(日本の財政事情は、巨額の“特例”公債が毎年発行され、予算の半分ほどを公債に依存する状態が続いています。(24年度の公債依存度は49%)
ただ、低金利政策で利率が右肩下がりに低下しているため、公債残高の増加にもかかわらず、一般会計歳出に占める国債費は25%弱程度に収まっています。また、GDPに対する財政赤字で見ると、イギリスやアメリカの方が日本より高い数字も出ています。
日本の国債は国内で消化されており、欧州各国とは単純比較はできない・・・という議論もありますが、増加する公債残高は何らかのきっかけで経済を破綻させる時限爆弾のようにも思われます。
グラフは、“我が国の財政事情(財務省主計局)”より http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2012/seifuan24/yosan004.pdf )
【スペイン:ゼネストが一部暴徒化】
ギリシャへの第2次支援を何とかクリアして小康状態にあった欧州経済ですが、火種は依然としてくすぶり続けており、いつまた緊迫した情勢になるかはわかりません。
ここ数日は、国債の入札が不調だったことからスペインの国債価格が急落しています。
****スペイン国債、利回り急上昇=債務危機再燃―欧州市場****
5日午前の欧州金融市場では、過剰債務を抱える国の国債価格が急落(利回りは急上昇)、スペインの10年物国債利回りは5.8%台(前日終盤は5.7%台)と昨年11月30日以来の高水準を付けた。市場ではスペインの財政再建の遅れへの懸念が強く、ギリシャへの第2次支援などで沈静化していた欧州債務危機が再び台頭してきた。【4月5日 時事】
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スペインでは、政府の緊縮予算案や労働市場改革への取り組みが行われていますが、これに反対するゼネストが行われ、一部が暴徒化し全国で176人が逮捕され、警官58人を含む104人が負傷する混乱が起きています。
****財政危機の炎 スペインへ****
巨額の財政赤字とEU内でも最悪の高失業率に苦しむスペインにとって、緊縮予算の成立と雇用の流動化の実現は避けて通れない課題だ。ただ、改革には痛みが伴う。ラホイ首相は今年初め、「労働基準法を改正すればゼネストは避けられない」と言ったが、そのとおりになった。
政府の緊縮予算案や労働市場改革に反対するため、労働組合は先週、24時間のゼネストを実施した。首都マドリードでは公共交通機関の運行減少で渋滞が発生し、バルセロナの路上ではごみ箱が炎上。デモ隊と警官が衝突して負傷者が出た。
結局、スト翌日には公務員給与の昇給凍結などで270億7(約3兆円)を歳出削減する政府予算案が閣議決定された。政府は昨年末にGDP比8・5%だった財政赤字を今年末には5・3%に、さらに13年度は3%まで減らさねばならない。
政府は今後、赤字削減と共に成長戦略にも取り組む必要がある。労働者を解雇しやすくなる労働市場改革で雇用が流動化しても、景気がすぐに回復する見込みは薄い。欧州委員会は今年のスペインの成長率をマイナス1%と予測している。
景気が回復しなければ、政府の緊縮財政策はさらなる反対運動にさらされるだろう。【4月11日号 Newsweek日本版】
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ユーロ圏の失業率は10.8%にまで悪化していますが、特に、南部のスペイン、ポルトガル、フランス、イタリアが厳しい数字となっており、スペインは23.6%です。
こうしたなかでの緊縮予算案や賃下げや解雇が容易になる労働市場改革ですから、反対する側も切実です。
****欧州経済:ユーロ圏失業率10.8%****
欧州連合(EU)の統計機関ユーロスタットは2日、ユーロ圏(17カ国)の2月の失業率(季節調整済み)は1月から0.1ポイント悪化し、10.8%になったと発表した。EU全体(27カ国)も0.1ポイント悪化の10.2%だった。
欧州債務危機の影響によるユーロ圏諸国の景気低迷で、雇用情勢の悪化に歯止めがかからず、失業率は1999年のユーロ導入以来の最悪水準が続いている。
2月の失業率はスペインが23.6%、ポルトガルが15.0%、アイルランドが14.7%と財政難の国で高止まりした。フランスは10.0%、イタリアも9.3%といずれも高水準。【毎日 4月2日】
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【イタリア:相次ぐ焼身自殺未遂】
イタリアのモンティ首相も労働市場の改革をめざしてします。
イタリアでは、労働法によって正規雇用者が手厚く保護されていて、企業の業績不振を理由に解雇することが認められていません。モンティ首相は「雇用を弾力化して、若者が働きやすい環境をつくる」として、労働市場の改革をめざしていますが、労組などは「企業が解雇しやすくなるだけ」と反発を強めています。
労働市場改革に併せて、これまで非課税特権が認められていた教会施設への課税も決定されています。
****イタリア、教会施設にも課税へ=財政難で「聖域にメス」*****
イタリアのモンティ政権は24日、税制などで優遇されていたカトリック教会が保有するホテルなどの施設に不動産税を課す政府案を決めた。カトリック教徒が多い同国では、教会への非課税特権が認められてきたが、債務危機を受けて財政再建が最重要課題となる中、聖域にメスを入れた形だ。
同国のカトリック教会は約10万件の不動産を持っているとされ、ホテルやレストランなど宗教活動と直接関係ない「サイドビジネス」も多い。礼拝所や修道院などを備えた不動産を除いて課税対象となり、年6億ユーロ(約650億円)の税収増が期待されるという。来年の施行を目指す。【2月25日 時事】
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ホテルやレストランなど宗教活動と直接関係ない「サイドビジネス」が課税対象となるのは、当然のことかと思われます。
また、脱税取り締まりも強化されていますが、これに抗議する焼身自殺事件が起きるなど、“痛み”を伴う改革に社会が動揺しています。
****経済危機のイタリアで焼身自殺未遂相次ぐ****
財政危機のイタリアで28~29日、脱税容疑で裁判中のイタリア人男性と給料未払いに抗議するモロッコ人男性が相次いで焼身自殺を図り、全土に衝撃が走っている。
1件目の事件はボローニャで28日、建設作業員の男(58)が税務署の駐車場に停めた車の中で自らに火をつけたもの。近くにいた駐車監視員に救出され、病院へ搬送されたが重体という。
この男は2007年から脱税していたとして10万4000ユーロ(約1140万円)の追徴課税を求められており、近く裁判に出廷する予定だった。男は国税庁、友人、妻に宛てた遺書を残しており、伊紙コリエレ・デラ・セラの抜粋によれば、国税庁に宛てた遺書には「私はずっと税金を払ってきた」と書かれていたという。
2件目の事件は翌29日、ベローナ在住の建設作業員のモロッコ人男性(27)が賃金未払いへの抗議として、路上で腕と頭に火をつけたもので、前日の事件を模倣したとみられる。地元警察によるとこの男性は、4か月にわたって賃金が支払われていないと路上で叫んだ後、ガソリンをかぶって火を放った。駆けつけた警官によって火は消し止められ、男性は病院に運ばれたという。
相次ぐ事件を受け、保守系日刊紙ジョルナレは第1面で「税金のせいで炎上:収税吏に殺されるイタリア国民」との見出しで大きく報じた。レプブリカ紙も「経済危機に押しつぶされた職人の悲劇」と伝えた。
イタリアのマリオ・モンティ政権は、巨額の負債を返済するために脱税取り締まりを強化している。【3月30日 AFP】
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【ギリシャ:広場で短銃自殺】
財政再建のための増税や年金額の引き下げが行われているギリシャでも、生活苦の高齢者が広場で短銃自殺する事件があり、社会不安が拡大しています。
****アテネで騒乱、選挙前に不安拡大 高齢者の自殺きっかけ****
ギリシャの首都アテネの国会前広場で4日朝、77歳のお年寄りの男性が生活苦を訴える遺書を残し、短銃自殺した。これをきっかけに、政府の財政再建策に反発する約2千人の群衆がアテネ中心部に集まり、一部が警官隊と衝突した。4月末にも想定される総選挙を前に、社会不安が広がっている。
地元紙カティメリニなどによると、亡くなったのはアテネ在住の元薬剤師クリスツラスさん。目撃者によると、通勤客で広場が混み合う午前9時前、「借金を子どもたちに残したくない」と叫び、銃で頭を撃ち抜いた。
手書きの遺書には「ゴミ箱から残飯をあさったり、子どもの重荷になったりする前に、威厳ある最期を迎えるにはこうするしかない」などと記されていた。また、欧州連合(EU)などの支援の下で増税や年金額の引き下げを続ける政府を、ナチスのギリシャ侵略に協力した政治家に重ね合わせて批判する表現もあったという。【4月5日 朝日】
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国家経済が追い詰められた状態での“改革”による“痛み”は、社会の一部にとっては耐えがたいものになります。
そこまで至らない、社会的弱者をフォローする社会的余力がある段階での早めの対応が必要かと思われます。
財政状況が厳しさを増す日本もそうした時期ではないでしょうか。