
(ニューデリー中心部で20日、小売業への外資参入を認める政府の決定の撤回を求めて気勢を上げる小売業者や野党政治家ら=五十嵐誠撮影【9月21日 朝日】)
【前期を上回るものの、依然伸び悩み】
中国と並んで世界経済牽引を期待されているインド経済。中国の方は減速傾向が窺われ、将来を危ぶむ声がいろいろあるところですが、インドの方は、より厳しい数字がこのところ続いています。
****インドの4~6月期GDP、成長率上昇5.5****
インド政府が31日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は、前年同期比5.5%となり、1~3月期(5.3%)からわずかに上昇した。
四半期ベースで前期の伸び率を上回るのは2011年1~3月期以来だが、依然として伸び悩みが目立つ。金融の引き締めと物価の高止まりで需要が鈍り、成長の重しとなっている。
産業別でみると、建設が10・9%、サービスが7・9%と大幅に伸びたが、いずれも低成長だった前年同期の反動とみられる。製造業は0・2%だった。【8月31日 読売】
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“11年度通年では6.5%と03年度以来8年ぶりの低い値となった。インフレ抑制のための高金利政策や急激なルピー安によるコスト増により、企業の設備投資や消費行動が衰え製造業が減速したことや、鉱業の不振が続いたことなどが主因だ”【JETRO】と、11年度も低い数字でしたが、その状況を脱しきれていません。
(ゼロ成長が続く日本にとっては5.5%でも、6.5%でも夢のような数字ですが、これから豊かさを掴もうとするインドにとっては物足りない数字です)
ただ、前四半期の5.3%からはわずかに加速、大方の予測も前四半期と同じ5.3%程度といったところでしたので、4~6月期の5.5%という数字については“最悪期を脱した可能性を示唆”【8月31日 ロイター】との見方があります。
こうした経済状況へのテコ入れとして、17日、預金準備率引き下げが行われましたが、予想ほど悪くもなかった・・・ということで、インフレが続く現状を考慮して、政策金利の引き下げは見送られています。
****インド中銀、預金準備率引き下げ 再利下げは見送り****
インド準備銀行(RBI、中央銀行)は17日、金融政策決定会合を開き、RBIが一般の銀行から強制的にお金を預かる際の比率(預金準備率)を0.25%幅引き下げ、4.5%とすることを決めた。預金準備率の引き下げは3月以来。一方、政策金利は年8.0%に据え置いた。
インド経済は減速傾向が強まっており、預金準備率を下げて市場に出回るお金を増やし、景気のテコ入れをはかる。だが、インフレが収まらないため、市場に与える影響がより大きい政策金利のさらなる引き下げには踏み切らなかった。(ジャカルタ=庄司将晃)【9月18日 朝日】
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【外国直接投資規制の緩和を断行、政権運営は困難に】
国民会議派のシン首相は、スーパーやコンビニなどの総合小売業への外国直接投資規制の緩和などで経済活性化を図りたいとして、法律改正の作業を進めてきましたが、野党・零細小売業者などの猛反発を受けて実施は棚上げしていました。
しかし、減速状態からの脱却が進まないなかで、14日、反対を押し切って規制緩和の実施を決めています。
これにより、反対勢力の連立与党からの離脱が起こり、シン首相は政治的に難しい運営を迫られています。
****印シン政権、外資規制緩和めぐり第2党離脱 連立綱渡り****
野党スト扇動、首相テレビで「理解を」
インドの経済成長のテコ入れのため総合小売業への外国直接投資規制の緩和などを決めたシン政権に対し、これに抵抗する連立与党内第2党、草の根会議派は21日、閣外相を含む6閣僚がシン首相に辞表を提出し、連立を離脱した。
連立与党は少数与党に転落。政権は閣外協力する小政党2党の支持を加えてようやく下院の過半数を得る状態となり、綱渡りの政権運営を迫られそうだ。
連立政権はシン首相率いる最大与党の国民会議派に、草の根会議派などを加え過半数を維持してきた。草の根会議派は、総合小売業の外資比率を51%に拡大することに強く反対。
昨年11月には規制緩和を閣議決定したが、「小売店が打撃を受ける」とする草の根会議派などの連立与党内勢力や、野党の猛反発にあい、実施の棚上げに追い込まれた経緯がある。
今回、草の根会議派の連立離脱の危険を冒してまでシン政権が規制緩和に乗り出したのは、市場の閉鎖性に耐えられなくなった外資の一部がインドから撤退を始め、国内総生産(GDP)成長率が鈍るなど経済への悪影響が顕著になってきたからだ。
財政赤字も拡大し、昨年度は約5兆ルピー(約7・3兆円)に上った。このため政府は最近、ディーゼル油を値上げし、家庭用ガスへの政府補助を削減する方針を打ち出した。
シン政権は一方で、規制緩和に消極的とされたムカジー財務相を大統領に祭り上げ、閣議決定の実行に向けて動き、ようやく20日の政府公示にこぎつけた。
対する最大野党のインド人民党(BJP)は同日、各地で全国規模のストライキを呼びかけ、主要都市の一部で商店が閉店し、交通機関がマヒした。野党は今後も連立与党への攻勢を強める方針だ。
ただ、シン政権は現時点では“致命傷”を受けていない。これまで規制緩和に反対しながらも、閣外協力にとどまっている社会党のヤダブ党首が21日、閣外協力継続を言明したためだ。
とはいえ、閣外協力する社会党と大衆社会党の小政党は地域政党で、地盤とする地域を優先させる傾向があり、シン政権と異なる立場の政策も少なくない。また、両党の関係者の汚職疑惑がたびたび指摘されており、政権側は両党関係者の汚職追及に気を使わざるを得ない。
シン首相は21日のテレビ演説で「外国直接投資は投資家の信頼を得るためだ。燃料の価格は長年、国際価格からかけ離れてきた」などと国民に理解を求めた。しかし、経済成長の減速や度重なる汚職問題ですでに低下した政権の求心力は、さらに傷つく恐れもある。【9月22日 産経】
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閣外協力する大衆社会党は、カースト制の被差別民ダリット出身で“ダリットの女王”とも呼ばれるマヤワティ氏の政党ですが(3月のウッタルプラデシュ州議会選挙敗北後、どのような政治状況にあるのかは把握していません。選挙前は州首相でしたが、敗北で州首相は退いています)、マヤワティ氏は“襲撃を恐れ、自宅から公邸までの専用道路を建設した。また、お気に入りのブランドのサンダルを受け取るために、西部ムンバイに自家用ジェット機を飛ばした・・・”【11年9月6日 スポニチ】など、とかく噂がある女性です。
社会党は3月のウッタルプラデシュ州議会選挙で、“ダリットの女王”マヤワティ、“ガンジー王朝御曹司”ラフル・ガンジーを蹴落として最年少首相となったアキレシュ・ヤダヴの率いる政党ですが、彼が党を刷新するまでは党員の50%が何らかの犯罪に関係している・・・と言われていました。アキレシュはそうした疑惑のある党員を排除して全面的に刷新することで選挙に勝利しました。首相の座を奪われたマヤワティは、「暴力団とマフィアの支配がウッタルプラデシュ州へ戻って来る」とコメントしています。
話を外資規制緩和に戻すと、当然ながら、今回の規制緩和に小売業者などからは強い抗議行動が起こされています。
****インド各地、デモやゼネスト 小売業の外資開放に抗議****
インド政府がスーパーやコンビニなどの小売業に外資の参入を認める決定をしたことなどに抗議するデモやゼネストが20日、全国各地であった。商店は閉まり、列車の運行も妨害され約200本が遅れるなど社会生活に影響が出た。
首都ニューデリー中心部では、商店主らでつくる全インド商業者連盟が集会を開き、外資参入の決定を撤回するよう訴えた。集会には野党指導者らも参加し、「外資開放は失業者を生み出す」「外国スーパーの進出は中国製品の大量流入につながり、国益に反する」と政府を批判した。連盟事務局長は「全国の商店主ら5千万人が店を閉めて抗議している」と語った。(後略)【9月21日 朝日】
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【相次ぐ汚職疑惑 広がる政治不信】
インド経済の問題点としては、インフレや補助金による赤字財政拡大、通貨ルピー安、また今回改正にも関連した市場構造の問題などがありますが、問題の根底には、経済を取り巻く政治・社会環境に蔓延する腐敗・汚職構造があると思われます。
腐敗・汚職構造は社会の上から下まで広がっていますが、政治の世界でも汚職疑惑が相次いでいます。
腐敗・汚職が常識とも言えるインド政界にあっては、シン首相自身は例外的に清廉な存在と見られていますが、鉱山相を兼務していた頃の鉱山払下げ問題が発覚し政権を揺さぶっています。
****不正疑惑、インド政権打撃 石炭採掘権で2.6兆円損失****
インドのシン政権が行き詰まりの様相を見せている。経済成長の減速にも有効な改革ができず、相次ぐ汚職疑惑にも批判が強まる中、石炭鉱区の不適正な払い下げ問題が新たに発覚。当時鉱山相を兼務していたシン首相に野党は辞任を要求。国会は空転し、政治停滞は深刻さを増している。
国会は28日、上下両院で本会議が行われる予定だったが、開会直後から最大野党インド人民党の議員らが大声を上げて議長に詰め寄り妨害。両院とも数分で散会となった。野党の審議拒否は21日に始まり、空転は9月7日の会期末まで続くとの予想も出ている。
混乱の発端は17日に国会に提出された会計検査院の報告書。検査院は国内の石炭鉱区の採掘権の割り当てに関し、鉱山省事務次官が競売を提案したにもかかわらず格安の随意契約が続けられたため、2004~09年の間に国庫に約1兆8600億ルピー(約2兆6千億円)の損失が出たと指摘した。損失は年間国家予算額の12%に匹敵する。
これにより、国営企業やタタ、リライアンスなどの財閥系企業が利益を得て、鉱区を転売して巨額の利益を得た例もあった。報告書は「割り当ては透明性と客観性に欠けていた」と政府を批判している。
報告書を受け、インド人民党はシン首相に「巨額損失に対する道義的、政治的責任がある」と辞任要求を突きつけた。これに対し、与党側は「同様の割り当ては(04年までの)人民党政権下でも行われていた」と反論。シン氏も27日に自ら「検査院の指摘には議論の余地がある」と反発し、野党に国会での議論に応じるよう求めたが、野党側に態度軟化の兆しはない。
インドでは一昨年、国庫に約1兆7600億ルピー(約2兆4600億円)の損失を出したとされる携帯電話周波数の不正割り当て事件で前閣僚が逮捕されるなど、汚職疑惑が相次いで露見。汚職撲滅を掲げる社会活動家アンナ・ハザレ氏の市民運動が盛り上がるなど国民の間に政治不信が広がる。
今回の問題でも26日、活動家らが首都ニューデリーで首相官邸などを目指して抗議デモを行い、警官隊と衝突する騒ぎとなった。新たな不正疑惑で政権の不人気に拍車がかかるのは確実とみられている。
行き詰まりは与党内の合意形成にも及ぶ。政権は連立を組む小政党の反発で市場自由化など経済改革を進められずにいる。昨年11月にはスーパーやデパートなどへの外資参入を認めることを閣議決定したが、地元小売業への悪影響を危惧する与党連合内の声を受け、実施の時期を示せずにいる。
インド経済は今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)が前年同期比5.3%増にとどまり、成長に減速がみられる。米格付け会社ムーディーズは今月、「インド政府が今後の経済見通しを悪化させる最大の要因になっている」と指摘。任期がまだ2年弱残るシン政権の改革遂行能力のなさに内外から失望の声が出ている。(ニューデリー=五十嵐誠)
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腐敗・汚職が蔓延している状況なので経済が離陸せず、貧困も解消しないのか、経済が離陸できず貧困が存在しているので腐敗・汚職が絶えないのか・・・そのあたりは悪循環のようにも見え、インドに限らず、多くの途上国・新興国で見られるところです。
国民会議派としては、本来なら“つなぎ役”のシン首相に替えて、ネール・ガンジー王朝の後継者であるラフル・ガンジー幹事長を前面に押し出して形勢挽回を図りたいところでしょうが、2014年総選挙の前哨戦として陣頭指揮にあたった3月のウッタルプラデシュ州(人口1億8千万人超)議会選挙の実質的敗北で、それも難しい情勢です。
懸案の経済改革に踏み切るものの、政局的には危機的状況に陥る、改革遂行能力のなさに内外から失望の声・・・・どこかの国の政権の話のようでもあります。
まあ、どの国も似たり寄ったりということなのでしょう・・・と言えば、少しは慰めになるでしょうか。