孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

オーストラリア  牛とラクダと難民に見る“人道的”ということ

2011-06-11 21:09:35 | 世相

(インドネシアのアチェ オーストラリアの人道支援団体Austcareの女性メンバーと現地の牛 本文にあるオーストラリアからの輸出牛ではありません。とても牧歌的な光景です。“flickr”より By ActionAid Australia http://www.flickr.com/photos/38316435@N07/3791384648/

牛を気絶させないまま喉を何度も斬ったり、体を蹴り上げるのは非人道的
物事は何につけても白黒つけがたいものです。
何が人道的で、何が非人道的か・・・といった“人道的”といった抽象的な概念などもそうした一例でしょう。
内戦や紛争時に戦争犯罪としての“人道上の罪”が問題になりますが、通常の戦闘行為における殺戮なら“人道的”に許されるのか?

そうした身構えた話でなくとも、もっと身近なところで、捕鯨問題における動物愛護精神などもしばしば問題になります。
反捕鯨では先頭に立つオーストラリアですが、オーストラリアからインドネシアに輸出される生きた牛の処分方法を巡って“非人道的”との声が高まり、禁輸措置が講じられたそうです。

****豪、生きた牛のインドネシア輸出禁止 「解体手法が残酷*****
オーストラリア政府は8日、インドネシアへの生きた牛の輸出を全面的に停止したと発表した。
インドネシアの一部の食肉処理業者による牛の殺し方について「残酷」との非難が豪州内で高まっているため。インドネシアは豪州にとって生体牛の最大の輸出先で、ラドウィック豪農林水産相は業者に対応改善を求めた。禁輸は最長6カ月続く可能性がある。

豪国営ABCテレビが5月30日、動物保護活動家が撮影したインドネシアの食肉処理場の映像を放映。業者が牛を気絶させないまま喉を何度も斬ったり、体を蹴り上げる様子を伝えた。豪州では牛を気絶させてから処理する手法が定着しているため、「非人道的」などの声が上がり、豪政府が対応を検討していた。
インドネシアのススウォノ農相は8日、解体の状況を調査すると同時に「米国やニュージーランドからの牛肉輸入拡大を検討する」考えを示した。パンゲストゥ貿易相は「牛肉の在庫は十分あり、価格が急騰するなどの心配はない」と述べた。

豪紙によると、豪州からインドネシアへの生体牛輸出額は2010年で3億1800万豪ドル(約270億円)と全体の47%を占める。インドネシアは牛肉輸入の25%を豪州に依存する。
豪業界団体の豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)は声明で、事業への影響は避けられないとしつつ、禁輸措置を受け入れるとした。【6月8日 日経】
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“気絶させてから処理”するのが“人道的”で、“気絶させないまま喉を何度も斬る”のは“非人道的”か?
殺して食べてしまうことにはかわりなかろうに・・・という考えもあるでしょう。
なかなか白黒つけがたいところがあります。
個人的には猫が好きですが、猫を蹴飛ばすような人間は“非人道的”な外道だという考えには1票入れます。

温暖化対策で、ヘリコプターから野生ラクダを射殺
オーストラリアに関しては、別に、原住民アボリジニを“狩り”の対象として殺りくを楽しんでいた過去の歴史を持ちだすこともないでしょうが、最近の話題で、温暖化対策としての野生ラクダ殺処分の話があります。
ラクダが温暖化にどのように関係するのか不思議に思ったのですが、急増した野生ラクダが草原を食べ尽くして植生が失われる・・・という問題のようです。

*****CO2削減で野生ラクダの殺処分を検討、豪州*****
オーストラリアで、二酸化炭素(CO2)削減取り組みの一環として、野生のラクダの殺処分が検討されている。
オーストラリアの野生ラクダは、19世紀に入植者が連れてきたラクダが野生化したもの。現在、アウトバックと呼ばれる豪大陸内部の砂漠を中心とする辺境地帯を徘徊する数は、120万頭にも上る。
これらのラクダらが草原を食べ尽くして植生が失われるなどの害を考慮すると、ラクダ1頭につき年間平均で、CO21トンに匹敵するメタンを算出している計算になり、同国の大きな温室効果ガス排出源になっているとみなせる。

こうした状況を背景に、アデレードの広告会社ノースウエスト・カーボンが提案したのが、ラクダの殺処分案だ。政府の「気候変動とエネルギー効率局」が9日公開した諮問書の中で提示された同社の提案によると、ヘリコプターからラクダを射殺するか、群れをまとめて食肉処理場へ送り、食用やペットフードに加工する。
ノースウエスト・カーボンのティム・ムーア社長は、豪通信社AAPに対し、「わが国は創意工夫に富む国民の集まり。問題があっても革新的な解決方法を見出す。(ラクダの殺処分は)そうした伝統の一例だ」と語った。

発電は火力中心、輸出は鉱山資源に大きく頼っているオーストラリアは、国民1人当たりの温室効果ガス排出量が世界でも最も多い国の部類に入るが、政府は方針の転換を模索しており、農業・林業従事者や土地所有者などが排出削減のアイデアを考案した場合、新たな経済的機会を与えることを検討中という。
ラクダの殺処分案が含まれたイニシアチブは次週、議会で審議される予定。【6月10日 AFP】
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牛の喉を斬るのは駄目だが、ヘリコプターからラクダを射殺するのはいいのか・・・と、つっこみたくもなりますが、もちろんオーストラリアにもいろんな考えの人がいますので。

難民より牛の方が人道的に扱われているのでは?】
ラクダはともかく、対象が人間となると熟慮を要します。
下記は、つい先日の6月6日ブログ「オーストラリア  迷走する難民対策 マレーシアで審査する案に人道上の問題」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110606)でも取り上げた記事です。

****豪の難民移送策、波紋 密航者、今度はマレーシアで審査案****
「人道上問題」反発招く
オーストラリアのギラード政権が新たに打ち出した難民政策が国内外で反発を招いている。アフガニスタンなどの紛争地から豪州海域に船で押し寄せる難民認定希望者をマレーシアに移送する代わりに、マレーシア在住の難民認定者を受け入れる構想に対し、難民条約に未加入のマレーシアとの協力は人選上問題があるなどと批判されている。

労働党のギラード政権が先月公表した構想は、豪州に密航を試みる計800人をマレーシアに移送し、国連の難民審査を受けさせる一方で、今後4年間にマレーシア在住の計4千人の難民認定者を豪州に受け入れる計画だ。ギラード氏とマレーシアのナジブ首相との間で基本合意し、両政府間で交渉が進んでいる。

ギラード氏は首相就任直後の昨年7月、難民認定希望者を収容・審査する施設を東ティモールに設ける構想を打ち出したが、東ティモール側が激しく反発。その後も保守系のハワード元政権時に一時実施されたパプアニューギニアでの収容を再開させる案を模索するなどしてきた。
この間も難民船の来航は止まらず、豪政府によると、今年1月~5月に豪海域に逓した難民船は計20隻余、乗船人数は計1100人以上にのぼった。豪州領クリスマス島の施設などに収容している。4月には、シドニー近郊の収容施設で収容期間の長さなどに抗議する暴動も起き、難民政策への批判が高まっている。

構想に対し、野党保守連合を率いる自由党のアボット党首は「ギラード政権はパ二ックに陥っている」と批判。5月末に豪州を訪れたピレイ国連人権高等弁務官も「マレーシアとの協定は国際法違反の可能性がある」と懸念を示した。
マレーシアに入った難民認定希望者は、国連の難民認定を受け、その後は欧米など、定住可能な第三国に送り出されている。だが、国連や支援団体によると、マレーシア国内での就労は認められず、一部屋に数十人が寝起きするような住環境など、人道上の問題が指摘されている。

ギラード氏の豪州以外への移送を試みる難民対策は、近年のアジア系移民の増加に加えて難民が押し寄せることに対し、雇用や福祉への不安が国民の間で強まったことを受けたものだ。だが同時に人権重視派の労働党支持層からの批判も招いた。最新の世論調査によると、政党支持率は保守連合44%に対し、労働党は34%と低迷している。
豪州のNGO(非政府組織)、難民アクション連合のイアン・リントール氏は「マレーシアの収容施設の環境は非常に悪い。豪政府はむしろ、マレーシアやインドネシアからも多くの難民希望者を受け入れるべきだ」と批判している。【6月5日 朝日】
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オーストラリアにおいても、“人道的”に扱われない牛は輸出禁止にするが、難民は“人道上の問題”があるマレーシアに移送するのか? 難民より牛の方が人道的に扱われているのでは? という批判の声があるとか。
当然の疑問です。
コメント
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