曲だ」と反論したのである。さらに氏は、介入の決断についてはプーチン氏と相談したものの、完全に一人で、速やかに行ったと述べて、前参謀総長やプーチン氏の主張に躍起になって反論しているのである”【同上】

もし、即時の開戦を求めるプーチン前首相の指示にもかかわらず、メドベージェフ前大統領が3日間判断を先延ばししたということであれば、大方の見方に反して、メドベージェフ前大統領が必ずしもプーチンの操り人形に過ぎない訳でもなかった・・・とも言えます。

予想よりずっと早くメドべージェフが見限られた可能性も
こうした事情を前提に、前出【8月31日 WEDGE】は、ロシア指導部内で起きている“メドベージェフ切り捨て”の可能性を論じています。

****プーチンがメドヴェージェフを切る? ロシア指導部に「亀裂****
映像はプーチン関係者によるもの?
グルジア紛争開戦から4年後に、当時の軍事行動開始を巡って奇妙な動きが出てきたことはおわかりになったと思う。しかし奇妙である。4周年という節目の時期であるとはいえ、外交に関わる事実を公開するにはあまりに早く(外交記録公開文書も国に20~30年後に公開するのが普通だろう)、また重要な事実を公にするという趣旨であれば、「今更」という感じがするほどの遅さだ。

それにもかかわらず、そのドキュメンタリー映像が公開されるやいなや行われたプーチン氏のプレスサービスが、この映像は「本物のドキュメンタリーだ」とお墨付きを与えているのである。こうなってくると、プーチンないしプーチンに近いものが作成した可能性も否めないだろう。

4年も前のことであるにもかかわらず、また、諸外国からの圧力があったとはいえ、拙稿「ロシア WTO加盟の舞台裏反対のグルジアが受諾した理由」のようにグルジアがロシアのWTO加盟を認めるなど、徐々に対話ムードが生まれてきている状況であったにもかかわらず、当時の詳細が蒸し返されたことの背景には、明らかに政治的意図があったと思われるのである。

メドヴェージェフ失脚の地ならしか
つまり、この一連の動きがメドヴェージェフ氏の立場を悪くするために仕組まれたと考えるのは穿った見方だろうか。プーチン氏がメドヴェージェフ氏に見切りをつけ、失脚の地ならしをし始めたとは考えられないだろうか。

その一つの根拠として、前出のペトロフ氏が、「プーチンはメドヴェージェフを変えざるを得ないかもしれない」と言うように、専門家の間でもメドヴェージェフの更迭説が囁かれている。加えて、最近、プーチン氏は、メドヴェージェフ氏が大統領時代から推進してきた近代化路線にも攻撃を始めている。

他方、ドキュメンタリービデオでメドヴェージェフ氏を批判したバルエフスキー氏はグルジア紛争の直前の2008年6月、メドヴェージェフ大統領から軍参謀総長を解任されていた。解任の理由としては、軍改革を巡ってセルジュコフ国防相と対立していたこともあったという。

バルエフスキー氏は、自身が解任されたことで、メドヴェージェフ氏に反感をいただいていたとしても不思議ではない。そのようなところに、プーチンないしプーチンに近い人物などから、取引、すなわちメドヴェージェフ氏を陥れる証言を行うことを持ちかけられた可能性も否定できないだろう。同時に、元々「その場しのぎ」的な要素があった政権だが、予想よりずっと早くメドヴェージェフが見限られた可能性も否定できない。

他方で、市民が高めている軍に対する不満のガス抜きをするため、また、国民の関心をそらして現在高まっている反プーチン運動を沈静化ために、このビデオが作られたと考えるロシアの専門家もいる。いずれにせよ、プーチンと軍の利益にかなった動きであることは間違いなさそうだ。【8月31日 WEDGE】
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メドベージェフ前大統領の指示で再調査・再審、結果は検察求刑の2倍の判決
メドベージェフ首相の政治的影響力が相当に小さいのでは・・・という印象は、下記の反プーチン活動家の裁判に関する記事でも感じます。

****ロシア裁判所、反プーチン活動家に禁錮8年 求刑の2倍****
ロシア・スモレンスクの裁判所は28日、急進的な反プーチン活動家のタイシヤ・オシポワ被告(28)に、麻薬所持の罪で禁錮8年を言い渡した。オシポワ被告の支持者らは政治的に動機づけられた裁判だと非難の声を上げている。オシポワ被告の弁護人がAFPに語った。

オシポワ被告は、野党連合「もう一つのロシア」の活動家。弁護人のナタリア・シャポシュニコワ氏は「判決に驚いている。非常に長期の刑だ」と述べ、控訴する意向を示した。検察側は前週、禁錮4年を求刑していた。

オシポワ被告は2010年、ヘロイン販売容疑で逮捕された。長期間にわたる裁判にロシア内外から非難の声が上がっている。
まだ幼い娘を持ち、糖尿病も患っているオシポワ被告に対し、昨年の裁判では禁錮10年の判決が下された。オシポワ被告は収監中に糖尿病から合併症を起こしていた。

今年1月、大統領退任を前にしたドミトリー・メドベージェフ氏が判決は厳しすぎると発言。裁判の調査を命じ、これが今回の再審につながった。
急進派の左翼戦線の指導者、セルゲイ・ウダルツォフ氏は、今回も異例の厳しい判決が下されたと批判。「検察側の求刑でさえ禁錮4年だったのだ」「これは無法と冷笑の勝利だ」とスモレンスクからツイッターでコメントした。【8月29日 AFP】
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タイシヤ・オシポワ被告の活動内容については、よくわかりません。
ただ、メドベージェフ前大統領の指示で再調査・再審が行われたにもかかわらず、そして実際かなり短縮された求刑が検察からなされたにもかかわらず、検察求刑の2倍の判決が出される・・・。
確かに、当初の禁錮10年からは2年短くはなっていますが。

メドベージェフ前大統領の意向と、現在の権力指導部の意向(当然プーチン大統領意向を反映したものでしょう)の間に、何かギャップのようなものを感じます。
もちろん、ロシアにおいては、司法の判断はメドベージェフ首相やプーチン大統領などの政治からは独立したものである・・・ということではありますが。

まあ、メドベージェフ首相の政治的影響力が限られているのは今に始まった話ではないとも言えます。
メドベージェフ首相とプーチン大統領の関係は、昔から繰り返し論じられてきたもので、今更・・・の感もありますが、改めて両者の溝を感じた次第です。
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南アフリカ  労働争議で警官隊発砲 検察は労働者側を起訴

2012-09-01 19:14:28 | アフリカ

(南アフリカ・マリカナ鉱山での労働者と警官隊の衝突 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/7806647706/

アパルトヘイト廃止後の最悪の流血の惨事
8月16日、南アフリカで、プラチナ鉱山労働者のストライキを巡る混乱から警官隊が発砲し、三十数名が死亡する事件が起きています。「アパルトヘイト(人種隔離)廃止後で、警察行動に伴う最悪の流血事件の一つ」とも言われています。

****南ア・プラチナ鉱山スト、労働者と警官隊の衝突で30人超死亡 ****
10日からストライキが続いている南アフリカ北西部ルステンブルク郊外のプラチナ鉱山で16日、労働者らと警官隊が衝突し、労働組合によると36人が死亡した。ナチ・ムテトゥワ警察相は地元メディアに、死者は30人以上と語っている。
一連のストでは15日までに既に警官2人を含む10人が死亡している。

現場は英資源大手ロンミンが所有する鉱山。16日の衝突は、2日間にわたって鉱山付近の丘で座り込みをしていたデモ隊に対し、解散を呼び掛けた警察が催涙ガスや放水、ゴム弾などで強制排除にかかったため起きた。なたや木・鉄の棒などで武装して野営する労働者らに対し、ロンミン側は15日、仕事に戻るよう最終警告を発していた。

労働者側は強制排除の際、警察が実弾も使用したと主張しているが、警察当局は使われた拳銃は先の衝突で死亡した警官から奪われたものだと反論している。また、ムテトゥワ警察相は衝突原因について、一帯を封鎖していた警官に銃やなたで武装した労働者らが近づいてきたことがきっかけだと述べた。
ロンミン側は衝突で死者が出たことについて、鉱山の警備は警察の管轄であって、同社に責任はないと主張している。

同鉱山では10日、一部の労働者が賃金を3倍に引き上げるよう要求してストライキを開始したが、強い影響力を持つ2つの労働組合の対立が絡み、暴力沙汰に発展している。【8月17日 AFP】
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スト労働者と警官隊の衝突の様子については、“地元紙「タイムズ」によると、警察は刃物などで武装した労働者と対峙(たいじ)、武装解除や解散を求めたが、労働者が警察側に近づいてきたため、ゴム弾などに続き、実弾を発砲したという。警察は労働者側が先に発砲したと主張している。
地元紙「スター」は警察の発砲による負傷者を86人と報道している。発砲の様子は、地元テレビ局のカメラなどにとらえられており、ショッキングな映像が波紋を呼んでいる”【8月17日 毎日】とも報じられています。

事件は南アフリカ国内に大きな衝撃を与え、犠牲者追悼行事が行われた日には、国中で半旗が掲げられたそうです。

****南アが悲しみと怒りに暮れた日****
アパルトヘイト(人種隔離政策)の悲劇を克服したはずの南アフリカが、再び激しい怒りと悲しみに覆われた。
北部ルステンブルク郊外のプラチナ鉱山で8月中旬、賃上げを求めるデモを行っていた労働者らに警官隊が銃を乱射してから1週間。銃撃で死亡した36人を含むデモの死者44入を追悼する行事が先週、南ア各地で行われ、国中で半旗が掲げられた。

プラチナ生産世界3位の英ロンミン社が所有するデモ現場の鉱山で行われた追悼行事には、近隣住民や宗教指導者、政治家など500人が参加。事件後に「恐怖の丘」と呼ばれるようになった労働者の殺害現場で、5時間にわたって祈りや歌がささ
げられた。

デモの労働者の中にはなたや梶棒で武装した者もいたため、警官隊はあくまで正当防衛を主張している。ただ容赦なく発砲する様子が動画共有サイトに投稿されると、世界中から非難の声が上がった。デモはほかの鉱山でも発生しており、今後、南アの採鉱業界全体に暴動が波及する恐れもある。

94年にアパルトヘイトが完全撤廃されて以降、最悪の暴力事件に対する労働者たちの怒りと悲しみはしばらく収まりそうにない。【9月5日号 Newsweek日本版】
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鉱山労働者34人を殺害した罪で同じ鉱山の労働者270人を起訴
この事件に関し、検察当局は発砲した警官でなく、“鉱山労働者34人を殺害した罪で同じ鉱山の労働者270人を起訴した”とのことです。

****南ア・プラチナ鉱山の労働争議、同僚殺害で労働者270人を起訴****
南アフリカ北西部ルステンブルク郊外のプラチナ鉱山、マリカナ鉱山で16日に労働者らと警官隊が衝突した事件で、同国の検察当局は30日、鉱山労働者34人を殺害した罪で同じ鉱山の労働者270人を起訴した。

34人は警察が「自衛のためだった」としている警官隊の発砲によって死亡したが、検察側は「共同目的法」を適用して発砲した警官らではなく死亡した労働者の同僚らを起訴した。検察側の報道官は詳しくは来週行われる公判の中で明らかにすると述べた。

与党アフリカ民族会議(ANC)の青年同盟の議長だったジュリアス・マレマ氏は、「労働者を殺害した警官たちは身柄の拘束さえされていないのに、労働者の方を起訴するとは狂っている」と起訴を強く批判した。法律の専門家からも共同目的法の適用を疑問視する声が上がっている。

労働者側は3週間前の10日、月給を4000ランド(約3万7000円)から1万2500ランド(約11万6000円)に上げることを求めてストライキを始めたが、強い影響力を持つ2つの労働組合の対立が絡んで暴力沙汰に発展し、15日までに警官2人を含む10人が死亡していた。今回起訴された270人は警官隊の発砲後に身柄を拘束されていた。

政府は労使交渉を仲介し、鉱山を所有する英資源大手ロンミンと労働組合は30日、前日に続いて2日目の交渉を行った。関係者は、事態打開は近いという見通しを示している。【8月31日 AFP】
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詳しい事情がわからないこともあって、“どうして発砲した警官ではなく、殺害された側のスト労働者を?”という疑問が当然にありますが、与党ANCの青年同盟の議長だったジュリアス・マレマ氏が同様の発言をしているところを見ると、あながち部外者の見当違いの感想でもないようです。

もっとも、マレマ氏については、“過激な主張で黒人大衆に人気を誇る与党・アフリカ民族会議(ANC)青年同盟のジュリアス・マレマ議長(30)が「白人を撃て」と歌うズールー語の歌を集会で多用し、メディアが繰り返し報じた。白人への襲撃事件が慢性的に起きる土地柄でマレマ氏の扇情的な言動に警戒感を強める白人の人権団体は昨年、「襲撃を助長しかねない」と歌の禁止を求めて提訴”【11年9月15日 読売】といったポピュリスト的な人物ですから、同氏と意見が同じというのは、むしろ問題があるのかも・・・・。

【「ネルソン・マンデラ、助けて。私たちの自由を守って」】
南アの警察当局に関しては、芳しくないニュースも目にします。
****南アフリカ:警察長官を解任 汚職容疑で2代連続失脚****
南アフリカのズマ大統領は12日、ベキ・セレ警察長官を解任したと発表した。セレ氏は、契約業者との不透明な関係などを指摘され、停職中だった。大統領はセレ氏の職務継続を不適当と結論づけた調査委などの報告を受け、決断した。南アは警察長官が2代連続で「汚職」の容疑で失脚する異常事態となった。

地元紙が、警察庁舎の賃貸契約を巡って、セレ氏が競争入札を行わないまま不当に契約業者の選定に関与した疑いを報じて発覚。昨年10月から停職処分となり、調査が行われていた。

セレ氏は09年に警察長官に就任。セレ氏の前任で、国際刑事警察機構(インターポール)総裁も務めたジャッキー・セレビ前長官は08年、麻薬密売業者から金品を受け取る代わりに捜査情報などを流した収賄の容疑が浮上。ムベキ大統領(当時)に更迭された後、収賄罪で懲役15年の実刑判決を受け、服役中だ。また、セレ氏とは別の警察幹部も、殺人などの容疑がかけられて現在停職中となっており、警察の威信は地に落ちた状態だ。【6月13日 毎日】
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また、アフリカにおいて民主主義を誇ってきた南アの政治状況については、「民主主義を脅かす」ような動きも報じられています。

****アパルトヘイト時代を思わせる情報保護法案、南ア下院を通過****
南アフリカ下院は22日、機密文書の保持や公開を禁じる国家情報保護法案を賛成多数で可決した。下院の議席は与党アフリカ民族会議(ANC)が大半を占める。
同法案によれば、違反者には最大で禁錮25年の刑が科される。社会の利益となる情報も対象になることから、「民主主義を脅かす」「汚職の実態が暴かれなくなる」などと物議を醸していた。

ケープタウンの議会を傍聴していたジャーナリストらは、法案が可決されると、怒りをあらわに退場した。議場の外では黒服姿の数百人が「ネルソン・マンデラ、助けて。私たちの自由を守って」「リビア、エジプト、チュニジア、次はANC?」と書かれたプラカードを掲げてデモ行進した。

最大野党の民主同盟と南アフリカ記者クラブは、法案が大統領の署名を経て成立した場合には、憲法裁判所に提訴する方針を示した。
法案可決を受け、デズモンド・ツツ元大主教とネルソン・マンデラ記念館はそれぞれ憂慮を表明した。

南アフリカのノーベル文学賞受賞者、ナディン・ゴーディマ氏も、21日に行われたAFPとのインタビューで、法案は言論の自由を制限したアパルトヘイト(人種隔離政策)時代へ逆行させるものだと、ANCを批判している。【11年11月23日 AFP】
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かつてネルソン・マンデラ氏が反アパルトヘイト闘争を戦った与党アフリカ民族会議(ANC)は今年1月、結成100周年を迎えました。しかし、貧困や格差が依然解消されず、政権内部に不正・汚職が蔓延していることから、支持離れが加速していると報じられています。

****南アフリカの与党ANCが100周年 人気は下降線****
反アパルトヘイト闘争の中心になった南アフリカの与党、アフリカ民族会議(ANC)が8日、結成100周年を迎えた。アパルトヘイト政策撤廃後17年にわたって政権を担ってきたが、党内対立や幹部による汚職疑惑などが相次ぎ、支持離れが加速している。

同日、結成地の中部ブルームフォンテーンで記念式典を開催した。式典には、ズマ大統領らANC幹部のほか、アフリカ各国の高官らが出席し、支持者10万人以上が集まった。ズマ大統領は演説で「党だけではなく全国民にとってのお祝いだ」と融和を強調した。

ANCの前身、南アフリカ原住民民族会議(SANNC)は、英自治領南アフリカ連邦下の1912年に結成。40年代後半から黒人差別が強まると反対闘争の中心組織になり、60年に非合法化された。その後武装闘争に踏み切り、責任者だったネルソン・マンデラ氏は27年間投獄された。

白人政権との対話を通じ、90年に合法化され、初めて全人種が参加した94年の選挙で圧勝。マンデラ氏が大統領となり、全人種平等を柱とする新憲法を制定した。こうした功績から09年の総選挙で6割を超える得票を得るなど、支持率自体は依然高い。

だが、貧困や格差が一向に解消されないことに加え、ズマ大統領に過去の武器取引に絡む汚職疑惑が持ち上がるなど、幹部の金銭スキャンダルは後を絶たない。反アパルトヘイトで戦った時代の記憶は薄れ、拝金主義のイメージが強まっている。

ヨハネスブルク大学社会学部のザイルスカラカンプ准教授は、ANCの人気は今後落ちる一方だと指摘。「現在の支持は他に選択肢がないからだ。高い失業率、インフラと教育制度の未整備。この現状に、国民は選挙に関心がなくなっている」と話した。

■「貧しい者、さらに貧しく」非白人居住区
最大都市ヨハネスブルク郊外にあるアパルトヘイト時代の非白人居住区ソウェト。闘争の象徴的な地でもANCへの失望が漏れ、若者からアパルトヘイトの現実感が薄れてゆく声も聞こえた。
ソウェトは、水道や電気が通っていない住宅も多い。地元で治安の悪さから警官も立ち寄らないと言われるバガスポロ地区では、汚水が砂利道を流れていた。

自称ダンサーのマゴフェニさん(21)は「仕事もないのに税金を払わされる。ANCに何の期待もできない」という。アパルトヘイト時代の記憶はなく、「強制労働でも仕事があっただけ、アパルトヘイトの方が民主主義よりましだ」とまで語る。
ンコーンさん(41)はANC党員。それでも「腐敗にはあきれる。富める者はさらに富み、貧しい者はさらに貧しくなった」と批判する。

高い失業率は、治安の悪化にもつながる。公式統計では約24%だが、実際には4割を超えるとされる。南アフリカの2010年度の殺人事件は未遂も含めると3万1433件で、住居侵入盗は約25万件に上る。
常習強盗のナマニーさん(41)は、「リスクが高いからやめたいが、家族10人を養わないといけない」という。週2回ほど、銃を持って乗り合いバスで高級住宅街に出かける。多い月で8千ランド(約7万5千円)を稼ぐ。「昔は白人が憎かったが、今は誰でもいい。誰もが金のことしか頭にない」と語った。

世代間で思いも異なる。高校生のボディベさん(18)はアパルトヘイトに現実味がない。「マンデラは27年も牢獄にいたからすごい、と言われる。だけど他の人でもできたと思う」
ソウェト北方のエバトンに住むムシーディさん(63)は、シャープビル事件で警官隊に撃たれ左目の視力を失った。長く闘争に加わった。「100周年を祝う。私たちの唯一の大統領、マンデラが生きて一緒に祝えるから」と語った。【1月9日 朝日】
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新興国として注目を集める南アですが、他の成長著しい国同様に、貧富の格差が成長過程でむしろ顕在化することが社会不安を大きくしているようです。
そのことに適切に対応できない与党ANCは、反アパルトヘイト闘争の遺産を食い潰しつつあるように思われます。

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