孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

緊張高まる尖閣周辺

2012-09-19 23:25:10 | 中国

暴徒化は抑制の方向
中国で暴徒化する反日デモについては、理性を欠いた行為への怒りや「どうしてこんな形にしかならないのか・・・」という疲労感などを覚えますが、報じられているように中国当局も、暴徒化するような事態は抑える姿勢を見せています。

よく言われるように、反日デモは社会不満のガス抜きにはなりますが、放置すると現政権批判に容易に転化します。
今回デモにおいても、毛沢東の肖像が掲げられる光景が見られます。中国国内には失脚した薄熙来に代表されるような、現在の開放政策による格差拡大を批判する回帰的な左派勢力もあります。大衆行動が拡大すると、かつての文化大革命のような事態にもなりかねません。
17日には、広東省深セン市で反日デモの一部が暴徒化。市共産党委員会の建物に入ろうとして武装警察と衝突したため、警察側が放水し催涙ガスなどを発射、負傷者や拘束者が出ています。

また、これから国際社会で重きをなそうとする中国にとって、暴徒化し群衆の様子はイメージダウンにもなります。放置するとどこまで飛び火するかわかりません。

****反日デモで米大使の車被害 北京、50人に囲まれ破損****
北京の米国大使館によると、反日デモが行われていた北京で18日午後、ゲーリー・ロック駐中国大使が乗った車が約50人のデモ隊に取り囲まれ、車が一部破損した。大使にけがはなかった。

米国大使館は、1万人前後のデモ隊が抗議活動をした日本大使館に近く、公務を終えて大使館に戻ろうとした大使の車が巻き込まれた模様だ。米国が日本と緊密な同盟関係にあることから、中国人の怒りの対象になったとみられる。米国大使館は18日、中国外務省に懸念を伝え再発防止を求めた。【9月19日 朝日】
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習近平国家副主席、強硬策を主導
そんなこんなで一時の過激な抗議行動はとりあえず山を越した感がありますが、日本の国有化に対し中国指導部が厳しい姿勢であることには変わりありません。国内の抗議行動を抑制するためにも、日本に対し厳しい姿勢を維持する必要があります。

当初は中国側も国有化に関しては、中国にとって敵対的な石原都知事の東京都が購入するくらいなら、国有化によって安定的に管理されたほうがいい・・・といった姿勢でした。それが、国有化断固反対に変わってしまったのは、中国指導部の事情があるとも報じられています。

****中国125都市 反日デモ 胡政権の路線否定 習副主席主導で強硬転換****
日本政府による沖縄県・尖閣諸島の国有化を受け、中国で一連の強硬な対抗策を主導しているのは、胡錦濤国家主席ではなく、中国共産党の次期総書記に内定している習近平国家副主席であることが分かった。胡政権による対日協調路線が中国の国益を損なったとして、実質上否定された形。中国政府の今後の対日政策は、習氏主導の下で強硬路線に全面転換しそうだ。

複数の共産党筋が18日までに明らかにした。それによれば、元・現指導者らが集まった8月初めの北戴河会議までは、党指導部内では尖閣問題を穏便に処理する考えが主流だった。「尖閣諸島を開発しない」などの条件付きで、日本政府の尖閣国有化についても容認する姿勢を示していた。

しかし、8月10日の韓国の李明博大統領による竹島上陸や日本世論で強まる中国批判などを受け、状況が一変した。「なぜ中国だけが日本に弱腰なのか」と党内から批判が上がり、保守派らが主張する「国有化断固反対」の意見が大半を占めるようになったという。

9月初めには、胡主席を支えてきた腹心の令計画氏が、政権の大番頭役である党中央弁公庁主任のポストを外され、習氏の青年期の親友、栗戦書氏が就任。政策の策定・調整の主導権が習氏グループ側に移った。
軍内保守派に支持基盤をもつ習氏による、日本の尖閣国有化への対抗措置は胡政権の対日政策とは大きく異なる。胡氏はこれまで、日本製品の不買運動や大規模な反日デモの展開には否定的だったが、習氏はこれを容認し推奨した。

また、国連に対し東シナ海の大陸棚延伸案を正式に提出することも決定。尖閣周辺海域を中国の排他的経済水域(EEZ)と正式宣言することに道を開き、日本と共同で資源開発する可能性を封印した。これは、2008年の胡主席と福田康夫首相(当時)の合意を実質的に否定する意味を持つ。このほか、中国メディアの反日キャンペーンや、尖閣周辺海域に監視船などを送り込んだことも含め、すべて習氏が栗氏を通じて指示した結果だという。

習氏が今月約2週間姿を見せなかったのは、一時体調を崩していたことと、党大会準備や尖閣対応で忙しかったためだと証言する党関係者もいる。習氏が対日強硬姿勢をとる背景には、強いリーダーのイメージを作り出し、軍・党内の支持基盤を固める狙いもある。【9月19日 産経】
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次期国家主席の習近平氏が日本に対し強硬な姿勢を取り続けるとなると、この先も日本にとっては難い局面が多々ありそうです。
実際、19日の習近平氏とパネッタ米国防長官と会談で、習近平氏は日本の尖閣国有化を厳しく批判しています。
ただし、現在の胡錦濤国家主席との権力闘争的な権限移譲の期間における姿勢と、日本との関係を含めた国家運営の全責任を負う形になったときの姿勢では、異なる面が出ることも十分あり得ます。

また、中国共産党指導部内の話は、基本的によくわかりません。
習近平氏などは、つい数日まで公に姿を見せず、暗殺説・重病説まで飛び交ったぐらいです。
また、例えば、胡錦濤主席による“院政”の基盤となる中央軍事委員会主席留任について、今日は下記のように報じられていますが、以前から、留任が内定したとか、江沢民派との人事の綱引きで留任をあきらめたようだとか、そのときどきで二転三転する情報が流れています。
要するに中南海の出来事は外部の人間にはよくわからないということです。ですから、上記産経記事も、どこまで実態を反映しているのかよくわからないところがあります。

****胡主席、軍事委留任の可能性大=中国指導部人事で元香港長官****
米CNNテレビのウェブサイトによると、元香港行政長官で中国の国政助言機関、人民政治協商会議(政協)副主席を務める董建華氏は18日、CNNとのインタビューで、胡錦濤国家主席は江沢民前主席と同様、今秋の第18回党大会などで共産党総書記と国家主席を辞めた後も中央軍事委員会主席に留任する可能性が大きいと述べた。

香港親中派要人が中国指導部人事に言及するのは異例。董氏は「これまでの慣例により、胡氏はしばらく軍事委主席のポストにとどまるだろう」と語った。江氏は2002~03年に党総書記と国家主席を退任した後も、軍事委主席を2年続投した。【9月19日 時事】
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尖閣周辺でつばぜり合い
反日デモを巡る報道のなかで、一番興味深かったのは、中国国内で日本と「戦争になる」との流言が飛び交って、市民が塩を買い求めて列をつくるような現象も出ているとの記事です。

****尖閣「戦争になる」中国でデマ…食塩求め大行列****
中国共産党機関紙、人民日報(電子版)は17日、日本の尖閣諸島国有化を巡って日中間の対立が深まる中、中国浙江省温州市の一部地域で市民多数が食塩を買い求めて長蛇の列を作っていると伝えた。

ネット上で「戦争になる」と流言が飛び交ったことが原因で、値上がりを懸念し買い占めに走ったとみられる。「多くの人々がコメも買いあさっている」との情報もあるという。
温州市当局は「市民が突然食塩を買うようになった原因は不明だが、食塩は2か月分の十分な備蓄がある。デマを信じないようにしてほしい」と呼びかけている。

一方、中国紙・環球時報が17日に掲載した世論調査によると、尖閣諸島問題をめぐり日中両国間で「戦争が起こる可能性がある」との回答は52・3%で、「可能性は低い」の43・2%を上回った。調査は14~16日に北京や上海など主要7都市で実施され、有効回答は1509件だったという。【9月17日 読売】
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中国国内での情報の混乱ぶりが窺えますが、ただ、こうした現象を嗤ってばかりはいられません。
尖閣周辺には今のところは“1千隻の中国漁船”はまだ現れていないようですが、中国側の対日圧力の一環として、過去に例のない規模の漁業監視船「漁政」と海洋監視船「海監」の中国公船が大挙押し寄せて、日本側との緊張が高まっています。

“尖閣を管轄する第11管区海上保安本部の大型巡視船は7隻。数で劣勢に立つ恐れがあるため、海保は、40ミリ機関砲を装備した高速高機能大型巡視船「あそ」を周辺海域に派遣するなど全国から応援を回し、警備レベルを上げている。”【9月19日 産経】

漁船とは異なり公船は無茶はしないという側面もありますが、万一突発的なトラブルが生じると、公船だけに両国とも後に引けない事態ともなります。

****海保、中国監視船取り囲む 尖閣周辺でつばぜり合い****
日本の領海に迫る中国の漁業監視船や海洋監視船、これに並走して引き返すよう呼びかける海上保安庁の巡視船。18日、尖閣諸島周辺の海域で繰り返されたつばぜり合いを、朝日新聞社機で上空から見た。

午後1時過ぎ、魚釣島から北西約50キロ付近の公海上で、中国国旗を船尾にはためかせた海洋監視船4隻が1キロほどの間隔で悠然と魚釣島方向へ向かっていた。進路を先回りする形で機首を向けると、さらに2隻。海保のヘリコプターが低空飛行で後を追っていた。

白波を立てて海保の巡視船1隻が追いかけてきた。中国船の倍近い速度。みるみる距離が縮まる。中国船の先頭に並ぶと速度を合わせ、500メートルほど離れて並走する状態になった。領海の外22キロ以内の接続水域に入った辺りだ。進路を変えるよう中国側に呼びかけているのだろうか。【9月19日 朝日】
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国際的第三者機関の判断に委ねる道は?】
一触即発とも言えるような状況です。
何事も起きないうちに事態が安定化することを願いますが、“つばぜり合い”は更にヒートアップするのかも。

こうした緊張関係を打開する方策は、正直なところ存在しないように思えます。
トラブルが起きないように慎重に対応しながら、中国側が冷静さを取り戻す時間を何とかかせぐしかないのではとも思われます。
18日にも魚釣島に日本人2人が上陸していますが、こうした行為は事態を混乱させるだけです。

領土・国境線というのは、不法占拠にしろ、条約・協定によるものにせよ、結局はそのときどきの力関係を反映したものです。本来どうあるべきかについては、唯一絶対の真理というようなものではなく、立場が異なれば異なる主張が存在しうるようなものに思われます。
両国の主張がぶつかる場合は、互いに妥協するしか解決策はありませんが、両国とも妥協できないということであれば、かつ、戦争は回避したいということであれば、国際的第三者機関の判断に委ねるのが残された対応でしょう。戦争も辞さないということなら話は別です。

韓国が竹島について言っているように、尖閣は日本固有の領土であり、領土問題は存在しない・・・というのもわかりますが、中国がそれを認めないというのであれば、第三者の判断に委ねて決着をつけるのも、いつまでも対決姿勢を続けるよりは賢明なのでは。

当然に日本側の主張に理があるのでしょうから、日本の望む形に近い結論が出ることでしょう。
万一、異なる判断がなされるのであれば、第三者的には必ずしも日本の主張を是としないということですから、日本としてもそれを受け入れて問題を決着させる覚悟で。
場合によっては、国際法的に可能であれば、共同施政権者あるいは国連による信託統治という形でもかまわないのでは。

やはり尖閣の領有権を主張している台湾では国際司法裁判所に提訴という話も出ているようですが、国連に籍を持たない台湾ではそれも難しいのでは。
中国は勝算の少ない訴訟には今のところ言及はないようですが、日本側が“領土問題を認める”というところへ降りるということで、話の持っていきようでは中国の顔も立てながら裁判に委ねるというのは・・・・どうでしょうか。尖閣で裁判に持ち込むと、南沙諸島・西沙諸島にも波及するので難しいのでしょうかね・・・。

いつまでも政治的・経済的、あるいは軍事的チキンレースを続けるのは、犠牲・損失が大きくなるだけで意味があることには思えません。
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ミャンマー  抵抗はあるものの進展する変革の動き スー・チー氏訪米 民主化運動の象徴から政治家へ

2012-09-18 22:34:34 | ミャンマー

(11年12月2日 ヤンゴン 現実政治の世界を生きてきたクリントン米国務長官と理想を高く掲げて闘ってきたスー・チー氏 今年3月、クリントン長官はスー・チー氏について「政治の世界で求められるものと理想や夢との間でバランスを取るのは非常に難しい」とも語っています。 写真は“flickr”より By milkyroot http://www.flickr.com/photos/69232411@N03/6447877041/

【「改革に反対するものは誰であれ排除する」】
ミャンマーのテイン・セイン政権は、いわゆる民主化に向けた改革を継続しています。
その一環として、国民民主連盟(NLD)など民主化勢力が強く求めている政治犯を含む恩赦も継続して行われています。

****ミャンマー:政治犯含む受刑者514人に恩赦****
ミャンマー政府は17日、外国人を含む服役中の受刑者514人に恩赦を与え、釈放すると発表した。名前は発表されていない。最大野党、国民民主連盟(NLD)幹部によると、少なくとも政治犯45人が含まれているという。政治犯100人程度が含まれているとの見方もある。

昨年3月に発足したテイン・セイン政権は断続的に政治犯に恩赦を与えてきた。NLD党首のアウン・サン・スー・チー氏が17日から訪米を開始する直前に新たな恩赦を発表することで、民主化進展のアピールを狙った可能性もある。【9月17日 毎日】
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テイン・セイン大統領の改革への意思は信じていいようですが、当然ながら既得権益を守りたい層、軍政時代への逆行を望む保守層は存在しますので、改革を推進する大統領との確執はあります。

テイン・セイン大統領は8月末に内閣改造を行い、保守派を排除して改革への動きを確かななものにしようとしています。
今回改造は、5月初めに保守派の重鎮ティン・アウン・ミン・ウー副大統領が辞表を提出した時点で、すでにその大枠が予想されていたものです。

****ミャンマー内閣改造 改革加速へ足場固め 11閣僚が交代、保守派を排除****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は28日、前日に引き続き内閣改造を行った。昨年3月の政権発足以来、初となる内閣改造では、アウン・ミン鉄道相ら改革派の主要4閣僚を大統領府相に横滑りさせ足場を強化する一方、保守・強硬派のチョー・サン情報相兼文化相を事実上、更迭した。改革と民主化を加速する布陣となり、省再編を伴う第2弾の改造も予想される。

今回の内閣改造により、30閣僚のうち11閣僚が交代した。その主眼はずばり「改革派を重用し、保守・強硬派を背後に押しやる」(消息筋)ことにある。
これを象徴する人事がまず、大統領府相への改革派4閣僚の起用だ。アウン・ミン氏のほかソー・テイン工業相、フラ・トゥン財務・歳入相らが横滑りした。

アウン・ミン氏らは大統領の信任が厚い。中でも、同氏は少数民族の武装勢力との和平交渉を、ソー・テイン氏は外国投資誘致という重責を担っており、大統領の「右腕」とされる。
こうした懐刀を、大統領の補佐役ともいえる大統領府相に起用した狙いについて、大統領顧問のココ・フライン氏は「改革の第2波へ向け、大統領の立場と、変革に伴い膨大な仕事を抱えている大統領府を、強化するものだ」と説明する。

次に、大統領は保守・強硬派にメスを入れ、チョー・サン氏を影響力が小さい協同組合相に「左遷」した。ティン・サン氏もホテル・観光相の兼務を解かれ、スポーツ相のみとなった。アウン・チー新情報相は改革派と目されている。
チョー・サン氏を閣外に排除しなかったのは「同氏はタン・シュエ前国家平和発展評議会議長に近く、改造による不協和音を最小限に抑えるため」(消息筋)との見方もある。また、28日にはゾー・ミン第1電力相、キン・マウン・ミン建設相の辞任が発表された。

大統領は今回、新たに15人の副大臣も起用した。経済アナリストや4人の女性などが含まれ、民間人を重用した点が特徴だ。
大統領は「改革に反対するものは誰であれ排除する」と述べていた。それを今回の改造で実行に移したわけだが、改造に伴い鉄道、財務・歳入相など10閣僚が空席だ。
このため大統領は追加的な内閣改造を実施し、行政の効率化を図る観点から、第1、2電力省の統合など、省の再編・統廃合を伴う可能性もある。【8月29日 産経】
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改革の実態は今後の運用次第
最近の変革としては、8月28日ブログ「ミャンマー 制裁緩和で勢いづく経済開発 急増する外国企業進出 民主化との調和が必要」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120828)でも取り上げたように、経済面では二重管理為替レートが廃止されて管理変動相場制が導入され、海外企業のミャンマー進出を加速させることが期待されています。

新外国投資法も成立しました。
****ミャンマー、外資参入を緩和 投資法を改正****
外資参入の規制が多いとして批判が出ていたミャンマーの外国投資法案が7日、連邦議会(上下両院で構成)で可決された。地元企業に配慮した参入制限に変わりはないものの、上院の審議で一部を見直した結果、規制色をやや薄めた内容になった。
新投資法は、憲法の規定で大統領が署名した後、現行の投資法に代わって施行される。

現地からの情報によると、外資参入を制限する分野として、地元中小企業が携わる業種や農漁業や畜産業などを明記している点に変更はなかったものの、投資委員会の許可があれば可能との条件が加わった。【9月7日 朝日】
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この外国投資法に関しては、地元中小企業が携わる業種や農漁業や畜産業への参入規制や、国家プロジェクトなどの大型案件については、最低資本を500万ドル(約4億円)に設定し、国会での承認を義務づけ、ミャンマー側の合弁相手は過半数の出資が求められるなど、非常に厳しい内容で、“日系企業からは「これでは投資阻止法だ。せっかくの投資熱は一気に冷めてしまう」(在ヤンゴンの日本人経営者)との懸念の声が上がる”【8月29日 朝日】とも指摘されていました。

“6月末から7月にかけ、下院議長らによる地元産業界のヒアリングが4回開かれ、労働者や地元企業の保護を理由に外資を規制する意見が相次いだ。政府案にない修正が数十カ所加えられ、下院を通過した” 【8月29日 朝日】というのは、ある意味、民主主義が正常に機能しているということではないか・・・とも思っていたのですが、法案審議が難航した原因は、建前上は国内企業保護と言いながら、本音では既得権益を守るため外国企業の進出を規制しようとする政治家と癒着した政商らによるロビー活動だったとも報じられています。【9月19日号 Newsweek日本版より】
規制色はやや薄まったとのことで、今後の運用次第というところでしょうか。

また、政治面では全出版物の事前検閲を廃止しました。ただし、完全自由化ではなく、情報省の報道検閲登録局(PSRD)による事後検閲は残っています。

“情報省報道検閲登録局のティン・スウエ局長は先月、報道機関に対する事前検閲を廃止すると発表した。ただし検閲制度が完全になくなるわけではなく、事後検閲は残る。事実ティン・スウエは、国や政府を批判する記事は今後も掲載すべきではないとの見解をあらためて示した。出版禁止措置やジャーナリストの逮捕などの根拠になってきた、印刷出版登録法や電子通信法も残されたままだ。”【9月19日号 Newsweek日本版】
これも今後の運用次第といったところです。

【「政治の世界で求められるものと理想や夢との間でバランスを取るのは非常に難しい」】
最近のミャンマー情勢に関する報道では、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー氏の名前を聞く機会が少ないようにも思いますが、そのスー・チー氏が現在アメリカを訪問しており、オバマ大統領との会談も行われると見られています。

****スー・チー氏、米訪問をスタート ミャンマーでは受刑者514人釈放へ****
ミャンマーの民主化運動指導者で最大野党・国民民主連盟(NLD)党首のアウン・サン・スー・チー氏は17日、米ワシントンD.C.に到着し、自宅軟禁中には生涯、不可能とも思われていた米国訪問の日程を開始した。

ノーベル平和賞受賞者であり、2010年までの約20年間のほとんどを自宅軟禁に置かれるという苦難を乗り越えたスー・チー氏には、訪問先での温かい歓迎が予想される。
18日間の米国滞在中に、スー・チー氏が出席する予定の行事は100件近くに上る。

18日にはヒラリー・クリントン国務長官と会談し、翌19日には米議会を訪れ、同議会の勲章としては最も権威ある「議会名誉黄金勲章」を授与される予定だ。
バラク・オバマ大統領も、大統領選の遊説を一時切り上げてスー・チー氏と会談するとみられているが、ホワイトハウスからの発表はまだない。

一方、ミャンマー政府は17日、スー・チー氏の米国訪問や次週のテイン・セイン大統領の訪米にあわせたかのように、民主化改革を示す政策の一環として、さらに受刑者514人の釈放を発表した。ミャンマーの民主化団体「Generation 88(88年世代)」によると、このうち少なくとも15人が政治犯だという。【9月18日 AFP】
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テイン・セイン大統領も次週訪米するようですが、スー・チー氏が5月末に行ったタイ訪問では、旅程について事前に政府の了解をとっていなかったことや、現地での発言内容等で、同時期タイを訪問する予定にしていながら訪問をキャンセルしたテイン・セイン大統領との信頼関係にひびが入ったのでは・・・とも憶測されました。
そのあたりの調整は今回は大丈夫なのでしょうか?

スー・チー氏は、かねてより欧米の経済制裁解除には慎重な姿勢で、先のタイ訪問時も世界経済フォーラム東アジア会議で、ミャンマーの基盤整備の不備、気まぐれな若年層、劣悪な教育レベル、依然影響力を維持する軍部――など障害を列挙して、「対ミャンマー投資には用心が必要」と警告しています。【6月12日 読売より】
テイン・セイン大統領の意向とは異なるものがあります。

政権側は、スー・チー氏を外資呼び込みのための民主化進展を示す“広告塔”にしたい思惑があるのは間違いないところですが、スー・チー氏の側も、現実問題としてはテイン・セイン大統領の協力なしには改革は実行できません。両者が連携が必要とされています。

そのことは、野党リーダーとして現実政治の世界で活動し、形ある成果を実現するためには、自宅軟禁されていた民主化運動指導者としての発言・行動とは異なるものが要求される・・・ということにもなります。
ミャンマー西部で問題となっているロヒンギャ族と仏教徒の衝突で、スー・チー氏から人権擁護の積極的な発言がないことへ失望・批判もありますが、それは現実政治世界を生きるうえでの制約からでしょうか。

****沈黙するスー・チーに国際社会は失望****
人権問題の象徴的リーダーが少数民族の迫害に□をつぐむ事情とは  

ビルマ(ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーが今月、アメリカを訪れる。彼女は今、久々に会う盟友ヒラリー・クリントン米国務長官から「ほら、私が言ったとおりでしょう」と言われてもおかしくない状況に置かれている。

この3月、クリントンはニューョークで聞かれた世界女性サミットの席上、民主化運動の象徴から政治家へと転身したスー・チーについて、「政治の世界で求められるものと理想や夢との間でバランスを取るのは非常に難しい」と語っていた。

スー・チーーは4月の連邦議会の補欠選挙で当選。だが約2ヵ月後に起きた少数民族をめぐる人権問題が、その輝きに影を落としている。
ビルマ西部ラカイン州で6月、この地と隣国バングラデシュにまたがって暮らすイスラム教徒の少数民族ロヒンギャ族(ビルマ内の人口は80万人)と、多数派の仏教徒との間で衝突が起きた。70人以上が死亡し、5万人以上が家を失う事態となり、事件は国際的な注目を集めた。ちなみに国連はロヒンギャ族を、世界で最も深刻な迫害を受けて いる民族の1つに認定している。

ビルマには130を超える少民族かおり、その多くが国家による迫害の犠牲となってきた。なかでもロヒンギヤ族への迫害は他民族とは別格なほどひどく、国籍を認められない上に移動や結婚、3人以上の子供を持つ場合にも当局の許可が必要だ。

人権問題において非常に大きな影響力を持つスー・チーが立ち上がることを期待する人がいたとしても無理はない。6月に訪英したスー・チーに対し、ウィリアム・ヘイグ英外相はロヒンギャ族と多数派ビルマ族との和解に向けて積極的な役割を果たすよう求めた。だがスー・チーは沈黙を続けてきた。

8月には、ある英閣僚がインディペンデント紙に対し、「彼女が道義的なリーダーシップを取ってくれるものと期待したのに、この問題について何も発言しない」と失望感をあらわにした。
一方でこの閣僚は、「ロヒンギャに協力的な立場を取るのは政治的に難しいのかもしれない」と述べ、彼女の状況に一定の理解も示した。ビルマ政界において、スー・チーは困難な綱渡りを強いられているからだ。

軍関係者が仕掛けた「翼」
彼女は今、連邦議会において野党勢力の事実上のりリーダーとなっている。野党の目標は軍政下で起草された憲法の改正だ。15年に予定される次の総選挙では、順当にいけばスー・チー率いる国民民主連盟(NLD)が地滑り的勝利を収めるはずだ。

だがそれも、スー・チーが圧倒的支持を維持できればの話。ビルマの政治評論家マウン・ザルニはこう指摘する。「(ロヒンギャ問題で)発言しても、スー・チーにとって政治的に得るものはない。15年の選挙で多数派の仏教徒の票を獲得するというはっきりした目標もある」

6月の事件はスーチーの欧州訪問の直前に起きた。つまり、彼女を敵視する軍関係者が仕掛けた「罠」の可能性もあるのだ。
スウェーデンのジャーナリスト、ベルティル・リントナーは「事件は明らかに仕組まれたものだ。政府は、国民の支持がスー・チーに集まるのを恐れている。だから公の場でロヒンギャ族寄りの発言をせざるを得ない立場に、彼女を追い込んだ。そうなれば、仏教徒の支持を失いかねないからだ」と述べている。「一方でスー・チーが沈黙を守れば、人権問題における彼女の断固たる姿勢を支持している人たちを失望させるだろう」

国際社会を失望させたのは間違いない。だがはっきりした目標を持つスー・チーには、それを乗り越える力があるはずだ。【9月19日号 Newsweek日本版】
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ロヒンギャ族の問題を“軍関係者が仕掛けた「翼」”とするのは、いささか“陰謀説”に過ぎるような感もありますが、ヒラリー・クリントンの言うように、「政治の世界で求められるものと理想や夢との間でバランスを取るのは非常に難しい」というのは確かです。
野党勢力リーダーとしてスー・チー氏が国内外でどのような活動を行うのか、注目されます。
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タイ  再び広がる洪水 インラック首相、1年目の評価は・・・

2012-09-17 21:48:29 | 東南アジア

(スコータイ市の洪水被害を視察するインラック首相(中央女性) 今年は逞しさも・・・。【9月13日 newsclip.be】(http://www.newsclip.be/news/2012913_035685.html)より)

インラック首相、今年の洪水対策に自信
タイでは昨年10月から11月にかけて、首都バンコクを含む広範囲で洪水に見舞われ、多くの日本企業もその被害を被ったことは、まだ記憶に新しいところです。
そのタイで、今年もまた洪水のニュースが報じられています。

****タイ北部と中部 洪水被害が拡大***
昨年、大規模な洪水被害に見舞われたタイでは、今月に入り大雨による洪水が、北部と中部を中心に再び発生している。被害は17県に拡大し、古都スコタイ県では7割が水に漬かり、政府は対応に追われている。

洪水は北部ナコンサワン県、中部アユタヤ県、東部サケオ県などに広がり、少なくとも4万3000世帯が被災し、4人が死亡している。スコタイ県ではヨム川が氾濫して複数の堤防が決壊し、中心部に水が流れ込んだ。多くの日系企業の工場があるアユタヤ県では、5500世帯が浸水し、県庁舎なども被害を受け、一部の郡が洪水災害地域に指定された。

こうした事態を受け、インラック首相は13日、両県などを視察し、救援・復旧作業に全力を挙げる方針を表明した。首相は「運河や川の水量は昨年より低く、水を管理できる」と自信を示している。【9月17日 産経】
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インラック首相は周知のように、ここ数年のタイ政治混乱の原因ともなっているタクシン元首相の妹さんです。
海外亡命中の兄に代わって、急遽政治の世界に飛び込み、政治に関しては全くの素人ながらその愛らしさでブームを巻き起こし、タクシン派を選挙で勝利に導き首相に就任しました。

昨年は、そうした首相就任直後に襲った大洪水ということで、いささか不運とも言える状況のなかで、その指導力について辛口の評価もあり、また、本人も大分混乱した様子でした。

****タイ洪水:都知事、首相の「楽観」批判 対策でも政争****
・・・・インラック首相は午後2時半ごろ、いつものパンツスーツ、パンプス姿でプラナコン地区の堤防に現れた。前夜の浸水でぬかるみになった場所が残っていたが、軍が事前に厚い板を敷き、首相が歩く範囲は乾いていた。

軍による堤防設置状況などの説明に首相は笑顔を見せながら、「状況は昨日よりよくなっているようだ」と楽観的に語り、足早に立ち去った。視察場所からわずか200メートル離れた川沿いの商店街がすでにくるぶしまで水浸しになっていたことには、気づいていない様子だった。その姿は、25日夜の緊急テレビ演説で警告した同じ人物とは思えなかった。(後略)【11年10月26日】
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****タイ洪水手詰まり、声震え涙目のインラック首相****
タイの首都バンコクの全域が冠水する危険が高まる中、インラック政権の対策は手詰まりの様相を呈している。
政府の対策本部があるドンムアン空港では27日、洪水で建物の一部が停電し、本部自体が孤立する恐れも出てきた。政権の見通しの甘さや後手に回る対応に、市民や被災した日系企業などは批判を強めている。

インラック首相は27日、記者団に「大量の水を海に至急流すことと、早期の復興計画作りが必要だ」と一般的な方針を述べた。声は震え、目にうっすらと涙がにじむ。記者団に泣いているのかと聞かれ、「泣いていないし、これからも泣かない」と反論したが、国民には、未曽有の危機に対処できる指導者の姿には映らなかった。【11年10月27日 読売】
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しかし、涙をにじませませながらの頑張りもあって、国民的人気は未だ衰えていないと聞きます。
今年は洪水対策も2年目ですから“自信”もついたのでしょうか。
今年は、ジャブジャブと膝まで水のつかっての現地視察も行っています。

****インラク首相、洪水被災地を視察****
インラク首相は13日、中部アユタヤ県と北部スコータイ県、ナコンサワン県の洪水被災地をヘリコプターや徒歩で視察し、被災者に救援物資を手渡すなどした。
首相が視察で訪れたアユタヤ県の学校は1階が浸水し、2階で授業を行っていた。スコータイ市では9日に決壊したヨム川の堤防の復旧工事の状況を視察した。(後略)【9月13日 newsclip.be】
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もちろん自然相手の話ですので、バンコク近隣について再度洪水に襲われる危険があるとの警告も出しています。

****バンコク近隣2県、洪水に襲われる恐れも****
インラック首相は9月12日、政府は洪水対策に力を入れているものの、集中豪雨で河川の水量が急激に増加した場合、バンコクに隣接するノンタブリ、パトゥムタニ両県の一部が昨年のような深刻な洪水に見舞われる恐れがあるとの見方を示した。

バンコクについては、西側、東側とも排水能力が昨年に比べて向上しており、深刻な洪水が発生する可能性は低いという。
ただ、洪水防止には迅速な対応が欠かせないとして、インラック首相は、川岸の住民に対し、異変を感じたらすぐに当局に連絡してほしいと呼びかけている。【9月13日 バンコク週報】
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毎年洪水に見舞われるなら、いっそのこと「水陸両用住宅」を作れば・・・という話もあるようです。
水上生活者というのはベトナム、カンボジアでもよく目にします。
タイの川岸で見かける「水とともに暮らす」人々の様子からすれば、「水陸両用住宅」というのは現地事情によく適合したアイデアかも。

****洪水対策の切り札? 水に浮かぶ「水陸両用住宅」、タイで開発中****
タイ中部のアユタヤ県で、洪水になると浮かぶ「水陸両用住宅」の開発が進められている。2階建てのプレハブ住宅で、販売価格150万バーツを想定。タイ住宅公社が民間企業に設計を委託し、年内にプロトタイプが完成する見通しだという。

タイでは毎年のように大規模な洪水が発生している。特に昨年は中部の工業団地やバンコク都内のかなりの部分が1カ月以上水没し、大きな被害が出た。【9月13日 newsclip.be】
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【“何とか無事に過ごした一年”】
インラック首相の評価に関しては、先述のように厳しい見方もありますが、「まあ、いいか・・・」と許してしまいたくなるところは、そのルックス・イメージによる恩恵でしょうか。

タイへの日本企業進出のコンサルタントをされている辻本 浩一郎氏の評価は“何とか無事に過ごした一年”というものですが、実兄タクシン元首相の処遇に対して、今後どの様なリーダーシップを発揮するのかという点が指摘されています。

****インラック首相就任から1年、タイ国内での評価はいかに!?****
インラック政権が誕生してから1年が経過した。実兄タクシン氏の操り人形と揶揄されながらも、その端正な美貌で総選挙に勝利を収め、インラック旋風を巻き起こした。

しかし、国会の答弁で数字を読み間違えたり、固有名詞を間違えたりして物議を醸し、読む本は女性雑誌のみ…、何よりも喋らぬ事が重要とまで言われたが、次第に間違いも少なくなり、海外よりの要人とも無難に対応し、外交でもその容姿端麗を武器に、何とか無事に過ごした一年と感じている。

就任早々の昨年10月に大洪水に見舞われたことは不幸ではあったが、経験のない彼女の対応に大いなる非難を受けながらも、その涙を流しながらインタビューに答える姿で何とか難局を乗り切った。女性の涙とは恐ろしいものである…。

与党の取り巻き連中は何とか総帥タクシン氏の帰国を実現しようと、司法や世論を敵に回し、憲法改正までして実現しようと画策して大問題となったが、この間インラック首相は何も発言をせず、沈黙を守った事は評価したい。

さしたる成果が無かったとの批判はされているが、彼女自身の運もあるのか、目下は日本からの進出や拡張が絶好調で、日本民主党の大失策の数々のお蔭で(?)タイ国内の失業率は0%となり、どちらかというと“何もする必要性が無かった”といった方が良いのではないかと思う。

最近では、最低賃金を公約通り300バーツに上げた事も影響してか、物価の上昇が目立って来ている。世論調査でも、改善すべき点の87%が物価高への対応と答えている。

首相の見た目の良さと、頑張っている姿勢が国民からは評価されているが、今後は首相の取り巻きからしつこく出てくるであろうタクシン氏帰国問題、実兄の処遇に対してどの様なリーダーシップを発揮するのかという点に注目したい。

因みに、米国雑誌フォーブスが選ぶ「世界で最もパワフルな女性100人」の中で、第30位にインラック首相がランクインした。1位は独のメルケル首相、2位が米のクリントン国務長官、19位にはミャンマーのスー・チー氏、日本人女性は残念ながらゼロであった。【9月10日 thai plusone 辻本 浩一郎】(http://thai-plusone.asia/column/ma20120910/
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インラック首相も2年、3年と経過して首相としての自信をつければ、何も無理して兄に帰ってきてもらわなくても・・・と思うようになるかも・・・。

【「大衆迎合政策」への批判も
もうちょっと厳しい評価もあります。

****タイ経済に減速の兆し 政権の「大衆迎合政策」が原因****
好調に見えるタイ経済に、インラック政権の「大衆迎合政策」がブレーキを掛けそうになっている。実際、八月に入り、タイ中央銀行が今年度以降の国内総生産(GDP)成長見通しを下方修正し、貿易や各種指標も悪化している。

政府系のタイ開発研究所は、この原因について、政権による大衆迎合政策を指摘し、「このままでは、十年後に大惨事になる可能性がある」と警告。「ギリシャのようになる」と指摘する研究者もいる。

インラック政権は昨年来、最低賃金引き上げ、公務員給与引き上げ、国産車購入への補助、農家へのコメ担保融資制度などの政策を新設、あるいは拡充・継続してきた。
その結果、最低賃金引き上げによる、外資企業の近隣諸国への移転を招き、コメ担保融資では価格低迷による「迷ザヤ」が発生し、国庫による穴埋めが取り沙汰されている。

今年上半期のタイヘの国別投資申請を見ると、過半を日本企業が占める。同国経済の減速は日本とも無縁ではない。【「選択」9月号】
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政府がコメを高値で買い取るインラック政権のコメ農家保護政策の失敗については、下記のようにも報じられています。
“タイ産米の価格を高めることで国際市場全体の相場上昇を期待していた”とのことですが、競合国が存在するなかで、タイにそこまでの価格形成力があるという発想は理解に苦しむところです。かつての石油メジャーなど、よく巨大企業が価格をコントロールしている・・・と言われますが、独占企業で、新規参入を阻止できるような立場になければ、市場を無視した価格形成はできません。

****タイ:コメ輸出世界一から転落 政策による価格高騰が影響****
タイのコメ輸出量が今年に入って半減し、約30年ぶりに「世界最大のコメ輸出国」の座から転落する見通しとなった。政府がコメを高値で買い取るインラック政権の政策によりタイ産米の市場価格が高止まりし、国際競争力が低下したためだ。
政権の支持母体である農民に対する“人気取り”が、かえってコメ産業全体を衰退させかねない事態を招いており、国内では批判の声が高まっている。

タイは80年代以降、コメ輸出市場のシェアで首位を維持してきた。しかし地元紙によると、今年前半のタイ産米の輸出価格は1トンあたり671ドル(約5万2000円)に高騰。インドやベトナム産に比べて3割近く高く、国際市場における売れ行きが伸び悩んでいる。

今年7月までの輸出量は約360万トンに留まり、すでに前年比で約45%減少している。タイ・コメ輸出協会は、通年の輸出量は最終的に前年の4割減、650万トンにまで落ち込み、後続のインドやベトナムに追い抜かれるとの見通しを示した。

価格高騰の原因は、昨年7月の総選挙で誕生したインラック政権による農家保護政策だ。市場価格の1.5倍で政府が買い取ることで、農村地域の支持基盤強化を狙った。だがその結果、タイ産米の価格は前年比で19%上昇し、「この政策が続けばタイ産米が海外で売れなくなり、結果的に農家も崩壊する」(コメ輸出協会幹部)との懸念が高まっている。政府はコメを無条件で買い取るため、あえて低品質のコメを作付けする農家も出始めているという。

タイ政府は当初、タイ産米の価格を高めることで国際市場全体の相場上昇を期待していたとされる。ところが他国産のコメの品質向上やインド産米の輸出解禁などでもくろみが外れ、現在、政府が抱えるコメの備蓄は約1600万トンにものぼる。コメの買い取り政策には既に約80億ドル(約6300億円)の予算が費やされており、野党からは、インラック政権の「失政」を批判する声が強まっている。【8月10日 毎日】
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最低賃金引き上げについては、前出の辻本 浩一郎氏は次のように評しています。

****タイ最低賃金引き上げのその後****
4月から引き上げられた最低賃金であるが、その後、5,000件を越える苦情が労働局に提出されている事が伝えられた。労働局がこの問題に対処しない事についても苦情が殺到している。

約半数は、未だに賃金が上げられていないとするもので、次に多いのが、賃金は上げられたが、逆に福利厚生費が削減されたり、労働条件が悪化したというものである。

勤務年数の長い従業員からは、最低賃金の上昇に併せ、自分達も昇給させろとの要求が出されているが、経営者は、これを逆手に取って、これ等高齢者を解雇し、若い低賃金の人材を採用するケースが増加した事に不満が募っている。

最低賃金引き上げは、労働者の家計を改善し、労働者を幸せにする事を目論んだものであるが、実際にどれだけの労働者が幸せになったか、疑問を呈する状況に成っている。【8月20日 thai plusone 辻本 浩一郎】(http://thai-plusone.asia/column/ma20120820/
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もっとも、農家保護政策にしろ、最低賃金引き上げしろ、そうしたバラマキ政策はインラック首相個人と言うよりは、タクシン元首相及びその支持勢力の政策の特徴でもあります。

【「タクシン氏は私が尊敬する先輩」】
では、そのタクシン元首相の帰国を可能にするような動きはどうなっているのか・・・という話になりますが、“ある期間の政治犯を全て無罪とする”という趣旨の憲法改正によって元首相の帰国を可能にしようという国民和解法案の審議は、違憲訴訟や野党・反タクシン派市民勢力の反対もあって、遅れているようです。
そんななかで、“面白い”記事がありました。

****タイ:逃亡中のタクシン元首相、警察トップと蜜月****
汚職罪で有罪判決を受け海外逃亡中のタイのタクシン元首相が、滞在先の香港でタイ首都圏警察長官の新任を祝う写真がタイの地元紙に掲載され、「“犯罪者”と警察の癒着だ」と批判の声が上がっている。

写真では、タクシン氏がカムロンウイット首都圏警察長官に階級章を授与するポーズを取っている。日付は6月29日で、カムロンウイット氏の長官就任が決まった直後にあたる。写真の左下には昇進を祝うタクシン氏のメッセージが記されている。

カムロンウイット氏は、タクシン氏が滞在する香港を訪れて面談したことを認めたうえで「(警察官僚出身の)タクシン氏は私が尊敬する先輩であり、悪いことだとは思っていない」と主張。しかし、反タクシン派からは「タクシン氏が警察人事に介入したのではないか」などと批判が上がっている。【9月8日 毎日】
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拡大・過激化する反米・反日デモ

2012-09-16 22:19:07 | 中国
日中韓の名目GDP(USドル)の推移(1980~2012年) - 世界経済のネタ帳

デモが要求を実現するための免罪符になると考えるような風潮
イスラム教の預言者ムハンマドを冒涜したとされるアメリカ映画を巡るイスラム世界各地における反米抗議デモは、特にアラブ各国では、アメリカ公館などへの襲撃といった過激な様相を見せています。
従来の強権支配体制が「アラブの春」で崩壊した後のイスラム主義の台頭、抗議行動への当局側の対応の変化、更に政変後も改善しない生活苦への不満・・・そうした事情を反映した現象と見られます。

****反米デモ:アラブ社会での「過激化」が目立つ****
イスラム教の預言者ムハンマドを侮辱的に描いた米映画を巡る抗議は14日、世界各地のイスラム諸国に拡大したが、とりわけアラブ社会での「過激化」が目立つ。

背景には昨年の民主化要求運動「アラブの春」で強権・独裁体制が崩れ、長らく「テロの温床」になりかねないと抑え込まれてきた宗教意識の高まりがある。政変後もいっこうに改善しない社会生活への不満ともあいまって、怒りのエネルギーが噴出しているようだ。

一連の抗議で米公館などが襲撃されたのはエジプト、リビア、イエメン、スーダン、チュニジア。このうちスーダン以外は「アラブの春」による政変を経験し、独裁体制の維持や欧米による「テロとの戦い」に協力する名目で長年、イスラム思想の台頭を抑圧してきた国々だ。

05年にデンマーク紙が預言者ムハンマドを冒とくする風刺画を掲載し、イスラム圏に抗議の嵐が吹き荒れた際は、パキスタンのデンマーク大使館で自爆テロが発生するなどしたが、「アラブの春」の国々では外国公館が襲われる事態にまで発展することはなかった。

今回のデモで最初に米公館が襲撃されたエジプトの主要紙「アルアハラム」のアムル・ヤヒヤ編集幹部によれば「以前は警備が厳重で、デモ隊は公館に近づけなかった」。当時の親米欧のムバラク政権は風刺画に「沈黙」を守ったという。
だが今回、米映画について、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団出身のモルシ大統領は「預言者の侮辱を許さない」と明確に非難した。ムバラク前政権下で厳しく弾圧された「サラフィ」と呼ばれるイスラム厳格派の姿も目立った。

最近、カイロでは「タハリール広場に行くぞ」が、社会に不満を抱える人々の「合言葉」にさえなっている。広場はカイロ中心部にあり、ムバラク前政権打倒のうねりを起こしたデモの「聖地」だ。
一方、4人の死者が出たイエメンの地元通信社「マレブ・プレス」のアハマド・アヤイエド編集主幹も同様の傾向を指摘し、「サラフィに限らず、あらゆる階層の人がデモで不満をぶつけている」と解説している。

カイロ・アメリカン大学のノハ・バクル准教授は「(アラブの春の)革命後、デモが要求を実現するための免罪符になると考えるような風潮が生まれている」と分析した。【9月15日 毎日】
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警察は反イスラム的な行動を取ることを恐れている
イスラム主義強硬派の過激な行動を助長している要因に、“宗教勢力の政治力が高まってきており、警察は反イスラム的な行動を取ることを恐れている”【下記WSJ記事】という治安当局の姿勢が指摘されています。

****アラブの春」でイスラム強硬派が増長―治安当局、取り締まりに二の足****
リビアとエジプトの米公館襲撃は、イスラム主義の強硬派の取り締まりに二の足を踏む治安当局の実態を浮き彫りにした。

民主化運動でアラブ世界を一変させたチュニジア、エジプト、リビアで、かつては秘密結社だったサラフ主義が、政治の世界に躍り出た。イスラム超保守派のサラフ主義者の多くが公職選挙に立候補する一方、組織に属さないさまざまグループが、彼らが「背徳者」と考える人々をどう喝したり、時には暴力をふるう事件を起こしている。

これら3カ国のリベラル派にとって最も心配なのは、こうしたサラフ主義者が何のおとがめもなく行動しているようだということだ。
世俗派の活動家は、サラフ主義者に対する警察の取り締まりについて、いつも現場への到着が遅く、ほとんど逮捕せず、過激な宗教集団との衝突を避けようとしていると不満を口にする。世俗派によれば、宗教勢力の政治力が高まってきており、警察は反イスラム的な行動を取ることを恐れているという。

11日夜にエジプト・カイロの米大使館周辺で起きた騒ぎでは、数百人の警官隊は一握りのデモ隊が大使館の壁によじ登るのを阻止できなかった。またデモ隊が壁の上でイスラム主義の旗を振りかざすのを傍観していた。
リビア・ベンガジの米領事館では、数百人に上る武装した暴徒がわずかなリビア治安部隊を圧倒した。暴徒のうちの何人かは、イスラム原理主義のアンサル・アル・シャリアのメンバーを名乗っていた。この領事館襲撃事件では、逮捕者は出ていない。

ニューヨークに拠点を置く人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのチュニジア専門研究員であるアムナ・グエラリ氏は「国家権力の弱体化を示している」と指摘。リビア、エジプトの両国治安当局は、弱さ、恐れ、共謀といった要因がない交ぜになって行動を起こさなかったのだと分析する。両国のほかチュニジアでは、民主化運動に伴う混乱で治安部隊は崩壊状態となっている。

治安当局がイスラム主義勢力に対し軟弱な理由として、反発を恐れていることもありそうだ。英エクセター大学中東プログラムのイマール・アショール部長は「これらの国では治安当局はイスラム主義者と闘う組織だったが、今では治安部隊に弾圧された人々が権力を掌握したか、掌握しようとしている。したがって、警察など治安当局は弾圧をためらっている」と分析する。

リビアでは、この1カ月間サラフ主義者がイスラムへの冒涜とみている歴史的な神殿のいくつかを破壊し、サラフ主義に反する聖人の墓を解体している。リビア当局は、こうした行為を非難しているが、逮捕者は出ていない。
チュニジアでは、警棒を持ったサラフ主義の若者が浜辺や美術館、劇場などを巡回し、不適切と思う行為を取り締まっており、警察は黙認している。
エジプトでは、2011年2月のムバラク大統領追放以降、イスラム教とキリスト教の宗派対立が激化している背景にサラフ主義者がいると、多くの識者が批判している。【9月 13日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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【「あなた方の愛国の熱情は伝わった」】
一方、目下日本にとって最大の関心事は中国で吹き荒れる反日デモの嵐です。
状況は新聞各紙・TV等で連日詳細に報じられていますので省略しますが、日本に関連する商店・レストラン・企業などが破壊・略奪にあったり、在留邦人が嫌がらせ・暴行を受けたりと、一気に状況はエスカレートしています。
抗議デモは中国各地に拡大し、参加者数でみると、小泉内閣時代の靖国神社参拝問題などを受けた05年4月のデモを超え、日中国交正常化(1972年)以来最悪に状況になっています。
日中国交正常化40年をかけて培ってきた交流事業も相次いでストップしており、非常に残念なことです。

イスラムの反米デモのきっかけがムハンマド冒涜映画であったのに対し、中国の反日デモのきっかけは尖閣諸島への中国側、その後の日本側の上陸、東京都の買取を回避するために取られた国有化の措置という一連の領土問題です。

根底にあるのは、イスラム社会では、イラク・アフガニスタンなどイスラム国家を標的にした戦闘やビンラディンなどのイスラム過激派殺害を続け、結果としてイスラムに敵対するような立場にも見られがちなアメリカに対する嫌悪・不信感があります。

中国においては、当然ながら先の戦争の傷をひきずる反日感情があります。友好関係を築こうとしてきた日本からすれば、中国・韓国で消えることのない反日感情には困惑もし、疲労感も感じます。
ただ、侵略された側と侵略した側では、その傷に対する思いは異なります。“された側”は愛国教育でその過去を反芻するのに対し、“した側”では過去の行為への批判・反省を“自虐史観”として退け、過去を消し去る方向へと進むといったことで、両者の溝は次第に深まる傾向にもあります。

中国国内にも暴徒化することへの批判もあるようですが、今のところは少数派で、“反日”=“愛国”という状況です。

***ネット上、デモ画像拡散 「ならず者」批判の書き込みも****
15日、中国全土で起こった反日デモの画像が中国のインターネット上に出回っている。
中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」では、山東省青島市で「イオン黄島店」がデモ隊に囲まれ、ガラスを割られる写真や、近くの日系企業のものと見られる工場から黒煙が上がる様子、湖南省長沙市の日系デパート「平和堂・五一広場店」が煙に包まれる写真などがアップされている。

暴徒化したデモ隊について「愛国者でなく『ならず者』」「すでに反日ではなく、ただ社会への不満をはき出しているだけ」と非難する書き込みがある一方、デモの参加を呼びかける書き込みも見られた。 【9月16日 朝日】
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反米・反日の直接的要因以外に、生活苦や経済格差、不正・腐敗の横行する社会への国民の不満が鬱積していることも、イスラム社会・中国も共通しています。

治安当局にとって、イスラム世界で宗教的抗議行動を抑制することが困難なように、中国においては“反日”を掲げた“愛国的行動”を抑制することは批判の矛先が政権側に向きかねない危険がりますので、対応も融和的となりがちです。

広東省の省都・広州市では16日、約1万人の反日デモ隊が一時、日本総領事館が入居する大型高級ホテル「花園酒店」を包囲、デモ参加者の一部は暴徒化し、ホテル1階の商店や2階の日本料理店のガラスなどを破壊しました。
デモ隊の領事館突入を阻止した警官隊は周囲を封鎖し、拡声器で「あなた方の愛国の熱情は伝わった」と呼び掛け、デモ参加者を徐々に解散させた・・・とのことです。【9月16日 時事より】

中国の場合、秋の党大会での権力移譲を控えて、熾烈な権力闘争が行われている時期ですから、日本への弱腰批判はどうしても避けたい事情もあります。

****反日デモ 「弱腰」批判恐れ容認 日本の政権交代も意識****
中国各地で発生した反日デモは、中国政府が容認した上で行われた。警察当局は大量の人員を配置して不測の事態を警戒したにもかかわらず、デモ隊が暴徒化し警察隊と衝突する場面が多くみられた。言論や集会の自由を制限されている民衆が、反日を口実に一気に不満を爆発させた形だ。

中国当局がデモを容認した背景には複数の原因がある。まずは、胡錦濤国家主席が野田佳彦首相とロシアでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で会談した直後に、日本政府の国有化決定が明らかになった点だ。中国国内の保守派が「弱腰外交のツケだ」と胡政権の外交政策を批判、メンツがつぶされる事態を招いた。

さらに、国有化を受けて温家宝首相と李克強副首相が対日強硬発言をしたことが注目される。胡主席を含めたこの3人は中国政府内で「対日協調派」と目されていたからだ。共産党筋は「保守派の批判の矛先をかわすために、あのような発言をしなければならない状況だった」と説明した。

また、野田政権は尖閣の施設整備などを行わない方針を示しているが、日本では近く政権が交代する可能性があり、次の政権の対応は不透明だ。中国政府は今回、激しい反応を示すことで、次期政権を牽制(けんせい)する狙いもあるとみられる。

中国共産党内部では、5年に1度の党大会を1カ月後に控えて権力闘争が激化している。民衆の不満を外に向けさせ、ガス抜きを図る思惑もありそうだ。ただ、放置すればデモが暴走して統制不能に陥る可能性もある。デモの規模拡大で、中国当局の出方が大きな焦点となってきた。【9月16日 産経】
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ウラジオストクで開催されたAPEC首脳会議に合わせて9月9日に行われた胡錦濤国家主席と野田首相の“交談”で、胡錦濤主席は尖閣諸島国有化へのかなり強い批判を行っていますが、その発言内容の扱いが中国国内メディアで二転三転するあたりにも、中国側の微妙な事情が窺われます。
“国営新華社通信は9日午後0時26分、胡主席が野田首相に伝えた具体的な発言を報じたが、その25分後に具体的な発言を削除し、「現在の中日関係や釣魚島問題に関して中国の立場を表明した」とだけ伝えるよう記事が差し替えられた。ところが、同日夜になって、最初の発言に「中国側と共に」と挿入した具体的な発言内容を再び伝えるなど、権威ある最高指導者の発言としては異例の混乱した対応となった。”【9月10日 時事】

ジレンマ
ただ、昨日も触れたように、エジプト・モルシ政権も宗教的抗議行動に共感も示しながらも、現実問題としてアメリカとの関係を重視せざるを得ず、また国内の宗教対立を激化させたくない思いもありますので、その対応はジレンマに悩むものとなります。

中国当局の対応も、社会不満のガス抜き効果を期待することもあって、“反日”を掲げた“愛国的行動”に共感を示しながらも、抗議行動が暴徒化する事態は、多くの社会問題を抱える現体制への脅威ともなりますし、日本との経済関係を無視することもできませんので、その対応は微妙なものになります。

****中国紙、反日デモ報道を抑制=「北京は理性的」と公安局****
16日付の中国紙・北京青年報などは、15日に北京の日本大使館前で行われた日本政府の尖閣諸島(中国名・釣魚島)国有化に抗議する反日デモについて写真付きで報じた。しかし、山東省青島などで起きた日系企業に対する破壊活動は伝えず、多くの新聞はデモの写真を一面では掲載しないなど、抑制的な報道となった。

反日デモが全国に広がり、一部暴徒化していることを受けて、中国当局は事態がエスカレートしないよう、報道内容を規制しているとみられる。【9月16日 時事】
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中国においては、反日デモに限らず、土地収用問題や環境・公害問題、地方当局の不正・権力乱用などで日常的に抗議行動が頻発しています。
反日デモが一気に拡大する社会的背景にはそうした事情もあります。

更に言えば、人々がそうした抗議行動という形を取らざるを得ないのは、欧米・日本的な意味での民意を政治に反映させる選挙・議会制度が存在しない、共産党による一党支配という政治システムが根本的原因であると思われます。
文化大革命を起こした毛沢東は大衆行動を権力闘争に利用し、その権力基盤を強固にしましたが、権力者にとって大衆行動は権力を崩壊させかねない脅威でもあり、神経を使うところでもあります。
反日デモの暴徒化を許していると、やがてはその矛先は共産党政権自身に向かうのでは・・・・ということも考えられます。

急激な環境変化
日本と中国の関係については、急速な経済環境・政治的力関係の変化が影響しています。
小泉内閣の靖国神社参拝問題で揺れた05年当時、中国のGDPは日本の約半分でした。
それから僅か7年しかたちませんが、今や中国の経済規模は日本を一気に抜き去り、12年では1.3倍ほどに達しています。それに伴い国際社会における存在感も逆転しているのは周知のところです。
そうした変化を背景にした中国側の自信、これまでの日本優位の力関係に対する反発も強くあることは容易に想像されます。

今後数年で中国の経済規模は日本の2倍を超すと思われます。日本側にはそうした環境変化に対する認識が希薄な面もあります。逆に、そうした変化への焦りが攻撃的な対応になったりもします。
ほんの数年で日本を圧倒的に凌ぐ巨大な経済圏が出現し、好むと好まざるとにかかわらず、日本はその引力を無視できない環境にあることを念頭に置いて対策を考えるべきでしょう。

新たな火種
反日デモは更にエスカレートする危険があります。18日は満州事変の発端となった柳条湖事件の発生日に当たることから、各地のデモが大規模になる可能性が高いことが推測されています。

更に、尖閣諸島がある東シナ海の休漁期間が16日正午に明けたことから、台風16号による天候不良の回復を待って、中国の漁船の船団が尖閣周辺に向かって出航することが報じられています。
日本側でも反発が高まり、新たな火種となりそうです。
中国側のハイテンションに引きずられてチキンレースのような形になるのは避けたいところですが・・・。

日本製品ボイコットなどの動きも報じられていますが、今の反日の逆風に立ち向かえるのはAKBだけのようです。
****上海版AKB、一期生募集に3万8千人 「SNH48****
人気女性アイドルグループ「AKB48」の海外姉妹ユニットとして中国・上海で売り出し予定の「SNH48」の1期生募集が締め切られ、中国各地から約3万8千人が応募した。尖閣諸島問題などで日中関係がぎくしゃくするなか、日本のアイドルは別格のようだ。

共産党機関紙・人民日報のウェブサイトによると、受け付けが始まった7月12日から申し込みが殺到し、公式サイトのシステムが何度もダウン。応募人数がこれまでの著名なオーディションの規模を上回り、「中国市場での価値を表している」と報じている。【9月3日 朝日】
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“イスラム冒涜映画”で世界のイスラム圏に拡大する反米抗議行動 難しい「異なる価値観」への理解

2012-09-15 23:14:28 | アメリカ

(イエメンの首都サヌアでアメリカ大使館のフェンスによじ登る抗議運動の市民ら イエメンでは治安部隊とデモ隊の衝突による死者が4人に達し、34人が負傷しています。 “flickr”より By multimediaimpre http://www.flickr.com/photos/79137904@N07/7982657044/

【「米国に死を」「預言者を冒とくする者すべての首をはねろ」】
アメリカで制作されたイスラム教預言者ムハンマドを侮辱したとされる映画「イノセンス・オブ・ムスリムズ(イスラム教徒の無邪気さ)」に対する反米抗議行動が世界中のイスラム社会で拡大、多くの死者を出しています。

****反米デモ:死者15人に拡大 11日以降****
イスラム教の預言者ムハンマドを冒とくした米映画への抗議デモは、宗教心が高揚する金曜礼拝日の14日、各地で警官隊と衝突し死傷者が拡大した。同日の死者数は7人となり、抗議デモが始まった11日以降の死者数は少なくとも15人となった。

AP通信によると、チュニジアの首都チュニスでは群衆が米大使館の壁を乗り越えて乱入。警官隊との衝突でデモ隊の2人が死亡し、約40人が負傷した。スーダンの首都ハルツームでは、数千人のデモ隊によって独大使館が放火されたほか、米大使館にもデモ隊が乱入し、治安部隊との衝突で3人が死亡した。レバノン北部のトリポリでも1人が死亡した。

またエジプト・シナイ半島のイスラエル国境近くにある多国籍軍・監視団(MFO)基地が武装集団に襲撃され、ロイター通信によるとMFOのコロンビア人2人が負傷した。【9月15日 毎日】
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反米抗議行動はアラブ諸国だけでなく、世界のイスラム圏のほぼ全域に広がっています。
“南アジアのインドでも14日、北部ジャム・カシミール州で少なくとも1万5000人がデモを行い、AP通信によると南部チェンナイの米領事館では投石で窓ガラスが割られた。バングラデシュのダッカでも、米大使館前で米国旗を燃やすなどの抗議活動があった。”【9月15日 読売】
“アフガニスタンでは14日、米映画に対する抗議デモが初めて発生し、東部ナンガハル州政府によると、同州で市民数百人が「米国に死を」「カルザイ政権は米国と国交を断絶せよ」などと叫んで行進した。”【9月15日 読売】
“AFP通信によると15日午後、(オーストラリア)シドニーの米総領事館前に子供を含むイスラム教徒数百人が集合。「預言者を冒とくする者すべての首をはねろ」と書かれたプラカードなどを手に、「米国を倒せ」と訴えた。その後、強制排除に乗り出した警官隊とそれに怒ったデモ隊が市内中心部の通りで衝突し、一部が暴徒化。ペットボトルを投げるなど抵抗したため、警官隊が催涙ガスで応戦し、辺りは一時騒然となった。”【9月15日 毎日】

上記の他、イエメン、ヨルダン、イラン、マレーシア、インドネシア、イギリスなどでも抗議行動が起きています。
また、スーダンでは、アメリカに加えドイツとイギリスの大使館も襲撃され、「反米」から「反米欧」に広がる兆候もあります。

謎が多い問題の映画
この事態の引き金となった映画「イノセンス・オブ・ムスリムズ(イスラム教徒の無邪気さ)」については、誰が製作したのか、いまだ判然としていません。
なお、“ニューヨーク・タイムズ紙によれば、今になってこの映画に注目が集まったのは、アラビア語のエジプト方言に吹き替えられたバージョンが先週ユーチューブにアップされ、それをエジプトのメディアが報じたためだという。”【9月13日 Newsweek】とのことです。

****反米デモ:引き金の映画製作に謎深まる 監督の正体不明****
イスラム世界における反米デモの引き金となった米映画「イノセンス・オブ・ムスリムズ(イスラム教徒の無邪気さ)」の製作過程を巡る謎が深まっている。監督の正体すら判然とせず、米メディアの報道が過熱している。

今年7月、インターネットの動画投稿サイト「ユーチューブ」に登場した約14分のダイジェスト版映像は「サム・バシル」の名で投稿された。今月11日に米紙ウォールストリート・ジャーナルの電話取材に応じた「サム・バシル」は「イスラエル生まれで、米カリフォルニア州在住の不動産業者」と自己紹介し、「100人のユダヤ人から500万ドルの寄付を集めて映画を監督・製作した」と主張した。

だが、イスラエル外務省報道官は米紙ニューヨーク・タイムズに「彼を知る者は誰もいない」と述べ、イスラエルと映画の関係を全面否定。多くの米メディアは「サム・バシル」の自己紹介の信ぴょう性を疑問視し、監督の正体を巡る報道合戦に拍車がかかった。

AP通信は12日、映画製作の中心になったとされるカリフォルニア州在住の男性に取材し、男性が「ナコウラ・バスリー・ナコウラ」という55歳のキリスト教コプト教徒であることを特定したと報じた。
この男性は取材に「自分ではない」と否定したが、AP通信は「米捜査当局がこの男性を映画の監督と特定した」と報道。男性が詐欺罪などで司法当局の保護観察中で、過去に何度も脱税などの問題を起こしたと伝えた。

映画を巡っては、シリア、イラク、トルコ、パキスタン、イラン、エジプト、米国の出身者ら15人ほどが製作や宣伝に関わったとの証言もある。【9月14日 毎日】
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映画の宣伝には、2年前にコーラン焼却を演出して各地でやはり暴動を引き起こしたアメリカ・フロリダ州のキリスト教牧師、テリー・ジョーンズ氏が関わっており、アフガニスタン駐留米軍に対する攻撃激化を懸念する米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長は12日、テリー・ジョーンズ氏に対し、宣伝に加担しないよう電話で異例の要請をしています。【9月13日 毎日より】

製作者がよくわからないだけでなく、ユーチューブにアップされ問題となったアラビア語の十数分のダイジェスト版(予告編)が、オリジナル版から更にゆがめられた内容となった点も指摘されています。

****反米暴動に火をつけたイスラム冒涜映画の中身****
預言者ムハンマドを侮辱してリビアの米領事館襲撃の引き金となった問題作は、誰が何のために作ったのか

(中略)それ以上にわからないことが多いのが、彼が作ったという渦中の映画『イノセンス・オブ・ムスリムズ(無邪気なイスラム教徒)』だ。今年になって、ハリウッドで一度だけ上映されたが、観客はほとんどいなかったという。
7月に動画投稿サイトのユーチューブにアップされた13分のトレーラーから判断すると、この映画は預言者ムハンマドの生涯を「風刺的」に描いているようだ。

問題は、映画としての価値が極めて低いことだけではない。作品中のムハンマドは小児愛者に寛容で、誤った教えを広めようとする頼りない人物という印象を与える。ムハンマドを侮辱するストーリーの合間には、ひげ面の男たちが中東の街でキリスト教系の病院を襲撃したり、若いキリスト教徒の女性を脅迫して殺害するシーンがちりばめられている。

(中略)アラビア語に吹き替えられた際に、内容がゆがめられた可能性もある。一説によれば、オリジナル版の題名は『無邪気なイスラム教徒』ではなく『砂漠の闘士』、「預言者ムハンマド」とされた人物の名は、「マスター・ジョージ」だったという。【9月13日 Newsweek】
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【「米国はひるまない」】
対応次第では大統領選に大きく影響しかねないアメリカ・オバマ大統領は、「暴力には断固として臨む」「米国はひるまない」と強調しています。

****暴力に断固として臨む」=中東の反米デモ拡大で―オバマ大統領****
オバマ米大統領は14日、リビアの米公館襲撃事件で犠牲になったスティーブンズ大使ら4人の追悼式典に出席し、中東で拡大する反米デモに対して「暴力には断固として臨む。海外で勤務する米国人を保護するため尽力する」と言明した。

追悼式典はワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地で行われた。大統領はこの中で、受け入れ国の協力を得て在外公館の安全態勢を強化し、米国人を傷つける者を裁くと指摘。さらに「米国はひるまない」とも強調した。【9月15日 時事】
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リビア東部のベンガジで11日に米領事館が襲撃され大使ら4人が死亡した件については、ロケット弾を使った組織だった攻撃ということで、一連の群衆が暴徒化した騒ぎとは性格がことなり、反米過激派の関与が指摘されています。リビア捜査当局が13日、容疑者4人の身柄を拘束したことが報じられていますが、詳細はわかりません。

“ロイター通信によると、アメリカ政府は12日、トマホーク巡航ミサイルを搭載可能な駆逐艦2隻をリビア沖に派遣した。「リビア内の標的に対する将来の行動」を視野に入れた展開だという。海兵隊のテロ対策チーム約50人も現地に向かっている”【9月13日 毎日】とのことで、また、アメリカはリビアと合同で無人機を投入した探索を行っています。国内のロムニー陣営などからの“弱腰批判”を封じる思惑もあるのでしょう。

****リビアに無人機投入=過激派拠点に攻撃準備か―米軍****
11日に米領事館が襲撃され大使ら4人が死亡したリビア東部ベンガジの空港が14日、一時的に閉鎖された。ロイター通信によると、米軍が偵察のため無人機を投入したが、イスラム武装勢力が対空砲を発射したため、民間機の安全が確保できないと判断された。

リビア当局者によると、米無人機2機がリビア当局の了解を得て投入された。ベンガジ上空を飛行し、上空から撮影したほか、米領事館襲撃に関与したとみられる過激派の拠点も探った。
現地では、米軍が特殊部隊を展開させ、過激派拠点への攻撃の準備を進めていると観測が流れているという。【9月15日 時事】
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【“譲れない一線” 異なる価値観
このようにリビアの事件へはある程度の対応も可能ですが、世界中のイスラム社会で拡大する反米抗議行動に関しては対応が困難です。

****米文化と社会、理解されてない」=中東の抗議デモ拡大で―報道官****
米国務省のヌーランド報道官は13日の記者会見で、米国で制作されたイスラム教預言者ムハンマドを侮辱したとされる映画を理由に中東各地で反米デモが拡大していることについて、「(中東)地域の人々はわれわれの文化と社会を理解していない。そのことを懸念している」と訴えた。
報道官は「映画は個人の制作であって、米政府は無関係だ」と改めて強調。このメッセージを世界中に伝えてほしいと要請した。【9月14日 時事】
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アメリカの国家としての責任を問うイスラムの民衆と、「映画は個人の制作であって、米政府は無関係だ」、「映画に“怒りを扇動する狙い”(クリントン国務長官)があっても差し止めはできない」とする、“表現の自由”を譲れないアメリカの間には大きな文化的ギャップがあります。

****反欧米デモ 「表現の自由尊重」譲れぬ米****
米国がイスラム社会に広がる反米デモを抑えられず、危機感を募らせている。デモの発端となった映画の制作に米国政府は無関係。表現の自由を尊重する国柄もあり、映画に「怒りを扇動する狙い」(クリントン国務長官)があっても差し止めはできない。とはいえ、信仰に関わる問題でイスラムの民衆に「表現の自由」を説いても、理解を得るのは困難で、怒りの炎は広がるばかりだ。

「言語道断の映像が日の目を浴びないよう、なぜ米国が行動しないのか、理解に苦しむ人々がいることは認識している」
クリントン長官は13日、居並ぶカメラを前に、こう述べた上で、米政府が干渉できない理由を説明した。
民間の制作でありインターネットを利用すれば配信の阻止は実質的に不可能と指摘。「自由の境界線には異なる見解がある」としながらも、米国憲法は「どれほど不愉快でも個人の表現の自由を侵害しないこと」を保障している“譲れない一線”を強調した。

クリントン長官の発言について、国務省のヌランド報道官は直後の会見で「(イスラム)地域の人々が、われわれの文化や社会を理解していないことへの懸念」が背景にあると説明した。
事実、米国内には、イスラム教の「信仰を中傷する」(クリントン長官)内容自体を非難する声はあっても、そうした表現を生み出す“土壌”までを批判する声は聞かれない。

事態を制御できない米国の苦境は、中東諸国が「アラブの春」で民主化の道を踏み出した結果として、米国の影響力が減少したこととも無関係ではない。
エジプトやリビアなどで反米デモを強大な権力で鎮圧する政権は相次ぎ崩壊。中東地域でのソーシャルメディアを通じて反米メッセージは瞬時に広がる。一方で、専制国家の“豪腕”を目の当たりにしてきた国民には、世界一の大国である米国が、自国民を制御できないわけがないとの幻想を抱いている節もある。

実際、米国の主要テレビは「巨大な情報機関を持つ米国が映画の情報を知らなかったはずはない。オバマは罪人だ」(CNNテレビ)と連呼する現地からのデモの映像を繰り返し伝えている。大使殺害の衝撃も手伝って、米国がイスラム社会に「異なる価値観」の理解を求めざるを得ない構図に陥っている。【9月15日 産経】
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「異なる価値観」への理解というのは、リビアの大使殺害組織せん滅などより遥かに難しいことです。
アフガニスタンでの泥沼的な事態も、最大の原因はその点にあると思われます。
そうしたなんとも手の打ちようがない事態へ、オバマ大統領も苛立ちを募らせているようです。

****エジプト「同盟国ではない」=米大統領の発言が波紋****
オバマ米大統領がスペイン語放送局テレムンドとのインタビューで、激しい反米デモが続くエジプトについて「同盟国ではない」と発言したことが、波紋を呼んでいる。エジプトは北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要同盟国。イスラム圏で拡大する過激デモへのいら立ちが表れたとの見方もある。

大統領は12日放送された番組で、エジプトを「同盟国とは思わないが、敵とも考えていない」と発言。一部の識者は「大統領の表現や声のトーンは、デモに対するエジプト・モルシ政権の反応への気持ちがにじみ出ている」と指摘する。【9月14日 時事】 
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ジレンマに苦慮するエジプト・モルシ政権
ただ、オバマ大統領から苛立ちをぶつけられたエジプト・モルシ政権もジレンマを抱えています。
当然ながら、ムスリム同胞団を支持基盤とするモルシ大統領としては、民衆の宗教的な怒りを無視することはできません。しかし、アメリカとの関係もエジプトにとっては重要です。更に、国内のイスラム教徒とコプト教徒の対立は避けたいところです。

*****反欧米デモ エジプトが抱えるジレンマ 民衆行動に理解 対米関係も配慮****
米国で制作の反イスラム的な映画に端を発する米国に対する抗議行動の広がりは、就任から間もないエジプトのモルシー大統領に、対米関係の維持を図りつつも、民衆の抗議活動はある程度容認せざるを得ないというジレンマを突きつけている。

モルシー氏は13日、映画がイスラム教の預言者ムハンマドを侮辱的に描いたのを「エジプト人は決して許さない」と強く非難する半面、外交施設の警備に万全を期す考えを強調した。
ただ、怒った群衆が11日、米大使館に破壊行為を行ったことへの謝罪は避けた上、むしろ米国側に、映画関係者への法的措置を求めたと明らかにした。

モルシー氏がデモ隊に融和的ともとれる態度を示すのは、国内最大のイスラム原理主義組織ムスリム同胞団出身である自身の信条に加え、民衆の支持を失えば、発足間もない政権の基盤が揺るぎかねないとの懸念があるためだ。

だが同時にエジプトは、1979年にイスラエルと平和条約を結んだのと引き換えに米国から年十数億ドルの軍事・経済援助を受けており、対米関係悪化は避けたいのが本音。政府は、デモの暴徒化を警戒しながら沈静化を図るとみられる。

そんな中、同胞団のシャーティル副団長は14日までに、米紙ニューヨーク・タイムズに「米政府や市民に(映画への)責任はない」とする文章を寄せ、米国側に配慮を示した。緊張緩和の演出を狙った、政権への“援護射撃”といえる。

キリスト教の一派であるコプト教徒でエジプト系とみられる男性が映画制作の中心人物だったのも、頭の痛い問題だ。イスラム教徒が大多数を占めるエジプトでは近年、コプトへの暴力がしばしば発生していて、今回の問題で反コプト感情に拍車がかかれば社会不安が増大する恐れもある。

一方、オバマ大統領は12日、米テレビに「エジプトは同盟国ではないが、敵でもない」と、同国へのいらだちをあらわにした。
この発言は、エジプトを中東政策の柱としてきた従来の外交の転換を示唆するものともみられかねないだけに、カーニー大統領報道官らは「エジプトは緊密なパートナー」だと強調するなど火消しに回った。スエズ運河を擁する戦略的要衝にある同国との関係維持を望むのは米国も同じだ。

今後は両国とも、国内世論をにらみつつ、落とし所を探るデリケートな外交を迫られることになる。【9月15日 産経】
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反米抗議行動に関する“落とし所”があるのであれば、事あるごとに中国で噴き出す反日抗議行動に苦慮する日本も是非参考にしたいところですが・・・。
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中国  次期国家主席の習近平氏の“神隠し”で飛びかう憶測・うわさ

2012-09-13 21:53:21 | 中国

(その動静が注目を集めている習近平国家副主席 “flickr”より By eurodialog  http://www.flickr.com/photos/36817668@N04/6887736097/

【「習氏は生きているのか」「まじめに質問してほしい」】
国内外を問わず、真相が定かでない不思議な出来事は枚挙にいとまのないところですが、国際的に現在注目を集めているのが、この秋の中国共産党大会で権力継承が予定されている習近平国家副主席が、予定されていた外国要人との会談等をキャンセルして、今月初めから姿を消していることです。
習近平氏に関する情報は、中国国内ネットでも遮断されている状態です。

****中国のミステリー、習副主席が姿見せず****
数週間後に中国の最高指導者になると見られる習近平国家副主席(59)がトーニングシュミット・デンマーク首相との会談をキャンセルした。これに先立って他の重要会合もキャンセルしており、将来の中国国家主席の健康をめぐる思惑が広がっている。

公の場から突然姿を消したこのミステリーは、いかに同国の指導者に関する情報が遮断されているかを示しており、また、数週間後の同国指導部交代を前に高まっている緊張をさらに強めている。この指導部交代では胡錦濤氏が共産党ポストを退くことになっている。

関係筋によると、習副主席は、10日から訪中しているトーニングシュミット首相と会談する予定だった。しかし、中国とデンマークの当局者は同日、同首相は3日間の滞在中に副主席と会うことはないと述べた。
習副主席は先週、クリントン米国務長官、リー・シェンロン・シンガポール首相との会談も直前になってキャンセルしたほか、9月1日に共産党訓練学校で演説をしたのを最後に公の場に姿を見せていない。

ある米当局者は先週、ウォール・ストリート・ジャーナルに対し、副主席は背中に問題があるため、5日のクリントン氏との会談をキャンセルしたと述べていた。それ以降、中国のインターネット交流サイト(SNS)では、副主席が水泳かサッカーをしている時に背中を傷めたとのうわさが飛び交っている。中国政府はこれまで、副主席が最近姿を見せないことやその健康状態について説明しておらず、また10日にも再び説明を拒否した。

指導部の円滑な交代計画は既に、かつてはトップの指導者の候補でもあった薄熙来氏が重慶市トップの党委員会書記を解任され、政治局員の職務を停止されたことで揺らいでいる。薄熙来氏の妻は先週、英国人ビジネスマンを殺害したとして有罪判決を受けた。
世界第2の経済大国を今後10年間率いることになる人物が姿を見せないという予想外の事態は、同国の経済をめぐる国際的な懸念が強まるなかで起きた。10日に発表された統計は、弱い輸出の伸びと輸入の減少を示した。

中国当局が指導部の健康状態について明らかにすることはほとんどない。しかし、その情報独占は国民がネットでの情報、特に急成長を遂げるツイッターに似たマイクロブログで情報を求めるようになって崩れつつある。
中国のトップの指導者の場合によくあるように、今回もポータルサイト新浪(Sina)のマイクロブログ「微博」では副主席の中国語と英語での名前の検索がブロックされたため、副主席をめぐって微博にどの程度の情報があるのかは判断できない。

党のインサイダーや外交筋、政治アナリストらは、中国の指導者は時に説明もなく長い間公の場に姿を見せないことがあるが、外国の当局者との会談を今回のように直前になってキャンセルするのは非常に異例だと述べている。

共産党はこれまで、香港のメディアが昨年、江沢民元主席が心臓病で軍病院に搬送されたあと死亡したと報じた時のように、現・元指導者に関するうわさは迅速に鎮めようとしてきた。
国営新華社通信は当時、香港での報道を「単なるうわさ」だと否定。同氏はその後国営メディアの前に姿を見せた。
治安対策を統括する周永康党中央政法委書記が薄氏を支援したことで政治的問題に陥っているとの情報がSNSで流れ始めた時、国営メディアは周氏が公のイベントに出席していることを示す一連の長大な報道を行った。

しかし、国営メディアはこれまでのところ習副主席に関するうわさを鎮めようとはしていない。ただ、共産党系の新聞「Study Times」は10日、副主席が最後に姿を見せた9月1日の演説の内容を1面に掲載した。 【9月11日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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胡錦濤国家主席と江沢民前国家主席の派閥の激しい権力闘争がいろいろ報じられるなかで、肝心の次期主役が姿を消してしまったというミステリー。しかも、アメリカ大統領に次いで大きな影響力を世界に行使しうる人物です。

中国当局はこの件に関しては完黙の状態です。
“中国外務省は習氏の動静について、事実上沈黙している。11日の定例会見では、外国通信社の記者が「習氏は生きているのか」と洪磊(こうらい)副報道局長に質問。局長は「まじめに質問してほしい」と不快感をあらわにした。連日、同様の質問が出ているが、洪副局長は回答を避け続けている”【9月12日 毎日】

「生きているのか」といった質問が出るような状況でなお沈黙しているところを見ると、単なるケガではなさそうです。当然ながら、いろんな噂が飛びかいます。
暗殺説、政治的失脚説、あるいは背中を刺されたとか、交通事故とか・・・・。

今日になって、ようやく“動静が伝えられた”との報道がありましたが、内容を見ると、習近平氏本人の状態をうかがわせるものはなく、ミステリーは続いています。

****習近平国家副主席の「動静」、中国国営メディアが報道****
中国国営メディアは12日夜、今月初め以来公の場に姿を見せていないことから健康状態をめぐる憶測も出ていた習近平国家副主席(59)の「動静」を、同氏の健康不安説が浮上して以来初めて伝えた。習副主席は、中国の次期最高指導者に内定している。

海外華僑向け通信社の中国新聞社(電子版)は、共産党の古参党員のHuang Rong氏が先週6日に死去したことを受け、12日夜に「胡錦濤・国家主席と習副主席を含む指導部は、さまざまな手段を通じ、Huang Rong氏の遺族に心からの哀悼の意を表した」と伝えた。ただ、副主席の発言を直接引用するものではなかった。

習副主席は先週、クリントン米国務長官など各国首脳や高官との会談を相次いでキャンセル。9月1日を最後に公の場に姿を見せておらず、その動静について政府が情報を明かさないことから、背中を負傷したとの説や心臓病を発症したなどの憶測が飛び交っていた。
中国外務省は、副主席の健康状態や所在についてのコメントを拒否している。【9月13日 ロイター】
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中国当局は「“都合の悪い”情報の遮断」に懸命
中国国家指導者が突然姿を消す・・・ということで、連想されるのが、毛沢東主席の後継者に指名されていた林彪の事件です。林彪は文化大革命中の1971年9月13日、亡命を図る飛行中の事故で死亡したとされています。
英フィナンシャル・タイムズも、この林彪の事件に触れています。

****習近平の“神隠し”…英国で「林彪事件を連想」の報道も****
中国の次期国家指導者とみなされてきた習近平国家副主席が9月1日を最後に公の場から忽然(こつぜん)と姿を消したことで、英フィナンシャル・タイムズは12日付で、「林彪事件を思い起こさせる」とする記事を掲載した。

林彪は国務院(中国中央政府)常務副総理、国防部長などを務め、毛沢東主席の後継者に指名されていたが1971年9月13日、ソ連に向け旅客機で逃走中、モンゴル人民共和国内で墜落して死亡した。
毛沢東暗殺のクーデターを計画し、事前に発覚したため中国と敵対関係にあったソ連に亡命したとされる。墜落原因については◆燃料切れ◆離陸時の銃撃戦による機体の損傷◆入国を拒否したソ連が撃墜◆操縦ミス――など諸説があるが、亡命までの経緯を含め、真相は現在も謎だ。新華社は翌1972年7月28日になり、事件概要を短く報じた。

フィナンシャル・タイムズは、中国当局が政府要人に絡む「事件」について、現在も秘密主義を貫いていると指摘した。1993年に李鵬首相が数カ月間にわたり“姿を消した”ことについても、人民日報が今年(2012年)7月になり、「入院して治療を受けていた」と発表した。
中国当局は当時、李首相が外遊をとりやめ、訪中した要人とも会わなくなったことについて「風邪をひいた。すでに回復中だ」と説明していが、実際には心臓発作を起こしていたとみられている。

習副主席は1日に中国共産党の中央党校の始業式に出席して以来、動向が不明になった。5日のクリントン米国務長官の会見は、直前になり取りやめた。
1日の中央党校の始業式についても、10日になってから始業式の日付けを明記しない形で壇上でのスピーチが発表された。中国では、日時をはっきりさせない記事も珍しくないが、要人の動向を10日も経過してから日付なしで記事化することは異例だ。

過去に要人が姿を消した際には、国外ではさまざまなメディアが推測を発表したが、中国国内では国内の報道に触れることが困難だった。現在はインターネットなどで、国外報道に接することも比較的容易で、自らの見方や意見を表明することもできる。
中国当局は特定サイトへのアクセス遮断や書き込みの削除などで、「“都合の悪い”情報の遮断」に懸命だが、過去と比べて現在は、情報の統制がかなり難しい状態だ。(編集担当:如月隼人)【9月13日 サーチナ】
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腫瘍?心筋梗塞?】
さすがに、現在の政治状況からして、暗殺はもちろん、政治的失脚も考えにくいところで、常識的に見れば、何らかの病気による入院・・・といったところが想像されます。
香港から報道では、肝臓の腫瘍を摘出した・・・と言われています。

****習近平氏、腫瘍摘出手術か=中国****
中国人権民主化運動情報センター(本部・香港)は13日、中国の次期最高指導者に内定している習近平国家副主席の動静が不明となっていることに関して、習氏が今月2日に人民解放軍301病院で健康診断を受けた際、肝臓に極めて小さな腫瘍が発見され、今週摘出手術を行ったと伝えた。来週、公の場に現れる予定だとしている。

習氏をめぐっては、日課としている水泳中に背中を負傷したとの見方が出ているが、中国では国家指導者の健康状態は機密事項となっており、中国政府は一切、コメントしていない。【9月13日 時事】 
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権力継承の真っただ中のこの時期に・・・という感はありますが、逆に、今のうちに・・・ということなのでしょうか。
一般論としては、“神隠し”の理由として一番可能性があるのは、脳梗塞・心筋梗塞の類の突発的な容態急変ではないでしょうか。

****中国の習近平氏、心筋梗塞か!英紙報じる****
来月にも開かれる第18回中国共産党大会で、最高指導者就任が内定している習近平国家副主席(59)の消息が今月1日以降明らかになっていない。「背中のケガ」「心筋梗塞(こうそく)」などさまざまな観測が飛び交うが、真相は不明だ。
12日の英紙デーリー・テレグラフは匿名の消息筋が、「習氏が心筋梗塞を患っていると示唆した」と報じた。米紙も消息筋の話として「命に別条はない軽い心筋梗塞」と伝えている。(中略)

ほかの指導者が通常の政治活動を続けていることから「容体は深刻ではない」「治療の過程で動きがぎこちないから、人目にさらすのを避けている」などの見方もあるが、ある関係筋は「本来なら噂打ち消しに動くはず。重い健康不安も否定できない」と指摘した。【9月13日 zakzak】
******************

先日のブログでも取り上げた南米ベネズエラのチャベス大統領のように、がん治療をものともせず、大統領選挙を戦っている指導者もいますが、心筋梗塞あるいは腫瘍となると、その程度によっては権力基盤に影響してきます。生き馬の目を抜くような中国政界にあっては、なおさらでしょう。
今後の報道が注目されます。

なお、習近平氏と並んで、党ナンバー8の政治局常務委員、賀国強党中央規律検査委員会書記も8月29日を最後に動静が伝えられておらず、「事故に遭った」との臆測も流れていましたが、こちらについては、中国中央テレビが12日午後7時からのニュース番組で、賀国強氏が中国監察雑誌社などを訪れ、今秋に予定される党大会に向けて反腐敗・清廉教育を強化・改善するよう強調したと伝えています。【9月13日 産経より】
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リビア  イスラム“冒涜”映画への抗議行動のなかで、駐リビア米国大使が死亡との報道

2012-09-12 22:42:38 | 北アフリカ

(カイロのアメリカ大使館に押し寄せた群衆)

駐リビア米国大使と領事館の職員ら計4人が死亡
ムハンマドを題材とした風刺画とかコーラン焼却など、イスラム教に対する批判がイスラムへの冒涜として大規模な大衆抗議行動に発展する例はしばしば起きていますが、今回は米同時多発テロ発生から11年に合わせて作製された、ムハンマドに扮した男性が暴力的で好色な人物として表現されている13分間の短編映画が大きな問題を引き起こしています。

朝のTVニュースではエジプトのアメリカ大使館の騒ぎが報じられており、「またか・・・」といった感じでしたが、リビアでは騒動のなかで駐リビア米国大使が死亡したとされ、事態は非常に深刻です。

****リビアの米領事館襲撃で米大使死亡****
リビアのワニス・シャリフ副内相は12日、イスラム教を侮辱するような内容の映画に抗議する武装グループがリビア東部のベンガジの米領事館を襲撃した事件で、J・クリストファー・スティーブンス駐リビア米国大使と領事館の職員ら計4人が死亡したと述べた。スティーブンス大使は約4か月前に入国したばかりだった。

また、リビア副首相のMustafa Abu Shagur氏はツイッターで、「米国、リビア、そしてすべての自由な人々に対する攻撃を非難する」との声明を出した。【9月12日 AFP】
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リビアとエジプトで大きな騒ぎとなった抗議行動については、下記のとおりです。
なお、下記記事では“米国人職員1人が死亡”とされていますが、その後の報道では上記のように、駐リビア米国大使を含む4人が死亡したとされています。

****リビア:短編映画がムハンマド侮辱…米領事館員襲われ死亡****
リビア東部の主要都市ベンガジにある米領事館が11日、群衆の襲撃を受けて火が放たれ、米CNNテレビなどによると、米国人職員1人が死亡、1人が負傷した。

エジプトの首都カイロでも、中心部にある米大使館にエジプト人の群衆が押し寄せ、一部が敷地内に侵入して星条旗を引きずり下ろし、火を付ける騒ぎに発展した。
カイロの群衆は、米国で製作された短編映画がイスラム教の預言者ムハンマドを侮辱したと主張している。リビアでの米領事館の襲撃も、この映画が原因とみられる。

映画は「ムハンマドはイスラムの使徒なり」という13分間のフィルム。米同時多発テロ発生から11年に合わせ、米国在住のエジプト人のキリスト教系コプト教徒や、以前にイスラム教の聖典コーランを燃やして物議を醸した米フロリダ州のテリー・ジョーンズ牧師らが製作し、動画投稿サイトで一部が公開された。イスラム教の預言者ムハンマドの性描写などが含まれている。

カイロの米大使館前には「サラフィスト」と呼ばれるイスラム厳格派を中心に約2000人が集まり、一部は大使館を囲むコンクリート壁によじ登り、敷地内に侵入した。参加者は「預言者の侮辱をやめろ」などと書いた横断幕を掲げ、「世界にはまだ数十万人の(国際テロ組織アルカイダの元最高指導者で米軍に殺害された)ウサマ・ビンラディンがいるぞ」などと反米スローガンを叫んだ。
エジプトではムバラク政権崩壊後、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団出身のモルシ氏が大統領に選出されている。

05年にはデンマーク紙が預言者ムハンマドを「テロリスト」扱いする風刺画を掲載し、イスラム社会に激しい抗議が巻き起こった。【9月12日 毎日】
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製作者については、上記記事では“あの” テリー・ジョーンズ牧師の名前があがっていますが、“米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)によると、映画を製作・監督したのはイスラエル系米国人の男性で、男性は同紙の電話インタビューに「イスラムはがんだ」と述べた。エジプトのメディアは先に、製作者は米在住のキリスト教系コプト教徒のエジプト人と伝えていた。”【9月12日 時事】とも報じられています。

【「欧米に敵対的な勢力の犯行の可能性が大きい」】
また、死亡したとされる駐リビア米国大使については、“アルジャジーラによると、大使は領事館内で窒息死した。一方、ロイター通信はロケット弾攻撃で死亡したと報じている。” 【9月12日 時事】とも報じられており、リビアでは領事館にロケット弾が撃ち込まれたと伝えられています。

このため、リビアの事件は単なる群衆の抗議行動ではなく、反米勢力の関与も指摘されています。
“映画への抗議行動は、エジプトの首都カイロでも11日に発生した。しかし、リビアでは領事館をロケット弾で攻撃するなど、エジプトのデモとは性格を異にしており、在リビア外交筋は「欧米に敵対的な勢力の犯行の可能性が大きい」と指摘した”【9月12日 時事】

大使が殺害されるというのは、大使の車の国旗が奪われるといったこととは次元が異なります。
オバマ大統領は民主党大会を終えて支持率が上向き、この先の展望が開けてきたところですが、厄介な問題が起きてしまいました。
ロケット弾攻撃云々に関する真相究明、犯人逮捕を強く求めるのでしょうが、元はといえば、アメリカで作製された思慮分別を欠いた映画が発端です。

狂信的な挑発行為と過敏な感情的反応
それにしても、今回の映画製作者のような、自分の信念しか眼中にない人物の行動というのは困ったものです。
自分では正しい主張を行っているつもりなのでしょうが、引き起こされる事態、それによる多大な犠牲、後に残る憎しみなどへの配慮を全く欠いています。と言うか、そんなことはどうでもいいと思っているのでしょう。
一方で、こうした一部の人間の確信犯的な行為に過敏に反応するイスラムの側の反応も、第三者的には何とかならないものか・・・という感もあります。

日本周辺で起きている領土問題にも、似たような構図があるようにも思えます。
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イラク  国内外で高まる宗派間の緊張 副大統領死刑判決 イランとの関係強化

2012-09-11 23:22:29 | 中東情勢

(9月9日 バスラで使われた自動車爆弾 “flickr”より By multimediaimpre http://www.flickr.com/photos/79137904@N07/7962237732/in/photostream/

全土でシーア派を主な標的としたテロ
フセイン政権崩壊後に激しい宗派間紛争で多くの血が流れたイラクでは、多数派であるイスラム教シーアを基盤としたマリキ首相が権限を強めています。そうした状況で、スンニ派のアルカイダ系武装勢力によると思われるシーア派住民を標的にした爆弾テロや銃撃事件が相次いで起きています。

激しかったイラクの宗派間紛争が下火となり、米軍が撤退できる状況になったのは、スンニ派部族が米軍に協力してアルカイダ系武装勢力の掃討作戦に参加したことが大きな要因でした。
その後もアルカイダ系武装勢力は、シーア派を標的にしたテロで、宗派間の緊張・対立を煽る活動を続けています。

強引とも批判されることが多いマリキ首相の政治運営のもとで、シーア派・スンニ派の宗派間対立が高まる危険性が懸念されています。

****イラク全土でテロ、109人死亡=首都で50人以上犠牲―シーア派狙い宗派対立再燃****
イラク各地で9日、爆弾テロや銃撃事件が相次ぎ、ロイター通信によると、少なくとも109人が死亡した。特にバグダッド一帯では、イスラム教シーア派住民が多く住む各地で6件の自動車を使った爆弾テロがあり、51人が死亡した。

一方、裁判所は9日、軍准将らの暗殺に関与したとして、スンニ派有力政治家のハシミ副大統領に欠席裁判で死刑判決を言い渡した。バグダッドでのテロは判決後に発生。全土でシーア派が主な標的となっており、宗派対立が再燃する恐れがある。

南東部アマラでは、シーア派宗教施設や市場で自動車爆弾が連続して爆発、16人が殺害された。北部キルクークでも警察などへの攻撃で15人が死亡。南部ナシリヤではフランス名誉領事館前で自動車爆弾が爆発し、警官が死亡した。このほか、バグダッド北方バクバや南部バスラなどで爆発があった。【9月10日 時事】
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スンニ派副大統領に欠席裁判で死刑判決
上記記事にもあるハシミ副大統領への欠席裁判による死刑判決については、下記のように報じられています。
ハシミ副大統領はスンニ派の有力政治家で、シーア派のマリキ首相らと対立。マリキ首相がスンニ派に対して政治的迫害を加えていると非難していました。

****イラクのハシミ副大統領に死刑判決、女性弁護士の殺害などで****
イラクのヌーリ・マリキ首相を批判する最高位の人物で殺人など約150の罪に問われ、本人不在のまま5月から裁判が行われていたタリク・ハシミ副大統領に9日、死刑判決が出された。

今回の裁判では約150の罪のうち、女性弁護士、軍の准将、治安当局高官の殺害について扱われた。9日の公判の冒頭、検察側はハシミ副大統領に女性弁護士と准将の殺害について死刑にするよう裁判所に求めたが、治安当局高官の殺害への関与については訴追を取り下げた。

裁判所は9日、ハシミ副大統領の義理の息子で秘書のアフメド・カータン被告にも同じく被告人不在で行われた裁判で死刑判決を言い渡した。

イラク当局は2011年12月、爆弾テロなどに関与したとしてハシミ副大統領に逮捕状を出した。ハシミ副大統領は、政治的な動機に基づく動きだとして全ての容疑を否認していた。

ハシミ副大統領はイラク国内のクルド人自治区に逃れた後、カタールやサウジアラビアを経て、今年4月から家族とともにトルコのイスタンブールに身を寄せてトルコ政府の保護を受けていた。
トルコの首都アンカラにいるある上級外交官によると、判決が出た9日、ハシミ大統領は以前から決まっていた予定に従ってトルコのアフメト・ダウトオール外相と会談したという。

国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)は今年5月、イラク当局の求めに応じて「テロ攻撃を指導し、資金を提供した」疑いでハシミ副大統領についてレッドノーティス(被疑者を手配国に引き渡す方向で加盟各国に協力を要請する文書)を出したと発表していた。

一方、イラク全土では8日夜から9日までに30か所以上で銃や爆弾を使った攻撃があり、88人が死亡、400人以上が負傷した。これにより今月に入ってイラクで起きた攻撃で死亡した人は118人になった。【9月10日 AFP】
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イラン・イラク戦争での恩讐を超えて
中東地域全体でみても、シリアにおけるシーア派の一派とされるアラウィ派アサド政権とスンニ派反体制派勢力の武力衝突激化を反映して、国家間の宗派対立が厳しさを増しています。

ハシミ副大統領は、現在カタールのドーハに滞在中であることを明らかにしていますが、カタール、そしてこれまでに身を寄せたサウジアラビア・トルコはスンニ派が主流の国家で、アサド政権への厳しい対応を求めています。
これらの国が警戒するのが、イランを中心としたイラク、そしてレバノンのヒズボラなど、シーア派の結びつきです。

****イラン:イラクとの関係強化「反米シーア派連合」構築か****
反体制派との内戦でシリアのアサド政権が揺らぐ中、シリアと同盟関係にあるイスラム教シーア派国家・イランが隣国イラクとの関係強化を進めている。

シーア派の聖地・イラク中部ナジャフでの大型建設計画への巨額投資などを通じ、80年代のイラン・イラク戦争での恩讐(おんしゅう)を超え、イラク政府や国民に浸透を図っている。中東地域で新たな「反米シーア派連合」を構築する狙いもあるとみられる。

ナジャフ中心部の礼拝所アリモスク。内部にはシーア派初代イマーム(宗教指導者)のアリの聖廟(せいびょう)があり、シーア派を国教とするイランから巡礼者が訪れる。イラン人の巡礼は両国関係が悪かった旧フセイン・イラク政権時代には困難だったが、03年の政権崩壊後に可能になった。

昨秋、モスクの隣で大規模事業の工事が始まった。博物館などを併設した宗教施設で、敷地面積約5万4000平方メートル、総工費約6億ドル(約480億円)。イラン政府と直結する巨大な宗教財団が資金を支援し、地元事業担当者の男性は「イランの協力なしで建設は不可能」と語る。

ナジャフ郊外では今年6月、イラン政府が約3億ドル(約240億円)を負担して発電所の建設も始まった。イラク国内では米軍侵攻後続く混乱で社会基盤の整備が進まない。真夏の最高気温が50度を超えるナジャフでも停電が多い。地元の自動車販売業、アデルさん(40)は「電気が通じるのは1日4、5時間。シーア派の仲間イランが助けてくれるなら歓迎する」と話す。

イラン・イラク戦争(80〜88年)で数十万人の犠牲者を出した両国。しかし、イスラム教スンニ派偏重だった旧フセイン政権が03年に崩壊し、シーア派重視のマリキ首相がイラクで力を握ると、イランはイラクへ急接近した。イラン外務省によると、両国の11年の貿易総額は約100億ドル(約8000億円)で09年の2倍に増えた。

イランがイラクを重視するのは、周辺スンニ派諸国や米・イスラエルへの対抗上、アサド政権崩壊が懸念されているシリアに代わる強固な同盟国を作りたいためだ。イランのメディアによると、イランのジャリリ最高安全保障委員会事務局長は今月8日にバグダッドでマリキ首相と会談した際、両国関係の重要性を強調し、「イスラムの目覚めにより、米・イスラエルは孤立する」などと語った。

イランが「重点投資」するナジャフはシーア派の中でも反米強硬派の宗教指導者ムクタダ・サドル師の拠点。イランはナジャフを玄関口にして「反米シーア派」の結束を図りたい考えだ。両国関係に詳しいイラン人研究者のパシャング氏は「イランは経済支援を通じ、米欧諸国になびかない強いイラクを作るのが狙いだ。しかし、イラクがイランの望み通り(反米シーア派)の国になるかは疑問だ」と話している。【8月15日 毎日】
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最近では、シリアのアサド政権に武器を供給するイランの航空機が領空を通過するのをイラク政府が認めたとの情報が流れ、アメリカが神経をとがらせています。

****イラク、イランによるアサド政権支援の領空通過を黙認か 米議員がイラク首脳と会談****
シリアのアサド政権に武器を供給するイランの航空機が領空を通過するのをイラク政府が認めたと伝えられている問題で、米上院の複数の議員が6日までにイラクを訪問し、政府首脳と会談したことがわかった。

イラク政府は領空通過を否定している。政府の報道官は6日、「イラクはいかなる国に対しても、自国の領土や領空を通ってシリアの対立する各陣営に武器や兵士を供給するのを認めるつもりはない」と述べた。

一方で米国務省の報道官は5日、「イランがアサド政権支援のために、隠れてできることなどほとんどない」と指摘した上で、「私たちはイラク側に対し、いくつかの懸念を表明した」と明らかにした。
同報道官は、イランがイラク領空を通ってシリアに武器を供給している点について米政府は確信があるのかとの質問に対して、イラク側に問題を指摘したことは認めたものの、それ以上のコメントは避けた。

同じころ、イラクを訪問した米上院のマケイン議員、リーバーマン議員らは、イラクのマリキ首相やジバリ外相と会談した。イラク政府は会談の詳細について公表していないが、リーバーマン議員は短文投稿サイト「ツイッター」上で、米政府はシリア情勢が悪化する中で「真の戦略的パートナーシップ」をイラク政府との間で築くべきだと述べるとともに、シリアに飛行禁止区域を設定すべきだと呼びかけた。

イスラム教シーア派が国民の多数を占めるイランは、シーア派の分派とされるアラウィー派が主流のアサド政権と緊密な関係にある。【9月7日 CNN】
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アメリカとしては、多大な犠牲を払って何とかスタートさせた新生イラクが、宿敵イランと協力関係を強めるというのは認めがたいところでしょう。
ただ、政権運営に自信を深めたマリキ首相のもとで、反米はともかく、イランとの連携は強まっています。
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ロシア  APEC閉幕 極東開発への日本の参加を睨んで、領土問題交渉も浮上

2012-09-10 23:04:17 | ロシア

(極東ロシアの更に東への玄関口となるウラジオストク “flickr”より By dospacificos http://www.flickr.com/photos/kinolina/6098458319/

欧州志向からアジア太平洋国家へ
今月5日からロシア極東ウラジオストクで開催されていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)が閉幕しました。

食料品の輸出規制の抑止、環境物品の関税引き下げリストの承認、有事の際に加盟国・地域間で石油や液化天然ガス(LNG)などの備蓄を相互に融通し合う枠組みを創設などの本来の議題もさることながら、韓国・中国と領土問題が表面化している日本にとっては、日中韓の首脳が握手したとか、何分間“交談”したとかいった話題などもあって、何かと注目された会議でした。

アメリカ・オバマ大統領が民主党大会を理由に欠席したこともあって、中国の存在感が目立ち、南シナ海問題を巡るベトナム首脳と胡錦濤主席の会談なども注目されました。

中でも一番印象に残ったのは、今回会議を起爆剤にして遅れている極東開発に弾みをつけようとする、開催国ロシア・プーチン大統領の力のいれようでした。

****APEC首脳会議:ロシア、極東発展の呼び水に…開幕****
日米中露など21カ国・地域によるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が8日午後、ロシア極東ウラジオストクで開幕した。ロシアで初めて開くAPECでホスト役を務めるプーチン大統領は、発展から取り残された極東に光を当て、ロシアが本格的にアジアの一員となる大号令を発しようとしている。(中略)

ロシアはユーラシアに広がる世界最大の国だが、ソ連時代から政治・経済の重点は首都モスクワのある欧州部に偏っていた。極東シベリアは資源供給基地や軍事拠点など中央の植民地的な役割を担わされてきた。「東方を支配せよ」を意味するウラジオストクも、ソ連時代は軍事・閉鎖都市だった。ソ連崩壊後の極東は経済混乱で衰退。90年代に開発計画が策定されたが、予算の裏付けがなく掛け声倒れに終わった。

だがプーチン大統領は、あえてウラジオストクを開催地に選んだ。投資総額は2兆円近い。立ち遅れたインフラを一気に整備し、投資拡大の呼び水とする戦略だ。主要貿易相手の欧州が債務危機から抜け出せない中、シュワロフ第1副首相は「ロシアの対外貿易でアジア太平洋諸国が占める比率を50%(現在は約23%)に引き上げたい」と、成長するアジア経済とのリンクに意欲を示す。

極東重視の背景には中国の存在もある。ロシア極東の人口減少が進む一方、隣の中国は人口を急増させている。「ここで極東開発に着手しなければ中国にのみ込まれる」という危機感があったのは間違いない。大統領が日本との北方領土問題決着に意欲を示すのも、対中にらみで日本を極東のパートナーにしたいという思惑がある。

ロシア科学アカデミー極東支部の極東諸民族歴史・考古学・民俗学研究所のラーリン所長は「『極東』はモスクワから見た呼び名であり、『太平洋ロシア』のほうがふさわしい」と提言する。プーチン大統領の東方戦略は、欧州志向が根強いロシアをアジア太平洋国家に変貌させるインパクトを秘める。【9月8日 毎日】
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問われる「ポストAPEC」の戦略
当然ながらAPECのための投資は一過性・限定的なものであり、今後どのように極東開発を進めるのかという戦略が必要になります。
ロシアでは今後、ソチでの冬季オリンピック、サッカー・ワールドカップが予定されており、手をこまねいていると、極東はロシア内でまた忘れ去られてしまいます。

****APEC:成功も極東シベリアの浮上には課題…ロシア****
ロシアのプーチン大統領は、インフラ整備に2兆円近い国費を投じてロシア初のAPECをひとまず成功させた。だが立ち遅れた極東シベリア全体の浮上につなげるには課題が山積している。

「(APECのために)新たな街がつくられた。ロシアが発展する大きな可能性を物語っている」。プーチン大統領と7日に会談した中国の胡錦濤国家主席は、ルースキー島にゼロから整備された会場を称賛した。152ヘクタールの広大な敷地はウラジオストク市内にある極東連邦大学の新キャンパスとなる。

ただ、不便な島への移転に不満をもつ学生や教員は多い。冬季や悪天候時は橋や渡船が使えず、島は本土から孤立する。大学は約1万7000人の学生を19年までに3万人に倍増させる計画で、うち7500人はアジアなどの外国人留学生(現在は約1000人)を見込んでいるが、多くの学生を集める「魅力」は乏しい。

ウラジオストクには国際空港の新ターミナルや3本の長大橋などが整備されたが、市民の間では「APECは一過性のイベント。終われば極東は忘れられる」との声もある。ロシアは14年に南西部ソチで冬季五輪、18年に欧州部でサッカーのワールドカップ(W杯)を開催する。いずれもプーチン大統領が国家プロジェクトとして総力を挙げており、極東への投資が先細りになる可能性もある。

ソ連時代に225万人を超えた沿海地方の人口は195万人に落ち込んでいる。人口減はロシアの極東シベリアに共通する深刻な問題だ。プーチン大統領は5月に極東発展省を新設し、てこ入れを図っているものの、人口増や地域全体の再生に転じる有効な政策は見いだせていない。

プーチン大統領はAPEC閉幕後の9日の記者会見で「極東シベリアの開発は必ず継続する。(APECは)第一歩にすぎない」と強調したが、具体的な成果につなげる「ポストAPEC」の戦略が問われそうだ。【9月10日 毎日】
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【「過去から引き継がれた全ての問題を解決したい」】
ロシアが継続的な極東開発を進めるうえで欲しいのは日本の協力です。
経済的に台頭し、人口増加も著しい中国には「のみ込まれる」との不安感もあります。政治的にも東アジアでの主導権を握ろうとする中国への警戒感もあります。ロシアが安心して手を組めるのは高い技術力と大きな資本を持ち、かつ、政治的野心が表に出てこない日本でしょう。

しかし、日本とロシアの間には北方領土問題が喉に刺さった小骨のように存在し、両者の関係強化を阻害し続けています。
プーチン大統領としては、北方領土問題をクリアして日本を極東開発に呼び込みたい思いが強いと思われます。

****露大統領:北方領土の決着 改めて意欲示す****
ロシアのプーチン大統領は9日、APEC首脳会議の閉幕を受け会見し、対日関係について「過去から引き継がれた全ての問題を解決したい」と述べ、北方領土問題の決着に改めて意欲を示した。

大統領は「日本は伝統的なパートナーで、地域における重要なパートナーのひとつ。我々は日本との関係発展に関心がある」と強調。8日の日露首脳会談で合意した、野田佳彦首相の12月をメドとする次回の訪露時に「(領土問題を)静かな環境で、より詳細に協議できる」と語った。(後略)【9月10日 毎日】
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こうした流れを受けて、長く停滞を続け、あるいは、メドベージェフ・ロシア首相が7月に北方領土を訪問したことで後退した感もある北方領土問題が浮上してきています。

*****野田首相、12月に訪ロ=領土交渉、秋に次官級協議―大統領、投資に期待****
野田佳彦首相は8日午後(日本時間同日昼)、ロシアのプーチン大統領とウラジオストクで約30分間会談した。首相は、北方領土問題の前進に向けて予定している自らのロシア訪問について「12月をめどに調整していく」と表明。大統領は「歓迎したい」と応じた。首相は、訪ロに先立ち、今秋に次官級協議を開くことも提案、大統領は異論を挟まなかった。

会談で首相は、日ロ関係の協力強化の重要性を強調した上で、メドベージェフ・ロシア首相が7月に北方領土を訪問したことを念頭に「(日本の)国民感情への配慮が必要だ」と指摘。領土交渉に関しては「静かで建設的な環境の下、双方受け入れ可能な解決策を見つけるべく、首脳、外相、次官レベルで、実質的議論をさらに進めていきたい」と語った。
これに対し、大統領は「世論を刺激せず、静かな雰囲気の下で解決していきたい」と同調した。

日ロ経済に関し、首相は「極東シベリア開発には日ロ協力のポテンシャル(潜在力)があり、相互信頼がさらに進めば協力が現実的なものになる」と述べ、関係強化に期待を示した。大統領は、日ロ間の貿易量が拡大していることに触れ、「日本の投資を歓迎する。投資保護を行いたい」と述べた。【9月8日 時事】
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もちろん、ロシア側のガードが緩んだ訳でもなく、安易な期待はできません。
また、解散・総選挙を睨んだ日本国内の政治日程・政局で混乱する可能性もあります。

****首相訪露予定、領土交渉「再活性化」へ道筋****
野田首相とロシアのプーチン大統領は8日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて行った会談で、首相が12月をめどに訪露することで一致、北方領土問題をめぐる交渉を「再活性化」させる道筋はとりあえず示された。

だが、ロシアは領土問題での譲歩を拒み、極東開発など経済関係の発展を優先する方針だ。
「中身の濃い議論ができた。最終的には大統領と直接じっくりと議論し、互いに納得できる解決案を見いだしていきたい」。首相は8日の会談後、記者団にこう語った。
政府は、秋に次官級協議を行う一方、首相の訪露前に大統領と親交のある自民党の森元首相を政府特使として派遣し、協議進展に向け、環境を整える考えだ。

ただし、日本外務省の幹部は「協議することと、ロシアの譲歩につながるかとは別の話だ」とみる。大統領は6月、首相との初会談で領土交渉を進展させるとしたが、約2週間後の7月3日、メドベージェフ首相が国後島を訪れ、日本への領土引き渡しを拒否する姿勢を示した。歯舞、色丹の2島引き渡しで最終決着とするロシアと、国後、択捉を加えた4島を求める日本の隔たりは大きい。【9月9日 読売】
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最近の極東経済情勢
ただ、領土問題は再度戦争でもするのでなければ、双方に主張・利害があり、互いに譲歩して政治的決着を図る姿勢がない限り何百年たっても進展しないのが現実です。
何百年でも自己の主張を続け一歩も引かない・・・というのもひとつの見識ではありますが、いささか自己満足的な感もあります。

また、ロシアの政治・経済状況は必ずしも法律や経済合理性に基づかない側面が多々あり、クレムリンや、それと結びついた政商・オリガルヒの思惑で、進出した外国企業が食い物にされるといったこともあります。

それにしても、極東地域の石油・ガス資源の開発や、農業生産などの可能性を座視するのは、日本経済の将来にとって大きな損失となるような気がします。いささか「満蒙は生命線」的な発想のようでもありますが。

“ロシアの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」で、採掘ガスを輸出用の液化天然ガス(LNG)に加工する工場が09年にサハリン南部で稼働した。ロシアは独自のLNG生産技術を持たないため、日本の千代田化工建設などが工場を建設し、三菱重工などが専用輸送船を建造した。「サハリン2」には三井物産や三菱商事が出資している”

“天然ガスの輸出拡大戦略も進めている。昨秋、サハリン産のガスをハバロフスク経由でウラジオストクまで運ぶパイプラインが完成。ロシア政府系ガスプロムは、丸紅や伊藤忠商事などが参加する日本の企業連合との間でウラジオストク近郊に液化天然ガス(LNG)製造施設を建設する事業の採算性調査に着手した。”

“日本のLNG輸入量(11年)のうちロシアからは712万トンで全体の9%。日本政府は中東への依存度を下げる狙いでロシア産の輸入拡大を図る。ウラジオストクのLNG施設が日本の協力で計画通り稼働すれば、20年ごろから年約1000万トンの生産を見込んでおり、大半を日本向けに充てる方針。”【9月5日 毎日】

****シベリア油田開発、三井物産と帝石が参画検討****
国際石油開発帝石と三井物産が、ロシアの国営石油会社ロスネフチと共同で、東シベリア・イルクーツクの油田開発を検討していることがわかった。
政府も資金支援を検討しており、実現すれば、日本の民間企業が東シベリアで石油開発にかかわる初の事例となる。

原油輸入の約9割を中東に依存する日本としては、調達先の多様化につながることが期待できそうだ。
関係者によると、開発対象となる油田の埋蔵量は少なくとも、日本の需要の2~3年分にあたる20億~30億バレルとみられる。日本勢が3~5割程度出資することを念頭に調整しており、国際協力銀行(JBIC)や「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」(JOGMEC)も資金支援を検討している。【9月8日 読売】
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****アジアへ「回廊****
「『極東穀物回廊』をつくって、急速に発展するアジア太平洋諸国への輸出を増やすことが重要だ」。ロシア穀物連盟のアレクサンドル・コルブト副会長は昨年10月、記者会見でそう強調した。「極東穀物回廊」とは、シベリアで収穫された穀物を極東へ運び、アジア太平洋市場へ穀物を輸出する構想だ。

ロシアの穀物輸出は年間約2400万トン。主な輸出先はエジプトやサウジアラビアなど中東・北アフリカだ。だが、シベリアの約500万トンにのぼる余剰穀物の輸出は、ロシア南部の穀倉地帯やカザフスタンなどとの競争が激しい。「統一穀物会社」の幹部は国営ノーボスチ通信に、シベリアの穀物輸出の潜在力は20年までに800万~1千万トン見込めると述べている。 【9月6日 朝日】
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****露極東で日本車生産 秋以降に開始 政権「重視」も物流に難****
日本製中古車が市場を席巻してきたロシア極東のウラジオストクで今年秋以降、ロシアの新興自動車メーカー「ソラーズ」がマツダ車とトヨタ車の現地組み立てを相次いで始める見通しとなった。極東で日本メーカーの新車が生産されるのは初めてで、プーチン政権の極東重視路線に沿った動きだ。ただ、人口の希薄な極東は消費市場としての規模が小さいため、他地域に製品を輸送するための物流インフラの整備が生産拡大への鍵を握りそうだ。(後略)【8月20日 産経】
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ギリシャ  難航する緊縮策国内調整 厳しさを増すEUからの圧力 国内では極右が支持拡大

2012-09-09 21:35:48 | 欧州情勢

(ギリシャ第2の都市テッサロニキで行われた9月8日の緊縮策抗議デモを呼びかけるポスター(?) “テッサロニキから反撃が始まる 我々か、それとも彼らか!!!”と表現は過激ですが、デモは大きな混乱はなかったようです。ただ、それは国民の不満が大きくないことを示すものではありません。 “flickr”より By Dimitris Vassios http://www.flickr.com/photos/67463737@N05/7938858134/

【「細かい技術的な問題」が残っている
ドイツ・メルケル首相、フランス・オランド大統領との協議を何とか終えて帰国したギリシャ・サマラス首相ですが、肝心の緊縮策に関する国内における与党間の最終調整が難航しています。

サマラス政権は2014年までに財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以下にするため、115億ユーロ(約1兆1500億円)規模の新たな歳出削減策を取りまとめる作業を行っています。
一方で、この目標の実行期限を2年間延長することを求める緩和策も要請しています。

****緊縮策の最終調整が難航=低所得者負担で一致せず―ギリシャ****
ギリシャのサマラス首相は29日、欧州連合(EU)などと合意した緊縮財政策の具体策をめぐり、政権に協力する左派2党の党首と会談した。だが低所得者の年金削減などで調整が難航、最終決定に至らなかった。同国への支援を判断するEUなどの財政監視団との協議を来月に控え、首相はぎりぎりの調整を続ける。

ギリシャからの報道によると、ストゥルナラス財務相は会合後、「細かい技術的な問題」が残っているとしながらも、緊縮策の大枠は政治合意に達したと語った。
しかし、全ギリシャ社会主義運動(PASOK)のベニゼロス党首は、緊縮策の詰めの協議を続けると指摘。民主左派のクベリス党首は「低所得者がこれ以上負担を負うべきではない」とし、最終合意はできていないとの認識を示した。【8月30日 時事】
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先週末からは、欧州委員会と欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)で構成するトロイカの調査団がギリシャを訪れて協議がなされており、また、14日にはキプロスでユーロ圏財務相会合が開催される予定ですが、国内最終調整が完了したという話はまだ聞きません。

****ギリシャは政策実行が鍵」 緊縮策めぐり連立3党の調整続く****
ギリシャの連立政権は、ユーロ圏残留のために国際社会の債権者を納得させることを目指し、さらに2年間に及ぶ財政緊縮策について一致点を見いだす努力を続けており、サマラス首相は今後1週間、各方面と激論を戦わせることになる。

欧州連合(EU)の行政執行機関、欧州委員会と欧州中央銀行(ECB)、国際通貨基金(IMF)で構成するトロイカの調査団は、7月に始まった支援条件の履行状況をめぐる審査を完了するため、7日にアテネに戻る。しかし、サマラス連立政権の結束を試す115億ユーロ(約1兆1300億円)相当の予算削減案に関する連立3党の作業は、7日の段階でも続いている公算が大きい。

バンク・オブ・アメリカ(BOA)の欧州通貨戦略責任者、アタナシオス・バンバキディス氏(ロンドン在勤)は「ギリシャについては実行こそが鍵だ。言い換えれば、政府が存続し、プログラムを実行できるかどうかが鍵になる」と指摘。「ギリシャは新たな支援パッケージと大幅な債務減免を獲得し、新政権が発足したばかりであるにもかかわらず追加資金を必要としている。ギリシャが現段階でプログラムを実行できなければ、同国に資金を提供しても無駄だとトロイカが結論付ける可能性が高い」と話す。

ギリシャのストゥルナラス財務相は9日にトロイカと会合を持つ。サマラス首相は、キプロスの首都ニコシアで14日に開かれるユーロ圏財務相会合よりも前に歳出削減策を確定させたい考えで、連立パートナーの全ギリシャ社会主義運動(PASOK)および民主左派党首との合意を取りまとめる必要がある。【9月6日 Sankei Biz】
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サマラス首相は7日、首都アテネでEUのファンロンパイ大統領と会談しており、「ギリシャ経済の再建には、EUなどからの融資が欠かせない」と述べ、EUがすでに合意した財政支援の一部、31億ユーロ余り(日本円でおよそ3100億円)の融資を速やかに実施するよう要請しました。(9月8日 NHKより)

また、8日には、「ユーロ圏の離脱に直面しているギリシャにとって、追加削減策を実施し、再び信頼できる国のイメージを確立することは、債務危機から抜け出すための唯一の道だ」「115億ユーロの追加削減策を実施する以外、方法はない」との決意を語っています。【9月9日 CRI onlineより】
なお、この日、この発言がなされたテッサロニキでは、後述するように、サマラス政権発足後初の緊縮策抗議大規模デモが行われています。

【「ユーロ圏がギリシャに週6日働くよう求める」】
しかし、ギリシャに対する海外の視線は厳しさを増しています。

****ギリシャ守るため週6日働け」EUが労働改革要求****
国家破産を逃れたかったら週6日働け――。財政危機に陥ったギリシャの現状を検証する欧州連合(EU)などの調査団が5日、アテネを再訪。その直前、EUなどがギリシャに求めたとされる労働市場改革の内容が報じられ、波紋が広がっている。

調査団はギリシャの現状について約1週間かけて調べ、10月初めまでにユーロ圏各国に報告する予定だ。これを受けて、各国は融資を続けるか判断する。もし融資が止まれば、「ユーロ圏離脱」につながる。
ギリシャの政権は、調査団が来るまでに、2013年からの2年で計115億ユーロ(約1兆1千億円)の財政赤字の削減策を定める予定だったが、細部が詰められず、詳細を発表できていない。

財政再建が遅れる中、英紙ガーディアンなどは、EUなどが8月末にギリシャに送ったとされるメールについて「ユーロ圏がギリシャに週6日働くよう求める」との見出しで報じた。
財務相と労働相に宛てられたといい、労働環境の柔軟性を増すためとして、週6日働くことを認めたり、残業時間の制限を緩めたりするよう要求。約23%の高い失業率を下げるため、企業が人を雇いやすいように最低賃金の引き下げも求めたという。

ギリシャの政権は、財政赤字削減の達成期限を2年先延ばしすることを求めている。フランスのオランド大統領は4日、「調査団の報告が、ギリシャが努力し、信頼に足ると知らせてくれたら、現在の救済策は見直されるべきだ」と述べ、柔軟な姿勢を見せた。【9月6日 朝日】
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****ギリシャは「結果出せ」=EU大統領が改革訴え****
欧州連合(EU)のファンロンパイ大統領は7日、財政危機に陥ったギリシャのサマラス首相とアテネで会談し、財政再建や構造改革を着実に推進するよう求めた。同大統領は会談後、「ギリシャが結果を出せば、EUやEU加盟国も引き続き支援する」と強調した。

ギリシャはユーロ圏と国際通貨基金(IMF)からの最大1300億ユーロの第2次支援と引き換えに、2014年までに計約115億ユーロの緊縮策実行を約束したが、厳しい景気の冷え込みを背景に、具体策の取りまとめが遅れている。【9月8日 時事】 
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移民の「悪臭」を含め、ギリシャからすべての外国人を追放
一人が週6日働くより、二人で3日ずつ働いたほうが失業率も下がっていいのでは・・・とは思いますが、それはともかく、自業自得の側面が強いとは言うものの、生活を更に苦しくする緊縮策を迫られているなかで「週6日働くよう求める」とか「結果を出せ」とか外部から言われては、ギリシャ国民も面白くないのではないでしょうか。

****ギリシャで初の大規模デモ=給与、年金カットに抗議****
ギリシャからの報道によると、同国北部にある第2の都市テッサロニキで8日、欧州連合(EU)などによる支援条件として政府が策定を急ぐ公務員給与や年金削減に抗議し、1万人を超える労働組合員らがデモを行った。サマラス政権が6月に発足して以来、緊縮策に反対する大規模デモは初めて。

ロイター通信によると、デモに加わったのは労組や左派組織のメンバーら1万5000人規模。一部の参加者がEUの旗を燃やすなどしたが、大きな混乱はなかった。【9月9日 時事】
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“サマラス政権が6月に発足して以来、緊縮策に反対する大規模デモは初めて”というのはむしろ意外ですし、規模も1万人超と、さほど大規模でもありません。事態打開のため相当に我慢を強いられ、委縮しているようにも思えます。
しかし、国民の不満は着実に募っているようです。

****ギリシャ世論調査、極右政党「黄金の夜明け」の支持率が拡大****
ギリシャのTo Pontiki紙の委託によりパルスが行った世論調査によると、緊縮財政に苦しむ国民の間で、極右政党「黄金の夜明け」が支持率を伸ばしている。調査では、いま選挙が行われた場合、同党は3位になるとの結果が出た。

「黄金の夜明け」は、移民の「悪臭」を含め、ギリシャからすべての外国人を追放することを目指しており、ここ数カ月の移民攻撃に関係しているとの見方もある。
調査によると、「黄金の夜明け」の支持率は10.5%で、同党が議席を獲得した6月の選挙時から約4%ポイント上昇した。

一方、海外からの支援を支持する連立与党の新民主主義党(ND)の支持率は6月時点の29.7%から25%に低下した。選挙で敗北した急進左派連合(SYRIZA)の支持率は24%で、約3%ポイントの低下となった。
連立与党に参加している全ギリシャ社会主義運動(PASOK)の支持率は、「黄金の夜明け」に抜かれて第4位の8%。民主左派党は約2%ポイント低下して4.5%となった。【9月7日 ロイター】
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ギリシャ支援が実現するか否かは、最大の支援国となるドイツの意向が強く反映されます。
ドイツ国内には“働かない放漫財政のギリシャ”をこれ以上支援することへの強い抵抗があるのは周知のところですが、ドイツ経済がこれまでそうしたギリシャなどを大きな輸出先とし、今も欧州経済危機によるユーロ安で輸出拡大・失業率低下という多大なメリットを享受しているという側面もあります。

あまり追い詰め過ぎて、ギリシャのユーロ離脱、ギリシャ国内での極右台頭といった事態になるのは得策でないように思えます。
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