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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  メドベージェフ首相の権限弱体化 世界に広がる「プッシー・ライオット」裁判批判

2012-09-27 22:38:57 | ロシア

(“反プーチン”の象徴ともなった「プッシー・ライオット」 この威勢のよさは圧巻です “flickr”より By jorge artajo http://www.flickr.com/photos/13977584@N08/8022985342/

首相解任の見方も
ロシアではプーチン大統領による反政府運動に対する締め付け、強権的な体制立て直しの動きが進み、リベラル色もあるメドベージェフ首相との関係も悪化しているのでは・・・という話は、9月2日ブログ「ロシア グルジア紛争開戦をめぐり憶測されるプーチン・メドベージェフの溝」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120902)でも取り上げたところです。

プーチン大統領とメドベージェフ首相の関係はその後も悪化が窺われ、“解任”も予測も取り沙汰される状況になっています。

****ロシア メドベージェフ氏「首相の座」ピンチ 覆される政策/3閣僚懲戒処分****
ロシアのプーチン政権で首相を務めるメドベージェフ前大統領の弱体化が顕著になってきた。5月に就任したプーチン大統領はメドベージェフ前政権期の政策をことごとく覆しており、最近は予算編成をめぐってメドベージェフ内閣の3閣僚を懲戒処分にした。
メドベージェフ氏がプーチン氏を頂点とする権力エリートの一翼を担う存在にすぎないことが鮮明になっており、政権内の派閥対立が深まる兆候もある。

メドベージェフ氏は政権内のリベラル派とされ、前大統領期には政治・経済の国家統制を緩める方向で独自色を出そうと試みた。集会の規制強化法案に拒否権を行使する一方、刑法から「中傷」罪を削除したり、非政府機関(NGO)に関する法制を簡素化したりしたことが挙げられる。

これに対し、通算3期目のプーチン政権はこれら全てを元に戻したのみならず、NGOの統制を大幅に強めるなど正反対の方向にかじを切っている。

プーチン氏は今月19日、5月の大統領令で命じた内容が2013~15年の予算案に盛り込まれていないとし、地域発展相ら3閣僚を懲戒。プーチン氏が大統領選前に公約した大学教員や医師の給与引き上げ、極東開発といった政策について予算措置がとられていないことに激怒したもので、メドベージェフ氏を公然と叱責したに等しい。
今やメドベージェフ氏の権威失墜は明らかで、プーチン氏がある時点で首相を解任するとの見方も有識者の間では根強い。

ただ、そもそもプーチン氏の選挙前公約は2兆8千億ルーブル(約7兆円)相当と試算される“バラマキ”であり、「公約の実現と均衡予算の達成は解決策のない課題」(ノーバヤ・ガゼータ紙)とみられている。
メドベージェフ氏は財源不足を補うため、国営石油・天然ガス企業「ロスネフチガス」の配当金の95%を予算に組み込む案を承認。同社は露指導部のシロビキ(治安・特務機関出身者ら武闘派)を代表するセチン氏が率いており、これはシロビキの権力基盤に切り込む動きとみられている。

露政治学者、ミンチェンコ氏らが8月に発表した報告書によると、露指導部はシロビキなど利害の対立する複数の派閥から構成され、プーチン氏は「裁定者」として権力を保持している。プーチン氏の政権運営には常に、派閥間の微妙なバランスが崩れるリスクがつきまとっている。【9月24日 産経】
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“メドベージェフ首相は21日、国際投資フォーラムで演説し、プーチン氏が首相時代の08年に病気を理由に会合を欠席した鉄鋼大手社長に対し「医者を送って始末する」と発言したことを批判的に紹介。2人の亀裂を印象付けた。
メドベージェフ首相を巡っては最近、大統領時代の08年に起きたグルジア紛争で軍事介入の決断が遅れたとの批判が浮上。首相の改革の目玉として昨年導入された夏時間の通年適用が市民に不評で、来月から冬時間の通年適用に改める動きが進んでいる。いずれもメドベージェフ首相の権威失墜につながるものだ。”【9月26日 毎日】とも報じられています。

メドベージェフ首相をめぐる動きは、単に、リベラル色の施策をめぐる対立ではなく、プーチン大統領周辺のシロビキ既得権益層との権力争いという側面が強いようです。

昨年9月の与党「統一ロシア」党大会で「ポスト交換」を発表して1年が経過しますが、「双頭体制」とは言っても、実態はプーチン大統領が全てを仕切っているとされています。
ただ、メドベージェフ首相の解任云々は、全世界にロシア・プーチン政権の強権支配的方向への変質を公言するようなもので、敢えてそこまでするでしょうか?
今以上に首相の実権を制約して、お飾り的存在にするというのが現実的なように思えます。

正念場を迎えている反プーチン運動
プーチン政権による反政府勢力締め付けの動きのひとつとして、野党「公正ロシア」のグトコフ議員の議員資格剥奪が報じられています。

****ロシア:反プーチン下院議員の資格剥奪 野党は反発強める****
ロシア下院は14日、プーチン大統領を批判してきた野党「公正ロシア」のグトコフ議員の議員資格剥奪を与党「統一ロシア」などの賛成多数で決めた。グトコフ氏が議員在職中に禁止されているビジネスをしたというのが理由だが、本人はこれを否定。野党側は「反プーチン勢力つぶしを狙ったものだ」と反発を強めている。(中略)

グトコフ氏はプーチン大統領と同じ旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身で、以前は統一ロシアに所属したが、07年から公正ロシアに移り、最近は反プーチン勢力の急先鋒(せんぽう)に立っていた。グトコフ氏の疑惑については司法当局が捜査しており、同氏は議員資格剥奪により不逮捕特権がなくなったことで逮捕される可能性がある。【9月15日 毎日】
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一方、反プーチンの運動は、3か月ほど抑え込まれていましたが、9月15日、久しぶりに大規模な抗議行動が行われています。

****プーチン大統領辞任求め大規模デモ…3か月ぶり****
ロシアのプーチン大統領の辞任を求める反政権デモが15日、モスクワや第二の都市サンクトペテルブルクなどで行われた。
大規模な反プーチンの抗議行動は6月以来約3か月ぶり。

デモは反政権派が結集した政治組織「連帯」などの野党勢力が呼びかけ、極東のウラジオストク、シベリアのトムスクなどでも行われた。モスクワでは午後2時(日本時間午後7時)、公正な選挙や自由を意味する白いリボンを身に着けた数万人が中心部のプーシキン広場に集合し、「プーチンなきロシアを」などのスローガンを叫んで約2キロ・メートル離れたサハロフ広場に向けて行進を始めた。

当局は抗議行動を許可するにあたり、参加者を2万5000人に限定。インターファクス通信によると、警察当局者は参加者数を「約1万1000人」と推計する一方、主催者の一人は「約5万人」としている。【9月15日 読売】
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15日の反政府集会は、モスクワをはじめ約50都市で開かれましたが、“ロシアでは最近、野党指導者らへの刑事捜査が活発化しているほか、集会勢力の弱体化を狙ったような改正法が次々と成立。昨年以来、中間層を引きつけてきた「反プーチン集会」は正念場を迎えている”【9月16日 朝日】というように、今後の展開は厳しそうです。

【「政府は批判を受けるものであり、これを受け入れられなければ良い政府にはなれない」】
こうした反政府集会に代わって、“反プーチン”で話題になっているのが、女性パンクバンド「プッシー・ライオット」の裁判です。
8月3日ブログ(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120803)で取り上げたように、「プッシー・ライオット」は、ロシア大統領選直前の2月21日、目出し帽姿でロシア正教会大聖堂に押し入り、「聖母様、プーチンを追い出して!」などプーチン氏やロシア正教の総主教を批判する歌を演奏したことで、メンバー3名が半年以上拘束された後、「教会や信者を冒とくし、社会秩序を乱した」として8月17日に禁錮2年の実刑判決を受けています。

“「プッシー・ライオット」は男女同権や環境保護、反権力を掲げて昨年8月に結成された。90年代にフェミニズム運動を盛り上げた米パンクバンド「ライオット・ガール」の影響を受けたという。メンバーは歌ったり演奏したりする約10人と、動画撮影などの裏方約15人で構成する。全員匿名で、今回有罪となった3人以外の素性は分からない”【8月27日 毎日】

“実刑判決を受けたナジェジュダ・トロコンニコワさん(22)、マリヤ・アリョーヒナさん(24)、エカテリーナ・サムツェビッチさん(30)はいずれも大学教育を受けており、いわゆる「はみ出し者」ではない。ナジェジュダさんには4歳の娘、マリヤさんには5歳の息子がいる。裁判で3人は信者に謝罪しながらも「政治的、芸術的な動機に基づく行為で、犯罪にあたらない」と主張したが、認められなかった”【同上】

この厳しい当局・司法の対応に、世界中から批判が寄せられており、彼女らの活動を擁護する動きも出ています。

****ロシア女性バンドが候補に=人権たたえるサハロフ賞―EU欧州議会****
欧州連合(EU)の欧州議会は14日、顕著な人権活動を行った個人らをたたえる2012年の「サハロフ賞」候補に、ロシアのプーチン大統領を批判する歌を歌い、メンバー3人が禁錮刑を言い渡された同国の女性パンクバンド「プッシー・ライオット」が推薦されたと発表した。

推薦理由について欧州議会は、同バンドの行動により、「ロシアでの市民権の制限や法秩序の欠如に世界が注目した」と説明している。イランやベラルーシの活動家ら7人もノミネートされ、10月下旬に受賞者が決まる。【9月15日 時事】
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****オノ・ヨーコさん、露プッシー・ライオットに平和賞を授与****
故ジョン・レノン氏の妻で芸術家のオノ・ヨーコさんは21日、ウラジーミル・プーチン露大統領を批判する歌を演奏してロシアで裁判にかけられている女性パンクバンド「プッシー・ライオット」に、平和賞「レノン・オノ・グラント・フォー・ピース」を授与した。

授賞式はニューヨーク市内のホテルで行われ、先月禁錮2年の実刑判決を言い渡されて勾留されている同バンドメンバーの1人、ナジェージダ・トロコンニコワ被告の夫と娘が出席した。
オノさんは授賞式で、「プッシー・ライオットは表現の自由を信じて毅然とした態度を取っている。彼女らの即時解放を目指して活動していきたい」とコメントした。【9月24日 AFP】
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ミャンマー民主化運動指導者スー・チー氏も、この裁判を批判しています。
****女性バンドの即時釈放を=ロシア政府を批判―スー・チー氏****
訪米中のミャンマー最大野党・国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー氏は20日、ワシントン市内で開かれた人権対話集会で、ロシアのプーチン大統領を批判する歌を歌い、禁錮刑を言い渡された同国の女性パンクバンド「プッシー・ライオット」のメンバー3人の即時釈放を求めた。

スー・チー氏は「政府は批判を受けるものであり、これを受け入れられなければ良い政府にはなれない」と、プーチン政権の対応を批判した。【9月21日 時事】
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禁固刑を受けたメンバーは「泣きはしないし、後悔していない」と、心境を語っているそうです。
****反プーチン・ソング「後悔せず」=禁錮刑のロシア女性バンド―仏誌****
ロシアでプーチン体制を批判する歌を披露し、禁錮2年の実刑判決を言い渡された女性パンクバンド「プッシー・ライオット」のメンバー3人は、21日発売のフランス女性誌エルに掲載されたインタビューで「泣きはしないし、後悔していない」などと現在の心境を語った。

メンバーのエカテリーナ・サムツェビッチさんは、「プーチン体制の真の顔が明らかになった」と強調。10月上旬に始まる控訴審については「何も変わらない。収容所へ送られるのはほぼ確実」と述べ、実刑判決が覆る可能性は極めて低いとの見方を示した。【9月22日 時事】
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当局側は、まだ身柄を拘束していないメンバーに対する捜査を開始したと発表していますが、女性メンバー2人が逮捕を逃れるために国外に逃亡したとも報じられています。
また、残りメンバーによる新たな活動も報じられています。

****反プーチンバンドが新作ビデオ 肖像写真燃やし政権批判****
ロシア正教会の聖堂で、大統領選に立候補していたプーチン氏を批判する曲を歌い、メンバー3人が実刑判決を受けたロシアの女性パンクバンド「プッシーライオット」が、プーチン氏の肖像写真を燃やしながら政権を批判する新たなビデオを制作した。

ロシアメディアが一斉に報じた。ビデオは約70秒で、動画サイト「ユーチューブ」などに投稿されている。場所は不明だが廃虚となったビルで撮影されたとみられる。服役中の女性たちとは別のメンバー3人が目出し帽をかぶって登場。
うち2人がビル屋上からロープで降下し、「私たちの国は悪人たちに支配されている」などと叫び、壁につるされたプーチン大統領の肖像写真に火をつけた。バンドへの支持を表明している米国歌手マドンナさんら音楽家らへの感謝も述べ、「自由を求める戦いは終わらない」と締めくくっている。

ビデオは米ロサンゼルスで6日に開かれた音楽ビデオの祭典「MTVビデオミュージックアワーズ」に合わせて制作されたという。セレモニーの際、ビデオが上映されたとの情報もある。【9月9日 朝日】
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【「実際の判決には何の影響もないだろう」】
最初のメドベージェフ首相の話題にも関連しますが、メドベージェフ首相はプッシー・ライオットの活動については批判しながらも、量刑については「もう十分長い期間、監獄にいる。判決は絶対的にとても重い懲罰だ」とコメントしています。

****ロシア首相「投獄、重すぎる」 反プーチンバンド判決で****
モスクワの救世主キリスト聖堂で反プーチンのゲリラ演奏をして拘束された女性パンクバンド「プッシー・ライオット」の3人が自由剥奪(はくだつ)2年の実刑判決を受けたことについて、ロシアのメドベージェフ首相は12日、「もう十分な懲罰は受けた。投獄はあまりに重すぎる」と述べた。

ロシア西南部ペンザで開かれた、自らが党首を務める政権与党「統一ロシア」の会合で「個人の意見」として語った。2月に逮捕されて以降、拘束が半年に及ぶ被告3人は8月17日、フーリガン(暴徒)行為罪で実刑判決を受け、「プーチン大統領の体制下の政治弾圧だ」などの国際的批判が起きた。被告はその後に控訴し、10月1日に控訴審判決が予定されている。

インタファクス通信によると、メドベージェフ首相はプッシー・ライオットの行為やその外見、その後に巻き起こった騒ぎについては「吐き気を覚える。これについて語るのは不快だ」などと発言した。しかし、量刑については「もう十分長い期間、監獄にいる。判決は絶対的にとても重い懲罰だ」などと述べた。

これに対して被告の弁護人の一人は「首相はこれ以上の投獄は非生産的だと考えている。正しい判断だ」と指摘した。ただ、一方では「実際の判決には何の影響もないだろう」と悲観的に見る弁護人もいる。(中略)

プーチン大統領は8月初めにロンドン五輪を視察した際、「そんなに厳しく裁くべきだとは思わない」などと語っている。(モスクワ=副島英樹) 【9月13日 朝日】
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もちろんロシアでも司法は独立しているのでしょうが、プーチン大統領の表向きの発言にもかかわらず、恐らく裁判はプーチン大統領の意向を反映したものではないでしょうか。
また、「(メドベージェフ首相の意向は)実際の判決には何の影響もないだろう」というのが現実のようです。
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