孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  「非同盟諸国会議」でのエジプト・モルシ大統領の演説を意図的に“誤訳”

2012-09-03 22:18:16 | イラン

(「非同盟諸国会議」でのイラン・アフマディネジャド大統領とエジプト・モルシ大統領 両脇は潘基文事務総長とインド・シン首相のようです。 エジプトにとって「非同盟諸国会議」は、かつてナセル大統領がインド・ネルー首相やユーゴスラビア・チトー大統領らとともに呼びかけて始めた華々しい独自外交の舞台でもありました。 “flickr”より By MEAphotogallery http://www.flickr.com/photos/meaindia/7893217382/in/photostream/

モルシ大統領のアサド政権批判に、シリア代表団が退席
イランの首都テヘランで先月26日から31日まで、108カ国の代表が参加して「非同盟諸国会議」が開催されました。核開発をめぐって欧米から経済制裁を受けるイランは、非同盟諸国を味方につけることで国際的な孤立からの脱却を狙う・・・とのことでした。
核の平和利用を主張しているイランは会議中、希望者には中部ナタンツなどの核施設「視察ツアー」も用意し、透明性をアピールする考えとも報じられていました。

会議には国連の潘基文事務総長が、イランによる政治利用を懸念する欧米の反対を押し切って参加。
潘基文事務総長は29日、最高指導者ハメネイ師、アフマディネジャド大統領と会談、イランの核開発について、「(イランは)具体的な行動を示す必要がある」と述べ、国際原子力機関(IAEA)への協力など、具体的な対応を取るよう求めています。【8月30日 読売より】

もう一人、注目された参加者がエジプトのモルシ大統領でした。
79年のイラン・イスラム革命直後に両国が断交して以来、初の首脳訪問ですが、対米追随を脱し“「アラブの盟主」の復権を狙う”モルシ大統領の「新外交」の一環であることは、8月24日ブログ「エジプト  今後の動向が注目されるモルシ政権の独自路線」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120824)でも取り上げたところです。

イラン側は、エジプトとの関係修復で国際的孤立からの脱却をアピールしたいところですが、イランが支持するシリア・アサド政権をモルシ大統領が厳しく批判したことで、イランとしても困惑したようです。

****シリア対応めぐり大荒れ=エジプト大統領が介入呼び掛け―非同盟諸国首脳会議が開幕****
イランの首都テヘランで30日、途上国など100カ国以上が参加する非同盟諸国首脳会議が2日間の日程で始まった。核開発問題で欧米と対立する議長国イランは、欧米主導の国際秩序形成に一石を投じたい考えだが、エジプトのモルシ大統領がシリアのアサド政権を「抑圧的な体制だ」と非難、シリア代表団が退席するなど大荒れの展開となった。

エジプト大統領のイラン訪問は、1979年のイスラム革命後の断交以来初めて。両国関係改善の契機になるとの見方もあったが、モルシ大統領は、イランの同盟相手であるアサド政権を痛烈に批判、関係改善機運に冷や水を浴びせた。

大統領は「正当性を失った抑圧的な体制に対するシリア国民の闘争との連帯は倫理的な義務であり、政治的・戦略的な必然だ。効果的な介入がない限り、流血は止まらない」と訴えた。これに対しシリアのムアレム外相は「暴力を扇動しており、内政干渉だ」と猛反発した。

モルシ大統領が属したエジプト最大のイスラム原理主義組織であるムスリム同胞団は、中東各地に系列組織を持ち、シリアの反体制運動でも主導的な役割を果たしている。イランはシリア問題の対話による解決を訴えているが、非同盟諸国の間で結束した対応を打ち出すのに失敗した形だ。【8月30日 時事】
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【「次は、圧政下バーレーンの革命だ」?】
困ったイランは国内向けには、モルシ大統領のシリア批判を意図的に誤訳して流す・・・という大胆な対応をしています。
しかも、モルシ大統領が「アラブの春」による自国の政権交代を引き合いに、「次は、圧政下シリアでの革命だ」と演説した部分を、国営放送はでは「次は、圧政下バーレーンの革命だ」とペルシャ語で放送するといったように、批判の矛先をシリア・アサド政権でなく、反体制派を支援するバーレーンにすりかえるという“誤訳”ということで、当然ながらバーレーンは怒っています。

****シリア批判封じ:イランが圧力かけ「誤訳」非同盟諸国会議****
先月31日にテヘランで閉幕した非同盟諸国会議(120カ国・機構加盟)首脳会議で、エジプトのモルシ大統領がシリア政権を批判した演説内容を、議長国のイラン政府が、イラン人通訳に圧力をかけて「誤訳」させていたことがわかった。通訳は、モルシ氏がシリア政府の圧政などを批判した部分を、反体制派を支援する「バーレーン政府」と置き換えてペルシャ語に翻訳し、これをイラン国営テレビやラジオが流した。

同会議の運営に関わったイラン革命防衛隊関係者が、毎日新聞の取材に答えた。会議は、アサド政権を擁護するイラン政府が主催。軍事組織の革命防衛隊が深く関与し、会議を通じてシリア支持の流れを作ろうと画策していた。

関係者によると、モルシ大統領がシリア批判を展開することが予測されたため、イラン政府は事前に通訳を呼び出し「シリア批判に触れても翻訳しないように」と徹底したという。
モルシ氏は30日にアラビア語で演説。自国で起きた民主化運動「アラブの春」に言及したうえで「その後、リビアやイエメンでも続き、現在は圧政的な政権に対抗する革命がシリアで起きている」などと語った。しかし、通訳は繰り返し「シリア」の国名を、「バーレーン」に置き変えてペルシャ語に翻訳した。翌日の保守系紙は、モルシ氏のシリア批判を一切伝えていない。

イランは、自国と同じイスラム教シーア派系が政権を握るシリア政府を支持している。スンニ派が中枢を支配するバーレーン政府は、シリアの反体制派を支援する一方、国内ではイランが支持するシーア派の反政府デモに悩まされている。
バーレーン政府は1日、イランに謝罪を求めて抗議。バーレーン国営通信も「こうした捏造(ねつぞう)は受け入れがたい」と反発し、外交問題にも発展している。【9月3日 毎日】
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「誤訳」と言うより「ねつ造」ですが、さすがにイラン国内でも“保守系ラジャ通信は2日、「発言をねじ曲げるのは、おかしい」と報道、国内でも物議を醸している”【9月2日 読売】と批判もあるようです。

【「原子力の平和利用」主張の虚構
最近のイランの核開発疑惑については、時間稼ぎ的な欧米とのやり取りのなかで、着実にウラン濃縮能力を向上させている実態が報告されています。
今回の意図的「誤訳」のように自分に都合のいいように真実をねじ曲げてしまう対応をとっていると、核開発に関する国内外に向けた説明の信頼性も失われます。

****イラン:ウラン濃縮能力、5月比2倍に…IAEAが報告書****
核兵器開発の疑いが持たれるイランで今年5月以降、中部フォルドゥの地下施設にウラン濃縮用遠心分離機1000台以上が増設され、濃縮能力を2倍以上向上させていたことが30日、国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長報告書で明らかになった。ウラン濃縮停止を求める欧米の意向を無視して増設を続けている実態が判明。IAEAは9月の理事会で報告書を基にイラン核問題への対応を協議する。

イランは今年2〜5月にフォルドゥで約370台の遠心分離機を増設。5月以降の増設分を合わせると1444台になり、設置総数は2140台となる。現在、稼働しているのは696台にとどまるが、イランは国連安保理常任理事国などと核交渉を続けながら、分離機の増設によって着々と濃縮能力を高めている実態が浮かぶ。

イランは大規模な中部ナタンツの施設で主に濃縮度5%未満のウランを製造する一方、空爆に強い地下施設のフォルドゥでは核兵器転用が容易な濃縮度約20%のウランを製造。両施設で製造された濃縮度20%ウランは計約190キロになり、5月時点より約45キロ増加した。原爆製造には濃縮度を90%以上に高める必要がある。また、核兵器用の高性能爆薬実験が行われた疑いがあるパルチン軍事施設で建物撤去など証拠隠滅の可能性を指摘した。

一方、フォルドゥの施設で先に検出された微量の濃縮度27%ウランについて事務局長報告書では、「技術的なミス」を主張していたイランの説明がIAEA側の追加的な評価結果と「矛盾しない」とした。

イランは「原子力の平和利用」を主張しているが、欧米はフォルドゥ施設閉鎖などを求めて対立している。報告書は「イランが協力を怠っているため、未申告の核物質や活動がないとの確証はもてない」としている。【8月31日 毎日】
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モルシ大統領の「新外交」】
なお、エジプト・モルシ大統領の「新外交」については、“硬軟取り混ぜた現実路線”“対米従属的な外交路線を取ったムバラク政権とは異なる地域ナショナリズム的な主張も掲げる”とも評されています。今後の展開が注目されます。

****エジプト、新外交模索 イラン訪問で対米追従と一線画す****
エジプトのムルシ大統領が、革命後の「新外交」を模索している。米国、イスラエルが敵対視するイランを先月30日に訪問し、ムバラク前政権時代の対米追従路線とは一線を画する一方、イスラエルには「既存の和平条約維持」を約束するなど、硬軟取り混ぜた現実路線だ。

6月末に就任したムルシ氏は、イスラムの理念に沿った「対等、互恵」外交を掲げ、7月11日にまずイスラム教の聖地メッカを抱えるサウジアラビアを訪問。この場で地域の主要国であるエジプト、サウジ、トルコ、イランの4カ国による「中東4者協議構想」を提唱した。内戦状態にあるシリアをめぐり、同国を支援するイラン以外の3国はアサド政権打倒を求めている。シリア問題で国連安全保障理事会が、シリア支持のロシア、中国と政権打倒の米英仏に分断し、機能不全に陥るなか、地域独自の解決策を探る試みだ。

一方、シーア派イランと、サウジを含むスンニ派の湾岸産油国との間では、ペルシャ湾岸の覇権をめぐる主導権争いや対立もある。両国を含む対話の場は、地域全体の緊張緩和や信頼醸成につながる可能性がある。今回のイラン訪問では、イランとの国交回復までは求めなかった。米国やイスラエルの懸念に配慮した形だ。

テヘランで開かれた非同盟諸国首脳会議の場で、ムルシ氏は「シリア人民は自由、公正と尊厳を求める戦いに従事している」と述べ、反体制派への支持を明確に表明。パレスチナ問題では、国家樹立と国連への完全加盟を求めた。
また「アフリカを安保理常任理事国から除外したまま歴史的な不公正を維持することはもはや容認できない」と述べ、「南」の立場から「北」に対し、安保理の改革と拡大、国連総会の役割強化を求めた。

「(革命後の)新生エジプトは、途上国を貧困、依存、疎外の悪循環から救う公正な国際システムの樹立を求める」とも語り、対米従属的な外交路線を取ったムバラク政権とは異なる地域ナショナリズム的な主張も掲げる。
イラン訪問に先立ってムルシ氏は中国を訪れ、経済関係の強化を求めた。日本に対しても、国際協力機構(JICA)を通じたインフラ整備などに強い関心を示している。

9月下旬には、国連総会出席のため、就任後初めて訪米する。ムバラク独裁を支えた歴代米政権に対しては「エジプト人民の利益に反する行為だった」と強く批判するムルシ氏だが、オバマ政権に対しては「革命を支持し、民主化を支援している」と評価。新生エジプトと米国との二国間関係を再定義する機会になるとみられる。(カイロ=石合力) 【9月2日 朝日】
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