孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

緊張高まる尖閣周辺

2012-09-19 23:25:10 | 中国

暴徒化は抑制の方向
中国で暴徒化する反日デモについては、理性を欠いた行為への怒りや「どうしてこんな形にしかならないのか・・・」という疲労感などを覚えますが、報じられているように中国当局も、暴徒化するような事態は抑える姿勢を見せています。

よく言われるように、反日デモは社会不満のガス抜きにはなりますが、放置すると現政権批判に容易に転化します。
今回デモにおいても、毛沢東の肖像が掲げられる光景が見られます。中国国内には失脚した薄熙来に代表されるような、現在の開放政策による格差拡大を批判する回帰的な左派勢力もあります。大衆行動が拡大すると、かつての文化大革命のような事態にもなりかねません。
17日には、広東省深セン市で反日デモの一部が暴徒化。市共産党委員会の建物に入ろうとして武装警察と衝突したため、警察側が放水し催涙ガスなどを発射、負傷者や拘束者が出ています。

また、これから国際社会で重きをなそうとする中国にとって、暴徒化し群衆の様子はイメージダウンにもなります。放置するとどこまで飛び火するかわかりません。

****反日デモで米大使の車被害 北京、50人に囲まれ破損****
北京の米国大使館によると、反日デモが行われていた北京で18日午後、ゲーリー・ロック駐中国大使が乗った車が約50人のデモ隊に取り囲まれ、車が一部破損した。大使にけがはなかった。

米国大使館は、1万人前後のデモ隊が抗議活動をした日本大使館に近く、公務を終えて大使館に戻ろうとした大使の車が巻き込まれた模様だ。米国が日本と緊密な同盟関係にあることから、中国人の怒りの対象になったとみられる。米国大使館は18日、中国外務省に懸念を伝え再発防止を求めた。【9月19日 朝日】
********************

習近平国家副主席、強硬策を主導
そんなこんなで一時の過激な抗議行動はとりあえず山を越した感がありますが、日本の国有化に対し中国指導部が厳しい姿勢であることには変わりありません。国内の抗議行動を抑制するためにも、日本に対し厳しい姿勢を維持する必要があります。

当初は中国側も国有化に関しては、中国にとって敵対的な石原都知事の東京都が購入するくらいなら、国有化によって安定的に管理されたほうがいい・・・といった姿勢でした。それが、国有化断固反対に変わってしまったのは、中国指導部の事情があるとも報じられています。

****中国125都市 反日デモ 胡政権の路線否定 習副主席主導で強硬転換****
日本政府による沖縄県・尖閣諸島の国有化を受け、中国で一連の強硬な対抗策を主導しているのは、胡錦濤国家主席ではなく、中国共産党の次期総書記に内定している習近平国家副主席であることが分かった。胡政権による対日協調路線が中国の国益を損なったとして、実質上否定された形。中国政府の今後の対日政策は、習氏主導の下で強硬路線に全面転換しそうだ。

複数の共産党筋が18日までに明らかにした。それによれば、元・現指導者らが集まった8月初めの北戴河会議までは、党指導部内では尖閣問題を穏便に処理する考えが主流だった。「尖閣諸島を開発しない」などの条件付きで、日本政府の尖閣国有化についても容認する姿勢を示していた。

しかし、8月10日の韓国の李明博大統領による竹島上陸や日本世論で強まる中国批判などを受け、状況が一変した。「なぜ中国だけが日本に弱腰なのか」と党内から批判が上がり、保守派らが主張する「国有化断固反対」の意見が大半を占めるようになったという。

9月初めには、胡主席を支えてきた腹心の令計画氏が、政権の大番頭役である党中央弁公庁主任のポストを外され、習氏の青年期の親友、栗戦書氏が就任。政策の策定・調整の主導権が習氏グループ側に移った。
軍内保守派に支持基盤をもつ習氏による、日本の尖閣国有化への対抗措置は胡政権の対日政策とは大きく異なる。胡氏はこれまで、日本製品の不買運動や大規模な反日デモの展開には否定的だったが、習氏はこれを容認し推奨した。

また、国連に対し東シナ海の大陸棚延伸案を正式に提出することも決定。尖閣周辺海域を中国の排他的経済水域(EEZ)と正式宣言することに道を開き、日本と共同で資源開発する可能性を封印した。これは、2008年の胡主席と福田康夫首相(当時)の合意を実質的に否定する意味を持つ。このほか、中国メディアの反日キャンペーンや、尖閣周辺海域に監視船などを送り込んだことも含め、すべて習氏が栗氏を通じて指示した結果だという。

習氏が今月約2週間姿を見せなかったのは、一時体調を崩していたことと、党大会準備や尖閣対応で忙しかったためだと証言する党関係者もいる。習氏が対日強硬姿勢をとる背景には、強いリーダーのイメージを作り出し、軍・党内の支持基盤を固める狙いもある。【9月19日 産経】
*********************

次期国家主席の習近平氏が日本に対し強硬な姿勢を取り続けるとなると、この先も日本にとっては難い局面が多々ありそうです。
実際、19日の習近平氏とパネッタ米国防長官と会談で、習近平氏は日本の尖閣国有化を厳しく批判しています。
ただし、現在の胡錦濤国家主席との権力闘争的な権限移譲の期間における姿勢と、日本との関係を含めた国家運営の全責任を負う形になったときの姿勢では、異なる面が出ることも十分あり得ます。

また、中国共産党指導部内の話は、基本的によくわかりません。
習近平氏などは、つい数日まで公に姿を見せず、暗殺説・重病説まで飛び交ったぐらいです。
また、例えば、胡錦濤主席による“院政”の基盤となる中央軍事委員会主席留任について、今日は下記のように報じられていますが、以前から、留任が内定したとか、江沢民派との人事の綱引きで留任をあきらめたようだとか、そのときどきで二転三転する情報が流れています。
要するに中南海の出来事は外部の人間にはよくわからないということです。ですから、上記産経記事も、どこまで実態を反映しているのかよくわからないところがあります。

****胡主席、軍事委留任の可能性大=中国指導部人事で元香港長官****
米CNNテレビのウェブサイトによると、元香港行政長官で中国の国政助言機関、人民政治協商会議(政協)副主席を務める董建華氏は18日、CNNとのインタビューで、胡錦濤国家主席は江沢民前主席と同様、今秋の第18回党大会などで共産党総書記と国家主席を辞めた後も中央軍事委員会主席に留任する可能性が大きいと述べた。

香港親中派要人が中国指導部人事に言及するのは異例。董氏は「これまでの慣例により、胡氏はしばらく軍事委主席のポストにとどまるだろう」と語った。江氏は2002~03年に党総書記と国家主席を退任した後も、軍事委主席を2年続投した。【9月19日 時事】
*******************

尖閣周辺でつばぜり合い
反日デモを巡る報道のなかで、一番興味深かったのは、中国国内で日本と「戦争になる」との流言が飛び交って、市民が塩を買い求めて列をつくるような現象も出ているとの記事です。

****尖閣「戦争になる」中国でデマ…食塩求め大行列****
中国共産党機関紙、人民日報(電子版)は17日、日本の尖閣諸島国有化を巡って日中間の対立が深まる中、中国浙江省温州市の一部地域で市民多数が食塩を買い求めて長蛇の列を作っていると伝えた。

ネット上で「戦争になる」と流言が飛び交ったことが原因で、値上がりを懸念し買い占めに走ったとみられる。「多くの人々がコメも買いあさっている」との情報もあるという。
温州市当局は「市民が突然食塩を買うようになった原因は不明だが、食塩は2か月分の十分な備蓄がある。デマを信じないようにしてほしい」と呼びかけている。

一方、中国紙・環球時報が17日に掲載した世論調査によると、尖閣諸島問題をめぐり日中両国間で「戦争が起こる可能性がある」との回答は52・3%で、「可能性は低い」の43・2%を上回った。調査は14~16日に北京や上海など主要7都市で実施され、有効回答は1509件だったという。【9月17日 読売】
********************

中国国内での情報の混乱ぶりが窺えますが、ただ、こうした現象を嗤ってばかりはいられません。
尖閣周辺には今のところは“1千隻の中国漁船”はまだ現れていないようですが、中国側の対日圧力の一環として、過去に例のない規模の漁業監視船「漁政」と海洋監視船「海監」の中国公船が大挙押し寄せて、日本側との緊張が高まっています。

“尖閣を管轄する第11管区海上保安本部の大型巡視船は7隻。数で劣勢に立つ恐れがあるため、海保は、40ミリ機関砲を装備した高速高機能大型巡視船「あそ」を周辺海域に派遣するなど全国から応援を回し、警備レベルを上げている。”【9月19日 産経】

漁船とは異なり公船は無茶はしないという側面もありますが、万一突発的なトラブルが生じると、公船だけに両国とも後に引けない事態ともなります。

****海保、中国監視船取り囲む 尖閣周辺でつばぜり合い****
日本の領海に迫る中国の漁業監視船や海洋監視船、これに並走して引き返すよう呼びかける海上保安庁の巡視船。18日、尖閣諸島周辺の海域で繰り返されたつばぜり合いを、朝日新聞社機で上空から見た。

午後1時過ぎ、魚釣島から北西約50キロ付近の公海上で、中国国旗を船尾にはためかせた海洋監視船4隻が1キロほどの間隔で悠然と魚釣島方向へ向かっていた。進路を先回りする形で機首を向けると、さらに2隻。海保のヘリコプターが低空飛行で後を追っていた。

白波を立てて海保の巡視船1隻が追いかけてきた。中国船の倍近い速度。みるみる距離が縮まる。中国船の先頭に並ぶと速度を合わせ、500メートルほど離れて並走する状態になった。領海の外22キロ以内の接続水域に入った辺りだ。進路を変えるよう中国側に呼びかけているのだろうか。【9月19日 朝日】
******************

国際的第三者機関の判断に委ねる道は?】
一触即発とも言えるような状況です。
何事も起きないうちに事態が安定化することを願いますが、“つばぜり合い”は更にヒートアップするのかも。

こうした緊張関係を打開する方策は、正直なところ存在しないように思えます。
トラブルが起きないように慎重に対応しながら、中国側が冷静さを取り戻す時間を何とかかせぐしかないのではとも思われます。
18日にも魚釣島に日本人2人が上陸していますが、こうした行為は事態を混乱させるだけです。

領土・国境線というのは、不法占拠にしろ、条約・協定によるものにせよ、結局はそのときどきの力関係を反映したものです。本来どうあるべきかについては、唯一絶対の真理というようなものではなく、立場が異なれば異なる主張が存在しうるようなものに思われます。
両国の主張がぶつかる場合は、互いに妥協するしか解決策はありませんが、両国とも妥協できないということであれば、かつ、戦争は回避したいということであれば、国際的第三者機関の判断に委ねるのが残された対応でしょう。戦争も辞さないということなら話は別です。

韓国が竹島について言っているように、尖閣は日本固有の領土であり、領土問題は存在しない・・・というのもわかりますが、中国がそれを認めないというのであれば、第三者の判断に委ねて決着をつけるのも、いつまでも対決姿勢を続けるよりは賢明なのでは。

当然に日本側の主張に理があるのでしょうから、日本の望む形に近い結論が出ることでしょう。
万一、異なる判断がなされるのであれば、第三者的には必ずしも日本の主張を是としないということですから、日本としてもそれを受け入れて問題を決着させる覚悟で。
場合によっては、国際法的に可能であれば、共同施政権者あるいは国連による信託統治という形でもかまわないのでは。

やはり尖閣の領有権を主張している台湾では国際司法裁判所に提訴という話も出ているようですが、国連に籍を持たない台湾ではそれも難しいのでは。
中国は勝算の少ない訴訟には今のところ言及はないようですが、日本側が“領土問題を認める”というところへ降りるということで、話の持っていきようでは中国の顔も立てながら裁判に委ねるというのは・・・・どうでしょうか。尖閣で裁判に持ち込むと、南沙諸島・西沙諸島にも波及するので難しいのでしょうかね・・・。

いつまでも政治的・経済的、あるいは軍事的チキンレースを続けるのは、犠牲・損失が大きくなるだけで意味があることには思えません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする