(イタリアのAviano空軍基地で、リビア攻撃に参加する戦闘機F-16ファイティング・ファルコンに装備を取り付ける米軍(多分)女性兵士 “flickr”より By USAFRICOM http://www.flickr.com/photos/africom/5557598019/ )
【疑似ハーレム“ブンガブンガ”】
イタリアのベルルスコーニ首相の病気とも言える女性スキャンダルやその金満ぶりは、取り上げるのも今更の感があります。
国内やバチカンの批判はさすがにあるものの、その方面におおらかなお国柄でしょうか、昨年末の内閣不信任案も乗り切り、その政治生命はまだ断たれていません。
****伊首相のハーレム・パーティー「ブンガブンガ」、渦中の女性が様子語る 伊紙*****
数十人の裸の女性がイタリア首相を取り巻いて、首相を「その気」にさせようと競い合っている――イタリア紙レプブリカは、少女買春などで起訴されたシルビオ・ベルルスコーニ伊首相が開催していた「ブンガブンガ」と呼ばれるパーティーについてこう描写した。(中略)
「夕食を終えるとわたしたちは地下のホールへ行き、そこでブンガブンガが開かれた。ブンガブンガの間は女性はみんなずっと裸だった。女性たちはベルルスコーニ氏に気づいてもらおうとして、どんどん大胆に性的なことをするようになって、競争しているようにみえた」(ベルルスコーニ氏の相手とされる渦中のポールダンサー、「ハート泥棒のルビー(Ruby the Heart Stealer)」ことカリマ・エル・マフルーグさん)
検察当局は、当時17歳だったモロッコ出身のマフルーグさんと性交渉をするためにベルルスコーニ氏が金銭を支払ったとしている。17歳の少女の買春はイタリアで違法にあたる。しかし、ベルルスコーニ氏とマフルーグさんは共に買春の事実はなかったと主張している。
また、検察当局は、マフルーグさんが窃盗容疑でミラノの警察に逮捕された際、ベルルスコーニ氏が首相の地位を乱用して警察に釈放を働きかけたとみている。ベルルスコーニ氏は現在、少女買春と職権乱用の罪で起訴されている。(中略)
「その晩、ベルルスコーニ氏は、ブンガブンガについて、友人の(リビア最高指導者ムアマル・)カダフィ大佐のまねをしたハーレムなんだと言った。女性たちは裸になってベルルスコーニ氏に『肉体的満足』を与えなければならないのだと」(後略)【2月19日 AFP】
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【ネクタイに1年間で1360万円】
****ベルルスコーニ伊首相、1年で約40億円の散財三昧*****
宝石に骨董品、スターの卵への融資―イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ首相(74)が2010年の1年間に使った額は3400万ユーロ(約39億円)に上った。これは、少女買春の罪で起訴されたベルルスコーニ首相に対する捜査の一環で明らかになった、首相口座の出入金の詳細だ。伊紙コリエレ・デラ・セラが9日、掲載した。
散財三昧の内訳の一端をみると、1年間でネクタイに12万ユーロ(約1360万円)、宝石に6万5000ユーロ(735万円)を使ったほか、イタリア北部に借りている城の賃貸料が67万5000ユーロ(約7650万円)、租税回避地であるカリブ海の島国アンティグア・バーブーダに所有する別荘のガス・電気代が90万ユーロ(1億200万円)、骨董品店と画廊への支払いが65万ユーロ(約7400万円)など。
さらに、首相の疑惑の相手とされるポールダンサー、「ハート泥棒のルビー(Ruby the Heart Stealer)」ことカリマ・エル・マフルーグ(Karima El Mahroug)さんに対する事情聴取が進んだことで、ショーガールの卵たちに首相がたくさんの贈り物をしていた事実も明らかになった。コリエレ紙によると、首相は若い女性14人に計56万2000ユーロ(約6400万円)を与えていたほか、秘書の1人に結婚祝いとして4万ユーロ(約450万円)を贈っていた。(後略)【3月11日 AFP】
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当時17歳の「ハート泥棒のルビー」ことカリマ・エル・マフルーグさんは昨年5月末に窃盗容疑で逮捕されましたが、こととき首相は警察幹部に電話し「少女はエジプトのムバラク大統領の親戚なので、早く釈放するように」と働き掛けたとされています。首相は昨年10月末、記者会見で「私は心優しいので、困っている人を助けただけだ」と語っているとか。(1月15日 朝日より)
【イタリアとリビアの近しい関係】
“ブンガブンガ”や“1年で約40億円の散財”はさておいても、“友人のカダフィ大佐のまねをした”とか、“ムバラク大統領の親戚”というように、最近話題の中東独裁者が顔を出すところに、中東・北アフリカ地域とイタリアの強いつながりが窺えます。
こうした“つながり”を考慮すれば、現在進行中の中東・北アフリカでの政変・抗議行動は、この地域と地理的にも歴史的にも、また現在の政治・経済・社会的にも近い関係にあるイタリアやフランスとっては、単に“民主化”といった理念の問題ではないことは容易に推察されます。(アメリカなどにとっても同様でしょうし、昨日取り上げたロシアにしてもまたしかりです。)
****リビア:イタリア船乗組員11人を拘束 政権側の報復か****
AP通信によると、リビアのトリポリ港に停泊していたイタリア・ナポリ籍の民間船「アッソ22号」の乗組員11人が19日、リビア人に拘束された。イタリア外務省が20日に確認し乗組員との連絡を急いでいる。
乗組員はイタリア人8人、インド人2人、ウクライナ人1人。
イタリアは多国籍軍によるリビア攻撃のため、国内7カ所の基地使用を認めている。カダフィ大佐の次男セイフ・アルイスラム氏は今月上旬、イタリア報道陣に「イタリアは我々のお陰で経済が成り立っている。なのに我々を裏切った」などと話していた。【3月21日 毎日】
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「イタリアは我々のお陰で経済が成り立っている」云々に関しては、後出のNewsweek記事で。
リビア攻撃の先陣を切っているフランスに関しても、カダフィ大佐の次男セイフイスラム氏は3月16日のTVインタビューで、サルコジ大統領にリビアが資金を提供していたことを暴露して、その“裏切り”を批判しています。
【経済権益や移民問題も】
“友人のカダフィ大佐”を攻撃する事態となったイタリア・ベルルスコーニ首相のジレンマについて、以下のNewsweek記事が解説しています。
****リビア空爆で窮地のベルルスコーニ******
ヨーロッパでリビアと最も近い関係にあるイタリアは、今回の多国籍軍によるリビア空爆において重要な役割を担っている。自国の戦闘機による出撃に加え、多国籍軍に対し国内の空軍基地7カ所の使用も許可している。
ただし今回のリビア危機からは、イタリア国内で多くの問題を抱えるシルビオ・ベルルスコーニ首相の求心力のなさが見えてくる。政権内では、軍事行動をためらう声が上がっているのだ。
連立与党の一角で、反移民政策を掲げる北部同盟のウンベルト・ボッシ党首は、リビア空爆が開始される前にこう語った。「われわれの石油とガスが奪われてしまい、大量の移民がイタリアに流入するだろう」
ベルルスコーニへの反発は高まっている。リビア介入に関する決議を可決させるにも、既に野党の票を必要とし、今後もこうした劣勢に立たされる可能性が高い。
フランコ・フラティニ外相は21日、リビアに対する軍事作戦の指揮権はNATO(北大西洋条約機構)に与えられるべきだとし、イタリアの基地の使用を拒否すると脅しをかけた。NATOの指揮権に反対するフランスは、現在、米英軍と一緒に攻撃を指揮している。
「リビア危機に対してイタリアは難しい立場にある」と、政治評論家のアレサンドロ・カンピは言う。「ベルルスコーニはカダフィと政治的、そして個人的な関係を築いていた」
リビア経済への影響力を失う
リビア空爆に対するイタリア政府の慎重さが「あいまい」に見えたとしたら、その理由はイタリアがリビアと経済的・地政学的に緊密な関係にあるからだと、カンピは言う。
例えば08年、イタリアはリビアとの「友好条約」を締結した。この条約でイタリアは過去の植民地政策の補償として、リビアに対し向こう20年間で50億ドル投資することで合意。このインフラ開発援助はひも付きで、イタリア企業が受注することも決められた。既にリビアの海岸線1700キロに伸びる道路はイタリアのインプレジロが受注している。しかし今回の騒乱でリビアの政権が変われば、こうした契約は失効されるだろうと、イタリアのルイース大学の経済学者ニコラ・ボッリは言う。
問題はそれだけではない。ボッリによれば、「リビアはイタリアの石油の25%、天然ガスの10%を提供している。その大半はイタリア企業と長期契約を結んで市場価格よりも低い価格で売っている。リビアで政変が起きても、この契約は継続されるのか? どこがリビアの資源開発に入るのか?」と指摘する。フランス最大の石油・天然ガス会社トタルがその隙間を埋める可能性もある。
もっと問題視されているのは、リビアが持つイタリア企業の株式だ。イタリアの防衛航空宇宙関連企業フィンメッカニカ、自動車メーカーのフィアット、欧州第3位の銀行ウニクレディト・イタリアーノなどの株だ。「こうした資産は今凍結されているが、最終的には売りに出される必要があるだろう。特にウニクレディトが問題だ。リビアの持つ7・6%の株式は銀行の経営を変えかねないが、イタリアの投資家にそれを買うだけの資金はない」とボッリは言う。
イタリアの政界で、フランスがリビア空爆の指揮権を握ることに懸念が広がったのは、後に収束したリビアをフランスが経済的に支配することを恐れたからだ。ベルルスコーニはこうした警戒感にうまく対処していないと、カンピは言う。「彼は(空爆の)主導権を他国に渡し、カダフィが失脚したらフランスやイギリスが利益を得る。反対にカダフィが残れば、ベルルスコーニは同盟国(リビア)が必要とするときに背を向けたと非難されるだろう」。いずれにせよ、イタリアはリビア経済への影響力を失う可能性がある。
反移民を掲げる北部同盟の脅威
さらにリビア政変によってイタリアの海岸に移民が押し寄せれば、イタリア経済そのものも打撃を食うだろう。リビアから100キロ余りしか離れていないイタリアのランぺドゥーザ島は、既にチュニジアやエジプトからの移民であふれかえっている。イタリア本土へ移送されて入管当局で手続きが行われるのを待つ彼らの数は、地元住民の数を超えている。
これは反移民を掲げる北部同盟にとって、渡りに船。北部同盟党首ボッシの右腕であるロベルト・マローニ内相は、今年初めに北アフリカで蜂起が始まって以来、アフリカから「数百万の」移民が流入する危険性について言及してきた。いま崩壊寸前のリビアを見ても、彼の警告は重みを増す。
移民問題は5月に行われる地方選挙で最大の焦点になるだろう。ベルルスコーニは北部同盟の躍進と政権内における勢力拡大を恐れている。「北部同盟は既に、経済、安全保障、移民など中核となる政策で主導権を握っている。政権の軸となる政策だ」と、カンピは言う。
ある世論調査によれば、イタリア人10人のうち8人は、リビアに対して武力行使よりも外交的な解決策を望んでいる。セックススキャンダルや景気回復の遅れを指摘されて弱体化しているベルルスコーニが、さらに支持率を失うリスクを犯してNATOによるリビア空爆に従っている。今のところは、だが。【3月23日 Newsweek
アレサンドロ・スペシアレ】
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多国籍軍の指揮権を巡り、主導権を握りたいフランスと、NATOに移管すべきとするイタリアは対立していましたが、その背景には「カダフィ後」のリビアにおける権益に関する思惑があるようです。
NATO内部の足並みの乱れも指摘された指揮権問題については、24日、NATOはリビア上空の飛行禁止空域を維持する作戦の指揮権を米軍から引き継ぐことを決めています。
“指揮権のNATO移行は負担を軽減したい米英だけでなく、指揮命令系統の混乱を恐れる大半の多国籍軍参加国が望み、ノルウェーは指揮権移行を作戦参加の条件に据えていた。フランスは米国主導のNATOが前面に出ることに反対してきたが、他参戦国の圧力に押し切られた形だ。”【3月25日 毎日】
もっとも、攻撃の前面に立ったフランスは、 “19日に始まった仏軍による空爆。反体制派の拠点ベンガジでは、政府軍の侵攻を食い止めた仏軍への「感謝」が広がっていた”【3月24日 毎日】、“涙を浮かべる者、抱き合う人々や祈りをささげる姿もある。リビア・コールの後には「フランス」「サルコジ」の連呼もこだました”【3月20日 毎日】と、かなりの点数を稼いだようです。
“イタリア・ナポリにあるNATO司令部が指揮を執り、当面、想定されている作戦期間は3カ月間だが、戦況に応じて延長される場合もある。カダフィ大佐を追い詰められずに作戦が長期化したり、多数の民間人犠牲者を出す事態になれば、イスラム国トルコやアラブ諸国の反発は必至で、NATO率いる国際部隊の「隊列」が乱れる恐れもある” 【前出 3月25日 毎日】ともありますが、「カダフィ後」をにらんだ欧米各国の思惑も“乱れ”の要因になりそうです。