孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国・トルファン  21年ぶりのセンチメンタル・ジャーニー

2012-04-18 22:30:49 | 身辺雑記・その他

(ブドウ棚越しに見るトルファン賓館)

【「今は平和です」】
14日から中国を旅行中です。
上海、銀川(寧夏回族自治区、かつての西夏王国の首都)を経て、今回旅行の目的地である新彊ウイグル自治区のトルファンに来ています。

トルファンはシルクロードのオアシスとして栄えた都市で、新彊の中心都市ウルムチの東183kmにあって、トルファン盆地という世界有数の低地にあるため、夏は50℃近くまで温度が上がる灼熱の“火州”でもあります。
内陸ですから、冬は氷点下15℃近くにまでなりますが、今の時期は、昼間は二十数度といったところで、比較的しのぎやすい気温です。

歴史的には、5~7世紀に漢族の移民によって高昌国(こうしょうこく)が建設され、その後唐の直接支配を経て、ウイグル人による西ウイグル王国が建設されています。
新彊では、09年にはウイグル族と漢族の対立による暴動によって150名前後の死者も出る混乱が報じられていますが、そうした漢族の移民、ウイグルと漢族のせめぎあいは今に始まった話ではありません。
(ガイド役のウイグル人に今の状況を尋ねると、「今は平和です」とのこと)

観光的にはトルファンは、かつての高昌国当時の大規模遺跡(都市がまるごと遺跡として残存じています)、千仏洞のような仏教遺跡に加え、ウイグル族のイスラム文化、砂漠のオアシスとしての風情なども加わって、非常に魅力的なスポット・見所が溢れています。
個人的には、トルファンの観光資源は、これまで旅行した中国、東南アジア、インド圏のなかでも、最高とも言えるレベルだと思っています。

21年前、別天地の“オアシス”】
トルファンには、天安門事件の2年後、21年前に訪れたことがあります。
当時、事情あって11年間勤めた仕事をやめ、2回目の大学で学生生活を送っていました。
そんな訳で“夏休み”という時間がありますので、神戸から船で上海に渡り、西安、敦煌などを経て、ウルムチまで25日ぐらいかけてシルクロードを旅しようというものでした。

ただ、無収入の時期ですから、極力出費は切り詰めた貧乏旅行でした。
移動は飛行機ではなく、鉄道。街の中ではタクシーではなくバスか歩き、ホテルはドミと呼んでいた数人の相部屋・・・といったところです。

大学の教養課程で中国語を学んではいましたが、当然役には立ちませんので、筆談を交えながらの貧乏旅行は、かなりしんどい旅でもありました。
上海では、あてにしていたホテルが満員で、船の中で知り合った若い連中数人と泊まる場所を探して右往左往。
上海からは一人で西安に向けて、数十時間の汽車の旅。
西安では、タクシー代を惜しんで歩き回っていたら、疲れと空腹でふらふらになったことも。

西安から、やはり鉄道で河西回廊に入ります。
酒泉では、到着前に激しい腹痛に襲われ、汽車から降りると駅前の公衆便所の前で地面に転がっていました。
駅の女性職員や近くの医者の親切でなんとか回復、そのまま旅を続けます。

敦煌では、汽車の切符が入手できず、超有名な壁画見物もそこそこに、どうやってこの先に進もうか・・・と悩みます。
やっとの思いで汽車に乗れたものの、満員の汽車には座席はなく、車両連結部分にようやく場所を見つけます。
そこは、トイレから水が溢れ出てきて、乗客がごみ捨てや子供の用足しに使うような場所でした。
バッグを抱えてうずくまっていると、女性車掌に「邪魔だ」と背中を蹴られたことも。
そんな状況が次の目的地トルファンまで二十時間ぐらい続きました。
何度も途中で降りようかとガイドブックの地図をにらみながらも、隣のウイグルのおじいさんにタバコをもらったりしてなんとか耐えて、ついにトルファン着。

しかし、夜明け前で真っ暗。
駅前にいた解放軍兵士風の男性にトイレを尋ねますが、なかなか通じず、十数回、中国語で「トイレ、トイレ」と繰り返します。
ようやく見つかったトイレは、当時の中国を旅行したことがある方ならわかる、筆舌に尽くしがたい汚さ。足元の“ぬるぬる”と、背中のバッグの重さで、危うくトイレの穴に落ちそうになるという恐怖体験も。

トルファンの駅は市街からは60kmも離れており、バスで移動する必要があります。
バスターミナルの場所など知る由もありません。
真っ暗の中、地元の人がある方向にぞろぞろ行くので、後についていきます。
本当にトルファン市内に行くのか、よくわからないまま、ようやくバスの切符をゲット。
でもバスも満員。市内まで2時間近くかかりますが、大きな荷物を抱えて汗だくで立っていると、隣の女性から「ちょっと、汚いじゃない。そんな汗をかいた腕をくっつけないでよ!」なんて怒られます。

そんなこんなで、降り立ったトルファン。夜も明けたトルファンの街は、通りをブドウ棚が覆い、まさに“オアシス”の雰囲気。
宿はトルファン賓館のドミ。
ドミの相部屋客も日本人学生で、昼近くなると連れ立ってブドウ棚を通って、近くの食べ物屋へ。
通りに出した椅子でヨーグルトなどをすすっていると、それまでの旅の苦労に比べると、別天地の“オアシス”の穏やかさでした。
夜には、ホテルの庭のブドウ棚の下で、ウイグルの伝統舞踊のショーが行われます。単なる観光客向けのショーですが、当時の私には、異国情緒溢れる素晴らしいひとときでした。

トルファンでの数日後に移動した、旅の最終地ウルムチはあまり印象の良くないことも多くあって、この21年前の旅のなかでは、トルファンは燦然と輝いている思い出のです。
そして、その後経験した多くの旅行を含めても、一番の思い出の街です。

【「人生、何とかなるものだ!」】
今から思うと、よくもあんな旅行を計画したものだとも思いますが、このときの旅行をなんとか終えることができ、「人生、何とかなるものだ!」という思いを持ったことも事実です。
また、その後の海外旅行癖の出発点ともなる旅でした。
結果的に、海外の話題を扱ったこのブログの出発点も、この21年前の旅にあったと言えます。

21年ぶりのトルファンは、当然ながら様変わりしています。
街全体が大都会に変貌しています。
以前ロバ車がのんびり走っていた通りは、車が激しく行きかっています。

ブドウ棚の通りもすっかり小奇麗に整備されています。
ブドウの葉が少ないのは、季節的なものでしょう。
以前宿泊したトルファン賓館もすっかり新しくなっています。

変わったのはトルファンだけでなく、私も変わりました。
ジーンズにTシャツは以前のままですが、はみ出したおなかの肉は隠せません。
節約を旨とした一人旅は以前のままですが、さすがに今はお金よりも時間ということで、飛行機が使えるところは飛行機で移動。
ホテルも安宿を探しますが、当然個室でエアコン付きでないと・・・、できればWiFiが使える部屋で・・・。

そんな時間のながれを思いながら、しばしトルファン賓館前の葡萄棚でたたずみます。
あれからも紆余曲折はありましたが、何とかこの歳になるまでこぎつけました。
あと数年もすれば年金も。(年金制度が崩壊しなければ・・・ですが)三食のところを二食にすれば、食べていくことはできそうです。
「人生、何とかなるものだ!」・・・・ということで、もうしばらく「加油!」(がんばれ!)

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中国  東西の境界に位置する銀川(寧夏回族自治区)

2012-04-17 23:13:12 | 中国


空白の西半分
前回ブログでも書いたように、現在、中国に観光で来ています。
目的地は新彊ウイグル自治区のトルファンです。
14日(土)に上海に着き、翌15日(日)には寧夏回族自治区の銀川(ギンセン)に寄り道して、その日の午後と翌16日(月)の午前で観光。

写真は、上海から銀川への移動で使った格安航空「春秋航空」の機内ショッピング雑誌の1ページです。
格安航空「春秋航空」については、旅行記サイトの方で触れたいと思っていますが、上記写真は、2020年における中国高速鉄道網の予定図です。

中国の高速鉄道については、この前の事故などもあって、安全性の問題が指摘されてもいますが、今日はその話でもありません。
この中国全土の地図を見ての最初の印象は、中国の右(東)半分はまるで毛細血管が張り巡らされているようなのに対し、左(西)半分が真っ白だということです。

東半分が、漢族主体のいわゆる古来よりの中華文化圏であるのに対し、西半分は新彊ウイグル自治区、チベット自治区です。
新彊のウルムチ、チベットのラサが、か細い線でかろうじて中国中央とつながっているようにも見えます。

もちろんこれは、新彊の砂漠、チベットの山岳・高原という、自然環境による開発・鉄道建設の困難さに起因するものではありますが、ウイグル族・チベット族との間で緊張が絶えない現在の中国を象徴しているようにも思えました。

境界線の銀川
上記地図で東西を分けるラインが、銀川、蘭州、成都、昆明の各都市を結ぶ線のように見えます。
銀川は、このように、中華文化圏の西端に位置し、その西は河西回廊を経て西域(現在の新彊)に至ります。
境界に位置していることから、漢族以外も多く、“回族自治区”ということになっています。
イスラム教徒の回族は寧夏回族自治区の人口の2割ほどを占めるとのことですが、“自治区”なるものがどういうものなのかは知りません。
旅先ですので、調べる気力も時間もありませんので、そのことはパス。

また、“回族”が何者かということですが、トルファンのウイグル人に聞くと、「回族の母親は中国人で、父親はアラビア人。ウイグル族ではない」とのことでした。
あながち間違った説明ではないようです。

銀川のガイド氏の話しでは、銀川は、7年ほど前は人口7,80万人だったのが、今は180万人に急膨張しているとか。
中国内陸部経済の急成長を示す都市のひとつです。
今話題の重慶の成長も、失脚した薄氏の成果というより、そうした流れのひとつの結果にすぎない・・・といった指摘もあります。

銀川の街並み・様相は、普通の中国の大都市とほとんど変わりません。
2割を占めるというムスリムも姿はあまり目につきません。
たまに、信号停車中の車の間をぬって物乞いをしている老人が、ムスリムだったりもしますが。

市内に大きなモスクもありますが、なんとなく街並みからは浮いているような感もありました。
イスラムよりは、鼓楼とか南門など、中国古代王朝遺跡が印象的な街並みです。

歴史的には、この銀川を中心に独自の勢力圏を築いたのが、李元昊による西夏王国(1038~1227)です。
銀川に立ち寄ったのも、謎の西夏王国の始祖、李元昊の墓の遺跡を訪ねるのがメインの目的です。

西夏はチベット系ツタングート族の国家ですが、宋の時代、西は河西回廊から敦厚までを支配下に治めていましたが、モンゴルのフビライにより破壊されました。

李元昊の時代は、井上靖の小説「敦煌」の背景ともなっていますが、個人的には映画「敦煌」で李元昊を演じた渡瀬恒彦が白馬にまたがり、「時代に名を残すのはお前ではない。この俺だ」とか言い放つシーンが記憶にあります。
そうした西夏王国については、これも旅行記サイトに写真とともにアップする予定です。

台湾と南シナ海
冒頭の地図に話を戻すと、東西の違いのほかに気付くのが、台湾と高速鉄道で結ばれていることです。
海底トンネルでも作るのでしょうか?
中国からすれば、台湾は中国の一部ですから、当然にこの“中国全土”の地図に含まれています。
ただ、空白の西半分に比べると、違和感なく中国本土と溶け込んでいるようにも見えます。
同じ漢族社会という固定観念のせいでしょうか。

地図の左下には、南シナ海で中国が領有権主張している海域が示されています。
高速鉄道と南シナ海は関係ありませんが、“中国全土”の主張として、南シナ海も加えてあります。
銀川で展示されていた、西夏王国に関する地図でも、ご丁寧に南シナ海が隅っこに表記してありました。
国家としても統一方針のようです。
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中国は本当に冷漠社会(他人に無関心な社会)か?

2012-04-15 23:52:15 | 中国

(国内観光客で混み合う上海・外灘 4月14日)

昨日から中国を旅行中です。
昨日は上海で宿泊、今日は寧夏回族自治区の銀川に移動、明日からは新彊ウイグル自治区のトルファンで5日間ほど過ごす予定です。

上海は乗り継ぎのために寄っただけですが、一応、空港からリニアを体験し、最大の観光スポット外灘に数年ぶりに行ってみました。
リニアは最高時速430km、新幹線に比べると多少揺れますさすが、さすがに速いです。翼を出したら飛んで行きそうです。

もっとも、車内の写真を撮っているほんの7,8分で終点についてしまいます。市内にはそこから地下鉄に乗り換えますが、空港からも地下鉄で市内に直行できますので、わざわざリニアを使う実用性はいまのところは小さいようです。(所要時間は多少短縮されるのでしょうが、料金も高くなります。)

外灘はものすごい人出、その99%は中国国内観光客です。
中国を初めて訪れた二十数年前は、観光地では外国人の姿が目立ちましたが、現在は観光の主役は圧倒的に中国人民です。
人々の暮らしがそれだけ豊かになり、余裕が出てきたことのひとつの結果でしょう。
中国共産党政権の問題は普段指摘しているように多々ありますが、国民の生活向上はまちがいなく功績のひとつです。

上海での宿泊ホテルを探すのですが、見つかりません。
どうもネットで得たホテルの地図が間違っていたようです。
雨がポツポツ落ちてくるし、キャリーバッグを引きずり、どうしたらいいかわからず途方にくれたのですが、一度地図を見せて道を尋ねた若い男性数人のところにもどり、「見つからない。ホテルに電話して場所を聞いて欲しい」ということを頼みます。
私は中国語は全く分かりませんし、向こうは英語ができませんので、身振り手振り、以心伝心の世界ですが、私が困っていることは十分に理解して、何とか対応してもらえました。

つい先日のブログで、中国社会について、冷漠社会(他人に無関心な社会)とかモラルを欠いていると批判したばかりですが、すっかり彼らの親切の世話になってしまいました。

それ以外にも、リニアから降りるとき私のバッグのチャックが開けっ放しになっていることを「危ないから閉めなさい」と教えてくれた女性、ホテルのカードキーがうまく作動しなかったとき、自分の部屋からフロントに電話してあげると言ってくれた通りすがりの向かいの部屋の女性など、いくつもの親切を1日で経験しました。

メディアで報じられる事件が社会の一断面を表しているのは事実ですが、それは決して社会全体を表している訳でもないということを、改めて感じた1日でした。

旅先でネット事情が十分でなく、時間も無く、疲れてもいるので、今日はここまで。
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世界銀行総裁  アメリカが推す韓国系の医学者というサプライズ人事

2012-04-13 23:31:28 | アメリカ

(ダートマス大学のイベントでラップを披露するジム・ヨン・キム氏)

米国:韓国生まれの医学者という異例の候補を推薦
世界銀行のゼーリック総裁の後任として、最大出資国アメリカが推す韓国系の米ダートマス大学長ジム・ヨン・キム氏が選任される見通しです。

なお、キム氏の経歴は、“キム氏は1959年、韓国ソウルに生まれ、5歳のときに家族と渡米。1982年にブラウン大学を卒業、1991年にハーバード大学で1991年にMD(医学博士号)を、1993年に人類学でPh.D(博士号)取得。2009年ダートマス大学で現職についたとき、アイビーリーグ大学で初のアジア系アメリカ人学長となった”【中村芳子氏 「What’s up? ニューヨク・タイムズから」】”とのことです。

****世界銀行総裁にキム氏を選出へ 16日の理事会で*****
主に途上国を支援している国際金融機関、世界銀行が16日の理事会で、ゼーリック総裁の後任に米ダートマス大学長のジム・ヨン・キム氏を選ぶ見通しになった。アジア系で初の世銀総裁が誕生する。世銀関係者が明らかにした。

次期総裁には米国が推すキム氏のほか、ナイジェリア財務相のヌゴジ・オコンジョイウェアラ氏、コロンビア元財務相のホセ・アントニオ・オカンポ氏が立候補。3氏は9日から11日にかけ、総裁の選定権をもつ25人の理事と面接した。

キム氏には世銀への最大出資国の米国のほか、日本やカナダ、アフリカの一部の国が支持を表明。欧州と中国の動向が焦点だが、関係者によると、国際通貨基金(IMF)の専務理事に欧州出身のラガルド氏を選ぶ際に米国が協力しており、欧州はキム氏を支持する可能性が高い。
オコンジョイウェアラ氏は南アフリカなどのアフリカ諸国、オカンポ氏は南米諸国が支持している。理事会は選挙ではなく合議で次期総裁を選ぶが、キム氏優位は揺るがないとみられる。

世銀総裁は1940年代の設立以来、米国が推す候補が就くのが慣例で、対立候補が出たこともなかった。今回は、世界経済で存在感を高める新興国が米候補に初めて挑み、米国も韓国生まれの医学者という異例の候補を推薦した。

キム氏は59年ソウル生まれ。ハーバード大などを経て世界保健機関(WHO)でエイズ対策担当などを務め、09年7月から現職。途上国を中心に世界各国で幅広い経験をもち、11日の世銀理事会との面接では「私の経験は異なる支持母体や利害の間の懸け橋として生かせる」と訴えた。【4月12日 朝日】
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アメリカのポスト独占への批判
世銀総裁は米国出身者、IMF専務理事は欧州出身者が占める慣例に対する強い批判が、新興国を中心にあります。

****世銀総裁人事めぐる慣例、米国が率先して打破すべき=候補のナイジェリア財務相****
世界銀行の次期総裁候補の1人、ナイジェリアのオコンジョ・イウェアラ財務相は9日、世銀総裁は米国出身者というこれまでの慣例を米国が自ら率先して打破すべきと指摘した。

オコンジョ・イウェアラ氏はこの日、世銀の理事会と3時間半にわたり面接。同氏は各国の支持は求めず、選出プロセスがオープンで実績に基づくものであるべきと主張した。
面接終了後、同氏は会合で、次期世銀総裁は、最もふさわしいスキルを持つ候補がなるべきと指摘。「誰かが慣例を破らなければならない」と述べた。
 
世界銀行と国際通貨基金(IMF)のトップ人事をめぐっては、創設以来、米欧の非公式な合意に基づき、世銀総裁は米国出身者、IMF専務理事は欧州出身者がそれぞれ就いている。
しかし、中国、インド、ブラジルなど、経済的な影響力を強めている新興国は、そのような慣例をなくし、新興国の発言権を拡大すべきと主張している。

次期世銀総裁候補は、オコンジョ・イウェアラ氏、米国が擁立したジム・ヨン・キム氏、コロンビアのホセ・アントニオ・オカンポ元財務相の3人。世銀理事会は、4月16日に次期総裁を選出する見込み。【4月10日 ロイター】
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米メディアでサマーズ元財務長官やクリントン国務長官ら超大物の名が取り沙汰されていたなかでの、アメリカによる「ダークホース」アジア系キム氏擁立は、そうした世銀総裁のアメリカ独占批判を多少なりともかわそうとするサプライズ人事として注目されました。

途上国の疾病との戦いでは、キムはスーパーヒーロー
アメリカの今回人選に対する批判は、アメリカによるポスト独占固執批判に加えて、キム氏が経済の専門家ではなく健康・医療の専門家であるという点にも向けられています。

****ノーペル賞学者が世銀人事をめった斬り*****
ノーベル賞経済学者の言葉は重い。その1人であるコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ敦授か先週、世界銀行の次期総裁人事をめぐるアメリカの傲慢さを批判した。

オバマ大統領は先月、米ダートマス大学のジム・ヨン・キム学長を総裁候補に指名。一方、新興国や途上国はナイジェリアのイウェアラ財務相とコロンビアのオカンポ元財務相を推している。スティグリッツは「共に一級の人材で、財務相としてさまざまな仕事をこなしてきた」と、この2人のほうが公衆衛生の専門家であるキムより新総裁にふさわしいと主張している。

だが鍵となるのはもちろん政治だ。これまで世界銀行の票の大部分を握るアメリカとヨーロッパは手を組んで、アメリカが世銀総裁の、ヨーロッパがIMF総裁の指名権を維持してきた。

「もしアメリカが世銀総裁ポストにこだわり続けるなら、苦しむのは世界銀行自身だ。世界銀行は西側政府と金融・産業部門の代理人と見なされているおかげで、その影響力を発揮できずにきた」と、スティグリッツは言う。
能力主義の人事と優れた組織統治をースティグリッツはアメリカにこう求めている。【4月18日号 Newsweek日本版】
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こうした経済に関しては門外漢のキム氏の力量を危ぶむ声は多くあります。
しかし、途上国の医療・保健問題に取り組んできたキム氏の経歴は、途上国の貧困問題に直面する世銀総裁としてむしろふさわしいとの擁護論もあります。

****それでもオバマが「彼」を選んだ理由****
普通であれば、ジム・ヨン・キムが世界銀行総裁の座を手にすることはなかっただろう。韓国生まれのアメリカ人であるキム(52)は米ダートマス大学の学長で、専門は医学。金融の専門知識も外交の経験もない。しかし、今回の次期総裁選びはいつもと事情が違った。

世界銀行の創設以来、総裁指名権は事実上アメリカが握り続けてきた。11人の歴代総裁はすべてアメリカ人だ(11人中9人はウォール街の金融機関に在籍した経験を持つ)。
オバマ大統領にアメリカの推す総裁候補として指名された時点で、キムの総裁就任はほぼ確定した。4月16目の世銀理事会で、次期総裁に決まるだろう。

しかし今回は、アメリカが総裁人事を牛耳り続ける現状に挑もうとする動きが活発になっていた。理事会には、新興国や途上国の支持を受けて、キム以外に2人の候補者が乗り込む。ナイジェリアのイウェアラ財務相とコロンビアのオカンポ元財務相だ。財務相経験者という経歴は、両候補に有利に働いても不思議でなかった。

こういう状況でオバマがキムを指名したのは、ある意味で理にかなっていた。世界銀行が解決すべき途上国の貧困問題と切り離せないのは、医療・保健問題だ。途上国に蔓延する病気と戦う上では、キムほど頼りになる闘士はなかなかいない。
疾病という暗黒の敵との戦いでは、キムはスーパーヒーローと言ってもいい経歴を持つ。世界の貧困地域で結核などの感染症の撲滅を目指す団体「パートナーズ・イン・ヘルス」の共同創設者であり、ハーバード大学医学大学院でグローバル公衆衛生・社会医学部門の責任者を務めたこともある。
WHO(世界保健機関)で、HIV/エイズ対策を指揮した経験もある。

世界銀行の業務である融資とは直接関係がないと言えば、そのとおりだ。しかし、資金という開発の「プロセス」より、保健という「結果」に関わる仕事をしてきたキムの経歴は、アメリカの世銀支配に対して被援助国の問で反発が頭をもたげている時期だからこそ意味を持つ。

オバマとしても、今までどおり金融界の出身者を世銀総裁に指名し、例えばゴールドマン・サックスのロイド・ブランクファインCEOに世界の貧困撲滅の舵取り役を委ねるわけにはさすがにいかなかったのだろう。【4月18日号 Newsweek日本版】
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個人的には“擁護論”を支持します。(アメリカのポスト独占を是とする訳ではありませんが)
途上国における保健衛生・疾病の問題は、貧困の問題そのものです。
途上国への開発融資にとって最も重要なのは、いかに開発を推進するかということではなく、何がその国にとって必要とされているのか、その融資による事業で本当に国民の生活が向上するのか?・・・という、現地住民の目線に立った判断でしょう。
その点において、ウォール街の金融専門家より、途上国の貧困と疾病の実情をよく知るキム氏の方に、新たな展開への期待を感じます。著名経済学者の財務相とはまた異なる視点から対応もあるのではないでしょうか。

ラップで踊る世銀総裁
キム氏に関するもうひとつの話題は、ダートマス大学の昨年のイベントでラップを披露する姿がYouTube(http://www.youtube.com/watch?v=4lHKJEp5e-8&feature=player_embedded)にあることです。その前年のイベントでは、マイケル・ジャクソン風の皮ジャンを着て、「スリラー」に乗せてダンスを披露していたとのことですから、その手のパフォーマンスは嫌いではないようです。

世銀総裁としての権威をそこねる・・・という見方をする向きもあるかもしれませんが、個人の趣味の問題ですからかまわないのではないでしょうか。
ラップで踊る世銀総裁というのも悪くないかと思います。

キム氏に関して残念なのは、日本のネット上で、韓国系ということだけで彼を蔑視するようなコメントを散見することです。日本はいつからこんな情けない国になり下がったのでしょうか。
潘基文国連事務総長(評判は芳しくありませんが)に次いで韓国系の世界トップとなる訳ですが、日本から世界に通用する人材がなかなか出ないことは、大いに考える必要があろうかとは思います。

【「既存の慣行に挑戦することを恐れない」】
なお、キム氏は「既存の慣行に挑戦することを恐れない」との決意を表しています。
****キム世銀総裁候補が声明 現状・慣行打破に意欲 ****
米国が世界銀行の次期総裁候補に指名したジム・ヨン・キム米ダートマス大学学長が、総裁に選出された場合、組織の変革に取り組む考えを表明した。

キム氏の声明が11日、米財務省のホームページなどに掲載された。キム氏は「私がこの組織を率いる責任を担うことになれば、現状維持に対し厳しい質問を投げかけ既存の慣行に挑戦することを恐れない」と意欲を示し、支持を求めた。

さまざまな意見に耳を傾ける一方、恵まれない人々により多くの機会を提供し経済成長を担保するという目的に向け、厳格さと客観性を備えると強調した。
また、自身を「韓国に生まれ米国で育ち、いくつもの大陸で働いてきた」と説明しながら、「世界銀行の任務をさらに良い方向へ進展させられるよう共感を得ていくため、私のグローバルなリーダーシップを活用する」と約束した。

キム氏は先ごろ韓国を含む7カ国を訪問し、総裁選出へ支持を要請している。世界銀行は来週、総裁を選出する予定だ。【4月12日 聯合ニュース】
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イエメン  混乱に乗じて拡大するアルカイダ勢力 戦略的要衝ソコトラ島をめぐる動き

2012-04-12 23:39:24 | 中東情勢

(4月11日号 Newsweek日本版より)

【「アラブの春」でサレハ政権崩壊
アラビア半島南部に位置するイエメンでは、昨年からの「アラブの春」の流れのなかで、33年間権力の座にあったサレハ大統領と反大統領派の間で衝突が続いていました。
権限移譲を発表しながら反故にすることを何回か繰り返したサレハ大統領でしたが、昨年6月には首都サヌアで起きた暗殺未遂事件で重傷を負い、結局、昨年11月に権限移譲に署名し、同氏とその側近に民主化運動弾圧の訴追免除が与えられる形で今年1月にアメリカに出国しています。

訴追免除については、“サウジアラビアや米欧が仲介し、サレハ氏が署名した移譲案に基づく措置だが、反大統領派の一部は「政治に対する信頼を失墜させた」などと反発。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチも23日の声明で「国際法違反だ」と批判した。”【1月26日 毎日】といった反発もあります。

サレハ大統領から権限の移譲されたハディ副大統領は、昨年11月、首相に野党連合代表のムハンマド・バシンドワ元外相を指名し、組閣を要請しました。これを受けて12月には与野党勢力にポストを半数ずつ分配する挙国一致内閣が成立しています。

サウジ “混乱を最小限に抑える道”選択
今年2月21日には暫定大統領選挙が行われましたが、候補は権限移譲で実権を引き継いだハディ副大統領(65)一人ということで、事実上の信任投票となっています。

****混乱嫌う、サウジの影 イエメン大統領選、事実上の信任投票****
アラビア半島のイエメンで21日、昨年11月にサレハ大統領から権限移譲を受けたハディ副大統領を暫定大統領に選出する選挙が行われた。

ハディ氏選出により、北イエメン時代(1990年に南北統合)を含めると約33年にわたり権力を握ったサレハ氏は正式に退陣し、ハディ氏は今後2年間で新憲法起草や議会選を実施する見通し。昨年からの「アラブの春」で独裁的な長期政権が崩壊するのは、チュニジア、エジプト、リビアに続き4カ国目。

現地からの報道によると、首都サヌアでは同日、早朝から男女別の投票所に長蛇の列ができた。昨年のノーベル平和賞を受賞した民主化デモ指導者の一人、タワックル・カルマン氏も投票し、「サレハ氏退陣を記念する日だ」と語った。

その一方で、中央政府に反発する南部の分離独立派や、北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派勢力は選挙をボイコット。南部アデンなどでは分離独立派と治安部隊の衝突が起き、少なくとも4人が死亡した。
また、デモを続ける若者らの一部も「対立候補がいない選挙は、民主化とはいえない」と反発している。

事実上の信任投票である今回の選挙は、昨年11月、隣国のサウジアラビアなど湾岸アラブ諸国の仲介で、与野党がハディ氏を推すことで合意して実現した。
サウジは当初、部族社会のイエメンを曲がりなりにも統治してきたサレハ政権が完全崩壊すれば、自国の安全が脅かされるとして、同政権を維持する考えだったとされる。
しかし、デモ隊側と政権の対立が先鋭化する中、ひとまずサレハ氏に引導を渡す一方、政権や軍中枢にいる同氏一族には手をつけず、混乱を最小限に抑える道を選んだ。
ただ、同氏が“復権”に乗り出せば、政情が再び混乱する懸念がある。【2月22日 産経】
***************************

選挙結果については、“選管によると投票率は約65%、得票率は99%超(99.8%)で、幅広い国民の支持確保に成功した形だ。任期は2年間で、新憲法の制定や議会選挙の実施などが主任務だ。ハディ氏は南部出身の元軍人でサレハ氏が94年に副大統領に任命した腹心だった。”【2月25日 毎日】とのことです。

ハディ新大統領はサレハ前大統領の腹心でもあり、サレハ氏一族は新政権に対する影響力を保持する構えであるとのことでしたが、サレハ一族排除の動きが報じられています。

****イエメン大統領、前大統領一族の軍幹部を解任****
イエメンのハディ大統領は6日、2月に退陣したサレハ前大統領の義兄弟ムハンマド・アフマル空軍司令官とおいのタレク・サレハ大統領防衛隊司令官を解任した。
国営サバ通信が伝えた。大統領が、治安組織の要職を握り続けるサレハ一族排除に乗り出した形だ。

だがアフマル氏は、反サレハ派の軍幹部が退任するまで「職にとどまる」と反発。AFP通信によると、7日には首都サヌアの空港がアフマル派兵士に包囲され閉鎖されるなど、混乱が広がっている模様だ。

サレハ前大統領が33年余りにわたって独裁体制を敷いたイエメンでは、2月の大統領選を経て新政権が発足した後も、治安組織を中心にサレハ一族の影響力が残る。前大統領の長男で共和国防衛隊司令官のアフマド氏らはなお要職にとどまっており、影響力一掃までにはさらに時間がかかるとみられる。【4月7日 読売】
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南部と東部で存在感強めるアルカイダ系武装勢力
サレハ前大統領と反大統領派の衝突以外に、イエメンは従来より、南部の分離独立派、北部のイスラム教シーア派の一派ザイド派勢力、そして「アラビア半島のアルカイダ」などのアルカイダ勢力という3つの内紛を抱えています。

アルカイダ系武装勢力は大統領派と反大統領派が衝突する混乱のなかで勢力を拡大しており、今年1月には首都サヌア南東約170キロの町ラッダを掌握しています。
ハディ新大統領は「アルカイダ対策」を最重要課題の一つに掲げており、3月4日には、南部ジンジバル近郊で政府軍とアルカイダ勢力の衝突で60人以上の死者がでたと報じられています。
また、3月31日には南部マラハでの衝突で、政府軍・アルカイダ勢力双方合わせて30人が死亡しています。
混乱は現在も続いており、4月9日にも激しい戦闘が起きています。

****イエメン南部で激しい戦闘、死者多数****
イエメン南部アビヤン州で9日未明、国際テロ組織アルカイダ系の武装勢力が軍の兵舎を襲撃して激しい戦闘になり、少なくとも60人が死亡した。

軍は士官1人を含む14人の死者を出した。現地の政府職員は、軍の部隊は襲撃を受けた兵舎から撤退したが、部隊とともに武装勢力と戦っていた地元の部族は現場に残って戦闘を続けると語った。
ある部族長は、「軍はわれわれに武器を支援してくれた。われわれはアルカイダと戦う。やつらにわれわれの街を渡さない」と述べた。

イエメンの南部と東部では武装勢力が存在感を強めている。国防省とある部族長によれば、政府側は前週末にイエメン南部と東部のアルカイダ系武装勢力の拠点を空爆し、戦闘員24人を殺害している。【4月10日 AFP】
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地政学的な要衝「ソコトラ島」に集まる各国の関心
こうしたイエメン情勢のなかで、アデン湾の出口に位置し、「アフリカの角」ソマリアにも近い“ソコトラ島”が、その地政学的重要性からアメリカ、ロシア、中国などの強い関心を呼んでいるそうです。

****楽園の島に軍事化の風*****
インド洋西端に浮かぶ戦略的要衝ソコトラ 奇観とダイビングの島に米中露が触手を伸ばす

・・・・アデン湾の東、ソマリアの北東端から80ごに位置するソコトラ島は、地上の楽園とも呼ばれるイエメン領の小さな島。奇妙な樹木がっくり出す異世界のような風景で知られ、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産に登録されている。
首都サヌアから遠いソコトラ群島には、本土で吹き荒れる部族抗争の嵐は及んでいない。大陸から隔絶されているため、島の植物の3分の1は固有種だ。

シーレーン防衛の拠点
この群島は地政学的な要衝であり、古くから列強の支配下に置かれてきた。(中略)
群島はイエメン本土の混乱とおおむね無縁だったが、冷戦期にはソ連の基地があった。今もイエメン政府にとって重要な戦略的価値を持つ場所だ。

「アフリカの角」(ソマリア、エチオピアなどから或るアフリカ大陸東端部)とアラビア半島に近いソコトラ群島には、複数の国が触手を伸ばしている。報道によれば、米政府はサレハ前政権と米軍配備に関する交渉を進めていたようだ。

米政府がソコトラに目を付けたのは意外ではない。「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の動きが活発になった09年頃から、対テロ戦争の主な舞台は南アジアからアラビア半島とアフリカ東部へ移ってきた。
ソコトラ群島は、イエメンとソマリアの米政府関連施設を標的としたテロを防ぐための拠点となる。さらに、アジアとヨーロッパを結ぶシーレーン防衛のためにも重要な場所である。

群島の近海はインド洋からアデン湾に入り、紅海へ向かう航路の入り□に当たる。そのためアメリカや中国だけでなく、サウジアラビア、エジプト、イスラエルといった中東諸国も、この海域の安全確保に無関心ではいられないはずだ。
さらに、日本とインドに向かう原油タンカーがこの海域を盛んに航行する。そのため両国は中国と共に、海上貿易ルートの監視活動に参加している。

ヨーロッパからスエズ運河を通ってアジアに向かう船舶も、ソコトラ群島付近を航行する。アデン湾とインド洋の入り口は
海賊が横行している海域だ。被害が多発しているのはソマリア沖だが、一部はイエメン領海にも出没。イエメンの武器密輸組織とソマリアの海賊の結び付きも問題になっている。
国際海事局(IMB)の調べでは、今年1~2月の問にソマリア沖で20数隻余りの商船が海賊に襲われた。昨年1年間には300件を大きく上回る襲撃事件が起きている。アデン湾に出没する海賊はアジアの物流輸送網に莫大な被害を与えており、世界経済の損失は年間90値ドル以上という試算もある。

今は観光スポットだが
その被害は海運業以外の産業にも及ぶ。海賊の横行でこの海域の漁業は打撃を受け、周辺国は通商相手から敬遠されるようになる。さらには、観光業までがとばっちりを受けている。

米軍がソコトラ群島に基地を建設するかどうかは、アメリカの対イエメン戦略によって大きく左右される。すべては今後のイエメン情勢次第だ。
サレハと違って、イエメンの新政権はアメリカの言いなりにはならないだろう。しかも、ソコトラ群島に軍事拠点を置きたがっているのはアメリカだけではない。公式には否定しているが、ロシアも海軍基地の建設に関心を示しているようだ。

中国も同様だ。インド洋に面したパキスタンの港に莫大な投資をしてきた中国にとって、アジア向け海上輸送の安全確保は国家的利益が懸かる重大関心事だ。既にインド洋で海軍力の増強を進めており、今後もこの地域の戦略バランスを左右するキープレーヤーであり続けるだろう。
この地域に多額の投資をしている韓国も、関与を強めようとしているようだ。

今のところソコトラ群島はダイビングと奇観を楽しめる観光スポットとして人気を集めている。しかし将来的には、この楽園の島はイエメンがアメリカやアジア諸国と交渉を行う際の切り札になりそうだ。【4月11日号 Newsweek日本版】
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南シナ海  緊張高める中国の強硬姿勢と“スイカ泥棒”の言い分

2012-04-11 21:09:45 | 南シナ海

(昨年12月 公試中の中国初の空母 ウクライナからスクラップとして購入した本体を改造したもので、訓練用として使用されるのではないかと推測されています。
後続艦を含め、中国空母は戦力的にはアメリカ空母に対抗しうるものではありませんが、南シナ海などにおける存在感で、地域周辺国(アメリカを含む)に対する政治的・戦略的意味合いが大きいと思われます。
写真は“flickr”より By PacificSentinel http://www.flickr.com/photos/pacificsentinel/6535765433/ )

【「どうして駄目なのか。このスイカはいいスイカだし」】
中国では昨年10月、2歳の女児がひき逃げされたのに18人が見て見ぬふりをし、女児が死亡する事件が起き、冷漠社会(他人に無関心な社会)として問題になりました。
今度は、横転したトラックに取り残された男性の救助を運転手が見物人に求めたにもかかわらず、殆んどの人がこれを無視して散乱した積み荷のスイカを持ち去った・・・という衝撃的な事件が報じられています。

****中国:事故で車横転 スイカ持ち去るも救助要請は無視*****
中国・雲南省大宝の高速道路で4日、大量のスイカを積んだトラックが横転事故を起こし、車内に男性1人が取り残されていたのに、集まった人々は散乱したスイカを持ち去るだけで助けようとせず、男性は死亡した。雲南テレビなどが伝えた。

広東省仏山市では昨年10月、2歳の女児がひき逃げされたのに18人が見て見ぬふりをし、女児が死亡する事件が起き、冷漠社会(他人に無関心な社会)として問題になった。インターネット上では「『見死不救』(死にそうな人を助けない)がまた起きてしまった」などと、道徳心の喪失を嘆く声が広がっている。

事故は4日午後4時20分ごろに発生。約35トンのスイカを積んで昆明に向かっていたトラックが、ブレーキが利かなくなり、コントロールを失って横転した。運転手は助け出されたが、後部座席に乗っていた男性が取り残された。運転手は集まった見物人らに「助けてください」と男性の救助を求めたが、ほとんどの人々がスイカを持ち去る一方、救助要請を無視したという。

スイカを持ち去ろうとした男は、現場でとがめた雲南テレビの記者に「どうして駄目なのか。このスイカはいいスイカだし」と悪びれた様子もなく言い、「あなたの良心はどこに行ったのか」との問いには「そんなことは考えたことがない」と言い放った。事故では、通報を受けて救急車が現場近くに来たが、事故による渋滞で近づけず、男性は死亡が確認された。

中国版ツイッター「微博」では、「(こんな時に)強盗をしないと損だという人間のくずのような考えは、いつになったら中国からなくなるのか」、「中国人の素養は千差万別だと思うが、文明の程度が低い人が大多数だ。私たちが当然だと思っていた道徳基準は、彼らの心の中にはまったく現れなかったのだ」といった書き込みが相次いでいる。【4月10日 毎日】
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この事件に関する報道は上記毎日記事しか見ていませんので事実関係がよくわかりませんが、もし上記記事内容が事実だとすれば相当に深刻な事態です。
女児ひき逃げ事件のような、“面倒には関わりたくないので見て見ぬふりをする”というのは、日本を含めて多くの社会で似たようなことは見られます。

しかし、今回の「どうして駄目なのか。このスイカはいいスイカだし」といった言動は、“冷漠社会”というより、基本的なモラルを喪失した社会を思わせます。
自分の利益になることなら何をしてもかまわないし、利益にならないことを無視しても良心の呵責云々は考えない・・・というように見えます。

緊張続く南シナ海
ところで、話はまったく変わりますが、南シナ海では広範囲な領有権を主張する中国と、海域周辺国、特にベトナム・フィリピンの対立が続いています。
今も、中国漁船を取り締まろうとしたフィリピン海軍の艦船と、これを妨害する中国の海洋監視船が洋上でにらみ合いを続けているそうです。

****南シナ海:中国とフィリピンの艦船 にらみ合い続く*****
中国とフィリピンが領有権を争う南シナ海で10日、中国漁船を取り締まろうとしたフィリピン海軍の艦船を中国の海洋監視船が妨害した。11日も両国艦船のにらみ合いが続いている。

フィリピン外務省によると、海軍偵察機が8日、ルソン島の西約250キロにあるスカボロー礁の浅瀬に中国漁船8隻が停泊しているのを発見。海軍の艦船が近づき、10日に漁船を立ち入り調査したところ「違法」に採取されたサンゴや貝、生きたサメなどが見つかった。
フィリピン側は漁船員らを拘束しようとしたが、中国の海洋監視船2隻が現れて間に入り、妨害されたという。

フィリピンのデルロサリオ外相は10日、中国側に「海域はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内で、海軍は法律に従って行動している」と申し入れた。
しかし、在マニラ中国大使館は、浅瀬の領有権は中国にあるとし、「漁船は悪天候のため浅瀬に避難していたところをフィリピン海軍の艦船に進路妨害された。フィリピン側は違法行為を直ちにやめるべきだ」と主張している。【4月11日 毎日】
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【「中国にどんなに刃向おうとも、それは卵が石に体当たりするようなものだ」】
個々の案件に関する事実関係はよくわかりませんが、南シナ海における中国の一連の行動には、力づくで自分の言い分を押し通そうとするような姿勢を感じます。
中国からすれば、フィリピンがアメリカとの関係を強めて中国の意に沿わないのは、力もない小国の分際で身の程知らずだということになるようです。

****フィリピンに告ぐ、中国は「平和」に最後のチャンスを与えているだけだ―中国紙****
2012年4月9日、中国紙・環球時報(電子版)は、中国軍事科学研究会副秘書長の羅援(ルオ・ユエン)少将の寄稿記事を掲載した。中国と南シナ海の領有権をめぐり対立するフィリピンに対し、「中国は今の平和な状態に最後のチャンスを与えているだけだ」と警告している。以下はその概略。

最近、フィリピンが頻繁に演習を行うようになった。またしても米国の虎の威を借り、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議を主導して、大勢で中国を袋叩きにするつもりなのだろう。フィリピンがこれほどわがもの顔に振る舞う目的は▽南シナ海の天然ガスを強奪したい▽米国のアジア回帰の手先となり、米国の機嫌を取りたい▽ナショナリズムをあおり、国民の目を国内のゴタゴタからそらしたい▽中国と南シナ海の領有権を争っている国々との仲を引き裂き、ASEANの主導権を握ろうという分不相応の野望を抱いている、の4つに分けられるだろう。

だが、残念ながらフィリピンは大きく勘違いしている。米国が世界第2の経済大国である中国といざこざを起こす勇気があると思っているのか。フィリピンにとっても中国は米国、日本に次ぐ第3の貿易相手国だ。アキノ3世の支持率も低下していると日本メディアが報じている。経済政策に対する不満が高じているようだが、中国を敵に回せば、その経済的損失は計り知れない。国民に豊かな生活を提供できなければ、どうなるのかは分かっているはずだ。

フィリピンは、中国が最大の我慢と誠意で今の平和な状態に最後のチャンスを与えていることに気付いていない。中国の善意を単なる「弱腰」だと勘違いしている。フィリピンの政治家たちは分かっているはずだ。国力でも軍事力でもフィリピンは中国の足元にも及ばない。中国にどんなに刃向おうとも、それは卵が石に体当たりするようなものだ。

良いことをしても、悪いことをしても、必ずその報いがある。今すぐでなくとも、時期が来れば必ず相応の報いを受けることになるのだ。フィリピンもそのことを肝に銘じておいた方がよい。【4月11日 Record China】
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“中国軍事科学研究会副秘書長の羅援少将”という人物がどういう立場の者かはわかりませんが、これではやくざの恫喝です。
フィリピンが米軍と4月下旬に南シナ海での合同演習を予定しており、また、アメリカから中古のフリゲート艦を購入するなど協力を深めていることへの牽制でしょう。
中国の最大の我慢と誠意で今の平和な状態が守られている・・・という認識も、理解に苦しむところです。

限定的な軍事衝突発生の可能性
別の報道によれば、中国の考え方では、フィリピンなどはアメリカが出てくる前に叩いてしまえば事は収まる・・・というものだで、短期間の局地的軍事衝突の可能性があるとのことです。
ロシアのグルジア侵攻がモデルケースだとか。

****紛争海域での軍事衝突、中国はその責任を負える―香港メディア*****
2012年4月6日、香港のアジア・タイムズ・オンラインによると、中国は東シナ海や南シナ海で局地的な軍事衝突を起こす可能性があるが、国際問題専門家は中国政府はその結果に耐える能力を持っているとみている。8日付で環球時報(電子版)が伝えた。

東シナ海や南シナ海で発生する中国と周辺国との軋轢がトップニュースとして毎日のように取り上げられている。同海域に大量のエネルギー資源が埋蔵されていることが明らかになるにつれ、軍事力を拡大中の中国はこれによってエネルギーの安全と需要を確保しようとしている。仮に中国政府が米国は介入しないと確信したならば、ドック型揚陸艦や駆逐艦、戦闘機など最新の軍事力を配備し、数千人の兵士を直ちに争いのある島々に派遣するだろう。

中国は限定的な軍事衝突という手段を通じて目的を達成する可能性がある。英ノッティンガム大学中国政策研究所のスティーブ•ツァン所長は「その可能性は、どの国に対してどのように実施するかなど、小規模な戦争の概念にかかっている」とし、例えば、韓国については、「米国が強硬な態度をとる可能性があり、限定的と言えども衝突は有り得ない」と語る。

しかし、ベトナムやフィリピンに対してはまったく異なるという。「中国は簡単にベトナムを打ち破ることは出来ず、しかもこの衝突はその他の国々の不安をかきたてることになるが、コントロール可能だ」と分析。米国と軍事同盟関係を強化しているフィリピンについては、「その他の東南アジア諸国も同盟が中国の攻撃の抑止力になると考えているが、協議条項をよく読めば、『事態が米国議会で議論される前に治まれば、何も起こらない』となっている」と話した。

また、限定的な軍事衝突発生の可能性について、経済学者も「中国に大きな障害はない」とみている。中国問題の専門家は「08年にロシアとグルジア間で発生した南オセチア紛争の結果が、中国の軍事行動によって中国経済がどれだけの影響を受ける可能性があるかの指標になる」とし、「当時、ロシアは圧倒的な軍力をもってグルジア軍を南オセチアから撤退させたが、この戦争はグルジア以外の国には深刻な経済的影響を与えなかった」と指摘した。【4月10日 Record China】
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上記報道内容に沿えば、韓国について「米国が強硬な態度をとる可能性があり、限定的と言えども衝突は有り得ない」なら、日本については言うまでもない・・・ということになります。
まあ、そうなんでしょうが、そうした考え方には、本来国家間の関係がどうあるべきかという理念とかモラルが全く見えません。
まるで、「どうして駄目なのか。このスイカはいいスイカだし」「(良心なんて)そんなことは考えたことがない」と悪びれた様子もなく言い放つスイカ泥棒のようにも見えます。

中国指導部は、国際社会からそのように見られることの損得、あるいはプライドについて考慮してもらいたいものです。

東シナ海を「平和・協力・友好の海」に
日中間では東シナ海を「平和・協力・友好の海」にすることで一致しているそうで、そのための海洋協議が5月北京で開催されます。

****日中が5月にも初の「海洋協議」、東シナ海を「友好の海」へ―米華字メディア****
2012年4月4日、日中両政府は東シナ海などの海域で問題が発生した場合の危機管理や協力体制などについて話し合う「海洋協議」の初会合を5月下旬に北京で開催する方向で調整に入った。5日付で米華字サイト・多維新聞が日本メディアの報道を引用して伝えた。

日中韓外相会談に参加するため訪中する玄葉光一郎外相が7日に中国外交部の楊潔●(ヤン・ジエチー、●は竹かんむりに褫のつくり)部長と会談し、合意を目指す。日本側はこれをきっかけに、2010年9月に起きた尖閣諸島沖での漁船衝突事件以降中断している東シナ海ガス田共同開発の条約締結に関する交渉を再開させたい考え。

昨年12月に野田佳彦首相が訪中した際、胡錦濤(フー・ジンタオ)国家主席と会談し、東シナ海を「平和・協力・友好の海」にすることで一致、海洋協議を開くことで合意していたが、具体的な日程は決まっていなかった。

初会合は双方の外務省の参事官級がトップとして参加する。日本側は外務省の山野内勘二アジア大洋州局参事官のほか、海上警察権を持つ海上保安庁、防衛省の責任者らも出席。中国側は外交部のほか、国家海洋局、農業部漁政局、国防部といった顔触れとなる。【4月6日 Record China】
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パレスチナ  「アラブの春」による情勢変化で統一政府樹立は暗礁に アッバス議長“板挟み”

2012-04-10 22:47:58 | パレスチナ

(今年2月 ガザ地区の家畜小屋警備中にイスラエルの攻撃で死亡した夫の葬儀で悲しむ妻 “flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/6862789583/

【「国連総会に『国』としての承認決議を求める」】
今月12日から15日の予定で、パレスチナ自治政府のアッバス議長が来日します。
アッバス議長の来日は3回目で、野田首相などとの会談で、中東和平の現状や,日本の対パレスチナ支援などについて幅広く意見交換を行う予定とされています。

その来日を前に、国連総会においてパレスチナを「オブザーバー国」として承認する決議を求める方針に言及しています。

****パレスチナの国家承認「国連総会に要求」 アッバス議長****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は、12日からの訪日を前に朝日新聞の書面インタビューに答えた。今月中旬に予定されるファイヤド首相とイスラエルのネタニヤフ首相との会談について「先方から前向きな回答がなければ、国連総会に『国』としての承認決議を求める」と述べた。

イスラエルとの和平交渉が2010年秋以降中断し、独立への道筋が見えない中、パレスチナは昨年9月、国連への正式加盟を求めた。だが、米国が拒否権行使を明言し、安全保障理事会は加盟の是非の判断を棚上げにしている。

アッバス氏が議長を兼務するパレスチナ解放機構(PLO)は現在、国連の「オブザーバー機関」の資格を持つ。非加盟ながら「オブザーバー国」として国連総会が認めれば、バチカンなどと同等の立場となる。パレスチナは昨年10月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「加盟国」として承認されており、事実上の独立国として国連本体が認めることで、他の国連機関への加盟へ弾みがつく。【4月10日 朝日】
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パレスチナの国連加盟を求める動きは、アメリカの後押しするイスラエルとの対話路線に見切りをつける形で、パレスチナ問題に国際社会の目を向けさせるべく、アッバス議長が昨年9月以降取り組んできました。
そのなかで、ユネスコ正式加盟は実現し、パレスチナにおいても一時高揚感がありましたが、国連加盟の方は見通しがたたず棚上げ状態になっています。

アメリカの拒否権発動明言によって、仮に安保理で採択しても廃案となりますが、それ以前の問題として、安保理における支持国獲得が進まず、決議に持ち込んでも安保理15カ国中の9カ国の賛成が得られないという情勢です。

アッバス議長自身、昨年11月段階で「今回、正式加盟が成功するとは期待していない」と、国連加盟が困難であることを認め、イスラエルとの交渉に戻る意向も表明しています。

****アッバス議長、「国連加盟、成功は期待していない****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は11日、訪問先のチュニジアで会見し、国連安全保障理事会で審議が続く国連への正式加盟問題について「今回、正式加盟が成功するとは期待していない」と述べ、困難であることを認めた。パレスチナ解放通信が伝えた。

また、国連加盟を巡るパレスチナの動きは、イスラエルとの和平交渉を拒否するものだとの批判については「国連に加盟しても和平交渉には戻る。国連では我々とイスラエルの間の問題は解決できない。交渉のテーブルにつくしかない」と述べ、和平交渉に戻る意思を強調した。

一方で「米国には、真剣に我々とイスラエルの間に立つよう呼びかけたい」と述べ、国連加盟問題を巡ってもイスラエル寄りの姿勢を崩さないオバマ政権を批判した。【11年11月12日 朝日】
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国連加盟断念の場合の次善の策として言及されている国連総会における「オブザーバー国」(総会での投票権はないが、発言権は認められている)承認の方は、拒否権もなく単純過半数で成立しますので、パレスチナ自治政府が求めれば、成立するものと見られています。反対するアメリカ・イスラエルなど関係国の意向を踏まえての判断になるでしょう。

相手が停戦を破ればすぐに攻撃を再開すると警告
パレスチナにおける問題は相変わらずで、今年3月にもイスラエルとガザ地区の「イスラム聖戦」など武装勢力の間で衝突があり、民間人を含むパレスチナ人25人が死亡しています。
この衝突は、一応“停戦”が成立しています。ガザ地区を実効支配するハマスがエジプトに停戦の仲介を求めたとされています。
イスラエルとの対決姿勢を基本するハマスとしても、いたずらにイスラエルを刺激して住民の安全を脅かす事態は、民心の離反を招くとの懸念があるのでしょう。

****イスラエルとガザ地区武装勢力が停戦、エジプトが仲介****
イスラエルとパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム原理主義組織「イスラム聖戦」などの武装勢力は、エジプトの仲介で停戦に合意し、13日午前1時(日本時間同8時)に停戦が発効した。

イスラエルがガザを空爆して武装勢力「民衆抵抗委員会」のトップを暗殺した9日以降、ガザでは一部に民間人を含むパレスチナ人25人が死亡し、イスラエルに向けて約200発のロケット弾が発射された。
イスラエル警察当局によれば、停戦発効後にロケット弾と迫撃弾8発が発射されたが、負傷者などの被害はなかったという。現地時間13日夜になっても停戦は維持されていたもようで、ガザ地区の空には平穏が訪れた。

米国は停戦を歓迎している。米国務省のビクトリア・ヌーランド報道官は「エジプト政府が停戦の交渉に成功したという報告を受けた。もしそれが事実なら、もちろん歓迎すべきことだ」と述べた。

イスラエルのマタン・ビルナイ民間防衛担当相は、イスラエルとガザ地区の武装勢力の間で、文書にはしていないものの停戦が「了解」されたことを認めた。ガザ地区のイスラム聖戦の報道官は、停戦協定を尊重するとしつつも、イスラエルに対して武装勢力を狙った攻撃を停止するよう求めた。
イスラエル、ガザ地区の武装勢力の双方とも、相手が停戦を破ればすぐに攻撃を再開すると警告している。【3月14日 AFP】
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議長は、統一を求める声と和解に反対するアメリカとの間で板挟み
しかし、中東には反政府運動弾圧を続けるシリア、核兵器開発問題のイラン、更にはエジプトやリビアのその後の問題等々、国際的に関心を呼ぶ案件が溢れています。
個人的には、最近パレスチナの国連加盟に関する話題を目にする機会があまりなく、冒頭記事を見て「ああ、そう言えばパレスチナの国連加盟問題はどうなったのだろうか?」というのが正直な感想ですが、おそらく国際的にもパレスチナ問題への関心度は低下しているのが実情ではないでしょうか。

国連総会における「オブザーバー国」承認は、国際社会のパレスチナへの関心を呼び戻す効果は期待できます。
しかし、パレスチナが国家としての承認を求めるにしても、イスラエルとの和平交渉に臨むにしても、その前に解決する必要があるのが、現在の自治政府を主導するファタハとガザ地区を実効支配するハマスの分裂状態でしょう。

11年5月には、両者の間で統一政府(内閣)の結成及び自治政府議長と評議会の選挙実施が合意されています。
今年2月には、暫定的な統一政府の首相をアッバス議長が務めることで合意したとのことで、“前進”が報じられていましたが、その後暗礁に乗り上げているようです。

その背景には、シリアの政情混乱、リビア・カダフィ政権の崩壊など、「アラブの春」による現在の中東情勢が大きく影響しているようです。
しかし、パレスチナの統一政府を求める声もまた、「アラブの春」によって大きくなっています。

****パレスチナ:和解、暗礁に ハマス内紛、統一政府めど立たず****
パレスチナ自治政府の主流派組織ファタハと、対立組織でガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの和解交渉が暗礁に乗り上げ、11年5月に合意した統一政府(内閣)の結成や選挙実施などを当初の期限通りに実施することが不可能になった。
パレスチナ評議会(国会に相当)の議員でファタハの交渉責任者、アルアハマド氏が毎日新聞との会見で明らかにした。集団指導体制を敷くハマス指導部内の対立が原因だという。

両組織は11年5月、1年以内に自治政府議長と評議会の選挙を実施することや、これに先立って選挙管理内閣に当たる統一政府を結成することを決めた。2月6日、ファタハを率いるアッバス自治政府議長とハマス指導者のメシャル氏が会談し、統一政府の新首相をアッバス議長が兼務することでいったん合意したが、ハマスの一部勢力が異議を唱えているという。また、有権者登録を済ませた3カ月後に選挙を行う決まりだが、「ガザで登録は始まっておらず、5月の選挙は無理」という。

背景には、主に行政や対イスラエル武装闘争を担うガザの指導部と、シリアの首都ダマスカスに拠点をおき、海外からの資金調達や政治・外交戦略を担当し、メシャル氏が率いる政治局との対立がある。
これまでハマスの後ろ盾であるイランからハマス軍事部門への援助は、政治局を経由していたとされる。ところがシリアのアサド政権が反体制派への弾圧を強めたことを受け、メシャル氏は拠点をカタールなどに移し、アサド政権との関係を絶った。これがアサド政権を支持するイランの意に背く形になった。これに対しガザで「首相」職にあるハマスのハニヤ最高幹部は先月イランを訪れ、「ガザへの直接の資金援助を獲得した」(アルアハマド氏)という。

またカダフィ政権が崩壊したリビアからガザへの武器流入で「武器商人やトンネル密輸業者などがガザで有力層を形成し、(特権維持のために)和解に抵抗している」(同)という。

ビルゼイト大学(ヨルダン川西岸)のバセム・エズビディ教授(政治学)は「(中東の民主化要求運動)『アラブの春』で、パレスチナ解放運動の統一を求める人々の突き上げが強まり、アッバス議長にとってハマスとの和解は避けられない政治課題だ。しかし米国は和解に反対し、中東和平交渉を進めるよう圧力をかけており、議長は難しい立場に追い込まれている」と指摘している。【3月16日 毎日】
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イスラエルを認めないハマスの政権参加にアメリカは反対していますが、現在の分裂状態では自治政府に和平交渉の当事者能力を求めることができません。
アメリカにはイスラエル支持の姿勢からの脱却が求められますが、アメリカも大統領選挙の年ですから、ユダヤ人社会の票を逃がすような方針は期待できないところです。
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ソマリア  8月で暫定政府の権限切れ、新政府樹立をめざす 欧米企業の資源開発打診も

2012-04-09 22:22:41 | ソマリア

(昨年8月4日 首都モガディシオの暫定政府の教育省の建物入り口で起きた自動車爆弾によるテロ現場 70~80人が犠牲になったこのテロについては、イスラム武装組織アルシャバブが犯行声明を出しています。“flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/6213063195/ )

【「改革へ努力しないと国際社会は手を切る」】
実質的無政府状態が続く東アフリカのソマリア情勢については、2月24日ブログ「ソマリア 強化されるアルシャバブ包囲網 安定化に向けて国際会議」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120224)でも取り上げたように、ソマリアの支援を考える国際会議が2月23日、ロンドンで開かれました。

会議では、今年8月に国連安全保障理事会から与えられた権限が切れる暫定政府について、権限の延長はしないことで合意し、暫定政府を引き継ぐ新政府の設立を目指すことが決められました。
これについては、「改革へ努力しないと国際社会は手を切る」(日本政府関係者)という、成果があがっていない暫定政府への通告との見方もあるそうです。

****ソマリア、今夏に選挙目指す 支援会議、新政府設立促す****
紛争と飢餓に苦しむ東アフリカのソマリアの支援を考える国際会議が23日、ロンドンで開かれた。南部を支配するイスラム武装組織シャバブの掃討強化を確認。今夏までに選挙をし、国を統一できていない暫定政府を引き継ぐ新政府の設立を目指すことを決めた。

欧米やアラブの国々、国連機関などの55カ国・機関の代表が出席した。主催したキャメロン英首相は、シャバブを排除する軍事作戦を強化すると表明。今年8月に国連安全保障理事会から与えられた権限が切れる暫定政府については、権限の延長はしないことで合意したと述べた。

クリントン米国務長官も記者会見で「ソマリア人自身が憲法を起草し、新しい大統領を選挙で選ぶ」と強調。暫定政府のアリ首相は「できるだけ多くのソマリア人社会を巻き込んだ政府を作る」と述べた。ノルウェーなどが出資して、各地方の行政を支援する基金も作る。6月にはトルコ・イスタンブールで国際会議を開き、新政府設立を促す。

日本の山根隆治外務副大臣は、暫定政府の警察官訓練や人道支援に4500万ドル(約36億円)、国際機関の海賊対策に56万ドル(約4500万円)を新たに拠出すると表明した。

1991年に軍事政権が崩壊したソマリアでは混乱が続き、事実上無政府状態になっている。国際社会の国造り支援や紛争停止の取り組みも十分な成果はなく、今回の会議は「改革へ努力しないと国際社会は手を切る」(日本政府関係者)という暫定政府への通告、との見方もある。【2月25日 朝日】
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暫定政府側が首都周辺で掌握しているのは沿岸部の長さ約20キロ、幅約10キロの範囲にすぎない
戦況の方は、イスラム武装勢力アルシャバブが首都モガディシオから撤退し、首都・暫定政権を防衛するアフリカ連合(AU)軍が支配エリアをやや広げ、隣国のエチオピア、ケニアが侵攻してシャバブ包囲網を形成してはいますが、まだドラスティックな変化はないようです。

この状況で、「ソマリア人自身が憲法を起草し、新しい大統領を選挙で選ぶ」というのは、あまり現実味がないようにも思えます。
新政府樹立にしても、ソマリアでは多くの部族勢力の思惑・権力争いが絡み合っていますので、指導者の首のすげ替えひとつとっても容易ではなさそうです。
ただ、8月の暫定政府の権限が切れますので、国際社会の後押しで何か対策をとるのでしょう。

****治安回復作戦「アフリカ人で解決する」 ソマリア最前線****
ソマリアの暫定政府側がモガディシオ周辺で掌握しているのは沿岸部の長さ約20キロ、幅約10キロの範囲にすぎない。アフリカ連合(AU)軍に参加するウガンダ軍に同行し、装甲車でバカラ市場の北東10キロ近くの町マスラーへ向かった。戦闘の最前線だという。

■武装勢力掃討、町を確保
(中略)・・・・しかしシャバブは町を撤退後、ゲリラ戦術を敷く。モガディシオでは1日平均5回の爆弾テロが起きている。昨年10月には教育省の入り口で爆発があり、80人以上が死亡。今月14日も大統領府近くで多数の死傷者を出す自爆テロが起きた。戦線の拡大とともに広がった防衛線のすき間から潜入を繰り返しているようだ。

ケニア軍とエチオピア軍もそれぞれ南、西側から進軍しているが、解放地域で治安を守る力は圧倒的に不足している。AU軍は、現要員のほぼ倍の約1万8千人に増強されることが決まった。55の国や機関の代表が2月にロンドンに集まった国際会議でも、シャバブ掃討の軍事作戦強化が申し合わされた。

ソマリアの内戦を巡っては20年前、米軍が主導し、「希望回復作戦」と称して侵攻。だが米軍は市民をも威圧した。その反感から、撃墜された米軍ヘリの乗組員は市民に裸で引き回された。米軍は撤退し、作戦は失敗に終わった。以来、国際社会の関心は急速に薄れ、国際テロ組織の温床化と、海賊の隆盛を許した。

今、戦闘を担うのはアフリカ各国の兵士たちだ。ウガンダ軍トップのロケチ司令官は、米軍はアフリカ人の感情を理解していなかったと指摘した。「我々はソマリア人の気持ちを理解しながらやっている。国際社会の援助を受けながらも、アフリカの問題をアフリカ人が解決する初めてのケースになる」と語った。
シャバブに海賊マネーが流入している可能性にも触れ、「陸地での軍事作戦は海賊問題にも関係する。海賊は海に住んでいるわけではない」と話した。

■避難民キャンプにも流れ弾
「未曽有の人道危機」と国連が呼んだソマリアを襲った飢饉(ききん)から8カ月。モガディシオの避難民キャンプでは、干ばつの解消に伴い帰還する人々がいる半面、暫定政府側とシャバブとの戦闘激化によって故郷を追われた人々が続々と集まっている。

モガディシオ北部にあるキャンプは、今年に入り拡大を続けている。約2カ月前は何もなかった更地に数キロにわたってテント群ができた。多くは首都の北約30キロにあるアフゴエ周辺から逃げて来た人々だ。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年だけで9千世帯、約5万4千人がこのキャンプに逃げてきたという。広がったキャンプは戦線近くにまで達し、流れ弾や迫撃砲が昼夜問わずテントを襲い、死傷者が相次いでいる。記者が訪れた前日にも流れ弾で1人が死亡し、7人が負傷した。

避難民たちは、テントの中を塹壕のように深く掘り、土嚢を積んで自己防衛していた。テント群は小さな防空壕(ごう)の固まりのようだ。穴だけが残る場所もあちこちにある。居住者が死亡し、テントが取り除かれたのだ。
イスマンさん(26)は深夜、寝ていたところ、流れ弾が当たり太ももを貫通した。「いくら深く掘っても落ち着いて寝てられない」
6人の子どもと暮らすラーマさん(30)は、土嚢を高さ1.5メートル以上積んだ。1カ月半前、ロバに家財道具を積み込んでキャンプに来た。街で戦闘が始まると聞き、近所の人たちと逃げてきた。「トイレも水もないが、戻るよりはましだ」

国連は先月、ソマリアで飢饉の脱出を宣言した。しかし、大半の地域では、シャバブが国際機関を敵視しているため、依然として200万人に必要な食糧援助が届いていない。国内避難民と海外へ逃れた難民は計約230万人に上る。
国連安全保障理事会が与えた暫定政府の権限は8月で切れる。ソマリアは正念場を迎えている。【3月25日 朝日】
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アルシャバブはゲリラ戦術・テロで対抗
アルシャバブ側は首都撤退後も“戦線の拡大とともに広がった防衛線のすき間から潜入を繰り返している”ということで、首都モガディシオの国立劇場で今月4日にも自爆テロがあり、ソマリア五輪委員会の会長らが殺害されています。犯行現場には暫定政府首相ら閣僚もいましたが、そちらには被害はなかったようです。

****ソマリア国立劇場で女性による自爆攻撃、五輪委トップら4人死亡****
ソマリアの首都モガディシオの国立劇場で4日、爆発物を体に縛り付けた若い女性による自爆テロが起き、ソマリア五輪委員会の会長とソマリア・サッカー連盟の会長を含む4人が死亡した。

現場に居合わせたAFP通信の記者によると、テロ発生当時、劇場ではソマリアの衛星テレビ放送ネットワークの導入1周年を祝う式典が行われており、アブディウェリ・モハメド・アリ暫定政府首相が約200人を前に演説していた。首相と閣僚7人にけがはなかった。

国際テロ組織アルカイダと関連のあるイスラム過激派組織アルシャバブが犯行声明を出した。2011年8月にモガディシオ市内の拠点を放棄したアルシャバブはゲリラ戦術に立ち戻り、モガディシオで自爆テロや手りゅう弾による攻撃を繰り返している。【4月5日 AFP】
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【「国際支援がなければ、宝の上の死人になる」、ただし「政治腐敗によって石油は呪いにもなる」】
アルシャバブ包囲網が形成されつつあるとは言え、まだ先が明確ではないなか、欧米企業が早くもソマリアの資源開発に乗り出しているそうです。
紛争があることろには、その火種となる資源がある・・・というのが一般的ですが、ソマリアにも手つかずの石油や天然ガスなどの地下資源が豊富に存在しているとか。

欧米各国も、住民保護、あるいはアルカイダ対策や海賊対策だけでソマリアを支援する訳ではないのが現実です。
「たとえそうであっても、市民の生命が助かるのであればよい。開発は自前ではできない。国際支援がなければ、宝の上の死人になる」(暫定政府の水石油鉱物省ハシ局長)というのももっともですが、「政治腐敗によって石油は呪いにもなる。我々は、国民共通利益のために利用する」(暫定政府のアリ首相)ということには、くれぐれも留意してもらいもです。
「石油の呪い」はナイジェリアなど各地で見られることです。

****ソマリア資源に熱視線 手つかずの宝、欧米が開発打診****
今夏の正式政府樹立を目指し、暫定政府とアフリカ連合(AU)軍によるイスラム武装勢力シャバブとの戦闘が激化するソマリアで、欧米が、同国や近海に埋蔵されている可能性がある地下資源の獲得に乗り出し始めた。

20年以上にわたる内戦で無政府状態が続くソマリアには、手つかずの石油や天然ガスなどの地下資源が豊富にあるとされる。暫定政府の水石油鉱物省によると、油田が近海や北部や南部にあり、天然ガスは南部の沿岸地域にあるという。

内戦前の1985~91年、欧米の大手石油会社が調査を進め、埋蔵の可能性を確認。当時の政府と権利に関する契約を交わしたという。しかし、内戦が始まり撤退した。そんな中、今年に入り、カナダ系の石油会社が北部での掘削を本格的に始めた。その後、暫定政府に欧米の各社から打診が相次いでいるという。

同省のハシ局長は資源の埋蔵量は「アフリカ屈指」という。カナダ系企業による掘削は、1998年に一方的に自治を宣言したプントランド内で行われており、暫定政府の影響が及ばない。「シャバブの存在で、首都から10キロ先にも行けない状態で、その是非は言及できない」とした上で、「シャバブが掃討された後には、話し合いの準備がある」と話した。
さらに「20年前、米国が資源確保のために軍を送ったと指摘する声もあった。たとえそうであっても、市民の生命が助かるのであればよい。開発は自前ではできない。国際支援がなければ、宝の上の死人になる」と述べた。
     ◇
■「国民利益のために利用」 暫定政府のアリ首相
ソマリア暫定政府のアリ首相が朝日新聞の単独取材に応じ、石油資源をこれからの復興資金にする方針を示した。
アリ首相は「潜在的な油田を持っているが手つかずだ。開発して国の発展に役立てるのはよいことだ。そのためにも投資に関する法律整備が必要だ」とした。

首相は2月に世界の要人が集まったロンドンでのソマリア支援の会議に出席。「ロンドンでは石油の話は誰ともしていない」と断ったものの、内戦前の欧米企業との契約は尊重されるべきだとの見方を示し、国際企業を歓迎した。一方で、アフリカ各国で石油資源を巡る紛争が絶えないことにも触れ、「政治腐敗によって石油は呪いにもなる。我々は、国民共通利益のために利用する」と話した。

石油資源の開発の前提となる、国内の安定化について、首相は「シャバブとの戦闘は確実に勝利に向かっている。勝つだけでなく解放地域を安定化させなければならない。8月までに安定化させる計画だ」とした。さらに、インド洋の海賊について「問題の根源は無政府状態と貧困だ。シャバブと海賊は互いに協力している可能性もある。全土の安定化が解決の鍵となる」とした。【4月6日 朝日】
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パキスタン大統領のインド訪問 ブット家御曹司とネール・カンジー王朝後継者の顔合わせか

2012-04-08 21:48:48 | アフガン・パキスタン

(09年3月 ギラニ首相(右)と会談する与党パキスタン人民党の若き総裁ラワル・ブット・ザルダリ氏(左 当時20歳) “flickr”より By Sumana Batool http://www.flickr.com/photos/bilawalbhutto/3394756350/ )

【「家族のお下がりで決まったわけではない。求められたから引き受けたのだ」】
ともに核保有国であるインドとパキスタンは、宗教的対立を背景に国家成立時から宿敵の関係にあり、カシミール地方の帰属やバングラデシュ独立をめぐって、これまでも3回の戦争(1947年、1965年、1971年)を経験しています。

そのパキスタンのザルダリ大統領が8日、インドの首都ニューデリーを訪問しました。パキスタンの大統領がインドを訪問するのは、2005年以来7年ぶりです。
大統領の訪印は、インド西部ラジャスタン州にあるイスラム教施設を家族と一緒に私的に訪問するのが主目的だそうです。

“印パ関係は2008年、パキスタンが拠点とされるイスラム過激派組織がムンバイ同時テロを起こして断絶状態に陥ったが、昨年、両国高官の相互訪問が始まった。今回の訪印は、印パ関係の改善を象徴する形となった。”【4月8日 読売】ということで、敵対する核保有国同士の関係改善につながる大統領訪問は、世界レベルの緊張緩和に資するものがあります。

また、アフガニスタンでの紛争が進展しないのも、パキスタンの一部勢力がタリバンを支援していることが大きく、その背景には、米軍撤退後のアフガニスタンにおいてインドの影響を排除したいパキスタンの思惑があるとされていますので、両国関係の改善は、アフガニスタン問題にも影響します。

もちろん両国の因縁の関係が一朝一夕に大きく改善されることはありませんが、それはそれとして、今回注目されるのは、父ザルダリ大統領と共同で与党パキスタン人民党(PPP)の総裁でもあるザルダリ大統領の長男ビラワル・ブット・ザルダリ氏(23)が同行していることです。
学生である19歳で総裁に就任したビラワル氏にとっては、外交デビューということになります。

****パキスタン 大統領長男「デビュー」 インド訪問、父に同行へ****
パキスタンのアシフ・アリ・ザルダリ大統領が8日、大統領就任後初めてインドを訪問し、シン首相と会談する。大統領報道官が7日、産経新聞に明らかにしたところでは、暗殺された妻のベナジル・ブット元首相との間の長男、ビラワル・ブット・ザルダリ氏(23)も同行する。英オックスフォード大での学業を終えたビラワル氏のインドへの顔見せとなり、注目を浴びそうだ。

ビラワル氏は2007年のブット元首相暗殺後、ザルダリ氏と共同で現与党パキスタン人民党(PPP)の総裁になった。10年に英国から帰国後、政治活動を開始。今月3日には党役員会で演説し、党創設者で軍事クーデター後に処刑された祖父のズルフィカル・アリ・ブット初代首相の名誉回復を呼びかけて存在感を示した。

賄賂の要求の仕方から「ミスター10%」と揶揄(やゆ)され、健康不安を抱えるザルダリ大統領の国内での人気は今ひとつ。対米関係が悪化する中、母親とその実父である祖父が暗殺、処刑された重い運命を背負うビラワル氏の将来性に期待する声もある。

ザルダリ大統領は今回の「私的」訪印で、首脳会談に臨んだ後、インド西部のイスラム教施設を訪ねる。カシミール地方の領有権を争う両国の信頼醸成のステップと期待される。インド側からはガンジー家の御曹司で次期首相候補と目される与党、国民会議派のラフル・ガンジー幹事長が同席するとの観測も浮上している。【4月8日 産経】
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ザルダリ大統領の国内政治基盤の脆弱さ、軍部や司法勢力からの攻勢により政権の存続が危うい状況にあること、一方で、そういう逆風のなかで意外にもしぶとく政権を維持していること・・・などは、2月3日ブログ「パキスタン 公認された米無人機攻撃と国軍タリバン支援 ザルダリ大統領の不思議な長期政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120203)でも取り上げたところです。

英オックスフォード大での学業を終えた長男ビラワル氏については、英国留学中だったこともあって、あまり報道がありませんが、2010年にパキスタンの国土の5分の1が被災した大水害発生時に、側近の助言を無視してザルダリ大統領が英仏へ外遊したのは長男ビラワル氏のイギリスでの初演説を見届けるためだったということで、国内で非難を浴び、ただでさえ悪い評判が更に下がったこともあります。

****洪水被害拡大の最中に英仏外遊 パキスタン大統領に批判****
・・・・こうした中、同国のザルダリ大統領がフランスと英国へ外遊に出ていることが、国民の不満に油を注ぐかたちになっている。

ザルダリ氏は洪水被害が拡大していた今月1日にパキスタンを出発。フランスではサルコジ大統領と会談後、仏空軍のヘリコプターで自分の親族が所有するノルマンディー地方の大邸宅を訪問。3日に到着したロンドンでは、宿泊先のホテルに「外遊で無駄遣いした金を被災者の支援に回せ」と抗議する人びとが押しかけた。

ザルダリ氏の今回の外遊の目的の一つは、妻の故ブット元首相との間の一人息子で、オックスフォード大を卒業したばかりの長男ビラワル氏(21)が7日に英中部で初演説し政治家デビューを果たすのを見届けることだとされていた。しかし、ビラワル氏は高まる批判を受け、初演説を取りやめた。
大統領との会食をキャンセルした英国議員の一人はAFP通信に、「国が彼を必要としている時に息子のために多額の金を使ってしまったことで、彼が国の実情を把握していないことがわかってしまった」と非難した。【10年8月7日 朝日】
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また、下記記事は、パキスタン人民党総裁就任に関するビラワル氏の発言です。

****ブット元首相の長男、国連による暗殺事件捜査を求める****
・・・・また、PPPの総裁職については、与えられた義務を果たすだけだと強調するともに、総裁就任の経緯が非民主主義的ではないのかとの質問に対しては、「家族のお下がりで決まったわけではない。求められたから引き受けたのだ」と語りこれをはねつけた。さらに、現段階では「ゆっくりと慎重に」職務に取り組んでいくしかないとの見解を示した。

弱冠19歳の若さでPPPの総裁に就任することになったビラワル氏だが、会見の開始時こそカメラの前で緊張していたものの、その後はリラックスした様子で英語での会見をこなした。【09年1月9日 AFP】
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もともとパキスタンの政治は“家業”的な側面が強く、ブット家が率いるパキスタン人民党の総裁に、暗殺されたブット元首相の忘れ形見であるビラワル氏が就任するというのは、現地の感覚では違和感はあまりないのではないでしょうか。(日本も次第にそんな感じになりつつあります)特に、父ザルダリ大統領の評判が芳しくないだけに、ビラワル氏への期待感があります。

【「この結果の責任を取る。いい教訓になった」】
今回の“外交デビュー”では、“インド側からはガンジー家の御曹司で次期首相候補と目される与党、国民会議派のラフル・ガンジー幹事長が同席するとの観測も浮上している”とのことです。

インド“ネール・ガンジー王朝”の後継者であるラフル・ガンジー幹事長(42)は、卒業したてのビラワル氏とは異なり、これまでに国民会議派の幹事長として実績を積み重ねており、その人気・評判は悪くありません。
ただ、勝てば次期首相の座が確実になるとも言われていた、3月6日のウッタルプラデシュ州議会選挙では党の顔として選挙運動を展開しましたが、手痛い敗北を喫しています。

****インド州議会選 ガンジー家御曹司「敗北」 “ラフル効果”不発****
インド最大の約1億800万人の有権者を抱える北部ウッタルプラデシュ州の州議会(定数403)選挙の開票が6日行われた。
名門ガンジー家の「御曹司」で首相候補の呼び声高い国民会議派のラフル・ガンジー幹事長が党の顔として選挙運動を展開し躍進が見込まれたが、同派は予想を大きく下回った。中央与党の会議派の伸び悩みは2年後の総選挙に向けた政局にも影響しそうだ。

ウッタルプラデシュ州で圧勝したのは野党の社会党(SP)で、州内に多い低カースト出身のマヤワティ氏率いる州政権の単独与党、大衆社会党(BSP)は苦戦。国営テレビの集計によると、国民会議派は、惨敗した前回から議席を伸ばしたが第4党にとどまり、敗北した。

これを受け、ラフル氏は6日、「この結果の責任を取る。いい教訓になった」と報道陣に語った。同氏の今後の政治的求心力に影響するとみられ、次の総選挙に向け会議派は新たな選挙戦略を迫られそうだ。
09年総選挙で会議派はラフル氏の健闘によって、ウッタルプラデシュ州で党勢挽回の兆しを見せた。今回の議会選で“ラフル効果”が出れば、同氏が次期首相の座を確実に手中にするとみられていた。
6日に開票されたのはウッタルプラデシュ州のほか、北部パンジャブ州、同ウッタラカンド州、北東部マニプール州、南部ゴア州。会議派はパンジャブ州とゴア州でも敗北した。【3月7日 産経】
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いずれにしても、現在の高齢シン首相は“つなぎ”で、やがてラフル氏が国民会議派を率いて、王朝4代目首相に臨むことになるのでしょう。

次世代リーダーへの期待
若いビラワル氏にしても、ラフル氏にしても、今までのような不毛の対立を続ける印パ関係を改善したい思いはあるでしょう。これまでの“しがらみ”にとらわれない柔軟な発想が期待されます。
宿敵インド・パキスタンの次世代を期待されるラフル・ガンジー幹事長とビラワル共同総裁が顔合わせを行い、個人的親交を深められれば、それは両国並びに世界全体にとっても意義深いことだと思われます。

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アメリカ  微妙な情勢の医療保険制度改革法違憲訴訟に関する最高裁判断

2012-04-07 21:38:40 | アメリカ

(首都ワシントンの最高裁前広場では、医療保険制度改革法に対する賛成派・反対派双方のデモンストレーションが行われましたが、写真は反対派の様子です。“flickr”より By majunznk  http://www.flickr.com/photos/majunznk/6882273512/ )

民主党長年の悲願であり、オバマ政権の最大の成果
オバマ米政権にとって1期目の最大の成果である医療保険制度改革法の成立からまる2年が経過します。

アメリカには日本のような国民皆保険制度はなく、経済的に保険料が払えない、既往歴があり保険会社から加入を拒否されているなどの理由で約4600万人の無保険者が存在します。
日本よりはるかに医療費が高いと言われるアメリカでは、こうした無保険者は病気になっても医療を受けられないという現実があります。
この厳しい現実の改善は、民主党の長年の悲願でもありました。

オバマ大統領・民主党は当初、公的保険制度の新設を試みましたが、「社会主義的」との共和党などからの批判もあり、連邦政府が民間保険会社と提携し、無保険者に安価な保険を提供することで、実質的に無保険者をなくしていく形に変更しました。

この妥協案も、大きな政府負担(今後10年間で約9400億ドル(約85兆円))が「大きな政府」の象徴として草の根保守派「ティーパーティー」などの攻撃の標的とされ、民主・共和両党が対立する議会通過が危ぶまれましたが、かろうじて成立に至りました。

“オバマケア”とも呼ばれるこの改革法では、民間保険への加入条件を緩和し、保険加入を国が補助することで、全国民の保険加入を目指すことになりました。保険加入条件の緩和義務化は2014年から始まります。これによって83%に過ぎないアメリカ国民の医療保険加入率は、95%まで上がる見通しとされています。逆に言えば、国民ひとりひとりに保険加入が義務づけられることになり、政府助成などが得られるにもかかわらず保険に入らない人(たとえば育児放棄などで子供を保険に入れない親など)には罰金が課せられることにもなります。【10年3月22日 gooニュース(加藤祐子)より】

11月の大統領選や最高裁のあり方にまで影響を及ぼす可能性
国民皆保険制度を有する日本からすれば“常識的”とも思える“オバマケア”ですが、“自由と自己責任の国”アメリカでは、加入義務付けが個人の自由を侵害しており“違憲”であるとの批判が絶えず、法案成立後も法廷闘争に持ち込まれています。
改正の主な財源が高所得層への増税とされており、対立の背景には所得階層間での不満感情があるとも指摘されています。

“難病を患い保険会社に保険加入を拒否され、貧しさ故に医療保険に未加入で治療を受けられずに死ぬ・・・そんな人々が改革法で救われるはずだが、主に貧困層の無保険者のせいで自分たちの税金を使われたくない、というのが高所得者の本音なのかもしれない(反対派には高齢の白人が多いといわれる)。” 【4月11日号 Newsweek日本版】

共和党が知事を占める州など26州が提訴。一部の州では違憲判決が出たため、政府側が最高裁に上訴していましたが、最終判断をする連邦最高裁で口頭弁論が3月26日から行われました。
状況は、オバマ大統領にとっては予断を許さない厳しい情勢のようです。

****米民主党の看板政策、違憲? 医療保険改革法巡り訴訟****
オバマ米政権が1期目の最大の成果としている医療保険改革法が、個人の自由を制限しており違憲だとして訴えられている。最終判断をする連邦最高裁で、口頭弁論が26日から28日まで続いた。6月末と予想される判決は、11月の大統領選や最高裁のあり方にまで影響を及ぼす可能性がある。

国民皆保険を実現するための医療保険改革は、民主党の長年の悲願だった。オバマ氏は就任翌年、上下院双方で民主党が過半数を占めていたことに助けられ、法案を成立させた。共和党は強く反発。訴訟は計26州の共和党系知事や司法長官らが起こしている。最高裁に至るまでの下級審では、合憲と違憲、双方の判決が出ている。

大きな争点となっているのは、個人に保険加入を事実上義務づけ、従わない場合は罰金を科す条項。社会全体の医療費上昇を防ぐために盛り込まれた規定だが、最高裁弁論では原告側の代理人が「議会には、個人を強制的に商取引に参加させる権利がない」として、違憲だと主張。一方、オバマ政権を代表してベリーリ訟務長官は「米国が抱える問題の解決のため、民主的に選ばれた議会の裁量権の範囲内」と反論。法廷内でも「共和対民主」の構図となっていた。

通常の事件では1時間しか弁論を聞かない最高裁が、この訴訟では3日間で計6時間以上の弁論を実施。個人加入条項の合憲性のほか、(1)条項施行前でも、訴訟の対象となるのか(2)個人加入条項が違憲の場合、法律の他の条項が有効か(3)低所得者層向けの医療保険(メディケイド)の拡充は許されるか――についても主張を聞いた。

これほど大がかりな弁論は40年間実施されておらず、最高裁も訴訟の重大性を意識している証しとみられている。判決はどちらの結論が出ても、米国の政治に多大な影響を与え、大統領選の大きな論点になるのは間違いない。

■保守派の判事、カギ握る
連邦最高裁の判断は、9人の判事の多数決による。米法曹関係者やメディアの間では、民主党の大統領によって指名された「リベラル派」の4人は今回の訴訟で合憲判断をするとの見方が支配的で、共和党の大統領が指名した5人の「保守派」がかぎを握る。

保守派の中で結論を左右すると見られるのが、アンソニー・ケネディ判事(75)。妊娠中絶や同性愛者の権利などの問題ではリベラル派につくこともある。2010年度の80件の判決では94%、5対4で割れた16件に限っても88%の割合で多数意見に入った。

そのケネディ氏は27日の弁論で個人加入条項について「政府と個人の関係を、根本的に変えるのではないか」などと、政権側に厳しい質問を連発。他の保守派判事も総じて政権に批判的な立場を取り、米メディアでは「違憲判決の可能性」の観測が急増した。

こうした観測が出るのも、一人ひとりの判事の影響力の大きさの表れといえる。最高裁はこれまでも中絶や人種差別などの問題で全米の政策を左右する判決を言い渡しており、判事指名は民主、共和両党の重要な課題だ。さらに、判事は終身ポストのため、なるべく若い候補を指名し、持続的な影響を保持しようとする傾向も顕著だ。

最高裁の役割が重視されるに連れ、司法権の政治色も強まっている。ブルームバーグニュースが今回の弁論前に行った世論調査では75%が「判事たちは、政治的な要素を考慮して判断する」と回答した。ただ、最高裁がこれほど大きな政策を違憲としたことは、半世紀以上ない。もし、議会で多数の賛同を得たオバマ氏の看板政策が無効とされた場合、最高裁のあり方に対する疑問や批判も高まるとみられる。【3月30日 朝日】
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注目のケネディ判事は今回、無保険者の問題を指摘しつつ、加入を義務付けるからには政府はそれを正当だと証明する「重い責務を負っている」と発言。総じて否定的な意見を述べたと報じられています。【4月11日号 Newsweek日本版】
アメリカでは、自派の主張に近い最高裁判事の任命が政権にとっての大きな仕事になっていることはよく耳にしますが、今回はまさにそうした最高裁判事の構成が政権の最大成果を左右する形となっています。

【「選挙で選ばれていない一部の人々が正当に形成され、議会を通過した法律を覆すということだ」】
こうした情勢に、オバマ大統領は最高裁の支持を確信していることを表明すると同時に、司法による過度の政策介入を批判しています。

****医療保険制度改革法、最高裁の支持を確信=米大統領****
オバマ米大統領は2日、最高裁は医療保険制度改革法を支持すると確信している、との考えを示した。大統領は記者会見で「民主的に選出された議会の過半数により可決された法案を覆すという前例がない措置を最高裁が最終的に行うことはないと確信している」と述べた。

医療保険制度改革法をめぐっては、保険加入の義務付けに対して違憲訴訟が起きており、その口頭弁論が先週行われた。大統領が公の場でコメントするのは、口頭弁論以降初めてとなる。
保守派は、医療保険の加入を義務付ける改革法は政府や議会の介入にあたる、と批判。一方大統領は、可決された法案を裁判所が拒否すること自体が介入だと主張している。

大統領は「何年もの間われわれは、司法積極主義や司法抑制の欠如が一番の問題だとの主張を聞いてきた。つまり選挙で選ばれていない一部の人々が正当に形成され、議会を通過した法律を覆すということだ」と述べ「今回の件がそのいい例であり、裁判所はこの点を認識し、そうした措置を取らないと確信している」と述べた。

オバマ政権は、医療保険制度改革を1期目の重要成果のひとつと位置付けている。裁判の判決は6月下旬に出る予定で、その決定は11月の大統領選に大きく影響を与える可能性が高い。【4月3日 ロイター】
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これまで日本では最高裁が政治判断を避けることが多く、最高裁まで行くと殆んどが政府に都合のいい結論になってしまうという、“司法抑制の過剰”がしばしば批判されています。
一方、タイやパキスタンでは、司法判断によって与党が解散させられたり、大統領や首相が失職に追いやられる“司法クーデター”的な動きも見られます。
三権分立とは言いつつも、なかなかそのバランスは難しいものがあります。

混迷する共和党大統領予備選挙や持ち直しつつアメリカ経済によって、再選に向けた道筋が見えてきたオバマ大統領ですが、もし“違憲”の判断が下されると、最大の業績を失うことになります。
(なお、共和党本命のロムニー氏は、保守派支持を取り付ける必要から医療保険制度改革法に反対していますが、自身が州知事時代に医療保険制度を導入しており、これがオバマケアのモデルとなったとして保守派の批判を浴びています。)
ただ、その場合、最高裁批判も高まることが予想されます。

そうした選挙影響や論議はともかく、医療保険制度改革法の失効で約4600万人の無保険者が再び見捨てられることが問題です。
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