孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  再び広がる洪水 インラック首相、1年目の評価は・・・

2012-09-17 21:48:29 | 東南アジア

(スコータイ市の洪水被害を視察するインラック首相(中央女性) 今年は逞しさも・・・。【9月13日 newsclip.be】(http://www.newsclip.be/news/2012913_035685.html)より)

インラック首相、今年の洪水対策に自信
タイでは昨年10月から11月にかけて、首都バンコクを含む広範囲で洪水に見舞われ、多くの日本企業もその被害を被ったことは、まだ記憶に新しいところです。
そのタイで、今年もまた洪水のニュースが報じられています。

****タイ北部と中部 洪水被害が拡大***
昨年、大規模な洪水被害に見舞われたタイでは、今月に入り大雨による洪水が、北部と中部を中心に再び発生している。被害は17県に拡大し、古都スコタイ県では7割が水に漬かり、政府は対応に追われている。

洪水は北部ナコンサワン県、中部アユタヤ県、東部サケオ県などに広がり、少なくとも4万3000世帯が被災し、4人が死亡している。スコタイ県ではヨム川が氾濫して複数の堤防が決壊し、中心部に水が流れ込んだ。多くの日系企業の工場があるアユタヤ県では、5500世帯が浸水し、県庁舎なども被害を受け、一部の郡が洪水災害地域に指定された。

こうした事態を受け、インラック首相は13日、両県などを視察し、救援・復旧作業に全力を挙げる方針を表明した。首相は「運河や川の水量は昨年より低く、水を管理できる」と自信を示している。【9月17日 産経】
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インラック首相は周知のように、ここ数年のタイ政治混乱の原因ともなっているタクシン元首相の妹さんです。
海外亡命中の兄に代わって、急遽政治の世界に飛び込み、政治に関しては全くの素人ながらその愛らしさでブームを巻き起こし、タクシン派を選挙で勝利に導き首相に就任しました。

昨年は、そうした首相就任直後に襲った大洪水ということで、いささか不運とも言える状況のなかで、その指導力について辛口の評価もあり、また、本人も大分混乱した様子でした。

****タイ洪水:都知事、首相の「楽観」批判 対策でも政争****
・・・・インラック首相は午後2時半ごろ、いつものパンツスーツ、パンプス姿でプラナコン地区の堤防に現れた。前夜の浸水でぬかるみになった場所が残っていたが、軍が事前に厚い板を敷き、首相が歩く範囲は乾いていた。

軍による堤防設置状況などの説明に首相は笑顔を見せながら、「状況は昨日よりよくなっているようだ」と楽観的に語り、足早に立ち去った。視察場所からわずか200メートル離れた川沿いの商店街がすでにくるぶしまで水浸しになっていたことには、気づいていない様子だった。その姿は、25日夜の緊急テレビ演説で警告した同じ人物とは思えなかった。(後略)【11年10月26日】
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****タイ洪水手詰まり、声震え涙目のインラック首相****
タイの首都バンコクの全域が冠水する危険が高まる中、インラック政権の対策は手詰まりの様相を呈している。
政府の対策本部があるドンムアン空港では27日、洪水で建物の一部が停電し、本部自体が孤立する恐れも出てきた。政権の見通しの甘さや後手に回る対応に、市民や被災した日系企業などは批判を強めている。

インラック首相は27日、記者団に「大量の水を海に至急流すことと、早期の復興計画作りが必要だ」と一般的な方針を述べた。声は震え、目にうっすらと涙がにじむ。記者団に泣いているのかと聞かれ、「泣いていないし、これからも泣かない」と反論したが、国民には、未曽有の危機に対処できる指導者の姿には映らなかった。【11年10月27日 読売】
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しかし、涙をにじませませながらの頑張りもあって、国民的人気は未だ衰えていないと聞きます。
今年は洪水対策も2年目ですから“自信”もついたのでしょうか。
今年は、ジャブジャブと膝まで水のつかっての現地視察も行っています。

****インラク首相、洪水被災地を視察****
インラク首相は13日、中部アユタヤ県と北部スコータイ県、ナコンサワン県の洪水被災地をヘリコプターや徒歩で視察し、被災者に救援物資を手渡すなどした。
首相が視察で訪れたアユタヤ県の学校は1階が浸水し、2階で授業を行っていた。スコータイ市では9日に決壊したヨム川の堤防の復旧工事の状況を視察した。(後略)【9月13日 newsclip.be】
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もちろん自然相手の話ですので、バンコク近隣について再度洪水に襲われる危険があるとの警告も出しています。

****バンコク近隣2県、洪水に襲われる恐れも****
インラック首相は9月12日、政府は洪水対策に力を入れているものの、集中豪雨で河川の水量が急激に増加した場合、バンコクに隣接するノンタブリ、パトゥムタニ両県の一部が昨年のような深刻な洪水に見舞われる恐れがあるとの見方を示した。

バンコクについては、西側、東側とも排水能力が昨年に比べて向上しており、深刻な洪水が発生する可能性は低いという。
ただ、洪水防止には迅速な対応が欠かせないとして、インラック首相は、川岸の住民に対し、異変を感じたらすぐに当局に連絡してほしいと呼びかけている。【9月13日 バンコク週報】
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毎年洪水に見舞われるなら、いっそのこと「水陸両用住宅」を作れば・・・という話もあるようです。
水上生活者というのはベトナム、カンボジアでもよく目にします。
タイの川岸で見かける「水とともに暮らす」人々の様子からすれば、「水陸両用住宅」というのは現地事情によく適合したアイデアかも。

****洪水対策の切り札? 水に浮かぶ「水陸両用住宅」、タイで開発中****
タイ中部のアユタヤ県で、洪水になると浮かぶ「水陸両用住宅」の開発が進められている。2階建てのプレハブ住宅で、販売価格150万バーツを想定。タイ住宅公社が民間企業に設計を委託し、年内にプロトタイプが完成する見通しだという。

タイでは毎年のように大規模な洪水が発生している。特に昨年は中部の工業団地やバンコク都内のかなりの部分が1カ月以上水没し、大きな被害が出た。【9月13日 newsclip.be】
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【“何とか無事に過ごした一年”】
インラック首相の評価に関しては、先述のように厳しい見方もありますが、「まあ、いいか・・・」と許してしまいたくなるところは、そのルックス・イメージによる恩恵でしょうか。

タイへの日本企業進出のコンサルタントをされている辻本 浩一郎氏の評価は“何とか無事に過ごした一年”というものですが、実兄タクシン元首相の処遇に対して、今後どの様なリーダーシップを発揮するのかという点が指摘されています。

****インラック首相就任から1年、タイ国内での評価はいかに!?****
インラック政権が誕生してから1年が経過した。実兄タクシン氏の操り人形と揶揄されながらも、その端正な美貌で総選挙に勝利を収め、インラック旋風を巻き起こした。

しかし、国会の答弁で数字を読み間違えたり、固有名詞を間違えたりして物議を醸し、読む本は女性雑誌のみ…、何よりも喋らぬ事が重要とまで言われたが、次第に間違いも少なくなり、海外よりの要人とも無難に対応し、外交でもその容姿端麗を武器に、何とか無事に過ごした一年と感じている。

就任早々の昨年10月に大洪水に見舞われたことは不幸ではあったが、経験のない彼女の対応に大いなる非難を受けながらも、その涙を流しながらインタビューに答える姿で何とか難局を乗り切った。女性の涙とは恐ろしいものである…。

与党の取り巻き連中は何とか総帥タクシン氏の帰国を実現しようと、司法や世論を敵に回し、憲法改正までして実現しようと画策して大問題となったが、この間インラック首相は何も発言をせず、沈黙を守った事は評価したい。

さしたる成果が無かったとの批判はされているが、彼女自身の運もあるのか、目下は日本からの進出や拡張が絶好調で、日本民主党の大失策の数々のお蔭で(?)タイ国内の失業率は0%となり、どちらかというと“何もする必要性が無かった”といった方が良いのではないかと思う。

最近では、最低賃金を公約通り300バーツに上げた事も影響してか、物価の上昇が目立って来ている。世論調査でも、改善すべき点の87%が物価高への対応と答えている。

首相の見た目の良さと、頑張っている姿勢が国民からは評価されているが、今後は首相の取り巻きからしつこく出てくるであろうタクシン氏帰国問題、実兄の処遇に対してどの様なリーダーシップを発揮するのかという点に注目したい。

因みに、米国雑誌フォーブスが選ぶ「世界で最もパワフルな女性100人」の中で、第30位にインラック首相がランクインした。1位は独のメルケル首相、2位が米のクリントン国務長官、19位にはミャンマーのスー・チー氏、日本人女性は残念ながらゼロであった。【9月10日 thai plusone 辻本 浩一郎】(http://thai-plusone.asia/column/ma20120910/
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インラック首相も2年、3年と経過して首相としての自信をつければ、何も無理して兄に帰ってきてもらわなくても・・・と思うようになるかも・・・。

【「大衆迎合政策」への批判も
もうちょっと厳しい評価もあります。

****タイ経済に減速の兆し 政権の「大衆迎合政策」が原因****
好調に見えるタイ経済に、インラック政権の「大衆迎合政策」がブレーキを掛けそうになっている。実際、八月に入り、タイ中央銀行が今年度以降の国内総生産(GDP)成長見通しを下方修正し、貿易や各種指標も悪化している。

政府系のタイ開発研究所は、この原因について、政権による大衆迎合政策を指摘し、「このままでは、十年後に大惨事になる可能性がある」と警告。「ギリシャのようになる」と指摘する研究者もいる。

インラック政権は昨年来、最低賃金引き上げ、公務員給与引き上げ、国産車購入への補助、農家へのコメ担保融資制度などの政策を新設、あるいは拡充・継続してきた。
その結果、最低賃金引き上げによる、外資企業の近隣諸国への移転を招き、コメ担保融資では価格低迷による「迷ザヤ」が発生し、国庫による穴埋めが取り沙汰されている。

今年上半期のタイヘの国別投資申請を見ると、過半を日本企業が占める。同国経済の減速は日本とも無縁ではない。【「選択」9月号】
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政府がコメを高値で買い取るインラック政権のコメ農家保護政策の失敗については、下記のようにも報じられています。
“タイ産米の価格を高めることで国際市場全体の相場上昇を期待していた”とのことですが、競合国が存在するなかで、タイにそこまでの価格形成力があるという発想は理解に苦しむところです。かつての石油メジャーなど、よく巨大企業が価格をコントロールしている・・・と言われますが、独占企業で、新規参入を阻止できるような立場になければ、市場を無視した価格形成はできません。

****タイ:コメ輸出世界一から転落 政策による価格高騰が影響****
タイのコメ輸出量が今年に入って半減し、約30年ぶりに「世界最大のコメ輸出国」の座から転落する見通しとなった。政府がコメを高値で買い取るインラック政権の政策によりタイ産米の市場価格が高止まりし、国際競争力が低下したためだ。
政権の支持母体である農民に対する“人気取り”が、かえってコメ産業全体を衰退させかねない事態を招いており、国内では批判の声が高まっている。

タイは80年代以降、コメ輸出市場のシェアで首位を維持してきた。しかし地元紙によると、今年前半のタイ産米の輸出価格は1トンあたり671ドル(約5万2000円)に高騰。インドやベトナム産に比べて3割近く高く、国際市場における売れ行きが伸び悩んでいる。

今年7月までの輸出量は約360万トンに留まり、すでに前年比で約45%減少している。タイ・コメ輸出協会は、通年の輸出量は最終的に前年の4割減、650万トンにまで落ち込み、後続のインドやベトナムに追い抜かれるとの見通しを示した。

価格高騰の原因は、昨年7月の総選挙で誕生したインラック政権による農家保護政策だ。市場価格の1.5倍で政府が買い取ることで、農村地域の支持基盤強化を狙った。だがその結果、タイ産米の価格は前年比で19%上昇し、「この政策が続けばタイ産米が海外で売れなくなり、結果的に農家も崩壊する」(コメ輸出協会幹部)との懸念が高まっている。政府はコメを無条件で買い取るため、あえて低品質のコメを作付けする農家も出始めているという。

タイ政府は当初、タイ産米の価格を高めることで国際市場全体の相場上昇を期待していたとされる。ところが他国産のコメの品質向上やインド産米の輸出解禁などでもくろみが外れ、現在、政府が抱えるコメの備蓄は約1600万トンにものぼる。コメの買い取り政策には既に約80億ドル(約6300億円)の予算が費やされており、野党からは、インラック政権の「失政」を批判する声が強まっている。【8月10日 毎日】
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最低賃金引き上げについては、前出の辻本 浩一郎氏は次のように評しています。

****タイ最低賃金引き上げのその後****
4月から引き上げられた最低賃金であるが、その後、5,000件を越える苦情が労働局に提出されている事が伝えられた。労働局がこの問題に対処しない事についても苦情が殺到している。

約半数は、未だに賃金が上げられていないとするもので、次に多いのが、賃金は上げられたが、逆に福利厚生費が削減されたり、労働条件が悪化したというものである。

勤務年数の長い従業員からは、最低賃金の上昇に併せ、自分達も昇給させろとの要求が出されているが、経営者は、これを逆手に取って、これ等高齢者を解雇し、若い低賃金の人材を採用するケースが増加した事に不満が募っている。

最低賃金引き上げは、労働者の家計を改善し、労働者を幸せにする事を目論んだものであるが、実際にどれだけの労働者が幸せになったか、疑問を呈する状況に成っている。【8月20日 thai plusone 辻本 浩一郎】(http://thai-plusone.asia/column/ma20120820/
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もっとも、農家保護政策にしろ、最低賃金引き上げしろ、そうしたバラマキ政策はインラック首相個人と言うよりは、タクシン元首相及びその支持勢力の政策の特徴でもあります。

【「タクシン氏は私が尊敬する先輩」】
では、そのタクシン元首相の帰国を可能にするような動きはどうなっているのか・・・という話になりますが、“ある期間の政治犯を全て無罪とする”という趣旨の憲法改正によって元首相の帰国を可能にしようという国民和解法案の審議は、違憲訴訟や野党・反タクシン派市民勢力の反対もあって、遅れているようです。
そんななかで、“面白い”記事がありました。

****タイ:逃亡中のタクシン元首相、警察トップと蜜月****
汚職罪で有罪判決を受け海外逃亡中のタイのタクシン元首相が、滞在先の香港でタイ首都圏警察長官の新任を祝う写真がタイの地元紙に掲載され、「“犯罪者”と警察の癒着だ」と批判の声が上がっている。

写真では、タクシン氏がカムロンウイット首都圏警察長官に階級章を授与するポーズを取っている。日付は6月29日で、カムロンウイット氏の長官就任が決まった直後にあたる。写真の左下には昇進を祝うタクシン氏のメッセージが記されている。

カムロンウイット氏は、タクシン氏が滞在する香港を訪れて面談したことを認めたうえで「(警察官僚出身の)タクシン氏は私が尊敬する先輩であり、悪いことだとは思っていない」と主張。しかし、反タクシン派からは「タクシン氏が警察人事に介入したのではないか」などと批判が上がっている。【9月8日 毎日】
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