孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  迷走する難民対策 マレーシアで審査する案に人道上の問題

2011-06-06 21:46:22 | 世相

(オーストラリア 長期化する難民施設収容期間への抗議活動で、横断幕にメッセージを書き込む難民の子どもたち “flickr”より By Takver  http://www.flickr.com/photos/takver/5581220637/

ギラード政権 難民対策の方針転換
難民・移民の問題というと、民主化運動で政変・紛争がおきているチュニジアやリビアから対岸イタリアへの難民・移民をフランスなど周辺国が受け入れを拒み、互いに“押し付け合う”ような問題が最近話題になっています。

文化的に大きく異なる難民・移民の受け入れは、受け入れ国側に異文化間の軋轢、あるいは経済的競合、治安の悪化など多くの問題をもたらしがちですが、難民については人道上の問題があり、移民についてはマクロ的な経済利益もあります。また、異文化の人々を排除することに関する社会理念としても問題もあります。

2007年に政権を取った労働党は、それまでの保守政権がとっていた難民希望者を近隣のナウルやパプアニューギニアの収容所に隔離する政策を転換し、難民審査を豪州領内で行うことに変更しました。
これが難民希望者の期待を高め、アフガニスタンやスリランカなど紛争地域出身者らが押し寄せることになりました。

こうした難民の増加は一部国民の不満を増大させ、労働党政権支持率低下の一因となり、昨年のラッド前首相退陣につながりました。
ラッド前首相に代わったギラード政権は、ラッド前政権の比較的寛容な難民政策の方針転換に踏み切っています。【6月5日 朝日より】

そうした事情は、昨年12月16日ブログ「オーストラリア・クリスマス島沖で難民船大破  難民対応に苦慮する豪政府」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101216)でも取り上げたところです。

収容施設で暴動 審査の厳格化
難民が押し寄せるオーストラリアでは、収容期間が長期化することへの難民の不満が高まり、施設での暴動が頻発しています。

****入国者収容所で亡命希望者100人が暴動、オーストラリア*****
オーストラリア・シドニー西部にあるビラウッド入国者収容所で20日夜、収容されていた亡命希望者およそ100人が暴動を起こし、建物9棟に放火した。一部は21日も屋根の上で抗議を続けているという。
暴動は、2人の被収容者が屋根に上って抗議を始めたことが発端。ビザの発行を拒否している移民局に腹を立てての抗議とみられる。
暴動に加わった被収容者らは、消火活動にあたった消防隊員らに屋根のタイルや施設の備品を投げつけるなどし、消防隊を警護するために一時、機動隊も出動した。コンピューター室、台所、医療施設、選択室などが延焼した。

■増加する亡命希望者、暴動も頻発
オーストラリアでは、亡命希望者は手続きが完了するまで強制的に収容所に拘束する方針を取っている。多くは豪州本土から2600キロ離れたインド洋上のクリスマス島に収容される。
しかし、船で漂着する亡命希望者は年々増えており、2010年にはアフガニスタンやスリランカなどから6500人に上った。こうしたなか、本土にある収容所を使用するケースも増えている。今回暴動のあったビラウッド入国者収容所は400人の収容力がある。
 
同収容所では前年9月にも、強制送還が決まったフィジーからの亡命希望者が他の収容者たちの目の前で屋上から飛び降り自殺し、抗議行動が起きた。この時は、被収容者たちが屋根の上に29時間、とどまり続けた。
クリスマス島の収容所でも今年3月に暴動が続き、250人の被収容者たちが居住用テントに火をつけたり警察に手製爆弾を投げつけるなどして、警官隊が催涙ガスで鎮圧に当たる事態に発展している。【4月21日 AFP】
*******************************

こうした事態を受けて、オーストラリア政府は、亡命希望者に対する性格検査の厳格化などを内容とする移民法改正を図ることが報じられていました。

****豪政府が移民法改正の方針、収容施設の暴動受け審査を厳格化*****
オーストラリアのクリス・ボーウェン移民・市民権相は26日、亡命希望者の収容施設で暴動が相次いだことを受け、亡命希望者に対する性格検査の厳格化などを内容とする移民法改正案を議会に上程する方針を示した。
改正案では、収容施設にいる間に違法行為を犯した亡命希望者は、入国査証(ビザ)取得の際に求められる性格検査で自動的に不合格になるという。

3月、豪州本土から2600キロ離れたインド洋上のクリスマス島にある入国者収容所で暴動が発生したのに続き、前週にはシドニー西部にあるビラウッド入国者収容所でも被収容者約100人が、施設の建物9棟に放火するなどした。警察は数十人を事情聴取したが、これまでに何らかの罪に問われた人はいない。

ボーウェン移民相はこうした状況の下、改正移民法の性格検査に関わる規定は遡及的に適用する方針を示した。つまり最近の暴動に関与した亡命希望者が違法行為を行ったとみなされると、強制送還されたり、権利が制限された短期ビザしか取得できなくなったりする可能性がある。
ボーウェン移民相は「改正移民法が成立しても、帰国すれば危険にさらされるような真の難民を強制送還するようなことはしない。豪州が国際的な責任を放棄することはない」と強調した。

改正案の規定では、本国へ送還されれば身の危険があると思われる亡命希望者でも短期ビザしか取得できず、しかも本国の状況が改善したとみなされればその短期ビザも取り消される可能性がある。現行法では、亡命申請を却下できるのは、亡命希望者が禁錮1年以上の有罪判決を受けたことがある場合か顕著な犯罪歴を持つ場合に限られている。

難民支援団体や緑の党は政府の動きについて、亡命希望者が未成年であっても、太平洋上の島々にあった鉄条網のフェンスで囲われた収容所に長期間にわたって収容していた時代に戻るものだと批判している。【4月26日 AFP】
********************************

【「マレーシアとの協定は国際法違反の可能性がある」】
ギラード政権は難民収容施設を東ティモールに設けることを検討しましたが、東ティモール側が拒否。
今度は、マレーシアの収容施設を利用する案が検討されています。

****豪の難民移送策、波紋  密航者、今度はマレーシアで審査案****
「人道上問題」反発招く
オーストラリアのギラード政権が新たに打ち出した難民政策が国内外で反発を招いている。アフガニスタンなどの紛争地から豪州海域に船で押し寄せる難民認定希望者をマレーシアに移送する代わりに、マレーシア在住の難民認定者を受け入れる構想に対し、難民条約に未加入のマレーシアとの協力は人選上問題があるなどと批判されている。

労働党のギラード政権が先月公表した構想は、豪州に密航を試みる計800人をマレーシアに移送し、国連の難民審査を受けさせる一方で、今後4年間にマレーシア在住の計4千人の難民認定者を豪州に受け入れる計画だ。ギラード氏とマレーシアのナジブ首相との間で基本合意し、両政府間で交渉が進んでいる。

ギラード氏は首相就任直後の昨年7月、難民認定希望者を収容・審査する施設を東ティモールに設ける構想を打ち出したが、東ティモール側が激しく反発。その後も保守系のハワード元政権時に一時実施されたパプアニューギニアでの収容を再開させる案を模索するなどしてきた。

この間も難民船の来航は止まらず、豪政府によると、今年1月~5月に豪海域に逓した難民船は計20隻余、乗船人数は計1100人以上にのぼった。豪州領クリスマス島の施設などに収容している。4月には、シドニー近郊の収容施設で収容期間の長さなどに抗議する暴動も起き、難民政策への批判が高まっている。

構想に対し、野党保守連合を率いる自由党のアボット党首は「ギラード政権はパ二ックに陥っている」と批判。5月末に豪州を訪れたピレイ国連人権高等弁務官も「マレーシアとの協定は国際法違反の可能性がある」と懸念を示した。

マレーシアに入った難民認定希望者は、国連の難民認定を受け、その後は欧米など、定住可能な第三国に送り出されている。だが、国連や支援団体によると、マレーシア国内での就労は認められず、一部屋に数十人が寝起きするような住環境など、人道上の問題が指摘されている。

ギラード氏の豪州以外への移送を試みる難民対策は、近年のアジア系移民の増加に加えて難民が押し寄せることに対し、雇用や福祉への不安が国民の間で強まったことを受けたものだ。だが同時に人権重視派の労働党支持層からの批判も招いた。最新の世論調査によると、政党支持率は保守連合44%に対し、労働党は34%と低迷している。

豪州のNGO(非政府組織)、難民アクション連合のイアン・リントール氏は「マレーシアの収容施設の環境は非常に悪い。豪政府はむしろ、マレーシアやインドネシアからも多くの難民希望者を受け入れるべきだ」と批判している。(シンガポール=塚本和人)【6月5日 朝日】
*******************************

マレー人・華人・インド人などの多民族国家であるマレーシアなら、文化的にはアフガニスタンやスリランカ難民も受け入れやすいかもしれませんが、“一部屋に数十人が寝起きする”といった収容施設環境に問題があるようです。

受け入れ地を巡って政府案が二転三転する事態、“ギラード政権はパ二ックに陥っている”というような政府の迷走は、日本の普天間基地問題を連想させます。
いずれにしても、難民・移民の問題は、理想と現実、本音と建前のどちらにも偏り過ぎないようにバランスをとる必要がありますが、なかなか・・・。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする