孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット  ダライ・ラマ14世の政治引退表明のなかでの新首相選挙

2011-03-21 20:45:39 | 国際情勢

(昨年10月 インド・ニューデリーの街かどで チベット亡命政府首相の予備選挙のポスターに見入る人々を見下ろすダライ・ラマ14世の肖像 “flickr”より By Vijay Kranti http://www.flickr.com/photos/vijaykranti/5048165350/

政治的権限を移譲
チベット亡命政府の首相選挙が20日行われましたが、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(75歳)が政治ポストからの引退を希望していることから、新首相はチベットの新たな政治指導者となることが想定されています。

****チベット亡命政府で首相選、ダライ・ラマの政治的後継者の可能性****
インド北部ダラムサラにあるチベット亡命政府の首相を選ぶ投票が20日、同地のほか、オーストラリアや米国など13か国で実施された。チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(75)が10日、権限を「自由な選挙で選ばれた指導者」にたくして政治的指導者の地位から退きたいと表明したことから、選挙の行方に注目が集まっている。

亡命政府の首相はカロン・トリパと呼ばれるが、今回の首相選挙で最も有力視されているのは、米ハーバード大学で国際法を研究しているロブサン・サンゲ氏(43)だ。サンゲ氏はインド生まれで、チベットを訪れたことは、まだない。

ダライ・ラマからの権限委譲の詳細については、議会側が慰留していることもあり、今後も協議が必要だ。だがダライ・ラマの決意は固く、権限移譲は完全に民主的な段階を経たものでなければならないと注文をつけている。
その一方で、ダライ・ラマは、政治的権限を移譲したあとも、チベット自治を求める精神的な指導者としての地位にはとどまるを意思を示している。

ダライ・ラマの現在の主な職務は決議への署名、内閣での宣誓、議会出席など儀礼的なものがほとんどだが、ダライ・ラマは、これらの職務も選挙で選ばれた議員らに引き継ぎたいとの意向を示している。
首相選の暫定結果は数週間以内にも発表される見通しだが、最終結果が判明するのは4月末ごろとなる。【3月21日 AFP】
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上記記事にある最有力候補サンゲ氏の他には、米スタンフォード大研究員テンジン・テトン氏、ダライ・ラマのブリュッセル代表部事務所代表タシ・ワンディ氏がおり、予備選でリードしたサンゲ氏をテトン氏が追う展開となっています。

“インド生まれで米ハーバード大学で国際法を研究し、チベットを訪れたことはまだない”という経歴が、チベット民衆の境遇とはかけ離れた感もありますが、まあ、私がとやかく言うことでもないでしょう。

ダライ・ラマ14世の政治的引退については、チベット亡命議会は18日、引退を認めず、再考を促す決議を採択していますが、ダライ・ラマの意思は固いとも。

****ダライ・ラマ14世の引退認めず チベット亡命議会****
インド北部ダラムサラからの報道によると、同地で開催中のチベット亡命議会は18日、政治ポストからの引退を希望しているチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世に対し、引退を認めず、再考を促す決議を採択した。
ダライ・ラマは、1959年にインドに亡命して以来、政治、宗教両面の指導者として亡命社会を率いてきた。しかし、75歳という自身の年齢を踏まえ、「ダライ・ラマ後」へ道筋をつける意向をかねて表明。14日、亡命議会に書簡を送り、自身の政治権限を亡命政府首相らに移譲するため、亡命社会の憲法にあたるチベット憲章を改正するよう求めていた。
憲章の改正には議会の承認が必要だが、ダライ・ラマの意思は固いとみられ、再び亡命議会に審議を求めるものとみられている。【3月19日 朝日】
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【「ダライ・ラマ後」対策
ダライ・ラマ14世の意向には、高齢となった自身の立場を考慮し「ダライ・ラマ後」を見据えて、チベット社会の民主化、中国との交渉前進の思惑があるとも指摘されています。

****ダライ・ラマ14世:政治活動から引退表明 政教分離図り****
・・・・伝統的に宗教・政治両面の最高指導者を務めてきたダライ・ラマが宗教活動に専念することで政教分離を図り、チベット社会の民主化を促す狙いがある。
一方、中国政府から「分離主義者」などと攻撃されてきたダライ・ラマは、政治の一線から身を引くことで、チベット問題で中国との交渉前進を図る思惑もありそうだ。
ノーベル平和賞を受賞したダライ・ラマの政治引退には亡命政府議会などから反対の声も強いが、自身の高齢化も考慮したとみられる。ダライ・ラマが死去した場合、後継のダライ・ラマを選ぶのに数年以上はかかるからだ。

亡命政府は今月20日に議会・首相選挙を実施する。ダライ・ラマは、いわゆる亡命第1世代は総退陣し、政治権限を新世代の首相に委譲する考えだ。これまでダライ・ラマを補佐してきたサムドン・リンポチェ首相も退く。ダライ・ラマは会見で「私は60年代から、自由選挙で選ばれた指導者に権力を委譲する必要性を繰り返し強調してきた。これを実行に移す時が来た」と述べた。(後略)【3月10日 毎日】
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一方、中国は「国際社会をあざむくための芝居だ」と批判しています。
****中国:ダライ・ラマ引退表明 「あざむくための芝居*****
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の政治ポストからの引退表明について、中国外務省の姜瑜副報道局長は10日の定例会見で「近年、彼は引退すると頻繁に言うが、それは国際社会をあざむくための芝居だ」と述べ、引退表明には政治的な狙いがあると決めつけた。
姜副局長はまた「ダライ(ラマ)は宗教家ではなく、中国の分裂活動をしてきた政治亡命者であり、チベットの分離独立活動を行う政治集団の頭目だ」と主張し、ダライ・ラマがチベットの分離独立を目指しているとの見方を示した。

中国当局は08年3月のチベット自治区ラサでの大規模暴動を扇動したのはダライ・ラマ側だとの認識を変えておらず、昨年1月に行ったダライ・ラマ代理人との非公式協議も最後まで平行線をたどっていた。
また、ダライ・ラマが求めているチベット自治区の「高度の自治」についても自治の範囲や法制度から、事実上の独立要求とみなしている。断続的にダライ・ラマ側との非公式協議に応じたのは、欧米諸国からの対話圧力をかわすためのポーズとみられている。
さらに、中国政府関係者は「ダライ・ラマが引退を表明しても亡命チベット人への影響力は何ら変わらないだろう。むしろ政界引退を口実にしてビザ取得が難しかった国々を訪れることもできる」と警戒している。

一方、中国当局はチベット自治区と周辺地域の生活底上げでダライ・ラマを信じるチベット族を中国社会に同化させ、チベット分離独立運動には死刑を含む厳罰で取り締まる「アメとムチ」の対応で臨んでいる。
中国当局は近年、チベット仏教第2位の活仏、パンチェン・ラマ11世に認定したギャインツァイン・ノルブ氏を仏教協会副会長の要職に就けるなど、ダライ・ラマの死後を視野に入れた準備も進めている。
チベット自治区人民代表大会のシャンパ・プンツォク常務委員会主任(議長)は今月7日、海外メディアの取材に「ダライ(ラマ)が死去してもチベット全体への影響はない。(中国チベット自治区の)長期的な安定を維持できる」と強調している。【3月10日 毎日】
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【「空白の20年」「中国のスパイ」とカルマパ17世摂政案
「芝居」かどうかはともかく、ダライ・ラマの年齢を考えると、チベット側は「ダライ・ラマ後」に早急に準備することが必要なのは事実でしょう。
政治的指導者としての役割の引き継ぎは今回選挙による新首相で対応できるかもしれませんが、問題はチベット自治を求める宗教的・精神的な指導者としての地位を今後どうするのか・・・ということでしょう。
中国はダライ・ラマが亡くなるのを首を長くして待っているとも言われます。

活仏であるダライ・ラマの後継者は転生で引き継がれますが、仮に今すぐ15世を選んでも成人するまで20年かかります。その間にダライ・ラマ14世が死亡した場合、宗教的・精神的指導者を欠いた「空白の20年」が問題となります。

その「空白」を埋めることを期待されている若きリーダーがカルマパ17世で、後継者が成人するまでの「空白」を乗り越えるため、ダライ・ラマが異宗派ではあるが人望のあるカルマパを摂政に指名する・・・という案があります。

そのカルマパ17世に関する「中国のスパイ」疑惑については、1月30日ブログ「チベット 若きリーダー・カルマパ17世の僧院で大金隠匿? 中国との関連は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110130)でも取り上げたところです。

結局この事件については、インド当局は事実上、シロと認定した形となっています。
****カルマパの蓄財「側近の過失」=中国スパイ疑惑はシロ―インド当局*****
チベット仏教指導者カルマパ17世が居住するインド北部ダラムサラ近郊の寺院で警察が多額の現金を押収、不正蓄財の疑いで捜査している問題で、PTI通信は16日、カルマパ側近の過失により不適正な資金管理が行われていたとインド当局が結論づけたと報じた。不正蓄財疑惑を引き金に、カルマパが中国のスパイであるとの説も流れたが、インド当局は事実上、シロと認定した形だ。

寺院内で見つかったのは、約1億3800万円相当の米ドルや中国人民元などの現金。1999年に中国を脱出したカルマパに同国政府がひそかに資金援助し、インド側のチベット仏教勢力への影響力行使を画策したとの見方が浮上した。これに対し中国は、カルマパは自国のスパイではないと全面否定し、中印間に波風が立っていた。【2月17日 時事】 
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中国紙はこの事件について、“インド政府が問題の拡大を恐れ追及の手を緩めた”と報じています。
****チベット仏教活仏の「中国スパイ」疑惑、インド当局が追及の手を緩める―中国紙****
2011年2月9日、中国紙・環球時報は、チベット仏教カギュ派の最高位活仏・カルマパ17世の「中国のスパイ」疑惑について、インド政府が問題の拡大を恐れ追及の手を緩めたと報じた。
同紙によると、6日付インド紙テレグラフは「ニューデリーの高官が、チベット亡命政府が置かれているヒマーチャル・プラデーシュ州にカルマパ17世の調査を“ゆっくり”進めるよう忠告した」と報じた。(中略)

カルマパ17世は大量の札束について、「インド警察の誤解」とスパイ説を完全に否定。チベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世も7日、「側近たちに不手際があったかもしれない」とこれを完全に擁護した。情報筋によると、こうした動きを受け、インド政府は最終的に「譲歩した方が良さそうだ」との考えに至ったという。

一方、7日付ザ・タイムズ・オブ・インディアは、当局が5日に行った家宅捜索で中国の携帯電話に使うSIMカードが3枚見つかったと報じた。昨年、ギュート寺を訪れた中国人は284人に上るが、この中に中国側スパイが紛れていた可能性もある、とインド警察はみているという。

このほか、8日付米紙ニューヨーク・タイムズは今回の事件について、「もともと中国への警戒心が強かったインドメディアをあおる結果となった」と指摘。インド各紙が「僧侶なのか、スパイなのか?」といった類の大きな見出しを付け一面で報じているとした。また、チベット問題専門家の意見として「亡命チベット人はインド政府にとって、単に国の安全を脅かす存在となった」と報じている。【2月9日 Record China】
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事件の真相はわかりませんが、「中国のスパイ」という風評はチベット側にあっては大きな影響があるのではないでしょうか。
「空白の20年」対策としての“カルマパ17世摂政案”はどうなるのでしょうか?
ダライ・ラマ14世の存在感が大きいだけに、「ダライ・ラマ後」の対応は困難です。
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リビア  仏英米を中心とした多国籍軍による空爆開始

2011-03-20 20:58:43 | 国際情勢

(反政府勢力側の戦車 一応こうした兵器もあるようですが、政権側に比べると明らかに劣勢です。士気の高さだけが頼りとも言え、今後の地上戦がどういう展開になるのか注目されます。“flickr”より By شبكة برق | B.R.Q http://www.flickr.com/photos/brqnetwork/5510256193/ )

【「オデッセイの夜明け」】
戦力的に圧倒的に優位にあるリビア・カダフィ政権の反攻により、反政府派拠点ベンガジが陥落寸前の危機的状況にあることに対し、反政府派を支援する仏英米などが国連安保理の武力行使容認決議を受けて軍事介入を行う構えを見せていることは、一昨日ブログ「リビア 反政府派拠点ベンガジ陥落か、英米仏中心の連合軍による空爆か・・・一刻を争う情勢」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110318)で取り上げたところですが、日本時間で今日早朝から空爆等の攻撃が開始されました。

****リビア:多国籍軍が空爆 カダフィ政権側は徹底抗戦の構え****
仏英米を中心とした5カ国からなる多国籍軍は19日夜(日本時間20日早朝)、リビアの首都トリポリや北東部ベンガジ周辺などで、カダフィ政権軍の防空施設や車両などを空爆した。リビアへの武力行使を容認した国連安保理決議に基づく軍事行動。カダフィ政権側は徹底抗戦する構えで、リビア情勢は国際社会を巻き込んだ重大局面に入った。
多国籍軍にはカナダ、イタリアが加わったほかカタールやアラブ首長国連邦(UAE)も参加を表明した。共同作戦名はギリシャ叙事詩から「オデッセイ(冒険)の夜明け」。

仏国防省や米国防総省などによると、統合作戦本部はドイツ・シュツットガルトの米軍基地に置かれた。仏英軍が航空機により現地攻撃し、米英軍のミサイル駆逐艦や潜水艦は、トリポリの防空網を破壊する目的で巡航ミサイル「トマホーク」計112発を発射した。攻撃は飛行禁止空域を確立するのが目的。安保理決議は「外国による占領」を許可していない。

一方、リビアの国営テレビは、トリポリの民間人地域やミスラタの燃料貯蔵地が空爆され48人が死亡、150人が負傷したと報じた。リビア政府は国連に安保理緊急協議を開くよう要請した。
リビア政府報道官は19日、空爆を主導する仏英両国に対し「不正義で、明らかな侵略行為」とするカダフィ氏の声明を発表した。【3月20日 毎日】
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【「これでようやく政権側と反体制派の形勢は五分になった」】
追い詰められ、政権側による虐殺の危険もある反政府派はこの多国籍軍の軍事介入を歓迎していますが、カダフィ政権を首都トリポリにまで追い詰めた当初は外国の介入を拒否していたこともあって、一部には複雑な思いもあるようです。
仏英米もそうした感情にも配慮して、アラブ連盟の支持を取り付けたうえで、カタールやアラブ首長国連邦(UAE)のアラブ諸国も加えた形をとっています。

****リビア:市民の歓喜あふれる広場 多国籍軍の空爆開始*****
「リビア! リビア! リビア!」。歓声や拍手が広がる。機関銃の祝砲が空にあがり、車のクラクションが鳴らされている。安保理決議に基づき仏英米など多国籍軍が最高指導者カダフィ大佐率いる政府軍の関連拠点への攻撃を開始した19日、北東部トブルク中心部に入った。広場では、街頭テレビの中継をじっと見守っていた市民数千人が「フランスの攻撃開始」のニュースが流れた瞬間、歓喜の声を一斉にあげた。
涙を浮かべる者、抱き合う人々や祈りをささげる姿もある。リビア・コールの後には「フランス」「サルコジ」の連呼もこだました。

同日朝から政府軍は反体制派の拠点、北東部ベンガジへの攻撃を激化。トブルクでも反体制派は「背水の陣」でのぞんでいた。港湾管理員のハムザ・ユーサさん(23)は北中部の要衝アジュダビアからトブルクへと続く幹線道路上で政府軍との対決に備えていた。「私たち若者には未来を手に入れたい強い願望がある。犠牲となった友人の思いも背負っている。不必要な流血はもはや必要ない」と力を込めた。(中略)

一方で、爆撃を見る市民には複雑な思いもある。街頭テレビ前で、無職のユスフ・サイードさん(25)は「独力で市民革命を達成したかったが、(政権側と)兵力の差があった」と残念そうだ。だが「国際社会のカダフィ政権への攻撃は残された唯一の選択肢だった。これでようやく政権側と反体制派の形勢は五分になった。リビア全土の和平はまだ先だ」と気をひきしめた。【3月20日 毎日】
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アメリカ:突出の意思なし
イラク・アフガニスタンを抱え、今回軍事行動に慎重だったアメリカは、後方支援にまわるようです。
****リビア:「多国籍軍に指揮権移行」 米、共同作戦を強調*****
国連安保理決議に基づく19日の対リビア軍事行動は仏英米主体で始まった。しかし、米軍は中心的役割を担うのには消極的。軍事行動は今後、北大西洋条約機構(NATO)加盟国とアラブ諸国に枠組みを広げたものに移行する見通しだ。

決議に盛り込まれている軍事行動は「市民保護のための必要なあらゆる措置」と「飛行禁止空域の設定」の2種類。19日の軍事介入のうち、仏軍機の空爆によるリビア軍車両の破壊は反体制派市民の保護が目的で、米英の巡航ミサイル「トマホーク」による防空施設攻撃は禁止空域設定の準備の側面がある。
市民保護のため戦車などの地上部隊を破壊するピンポイト空爆は、限られた数の航空機でも可能。だが、リビア全土上空の飛行禁止は湾岸戦争(91年)後、イラク北部・南部に設定された禁止空域の6倍以上の広さとなり、1日50~70機の軍用機が必要とされる。

初日の巡航ミサイル「トマホーク」による攻撃の大半は米軍によるものだったが、戦闘開始後に米国防総省で会見した統合参謀本部のゴートニー事務局長(海軍中将)は「これは国際的な軍事活動」と強調。攻撃目標の設定が「同盟国との共同作業だった」と明らかにした。さらに、今回の攻撃で作戦指揮を執ったアフリカ軍のハム司令官が「近く多国籍軍側に指揮権を移行することになるだろう」とまで明言した。
遠方からピンポイントを狙った攻撃能力で圧倒的な優位性を持つ米軍としては、リビア軍の攻撃能力を無力化する得意分野では先陣を切ったものの、長期にわたり米軍が突出して戦闘を続ける意思がないことを示したものと言えそうだ。

このため初期段階の作戦は仏英米が担ったが、禁止空域についてはNATO加盟国主体の枠組みで設定されるとの見方が有力だ。すでにベルギー、カナダ、デンマーク、ノルウェー、スペイン、イタリアが戦闘機の出撃準備を整え、艦船をリビア沖の地中海に展開している。長期間にわたって禁止空域を維持するにはリビアに近い発進基地が不可欠で、イタリア、スペインは基地の使用をNATOに認めている。

また、アラブ世論対策上、カギを握るのはアラブ諸国の参加だ。米英仏は軍事行動が「欧米の介入」と映ることを嫌い、フランスのアロー国連大使によると、アラブ首長国連邦(UAE)とカタールが航空機とパイロットの派遣を表明しているという。
軍事介入に反対してきたトルコは「安保理決議の枠組みで必要な準備を進めている」(外務省)とされ、ドイツも「軍事行動には参加しないが、アフガニスタンでより多くの責任を担う」(メルケル首相)と述べ、側面協力の構えだ。【3月20日 毎日】
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仏英の思惑
作戦を一貫して主導してきたのはイギリスとフランスです。
イギリス・キャメロン首相は、攻撃に先立ち「行動する時が来た」と、その決意を語っています。
****行動の時」=英首相*****
キャメロン英首相は19日、パリでのリビア問題の緊急国際会議閉幕後、「行動する時が来た」と述べ、軍事行動を開始する考えを明らかにした。
キャメロン首相は「(リビアの最高指導者)カダフィ大佐は国際社会を欺いた」と非難。その上で「国連(安保理)の意思を実行しなければならない」と強調した。【3月20日 時事】 
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当然、こうした行動は国内政治、国際事情などを配慮した結果でもあります。
先陣を切って空爆を決行しているフランスの場合、サルコジ大統領の失地回復の思いもあることが報じられています。

****フランス、名誉挽回狙う 対応遅れで批判受け****
フランスはリビアへの武力行使を認める国連安保理決議(17日)の採択に向け、米国を説得するなど積極的に動き、武力行使の是非を判断する19日の多国間会合も主催した。これらの背景には、12月以降のチュニジア、エジプトの民主化デモに対するフランスの対応が遅れ、大きく批判された事情がある。

チュニジアのデモが始まった当初、仏のアリヨマリ外相(当時)はデモ沈静化のため、ベンアリ政権を援助する用意があることを示唆。強く批判されたほか、外相自身が年末休暇を同国で過ごし、ベンアリ大統領(同)の側近に接待されたことも発覚、外相は辞任した。フィヨン首相も年末休暇でエジプトのムバラク大統領(当時)の接待を受けており問題となった。
この対応に追われる中、サルコジ仏政権の中東民主化デモへの対応は後手に回った。サルコジ政権の今回の積極策には、12年の大統領選もにらみ名誉を挽回する意図がある。

一方、リビアへの軍事介入には独が反対するなど、欧州連合(EU)には一連の問題に対し団結できない部分がある。サルコジ政権には、この中で積極策を打ち出し、EU外交の主導権を握る狙いもありそうだ。【3月19日 毎日】
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安保理決議で棄権した中国・ロシアは“遺憾の意”を表明しています。
****リビア:攻撃開始 中国とロシアが遺憾の意****
リビアへの武力行使を容認した国連安保理決議の採決で棄権した中国とロシアは、多国籍軍によるリビア攻撃に遺憾の意を表明した。
中国外務省の姜瑜(きょうゆ)副報道局長は20日、「中国は一貫して国際関係での武力行使には賛成しない」とする談話を発表。「情勢ができる限り早く回復・安定し、武力衝突の拡大で民間人の死傷者がさらに増える事態を回避するよう望む」と指摘した。

ロシア外務省も19日、一般市民の被害回避と速やかな攻撃停止を求める声明を発表した。ロシアのロゴジン駐北大西洋条約機構(NATO)大使は、リビア攻撃が「紛争の拡大と制御不能の連鎖反応につながり、北アフリカや中東地域全体の過激主義を助長する」と警告した。
また、ロシアの軍事専門家はインタファクス通信に対し、リビアにはS200など旧ソ連製の地対空ミサイルが配備されているが老朽化が進み、攻撃国の最新兵器に対抗できないと指摘。カダフィ体制の終幕は時間の問題との見方を示した。【3月20日 毎日】
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反体制派にとっては正念場が続く
今後の戦闘の見通しについては、反政府派にとって楽観は許されない状況も指摘されています。
****リビア 反体制派、続く正念場 大佐側、戦力なお優勢****
国連安全保障理事会の決議に基づきフランスが19日、リビアの最高指導者カダフィ大佐の反体制派に対する攻撃阻止に向けて軍事行動に踏み切った。窮地に立たされている北東部ベンガジを拠点とする反体制派には当面、態勢を整えるゆとりが生まれ、反転攻勢に向けた準備も可能となる。しかし、飛行禁止区域設定が実現しても、戦力面ではカダフィ氏側がなおも優勢を保っており、反体制派にとっては正念場が続くことになる。(中略)

ただ、火力や兵員の練度では反体制派が劣勢なのは明らか。英仏などによる空爆と飛行禁止区域の設定によって反体制派はベンガジ防衛で一息つくことにはなるものの、戦局が一気に有利になるわけではない。
中部ブレイガや北西部ザーウィヤなど石油施設の多い要衝はすでにカダフィ氏側に奪還されており、戦闘で奪い返すには大きな犠牲を覚悟する必要がある。

一方、カダフィ氏側は19日、英仏首脳に向けた声明で「介入すれば後悔することになる」と“脅迫”した。しかし、カダフィ氏にとり、英仏などによる空爆を実力で阻止することは戦力の面からも不可能だ。
警告していた「地中海を飛行・航行する飛行機や船舶への攻撃」も、国際社会との全面対決を招くもので現実的ではない。カダフィ氏としても、戦局打開に向けた決め手に欠くのが実情といえる。
米欧は反体制派への軍事顧問団派遣も検討しているとされるが、今後は戦力差を埋めるためにさらなる軍事支援に踏み込まざるを得なくなる可能性もある。【3月20日 産経】
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カダフィ政権側は崩れ始めたら早いような気もしますが、短期で決着がつくのか、それとも、朝鮮戦争のように中国・国連軍の軍事介入によって戦線が移動を繰り返したあげく膠着状態になるのか・・・今後の展開が注目されます。
なお、昨日ブログでも取り上げたように、バーレーンでは、リビアとは逆に、サウジアラビアな湾岸諸国が政権側支持の立場で軍事介入しています。

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バーレーン  小さな島国の民主化運動がサウジ、イラン・イラクをも巻き込む宗派対立へ拡大する懸念

2011-03-19 21:43:09 | 国際情勢

(バーレーンでの衝突の犠牲者と思われます “flickr”より By MohammedMaree محمد مرعى mar3e
http://www.flickr.com/photos/mar3e/5531942883/ )

スンニ派王家が7割のシーア派住民を支配
チュニジアに端を発する中東・北アフリカの“民主化ドミノ”については、昨日取り上げたリビアでは反政府派に“容赦ない攻撃”を加えるカダフィ政権への英仏米などの軍事攻撃の可能性が高まっていますが、もうひとつ注目されるのが、ペルシャ湾に浮かぶ淡路島ぐらいの小さな島国バーレーン(人口79万人)の動向です。

バーレーン王家はクウェートやサウジアラビアの王家と同じくアナイザ族出身でイスラム教・スンニ派ですが、国民の7割をシーア派がしめ、3割のスンニ派に比べ差別を受けてきたと言われています。

そのため、シーア派主体の民主化運動は反王制・宗派対立の色合いを帯び、その成り行きに隣国でもあり、同じくシーア派住民を抱えるスンニ派王制の地域大国サウジアラビアが神経をとがらせています。
バーレーンはアメリカにとっても、中東一帯の海域を管轄する米海軍第5艦隊司令部があって、中東戦略において重要な位置を占めていますが、サウジアラビアを巻き込んだ混乱になると、その影響は中東情勢・原油供給に及び、全世界に波及します。

****石油尽き、王族支配は「時代遅れ」 揺れるバーレーン****
中東と北アフリカ諸国で民主化デモが相次ぐ中、ペルシャ湾に浮かぶ島国バーレーンで、ハリファ王家が、政治の舞台から去るようデモ隊からレッドカードを突きつけられている。かつて国家を支えた石油は底を尽く中、王族支配の政治は「時代遅れ」とみなされている。両者の間には対話を探る動きもあるものの、解決策を見つけるのは容易ではない状況だ。(マナマ 岩田智雄)

「どんな立派な建物も、王家の懐を肥やすための道具にすぎない」
青い空と海を背に近代的ビルが立ち並ぶ首都マナマ。デモ隊が陣取る真珠広場でコンサルタントの男性は声を荒らげた。
バーレーンは1931年に石油が発見され、中東諸国の中で最も早く開発が始まりハリファ家の権力を支えてきた。しかし今では石油はほとんど出ない。王家は工業化や金融拠点化を進めてきた。しかしデモ隊の目には、こうしたきらびやかさも王家の利権としてしか映らない。

バーレーンの民主化デモがエジプト情勢に触発されて拡大したのは2月14日。10年前の同じ日に、民主化の枠組みを規定した「国民行動憲章」が国民投票で、承認された。しかし、その1年後、ハマド首長は国王であることを宣言し、憲法改正を発表。民主化は選挙による下院の設立などにとどまり、政治の実権は国王が握ったままで、国民の怒りは増幅していった。

ほかにも不満は鬱積している。約123万人の総人口のうち、ほぼ半数は外国人で、残りの7割がイスラム教シーア派、3割が王家と同じスンニ派だ。政府は、公務員、警官などへの就職、福祉などでシーア派住民を差別してきた。

先月のデモ拡大後、警察の発砲などで7人が死亡。シーア派の最大野党ウェファクのハリール事務局長は「機動隊の9割は国籍を与えられた外国人」と語る。
解決の糸口を探るため、サルマン皇太子は国民に対話を呼びかけた。ウェファクなどは、国民行動憲章に基づく政治改革を対話の条件としているが、対話は進展しそうにない。
まず、ハマド国王、国王のおじのハリファ首相、国王の息子のサルマン皇太子による事実上の「三頭政治」であり、王家内での意見集約は容易ではない。

デモ隊に譲歩すれば、スンニ派が多数派を占めるサウジなどでシーア派によるデモも拡大しかねない。湾岸各国は、シーア派大国イランの影響力に一層神経をとがらせることになる。経済的に依存するサウジの顔色も無視できない。
ハックなどシーア派非公認組織は「共和制」を訴え始めた。デモは激しさを増し、国民は一層王家への反発を強める可能性もある。【3月13日 産経】
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シーア派住民の不満については、“政府はここ数年、「スンニ派化」政策を進めている。サウジアラビアやヨルダン、シリア、パキスタンなどスンニ派諸国から多くの労働者を呼び込み市民権を与え、スンニ派の人口比を高めようとしている。シーア派住民を抑圧してきたため支配層にはシーア派への警戒感が強く、軍や警察はスンニ派の職業になっている。一方、外国から来たスンニ派新市民は軍や警察をはじめとした公務員の仕事に就き、家も与えられるケースもあるといい、これがシーア派の不満を高める結果となっている。”【2月20日 毎日】とのことです。

おさまらない民主化デモ
民主化デモがおきる直前には、国内の各世帯に1000バーレーン・ディナール(約22万円)を支給するという“バラマキ”による懐柔策も発表されましたが、国民の不満を抑えることはできませんでした。
多数派であるイスラム教シーア派の市民らによる権利拡大や民主化を求めるデモ、首都マナマ中心部の「真珠広場」での座り込みに対し、2月17日、治安当局側が「真珠広場」に突入、催涙ガス弾を発射するなどし、デモ隊を強制排除しましたが、この際4名の死者が出ました。

その後も治安当局による発砲による犠牲者が増え、シーア派住民を中心とする民主化要求運動では次第に反王制の声が強くなってきました。
バーレーンでデモ隊に発砲した治安部隊の多くは、王族をはじめとする支配層と同じイスラム教スンニ派である南アジア出身の傭兵とも言われています。強硬策に出た王室には「シーア派が反乱を起こすのではないかとの恐怖がある」とも。

ハマド国王はサルマン皇太子を通じて野党勢力に対話を要請しましたが、住民と連携する最大のシーア派野党「イスラム国民統合協会」は、現内閣を即時解散して議員内閣制に移すことや、約300人に上る政治犯の釈放などを対話の前提条件に挙げ、条件の受け入れなしに対話を開始する可能性を否定。
バーレーンは国民投票を経て形式的には02年から立憲君主制に移行しましたが、首相は国王の指名で決まり、閣僚の大半はスンニ派王族が占めており、シーア派住民の要求が国政に反映されない現状があります。

バーレーン政府は2月21日には政治犯釈放を発表、23日にはハマド国王がサウジアラビアを公式訪問。また、24日には米軍トップのマレン統合参謀本部議長がバーレーン入りしハマド国王やサルマン皇太子らと会談、26日は内閣のうち5閣僚を変更する内閣改造を発表するなど、関係国は事態の鎮静化に向けて動きますが、民主化デモは収まりません。

****バーレーンの野党指導者が帰国、国王は内閣改造を発表****
英国にいたバーレーンの野党指導者、ハサン・ムシャイマ氏が26日夜帰国し、同国の反政府デモの中心地になっている首都マナマの真珠広場で演説した。
ムシャイマ氏は今こそスンニ派・シーア派・世俗派は一つになって体制と戦うべき時で、これまで嘘を繰り返してきた政府と交渉すべきではないと述べた。真珠広場にはムシャイマ氏を歓迎する花火が打ち上げられた。
シーア派のムシャイマ氏が病気治療のため英国にいた前年10月、同氏ら25人は違法な団体の設立、テロ行為への資金提供とテロの実施、風説の流布の罪で訴追されていた。(中略)

一方、バーレーン政府は26日、ハマド国王が同日、5閣僚を変更する内閣改造を実施したと発表した。しかし労相が住宅相に、外相が保健相に横滑りするなど、野党側が求める総辞職にはほど遠い内容になっている。【2月27日 AFP】
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2月28日には、反政府デモを続けるイスラム教シーア派住民らのうち数百人が国会前を一時封鎖。
3月10日には、首都マナマの国連ビル前に数千人が集まり「王室打倒」を叫んだとのことで、民主化運動当初のハリファ首相の退陣要求などから「スンニ派王室の打倒」へと変化を窺わせます。
3月13日には、反体制デモに対し警官隊が催涙ガスなどで応酬、激しい衝突に発展し多数の負傷者が発生。

隣国スンニ派サウジアラビアの軍事介入
こうした事態に、バーレーンは13日、サウジアラビアなどペルシャ湾岸の産油国6カ国から成る「湾岸協力会議」(GCC)に対し、軍の派遣を要請することになります。

****サウジアラビア、バーレーンに軍派遣****
サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など6か国からなる湾岸協力会議(GCC)は14日、反体制デモに揺れるバーレーンに軍を派遣した。

国営サウジ通信(SPA)は、「バーレーンからの支援要請に応じ」、GCCの共同軍事組織「半島盾の軍(Peninsula Shield Force)」をバーレーンに派遣したとするサウジアラビア政府の声明を発表した。声明は、「GCC加盟国の安全保障への脅威はGCC全体の安全保障への脅威と見なされる」と続けている。
UAEも、「緊張を和らげるため」警官500人程度を派遣したことを明らかにした。GCCの残りの加盟国であるクウェート、オマーン、カタールが参加しているかは不明。(中略)

バーレーンのサルマン皇太子は同日、反体制派に譲歩するかたちで、全権を持つ議会を作ること、腐敗一掃と宗派間の緊張緩和に努めることを約束した。だが、「安全保障と安定を犠牲にするやり方は、合法的な要求とは言えない」とくぎを刺すことを忘れなかった。
反体制派勢力は、政府が退陣するまでは対話に応じないとの姿勢を崩していない。同国では14日も、数千人が首都マナマのビジネス街の占拠を続け、ペルシャ湾岸諸国の金融の中心地はゴーストタウンと化している。【3月15日 AFP】
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15日、ハマド国王は3カ月間の非常事態宣言を出し、全権を軍に委任し、反政府デモに強硬な姿勢を示します。
****デモ隊の強制排除着手=発砲で2人死亡、200人超負傷-バーレーン****
バーレーンからの報道では、シーア派イスラム教徒による反政府デモの激化を受け、非常事態が宣言された同国の首都マナマ近郊のシーア派居住地域で15日、治安部隊側が住民に発砲し、少なくとも2人が死亡、200人以上が負傷した。一方、治安部隊数百人が16日朝、首都マナマの「真珠広場」で泊まり込みの抗議を行っていたデモ隊の強制排除に乗りだした。
AFP通信によると、治安部隊はデモ隊に向け、催涙弾を発射した。治安当局は非常事態宣言で「必要なあらゆる手段」を講じる権限を付与されていた。同国は、湾岸協力会議(GCC)に部隊派遣を要請、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の計約1500人が動員されていた。(後略)【3月16日 時事】
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こうして、バーレーンは一連の中東政変では初めて他国軍が展開する事態となっています。
バーレーン政府の要請でアラブ諸国から派遣されたGCC軍は、この日の作戦には関与していないもようとも報じられていますが【3月16日 ロイターより】、野党勢力はGCC軍展開は「事実上の占領であり戦争行為に等しい」と反発、14日に国連に対し安全保障理事会で対応を協議するよう要請しています。

武力衝突の危険の高まりに、クリントン米国務長官は15日、訪問先のカイロでの会見で双方に自制を求め、平和的解決を仲介するようサウジアラビアに求めています。サウジ軍が民主化デモ鎮圧に乗り出すと、長年友好関係を維持してきた、中東戦略の要でもあるサウジアラビアとの関係悪化が避けられません。

一方、軍を派遣したサウジアラビアでは、シーア派住民らがバーレーン派兵などに反対するデモが起きています。
****サウジアラビア:シーア派デモ…バーレーン派兵に反発****
バーレーンで16日、イスラム教シーア派主導の反体制派と治安部隊が衝突、多数の死傷者が出たことを受け、隣国サウジアラビアのシーア派住民らが同日、サウジ軍のバーレーン派兵などに反対するデモを行った。ロイター通信が伝えた。治安当局は威嚇射撃するなどしてデモの解散を図ったという。

デモはサウジ東部カティフなどで行われ、数百人が参加。サウジ軍を中心とする湾岸協力会議(GCC)合同軍のバーレーン派遣に反対するとともに、同国シーア派住民への連帯や、サウジでの政治犯の釈放などを訴えた。大規模な治安部隊が出動して解散を迫ったが、衝突には至らなかったという。
スンニ派主導のサウジは、バーレーンのシーア派反体制デモが自国に及ぶことを懸念。同じスンニ派のバーレーン国王の要請を受けて派兵した。【3月17日 毎日】
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シーア派のイラン・イラクも反発
スンニ派王制を支えるのがサウジアラビアなら、シーア派住民を支持するのがシーア派イランとシーア派が強い影響力を持つイラクです。バーレーンの混乱はこれら周辺大国を巻き込んだ宗派対立の様相も呈しています。

****バーレーン、周辺国巻き込み宗派抗争の様相****
イスラム教シーア派住民らのデモが続くバーレーンで17日夜、デモ隊と治安部隊が各地で衝突し、緊張が高まっている。湾岸諸国の軍事支援を受けるスンニ派王政の強硬姿勢に、周辺国のシーア派も反発し、バーレーンを舞台にした宗派抗争の様相を帯びている。(中略)

王政の強硬姿勢を支えるのは、サウジアラビアやアラブ首長国連邦の兵らだ。計約1500人が戦車や装甲車に乗り、主要道路の交通を制限している。湾岸諸国はスンニ派君主が支配しており、バーレーン情勢の飛び火を恐れて軍事介入に至ったのだ。
デモ隊の民主化要求は、少数派のスンニ派王政の廃止を導きかねない。ハマド国王は一時はデモを静観したが、15日に緊急事態令を宣言。武力で抑え込む方針に転じた。
これがデモ隊を過激化させ、スンニ派住民のシーア派に対する憎悪も増幅させる悪循環に陥っている。デモ隊との衝突で死んだスンニ派警官の葬儀が17日にあり、地元有力者は「シーア派のゴミ住民が国を破壊している。戦う」と言った。東部ハマド地区では、スンニ派移民の若者数百人がこん棒やなたで「武装」している。

シーア派住民を多数抱える周辺国も黙っていない。バーレーンを舞台にした、宗派間の代理抗争の懸念が強まっている。
イラクでは17日、シーア派強硬派指導者サドル師の呼びかけで、首都バグダッドなどで数千人が抗議デモを実施。イランのアフマディネジャド大統領は16日、「正当化できない」とバーレーン王政を批判し、駐バーレーン大使を召還した。レバノンでは、シーア派過激派組織ヒズボラによるデモがあった。【3月18日 朝日】
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王制は王家に対する国民の敬愛があって成立するものですが、それが失われつつあるバーレーンでは、少数派スンニ派王家の多数派シーア派支配というのは無理な構図に見えます。生き残る道は徹底した強権支配しかないでしょう。
小さな島国バーレーンの混乱は、国の内外を巻き込んだ深刻な宗派対立に発展することが懸念されており、その場合、先述のようにその影響は全世界に及びます。

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リビア  反政府派拠点ベンガジ陥落か、英米仏中心の連合軍による空爆か・・・一刻を争う情勢

2011-03-18 21:54:12 | 国際情勢

(国連安保理におけるリビア上空の飛行禁止空域設定などを盛り込んだ新たな対リビア武力行使容認決議案採択を喜ぶベンガジの反政府派住民  “flickr”より By DTN News
http://www.flickr.com/photos/dtnnews/5535795165/
なお、カダフィ政権のカイム外務次官は18日未明、反政府勢力との停戦に応じる用意を表明しており、停戦を模索する動きが水面下で続いている可能性もあるとされています。 )

カダフィ政権 「容赦ない攻撃」の開始を宣言
日本が東日本大震災とその後の原発事故で大きく揺れ動いている間、中東・北アフリカの民主化を求める反政府行動も新たな展開を見せています。
特に注目されるのはカダフィ政権側の武力反撃が激しさを増すリビア情勢と、多数派のシーア派住民の抗議行動からスンニ派王制を守るべく隣国サウジアラビアなどが軍事介入を始めたバーレーン情勢です。

今日はそのリビア情勢について。
反政府派の攻勢によって一時は首都トリポリに追い詰められ、政権崩壊はもはや時間の問題かとも思われていたカダフィ政権ですが、チュニジアやエジプトとは異なり、持てる軍事力を容赦なく使う“カダフィ流”の危機対処が功を奏した形で、今は逆に反政府勢力の本拠地である東部ベンガジに迫る展開を見せています。

****反体制派の拠点都市ベンガジを空爆 リビア政府軍****
リビアの最高指導者カダフィ大佐に忠誠を誓う政府軍が17日、東部にある反体制派の拠点都市ベンガジへの空爆を開始した。
反体制派によると、ベンガジ郊外の空港が空爆されて、滑走路が破壊された。市街地への空爆は確認されていないが、上空を戦闘機5、6機が旋回しており、反体制派が対空砲などで応戦しているという。【3月17日 朝日】
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リビアの最高指導者カダフィ大佐は17日夜、国営放送を通じて演説し、反体制派の拠点都市、東部ベンガジに対する「容赦ない攻撃」の開始を宣言しています。
カダフィ大佐は演説で「ベンガジが裏切り者の街か英雄の街かは明日分かる。ベンガジ市民の解放に行く。私を裏切るな」と叫んだ。そのうえで「武器を置く者は救われるだろう」とも述べ、武装解除を求めています。

また、「我々は今夜、(ベンガジに)到着する。(反体制派には)一切の慈悲も、同情もかけない」とも語っており、もしベンガジ陥落となると反政府派の崩壊だけでなく、政権側による激しい報復・虐殺も懸念される事態となっています。

12時37分の【朝日】では米CNNの報道として、“政府軍の陸軍部隊はベンガジの南約150キロにあるアジュダビヤにとどまったままだとしている。反体制派もアジュダビヤ周辺に数十台の戦車を展開。対空ロケットや対空機銃を積んだトラックも複数配置して、防衛線を張っている。”と伝えていますが、18時24分【毎日】では“ここ数日の戦闘でベンガジの最後の防衛ラインとなるアジュダビアもほぼ制圧されていた。ロイター通信によると、政府軍はベンガジまであと100キロ前後に迫っている。”とされており、事態は緊迫しています。

安保理 「市民を守るため、必要なあらゆる方策を取る」】
こうした情勢のなか、国連安保理はリビア上空の飛行禁止空域設定などを盛り込んだ新たな対リビア武力行使容認決議案を賛成多数で採択しました。リビアの市民を守るために、地上軍の侵攻を除く軍事力行使を国連として認める内容となっています。

****リビア:国連安保理 武力行使容認決議を賛成多数で採択****
国連安全保障理事会は17日、リビア上空の飛行禁止空域設定などを盛り込んだ新たな対リビア武力行使容認決議案を賛成多数で採択した。決議には「市民を守るため、必要なあらゆる方策を取る」との文言が記された。これを受け米英仏などは、反政府勢力の拠点への攻勢を強めているカダフィ政権に対する空爆を含む武力行使を準備する。
決議案には15理事国のうち草案を作成した英仏米など10カ国が賛成。中国、ロシア、インド、ドイツ、ブラジルは棄権した。

決議案は、2月26日に採択した制裁決議と同様に国連憲章第7章(平和に対する脅威)を明記した。だが今回は41条(経済制裁)には言及せず、武力行使を含むあらゆる選択肢を可能とした。その上で「カダフィ政権の攻撃の脅威にさらされるリビア市民を守るあらゆる方策をとる」と強調した。
一方で「外国軍の占領を除外する」と付言し、欧米軍のリビア国内進出に懸念を示すアラブ各国やリビア市民に配慮した。また、飛行禁止空域の設定では「アラブ連盟との協力の下で」とした。
資産凍結は、カダフィ大佐の側近など政権中枢、リビア中央銀行にも拡大された。
 
会合後、英国のグラント大使は記者団に「決議で行動を起こす法的根拠は整った」と述べたが、武力行使の時期は明言しなかった。
反体制派側に立つリビアのダバシ次席大使は「できるだけ早く行動を起こしてほしい」と語った。

一方、ロシアのチュルキン大使は「飛行禁止空域の実効性に疑問がある」と棄権理由を述べた。
安保理の新たなリビア決議について国連の潘基文(バンキムン)事務総長は17日、採択を歓迎し、「すみやかに決議を実行することを期待する」との声明を発表した。【3月18日 毎日】
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この安保理決議に先立ち、アラブ連盟(22カ国・機構)は12日、カイロの本部で緊急外相会合を開催し、リビアの反体制派が政府軍けん制のため求めていた飛行禁止空域を設定するよう国連安保理に要請することを決定しました。
アラブ連盟の支持は、同空域設定を主導する欧米諸国がアラブ国民による反発の可能性に配慮して求めていたもので、設定に向けた障害が一つ取り除かれた形となっていました。

棄権した国々は“「誰が兵力を負担し、どのように実施するのか道筋が見えない」「軍事衝突は長引き、影響を受ける地域は拡大する」という懸念が強い。複数の国連外交筋によると、圧倒的な武器と軍隊を握るカダフィ政権は強固で、飛行禁止空域設定だけでは市民を保護できず、地上戦も協議しなければならない「泥沼が予想される」”【3月18日 朝日】と主張しています。
“主戦論を唱える英仏に対して国際社会には依然、武力行使に慎重な意見が多い。アフガニスタンとイラクでの戦争が泥沼化した経験から、欧州他国にはえん戦気分が強い。ドイツは「現状は軍事介入の時ではない」(メルケル首相)として決議採決でロシア、中国などと共に棄権に回った。”【3月18日 毎日】

イラク・アフガニスタンへの派兵を抱えるアメリカは更なる大規模軍事行動には消極的でした。しかし、“オバマ米政権は当初、空域設定について、「リビアの防空能力をたたくために大規模な軍事作戦が必要」(ゲーツ国防長官)なうえ、航空機以外の兵器を主体とするリビア軍の攻撃を抑える効果があるかどうか疑問視していた。
だが、米国内の320億ドルの資産凍結を含む制裁措置や反体制派支援によってもカダフィ政権の強硬姿勢は変わらず、反体制派への攻撃が拡大した結果、米議会で「リビア軍が(反体制派の拠点)ベンガジを制圧したら、大量虐殺が起きてしまう」(マケイン上院議員)との懸念が拡大。飛行禁止空域設定を含む安保理決議の容認に傾いたとみられる。”【3月18日 朝日】という判断で、英仏の強硬論に賛同する形となっています。

時間との戦い
また、当初外国勢力の介入には消極的だった反政府側は、カダフィ政権側の圧倒的軍事力、特に空軍力に追い詰められており、こ
こにきて飛行禁止空域の設定、政権側軍事拠点爆撃を強く求めています。

****リビア:劣勢の反体制派、喜び爆発 安保理決議採択*****
安保理決議採択を受け、政府軍の猛攻を前に「陥落」の危機にひんしていたリビア北東部の反体制勢力本拠地ベンガジは18日未明、決議を歓迎する大歓声に包まれた。圧倒的な陸上部隊を擁する政府軍がベンガジに迫る中、これを迎え撃つ反体制派にとって、欧米諸国主体の空爆開始まで持ちこたえることができるかどうか時間との戦いになっている。(中略)

反体制派側は「このままでは政府軍による虐殺は免れない」(報道官)と危機感を強めていただけに、ベンガジの中央広場に設置された大型テレビが安保理決議採択の様子を映し出すと、数千人の人々が一気に喜びを爆発させた。衛星テレビ局アルジャジーラが生中継した会場には、旧王制時代の三色旗がはためき、Vサインを掲げる人々の頭上にいくつもの祝いの花火が打ち上げられた。(後略)【3月18日 毎日】
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“ベンガジ防衛が欧米諸国主体の空爆開始まで持ちこたえることができるかどうか時間との戦い”という差し迫った状況で、フランスが数時間以内に軍事行動を実施する可能性があるとも報じられています。

****リビア政権への軍事行動、数時間以内に実施も=仏政府報道官****
フランスのバロワン政府報道官は18日、ラジオ局RTLに対し、リビアのカダフィ政権に対する軍事力行使を認める国連安全保障理事会の決議を受け、フランスが数時間以内に軍事行動を実施する可能性があると述べた。
バロワン氏は「決議を提出したフランスはもちろん軍事介入に一貫した対応を取る。攻撃はすぐにでも行われる」とした上で、フランスが軍事行動に「参加する」と表明した。

複数のフランス外交筋は、軍事行動には英国も参加する見通しだと話し、米国や中東諸国も参加する可能性を指摘。また、フランス政府は欧州連合(EU)とアフリカ連合(AU)、アラブ連盟の代表者による3者協議を19日朝にも開催したい意向だと述べた。(後略)【3月18日 ロイター】
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英仏米の協議も進展を早めています。
****米英仏首脳が電話協議=対リビア決議採択受け*****
オバマ米大統領は17日、国連安保理が同日、リビアへの軍事力行使を容認する決議を採択したことを受け、キャメロン英首相、サルコジ仏大統領と電話協議を行った。
ホワイトハウスの声明によると、3国首脳は、リビアが直ちに決議を順守し、市民に対する暴力行為を停止すべきだとの認識で一致。さらに、リビアに対する今後の措置について、緊密に協調するとともに、決議履行に向けアラブ諸国などと引き続き協力していくことで合意した。【3月18日 時事】
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カダフィ政権側によるベンガジ制圧が早いか、英仏米を中心とし一部アラブ諸国も参加した連合軍によるカダフィ政権軍への空爆が早いか・・・一刻を争う情勢となっています。

日本的意思決定との差
話は日本の原発事故対応に変わりますが、日本政府の対応にアメリカが苛立ちを募らせているとか。
****日本政府は危機感欠如、不信といら立ち募らす米****
放射能漏れを起こした福島第一原発で事態の悪化に歯止めがかからないことに対し、米国では日本政府の危機感が欠如しているとの焦りが募っている。(中略)

米国社会は常にイラクやアフガニスタンの戦死者など冷徹な現実と向き合ってきただけに、日本政府の対応は手ぬるく映る。ニューヨーク・タイムズは、「日本の政治、官僚機構は、問題の広がりを明確に伝えず、外部からの助けを受け入れようとせず、動けなくなっている」「日本のシステムはすべてゆっくりと合意に達するようにできている」とする匿名の米政府関係者の分析を紹介し、国家的な危機に及んでも大胆な決断ができない日本政府へのいら立ちをあからさまにした。【3月18日 読売】
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今回のリビア情勢への対応も“時間を争う”ものとなっていますが、そうした“決断”を求められる国際情勢をリードするアメリカなどから見ると、日本の意思決定はいかにも悠長に思えるのでしょう。

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福島第一原発事故 世界の原子力政策に衝撃 “原子力時代終焉”の報道も

2011-03-17 21:31:22 | 災害

(3月13日 核廃棄物貯蔵施設があるドイツ北部ゴアレーベン(Gorleben)での原発反対の抗議デモ “Fukushima ist überall”(“Fukushima is everywhere”)のプラカード “flickr”より By cephir
http://www.flickr.com/photos/cephir/5531943110/ )

消えないチェルノブイリの悪夢
東電福島第一原発の事故については、今日も最悪シナリオを回避すべく、ヘリからの放水、地上からの放水、送電ラインの確保など、必死の対策が取られていますが、予断を許さない危機的状況が続いています。

“想定外”の事故、“日本ではありえない”とされていた事故、その後の制御不能の状態の衝撃は、温暖化対策や原油価格高騰のなかで“原子力ルネサンス”とも呼ばれる原発重視の姿勢を強めていた世界各国の原子力対応へ深刻な再考を求めています。

****原子力時代終焉・統制不能…各国報道も原発集中****
東京電力福島第一原子力発電所の事故が連日、深刻化するにつれて、各国メディアの報道も、原発の危険性に集中し始めている。

米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は14日、「電力会社幹部はどうすればいいか分からず、完全にパニックだ」とする業界関係者の見方を紹介、最悪の場合は燃料が格納容器の底を突き抜ける「メルトダウン」が起きる恐れを指摘した。
米メディアの関心は、放射性物質の拡散や米国内の原発の耐震性などにも移っている。14日のホワイトハウスでの記者会見では、「同規模の地震に米国の原発は耐えられるのか」「最悪のシナリオでも、アラスカや西海岸に(日本からの)放射性物質は届かないか」といった質問が相次ぎ、米原子力規制委員会(NRC)のグレゴリー・ヤツコ委員長が「距離から見て米国に害が及ぶことは、まずない」などと否定に追われた。
米国内には104の原発があり、電力の2割をまかなっている。カリフォルニア州では地震、中西部では竜巻の脅威があるため、米専門家の間では「日本の事故が、米国内の原発の建築、運用の規制強化につながる可能性がある」との見方が広まっている。
(中略)
ドイツの高級誌シュピーゲル(14日付英語電子版)は、「原子力時代の終焉」という見出しで詳報しながら、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故と比較し、「日本政府が安全を確約しているにもかかわらず、再びチェルノブイリが起きる不安が広がっている」と伝えた。【3月15日 読売】
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アメリカ:引き続き原発推進
アメリカでは1979年のスリーマイル島原発事故以来、原発の安全性に対する懸念が強く存在していますが、オバマ大統領は、国内のエネルギー需要に対応する狙いで、化石燃料への依存を減らし、原子力発電を推進する方針を打ち出し、昨年には、約30年ぶりに建設する新たな原発に83億ドル(約6800億円)の融資保証を発表しています
原子力関連産業の団体、米国原子力エネルギー協会(NEI)によると、現在、向こう15─20年間に建設予定の原子炉20基の営業免許申請を当局が審査中です。

今回の事態を受け、「日本の地震・津波被害の状況を把握するまで、静かに素早くブレーキをかける必要があると思う」(上院国土安全保障・政府活動委員会のリーバーマン委員長)など、米政府内ではこうしたエネルギー政策を見直す動きも出ているとも伝えられています。
しかし、当面は国内の原子力発電を引き続き推進していく意向があらためて示しされています。
今後、オバマ大統領が提案している360億ドル(2兆9520億円)の原発建設融資策を巡り、議会で議論を呼ぶことが予想されます。

****米国が原発推進をあらためて強調、福島原発事故は「教訓に****
日本の福島第1原子力発電所で相次いで事故が発生するなか、米政府は14日、国内の原子力発電を引き続き推進していく意向をあらためて示した。
米エネルギー省のポネマン副長官はホワイトハウスで記者団に対し、政府が目指すクリーンエネルギーの発展に向け、原子力発電は非常に重要な位置を占めていると指摘。米国内の原発の安全性を確信していると強調した。
日本での原発事故については、今後の技術改善に教訓として生かすと述べた。
米国では現在、104基の原発が稼動しており、国内電力需要の20%をまかなっている。(後略)【3月15日 ロイター】
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ドイツ:稼働期間延長方針を棚上げ
今回事故にもっとも敏感に反応したのがドイツです。メルケル首相は原発稼働期間を延長する決定を棚上げすることを発表しています。
****ドイツが原発稼働延長を棚上げ、福島第1原発の問題受け****
ドイツ政府は、東日本大震災で被災した東京電力福島第1原子力発電所が危険な状況に陥っていることを受け、原子力発電所の稼働期間を延長する方針を棚上げした。
独連立政権は昨年、シュレーダー前政権が掲げた脱原発政策を修正し、原発の稼働停止期限を延長することで合意した。
ところが、地震で被災した福島第1原発の深刻な事態を受け、急きょその方針の見直しを迫られた。
メルケル首相は記者会見で「わが国の原発の稼働期間を延長する決定を棚上げにする。期間は3カ月を予定している」と述べたうえで、原発の安全性検査について、「一切聖域を設けず」行う方針を示した。【3月15日 ロイター】
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これまでは「ドイツの原発は安全だ」と強調していたメルケル首相ですが、15日には、1980年以前に稼働した7基すべての稼働を少なくとも6月まで一時停止する方針も表明しています。「世論調査では最大70%ものドイツ人が原発に反対している」(ニューヨークタイムズ)と言われるように原発への批判が強い世論を考慮して、“今月実施される地方選挙で大敗を避けようとする思惑があるとみている”【3月16日 ロイター】とも。
また、政策変更を迫られたメルケル首相は、日本政府の情報提供のありように苛立ちを募らせているようです。

イギリスでは、ヒューン・エネルギー相が日本の原発事故を受け、イギリスの原発に関する安全点検の報告書をまとめるよう関係者に指示しています。
“英下院にも、ドイツのような全面的政策見直しを視野に入れた対応を求める声があるが、エネルギー相は「(欧州)大陸側の一部の政治家は原発問題についての判断を急いでいるようにみえ、残念だ」と述べた。”【3月16日 時事】とも。

なお、EU全体としての対応としては、EU域内14か国で稼働している原子炉143基の安全性の総点検を実施することで原則合意しています。

ロシア:原発輸出策を続ける方針
チェルノブイリ原発事故を経験したロシアは、原発輸出策を続ける方針を鮮明にしています。
****原発建設にロシアとベラルーシ合意 「計画とめない****
ロシアは15日、ベラルーシと共同で同国に原発を建設することで合意した。ロシアは原子力を成長産業と位置づけ、外交ツールとしても重視しており、福島第一原発の事故で広がる「原発敬遠」の動きを牽制(けんせい)する狙いがあると見られている。

ロシアのプーチン首相が同日、ベラルーシのルカシェンコ大統領らと会談して合意にこぎ着けた。インタファクス通信によると、プーチン首相は「ベラルーシは日本のような地震ゾーンにはないが、我々の原発は最新世代で安全性がより高い」と主張。14日には「日本の出来事の教訓は学ぶが、自らの計画を止める予定はない」と述べていた。
ロシア国営原子力企業「ロスアトム」の専門家も、福島のケースはチェルノブイリ原発事故とは根本的に違い、福島タイプの炉はロシアにはないと強調。こうした発言には「原発批判の高まりやパニックを払拭(ふっしょく)する試みだ」(独立新聞)との指摘が出ている。

チェルノブイリ事故で放射能被害を受けたベラルーシでの原発建設には、欧州連合(EU)加盟国の隣国リトアニアが反対している。
ロシアは中国やベトナムで原発を建設中で、計30基の原発輸出計画があるという。国内でも現在16%の原発電力シェアを2030年までに25%へ拡大する予定で、今後28基をつくる計画とされる。【3月16日 朝日】
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中国:安全確保を最優先し見直し
中国は安全確保を最優先し、中長期計画を見直す方針を決めています。
****中国:新規の原発建設計画の審査・承認を暫定的に凍結****
中国政府は16日、温家宝首相が主宰する国務院(政府)常務会議を開き、福島第1原発の事故を受けて、新規の原発建設計画の審査・承認を暫定的に凍結することを決めた。
常務会議は、稼働中の原発の全面的な安全検査を行うほか、原子力安全計画の策定を急ぐとしており、凍結は計画が確定するまでの措置。

原発増設などに関する中長期計画も見直される。中国政府はこれまで電力需要の急拡大に合わせて原発の増設を急速に進めてきたが、今回の事故で再検討を迫られた格好だ。
常務会議は、建設中の原発も再度チェックし、安全基準に合わなければ建設を停止することを決めた。【3月16日 毎日】
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台湾・韓国、東南アジア各国でも高まる議論
台湾・韓国でも安全性に関する議論が高まっています。
****台湾が原発公開、安全性を強調 韓国も原発の安全報告****
すでに原発のある台湾や韓国でも安全性への疑問の声が高まっている。
3カ所の原発を運営する台湾電力は15日、北部の海沿いにある第一原発をメディアに公開した。運転開始が1970年代末でやや古く、半径20キロ圏に台北市北部が入る。
陳台裕所長らは「福島にはないものが我々にはある」と安全性を強調した。敷地は海面から12メートルで、津波に耐えられる。予備電源にはガスタービン発電機2基とディーゼル発電機があるという。だが地元記者の一人は「いくら備えてもそれを上回る災害がありうることを考えないのか」と疑問を呈した。
台湾の電力供給のうち原子力は現在2割ほど。原発反対の機運が高まり、現在建設している第四原発の扱いが焦点となっている。馬英九(マー・インチウ)政権は、原発推進の政策は変更しない考えだ。しかし馬総統自身、「第四原発の防災対策を強化したい」と表明した。

韓国大統領府は16日、幹部会議を開いた。出席者によると、韓国国内で稼働中の21基の原発について設計段階から安全に配慮して建設されたことなどが報告された。
ただ、野党の孫鶴圭・民主党代表は16日、「原発を基本とするエネルギー政策を根本的に検討すべきだ」と発言。与党からも原発の徹底した再点検を求める声が出始めている。(村上太輝夫、箱田哲也) 【3月17日 朝日】
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原発導入を予定している東南アジア各国にも強い衝撃を与えています。
****原発導入予定の東南アジア各国に不安 見直し促す声も*****
福島原発で相次ぐ事故のニュースは、経済成長に伴う電力需要の急増などから原発導入を予定する東南アジア各国に驚きと不安を持って受け止められている。

「建設予定地で地震発生は予想されていない」「地震対策は万全だ」。昨年10月、国内で初めて建設する4基の原発のうち、2基を日本企業に発注することを決めたベトナム。メディアが連日事故を詳しく報じるなか、14日付の政府系ラオドン(労働)紙は、科学者の言葉を引用して、原発の安全性を強調した。
政府が世論の動きに敏感になっている表れだ。設置場所や災害時の冷却方法などでより慎重な計画を求める論評も出てきている。グエン・フォン・ガー外務省報道官は14日、朝日新聞の取材に「日本と協力し、最高の計画を作る」と語り、予定に変更のないことを確認した。

地震大国インドネシアでも、国内初の原発建設に向けた計画が進行中だ。有力紙コンパスは、16日付で複数の原発関係者らのコメントを掲載。原子力専門家のイワン・クルニアワン氏は「日本は原発施設で長年の歴史がある。日本人は勤勉で規律を守る国民にもかかわらず、事故が起きた」と、見直しを促した。
同国原子力庁の職員も16日、朝日新聞の電話取材に対し、匿名を条件に「日本の経験は多くの教訓を与えた。再考すべきだ、急ぐ必要はないではないか、という雰囲気になっている」と話した。(中略)

2021年をめどに初めて原発を導入する方針を打ち出しているマレーシア。野党が政権を握るペナン州のトップ、リム・グアンエン首席大臣が福島原発の事故直後から、同州内での原発建設に反対する考えを訴えるなど、複数の政治家や専門家から、政府に見直しを迫る声が上がっている。
リム氏は「先進国の日本ですら、原発をうまく制御できないでいるのに、マレーシアの与党政権が(原発事故に対し)どのような対応をするのか想像もできない」と述べた。

28年までに原発5基の建設計画があるタイ。アピシット首相は13日、「日本の原発での爆発はタイの計画に影響を与える」と発言。15日には建設候補地の東北部カラシン県で建設反対の住民約1千人が集会を開くなど、建設に否定的な発言や動きが相次ぐ。

また、温室効果ガス削減を理由に、一部で原発建設論議も出ているオーストラリアでは、与党労働党のギラード首相が14日、「豪州には太陽光や風力など代替エネルギーがほかにもあり、原発は必要ない」と語り、原発を推進しない姿勢を示した。【3月17日 朝日】
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このほか、メキシコ政府が14日、6月末までに決定するはずだった原子力発電所の建設計画について福島第1原発の事故状況が判明するまで保留する方針を明らかにしたこと、トルコのユルドゥズ・エネルギー相が、2カ所の原子力発電所の建設計画について予定通り進める方針を示したことなどが報じられています。

イラン・ブシェール原発 「我々のは現在の高い基準で造られた」】
最後にイランのブシェール原発に関する話題。
****イラン原発、トラブル続発****
稼働を控えたイラン南部のブシェール原発(出力100万キロワット)が、相次いでトラブルに見舞われている。政府は4月の発電開始を目指すが、遅れは必至。ペルシャ湾を挟んで向き合う湾岸諸国からは、安全性を疑問視する声が上がっている。

「日本のもの(福島第一原発)は40年前の古い安全基準で造られ、我々のは現在の高い基準で造られた。問題が起きるとは思わない」。アフマディネジャド大統領は15日、スペインのテレビ局との会見でブシェール原発の安全性を強調した。
しかし、大統領の言葉とは裏腹に問題が立て続けに発覚している。建設を担ったロシアは2月末、炉心に装填した163本の燃料棒を取り外して点検すると発表した。冷却ポンプが破損し、炉心などに微細な金属片が散らばったためとしている。
昨年秋に発覚したコンピューターウイルス「スタクスネット」も影響した。詳細は不明だが、ロシアのロゴジン駐北大西洋条約機構(NATO)大使は1月、「チェルノブイリ原発事故に匹敵する惨事が起きるところだった」と述べた。

イランは地震大国だ。仮に放射能漏れが起きれば、風向きの関係で湾岸諸国に真っ先に被害が及ぶとされる。クウェートの専門家は米ブルームバーグ通信に「イランは『信用してほしい』というが、信じる方が難しい」と警戒感をあらわにする。
ブシェール原発は1974年、ドイツ企業により建股が始まった。79年のイスラム革命で中断した後、ロシアの協力で95年に再開され、昨年夏に完成。燃料棒もロシアが管理するため、米国も稼働を容認した経緯がある。【3月17日 朝日】
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原発建設をこれまでどおり推進する立場の政府の説明は「我々のものは日本のものとは違い安全だ」というものですが、どうでしょうか・・・・。日本でも“安全だ”と言われていました。

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東日本大震災  海外で広がる日本支援と冷静な日本人への称賛 原発事故対応のまずさの指摘も

2011-03-16 20:52:24 | 災害

(“flickr”より By euronews http://www.flickr.com/photos/euronews/5525925277/ )

続く最悪シナリオの可能性
東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発の事故は、関係者の懸命の努力にもかかわらず終息には至っておらず、メルトダウンによる大量の放射性物資の放出という最悪のシナリオの可能性もなお捨てきれない危機的状況が続いています。

****原子炉冷却に全力=白煙、火災相次ぐ―周辺は高い放射線量・福島第1*****
東日本大震災で被災した東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)では16日、3号機付近で水蒸気とみられる白煙が大量に立ち上り、4号機では原子炉建屋4階で再び火災が発生した。周辺では高い放射線量を観測。東電は冷却のため同日午後も原子炉への海水注入を続けるとともに、使用済み燃料プールにも海水を入れる準備を進めた。

地震発生時に運転中だった1~3号機では原子炉の冷却機能が失われ、一部炉心溶融が起きた可能性が高く、1、3号機は水素爆発で原子炉建屋上部が崩壊。2号機も建屋内の原子炉格納容器の一部が壊れた可能性が高く、高レベルの放射性物質が外部に放出された。

定期点検中だった4~6号機も含め、原子炉の近くにある使用済み燃料プールも冷却できず、水温が上昇。蒸発して水位が下がり、燃料棒の被覆管が損傷して、同様に高レベルの放射性物質が放出される事態が懸念されている。【3月16日 時事】
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福島第一原発の正門付近では14日に続き、15日にも核分裂が起きた時に出てくる中性子線が検出されたことも発表されていますが、検出の原因は不明とされています。

立場を越えて広がる支援
被災地での救助活動には世界各国から救助隊派遣などの支援が行われていますが、救助支援活動にあたる人々も被ばくを受けています。
****求められる限り日本支援=米兵被ばく続く―海軍****
東日本大震災で救援支援活動に当たっている米兵が新たに数人、低レベルだが被ばくしたことが15日、分かった。米軍が明らかにした。福島県の原発事故による放射線の脅威が増しているが、米海軍第7艦隊のファルボ広報官は「米国と同盟国日本との間には揺るぎない絆がある。日本政府から求められる限り、支援活動をやり通す」と述べた。(後略)【3月16日 時事】
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また、原発事故対策についても、アメリカやロシアから専門家が派遣されています。
****米国から原子力専門家7人、新たに到着****
米国のルース駐日大使は16日、都内の米大使館で記者会見し、米原子力規制委員会の専門家7人が同日、新たに日本入りしたことを明らかにした。
7人は、すでに12日から日本入りしている同委員会の専門家2人に合流し、福島第一原発の危機収拾に向け、日本政府や東京電力と連携して技術的支援にあたる。
米国からは15日に、高空と陸上の放射性物質測定機器が届いているほか、被曝による健康被害の専門家も日本国内で情勢分析にあたっているという。(後略)【3月16日 読売】
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海外では被害を受けた日本支援の声が、日頃の立場・意見の相違を越えて広がっています。
****日本助けよう」、韓国で募金の輪 2日間で4万人*****
東日本大震災で甚大な被害を受けた日本の災害復旧と被災者の救護活動に向けた個人の募金寄付が相次いでいる。
韓国社会福祉法人の社会福祉共同募金会が16日に明らかにしたところによると、日本に向けた募金活動は14日から本格的に始まり、2日間で4万8761件の計2億3977万ウォン(約1700万円)が集まった。(中略)
韓国共同募金会関係者は、「昨年1月に起きたハイチ大地震の時より寄付額が多く、関心が非常に高い。隣国であることが影響したようだ」と話した。
これに先だち、韓国共同募金は13日に第1次緊急救護支援金として50万ドル(約4000万円)を日本に支援している。【3月16日 聯合ニュース】
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韓国ではいわゆる反日団体も支援を表明しています。
****韓流スター、次々哀悼=反日団体も「痛み」―東日本大震災****
被害が広がる東日本大震災を受け、日本となじみ深い韓流スターからも次々と哀悼と支援の声が上がっている。「ヨン様」ことペ・ヨンジュンさんは14日、ホームページ(HP)で「被災された方々の安否が心配でテレビの前を離れられません。心を痛めています」とのコメントを発表した。(中略)
一方、支援の輪は「独島(日本名・竹島)守護」を掲げる反日的な市民団体にも。「ファルビン団」の洪貞植団長は「反日運動を一生懸命やってきたが、それはそれだ。今回の地震は、世界全体で痛みを分かち合わなければいけない。その意味で『市民連帯の集い』を結成し、日本の手助けをしようと考えている」と語った。【3月14日 時事】 
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****前を向いて歩こう」=タイ英字紙が激励広告―東日本大震災*****
タイの英字紙「ネーション」は16日付朝刊で、東日本大震災の被災者を激励する全面広告を掲載した。紙面の中心に大きな日の丸を描き、両脇には「前を向いて歩こう日本」と日本語で掲げた。
紙面上部には日本国民へのお悔やみの言葉を英語で記した。下段には、被災者への義援金を受け付けている銀行や企業の連絡先、毛布の持ち込み先を載せた。さらに、携帯電話からメッセージを送信すると1回10バーツ(約27円)が寄付される携帯各社のサービスについても紹介した。【3月16日 時事】
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14日付の韓国紙・ソウル新聞も1面に、韓国語と共に日本語で「震災に対し、深い哀悼の意を表します」との支援メッセージを掲載しています。

中国でも援助の声が広がっています。
*****対日援助、8割超が賛成=大震災で中国世論調査*****
香港のニュースサイト・鳳凰網がこのほど、インターネット上で実施した世論調査結果によると、大震災が発生した日本に対して人道援助をすることに賛成するとの意見が8割以上に達した。同サイトは中国当局系で、本土の利用者が多く、調査回答者の大半は本土のネットユーザーとみられる。
調査は東日本で大震災が起きた11日午後から12日夜にかけて実施し、約100万人が回答。「日本に人道援助を実施すべきだ」とする意見が86.7%を占めた。日本とは対立関係にあるとして援助に反対した人は10.6%にとどまった。

一方、台湾では与党・国民党の黄昭順立法委員(国会議員に相当)の事務所責任者が交流サイト「フェイスブック」で、尖閣諸島の領有権をめぐる対立を理由に対日援助はすべきではないと主張し、ネット上で非難を浴びた。黄氏は謝罪した上で、この責任者を解任した。【3月14日 時事】
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****日本に手を差し伸べよう」=中国紙に学者100人意見広告****
「日本に温かい手を差し伸べよう」。中国共産党機関紙・人民日報系の国際問題紙・環球時報は16日、北京大学国際関係学院の王緝思院長ら中国人学者100人が東日本大震災で日本への支援を呼び掛ける意見広告を出した。
尖閣諸島沖での漁船衝突事件や歴史認識問題で日本に対する厳しい論調が目立つ同紙に、こうした意見広告が出るのは珍しい。

学者たちは「中日両民族には2000年余の交流があり、植民地主義戦争の傷は深く、今もなお残された歴史問題が時に国家間の政治摩擦をもたらしているが、宿命や困難を克服し、互いに励まし合うことが必要だ」と指摘。「日本人は粘り強い。中国人の愛の心と援助の手は、日本人が災難に立ち向かう自信と力になるだろう」と訴え、募金やボランティアによる支援活動への参加を呼び掛けた。【3月16日 時事】 
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なお、アメリカではハイチ大地震のときと比べると募金は低調だそうで、「日本はハイチやインドネシアと異なり先進国だ。米国民が広範な国際支援が必要と一般的に考える国ではない」との声もあるようです。

香港の富豪からの8100万円の義援金も報じられていますが、戦乱が続くアフガニスタンからも400万円の支援表明がなされています。現地の事情を考えると大きな金額です。

****アフガニスタンが「400万円」支援表明***
アフガニスタンのカンダハル州のグラム・ハイダル・ハミディ市長は12日、東日本大震災の被災者に義援金5万ドル(約400万円)を送ることを表明した。
AFP通信によると、カンダハル州は反政府勢力タリバンとの内戦が最も激しい地域の一つ。それにも関わらず、これまでに日本がアフガン復興を熱心に支援してきたことへの恩返しとして、「市民を代表して地震と津波の被災者を支援したい」と述べているという。
アフガニスタンの生活水準では、国民の3分の2が、1日あたり2ドルという生活水準だとも言われており、いかに大きな金額かが理解できる。【3月13日 ゆかしメディア】
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【「なぜ日本では略奪が起きないのか」】
3月13日ブログ「東日本大震災 日本人の冷静さに対する海外からの称賛」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110313)でも取り上げたように、危機に際しての日本人の冷静さに対する称賛も海外で話題になっています。 

****大災害より強い日本人」=「危機でも協力」と称賛―韓国紙****
14日付の韓国紙・中央日報は「大災害より強い日本人」との見出しの社説で、「凍り付くような恐怖の前で日本人は冷静な国民性を遺憾なく発揮している。われわれは日本から学ぶことが多い」と論じた。韓国各紙は14日付朝刊でも東日本大震災を大々的に伝えたが、日本人の冷静ぶりを称賛する記事や、日本への協力を呼び掛ける記事が目立った。

中央日報は東京特派員の記事で、「南三陸地方では街が壊滅的な被害を受けているのに、叫び声や不満の声は聞こえない」「人々は『復旧を願うだけ』とあすを語り、誰のせいにもしない」と指摘。「危機でも協力する共同体意識は日本社会の底力だ」と書いた。
同特派員は、こうした背景に「他人に迷惑を掛けてはいけない」という日本人の考えと、降りかかってきたことを宿命と受け入れる国民性があると分析した。

一方、毎日経済新聞は「韓日関係、転換点へ」との見出しで、「今回の地震を契機に、韓日関係を協力と和解に発展させなければならないとの声が高まっている」と伝えた。また、ソウル新聞は1面に、韓国語と共に日本語で「震災に対し、深い哀悼の意を表します」とのメッセージを載せた。【3月14日 時事】
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****被災日本人のマナー、米紙が称賛****
米ロサンゼルス・タイムズ紙は13日、東日本巨大地震を取材中の特派員電を掲載、「非の打ち所のないマナーは、まったく損なわれていない」という見出しで、巨大な災害に見舞われたにもかかわらず、思いやりを忘れない日本人たちを称賛した。
記事は、足をけがして救急搬送をされた年配の女性が、痛みがあるにもかかわらず、迷惑をわびた上で、ほかの被災者を案じる様子などを紹介した。【3月15日 読売】
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****なぜ略奪ないの?」=被災地の秩序、驚きと称賛―米*****
東日本大震災の被害や福島第1原発事故が連日、トップニュースで伝えられている米国で、被災者の忍耐強さと秩序立った様子に驚きと称賛の声が上がっている。「なぜ日本では略奪が起きないのか」―。米メディアは相次いで、議論のテーマに取り上げている。

CNNテレビは、2005年に米国で起きたハリケーン・カトリーナ災害や10年のハイチ大地震を例に「災害に付き物の略奪と無法状態が日本で見られないのはなぜか」として意見を募集。視聴者からは「敬意と品格に基づく文化だから」「愛国的な誇り」との分析や、「自立のチャンスを最大限に活用する人々で、進んで助けたくなる」とのエールも寄せられた。【3月16日 時事】
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****東日本大震災 台湾、対日強硬派も応援 「略奪なく、すべてに秩序****
台湾の著名評論家、南方朔(本名・王杏慶)氏は15日付の台湾紙「中国時報」のコラムで、未曽有の大震災に見舞われた日本の国民や各界の対応を絶賛、「武士道精神の日本が災難に打ち負かされることはない」と最大限のエールを送った。
中国時報は親中派紙で、南方朔氏も「保釣(尖閣諸島防衛)」の強固な主張者だが、こうしたメディア、評論家も今回はおしなべて日本を応援している。
台湾では一般的に戦前から台湾に居住する台湾人が親日的な一方、戦後中国大陸から渡来した外省人が日本に厳しい傾向がある。
南方朔氏は後者の代表的評論家だが、「超大地震と津波に見舞われた日本で(米ニューヨーク大停電やカトリーナ災害時のような)商店略奪も起きず、すべてに秩序が保たれている」ことを称賛。
「日本独特の栄誉を重んじ、恥を知り、礼を重んずる特性」の原点を新渡戸稲造が指摘した武士道精神に求めている。
「ぐらつく菅直人政権も責任逃れせず」、官僚体制も的確に機能し、メディアも、冷静客観的に報道責任を果たしていると評価。「日本はいま、全世界のかわりに最も尊い試練に立ち向かっている」と述べている。【3月16日 産経】
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対応の遅れ、情報開示の不徹底への批判も
一方、日本政府の危機対応についてはWTOは評価していますが、それとは異なる批判もあります。
****東日本大震災 原発事故 WHOが日本の対応を評価*****
世界保健機関(WHO、本部ジュネーブ)は15日、東日本大震災による福島第1原発事故での日本政府の措置は適切だと評価した。WHOの報道官はロイター通信に、「原発から30キロ以上離れると被曝(ひばく)の危険性は格段に下がる。危険はかなり早く小さくなる」と語った。ヨウ化カリウムを準備したり、屋内にとどまるよう指示したりしているのも適切だと述べた。【3月16日 産経】
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****チェルノブイリ経験露専門家、日本入国足止め*****
福島第一原子力発電所の事故後の経過を注視するロシアで、東京電力と日本政府の対応のまずさを指摘する「人災説」が強まっている。
16日付の有力紙「イズベスチヤ」は、国営原子力企業「ロスアトム」専門家の見方として、「事故直後、(東京電力は)放射性ガスを大気中に放出してでも、即座に原子炉を水で浸さねばならなかった。最悪の事態を避けられると期待し、対応が遅れた」と伝えた。
露独占事業研究所の研究員は、「2004年のスマトラ島沖地震など強大な地震が起きたのに、事業者は、原子炉だけでなく冷却装置など関連施設の強化を怠った」と地元紙に述べた。
露各紙は、チェルノブイリ事故の処理に当たったロシアの専門家が、入国許可が遅れたために15日にハバロフスクで足止めを食ったとして、日本政府の対応の遅れに疑問を呈した。【3月16日 読売】
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****独メディア「日本政府は事実を隠蔽、過小評価****
ドイツでは、福島第一原発の爆発や火災などに関する日本政府の対応について、不信感を強調する報道が目立っている。
被災地で救援活動を行っていた民間団体「フメディカ」の救援チーム5人は14日、急きょ帰国した。同機関の広報担当者シュテフェン・リヒター氏は地元メディアに対し、「日本政府は事実を隠蔽し、過小評価している。チェルノブイリ(原発事故)を思い出させる」と早期帰国の理由を語った。

メルケル首相も記者会見で「日本からの情報は矛盾している」と繰り返した。ザイベルト政府報道官は、「大変な事態に直面していることは理解している。日本政府を批判しているわけではない」と定例記者会見で釈明したが、ドイツ政府が日本政府の対応にいらだちを強めていることは間違いない。【3月16日 読売】
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なお、オーストリア外務省は15日、福島第1原発の事故の先行きが不透明なことから、大使館の業務を都内の大使館から大阪にある総領事館に移すと発表しています。





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危機的状況が続く福島第一原発  トラブル続発 制御できず

2011-03-15 22:33:28 | 災害

(原発事故とは関係ありませんが、泥道を避難する宮城県名取市の住民 “flickr”より By Beacon Radio
http://www.flickr.com/photos/beaconradio/5519144197/ )

依然制御できず
東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所における危機的状況については、1号機から4号機が次々に爆発・火災・放射線漏れなどを起こす状況が続いており、運休中の5号機・6号機も温度上昇が伝えられています。

基本的知識を欠いているうえに、詳細な情報が把握できない状態ですので、一体何が起きているのかわからない部分がありますが、今日現在の状態をまとめると以下の記事のようなところです。

****福島第一1~4号機、依然制御できず*****
東京電力福島第一原子力発電所は、計6基の原子炉のうち4基で、放射能漏れや原子炉格納容器の破損が疑われる爆発や建屋火災など、深刻な事故が相次いで発生し、1~3号機で原子炉が十分に制御できない状態に陥っている。

水素爆発により原子炉建屋が大破した1、3号機について、東京電力は、核燃料の「冷却が最優先」として、炉心への海水の注入を続行。だが、圧力容器内が高圧になっていることもあり、「水が入っているかどうかは確認できない」(東電)という。15日午後の段階では、1号機の水位は依然不足しており、燃料棒の約半分が水につからず露出した状態が続いている。
3号機は同日朝に、建屋上部から原因不明の蒸気の発生が確認され、東電が調査を急いでいる。

14日夕から深夜にかけて、炉内の水位が低下し、燃料棒が2度にわたりすべて露出した2号機は15日朝、原子炉格納容器の下部にある圧力抑制室付近で爆発が起きた。海水を注入しているが、水位は徐々に低下し、やはり燃料棒の一部が水につかっていない異常な状態になっている。

一方、東日本巨大地震の発生時には、定期検査中で運転を停止していた4号機も、15日朝になって建屋で火災が発生した。建屋内には使用済み核燃料の一時貯蔵プールがあり、火災事故に伴って、放射性物質の飛散が懸念されるが、現場に近づけないため、十分に状況を把握できていない。

福島第二原発で、4基の原子炉のうち4号機だけが、冷却水が100度を下回る状態で安全に停止できていなかったが、15日朝に安全停止が確認された。【3月15日 読売】
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4号機 建屋破損で高濃度放射性物質の大量放出の危険も
定期点検中で、使用済み核燃料がプールに保管されていた4号機は、午前6時14分に爆発音がした後、東京電力社員が北西側の壁に8メートル四方の穴があいているのを確認したと報じられています。

****4号機、放射性物質を隔てるのは建屋のみ****
福島第一原発4号機の使用済み燃料プールの火災はこれまでの爆発事故より深刻だ。プールは原子炉圧力容器や格納容器の外にあり、外部と隔てるのは鉄筋コンクリート製の建屋しかない。1、3号機と同様に水素爆発が起きて建屋が吹き飛び、高濃度の放射性物質が大気中に大量に放出される恐れがある。

使用済み燃料は原子炉で燃やした核燃料を貯蔵しておくプールで、原子炉の隣にある。しかし、使用済みでも燃料は熱を帯びており、1時間あたり数トンの水が蒸発している。このため、常に水を補充して冷まさなければならない。今回、電源切れで水の補充が止まり水が蒸発したとみられる。このため使用済み燃料がむき出しになり、燃料を覆う合金から水素が発生し、酸素と反応して爆発したとみられる。
対策は、速やかにプールに水を注入して使用済み燃料を十分に水で冷やすことだ。4号機は地震前から原子炉が停止中だったため水を入れるのは1、3号機より容易だ。
しかし、すでに建屋内で火災が起きて一部損壊。高濃度の放射性物質が外に出ているとみられている。作業員の被曝(ひばく)の問題から作業は難航するとみられるが、建屋が水素爆発で吹き飛ぶことは防がなければならない。
専門家は、建屋の大爆発で大気中に高濃度の放射性物質が大量に飛散するのを防ぐ対策が最も重要だという。 【3月15日 朝日】
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2号機 格納容器も一部破損か?】
放射性物質封じ込めの最後の砦でもある格納容器損傷の可能性も指摘されている2号機の問題については、専門家の間でもいろんな見方があるようです。

****爆発音の2号機、何が起きた?…専門家の見方*****
東京電力福島第一原子力発電所2号機で、15日朝に確認された大きな爆発音。
原子力の最後の安全を確保する仕組みに重大な損傷が起きたのか。放射性物質が外部に大量に漏れ出す可能性もある。専門家の様々な見方をまとめた。

原発で最も大事なのは、放射性物質の封じ込めだ。
今回の爆発では、原子炉の格納容器に何らかの損傷が起きたのでは、という指摘が専門家から出ている。
京都大原子炉実験所の今中哲二助教(原子力工学)は「圧力抑制室の圧力が大気圧と同じまで下がったというのは破損がそれだけ大きく、放射性物質が外部へかなり漏れ出たとみえる。格納容器とつながっているため、まさに『格納容器の部分破壊』とでも言える深刻な事態だ」と語る。
元原子力安全委員の住田健二・大阪大名誉教授も「格納容器が健全であることを前提にしてきたこれまでの考え方とは異なる状況になった」と話す。(中略)

渥美教授(近畿大原子力研究)によると、圧力抑制室は格納容器と配管でつながってはいるが、別の空間との見方もできる。そのため、今回は抑制室だけで水素爆発がとどまったと考えられるという。
一方で、藤家洋一・元原子力委員会委員長は「圧力抑制室の圧力が低下したことは、放射能を含んだ水が漏れだしていることを意味する。原子力の安全を確保する三本柱のうち最後の『閉じこめる』に問題が生じ、深刻だ。水素は空気よりも軽いため、格納容器の下部にある圧力抑制室にたまって爆発することは考えにくい」とみている。【3月15日 読売】
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枝野官房長官は、第3号機付近で最大400ミリシーベルトと一般人の年間被ばく量1000マイクロシーベルトの400倍と人体に影響ある放射性濃度を検出したことを明らかにしていますが、TV報道によると、第一原発の中央制御室の放射線レベルが高すぎて東電社員が常駐出来ず交替で作業にあたっているとのことで、そのことが現在の危機的状況を物語っています。
なお、東京都は15日、新宿区内で同日午前に実施した放射線量調査で、通常の最大21倍の放射線を検出し、最大値は0.809マイクロシーベルトだったと発表しています。これについて、都は「ごく微量で、人体に影響を及ぼすレベルではない」としています。

【「撤退などありえない」】
次から次に重大なトラブルが発生する状況に官邸も苛立ちを募らせているようです。
****覚悟決めてくれ」首相、東電に 危機管理、後手後手****
東京電力福島第一原子力発電所で相次ぐ事故を受け、菅内閣は15日早朝、政府と東電が一体で危機対応にあたる「福島原子力発電所事故対策統合本部」(本部長=菅直人首相)を設置した。二転三転する東電の対応に危機感を抱いたためだが、地震発生から5日目、高濃度放射性物質が放出される恐れがある事態になるまで対応は後手に回り、政権の危機管理能力の欠如が露呈した。
菅首相は15日午前5時40分、首相官邸から東京・内幸町の東電本店2階の統合本部を訪れ、「テレビで爆発が放映されているのに、官邸には1時間くらい連絡がなかった。一体どうなっているんだ」「あなたたちしかいないでしょう。撤退などありえない。覚悟を決めて下さい。撤退した時は、東電は100%つぶれます」と強調した。(中略)
依然として官邸の事態把握と情報提供は混乱が続いている。

そんな政府の対応に、与党・民主党内からも批判の声が強まっている。参院若手は「官邸は何か隠しているのではないか」。会見のたびに「安全だ」と繰り返す枝野氏らの発表を問題視する意見が党所属議員から党地震対策本部に相次いで寄せられているため、民主党は15日午前8時15分、官邸に文書でこう申し入れた。「最悪の事態を想定して、住民がどういう避難などをすべきか情報開示してほしい」【3月15日 朝日】
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「撤退などありえない。覚悟を決めて下さい」と言うのも、玉砕覚悟の死守を命じる旧日本軍の指示みたいで、東電社員には気の毒でもありますが、「あなたたちしかいないでしょう。」というのも事実です。
なお、多少言い過ぎたと思ったのか、菅首相は会見では東電社員の献身的努力を高く評価していました。

【「安全だと言われれば、危険だと思っていても信じてやるしかなかった」】
一方で、作業に協力している自衛隊からは不安・不満も出ています。
****安全のはずが命がけ…怒る自衛隊・防衛省****
放射能汚染の懸念が一層高まる事態に、自衛隊側からは怒りや懸念の声が噴出した。関係機関の連携不足もあらわになった。
3号機の爆発で自衛官4人の負傷者を出した防衛省。「安全だと言われ、それを信じて作業をしたら事故が起きた。これからどうするかは、もはや自衛隊と東電側だけで判断できるレベルを超えている」。同省幹部は重苦しい表情で話す。

自衛隊はこれまで、中央特殊武器防護隊など約200人が、原発周辺で炉の冷却や住民の除染などの活動を続けてきた。東電や保安院側が「安全だ」として作業を要請したためだ。
炉への給水活動は、これまで訓練もしたことがない。爆発の恐れがある中で、作業は「まさに命がけ」(同省幹部)。「我々は放射能の防護はできるが、原子炉の構造に特段の知識があるわけではない。安全だと言われれば、危険だと思っていても信じてやるしかなかった」。別の幹部は唇をかんだ。【3月15日 読売】
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危機的状況が連鎖・続発する事態に、海外からは「米国のスリーマイル島の事故(79年)より深刻だ」との見方も伝えられていいます。
****東日本大震災:スリーマイル以上と仏原子力機関 原発事故****
フランス原子力安全機関(ASN)のラコスト総裁は14日、日本の福島第1原発の事故について「米国のスリーマイル島の事故(79年)より深刻だ」との見方を示した。AFP通信が伝えた。
総裁は日本が事故の深刻度を、国際原子力機関(IAEA)が決めた8段階の尺度で「4」としていることについて、「(さらに深刻な)5以上で、6程度との感触がある」と指摘。この判断は「日本側からの情報に基づくものだ」とした。スリーマイル島事故はレベル「5」に指定されている。
一方、総裁は日本の事故について、旧ソ連のチェルノブイリ事故(86年)のレベル「7」よりは深刻でないとの見方をしている。【3月15日 毎日】
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望まれるタフなシステム
今は現在の危機的状況の沈静化に全力をあげるときですが、今後について考えると、想定外の巨大津波で冷却系がすべてストップしてしまった今回事態を反省して、災害時にも機能しうるシンプルでタフなシステムの構築が望まれます。
中国の新型原発は、原子炉の上部に数千トンの水をためるようになっており、非常時には動力を使わず、重力で水が落下して冷却する仕組みであるため、中国原発専門家は今回のような問題は起きないとしています。
そうしたシステムの安全性についてはまたいろいろ意見もあるところでしょうが、何か今までとは異なる発想の安全確保の仕組みを付加する必要がありそうです。

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東日本大震災  揺らぐ原発安全性神話 福島第一原発3号機も爆発 2号機も一時“空だき”

2011-03-14 22:07:50 | 災害

(12日の1号機爆発の状況 「格納容器の健全性は維持されている」とは言え、「大丈夫かよ・・・」と不安になる映像です。今日3号機の爆発はもっとヤバいものだったとか.。更に2号機の危険も・・・
“flickr”より By oracle_de_atlantis_4 http://www.flickr.com/photos/54275244@N06/5521688774/ )

3号機も水素爆発 「格納容器の健全性は維持されていると思われる」】
“想定外”の巨大地震とは言え、これまでの日本の原子力発電技術に関する安全性神話が大きく揺らいでいます。
福島第一原発では、12日の1号機に続いて3号機でも水素爆発が起き、原子炉建屋が吹き飛ばされ、11名の負傷者を出す事態となっています。

****福島第一原発3号機で水素爆発 屋内待避呼びかけ****
東日本大震災で被害を受けた東京電力の福島第一原子力発電所(福島県大熊町)の3号機で14日午前11時ごろ、大きな爆発が起きた。経済産業省原子力安全・保安院によると、水素爆発が起きたことを確認した。
保安院は、原子炉が入っている圧力容器、それを覆う鋼鉄製の格納容器のいずれも、損傷した可能性は低いとみている。保安院は、20キロ圏内にいる住民に建物内に避難するよう要請した。東電によると、少なくとも11人が負傷しているという。

今回の爆発は、12日に1号機で建屋が吹き飛んだ爆発と同種とみられる。枝野幸男官房長官は14日午後0時40分からの記者会見で「格納容器の健全性は維持されていると思われる」とした上で、周辺の放射線量のデータに大きな変化は確認されておらず、「放射性物質が大量に飛び散っている可能性は低い」と述べた。

同原発で運転中だった1~3号機は地震後、原子炉を冷やす緊急炉心冷却システムが停止。3号機では、炉内の圧力や水位が不安定な状態が続き、燃料棒が一時露出するなどして爆発をしやすい水素が発生していたとみられる。13日午後からは、炉内に海水を注入して冷却を試みていたが、その最中に爆発は起きた。
12日に1号機で起きた爆発では、損壊は原子炉建屋にとどまり、格納容器と圧力容器に異常は確認されていない。保安院は、今回の爆発も原子炉建屋にとどまっているとみている。
保安院によると、20キロ圏には、少なくとも約600人の住民がいるとみており、屋内への避難を要請した。
東電によると、圧力容器、格納容器とも壊れていないことを確認しているという。周辺で中性子線は確認されていないとしている。

原子炉は、内側から圧力容器、格納容器、原子炉建屋の「壁」で守られている。ただ、圧力容器や、格納容器が壊れると、チェルノブイリ事故に匹敵する重大事故となる。【3月14日 朝日】
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枝野官房長官は「格納容器の健全性は維持されていると思われる」としていますが、一方で、今回3号機の爆発は一昨日1号機の爆発とは異なる点もあるとの指摘もあります。
****3号機の爆発、専門家から影響懸念の声も****
福島第一原発3号機の爆発の様子を伝えるテレビ映像を見た専門家からは、事故の深刻さをめぐって厳しい見方が相次いでいる。
小林圭二・元京都大学原子炉実験所講師(原子核工学)は「1号機の爆発とは違うように見えた。赤い炎は建物の高めの所であがっており、格納容器そのものは破壊されなかったと思う」とした上で、「影響範囲がどうだったかが心配だ。配管が破損して冷却できなくなったり、格納容器に変形や亀裂が入っていたりしていないだろうか。亀裂や部分的な破損で、放射性物質が大量に漏れる可能性もある」と話す。

技術評論家の桜井淳さんは「状況は非常によくない。これ以上怖いのは、3号機に冷却水を注入できなくなり、被覆管がボロボロになって圧力容器の底に落ちると、圧力容器が割れるかもしれない。格納容器まで破裂するかもしれない。そうすると、大量の放射能が環境中に放出される。スリーマイルよりひどい事態になるのでは」と推測する。

一方、佐藤一男・元原子力安全委員長(原子炉安全工学)は「爆発に伴う熱が格納容器に影響を及ぼすのは表面くらいで、長く熱が伝わることもなく大きな影響はないと思う。格納容器の周りは1メートル以上の鉄筋コンクリートがある。程度にもよるが、外側の爆発なら格納容器内までは響かないだろう」とみている。【3月14日 朝日】
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****灰褐色の煙300メートル上昇…爆発の3号機*****
今回の福島第一原発3号機の爆発には、12日の1号機の爆発といくつかの違いがある。
まず、1号機の時には水素爆発で発生した水蒸気を示す白煙がたちこめたが、今回は、白煙以外に、赤い炎を伴う灰褐色の煙が上空高く上った。また、爆発をとらえたニュース画像では、煙の中に、厚みのある大きな塊がいくつも飛び散っていた。詳細は不明だが、この爆発の後にも、爆発があったという。
今のところ、炎や灰褐色の煙、塊が何であるかは不明。3号機にたまった水蒸気の量が1号機よりも多かったので爆発の規模が大きくなったとも考えられるが、かなりの高温で燃焼を伴う別の破壊的な異変が起きていた可能性もある。

また、建屋内の上部にたまった水素が爆発したなら、一度の爆発で済むはずだ。1回目の爆発の影響で、高圧状態の配管などが破損し、爆発音がしたか、建屋上部以外のどこかにたまっていた水素が爆発した可能性がある。最悪の事態を想定すると、1回目の爆発によって、高圧の格納容器が損傷し、新たな爆発を生じたということも考えられる。その場合、原子炉を覆う最後の壁が破れたことになり、放射能を帯びた水、水蒸気などが外部へ放出されることになる。【3月14日 読売】
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東電・保安院や官房長官の説明のように「原子炉格納容器の健全性は保たれている」「大量の放射線量を示すものはない」という状態であることを願うばかりです。

2号機 一時“空だき”状態 回復へ向かう
更に、2号機も本日午後には冷却機能が停止、海水注入による冷却を開始していますが、炉心溶融・水素爆発の危険が続いています。

午後8時過ぎには2号機について、「海水注入が確認できず。燃料棒すべて露出の可能性。炉心溶融の可能性否定できず。」との速報も報じられ、事態の推移が懸念されていました。
東電からは、海水注入は一時不具合があったもののその後再開し、今は“空だき”状態は避けられている旨が説明されています。ただ、6時から2時間程度は燃料棒が水からむき出しになった“空だき”状態にあったようです。(午後9時半時点で、燃料棒の下半分が水面下になるまで“回復”しているそうです)
いずれにしても、危険な状況が続いているのは間違いないようです。
なお、午後9時には「周辺の放射能数値が上昇しており、炉心溶融が起こっている可能性がある」との情報も報じられています。

日本の原子炉は格納容器によって守られており、水素爆発が起きても格納容器は守られているので、原子炉の格納容器がなかったチェルノブイリ原発のような致命的な大事故はあり得ないとされています。

****チェルノブイリ級は「あり得ず」=原子力安全委の見解示す―玄葉氏****
玄葉光一郎国家戦略担当相(民主党政調会長)は14日午後、国会内で開かれた同党「東北地方太平洋沖地震対策本部」総会で、東京電力福島第1原発の事故に関し、「絶対にチェルノブイリ(級の事故)はあり得ない」とする原子力安全委員会と原子力安全・保安院の見解を明らかにした。
玄葉氏によると、安全委などはその理由として、チェルノブイリ原発には原子炉の格納容器がなく、福島第1原発では「水素爆発が起きても格納容器は守られている」と指摘したという。
また、玄葉氏は、住民への避難指示に関し、安全委などは最悪の場合でも「半径10キロ圏内」で対応可能とみていたが、政府の判断で「20キロ」に拡大したことも明らかにした。【3月14日 時事】
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当初の想定では「日本では炉心溶融が起こらない」】
1号機、2号機、3号機すべてで冷却システムがダウンし、外部からの海水注入を行いつつ、格納容器の圧力を下げる「弁」の開放という最後の手段により格納容器破損という最悪シナリオを回避する努力が続けられていますが、このことは、もともと「弁」の必要性をも否定していた日本の原発に関する事故想定が甘かったことを実証するものでもあります。

****甘かった想定 頼った放出弁**** 
福島第一原発では、1号機に続いて炉心溶融の可能性がある3号機でも格納容器にある弁を開ける作業をとった。このガス放出弁は、実は、原発の建設時には日本では炉心溶融が起こらない」として装備されていなかった。海外の動きにおされて導入したこの弁が、今は最悪の事態を回避する命綱になっている。当初の事故想定がいかに甘かったかを示している。

弁は格納容器内のガスを放射能除去フィルターを通して外部に出すものだ。
1号機は12日に放出を行った。電源がないため、職員の手や小型のコンプレッサトで弁を開いた。圧力容器から出たガスで8気圧まで上昇していた格納容器内の圧力が大きく下がった。格納容器は4気圧まで耐えられる設計。8気圧は厳しい状況だった。
専門家は、もし弁がなければ、格納容器の爆発から大惨事にいたった可能性が高かったとみる。弁に助けられた。
3号機でも13日朝に弁を開けて放出を行った。

福島第一原発の6基の原発は1970年代に、福島第二原発の4幕の原発は80年代に運転を開始した。いずれも建設当時に弁はなかった。炉心溶融などの過酷事故(シビアアクシデント)は起こらないという考えからだった。
しかし、79年、米スリーマイル島(TMI)原発で炉心溶融が起き、爆発の一歩手前までいった。86年には違う炉型の旧ソ運チェルノブイリ原発で炉心爆発が起きた。
このため、フランスやスウェーデン、ドイツ、米国では炉心溶融に備え、格納容器に弁をつける変更を始めた。日本ではその後も「過酷事故は起こらない。対策は不要」とされてきた。しかし、92年に原学力安全委員が「検討が必要」との見解を出し、その後、電力業界も「確率は極めて低いが安全性を高める」として方針を変えた。

東京電力などがもつ沸騰水型炉(BWR)は90年代半ばから弁の設置を始めた。ガスは格納容器下部からフィルターを通って外部に出るようになっている。
一方、関西電力などの加圧水型炉(PWR)は沸騰水型より格納容器が大きく余裕があるとして弁はつくらず、格納容器内のガス冷却策の強化などで対応している。

ただ、弁の開放は、フィルターを通すとはいえ放射性ガスの放出という「やってはならないこと」の実施だ。格納容器の防護機能を自ら放棄して、圧力容器の安全という最後のとりでを守る「究極の選択」といえる。
リスクも大きい。1号機ではガス放出のあと、建屋内で水素爆発がおきた。建屋の壁が吹き飛び、負傷者4人を出した。水素の充満に放出が関係したことも考えられる。
もし大きな爆発が起きれば、大規模な放射能放出も考えられる。ぎりぎりの判断と覚悟が求められる作業だ。
東京電力に弁を開ける考えがどの程度あったのだろう。準備は十分だったのか。

炉心溶融を起こし、大量の避難民を生み、放射性物質を放出させた事実は、日本人の原子力への考えを決定的に変えるだろう。「想定外の……」の繰り返しでは片づけられない。そして、まだ原発の危機は去っていない。【3月14日 朝日 編集委員竹内敬二】
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どうせ格納容器に負担がかかる水素爆発の可能性が高いなら、事前に建屋を開放するなりして爆発を未然あるいは小規模に防ぐことも考えてもいいのでは・・・と素人考えで思ったのですが、実際そうした建屋に穴をあける作業も行われているとも報じられています。

とにもかくにも今は格納容器破損・大量の放射線放出といった最悪事態を何とか避けてもらいたいものです。
今後に向けての議論はそのあとで。


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東日本大震災  日本人の冷静さに対する海外からの称賛

2011-03-13 20:05:28 | 災害

(“flickr”より By Logan was his name-o http://www.flickr.com/photos/drlogan/5517901136/in/photostream/

マグニチュード(M)9.0と世界的規模に上方修正された東日本大震災による甚大な被害はいまだ膨らみ続けており、救助もままならない状況です。宮城県警察では県内だけで死者は万単位になるとの観測もされています。
あちこちの街全体が丸ごと津波に呑みこまれている状況からすると、そうした観測もやむを得ないところです。

中国ネット世論で日本称賛
言葉を失うような映像、被害にあわれた方々の悲痛な言葉、原発事故に関する政府の情報提供の遅れへの批判などがTV・新聞に溢れていますが、海外からは日本人の冷静な対応を称賛する声も届いています。
特に、日頃日本に対する厳しい声が多い中国ネット世論で、そうした評価が多いとか。

****東日本大震災:日本人のマナー世界一/とても感動的 中国国民、ネットで絶賛****
地震多発国で東日本大震災への関心が高い中国では12日、非常事態にもかかわらず日本人は「冷静で礼儀正しい」と絶賛する声がインターネットの書き込みなどに相次いでいる。

短文投稿サイト「ツイッター」の中国版「微博」では、ビルの中で足止めされた通勤客が階段で、通行の妨げにならないよう両脇に座り、中央に通路を確保している写真が11日夜、投稿された。「(こうしたマナーの良さは)教育の結果。(日中の順位が逆転した)国内総生産(GDP)の規模だけで得られるものではない」との説明が付いた。この「つぶやき」は7万回以上も転載。「中国は50年後でも実現できない」「とても感動的」「われわれも学ぶべきだ」との反響の声があふれた。

湖南省から東京に留学し、日本語学習中に地震に遭った瀟湘晨報の中国人記者は、日本語教師が学生を避難誘導、「教師は最後に電源を切って退避した」と落ち着いた対応を称賛。ネット上に掲載された記事には「日本人のマナーは世界一」などの書き込みが相次いだ。

「日本の学校は避難所だが、中国の学校は地獄だ」といった中国政府や中国人の対応を批判する書き込みも。2008年5月の四川大地震では、耐震性の低い校舎が多数倒壊、5000人を超える子どもが死亡。生徒を置き去りにし逃げた教師が批判された。【3月13日 毎日】
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****未曾有の大災害で見せた日本人の冷静な対応に驚きの声―中国*****
2011年3月11日、環球時報は記事「マグニチュードは日本観測史上最大=日本人の冷静な対応が世界に与えた印象」を掲載した。以下はその抄訳。

マグニチュード8.8と日本観測史上最大となった東北地方・太平洋沖地震。地震発生後、日本政府はただちに緊急災害対策本部を設置。速やかに自衛隊の出動を決めるなど迅速な対応を見せた。また一般の日本人も理性的な対応を見せている。
中国のマイクロブログで話題となったのは、日本滞在中のある中国人のつぶやき。「数百人が広場に避難していたが、その間、誰もタバコを吸うものはいなかった。毛布やお湯、ビスケットが与えられ、男性は女性を助けている。3時間後、人々は解散したが、地面にはゴミ一つ落ちていなかった。一つものだ」という内容。
パニックになりかねない大災害の中で、日本人が見せた冷静な対応は驚きをもたらした。【3月13日 Record China】
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****日本人には道徳の血」 中国紙、市民の冷静さを称賛****
東日本大震災について、中国メディアが「日本の民衆の『落ち着き』が強い印象を与えている」(第一財経日報)「日本人はなぜこんなに冷静なのか」(新京報)といった記事を相次いで報じている。2008年の四川大地震では一部で混乱も伝えられており、市民も驚きを持って報道に注目しているようだ。

国際情報紙の環球時報は12日、「日本人の冷静さが世界に感慨を与えている」。普段は日本に厳しい論調の多い同紙だが、「(東京では)数百人が広場に避難したが、男性は女性を助け、ゴミ一つ落ちていなかった」と紹介した。
中国中央テレビは被災地に中国語の案内があることを指摘。アナウンサーは「外国人にも配慮をする日本に、とても感動します」と語った。
報道を見た北京市の女性(57)は「すごい。日本人の中には『道徳』という血が流れているのだと思う」と朝日新聞に語った。【3月13日 朝日】
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アメリカでも
アメリカでも、日本人の対応や、震災への備えに注目する報道が多とか。
****米各紙、日本人の「がまん」「地震への備え」に注目****
東日本大震災をめぐり、米国でも日本人の対応や、震災への備えに注目する報道が米国で相次いでいる。米ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)のコラムニストは日本人の「ガマン」を称賛する一方、ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は日本の耐震対策をたたえた。

「日本語には英語にはないガマンという言葉がある」。そう指摘したのは阪神大震災を取材したことがあるNYTの元東京支局長のニコラス・クリストフ記者だ。「日本の立ち直る力と忍耐力は立派で勇気のあるもので、来る日でも見ることができるだろう」とブログで書いた。
またWSJの12日付の社説は、地震大国の日本が「どれだけ地震に備えてきたかを忘れてはならない」と主張。NYTの12日付の1面記事も、多くの人たちが高台に逃れた点など、津波に対する住民たちの警戒心が人命を救った可能性に言及した。【3月13日 朝日】
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国民性もあるのでしょうが、危機における冷静さは社会の成熟度のひとつの指標でもあるでしょう。
今回の大きな犠牲に対する慰めにはなりませんが、こうした社会の成熟度は今後の復興・立ち直りを支えるものであることを確信しています。

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「日本最悪の日」 膨らむ東日本大震災被害 初の炉心溶融に世界も衝撃

2011-03-12 21:55:56 | 災害

(震災後の福島第一原子力発電所 “flickr”より By DigitalGlobe-Imagery
http://www.flickr.com/photos/digitalglobe-imagery/5519452784/in/photostream/ )

東北地方太平洋沖を震源とする東日本大震災は、想像を絶する甚大な被害をもたらしています。
現時点では被害の実態すら十分には把握できていない状況です。
大津波による“壊滅”的被害を受けた都市・集落も多く、岩手県陸前高田市の街が丸ごと押し流される被害時の映像は9.11以来の衝撃的なものでした。当然押し流される建物・車の中には逃げ遅れた大勢の人がいたのでは・・・。

メルトダウン そして爆発
そうしたなか、東日本大震災で被害を受けた東京電力福島第一原子力発電所1号機で、原子炉内の燃料の溶融(メルトダウン)が起こり、更に午後3時30分ごろに爆発が起きたことが大きく報じられています。

****福島第一原発、退避範囲20キロ圏内に拡大*****
経済産業省の原子力安全・保安院は12日、東日本大震災で被害を受けた東京電力福島第一原子力発電所1号機(福島県大熊町)で、午後3時30分ごろに大きな爆発音を伴う爆発が起きたことを明らかにした。その直前には、原子炉内の燃料の溶融が進んでいる可能性が高いと発表しており、原子炉の状態と爆発との関係を含め、東電などが原因を調査中だ。

放射線医学総合研究所や東電が原発敷地内で、燃料中に含まれる核分裂生成物であるセシウムやヨウ素を確認した。いずれも、ウランが核分裂をした後にできる物質だ。
炉心溶融は、想定されている原発事故の中で最悪の事態だ。これが進むと、爆発的な反応を引き起こして広く外部に放射能をまき散らす恐れもある。

爆発音について、枝野官房長官は12日夕の会見で「原子炉そのものであるということは確認されていないが、なんらかの爆発的事象があったと報告された」と述べた。福島県によると、爆発で1号機の原子炉建屋の天井が崩落したことを確認したという。東電社員ら4人が負傷し、病院に搬送されたという。

東京電力は12日午後、同3時30分ごろ現場敷地境界で1時間あたり1015マイクロシーベルトの放射線を確認し、その2分後にはほぼ半減したと発表した。1015マイクロシーベルトは、一般人の年間被曝(ひばく)線量の限度(1ミリシーベルト=1000マイクロシーベルト)を、1時間で浴びる放射線量に該当する。
日常生活で自然から浴びている放射線は平均で1時間あたり0.05マイクロシーベルト。放射線業務従事者は年間50ミリシーベルトかつ5年間で100ミリシーベルトが被曝限度とされている。
政府から待避指示が出た原発から10キロ圏内には約800人の住民が残っていたが、午後6時現在も避難中という。

一方、保安院によると、爆発音のあった後に、1号機の原子炉格納容器の圧力が急激に下がってきたという。格納容器の破損を防ぐため、弁を開けて内部の空気を抜く作業が効果を上げたのか、他の要因かは不明だ。空気とともに容器内の放射性物質も外部に放出されたとみられ、放射線の観測値は上昇している。
原子炉圧力容器内の水位は下がり続けており、午後5時28分の段階で、燃料棒(長さ4メートル)の上端から1.7メートル低い位置にある。燃料棒の半分近くが露出した状態になっている。消防車などを使って冷却水を注入しているが追いついていない。このため、東電は海水も使うことを選択肢の一つとして検討していることを明らかにした。

政府は福島第二原発(同県楢葉町、富岡町)について、避難を指示する範囲を、半径3キロ圏から10キロ圏に拡大した。その後、官邸は第一原発から待避を指示する範囲を、半径10キロから20キロに拡大した。
    ◇
(炉心溶融〉原子炉内の水位が下がり、炉心が水中から露出すると、燃料の温度が上昇し、金属と水とが化学反応を起こして燃料を入れた金属製の器(被覆管)が溶ける。冷却が不十分だと燃料の溶融から、さらに炉心の構造物の破壊と落下が起こる。ここに水があると、水と溶融物が接触し急激な爆発が起こる恐れがある。爆発で格納容器が破壊されれば、大量の放射性物質が環境に放出されることになる。【3月12日 朝日】
*******************************

この原発事故に関し、テレビ各局は周辺住民に屋内にとどまってエアコンを切り、水道水を飲まないようにと警告、また外出する際には肌の露出を避け、顔をマスクや濡らしたタオルで覆うようにとも呼び掛けているそうです。

遅れる情報公開
日本初の炉心溶融ですが、その後の爆発がどこで、どういう性格の爆発が起きたのか、情報が明らかになっていません。
爆発したのは原子炉格納容器そのものなのか?原子炉建屋なのか?発電用タービン建屋なのか?
爆発は水素爆発なのか?水蒸気爆発なのか?

今(8時40分)丁度、総理・官房長官の会見が行われています。
・・・・・
どうやら原子炉建屋における水素爆発で、原子炉の格納容器自体には損傷はなく、爆発による放射能濃度も上昇は見られていないとのことです。
難航していた格納容器内の圧力を下げることも、何とかなったようです。

“燃料棒に使用するジルコニウムは1100度を超えると、水と反応しやすくなる。その反応の結果できた水素が、何らかの原因で格納容器の外部に漏れだし、空気中に含まれた酸素と反応して爆発した”【3月12日 毎日】という“水素爆発”との発表でした。

1986年4月26日のチェルノブイリ原発事故(旧ソ連)では、溶融した燃料が水と接触して水蒸気爆発を起こし、放射性物質が大量に放出されましたが、そうした水蒸気爆発による炉心自体の損傷という最悪の事態ではない・・・とのことのようです。

原発事故と言えば、79年のアメリカ映画“チャイナ・シンドローム”が思い起こされます。
この映画公開の12日後の1979年3月28日には、ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所で本当の原子力事故であるスリーマイル島原子力発電所事故が起きています。

“チャイナ・シンドローム”という言葉は、「もし、アメリカの原子力発電所がメルトダウンを起こしたとしたら、地球を突き抜けて中国まで熔けていってしまうのではないか」と言う映画の中のジョークからとったものですが、まだそうした最悪事態の危険が完全になくなった訳ではありません。
福島第一原発では、これから海水注入での炉心冷却を図るとのことのようです。
無事に作業が進展することを願っています。

実を言えば、私も九州電力の原子力発電所近くに住んでいます。直線距離で9~10kmぐらいでしょうか。
もし同様事故があれば、避難対象になります。
改めて原発の安全性について考えさせる事故です。

それにしても、情報の発表に時間がかかり過ぎたように思われます。
影響が大きい問題なので、正確さの確認に慎重を期したということでしょうが、格納容器が爆発したのかどうかすら何時間もわからないというのは、困ったものです。

【「今回の出来事は全世界の原子力発電所が学ぶべき教訓だ」】
今回事故は世界も大きな関心をもって注目しています。
****東日本大震災:「日本最悪の日」…国際社会に衝撃****
東日本大震災から一夜明けた12日、大津波による惨状が次第に明らかになり、さらに被災した福島では原発の放射能漏れを伴う事故が発生、各国メディアは「日本最悪の日」などと、驚きを持って大々的に報じた。各国政府は日本への震災支援に動く一方、旧ソ連の「チェルノブイリ原発」を想起させるような事故に、重大な関心を持って成り行きを注視している。

◇「世界が学ぶべき教訓」…ロシア
12日付のロシア大衆紙「コムソモリスカヤ・プラウダ」は、東日本大震災で福島第1原発が被災したことについて「日本のチェルノブイリはロシアを脅かすか」と1面トップで報じた。ロシアやウクライナなどでは25年前に起きたチェルノブイリ原発事故の記憶が鮮明に残っている。
ロシア当局は、日本に近い極東の沿海地方やサハリン州、ハバロフスク地方、カムチャツカ地方などで放射能の検知態勢を強化するなど、万一の事態に備えている。

チェルノブイリ原発の元技師で、現在は被災者の救援活動に携わっているウクライナ在住のニコライ・イサエフさんは毎日新聞の取材に、「もし原子炉から漏れた放射能が雲の高さに達し、風で急速に広がればチェルノブイリと類似した事態となる」と警告した。
ロシアの核関連企業「ロスエネルゴアトム」のアスモロフ第1副社長はタス通信に対し、「今回の出来事は全世界の原子力発電所が学ぶべき教訓だ」と指摘した。

ウクライナ北部にあるチェルノブイリ原発から半径約30キロ以内は、今も放射能汚染で立ち入りが制限されている。
爆発直後に4号炉を覆う形で造られたコンクリート製の「石棺」は老朽化が進み、新たな鋼鉄製のシェルターを建設する計画が進んでいるが、資金不足で目標とする15年までの完成は疑問視されている。
ウクライナは今年から原発周辺への観光客受け入れを始めたが、地元では「まだ危険は残っている」と観光地化に反対する声が根強い。

◇原発建設問題に冷や水…米国
米国は1979年、ペンシルベニア州で原発の燃料棒が溶けて放射能が漏れ出る「スリーマイル島原発事故」が発生したことを受け、国内での原発建設を全面的に停止。「クリーンエネルギー政策」を掲げるオバマ政権になり、原発建設を約30年ぶりに再開させたばかりだった。

今回の放射能漏れが米国の原発政策にも影響を及ぼすのは必至で、米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は福島第1原発の炉心の冷却システムが故障したことや、周辺住民に避難指示が出たことなどを早くから詳報した。
米ワシントン・ポスト紙(電子版)は「(今回の)地震が、放射性物質の放出に敏感だった日本の原子力発電に対する信頼性を揺るがせたのは間違いない」と報道。その上で「日本での危機を警告のサインだと、原発反対派が指摘している米国でも、その信頼性を揺るがせた」と指摘した。

◇「増設計画変更ない」…中国
中国環境保護省の張力軍次官は12日、北京で記者会見し、東日本大震災により福島原発で放射性物質が漏れたことについて「沿海都市の核安全観測装置を起動し、中国に影響を及ぼさないか監視している」と明らかにした。一方で、電力需要の急増に対応するために進めている原発増設計画に関しては変更がないことを強調した。(中略)

◇大気の監視強める…韓国
福島第1原発1号機で発生した爆発事故は、韓国でも速報された。国内で約20基の原発が稼働して震災対策に関心があることに加え、自国への放射能の拡散を懸念している。聯合ニュースによると、韓国教育科学技術省や原子力安全技術院などは、福島原発にトラブルが発生した11日から対策チームを発足させ、大気の監視を強めてきた。(後略)【3月12日 毎日】
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最後に、今回震災で犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、安否がいまだ定かでない多くの方々の救出が一刻も早く進むように願っています。

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