孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット  ダライ・ラマ14世の政治引退表明のなかでの新首相選挙

2011-03-21 20:45:39 | 国際情勢

(昨年10月 インド・ニューデリーの街かどで チベット亡命政府首相の予備選挙のポスターに見入る人々を見下ろすダライ・ラマ14世の肖像 “flickr”より By Vijay Kranti http://www.flickr.com/photos/vijaykranti/5048165350/

政治的権限を移譲
チベット亡命政府の首相選挙が20日行われましたが、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(75歳)が政治ポストからの引退を希望していることから、新首相はチベットの新たな政治指導者となることが想定されています。

****チベット亡命政府で首相選、ダライ・ラマの政治的後継者の可能性****
インド北部ダラムサラにあるチベット亡命政府の首相を選ぶ投票が20日、同地のほか、オーストラリアや米国など13か国で実施された。チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(75)が10日、権限を「自由な選挙で選ばれた指導者」にたくして政治的指導者の地位から退きたいと表明したことから、選挙の行方に注目が集まっている。

亡命政府の首相はカロン・トリパと呼ばれるが、今回の首相選挙で最も有力視されているのは、米ハーバード大学で国際法を研究しているロブサン・サンゲ氏(43)だ。サンゲ氏はインド生まれで、チベットを訪れたことは、まだない。

ダライ・ラマからの権限委譲の詳細については、議会側が慰留していることもあり、今後も協議が必要だ。だがダライ・ラマの決意は固く、権限移譲は完全に民主的な段階を経たものでなければならないと注文をつけている。
その一方で、ダライ・ラマは、政治的権限を移譲したあとも、チベット自治を求める精神的な指導者としての地位にはとどまるを意思を示している。

ダライ・ラマの現在の主な職務は決議への署名、内閣での宣誓、議会出席など儀礼的なものがほとんどだが、ダライ・ラマは、これらの職務も選挙で選ばれた議員らに引き継ぎたいとの意向を示している。
首相選の暫定結果は数週間以内にも発表される見通しだが、最終結果が判明するのは4月末ごろとなる。【3月21日 AFP】
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上記記事にある最有力候補サンゲ氏の他には、米スタンフォード大研究員テンジン・テトン氏、ダライ・ラマのブリュッセル代表部事務所代表タシ・ワンディ氏がおり、予備選でリードしたサンゲ氏をテトン氏が追う展開となっています。

“インド生まれで米ハーバード大学で国際法を研究し、チベットを訪れたことはまだない”という経歴が、チベット民衆の境遇とはかけ離れた感もありますが、まあ、私がとやかく言うことでもないでしょう。

ダライ・ラマ14世の政治的引退については、チベット亡命議会は18日、引退を認めず、再考を促す決議を採択していますが、ダライ・ラマの意思は固いとも。

****ダライ・ラマ14世の引退認めず チベット亡命議会****
インド北部ダラムサラからの報道によると、同地で開催中のチベット亡命議会は18日、政治ポストからの引退を希望しているチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世に対し、引退を認めず、再考を促す決議を採択した。
ダライ・ラマは、1959年にインドに亡命して以来、政治、宗教両面の指導者として亡命社会を率いてきた。しかし、75歳という自身の年齢を踏まえ、「ダライ・ラマ後」へ道筋をつける意向をかねて表明。14日、亡命議会に書簡を送り、自身の政治権限を亡命政府首相らに移譲するため、亡命社会の憲法にあたるチベット憲章を改正するよう求めていた。
憲章の改正には議会の承認が必要だが、ダライ・ラマの意思は固いとみられ、再び亡命議会に審議を求めるものとみられている。【3月19日 朝日】
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【「ダライ・ラマ後」対策
ダライ・ラマ14世の意向には、高齢となった自身の立場を考慮し「ダライ・ラマ後」を見据えて、チベット社会の民主化、中国との交渉前進の思惑があるとも指摘されています。

****ダライ・ラマ14世:政治活動から引退表明 政教分離図り****
・・・・伝統的に宗教・政治両面の最高指導者を務めてきたダライ・ラマが宗教活動に専念することで政教分離を図り、チベット社会の民主化を促す狙いがある。
一方、中国政府から「分離主義者」などと攻撃されてきたダライ・ラマは、政治の一線から身を引くことで、チベット問題で中国との交渉前進を図る思惑もありそうだ。
ノーベル平和賞を受賞したダライ・ラマの政治引退には亡命政府議会などから反対の声も強いが、自身の高齢化も考慮したとみられる。ダライ・ラマが死去した場合、後継のダライ・ラマを選ぶのに数年以上はかかるからだ。

亡命政府は今月20日に議会・首相選挙を実施する。ダライ・ラマは、いわゆる亡命第1世代は総退陣し、政治権限を新世代の首相に委譲する考えだ。これまでダライ・ラマを補佐してきたサムドン・リンポチェ首相も退く。ダライ・ラマは会見で「私は60年代から、自由選挙で選ばれた指導者に権力を委譲する必要性を繰り返し強調してきた。これを実行に移す時が来た」と述べた。(後略)【3月10日 毎日】
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一方、中国は「国際社会をあざむくための芝居だ」と批判しています。
****中国:ダライ・ラマ引退表明 「あざむくための芝居*****
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の政治ポストからの引退表明について、中国外務省の姜瑜副報道局長は10日の定例会見で「近年、彼は引退すると頻繁に言うが、それは国際社会をあざむくための芝居だ」と述べ、引退表明には政治的な狙いがあると決めつけた。
姜副局長はまた「ダライ(ラマ)は宗教家ではなく、中国の分裂活動をしてきた政治亡命者であり、チベットの分離独立活動を行う政治集団の頭目だ」と主張し、ダライ・ラマがチベットの分離独立を目指しているとの見方を示した。

中国当局は08年3月のチベット自治区ラサでの大規模暴動を扇動したのはダライ・ラマ側だとの認識を変えておらず、昨年1月に行ったダライ・ラマ代理人との非公式協議も最後まで平行線をたどっていた。
また、ダライ・ラマが求めているチベット自治区の「高度の自治」についても自治の範囲や法制度から、事実上の独立要求とみなしている。断続的にダライ・ラマ側との非公式協議に応じたのは、欧米諸国からの対話圧力をかわすためのポーズとみられている。
さらに、中国政府関係者は「ダライ・ラマが引退を表明しても亡命チベット人への影響力は何ら変わらないだろう。むしろ政界引退を口実にしてビザ取得が難しかった国々を訪れることもできる」と警戒している。

一方、中国当局はチベット自治区と周辺地域の生活底上げでダライ・ラマを信じるチベット族を中国社会に同化させ、チベット分離独立運動には死刑を含む厳罰で取り締まる「アメとムチ」の対応で臨んでいる。
中国当局は近年、チベット仏教第2位の活仏、パンチェン・ラマ11世に認定したギャインツァイン・ノルブ氏を仏教協会副会長の要職に就けるなど、ダライ・ラマの死後を視野に入れた準備も進めている。
チベット自治区人民代表大会のシャンパ・プンツォク常務委員会主任(議長)は今月7日、海外メディアの取材に「ダライ(ラマ)が死去してもチベット全体への影響はない。(中国チベット自治区の)長期的な安定を維持できる」と強調している。【3月10日 毎日】
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【「空白の20年」「中国のスパイ」とカルマパ17世摂政案
「芝居」かどうかはともかく、ダライ・ラマの年齢を考えると、チベット側は「ダライ・ラマ後」に早急に準備することが必要なのは事実でしょう。
政治的指導者としての役割の引き継ぎは今回選挙による新首相で対応できるかもしれませんが、問題はチベット自治を求める宗教的・精神的な指導者としての地位を今後どうするのか・・・ということでしょう。
中国はダライ・ラマが亡くなるのを首を長くして待っているとも言われます。

活仏であるダライ・ラマの後継者は転生で引き継がれますが、仮に今すぐ15世を選んでも成人するまで20年かかります。その間にダライ・ラマ14世が死亡した場合、宗教的・精神的指導者を欠いた「空白の20年」が問題となります。

その「空白」を埋めることを期待されている若きリーダーがカルマパ17世で、後継者が成人するまでの「空白」を乗り越えるため、ダライ・ラマが異宗派ではあるが人望のあるカルマパを摂政に指名する・・・という案があります。

そのカルマパ17世に関する「中国のスパイ」疑惑については、1月30日ブログ「チベット 若きリーダー・カルマパ17世の僧院で大金隠匿? 中国との関連は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110130)でも取り上げたところです。

結局この事件については、インド当局は事実上、シロと認定した形となっています。
****カルマパの蓄財「側近の過失」=中国スパイ疑惑はシロ―インド当局*****
チベット仏教指導者カルマパ17世が居住するインド北部ダラムサラ近郊の寺院で警察が多額の現金を押収、不正蓄財の疑いで捜査している問題で、PTI通信は16日、カルマパ側近の過失により不適正な資金管理が行われていたとインド当局が結論づけたと報じた。不正蓄財疑惑を引き金に、カルマパが中国のスパイであるとの説も流れたが、インド当局は事実上、シロと認定した形だ。

寺院内で見つかったのは、約1億3800万円相当の米ドルや中国人民元などの現金。1999年に中国を脱出したカルマパに同国政府がひそかに資金援助し、インド側のチベット仏教勢力への影響力行使を画策したとの見方が浮上した。これに対し中国は、カルマパは自国のスパイではないと全面否定し、中印間に波風が立っていた。【2月17日 時事】 
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中国紙はこの事件について、“インド政府が問題の拡大を恐れ追及の手を緩めた”と報じています。
****チベット仏教活仏の「中国スパイ」疑惑、インド当局が追及の手を緩める―中国紙****
2011年2月9日、中国紙・環球時報は、チベット仏教カギュ派の最高位活仏・カルマパ17世の「中国のスパイ」疑惑について、インド政府が問題の拡大を恐れ追及の手を緩めたと報じた。
同紙によると、6日付インド紙テレグラフは「ニューデリーの高官が、チベット亡命政府が置かれているヒマーチャル・プラデーシュ州にカルマパ17世の調査を“ゆっくり”進めるよう忠告した」と報じた。(中略)

カルマパ17世は大量の札束について、「インド警察の誤解」とスパイ説を完全に否定。チベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世も7日、「側近たちに不手際があったかもしれない」とこれを完全に擁護した。情報筋によると、こうした動きを受け、インド政府は最終的に「譲歩した方が良さそうだ」との考えに至ったという。

一方、7日付ザ・タイムズ・オブ・インディアは、当局が5日に行った家宅捜索で中国の携帯電話に使うSIMカードが3枚見つかったと報じた。昨年、ギュート寺を訪れた中国人は284人に上るが、この中に中国側スパイが紛れていた可能性もある、とインド警察はみているという。

このほか、8日付米紙ニューヨーク・タイムズは今回の事件について、「もともと中国への警戒心が強かったインドメディアをあおる結果となった」と指摘。インド各紙が「僧侶なのか、スパイなのか?」といった類の大きな見出しを付け一面で報じているとした。また、チベット問題専門家の意見として「亡命チベット人はインド政府にとって、単に国の安全を脅かす存在となった」と報じている。【2月9日 Record China】
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事件の真相はわかりませんが、「中国のスパイ」という風評はチベット側にあっては大きな影響があるのではないでしょうか。
「空白の20年」対策としての“カルマパ17世摂政案”はどうなるのでしょうか?
ダライ・ラマ14世の存在感が大きいだけに、「ダライ・ラマ後」の対応は困難です。

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