(もちろんイラン現政権を支持する市民も多数います。写真は2月11日の革命記念日の集会に参加した女性。この日、アフマディネジャド大統領はエジプトで続く反体制デモについて、「32年前に我々が成し遂げた革命が、中東や北アフリカで(イスラムの)目覚めを呼び起こした」、「勝利を信じて最後まで闘ってほしい」、「まもなく、米国やイスラエルの存在しない『新しい中東』が出現するだろう」と演説しています。
“flickr”より By sonya_ruba http://www.flickr.com/photos/30453067@N02/5436820739/ )
【徹底弾圧の方針を変える気配なし】
中東・北アフリカ諸国の民主化運動を「イスラムの目覚めだ」と煽りながら、一方で、国内反体制運動は厳しく弾圧し、中東民主化ドミノの影響波及の抑え込みをはかるイランでは、市民の抗議運動は指導者自宅軟禁などの政権側の封じ込めによって勢いを失っている状況のようです。
****イラン:政府が「弾圧」貫く 治安部隊展開、市民に疲れ****
イランでは先月14日から散発的に反政府デモが続き、当局は繰り返し大量の治安部隊を展開し、強力に運動を抑え込んできた。国際社会からの批判も無視する同国が、徹底弾圧の方針を変える気配はない。一方で、参加する市民側にはデモ疲れや無力感も漂い、運動は次第に弱体化している印象だ。
イラン政府は、中東・北アフリカ諸国で相次いで展開される市民によるデモを「イスラムの目覚めだ」(最高指導者ハメネイ師)と称賛。一方で、自国内のデモは「外国勢力が扇動したもので、市民による運動ではない」と主張して弾圧し、矛盾した姿勢を取り続けてきた。
イラン当局は先月中旬から、デモを主導する改革派のムサビ元首相とカルビ元国会議長を自宅軟禁状態に置き、2人が拘置所に移送されたとの情報もある。政府がより厳しい姿勢に転じる中、改革派支持の若者らの間には、強い反発よりもあきらめや運動の立て直しを求める声が目立つ。
欧米メディアや在外イラン人からは「エジプトやリビア情勢の余波で、イランの体制崩壊が近づいている」との見方が強い。しかし、同国は強固な治安機構を持ち、それを突破するだけの市民側の結束やエネルギーが生まれていないのが現実で、地方や貧困層には大統領やイスラム体制への支持がいまだ根強い。【3月8日 毎日】
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【ラフサンジャニ師の政治力低下】
「改革派」を支持し、アフマディネジャド大統領の政敵でもある、保守穏健派の重鎮ラフサンジャニ元大統領がその政治力を大幅に後退させたとの報道もあります。
****穏健派のイラン元大統領、専門家会議議長選の出馬見送り*****
イランの最高指導者の任免権を持つ専門家会議は8日、新しい議長に保守派のマフダビキャニ師を選出した。現議長で保守穏健派のラフサンジャニ元大統領は議長選への立候補を見送り、議長を退く。保守強硬派アフマディネジャド政権に対抗してきた穏健派の発言力は低下するとみられる。
ラフサンジャニ師はアフマディネジャド大統領の政敵で、大規模な反政府デモを引き起こした2009年6月の大統領選では改革派のムサビ元首相を支持。翌月、イスラム教金曜礼拝の導師として「国民は選挙結果に疑念を抱いている」と演説し、保守強硬派の批判を浴びた。その後は公の場に姿を見せることもなく、事実上の失脚と見られていた。
ラフサンジャニ師は立法上の意見対立を調停する最高評議会議長として指導部にとどまるものの、影響力は限られるとみられる。
専門家会議は定数86。イスラム法学者で構成される。最高指導者を選出、罷免(ひめん)、監督する権限があるが、実際は死亡時の後継者選びが役割とされる。【3月8日 朝日】
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ラフサンジャニ元大統領自身は金権体質(親族・側近の腐敗)の噂が絶えない人物ですが、経済重視の現実派でもあり、09年の大統領選では改革派のムサビ氏を支持し、改革派の後ろ盾として、アフマディネジャド大統領との対立を深めていました。
自宅軟禁状態にあるとされるムサビ氏とカルビ元国会議長、“後ろ盾”のラフサンジャニ元大統領の政治力後退・・・と、改革派にとっては“冬の時代”がしばらく続きそうな様子です。
【「国際女性の日」に“無言の抗議”】
そうしたなか、8日には「国際女性の日」に合わせ、女性中心の反政府デモが首都テヘランなどで行われましたが、これも当局の厳しい対応にあっています。
****女性中心に「無言の抗議」…イランで反政府デモ****
イラン改革派は8日、「国際女性の日」に合わせ、反政府デモを首都テヘランなどで行った。
改革派ニュースサイト「カラメ」によると、テヘラン市内では中心部の広場など数か所に改革派支持者が集結。女性を中心に、少なくとも数千人に達したとみられる。
参加者は治安当局との衝突を避けるため、反政府スローガンは叫ばず、改革派指導者のムサビ元首相の自宅軟禁などに対し「無言の抗議」を行った。「カラメ」によると、治安部隊は催涙ガス弾などを使い、集会を強制的に解散させた。
反体制派の情報によると、抗議デモは、中部イスファハン、南部シラーズ、北部ラシュト、北西部ケルマンシャーでも行われた。【3月9日 読売】
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“目撃者によるとテヘラン中心部の大通りや広場では、警棒を持った治安部隊がデモ隊に殴りかかった。連行された人もいたという。北部の主要交差点では治安部隊が重機で道路を封鎖し、デモ参加者とみられる市民は歩道を無言で行進した。”【3月9日 朝日】とも報じられています。
ポピュリストでもあるアフマディネジャド大統領はこれまで、選挙対策として女性重視の姿勢を見せてはいますが、保守派の抵抗で進んでいない現状があります。
****イラン:「女性の権利」声高まる 抑圧抗議、首都デモ計画****
イランの首都テヘランで8日午後、アフマディネジャド政権に反対する抗議デモが計画されている。同日は「国際女性デー」で、これまでの改革派支持の若者に加え、多くの女性人権団体などが参加する見通しだ。女性の高学歴化やインターネットなどによる情報流入で女性の人権意識が強まる中、政権の抑圧的な姿勢が問われ続けている。
イランでは、姦通(かんつう)罪に問われた女性に石打ち刑が宣告されるなど、女性の人権への保障はいまだに不十分だ。03年のノーベル平和賞受賞者の女性弁護士、シリン・エバディさんは事実上、国外追放状態で、「異議を申し立てる女性」への厳しい姿勢が続く。毎日新聞の取材に実名で応じた、著名な女性平和団体代表や改革派系ジャーナリストも昨秋以降に相次いで当局に逮捕された。
イスラム教の戒律を厳格に導入するイランでは、女性はヘジャブ(かぶりものの総称)の着用が義務で、体の輪郭がわかる服装は厳禁とされる。
テヘラン市内の国立大学で講師を務める女性(30)は、せめてもの抵抗で鮮やかな色のヘジャブを浅めにかぶり、仕事や旅行を楽しむ。一方で「学問的な成果よりも、どれだけヘジャブを深くかぶるか、国や宗教に従順な女性かどうかで評価が決まる」という学内の現状に愛想をつかす。拘束されるリスクからデモには参加しないが、イスラム教の大事な要素を残しながらの緩やかな国の変革を望んでいる。
一方、中東地域の中では、女性の社会進出が比較的進んでいるのも事実。ポピュリスト(大衆迎合主義者)のアフマディネジャド大統領は、部分的な女性政策推進による女性の支持拡大を狙い、女性閣僚の増加や女性のサッカー観戦解禁、ヘジャブ着用規制の緩和などを模索してきた。しかし、保守層の宗教指導者から反発を受け、十分な改革は実現せず、女性の不満解消につながっていないのが現状だ。【3月8日 毎日】
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【開けぬ展望】
当局側の抑え込みにあってはいますが、国民の間に不満は募っており、大統領が地方の遊説先で抗議行動に遭遇することが続いているとも。
****イランでデモ 「女性デー」指導者夫人らの解放求める****
・・・・一方、3月に入り、アフマディネジャド大統領が地方の遊説先で抗議行動に遭遇することが続いている。改革派サイトによると大統領が訪れた南部ファルス州のスポーツセンターで7日、食肉加工会社を解雇された約50人が「腹が減った」「未払いの給与を支払え」などと叫び、治安要員に遠ざけられた。
大統領は2日にも西部ロレスタン州で演説。英BBCによると、会場に「我々は空腹だ 織物工場の労働者」と訴える横断幕が掲げられた。
核開発を進めるイランは欧米などの制裁下にある。物価も上がり、国民は不満を強めていた。【3月9日 朝日】
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今後の動向については、“15日もデモが計画されているが、21日からはイラン暦の新年休みで、「政権対改革派市民」の対立は一時収束するとの見方もある。”【3月9日 毎日】との指摘があります。