孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

欧州経済 “改革”の“痛み”で広がる社会不安

2012-04-06 23:41:24 | 欧州情勢

(日本の財政事情は、巨額の“特例”公債が毎年発行され、予算の半分ほどを公債に依存する状態が続いています。(24年度の公債依存度は49%)
ただ、低金利政策で利率が右肩下がりに低下しているため、公債残高の増加にもかかわらず、一般会計歳出に占める国債費は25%弱程度に収まっています。また、GDPに対する財政赤字で見ると、イギリスやアメリカの方が日本より高い数字も出ています。
日本の国債は国内で消化されており、欧州各国とは単純比較はできない・・・という議論もありますが、増加する公債残高は何らかのきっかけで経済を破綻させる時限爆弾のようにも思われます。
グラフは、“我が国の財政事情(財務省主計局)”より http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2012/seifuan24/yosan004.pdf )

スペイン:ゼネストが一部暴徒化
ギリシャへの第2次支援を何とかクリアして小康状態にあった欧州経済ですが、火種は依然としてくすぶり続けており、いつまた緊迫した情勢になるかはわかりません。
ここ数日は、国債の入札が不調だったことからスペインの国債価格が急落しています。

****スペイン国債、利回り急上昇=債務危機再燃―欧州市場****
5日午前の欧州金融市場では、過剰債務を抱える国の国債価格が急落(利回りは急上昇)、スペインの10年物国債利回りは5.8%台(前日終盤は5.7%台)と昨年11月30日以来の高水準を付けた。市場ではスペインの財政再建の遅れへの懸念が強く、ギリシャへの第2次支援などで沈静化していた欧州債務危機が再び台頭してきた。【4月5日 時事】
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スペインでは、政府の緊縮予算案や労働市場改革への取り組みが行われていますが、これに反対するゼネストが行われ、一部が暴徒化し全国で176人が逮捕され、警官58人を含む104人が負傷する混乱が起きています。

****財政危機の炎 スペインへ****
巨額の財政赤字とEU内でも最悪の高失業率に苦しむスペインにとって、緊縮予算の成立と雇用の流動化の実現は避けて通れない課題だ。ただ、改革には痛みが伴う。ラホイ首相は今年初め、「労働基準法を改正すればゼネストは避けられない」と言ったが、そのとおりになった。

政府の緊縮予算案や労働市場改革に反対するため、労働組合は先週、24時間のゼネストを実施した。首都マドリードでは公共交通機関の運行減少で渋滞が発生し、バルセロナの路上ではごみ箱が炎上。デモ隊と警官が衝突して負傷者が出た。

結局、スト翌日には公務員給与の昇給凍結などで270億7(約3兆円)を歳出削減する政府予算案が閣議決定された。政府は昨年末にGDP比8・5%だった財政赤字を今年末には5・3%に、さらに13年度は3%まで減らさねばならない。

政府は今後、赤字削減と共に成長戦略にも取り組む必要がある。労働者を解雇しやすくなる労働市場改革で雇用が流動化しても、景気がすぐに回復する見込みは薄い。欧州委員会は今年のスペインの成長率をマイナス1%と予測している。
景気が回復しなければ、政府の緊縮財政策はさらなる反対運動にさらされるだろう。【4月11日号 Newsweek日本版】
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ユーロ圏の失業率は10.8%にまで悪化していますが、特に、南部のスペイン、ポルトガル、フランス、イタリアが厳しい数字となっており、スペインは23.6%です。
こうしたなかでの緊縮予算案や賃下げや解雇が容易になる労働市場改革ですから、反対する側も切実です。

****欧州経済:ユーロ圏失業率10.8%****
欧州連合(EU)の統計機関ユーロスタットは2日、ユーロ圏(17カ国)の2月の失業率(季節調整済み)は1月から0.1ポイント悪化し、10.8%になったと発表した。EU全体(27カ国)も0.1ポイント悪化の10.2%だった。
欧州債務危機の影響によるユーロ圏諸国の景気低迷で、雇用情勢の悪化に歯止めがかからず、失業率は1999年のユーロ導入以来の最悪水準が続いている。

2月の失業率はスペインが23.6%、ポルトガルが15.0%、アイルランドが14.7%と財政難の国で高止まりした。フランスは10.0%、イタリアも9.3%といずれも高水準。【毎日 4月2日】
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イタリア:相次ぐ焼身自殺未遂
イタリアのモンティ首相も労働市場の改革をめざしてします。
イタリアでは、労働法によって正規雇用者が手厚く保護されていて、企業の業績不振を理由に解雇することが認められていません。モンティ首相は「雇用を弾力化して、若者が働きやすい環境をつくる」として、労働市場の改革をめざしていますが、労組などは「企業が解雇しやすくなるだけ」と反発を強めています。

労働市場改革に併せて、これまで非課税特権が認められていた教会施設への課税も決定されています。

****イタリア、教会施設にも課税へ=財政難で「聖域にメス*****
イタリアのモンティ政権は24日、税制などで優遇されていたカトリック教会が保有するホテルなどの施設に不動産税を課す政府案を決めた。カトリック教徒が多い同国では、教会への非課税特権が認められてきたが、債務危機を受けて財政再建が最重要課題となる中、聖域にメスを入れた形だ。

同国のカトリック教会は約10万件の不動産を持っているとされ、ホテルやレストランなど宗教活動と直接関係ない「サイドビジネス」も多い。礼拝所や修道院などを備えた不動産を除いて課税対象となり、年6億ユーロ(約650億円)の税収増が期待されるという。来年の施行を目指す。【2月25日 時事】
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ホテルやレストランなど宗教活動と直接関係ない「サイドビジネス」が課税対象となるのは、当然のことかと思われます。
また、脱税取り締まりも強化されていますが、これに抗議する焼身自殺事件が起きるなど、“痛み”を伴う改革に社会が動揺しています。

****経済危機のイタリアで焼身自殺未遂相次ぐ****
財政危機のイタリアで28~29日、脱税容疑で裁判中のイタリア人男性と給料未払いに抗議するモロッコ人男性が相次いで焼身自殺を図り、全土に衝撃が走っている。

1件目の事件はボローニャで28日、建設作業員の男(58)が税務署の駐車場に停めた車の中で自らに火をつけたもの。近くにいた駐車監視員に救出され、病院へ搬送されたが重体という。
この男は2007年から脱税していたとして10万4000ユーロ(約1140万円)の追徴課税を求められており、近く裁判に出廷する予定だった。男は国税庁、友人、妻に宛てた遺書を残しており、伊紙コリエレ・デラ・セラの抜粋によれば、国税庁に宛てた遺書には「私はずっと税金を払ってきた」と書かれていたという。

2件目の事件は翌29日、ベローナ在住の建設作業員のモロッコ人男性(27)が賃金未払いへの抗議として、路上で腕と頭に火をつけたもので、前日の事件を模倣したとみられる。地元警察によるとこの男性は、4か月にわたって賃金が支払われていないと路上で叫んだ後、ガソリンをかぶって火を放った。駆けつけた警官によって火は消し止められ、男性は病院に運ばれたという。

相次ぐ事件を受け、保守系日刊紙ジョルナレは第1面で「税金のせいで炎上:収税吏に殺されるイタリア国民」との見出しで大きく報じた。レプブリカ紙も「経済危機に押しつぶされた職人の悲劇」と伝えた。
イタリアのマリオ・モンティ政権は、巨額の負債を返済するために脱税取り締まりを強化している。【3月30日 AFP】
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ギリシャ:広場で短銃自殺
財政再建のための増税や年金額の引き下げが行われているギリシャでも、生活苦の高齢者が広場で短銃自殺する事件があり、社会不安が拡大しています。

****アテネで騒乱、選挙前に不安拡大 高齢者の自殺きっかけ****
ギリシャの首都アテネの国会前広場で4日朝、77歳のお年寄りの男性が生活苦を訴える遺書を残し、短銃自殺した。これをきっかけに、政府の財政再建策に反発する約2千人の群衆がアテネ中心部に集まり、一部が警官隊と衝突した。4月末にも想定される総選挙を前に、社会不安が広がっている。

地元紙カティメリニなどによると、亡くなったのはアテネ在住の元薬剤師クリスツラスさん。目撃者によると、通勤客で広場が混み合う午前9時前、「借金を子どもたちに残したくない」と叫び、銃で頭を撃ち抜いた。
手書きの遺書には「ゴミ箱から残飯をあさったり、子どもの重荷になったりする前に、威厳ある最期を迎えるにはこうするしかない」などと記されていた。また、欧州連合(EU)などの支援の下で増税や年金額の引き下げを続ける政府を、ナチスのギリシャ侵略に協力した政治家に重ね合わせて批判する表現もあったという。【4月5日 朝日】
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国家経済が追い詰められた状態での“改革”による“痛み”は、社会の一部にとっては耐えがたいものになります。
そこまで至らない、社会的弱者をフォローする社会的余力がある段階での早めの対応が必要かと思われます。
財政状況が厳しさを増す日本もそうした時期ではないでしょうか。
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ミャンマー  スー・チーさんのNLD圧勝 注目される今後の議員活動

2012-04-05 21:24:38 | ミャンマー

(2日、ヤンゴンの国民民主連盟(NLD)本部で、演説中に花束を渡されたスー・チーさん 【ロイター】)

【「メー・スー(スーお母さん)」】
各紙で報道されているように、ミャンマーで1日に行われた補選で、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん(66)率いる民主政党・国民民主連盟(NLD)が、議会補選の対象となった45議席中、43議席(下院37議席、上院4議席、地方議会2議席)を獲得、スー・チーさん自身も当選するという形で圧勝しました。
候補者44人を擁立し43議席獲得ということで、ほぼ全勝でしたが、政府職員が住民の大半を占める首都ネピドーでもNLDが4選挙区を独占しています。
なお、2010年の総選挙で圧勝した与党・連邦団結発展党(USDP)は、残る2議席のうち1議席を取っただけで、もう1議席は地元少数民族政党が確保しています。

NLD圧勝は大方が予想したところですが、実際に首都ネピドーを含めてほぼ全勝という結果に、改めてスー・チーさんへのミャンマー国民の熱い期待を感じます。

****国民の母」に民主化託す 不屈のスーチー氏に共感****
ミャンマーで1日にあった国会補欠選挙は、野党・国民民主連盟(NLD)が圧勝し、党首アウンサンスーチー氏(66)の絶大な人気が改めて示された。軍事政権による長年の自宅軟禁にも屈せず民主化を訴え続けてきた姿に、同じように抑圧されてきた多くの国民が希望を託す。

補選の投票から一夜明けた2日、最大都市ヤンゴンのNLD党本部でスーチー氏は勝利に沸く支持者らにこう語りかけた。「民主主義では多数者が少数者の権利を守らなければなりません。(負けた)他の政党や候補者に嫌がらせはしないようにお願いします」
スーチー氏は演説で必ず民主主義の大切さを訴える。1962年以降、国軍中心の支配が続く祖国に民主主義をうち立てたいと願う信念からだ。民主化運動指導者は今回の下院選当選によって、ほぼ四半世紀に及ぶ政治人生でついに国政の舞台に上がる。

なぜスーチー氏を支持するのかを問うと、人々は口をそろえてこう言う。「自分の人生を犠牲にして私たちのために尽くしている。だから、私たちも応えなければならない」
ミャンマー史を海外で研究していたスーチー氏が母親の看病のため帰国した88年、民主化運動が起きた。同年8月に初めて演説に立ったスーチー氏は、建国の父アウンサン将軍の長女として人気を集め、9月に結成されたNLDの書記長に就任した。
だが、クーデターで権力を掌握した軍政は89年にスーチー氏を自宅軟禁に。以降、2010年11月まで計3回、15年にわたる軟禁生活が続いた。軟禁期間以外も行動は制限され、英国人の夫マイケル・アリス氏が99年に英国で死去した際も再入国を拒まれる可能性から出国できなかった。

自由を奪われてきたのは多くの国民も同じだ。人々はスーチー氏を最近、「メー・スー(スーお母さん)」と尊敬と親しみを込めて呼ぶ。「スーチー氏が自分たちと同じ側に立つ」という気持ちの表れだ。

冗談を交えて観衆を沸かす演説上手のスーチー氏だが、政治家としての手腕については疑問視する声もある。一昨年の軟禁解放直後の演説でも「正しい目標は正しい行動で実現されなければならない」との政治信条を強調した。駆け引きや妥協も必要な議会政治で結果が出せるかどうか、国民は見守ることになる。

■国の土台固め、スタート地点
NLDがここまで勝つとは誰もが予想していなかった。最も驚いているのが与党・連邦団結発展党(USDP)かもしれない。選挙結果を受け、首都ネピドーで3日午後、中央執行委員会を臨時招集した。
3年後には現憲法下での2度目の総選挙が実施される。国会の4分の1の議席が軍人枠とはいえ、この勢いが続けば、NLDが政権を担うのも、決して夢物語ではない。

ただNLDにとっても、補選参加は苦渋の決断だった。軍服を脱ぎ、昨年3月に発足したテインセイン政権は、半年余りで民主化や経済自由化、国民融和の方針を次々と打ち出した。党員の高齢化が進み、党勢が衰える懸念が広がるなか、NLDが長年訴えてきた主張が与党に取り込まれていくのを蚊帳の外で見ているわけにはいかなかった。

ヤンゴンのNLD本部は連日、支持者で沸き返る。だが高揚感がいつまでも続かないことを党首のアウンサンスーチー氏自身が一番分かっているはずだ。6月にも招集される国会で初登院する新議員の多くは「スーチー」の名で当選した未知数の人だ。一方でテインセイン大統領は、変化への希求を追い風にしようとするだろう。体制内の守旧派との駆け引きが活発になるかもしれない。

3日プノンペンで始まった東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議は4日発表する議長声明に制裁解除を求める文言を盛り込む。さほど遠くない将来、援助や投資が殺到するだろう。
だが大統領の主導する改革も、裏付けとなる法整備などが追いついていない。補選終了後、ヤンゴンでは計画停電が始まった。国の土台は固まらず、まだ揺れている。まさにこれから一歩ずつ踏み固めながら前に進んでいく。補選を経て、ようやくそのスタート地点に立った。【4月4日 朝日】
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【「彼女の個性や意思の強さは、一部の人々にとって諸刃の剣のようなものだ」】
今回補選によるNLD獲得議席は上下両院の1割にも満たず、NLDは少数勢力であること、また、議席の4分の1を軍人が占めるという憲法上の規制が存在している現実(664議席のうち与党USPDが388議席、軍人が166議席)もあります。

そうした制約の中で、スー・チーさん、NLDがどういう結果を示すことができるかは、文字どおりこれからの問題です。
“民主主義”の理念だけでなく、個々の政策における現実的対応が求められます。
対立勢力との“妥協”が求められる場面も多々あるでしょう。スー・チーさんがそうした現実的手腕を発揮できるのか、あるいは硬直した対立状態に陥るのか、逆に“現実的対応”が国民の一部からは“裏切り”“変節”と批判・失望されることはないのか・・・注目されます。

****連邦議員になるスー・チーさん、日常的課題に追われる?専門家****
1日に行われたミャンマー連邦議会の補欠選挙で当選した民主化運動の指導者、アウン・サン・スー・チーさん(66)に大きな期待が集まっている。しかし専門家たちは、スー・チーさんが大きな政治目標ではなく、もっと日常的な課題に取り組まざるを得なくなるかもしれないと語っている。

軍事政権に対する反体制派の精神的支柱であってきたスー・チーさんはこれから、農民を助け、投資を促進し、軍政の下で約50年に及んだ誤った経済政策からミャンマーを脱出させ、発展させるために、かつての敵ともテーブルに着かねばならないだろう。
香港大学のルノー・エグレトー准教授(政治学)は「大臣としてであれ、一般議員としてであれ、政治的な駆け引きをする余地は、在野の反対派だったときよりも小さくなるだろう」と語る。(中略)

タイのシンクタンク「Vahu Development Institute」のミャンマー専門家、アウン・ナイン・ウー氏は「USDPが支配する現在の議会は非常にエネルギッシュで、この1年で素晴らしい成果を上げてきた。だが議会が取り組む課題は、一般国民が心配するきわめて日常的な問題だ」と言う。そしてスー・チーさんは選挙運動中は民主主義や憲法改正などの大きなテーマをうたってきたが、それよりもむしろ毎日の問題に取り組まなければならないだろうと指摘する。「わが国にとって最も重要なのは経済だが、アウン・サン・スー・チーには経済の実績がない」

■入閣はありか?
スー・チーさんが政府の要職に就くのかどうかも大きな問題だ。1月、ナイ・ジン・ラット大統領顧問はAFPに対し、スー・チーさんが閣僚として指名される可能性はあると語っていた。しかしそうした可能性に言及した政府高官は他にいない上、スー・チーさん本人も3月30日、大臣就任を打診されても、それを受ければ法律上、議席をあきらめなければならないので入閣する意志はないと話している。

もっともスー・チーさんが、例えば国内の民族紛争などを担当する何らかの役割を引き受けようとする可能性はある。
アウン・ナイン・ウー氏は、どのような役割を選ぶにせよ、スー・チーさんは自分の名声や影響力を用いるだろうが、信念を変えようとしない不屈の性格が問題となる恐れもあると指摘する。「彼女の個性や意思の強さは、一部の人々にとって諸刃の剣のようなものだ。彼女自身が問題になる恐れもある。議会にせよ政府内にせよ、未知の大海の中でどのようにうまく自分らしさを出していくか、それが鍵になるだろう」

過去にはスー・チーさんが軍政に譲歩しなかったことが、野党と軍政の行き詰まりを招いたと批判されたこともあった。
しかし、スー・チーさんを政敵と捉えていたタン・シュエ前国家平和発展評議会(SPDC)議長は1年前にその地位を退き、新世代の指導部はスー・チーさんにより好意的な姿勢を取っている。

タイ・チュラロンコン大学の政治学者Thitinan Pongsudhirak氏は、「いかなる民主主義も1人の人間の周りに形作られるものではない」と言う。「スー・チーさん個人だけに焦点を合わせるところから、彼女の支持者や彼女を補佐する人たち、彼女の政党、そして与党や現政権を含めたミャンマーの民主主義機構へと考えを広げるところへシフトする必要がある」【4月4日 AFP】
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【「平和裏に、総じて秩序だって実施された」(国連の潘基文事務総長)】
国民の圧倒的支持を明確にしたNLDへ政権側が今後どのような対応をとるのかは未知数ですが、少なくとも今回補選に関しては、定数の一割未満ということもあって、政権側がこれまで進めてきた民主化努力が本物であることを国際社会にアピールし、ミャンマー経済の足かせとなっている経済制裁解除を進めるためには、「スー・チーさんとNLDに勝ってもらわないと困る」という皮肉な事情が政権側にはありました。

そうした政権上層部のそうした思惑もあって、選挙は概ね「自由、公正」に行われましたが、現場ではいろいろな不正・妨害もあったようです。

****ミャンマー補選 NLDは43議席 「妨害・不正」相次ぐ****
期日前投票を破棄/監視団にも規制
ミャンマーの選挙管理委員会は3日、連邦議会補欠選挙(1日投票、45議席)の最終集計結果を発表し、野党・国民民主連盟(NLD)はシャン州で1議席を落とし、43議席となった。他の2議席は同州の少数民族政党と、与党・連邦団結発展党(USDP)が獲得した。補選では「自由、公正」も問われた。「平和裏に、総じて秩序だって実施された」(国連の潘基文事務総長)という評価の一方で、数々の不正・妨害行為の事例が報告されている。

選挙結果について米政府は、ヌランド国務省報道官が2日、「不正行為の調査」に言及し、クリントン国務長官も、選挙制度を変える必要性を指摘しており、問題があるとの受け止め方を示唆している。

不正・妨害行為の事例として、接戦の末にNLDが落としたシャン州の選挙区では、地元の選管が期日前投票の全900票を破棄した。NLDはクレームをつけ、この問題が議席確定を遅らせる一要因となった。
投票用紙にも細工が施された。用紙には候補者・政党名が書かれ、その横の空欄にチェックを入れる。ヤンゴン郊外のコームー選挙区では、NLDの空欄にロウが塗られ、その上にチェックがなぞられた票は無効にされた。

選管のスタンプが押されていない投票用紙も無効となる。そうした投票用紙を、選管が故意に渡していた選挙区もあった。選管職員が、投票所の入り口で「どの政党に入れるのか」と聞き、「NLD」と答えた住民を追い返していたところもある。

選挙人名簿に自分の名前が記載されておらず、投票できなかった人も多い。コームー選挙区では、農業を営む男性(48)が「ここにずっと住んでるのに、おかしいだろう!」と、怒りをあらわにしていた。

一方、諸外国の選挙監視団には規制があった。例えば、要員は投票所の中に立ち入ることはできず、外から窓越しにチェックせざるを得なかった。
東南アジアの要員は「表面をなぞっただけだ」と吐露した。

そうした中でも、獲得予想議席を当初、44としたNLDの独自集計と、選管の最終集計結果の43議席に大きな差はなかった。
このため、南洋工科大学ラジャラトナム国際研究院のジョウ・サン・ウイ研究員は「補選の結果は、政権が進める変革への支持を後押しする一助となる」と指摘する。【4月4日 産経】
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与党幹部「スーチー氏と我々は兄弟姉妹だ」】
“勝ち過ぎ”への政権内保守派からの反動も懸念されますが、スー・チーさんやNLDとの今後の関係について、与党幹部であるキンアウンミン上院議長は、かなり柔軟な姿勢を語っています。
スー・チーさんの父であるアウンサン将軍を国民の父と例えて「スーチー氏と我々は兄弟姉妹だ」との発言は、タンシェ前議長の軍事政権時代を考えると隔世の感がありますが、特に、軍人枠の変更の可能性について与党幹部が触れていることは注目されます。

****スーチー氏歓迎 ミャンマー上院議長に聞く****
ミャンマーのキンアウンミン上院議長が4日、訪問先のプノンペンで朝日新聞の単独取材に応じ、1日の国会補欠選挙で当選したアウンサンスーチー氏に対し、「(同氏が)国や国民の利益を最優先で考えているのであれば(我々は)必ず協力できる」と述べた。当選者を議員として認証するため、臨時国会の早期開会を検討しているという。

補選後、議長が取材に応じるのは国内外のメディアで初めて。上院、下院両議長は両院をあわせた連邦議会議長を交代で務める。元軍人で与党連邦団結発展党(USDP)幹部。野党国民民主連盟(NLD)の国会入りに歓迎を示し、「包括的な議会を政府も議会も望んでいる」とした。スーチー氏とは「これまで3回会っている。いずれも兄弟姉妹のように心を開いて率直に話し合った」という。

NLDが公約とする憲法改正については「どこの国の憲法も時期と条件が整えば変えることができる」。国会議員の4分の1を軍人から選ぶ条項についても「国軍枠も国民が望むならば、いつかはなくなるだろう」とし、軍人枠に知識人を代わりに入れることも検討中と明かした。
補選で政府職員が住民の大半を占める首都ネピドーでもNLDが4選挙区で全勝した理由を「軍と国家の創設者であるアウンサン将軍への敬愛がその娘のスーチー氏にも向けられるのは当然」とした。USDP内で保守派が急進的な改革にブレーキをかける可能性については「そのシナリオはない。(USDPでは)少数派は常に多数派の決定に従う」と否定した。

軍事政権時代、スーチー氏の父のアウンサン将軍の業績は、軍政からほとんど評価されることがなかったが、議長は将軍を国民の父と例えて「スーチー氏と我々は兄弟姉妹だ」と語った。【4月5日 朝日】
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タンシュエ前議長が事態を静観している背景については、「アラブの春」による独裁者の末路を見たため・・・との指摘があります。
“タンシュエ氏は首都の邸宅で閣僚や軍幹部らの報告を受けているようだという。政治にあまり介入していない様子なのは「関心は自分や家族の命と資産に向いている。アラブの独裁者たちの末路を見て、改革路線を容認する方が安全と判断したのだろう」と、複数の情報源の話をまとめた。”(ミャンマーの民主化運動を支援する英国の人権活動家ベネディクト・ロジャーズ氏)【同上】

制裁緩和に向けて加速する国際社会
長くなったのではしょりますが、国外の反応も概ね好評で、経済制裁解除に向けた動きが加速しています。
もちろん、“民主化”の評価という面だけではなく、「最後の未開拓市場」と呼ばれるミャンマーへの投資拡大の思惑もあってのことです。

4日閉幕した東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議は、ミャンマーに経済制裁を科す欧米各国に対し、制裁解除を呼びかける声明を採択しました。
アメリカのクリントン国務長官は4日、米企業のミャンマー新規投資の一部解禁を含む制裁緩和を進める方針を示しています。
EUも制裁緩和拡大を検討しており、アシュトン代表(欧州委副委員長)が数週間以内にミャンマーを訪れ、改革の進展を確認する意向です。
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ふたつの鉄道  ラサから青蔵鉄道をネパールへ延伸 北朝鮮・羅津とロシア・ハサン間を結ぶ貨物運行

2012-04-04 23:01:33 | 東アジア

(4月3日朝日より)

中国:ネパールとの関係強化でチベットの分離・独立勢力を押さえ込む狙い
中国の温家宝首相が1月14日、中国首相としては11年ぶりにネパールを訪問し、バタライ首相らと会談しています。
中国側はこの訪問で、総額約1億2千万ドル(約92億円)の援助供与を約束したと報じられています。
歴史的にも、現在の政治経済的にもネパールはインドの強い影響下にありますが、近年、そのネパールでも中国が存在感を増しています。
中国としては、ライバル・インドを牽制すると同時に、チベットからインドへの亡命ルートを断つチベット問題対策の意味合いもあると指摘されています。

そうした中国のネパール支援の一環として、チベット自治区のラサから青蔵鉄道をネパールのコダリまで延伸する計画が中国・ネパールの間で協議されているそうです。

*****中国、ネパールとの関係強化 インド牽制、鉄道延伸も チベット独立運動を抑圧*****
中国がネパールとの経済関係の強化を進めている。3日付インド紙ヒンズーによると、両国は、中国チベット自治区の青蔵鉄道をネパールのコダリまで延伸する計画を協議した。貿易額も増加を続ける。中国にとって、ネパールは亡命チベット人の出国ルートになっているだけでなく、核武装国インドとの間に位置し、戦略的重要性が高いことが背景にある。

中国の温家宝首相は今年1月、中国の首相としては約11年ぶりにカトマンズを訪問し、バタライ首相らと会談。中国が資金援助を増やすことや、チベット独立運動を念頭に、ネパールが中国を分断しようとする動きに対して領土を使わせないことなどを約束した合意文書に調印した。
ヒンズー紙によれば会談の際、ラサと青海省西寧を結ぶ青蔵鉄道の延伸計画についても協議。駐ネパールの中国大使は先週、ネパール当局者に対し、中国国境の町コダリを通関地として整備するため支援することを明らかにした。

ネパールは貿易の6割弱をインドとの間で行っており、物流の多くをインドに頼る一方、中国との昨年の貿易額は前年比61%増の約12億ドルと拡大している。

また、チベット自治区から毎年数百人規模のチベット人がネパールを経由してチベット亡命政府があるインドへ渡っており、中国にはネパールとの関係強化でチベットの分離・独立勢力を押さえ込む狙いがある。

中国が国境を接する国には、南シナ海の領有権問題で対立するベトナム、民主化の進展で相対的に関係が後退したミャンマー、親日的な国王を持つブータンなどがあり、中国にとりネパールを自国側に引き寄せることは戦略的意味を持つ。

ネパールでは2008年に王制が崩壊し、反政府武力闘争を行ってきたネパール共産党毛沢東主義派が武装解除、毛派主導の政権が誕生した。王室と良好な関係を築いていた中国はかつて毛派をテロ集団とみなしていたが、民主化後は毛派を最重要政党とみて関係を構築してきた。毛派書記長のダハル元首相は首相就任後の初外遊先に慣例だったインドではなく中国を選び、インドを刺激した。
インドのジャワハルラール・ネルー大学のシリカン・コンダパリ教授は、「中国はネパール国境に19の検問所を築いている。開通済みは数カ所で、残りはネパールの合意待ちだ。インドは、中国が軍事的に攻撃的な動きをしているとみなしている」と話している。【4月4日 産経】
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カトマンズの街に中国商品・広告が溢れる日も、そう遠くなさそうです。
3月30日ブログ「スリランカ 内戦終結から3年 復興をアピールする政府 中国・インドの援助競争」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120330)では、ネパール同様に伝統党的にインドの影響が強いスリランカへの中国進出、インドとの援助競争を取り上げましたが、同様の事態がネパールでも起きています。
今のところは中国の勢いが強く、インドは防戦にまわっているように見えます。

個人的には、チベットからヒマラヤを抜けてネパールへ至る鉄道というのは非常に魅力的で、開通したら是非旅行したいものです。

それにしても、改めて地図を眺めると、中国は北朝鮮、ロシア、モンゴル、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブータン、ミャンマー、ラオス、ベトナムと陸上の国境線を有しており、ロシア、インド、ベトナムとは国境紛争で武力衝突・戦争も起きています。また、ミャンマーや北朝鮮国境も政治情勢絡みで不安定です。

こうした国境線を維持してくのは大変に神経・エネルギーを使うことでしょう。
多くの国と長い国境線を有し、実際に紛争も経験している中国と、日本のように周囲を海で囲まれた国では、国際問題・国家関係に対する考えも大きく異なることが容易に想像されます。

北朝鮮・羅津で開発を競うロシアと中国
もうひとつ、鉄道関連の記事がありました。
国境を隔てて向かい合う北朝鮮の羅津(ラジン)とロシアのハサンの間を結ぶ鉄道がロシア側の修復工事によって整備され、運行の見通しがたったようです。

****羅津―ハサン間の貨物列車「10月から」 北朝鮮報道****
朝鮮中央通信は2日、北朝鮮の羅津とロシアのハサン間を結ぶ貨物列車が、今年10月から運行するとの見通しを伝えた。正式に運行が始まれば、年間10万個の貨物が輸送されるとしている。

2001年に首脳会談で鉄道改修事業に合意し、08年に工事を開始。北朝鮮鉄道省とロシア鉄道会社が同年、合弁企業設立の契約を交わしていた。昨年10月には、試験運行された。
同通信は北朝鮮の鉄道省局長の話として、現在、レールの敷設とトンネル、信号の補修などにあたっていると報じた。また、正式に運行が始まれば「東北アジアとヨーロッパを結ぶ新たな国際鉄道貨物輸送ルートが築かれ、朝ロ両国の経済協力や関係発展に寄与する」と伝えた。【4月3日 朝日】
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“ロシアと北朝鮮の間の鉄道は、ソビエト連邦軍を輸送するために第二次世界大戦直後に建設された。豆満江駅より先は朝鮮総督府鉄道として日本統治時代に建設されたので、ロシア側が広軌(1,520mm)であるのに対して、北朝鮮は標準軌(1,435mm)なので、貨物の積み替え、客車の台車の付替えが必要である。架線を流れる電気の種類も、ロシア側が交流25,000V50Hz、北朝鮮が直流3,000Vと異なっている”【ウィキペディア】という状態で殆んど使われていなかったのを整備したもののようです。

ロシアは2008年、ハサンから羅津に通じる鉄道補修と羅津港3号埠頭開発の見返りに49年間の港湾使用権を獲得しています。これまでに鉄道の一部補修は行ってきましたが、埠頭開発はほとんど手付かずで北朝鮮側が不満を募らせていたとも報じられています。【11年8月23日 産経より】

羅津港は、北朝鮮が外資導入による経済開発を狙っている羅先(ラソン)特別市・自由経済貿易地帯にあります。
そして、北朝鮮の最大の後ろ盾、中国もこの地域への進出を早めています。
中国は北朝鮮・羅先にある羅津港に、ロシアとは別の埠頭の租借権を獲得し、貿易港として利用しています。
北朝鮮とロシアによって日本海から遮断されている中国にとっては、羅津港は日本海への出口として重要な意味合いがあります。

****中国、北の港利用 石炭輸送開始、協力加速へ****
中国の国際情報紙、環球時報などによると、北朝鮮との経済協力関係を強化している中国が、使用権を獲得している北朝鮮北東部の交易都市、羅先(ラソン)の羅津港を利用して、中国南東部に向けた石炭の輸送を開始していることが5日までに、明らかになった。

中国が石炭の輸送に使用しているのは同港の1号埠頭(ふとう)。昨年3月、中朝経済協力の窓口となっている遼寧省大連の企業が、最低10年間の使用権を獲得したことが公になっていた。同紙によると、埠頭はすでに石炭輸送用の改修が施され、石炭を積んだ輸送船が年明け早々、上海に向けて出港したという。

韓国の聯合ニュースは、石炭は吉林省延辺朝鮮族自治州の琿春(こんしゅん)市で採掘されたもので、初回の輸送量は約2万トンだったと伝えている。韓国紙、朝鮮日報は「中国は北朝鮮の羅津港を借りることで、東北部の天然資源を南方へ輸送する“北煤南運”の新しい道を切り開くだろう」と分析している。

羅津は中国にとって、経済的にも戦略的にも重要な港だ。清時代の19世紀に日本海への出口を失った中国東北部は“陸封”され、経済発展が遅れた。これまでは700~900キロ離れた遼寧省の港まで陸送するほかなく、コスト高に悩まされていた。羅津港の運用開始は、東北部の経済発展に加え、日本や韓国、ロシアとの貿易促進につながると期待されている。

今後、中朝両国は羅津港を足がかりに経済協力をさらに加速させると予測されている。環球時報によると、中朝は羅先の経済区を含むハイレベルの協力開発機構を設立する見通しだ。現在の水深約9メートルの埠頭のほかに、同30メートル前後の埠頭を備えた大規模な国際港を建設するとの憶測もささやかれている。
同紙は「このような国際港は、すべての合法的な商業輸送船に開放される」と指摘。韓国メディアでは「北朝鮮が国内の経済困難を克服するために、さらに羅津港の使用権を開放する」との見方が広がっている。【11年1月6日 産経】
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中国の進出で、ロシア側も羅津港埠頭開発のペースを速めているようです。
北朝鮮としては、ロシア・中国を競わせて、出来るだけ多くの資本を引き出したい思惑でしょう。

大きな可能性を秘めた極東経済圏
北朝鮮、中国、ロシア、更には韓国などのそれぞれの思惑もあって、ここ数年、極東の要所を結ぶ回廊の建設、それにともなう経済活動の活性化が見られます。

****中国、悲願の日本海へ〈動く極東****
中国吉林省・延辺朝鮮族自治州の琿春。ロシアと北朝鮮に接する街だ。黒竜江省綏芬河と並んで極東の物流を担う、もう一つの有望ルートの中心にある。

琿春市の東端にある防川にタクシーで向かった。3カ国国境と約15キロ先の日本海を見るためだ。海に至るまでの土地はロシアと北朝鮮の領土だ。あとわずかで日本海への道をふさがれた形で、中国にとって、非常に悔しい15キロなのだ。(中略)

1990年代から国連開発計画が周辺国とともにこの地域を共同開発しようとしてきたが、大きな進展はなかった。核開発で国際社会と衝突するなど、まさに北朝鮮の不安定な情勢が大きな原因だ。中ロの微妙な関係も影を落としている。中国が日本海とつながるのをロシアが嫌っている、との見方が現地で聞かれた。

空気が変わったのは3年前からだ。中ロ首脳が、沿海州から東シベリアにかけての国境地帯で約200項目の事業を行うことで合意した。また、中国政府が吉林省都・長春から延辺自治州にかけての地域を国家プロジェクトとして重点的に開発することを決めた。

こんな中で、琿春とロシアのザルビノを結ぶルートと、琿春から北朝鮮の羅津港に出るルートが同時に開拓されている。
いま、地元で期待が高まってきているのが羅津ルートだ。中国企業が羅津港の埠頭(ふとう)の一つに10年間の使用権を得て、石炭を中国南方に輸送し始めたことが背景にある。限定的ではあるが、中国が日本海に悲願の出口を持った。
この出口をさらに拡大しようと、中国が使える埠頭の増設を北朝鮮側に働きかけているという。

延辺自治州・図們江区域開発弁公室の王秋菊主任は「南方の建材や北方の自動車なども運べる」と語り、物流ルートとしての本格化に期待する。
「綏芬河よりも、延辺の方がもっと将来性があると思う」。延辺大学経済管理学院の金華林院長は言い切る。朝鮮半島情勢が好転すれば、日韓も羅津港を活用すると見るからだ。協力の一環として、羅津などの経済管理にあたる北朝鮮の幹部や職員を1期20人ずつ、吉林大学で養成し、すでに2期を終えたという。

だが、羅津港だと、北朝鮮に経済制裁をかける日本や韓国は当面使えない。中国にとってザルビノとの連結も急ぐ必要がある。【4月3日 朝日】
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記事にあるように、日本にとっては北朝鮮問題が大きなネックになっており、また、中国の羅津進出についても「中国が日本海に進出してくる」という“脅威”としてのとらえ方が強くあります。

ただ、大きな流れとしては、極東経済圏とも言えるこの地域の経済・物流が活性化すれば、日本にはその中心になって大きな利益をあげられる可能性があります。国としての経済規模は日本を抜いた中国ですが、日本海を囲む極東エリアに関して見れば、日本の経済力・市場規模は他を引き離しています。

****回廊づくり、関心示す周辺国〈動く極東****
国章の「双頭の鷲」のごとく、ロシアが欧州だけでなく、アジアにも首を向けたことで、極東地域の物流ルートづくりが活発になってきた。
日中韓ロの政府関係者や専門家らが昨年末、黒竜江省ハルビン市に集まり、陸海一貫の輸送を進めていくことで合意した。物流ネットによる一体化でさらに成長を促すねらいだ。西のモンゴルも構想に入れる。

これまでロシアの効率の悪い通関手続きや様々な規制、行政の腐敗などの問題があり、関係国はロシアの経由に二の足を踏んでいた。だが、ロシア極東連邦大学のフジヤトフ教授は、中ロ両国が09年に国境地域の事業協力に合意したことや、ロシアの世界貿易機関(WTO)加盟の動きなどが、徐々にこうした懸念を払拭(ふっしょく)していく可能性を指摘する。

回廊づくりは中国が最も熱心だが、韓国も吉林省の延辺ルートに期待する。韓国政府関係者は「我々は吉林省との協力に関心がある」と語る。吉林省は朝鮮族自治州を抱え、1992年の中韓国交樹立以降、対韓貿易の窓口の役割を果たしてきた。

日本政府は最近、年1~2回のペースで、綏芬河市など現地に政府職員を派遣し、中ロ国境地帯の物流や共同開発を視察させている。中ロの接近は地域経済だけでなく安全保障にも影響を与える可能性があるからだ。日本から中国やロシアに至る物流ルートの構築には時間がかかるとみている。新潟県や鳥取県などは積極的だが、日本政府は静観する構えを崩していない。【4月3日 朝日】
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中国・琿春とロシアのザルビノを結ぶルート及び琿春から北朝鮮の羅津港に出るルートと並んで、極東の物流ルートとして注目されているのが、中国黒竜江省綏芬河(ソイフェンホー)とロシア・ウラジオストクを結ぶルートです。
このルートにしても、日本・韓国との結びつきを期待しています。

****海越え日韓へも ****
こうした(綏芬河)市の動きについて、黒竜江省社会科学院東北アジア研究所の●志剛所長(●は竹かんむりに旦)は「ロシア相手の貿易だけでは行き詰まるかもしれないから」と語る。急成長の勢いを保つには、その向こうにある日韓を巻き込む必要があるとの判断だ。ウラジオストク経由で日韓と結びつけば、綏芬河が極東の物流の中心にもなる。

課題は、中国の圧倒的な人口圧力を心配し、国境貿易の拡大にも慎重な意見が多いロシアとの協力をどう進めるかだ。
最近、中国の様々な働きかけで、ロシアにも変化の兆しが見える。市内の貿易仲介業者によれば、昨年11月、黒竜江省牡丹江市からウラジオストク港を経て鳥取県に至る貨物運送が10日間で実現した。これまでロシア側の効率の悪さなどから2カ月近くかかるとされたルートだ。税関書類の決裁にかかる時間も7日から2日に短縮されたという。
趙書記は語る。「ハルビンから綏芬河、ロシア極東、日本へと至る道は未来につながる道なのです」【同上】 
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フォークランド紛争から30年 イギリス批判を強めるアルゼンチン・フェルナンデス大統領

2012-04-03 23:34:21 | ラテンアメリカ

(11年11月2日 「国際法と平和の枠組みのなかでマルビナス諸島を奪還する」として、イギリスの植民地主義を批判するアルゼンチンのフェルナンデス大統領 背景の絵はエビータでしょうか “flickr”より By fernando andrés A http://www.flickr.com/photos/10697960@N07/6307801846/ )

両国関係は1990年の国交回復以降で最悪
1982年のフォークランド紛争から30年ということで、イギリス・アルゼンチン間の最近の険悪な関係に関する記事が目に付きます。

****フォークランド紛争30年:英・アルゼンチン関係最悪****
南大西洋のフォークランド(アルゼンチン名・マルビナス)諸島の領有権を巡り英国とアルゼンチンが戦火を交えたフォークランド紛争開始から2日で30年を迎えた。現在は軍事衝突の可能性は低いものの、英国がフォークランド沖で油田開発を始めたため、帰属をめぐる議論が再燃し、両国関係は1990年の国交回復以降で最悪と形容されるまで冷え切っている。

フォークランド諸島沖で海底油田の存在が確認され、英国が2016年の生産を目指して2年前から開発に着手しており、アルゼンチン側が反発している。
アルゼンチンのフェルナンデス大統領は同国南端のフエゴ島で2日、英国が21世紀になっても「飛び地領土」を持つことを批判し、「我々の環境、資源、石油の強奪を止めろ」と演説。先月末には、油田開発の差し止めを念頭に、開発に協力する欧米の金融機関に対して「刑事、民事訴訟を起こす」と話し、英国による油田開発をけん制した。

一方、英国のキャメロン首相は2日、「フォークランドの住民だけが未来を決める権利があり、英国はその権利を守る」と語り、住民がアルゼンチンへの帰属を求めない限り、返還を拒否する方針だ。
住民約3000人の多くは英国系で英領所属を望んでいる。石油開発で島の経済が潤う期待が高まる現在はなおさらだ。島民はアルゼンチンが敗北した6月14日を「解放記念日」として祝っている。【4月3日 毎日】
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エスカレートする対応が、結局戦争へ
82年のフォークランド紛争を超簡単にまとめると以下のとおりです。

****フォークランド紛争****
フォークランド諸島(アルゼンチン名はマルビナス諸島)は、アルゼンチンの東約480キロの南大西洋に位置する諸島で、1833年から英国が実効支配しています。
アルゼンチンでは、76年にイサベル・ペロンを追放した軍事政権が「汚い戦争」とも言われる左翼弾圧を行っていましたが、そうした国内の政治的混乱やインフレーションの進行など国内経済の不振に対する国民の不満をそらす形で、かねてよりの懸案でもあったフォークランド問題に焦点をあてました。

こうした軍事政権の姿勢と呼応して民族主義的な言動が国内でエスカレートし、歯止めがかからない状態で、遂には1982年4月2日、アルゼンチン軍はフォークランド諸島に上陸、守備に当たっていた数十名のイギリス軍を捕虜とし、74日間の戦闘が始まりました。

サッチャー英政権(当時)は空母2隻を主力とする部隊を派遣、イギリス側は艦船に大きな損失は出したものの、6月14日にアルゼンチンが降伏しイギリス勝利で終結しました。

この紛争の戦死者は英軍の255人、アルゼンチン軍は649人。
なお両国は2009年、国連に同諸島周辺の領有権を申請したが、いずれも凍結されています。
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普段、日本を中心に置いた世界地図を見慣れていますので、地図の“左上”のイギリスと“右下”のアルゼンチンが戦うというのはピンときませんが、大西洋を中心に置けば、両国はその対岸ともなります。
ただ、アルゼンチン本土に近接するフォークランド諸島が、イギリス本土から遠く離れていることはかわりありません。アルゼンチン軍事政権は当初、イギリス軍がはるばる奪い返しに来るとは思っていなかったのではないでしょうか。

実際、イギリス側はフォークランドへの軍派遣に消極的だったようですが、「鉄の女」ことサッチャー首相(当時)が反対する閣僚に対し「この内閣に男は(私)一人しかいないのですか!?」と言い放ち、軍事行動を強行した話は有名です。

当時、両国関係・紛争を伝える報道を目にしていて、日に日にエスカレートしていく情勢に、「戦争というのこうして起こるものなのだ・・・」という思いを実感した記憶があります。
一旦拳を振り上げると、チキンレースからの脱落を恐れる相手もそれに応じて拳を振り上げ、互いに後戻りできない状況に追い込まれていきます。

また、エグゾセミサイルによるアルゼンチン側のイギリス艦船攻撃など、毎日TVで解説される戦闘状況は、一種ゲームを見ているような不思議な印象でした。
実際には900名ほどの戦死者が出ているのですが、ベトナム戦争などのような“戦闘に逃げまどう住民”といった悲惨なイメージがあまりなかったせいでしょう。
南大西洋の島という、日本の日常世界からは遠く離れた地での紛争ということも影響していたのでしょう。

紛争の結果、アルゼンチン軍事政権は崩壊して民政に変わりますが、紛争の経済的ツケは大きく、アルゼンチン経済はその後、天文学的なハイパーインフレーション、更に債務不履行(デフォルト)に見舞われます。
一方、「英国病」とも称されていたイギリスでは、それまで不人気だったサッチャー首相の国民支持が急上昇し、国内基盤を固めたサッチャー首相は国内経済を活性化させ、新自由主義の旗手として、レーガン米大統領と並んで世界をリードすることになります。

海底油田を巡る両国の思惑
紛争から30年を迎える今年、年明けからイギリス・アルゼンチン双方で活発な動きが報じられていました。

****英首相、部隊急派案を承認=フォークランド諸島へ―タイムズ紙****
キャメロン英首相は19日までに、アルゼンチンとの間で領有権争いが続く南大西洋の英領フォークランド(アルゼンチン名マルビナス)諸島を防衛するため、部隊の急派計画などを盛り込んだ緊急案を承認した。19日付の英紙タイムズが国防省筋の話として報じた。

キャメロン首相は18日、国家安全保障会議を招集し、フォークランド諸島情勢について協議。国防省筋によると、緊急案にはブラジルとアフリカ南部アンゴラのほぼ中間に浮かぶ英領アセンション島を経由して部隊を送り込む計画もあるという。【1月19日 時事】
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****紛争30年、英国と断交を=フォークランドめぐり市民抗議―アルゼンチン****
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにある英国大使館前で20日、南大西洋の英領フォークランド(アルゼンチン名マルビナス)諸島の領有権をめぐって対立する英国との外交関係断絶などを求め、市民が英国旗を燃やす抗議活動を行った。

今年は、両国が戦火を交えたフォークランド紛争の勃発から30年の節目の年。ただ、今年上旬には王位継承順位2位のウィリアム王子が軍務で同諸島に駐留する予定のほか、今週にはキャメロン英首相が「アルゼンチン側の主張は植民地主義だ」と発言して同国内で反発が強まるなど、緊張が高まる恐れが強まっている。【1月21日 時事】
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紛争から30年の節目の年であること、2月に救助ヘリの副操縦士を務めているウィリアム王子がフォークランド諸島に派遣されたことの他、フォークランドが再度注目を集める理由として、地下資源・石油があるのは冒頭毎日記事にあるとおりです。

****フォークランド紛争から30年、海底油田めぐり再び揺れる諸島****
南米アルゼンチン沖フォークランド諸島(アルゼンチン名:マルビナス諸島)の領有権を英国とアルゼンチンが争ったフォークランド紛争から、今年は30年。同諸島周辺には莫大な埋蔵量が見込める油田が存在することから、両国の間で再び緊張が高まっている。

■油田で争点は漁業から経済へ
アルゼンチン南東沖の英領フォークランド諸島の領有をめぐって1982年に英国とアルゼンチンの間で起きたこの短期間の紛争を、アルゼンチンの著名作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスは、「2人のはげ頭の男が、使うあてもない櫛(くし)を奪い合っている」とたとえた。

だが、それから16年後、周辺の海域で「黒い色の金鉱」が発見されると、新たに経済的な利害問題が降ってわくことになる。「かつての問題は漁業権だったが、これは1990年代に漁業資源を共同開発する方向で、一定の合意に至った。しかし現在の争点は石油で、これは政治と密接した産物といえる」と外交政策シンクタンクである英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のビクター・ブルマートーマス氏は説明する。

■原油価格の高騰で注目浴びる油田
フォークランド諸島沖の海底に眠っていた炭化水素は今から14年前、英蘭系石油大手シェル(現ロイヤル・ダッチ・シェル)の試掘によって発見された。しかし当時の原油価格は1バレル10ドルにも満たなかったため、同社は採算がとれないとみて探査を進めなかった。

しかし、その後の原油価格は上昇を続け、現在は1バレル125ドル前後にまで高騰。世界に残るわずかな未採掘油田の1つと見込まれるフォークランド諸島周辺に、5つの企業が群がった。
その先陣を切って2010年、ロックホッパー・エクスプロレーション、デザイア・ペトロリアムの英国系開発企業が試掘を再開。アルゼンチンを動揺させた。

これまでに5企業がフォークランド諸島周辺で試掘を実施しているが、これまでのところ大量の石油埋蔵量が確認できたのはロックホッパーが試掘した諸島北方のシーライオン油田のみだ。

米大手調査会社エジソン・インベストメント・リサーチ(EIR)によると、ロックホッパーは推定埋蔵量4億5000万バレルのシーライオン油田の開発着手を年内に予定し、2016年までの汲み上げ開始を目指している。
一方、フォークランド海盆の南部で初めての試掘に今年着手した他の企業は、同諸島端の深海域に80億バレルの埋蔵量の発見を見込む。

■英国、自治政府、アルゼンチンそれぞれの思惑
こうした背景から、北海原油の残存埋蔵量が30億バレルと減少するなかで、英国には本土から1万2900キロも離れた小さな海外領に固執するだけの強い経済的動機がある。

英領フォークランドの自治政府も、油田が地元にもたらす経済効果に大きな期待を寄せる。EIRの試算によると、周辺の石油埋蔵量が83億バレル程度とした場合、最後の1滴を汲み上げるまでに採掘権料や税収などで合計約1800億ドル(約15兆円)の利益が同諸島にもたらされる。(中略)

フォークランド諸島沖での油田開発ラッシュに怒ったアルゼンチン政府は3月、諸島沖で油田探索を行っている5企業を提訴すると宣言した。(中略)しかし、チャタムハウスのブルマートーマス氏は、これら5企業がアルゼンチン側の脅しに本気で慌てることはないとみている。こうした脅しはアルゼンチンで操業する企業にしか適用できないからだ。

ブルマートーマス氏によれば、諸島周辺の石油埋蔵量が「採算性に見合う石油輸出が見込める十分な量であることは、かなり現実的」だ。「だが、いったん石油の生産、売買が始まってしまえば、アルゼンチンが(諸島の)領有権を主張することは極めて難しくなるだろう。だからアルゼンチンは、可能な限りあらゆる手を使って、商業採掘を阻止しようとしているのだ」と、ブルマートーマス氏は結んだ。【4月2日 AFP】
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有権者の関心を、景気鈍化など一連の国内問題からそらす常套手段
こうした険悪な関係にもかかわらず、武力衝突が再度起こる可能性は低いと思われています。
イギリスも財政事情の悪化から空母を退役させ、19年に新たな空母が配備されるまで前方展開力を欠いているのが現状ですが、それでも、戦闘機ユーロファイター4機を常駐させ、最新鋭ミサイル駆逐艦を配備して備えを固めています。

一方、アルゼンチン側は、紛争の敗北で軍部が実権を失い、ここ30年軍事予算が削減されており、装備は老朽化し、“開戦前には三軍で15万5000人程だったアルゼンチン軍は2000年には三軍で7万1000人程になっている”【ウィキペディア】という状況で、ほとんど戦闘遂行能力がないのが実情です。

そうした軍事的事情にもかかわらず、アルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス大統領がフォークランド問題を事あるたびに取り上げるのは、外交的狙いと国内問題隠蔽があると指摘されています。

****フォークランド諸島がまた火種に*****
・・・・アルゼンチンのキルチネル政権は最近数カ月、英国批判を強め、南米での英国の外交的孤立化を画策して、同国を交渉のテーブルに引っ張り出そうとしている。英国の当局者は最近、記者団に対し、キルチネル大統領はこのようにして有権者の関心を、景気鈍化など一連の国内問題からそらそうとしていると述べた。
(中略)
アルゼンチンには、かつての欧州の植民地主義に反発する近隣諸国を味方に付ける力がある、とアナリストは見ている。現在の緊張は、アルゼンチンが昨年12月に、ブラジル、ウルグアイなどメルコスル(南米南部共同市場)加盟国に、フォークランド旗を掲げた船舶の入港を禁止するよう説得したことから始まった。その後ペルーは、英フリゲート艦の寄港許可を取り消した。ペルー外務省は、フォークランド諸島をめぐる領有権紛争でのアルゼンチンへの連帯からこれを決定したとしている。 【4月2日 THE WALL STREET JOURNAL】
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フェルナンデス大統領は夫のネストル・キルチネル前大統領から政権を譲り受ける形で大統領選挙に勝利し、昨年10月には再選を果たしています。夫婦で権力の頂点を目指した政治的野心から、「南米のヒラリー」(本家のヒラリー・クリントンは政権獲得に失敗しましたが)と呼ばれていますが、本人は、国民の間で“エビータ”の愛称で呼ばれる美人で、今もカリスマ的人気があるフアン・ペロン元大統領夫人を自分に重ね合わせているようです。

世界有数の穀物の輸出国であるアルゼンチンは、穀物価格の世界的高騰という追い風を受けて、高い成長率を達成し、貧困も改善していますが、国内のインフレが収まっておらず、フェルナンデス大統領の政治的手腕を疑問視する向きもあります。再選も夫の急死による同情票によるもの・・・との見方もあります。
そんなフェルナンデス大統領としては、フォークランド問題を前面に出して、政権の求心力を確保しようといったところでしょう。

外交的には、上記記事にあるように、南米各国にはアルゼンチンを支持する動きがあり、イギリスが頼みとするアメリカもそうした南米の空気を読んで、深入りを避けようとしているのも事実です。
しかし、今朝のTV報道によれば、南米各国の間で、事あるたびにフォークランド問題を持ち出すアルゼンチンの姿勢にいささかうんざりして、“付きあいきれない”という雰囲気も出ているとか。

フェルナンデス大統領の思惑がどうであれ、前述のよういアルゼンチン軍に戦闘能力がないため、最悪の事態は避けられそうで、その点は安心です。
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タイ深南部、止まぬテロ 繁華街で連続爆弾テロ

2012-04-02 22:45:27 | 東南アジア

(ヤラー県 爆弾が仕掛けられた車 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6886929360/

治安当局の掃討作戦などと合わせ、犠牲者は5千人を超える
タイは、最近でこそタクシン派と反タクシン派の対立による混乱がクローズップされていますが、イメージ的には観光立国の「微笑みの国」という穏やかな印象で、テロとはあまり結びつきません。
また、敬虔な仏教徒の国というイメージも定着しています。

そうしたイメージは間違いではありませんが、南部のマレー半島でマレーシアに接する「タイ深南部」と称されるエリアは、住民の8割ほどがイスラム教徒で、歴史的にもタイとは異なる歴史を有しています。
そうしたことから、以前から激しい民族対立の場となっており、タイからの分離独立を目指すイスラム反政府勢力によって、仏教徒の首が切り落とされるといった類の凄惨なテロが多発しています。
これまでの犠牲者は5000人にのぼるということですから、その深刻さが窺われます。

タイ深南部のそうした事情については、
07年6月25日ブログ「「微笑みの国」タイの抱える“宗教対立”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070625
09年6月19日ブログ「タイ深南部 イスラム教徒による反政府活動が激化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090619
でも取り上げてきました。

対話に向けた接触始まるも手詰まり テロの動機は、対話の促進と妨害のそれぞれの見方が浮上
状況は今も変わっていないようで、ヤラー県とソンクラー県のハジャイで31日爆弾テロが相次ぎ、15人が死亡しています。

****タイ:南部で爆発相次ぐ 15人死亡****
タイ南部で31日、爆弾などによる爆発が相次ぎ、少なくとも15人が死亡した。イスラム教徒が多い南部では近年、分離独立を求める反政府組織によるとみられるテロが多発している。

南部ヤラー県の繁華街で車に仕掛けられた爆弾が爆発し、少なくとも10人が死亡、60人以上が負傷した。隣接するパタニ県でもオートバイを使った爆弾攻撃があり、警察官1人が負傷した。

ソンクラー県のホテルでは少なくとも5人が死亡、336人が負傷する爆発が起きた。警察当局はテロの可能性も含めて調べている。【3月31日 毎日】
*************************

下記記事によれば、“今年1月以降、インラック政権と武装組織の一部で対話に向けた接触が始まった”とのことですが、手詰まり状態のようです。

****タイ最南部の連続テロ、同一グループの犯行か****
タイ治安当局は1日、最南部のヤラーとハジャイで31日に起きた爆発事件などがマレー系武装組織による同時多発テロだったとの見方を示した。一般市民を狙った無差別テロの可能性もあることから、インラック首相は治安当局に警戒を指示。各地の空港では警備が強化されている。

最南部の最大都市ハジャイでは同日午後1時ごろ、大型ホテルなどが入る商業施設の地下駐車場にあった盗難車に仕掛けられた爆弾が爆発。火災がショッピングセンターに延焼し、3人が死亡、400人以上が病院に運ばれた。

武装組織のテロの標的は、兵士や軍の民兵、警官、地方行政官ら当局者やその協力者に集中し、待ち伏せや襲撃による攻撃が多かった。しかし今回は、これまでにあまり例のない、外国からの観光客や週末の買い物客でにぎわう繁華街で起きた。

関係者によると、今年1月以降、インラック政権と武装組織の一部で対話に向けた接触が始まったものの、手詰まり状態が続いている。このため犯行の動機としては、対話の促進と妨害のそれぞれの見方が浮上している。

マレー系住民が8割以上を占める最南部では2004年から武装組織によるテロ攻撃が活発化し、治安当局の掃討作戦などと合わせ、犠牲者は5千人を超えている。【4月1日 朝日】
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繁華街での爆弾テロという犯行は、これまでの一般的なテロとは異なる形態とのことですが、10年5月26日にはヤラー県で、自動車販売店の前でバイクに仕掛けられた爆弾が爆発するテロが、11年10月25日には同じくヤラー県の繁華街の少なくとも12カ所で、バイクに仕掛けられた爆弾や投てき弾が爆発するテロが起きています。
従来の待ち伏せや襲撃で当局者や協力者の首を切り落とすといった形から、一般市民をも巻き込む爆弾テロの形に変化してきているように見えます。

タイ深南部の混乱が深刻化したのは、タクシン首相の強権的対応に地域住民が反発を強めた04年からと言われています。
そのタクシン首相の妹でもあるインラック首相には、混乱の収束に向けた指導力が期待されるのですが、やや荷が重いでしょうか。

とにかく、力で抑えつけようとしても限界があり、反発を強めるだけの結果にもなります。
武装組織の一部との対話に向けた接触が始まっているのなら、今回のような“妨害工作”を乗り越えて、譲歩を厭わず、粘り強く交渉にあたってもらいたいものです。

長期的には、経済開発による地域住民の生活の引き上げが融和への道となりますが、中国のチベット問題に見るように、経済開発の利益が一般住民のものとならない形であったり、地域住民の文化がないがしろにされたりする形では、混乱は収まりません。そうした点に留意した施策を期待します。
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ロシア  プーチン新体制を前に、反政権派政治家や人権活動家への盗聴・盗撮が活発化

2012-04-01 22:01:35 | ロシア

(プーチン首相が当選した3月4日の大統領選をめぐり、不正があったと主張する野党勢力は5日夜、モスクワ中心部のプーシキン広場で1万人規模の抗議集会を開きました。しかし、こうした反プーチンの声は次第に下火となっているのが現状のようです。背景に描かれている威嚇するゴリラのような化け物はプーチン首相を表したものでしょうか?会場の広場にはヘルメットをかぶった警察官が数多く配置され、広場の外へ抗議行動が広がらないよう厳重に警備しています。 “flickr”より By picnicer http://www.flickr.com/photos/69921450@N04/6810621748/

春まだ遠いロシア政治改革
ロシアではプーチン首相の大統領復帰が確定し、下院選挙の不正疑惑を機に一時盛り上がりを見せた、汚職・腐敗を糾弾し社会的公正を求める反プーチンの抗議行動も下火となっています。

****ロシア:反プーチン運動に陰り、新戦略打ち出せず*****
今月4日の大統領選でプーチン首相が当選したロシアで、政権を批判する抗議運動が退潮傾向を強めている。運動を指導してきた反プーチン勢力の力量不足や、戦略欠如が原因。5月7日の大統領就任式に照準を絞った抗議活動が計画されているが、勢いを回復するのは容易でない状況だ。

抗議運動は昨年12月の下院選後に本格化し、下院に議席を持たない反プーチン派政党などが市民を取りまとめてきた。だが、インタファクス通信などによると、同派のネムツォフ元副首相らは17日、モスクワ中心部で無許可の集会を開き、政治犯の釈放などを訴えたが、参加者は200~300人にとどまった。モスクワで10日に開いた反政権集会でも、参加者は約2万5000人(主催者推計)で、10万人規模を集めた過去数回の集会を大幅に下回った。

反プーチン派は退陣要求を繰り返すだけで、新たな戦略を打ち出せていない。カーネギー国際平和財団モスクワセンターのシェフツォワ上級研究員は「大衆を引きつける指導者が出ておらず、政権に対抗する力を備えていない」と指摘する。

抗議運動の指導者は平和的な活動に専念することで一般国民が参加しやすい環境を整えてきた。だが、中心組織の一つ「左派前線」のウダリツォフ代表は5日の集会後、「座り込み」を強行し、拘束された。これに対し、「冒険に乗り出した」(リベラル系野党ヤブロコのミトロヒン党首)と批判が出ており、反プーチン派内部の足並みの乱れも目立ってきた。

反プーチン派は大統領就任式前の5月6日ごろにモスクワで数十万人が参加する集会と行進を計画し、勢いを盛り返したい考えだ。【3月19日 毎日】
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活気づくシロビキ(武闘派、治安・特務系機関の幹部や出身者など)】
そうした“プーチン復帰”の政治情勢のなかで、ソ連時代のKGBをほうふつさせる盗撮・盗聴が横行するようになっているとの指摘があります。
反政権派の政治家や人権活動家が標的とされており、日本大使館の公使も盗撮の被害にあっています。

****駐露日本公使も盗撮・盗聴被害 プーチン氏大統領就任控え特務系機関暗躍か****
ロシアで反政権派の政治家や人権活動家が盗撮・盗聴され、面会や電話の内容がインターネットや政府系メディアで暴露される事態が相次いでいる。在露日本大使館の公使も被害にあった。
ソ連時代をほうふつさせる盗撮・盗聴劇には治安・特務系機関の関与が疑われており、プーチン首相が次期大統領に就任するのを前に、反政権派の信用失墜や分断を図る狙いだとみられている。

日本大使館の公使は2月3日、モスクワ市内のレストランで著名な人権活動家、ポノマリョフ氏と面会しているところを盗撮された。計5分30秒にわたる2本の盗撮映像が動画投稿サイト「ユーチューブ」に掲載されており、一部は政府系テレビ局NTVの番組でも放映された。

この番組では諸外国が資金援助を通じて反政権派や人権活動家の糸を引いていると主張。
ポノマリョフ氏が北方領土の色丹、歯舞の「2島を(日本に)引き渡すべきだ」とする持論を展開している映像が使われ、氏が日本の政治的利益と引き換えに「助成金」を求めているとのナレーションが加えられていた。

こうした盗撮は昨年12月、モスクワで下院選の不正疑惑に抗議する大規模な反政権デモが行われるようになったのと軌を一にして相次いだ。
昨年末には、反政権派のネムツォフ元第1副首相が俗語を多用して“身内”のデモ組織関係者を批判した電話の会話を盗聴され、政権派のネットメディアが録音を暴露した。

NTVの前出番組では、欧米の外交官が人権擁護団体に出入りしたり、反政権デモを視察する模様も放映されている。ポノマリョフ氏は「盗撮が連邦保安局(FSB)などの治安・特務系機関によって行われたのは疑いない」と語り、連邦捜査委員会(SK)に調査を求める書簡を送ったことを明らかにした。

プーチン次期政権は一定の民主化改革を行って不満層の“ガス抜き”を図る姿勢を見せているが、ポノマリョフ氏は「政権のシロビキ(=武闘派、治安・特務系機関の幹部や出身者など)はプーチンの大統領復帰に活気づき、プーチンがさらに(反政権派に対して)厳しい態度を取るよう圧力をかけている」と指摘。一連の盗撮・盗聴には次期政権の方針をめぐる派閥抗争も絡んでいるとされ、ポノマリョフ氏は「(次期政権の)改革は楽観できない」と話している。

在露日本大使館の話「NTVに対しては抗議文書を送付した。大使館員が通常の外交活動として行った面会の映像と音声がわれわれの了解なく放映されたことは遺憾であり、北方領土問題について日本大使館が工作をしているかのように報じられたことも誤解を与えるとする内容だ」【3月27日 産経】
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また、アメリカの駐ロシア大使の電話がロシアの情報機関に盗聴された可能性も問題となっています。

****ロシア:駐露米大使の電話が盗聴の可能性 米政府が懸念****
1月にモスクワに着任した米国のマクフォール駐ロシア大使の電話が、ロシアの情報機関に盗聴された可能性が浮上し、米政府が懸念を強めている。盗聴を裏付ける証拠はないものの、米国務省が大使の安全に懸念を表明して事実関係の調査を求めるなど米露間の外交問題に発展しそうな気配だ。

発端はマクフォール大使が29日、簡易ブログ「ツイッター」で、ロシアの政府系テレビNTVの記者が大使の非公開の訪問先で必ず待ち構えている実態を暴露したこと。大使がロシアの人権活動家と電話で面会を約束した際には、NTV記者が面会場所で待ち構えていたという。
大使はツイッターで「記者が誰から私のスケジュール表を受け取っているかに関心がある」と述べ、NTVが電話を盗聴したロシア情報機関から情報を提供されている可能性を示唆した。

ロシアでは最近、日本大使館の公使が著名な人権活動家とモスクワ市内の飲食店で会談している様子が何者かに盗撮され、映像が動画投稿サイト「ユーチューブ」やNTVの番組で放映される騒ぎがあったばかり。
米国務省のトナー副報道官は30日の記者会見で「マクフォール氏の(1月の)着任以降続いている数々の事件は、大使の安全に懸念を抱かせるものだ」と述べた上で、ロシア政府に事実関係の調査を求めたことを明らかにした。【3月31日 毎日】
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プーチン流強権支配は、今後も台頭する中産階層を抑えきれるか?】
プーチン首相自身がかつてはKGBの一員として東ドイツで諜報活動を行い、また、ソ連崩壊後も、KGBの後身であるロシア連邦保安庁(FSB)の長官に就任したように、KGB・FSBの諜報活動とは深い関係があります。(プーチン首相が国民的支持を得たのは対チェチェン強硬策ですが、そのチェチェン攻撃のきっかけになったテロ事件にはFSBが関与している・・・といった噂もあります。)
「FSB以外の6~7の特殊機関も野党に対するスパイ活動を許可されている」(元FSB工作員)とも言われています。

「強い国家」を標榜するプーチン体制には、かねてより「国家至上主義」的強権支配の指摘がります。

****安定望む心理逆手に****
90年代には、ソ連崩壊とその後の急進改革による失政で国内総生産(GDP)がソ連末期の半分近くまで急落。98年には対外債務の支払い猶予まで宣言し、多くの庶民が、年26倍にも達したハイパー・インフレや通貨切り下げで、貯金が紙くずと化す悪夢を見た。

これに対し、前大統領期には石油価格が90年代の10倍に跳ね上がった追い風を受けてGDPが1・6倍に膨らんだ。南部チェチェン共和国の独立紛争は平定され、プーチン氏が打ち出した対外強硬路線も国民の自尊心をくすぐった。

プーチン氏はこの間、安定を望む国民心理を逆手にとり、議会や司法、報道など民主主義の根幹を骨抜きにして強権体制を構築。統治の根底には、「強い国家」を再興するために手段を選ばぬKGB仕込みの「国家至上主義」があった。
政権内ではKGB出身者などシロビキ(武闘派)が台頭。主要経済分野の国家統制も進められ、今やプーチン氏の側近集団がGDPの10~15%にあたる資産を掌握しているとの推計もある。【3月5日 産経】
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政治参加や経済活動の自由拡大を求めて、大都市部では中産階層が声を上げ始めており、こうした都市部中産階層にはプーチン流の強権体制に対する倦怠感が強まっているとの指摘【同上】もありますが、最近の「政権のシロビキ(=武闘派、治安・特務系機関の幹部や出身者など)はプーチンの大統領復帰に活気づき、プーチンがさらに(反政権派に対して)厳しい態度を取るよう圧力をかけている」という動きは、プーチン新体制がどのような性格の政権になるのかを示唆しています。

国内面だけでなく、国際的にもアメリカが主導する欧州のミサイル防衛(MD)への対応など、アメリカとの“リセット”が再リセットされ、新冷戦に戻りのでは・・・との懸念もあります。

ただ、台頭する都市部中産階層との力関係次第では、今後、プーチン流の強権支配体制は破綻をきたす可能性もあります。また、石油価格が低下した場合、原油に依存するロシア経済は困難に直面し、社会的不満が噴き出すこともありえます。
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