孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南アフリカ  労働争議で警官隊発砲 検察は労働者側を起訴

2012-09-01 19:14:28 | アフリカ

(南アフリカ・マリカナ鉱山での労働者と警官隊の衝突 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/7806647706/

アパルトヘイト廃止後の最悪の流血の惨事
8月16日、南アフリカで、プラチナ鉱山労働者のストライキを巡る混乱から警官隊が発砲し、三十数名が死亡する事件が起きています。「アパルトヘイト(人種隔離)廃止後で、警察行動に伴う最悪の流血事件の一つ」とも言われています。

****南ア・プラチナ鉱山スト、労働者と警官隊の衝突で30人超死亡 ****
10日からストライキが続いている南アフリカ北西部ルステンブルク郊外のプラチナ鉱山で16日、労働者らと警官隊が衝突し、労働組合によると36人が死亡した。ナチ・ムテトゥワ警察相は地元メディアに、死者は30人以上と語っている。
一連のストでは15日までに既に警官2人を含む10人が死亡している。

現場は英資源大手ロンミンが所有する鉱山。16日の衝突は、2日間にわたって鉱山付近の丘で座り込みをしていたデモ隊に対し、解散を呼び掛けた警察が催涙ガスや放水、ゴム弾などで強制排除にかかったため起きた。なたや木・鉄の棒などで武装して野営する労働者らに対し、ロンミン側は15日、仕事に戻るよう最終警告を発していた。

労働者側は強制排除の際、警察が実弾も使用したと主張しているが、警察当局は使われた拳銃は先の衝突で死亡した警官から奪われたものだと反論している。また、ムテトゥワ警察相は衝突原因について、一帯を封鎖していた警官に銃やなたで武装した労働者らが近づいてきたことがきっかけだと述べた。
ロンミン側は衝突で死者が出たことについて、鉱山の警備は警察の管轄であって、同社に責任はないと主張している。

同鉱山では10日、一部の労働者が賃金を3倍に引き上げるよう要求してストライキを開始したが、強い影響力を持つ2つの労働組合の対立が絡み、暴力沙汰に発展している。【8月17日 AFP】
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スト労働者と警官隊の衝突の様子については、“地元紙「タイムズ」によると、警察は刃物などで武装した労働者と対峙(たいじ)、武装解除や解散を求めたが、労働者が警察側に近づいてきたため、ゴム弾などに続き、実弾を発砲したという。警察は労働者側が先に発砲したと主張している。
地元紙「スター」は警察の発砲による負傷者を86人と報道している。発砲の様子は、地元テレビ局のカメラなどにとらえられており、ショッキングな映像が波紋を呼んでいる”【8月17日 毎日】とも報じられています。

事件は南アフリカ国内に大きな衝撃を与え、犠牲者追悼行事が行われた日には、国中で半旗が掲げられたそうです。

****南アが悲しみと怒りに暮れた日****
アパルトヘイト(人種隔離政策)の悲劇を克服したはずの南アフリカが、再び激しい怒りと悲しみに覆われた。
北部ルステンブルク郊外のプラチナ鉱山で8月中旬、賃上げを求めるデモを行っていた労働者らに警官隊が銃を乱射してから1週間。銃撃で死亡した36人を含むデモの死者44入を追悼する行事が先週、南ア各地で行われ、国中で半旗が掲げられた。

プラチナ生産世界3位の英ロンミン社が所有するデモ現場の鉱山で行われた追悼行事には、近隣住民や宗教指導者、政治家など500人が参加。事件後に「恐怖の丘」と呼ばれるようになった労働者の殺害現場で、5時間にわたって祈りや歌がささ
げられた。

デモの労働者の中にはなたや梶棒で武装した者もいたため、警官隊はあくまで正当防衛を主張している。ただ容赦なく発砲する様子が動画共有サイトに投稿されると、世界中から非難の声が上がった。デモはほかの鉱山でも発生しており、今後、南アの採鉱業界全体に暴動が波及する恐れもある。

94年にアパルトヘイトが完全撤廃されて以降、最悪の暴力事件に対する労働者たちの怒りと悲しみはしばらく収まりそうにない。【9月5日号 Newsweek日本版】
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鉱山労働者34人を殺害した罪で同じ鉱山の労働者270人を起訴
この事件に関し、検察当局は発砲した警官でなく、“鉱山労働者34人を殺害した罪で同じ鉱山の労働者270人を起訴した”とのことです。

****南ア・プラチナ鉱山の労働争議、同僚殺害で労働者270人を起訴****
南アフリカ北西部ルステンブルク郊外のプラチナ鉱山、マリカナ鉱山で16日に労働者らと警官隊が衝突した事件で、同国の検察当局は30日、鉱山労働者34人を殺害した罪で同じ鉱山の労働者270人を起訴した。

34人は警察が「自衛のためだった」としている警官隊の発砲によって死亡したが、検察側は「共同目的法」を適用して発砲した警官らではなく死亡した労働者の同僚らを起訴した。検察側の報道官は詳しくは来週行われる公判の中で明らかにすると述べた。

与党アフリカ民族会議(ANC)の青年同盟の議長だったジュリアス・マレマ氏は、「労働者を殺害した警官たちは身柄の拘束さえされていないのに、労働者の方を起訴するとは狂っている」と起訴を強く批判した。法律の専門家からも共同目的法の適用を疑問視する声が上がっている。

労働者側は3週間前の10日、月給を4000ランド(約3万7000円)から1万2500ランド(約11万6000円)に上げることを求めてストライキを始めたが、強い影響力を持つ2つの労働組合の対立が絡んで暴力沙汰に発展し、15日までに警官2人を含む10人が死亡していた。今回起訴された270人は警官隊の発砲後に身柄を拘束されていた。

政府は労使交渉を仲介し、鉱山を所有する英資源大手ロンミンと労働組合は30日、前日に続いて2日目の交渉を行った。関係者は、事態打開は近いという見通しを示している。【8月31日 AFP】
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詳しい事情がわからないこともあって、“どうして発砲した警官ではなく、殺害された側のスト労働者を?”という疑問が当然にありますが、与党ANCの青年同盟の議長だったジュリアス・マレマ氏が同様の発言をしているところを見ると、あながち部外者の見当違いの感想でもないようです。

もっとも、マレマ氏については、“過激な主張で黒人大衆に人気を誇る与党・アフリカ民族会議(ANC)青年同盟のジュリアス・マレマ議長(30)が「白人を撃て」と歌うズールー語の歌を集会で多用し、メディアが繰り返し報じた。白人への襲撃事件が慢性的に起きる土地柄でマレマ氏の扇情的な言動に警戒感を強める白人の人権団体は昨年、「襲撃を助長しかねない」と歌の禁止を求めて提訴”【11年9月15日 読売】といったポピュリスト的な人物ですから、同氏と意見が同じというのは、むしろ問題があるのかも・・・・。

【「ネルソン・マンデラ、助けて。私たちの自由を守って」】
南アの警察当局に関しては、芳しくないニュースも目にします。
****南アフリカ:警察長官を解任 汚職容疑で2代連続失脚****
南アフリカのズマ大統領は12日、ベキ・セレ警察長官を解任したと発表した。セレ氏は、契約業者との不透明な関係などを指摘され、停職中だった。大統領はセレ氏の職務継続を不適当と結論づけた調査委などの報告を受け、決断した。南アは警察長官が2代連続で「汚職」の容疑で失脚する異常事態となった。

地元紙が、警察庁舎の賃貸契約を巡って、セレ氏が競争入札を行わないまま不当に契約業者の選定に関与した疑いを報じて発覚。昨年10月から停職処分となり、調査が行われていた。

セレ氏は09年に警察長官に就任。セレ氏の前任で、国際刑事警察機構(インターポール)総裁も務めたジャッキー・セレビ前長官は08年、麻薬密売業者から金品を受け取る代わりに捜査情報などを流した収賄の容疑が浮上。ムベキ大統領(当時)に更迭された後、収賄罪で懲役15年の実刑判決を受け、服役中だ。また、セレ氏とは別の警察幹部も、殺人などの容疑がかけられて現在停職中となっており、警察の威信は地に落ちた状態だ。【6月13日 毎日】
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また、アフリカにおいて民主主義を誇ってきた南アの政治状況については、「民主主義を脅かす」ような動きも報じられています。

****アパルトヘイト時代を思わせる情報保護法案、南ア下院を通過****
南アフリカ下院は22日、機密文書の保持や公開を禁じる国家情報保護法案を賛成多数で可決した。下院の議席は与党アフリカ民族会議(ANC)が大半を占める。
同法案によれば、違反者には最大で禁錮25年の刑が科される。社会の利益となる情報も対象になることから、「民主主義を脅かす」「汚職の実態が暴かれなくなる」などと物議を醸していた。

ケープタウンの議会を傍聴していたジャーナリストらは、法案が可決されると、怒りをあらわに退場した。議場の外では黒服姿の数百人が「ネルソン・マンデラ、助けて。私たちの自由を守って」「リビア、エジプト、チュニジア、次はANC?」と書かれたプラカードを掲げてデモ行進した。

最大野党の民主同盟と南アフリカ記者クラブは、法案が大統領の署名を経て成立した場合には、憲法裁判所に提訴する方針を示した。
法案可決を受け、デズモンド・ツツ元大主教とネルソン・マンデラ記念館はそれぞれ憂慮を表明した。

南アフリカのノーベル文学賞受賞者、ナディン・ゴーディマ氏も、21日に行われたAFPとのインタビューで、法案は言論の自由を制限したアパルトヘイト(人種隔離政策)時代へ逆行させるものだと、ANCを批判している。【11年11月23日 AFP】
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かつてネルソン・マンデラ氏が反アパルトヘイト闘争を戦った与党アフリカ民族会議(ANC)は今年1月、結成100周年を迎えました。しかし、貧困や格差が依然解消されず、政権内部に不正・汚職が蔓延していることから、支持離れが加速していると報じられています。

****南アフリカの与党ANCが100周年 人気は下降線****
反アパルトヘイト闘争の中心になった南アフリカの与党、アフリカ民族会議(ANC)が8日、結成100周年を迎えた。アパルトヘイト政策撤廃後17年にわたって政権を担ってきたが、党内対立や幹部による汚職疑惑などが相次ぎ、支持離れが加速している。

同日、結成地の中部ブルームフォンテーンで記念式典を開催した。式典には、ズマ大統領らANC幹部のほか、アフリカ各国の高官らが出席し、支持者10万人以上が集まった。ズマ大統領は演説で「党だけではなく全国民にとってのお祝いだ」と融和を強調した。

ANCの前身、南アフリカ原住民民族会議(SANNC)は、英自治領南アフリカ連邦下の1912年に結成。40年代後半から黒人差別が強まると反対闘争の中心組織になり、60年に非合法化された。その後武装闘争に踏み切り、責任者だったネルソン・マンデラ氏は27年間投獄された。

白人政権との対話を通じ、90年に合法化され、初めて全人種が参加した94年の選挙で圧勝。マンデラ氏が大統領となり、全人種平等を柱とする新憲法を制定した。こうした功績から09年の総選挙で6割を超える得票を得るなど、支持率自体は依然高い。

だが、貧困や格差が一向に解消されないことに加え、ズマ大統領に過去の武器取引に絡む汚職疑惑が持ち上がるなど、幹部の金銭スキャンダルは後を絶たない。反アパルトヘイトで戦った時代の記憶は薄れ、拝金主義のイメージが強まっている。

ヨハネスブルク大学社会学部のザイルスカラカンプ准教授は、ANCの人気は今後落ちる一方だと指摘。「現在の支持は他に選択肢がないからだ。高い失業率、インフラと教育制度の未整備。この現状に、国民は選挙に関心がなくなっている」と話した。

■「貧しい者、さらに貧しく」非白人居住区
最大都市ヨハネスブルク郊外にあるアパルトヘイト時代の非白人居住区ソウェト。闘争の象徴的な地でもANCへの失望が漏れ、若者からアパルトヘイトの現実感が薄れてゆく声も聞こえた。
ソウェトは、水道や電気が通っていない住宅も多い。地元で治安の悪さから警官も立ち寄らないと言われるバガスポロ地区では、汚水が砂利道を流れていた。

自称ダンサーのマゴフェニさん(21)は「仕事もないのに税金を払わされる。ANCに何の期待もできない」という。アパルトヘイト時代の記憶はなく、「強制労働でも仕事があっただけ、アパルトヘイトの方が民主主義よりましだ」とまで語る。
ンコーンさん(41)はANC党員。それでも「腐敗にはあきれる。富める者はさらに富み、貧しい者はさらに貧しくなった」と批判する。

高い失業率は、治安の悪化にもつながる。公式統計では約24%だが、実際には4割を超えるとされる。南アフリカの2010年度の殺人事件は未遂も含めると3万1433件で、住居侵入盗は約25万件に上る。
常習強盗のナマニーさん(41)は、「リスクが高いからやめたいが、家族10人を養わないといけない」という。週2回ほど、銃を持って乗り合いバスで高級住宅街に出かける。多い月で8千ランド(約7万5千円)を稼ぐ。「昔は白人が憎かったが、今は誰でもいい。誰もが金のことしか頭にない」と語った。

世代間で思いも異なる。高校生のボディベさん(18)はアパルトヘイトに現実味がない。「マンデラは27年も牢獄にいたからすごい、と言われる。だけど他の人でもできたと思う」
ソウェト北方のエバトンに住むムシーディさん(63)は、シャープビル事件で警官隊に撃たれ左目の視力を失った。長く闘争に加わった。「100周年を祝う。私たちの唯一の大統領、マンデラが生きて一緒に祝えるから」と語った。【1月9日 朝日】
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新興国として注目を集める南アですが、他の成長著しい国同様に、貧富の格差が成長過程でむしろ顕在化することが社会不安を大きくしているようです。
そのことに適切に対応できない与党ANCは、反アパルトヘイト闘争の遺産を食い潰しつつあるように思われます。


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