孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  イスラム冒涜問題で暴動を政権批判のガス抜きに利用?

2012-09-23 20:41:41 | アフガン・パキスタン

(21日 共同会見するパキスタン・カル外相とクリントン米国務長官 昨年7月の就任時に最年少・初の女性外相として注目され、美貌の一方で、経験不足も危惧されたカル外相ですが、その評価はどうなのでしょうか? 真面目に考えればパキスタンの外相はとてつもなく難しいポジションですが、軍部が実権を握っている同国で外相が何を言おうが大きな問題にならない・・・とも言えます。 “flickr”より By U.S. Department of State http://www.flickr.com/photos/statephotos/8010786438/ )

仏の風刺画で暴動再燃、デモ封じ込めの動きも
中国の反日デモはとりあえず当局側が抑え込んだようですが(中国政府の強硬な対日姿勢は依然として続いていますが)、イスラム教の預言者ムハンマドを冒涜したとされるアメリカ映像に反発するイスラム圏の抗議デモ・暴動はいまだ収まっていません。

アメリカ映像に続いて、フランスの週刊紙「シャルリー・エブド」が、預言者「ムハンマド」を出演者に見立て映画のパロディーを描いたほか、裸の姿なども掲載したことで、騒ぎは再燃した状況になっています。
ただ、エジプト・チュニジアなどでは、当局側のデモ封じ込めの動きも強まっています。

****仏の風刺画、火に油 ムハンマド冒涜、抗議デモ再燃****
イスラム教の預言者ムハンマドを冒涜(ぼうとく)する米国発の映像に続き、フランスの雑誌が風刺画を掲載したことで、イスラム教の金曜礼拝があった21日、世界各地で抗議デモが再燃した。政府がデモを主導したパキスタンでは一部が暴徒化し、警官隊との衝突などで計15人が死亡した。エジプトやフランスでは当局がデモの封じ込めを図った。

イスラム教を国教とするマレーシアでは21日、与党連合の統一マレー国民組織(UMNO)と野党連合の全マレーシア・イスラム党(PAS)の各青年部が米国大使館前でそれぞれデモをし、地元メディアによると、数千人規模を集めた。一連の預言者冒涜への抗議が始まって最大規模となった。参加者らは米仏両国政府の責任を追及。両国旗を燃やしたが、大きな混乱はなかった。

AP通信などによると、スリランカ・コロンボでは金曜礼拝後、約2千人が米大使館近くに集まりオバマ米大統領の人形や星条旗を燃やした。バングラデシュの首都ダッカでも多数の市民が「米国に死を、フランスに死を」などと叫び、両国国旗を燃やした。

イスラム教徒住民が多数を占めるインド北部スリナガルでは当局が外出禁止令を出し、携帯電話の通話を遮断したが、数カ所でデモがあった。約30人の女性のグループには警官隊が催涙弾を発射し、解散させた。 

レバノン南部サイダでは、モスクに集まった約300人が星条旗とイスラエル国旗を燃やし、東部バールベックでも数千人がデモをした。イラク南部バスラでも数千人がデモに参加した。

一方、デモ封じ込めの動きも強まっている。19日付の週刊紙がムハンマドの風刺画を掲載したフランスは、政府が21日にイスラム圏約20カ国の在外公館を閉鎖。仏人学校も休校になった。
パリでは、警察当局が、22日に計画されていた市内でのデモ申請を却下したのを受け、イスラム指導者は、信徒に非合法デモに参加しないよう呼びかけた。

穏健派イスラム組織ムスリム同胞団系のムルシ氏が6月に政権に就いたエジプトでは、治安部隊を各地に動員。カイロ中心部タハリール広場は21日朝、警察車両が並び、人通りもまばら。近くの米大使館に続く道は大きなブロックで完全に封鎖されていた。カイロ南部の仏大使館周辺も封鎖され、人や車の出入りを禁じた。

同胞団の流れをくむ穏健派イスラム政党ナハダが政権を握るチュニジアも21日は国内で集会やデモを禁止した。両国とも、預言者の冒涜映像問題で米大使館などがデモ隊に襲撃されており、これ以上の過激化は避けたいためだ。
イエメンのサヌアでは数百人が米国大使館などに押し寄せようとしたが、治安部隊に阻まれた。

イランのアフマディネジャド大統領は21日、テヘランであった軍事パレードでの演説で「イスラエルが西側と手を組み、宗教的な対立をあおる謀略を始めた」と述べ、ムハンマドの冒涜が相次いだ責任をイスラエルになすりつけた。【9月22日 朝日】
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アメリカ パキスタンで事態鎮静化の広告
問題の発火点であり、最大の標的となっているアメリカでは、表現の自由という基本理念とイスラム教徒刺激という現実の問題のはざまで対応に苦慮しています。
しかし、対米感情の悪化を座視することもできませんので、騒動が起きているイスラム教国のひとつで、アメリカのアフガニスタン戦略にとって協力関係が不可欠な国でもあるパキスタンにおいて、アメリカ政府は事態の鎮静化を図るための広告活動を始めています。

****反イスラム映画「怒り静めて」、米政府がTV・ネット広告****
反イスラム的な内容の米映画『イノセンス・オブ・ムスリム』に対する激しい反発がイスラム教国を中心に起きている状況を受け、事態の沈静化を図る米政府は20日、テレビやソーシャルメディアを介したメッセージ広告をパキスタンで展開し始めた。他のイスラム教国でも実施するかどうかは未定という。

30秒のテレビコマーシャルは在パキスタン米国大使館が7万ドル(約550万円)をかけて制作し、パキスタン国内のテレビ網7系列で放映する。バラク・オバマ米大統領、ヒラリー・クリントン国務長官が登場し、『イノセンス・オブ・ムスリム』の内容は米政府の見解と異なることを伝える内容という。
国務省のビクトリア・ヌーランド報道官は、「約900万人のパキスタン国民のできるだけ多く」にメッセージを伝えるためには、テレビコマーシャルが最適な手法だと考えたと説明した。

在パキスタン米国大使館はまた、一般の米国人がこの映画を非難している映像も、動画サイトのユーチューブ用に制作した。ヌーランド報道官によると、「米国人はイスラム教に否定的だ」と考える人が多いことを懸念した各国米大使館から「米国人、特に宗教指導者らが立ち上がり、(反イスラム的な考えについて)『われわれは違う』と訴える動画をもっと紹介して欲しい」との要請があったという。【9月21日 AFP】
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パキスタン 「預言者ムハンマドを愛する日」でデモを煽る
一方、パキスタン政府側は、イスラム教の礼拝日である金曜日に当たる21日を「預言者ムハンマドを愛する日」として国民の休日とし、国民に「平和的な抗議デモ」を行うよう呼びかける異例の取組を行っています。
しかし、結果としてはパキスタン各地でこの政府推奨の「平和的な抗議デモ」は暴徒化し、二十名以上が死亡する最悪の結果となっています。

****パキスタン:反米デモの死者23人に****
米国の映画がイスラム教の預言者ムハンマドを侮辱したとして、パキスタン政府の呼びかけにより計画された「平和的」抗議デモが21日、各地で暴徒化した。22日付のパキスタン紙ドーンによると、北西部ペシャワルや首都イスラマバード、南部カラチなどでの大規模デモで、映画館や警察車両への放火や襲撃が相次ぎ、少なくとも23人が死亡、200人以上が負傷した。(後略)【9月22日 毎日】
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この21日、クリントン米国務長官は国務省でパキスタンのカル外相と会談、「イスラムを侮辱する映画を非難するが、暴力は容認できない」と改めて強調しています。

****暴力容認できない」=関係再構築も確認―米パ外相会談****
クリントン米国務長官は21日、国務省でパキスタンのカル外相と会談した。会談に先立ち、クリントン長官は記者団に対し、パキスタン各地で同日行われた反米デモについて「イスラムを侮辱する映画を非難するが、暴力は容認できない」と改めて強調した。

カル外相もこれに関し「(長官の)強いメッセージは世界各地の抗議デモを収束させる効果がある」と応じた。
両外相は会談で、昨年11月の北大西洋条約機構(NATO)軍によるパキスタン軍検問所誤爆事件で急速に悪化した両国関係の再構築を確認したとみられる。【9月22日 時事】
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反米感情を政権浮揚に利用
一連のパキスタン側の対応には、“米国の顔色をうかがいながら国内では反米感情を政権浮揚に利用している”との批判もあります。

****米パキスタン関係に綻び 面従腹背 国務長官に賛辞も暴動あおりガス抜き****
パキスタンのカル外相は21日、ワシントンでクリントン米国務長官と会談した。
AP通信によると、外相は米国で制作された反イスラム的な映画について、米側が非難したとして称賛し、対米関係に最大限の配慮を示した。
パキスタンでは同日、この映画に抗議するデモで一部が暴徒化する事態となっており、米国の顔色をうかがいながら国内では反米感情を政権浮揚に利用している-と批判の声が上がっている。

カル外相は、クリントン長官が映画について「非常に侮辱的で非難されるべきものだ」と述べたことに、「世界中の多くの町で暴力をやめさせるため、どこまでも届くだろう」と賛辞を贈った。半面、外相は長官に暴動を非難するよう求められたさい、それには応じなかった。

それどころか、21日の暴動はパキスタン政府がきっかけを与えたものだった。暴動では警官やテレビ局の運転手を含む計21人が死亡する惨事になったが、政府は、イスラム教の礼拝日である金曜日に当たり、国民の宗教心が高まるこの日を「預言者ムハンマドの日」として祝日に指定し、国民に「平和的なデモ」を呼びかけていたからだ。
反米感情に容易に火がつくパキスタンでは、デモが暴動に発展したのは、十分に予想されることだった。

政府がこうした対応を取ったのは、物価高騰や電力不足、汚職問題などで満身創痍(そうい)のザルダリ政権が、来春までに行われる総選挙を前に、反米デモを国民の不満のはけ口にしようとしたとの見方が強い。

パキスタンの政治評論家、イクラム・ホティ氏は、「祝日を宣言したのは、与党パキスタン人民党の危機的な不人気ぶりを少しでも和らげるため、保守派イスラム勢力に屈服したからだ。宣言がなければ、イスラム勢力は人民党に対し、預言者への敬意に欠けるとして厳しい批判を浴びせていたはずだ」と指摘する。
コラムニストのメフリーン・ザフラマリク氏はロイター通信に、「人民党は、内政と選挙での勝利にとらわれて、外部世界とどんな関係が必要であるかを忘れている」と批判している。【9月23日 産経】
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また、パキスタン鉄道相がイスラム教侮辱映画の製作者を殺害した者に、10万ドル(約780万円)の賞金を与えるとしたことが話題になっていますが、これも与党側の人気とり政策の一環でしょうか。

****パキスタン鉄道相がイスラム侮辱映画製作者の殺害に賞金****
パキスタンの鉄道相が22日、イスラム世界で暴力的な抗議デモを巻き起こす発端となった米制作のイスラム教侮辱映画の製作者を殺害した者に、10万ドル(約780万円)の賞金を与えると述べた。

グラーム・アフマド・ビロウル鉄道相は、隣国アフガニスタンの旧支配勢力タリバンや国際テロ組織アルカイダのメンバーにも「崇高な行為」への参加を呼び掛けた。さらに、チャンスがあれば、鉄道相自ら映画製作者を殺したいとも語った。

この前日には、米映画『イノセンス・オブ・ムスリム』に対してパキスタン各地で暴力的な抗議デモが発生。21人が死亡、200人以上が負傷している。
キリスト教過激派によって製作された同映画への抗議デモはイスラム圏全体で勃発。9月11日に最初のデモが行われて以来、50人以上が死亡した。【9月23日 AFP】
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“タリバンや国際テロ組織アルカイダのメンバーにも「崇高な行為」への参加を呼び掛けた”というのは、アメリカには看過できないところでしょう。
(9月24日追記 上記の件に関しては“ビロウル氏が所属し、パキスタン人民党主導の連立政権に参加するアワミ民族党は、この件には無関係だとしており、アシュラフ首相の報道官は、発言を非難した”【9月24日 産経】とのことです)

大統領訴追手続きを開始する方針
どちらを向いているのかわからないパキスタン政府の対応は今に始まった話ではありませんが、ザルダリ大統領と最高裁の確執のほうも、これから一体どうするつもりなのか?と訝しく思われる状況です。

****大統領の訴追再開表明=最高裁との対立緩和へ―パキスタン首相****
ザルダリ・パキスタン大統領の過去の汚職疑惑への訴追再開を拒んでいるのは法廷侮辱罪に当たるとして、最高裁から出頭命令を受けていたアシュラフ首相が18日、出頭した。同首相は「大統領は免責特権がある」との従来の主張から一転し、大統領訴追に必要な手続きを開始する方針を初めて明らかにした。

パキスタンでは今年に入り、大統領訴追を求める最高裁とザルダリ政権との対立が激化。4月には前任のギラニ首相が最高裁から有罪判決を受け、その後失職。アシュラフ首相も同じ運命をたどる恐れが強まっていた。しかし、首相の態度軟化で事態は沈静化に向かう見通しとなった。【9月18日 時事】 
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“事態は沈静化に向かう見通し”と記されていますが、実際に大統領訴追に必要な手続きを開始したら政権そのものが崩壊します。どうするのでしょうか?のらりくらりと時間稼ぎしてやり過ごそう・・・ということでしょうか。
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