孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  雪解け・戦闘再開を前にした現状  増える民間人被害、タリバン側にも影響

2011-03-08 20:27:52 | 国際情勢

(雪の中で作戦行動を行うアフガニスタン国軍兵士 “flickr”より By DVIDSHUB
http://www.flickr.com/photos/dvids/5451806996/ )

昨年6月以来の大規模自爆テロ
アフガニスタンは厳しい冬の時期にあることもあって、タリバンの戦闘行為も比較的少なく、報道もあまり多くありません。
そんななかで先月にはタリバンによる銀行襲撃のニュースがありました。

****アフガン:タリバンが銀行襲撃 40人以上死亡****
アフガニスタン東部のジャララバードで19日、警察の制服姿の武装勢力7人が銀行を襲撃し、うち少なくとも3人が銀行内で自爆した。ロイター通信によると、40人以上が死亡、約70人が負傷した。旧支配勢力タリバンの報道官が犯行声明を出した。

死者の20人以上は銀行に給料を受け取りに来ていたアフガン軍兵士や警察官だった。タリバンはこの銀行が治安機関の給料支払いに使われているため標的にしたとみられる。AP通信によると、武装勢力のうち捕まった1人は、パキスタン北西部の北ワジリスタン地区出身という。
アフガニスタンで、タリバンの攻撃で40人以上の死者が出たのは、昨年6月に南部カンダハルの結婚式会場で自爆テロがあって以来。【2月20日 毎日】
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銀行襲撃と聞いて、タリバンではなく単なる犯罪集団ではないか・・・とも思ったのですが、上記記事にあるような“治安機関の給料支払いに使われている”銀行を狙ったものだったようです。

それにしても意外だったのは“アフガニスタンで、タリバンの攻撃で40人以上の死者が出たのは、昨年6月に南部カンダハルの結婚式会場で自爆テロがあって以来”ということです。

隣国パキスタンでは、大規模な自爆テロが頻発しています。
2月10日、カイバル・パクトゥンクワ州マルダンで軍施設を狙った少年による自爆テロで兵士ら31人が死亡
昨年12月25日、北部の部族地域バジョール地区にある世界食糧計画(WFP)の食料配給所前で自爆テロがあり、少なくとも43人が死亡
12月6日、モーマンド地方行政府で2件の自爆攻撃が相次いであり、約50人が死亡
11月5日、北西部ペシャワルに近いダラアダムヘルでモスクを狙った自爆攻撃があり、約60人が死亡
最近の比較的犠牲者の多かったものだけでも、これだけあります。
人口密集の差もあるのでしょうが、パキスタンは戦闘地域アフガニスタン以上に危険な側面もあるようです。
それとも、アフガニスタンの治安はイメージほど悪くないということでしょうか?

増える民間人犠牲者
ただ、戦闘行為における民間人巻き添えは相変わらずのようです。
上記“銀行襲撃”の翌日、2月20日には東部ガジアバードでの戦闘で民間人64人が巻き添えになって死亡したと報じられています。

****アフガン、民間人64人が巻き添え死亡か****
アフガニスタン東部コナル州の知事は20日、北大西洋条約機構(NATO)が指揮する国際治安支援部隊(ISAF)とアフガン軍の合同作戦により、過去4日間で民間人64人が巻き添えになって死亡したと明らかにした。
ロイター通信などが伝えた。死者のうち20人は女性で、7歳の子供も含まれているという。
ISAFは20日の声明で、この作戦で武装勢力36人の死亡を確認したとする一方、民間人の被害の有無を調査する意向も示した。(後略)【2月20日 読売】
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“駐留軍の作戦でこれだけの数の民間人が巻き添え死するのは異例。厭戦気分が拡大しつつあるアフガン国民の間で、駐留軍に対する嫌悪感が増大する可能性がある。”【2月20日 時事】とも。
その後のISAFによる調査結果などは目にしていませんが、同じコナル(クナール)州での民間人誤爆が伝えられています。

****NATO軍が誤爆、まき集めの少年ら9人殺害 アフガン****
アフガニスタンに展開する北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)は2日、東部クナール州で誤爆し、民間人9人を殺害したと発表した。AP通信によると、犠牲になったのは12歳以下の少年たちで、まき集めをしていたという。
報道発表によると、1日に部隊が武装勢力からロケット弾の攻撃を受けたため、発射地点とみられる場所にヘリコプターなどで爆撃を加えたが、攻撃場所の確定の際にミスがあったという。【3月3日 朝日】
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本来は“攻撃場所の確定の際にミスがあった”では済まされない話ですが、戦争ですのでこういうことも起こります。ただし、対米・対外国勢力感情が悪化するのは当然のところです。

タリバン組織も「最大の難局に」】
民間人犠牲という点では、米軍・ISAF以上に大きな被害をもたらしているのはタリバンの側でもあります。
国連の統計によれば、反政府勢力の攻撃が原因で死亡した民間人の数は10年1月から10月までの期間だけで1800人。米軍およびNATO(北大西洋条約機構)部隊の攻撃による死亡者の3倍にのぼっています。
それにともない、民心の離反・組織からの離脱も起きています。
指揮官の殺害・離脱で組織は統率力を欠いているとも。
そうしたタリバンの内情を報じたリポートが下記のものです。

****タリバンが凍える自信喪失の冬*****
相次ぐ戦闘員の離脱と統率力の欠如で組織は「最大の難局に」

パキスタン北西部の都市ペシヤワルに近い村。暗く暖房のないマドラサ(イスラム神学校)で、ヤハヤは日々コーランを読み、かつて加わった「蛮行」について神の赦しを乞うている。
ヤハヤは数カ月前まで、アフガニスタン南部のマルジヤとその周辺で活動するイスラム原理主義勢カタリバンの部隊に属していた。だが昨年の晩夏、組織を離脱した。仲間の戦闘員十数人、そして部隊の司令官も一緒だった。司令官と部下の一部はマルジヤ地域で米軍が支援する民兵組織に参加。数週間後、司令官はタリバンが仕掛けた簡易爆弾によって死亡した。
ヤハヤと残りのメンバーは戦いそのものをやめた。「過去を記憶から消し去りたい」。28歳のヤハヤは、寒いマドラサでコート2枚にくるまりながら本誌記者にそう語った。「あんなことをした私をアラーがどうなさるか、不安でたまらない」

不安を感じているのはタリバン指導部も同じだ。過去数カ月間、ヤハヤのように組織を離脱した戦闘員は1000人を超える。約3万人のメンバーを抱えるタリバンにとって大きな打撃ではないかもしれないが、損失が膨れ上がっているのは確かだ。
タリバンはこの1年半の間に数百人のベテラン司令官と、それを大きく上回る数の戦闘員を殺害・拘束された。支配権を確立していた戦略的要衝、アフガニスタン南部のカンダハル州やヘルマンド州各地の拠点も米軍主導の攻撃で失っている。
「(離脱者の)数は少ないが、その存在は無視できない」と語るのは、アフガニスタンの旧タリバン政権で大臣を務めた人物だ(取材に応じたすべてのタリバン関係者と同じく、身の安全のため匿名を希望)。「深刻な問題であり、影響は大きい」

今のタリバンに、かつての自信満々な態度は見られない。1年半前には、アフガニスタン東部と南部でこれまでにない勢力を誇り、北部や西部でも急速に勢いを拡大していた。その後、アメリカ政府は09年末までに、計5万人規模のアフガニスタン駐留米軍の増派を始めた。
パキスタンという「安全地帯」に避難しているタリバン幹部らは、離脱者の存在を意に介さない。「彼らが加わったときも去ったときも、気付きもしなかった」と、パキスタンに本部を置くタリバンの最高指導部、クエッタ・シューラ(評議会)のメンバーは言い切る。
だが前線にいる戦闘員は、それほど強気ではない。離脱者や逃亡者や戦闘による犠牲者が軍事的効率性を損なっていると、彼らは率直に認める。
さらに悪いことに、離脱者は米軍の貴重な情報源になっている。「タリバン支持者の名前が漏れたことが、大きな損失を彼った原因の1つだ」と、前出の元大臣は言う。おかげで士気も低下している。「真の意昧での離脱者が存在しないという事実が、われわれの誇りと自信の源だったのだが」(中略)
 
最も大きな懸念の1つがりリダーシップだ。「過去16年間の軍事的・政治的軌跡において最大の難局を迎えている」と、ザビフラと呼ばれる幹部は言う。
創始者で最高指導者のムハマド・オマルはタリバン政権崩壊とともに姿を消した01年末以来、沈黙を保っている。オマルの右腕のアブドル・ガニ・バラダルは10年2月にパキスタンで拘束された。アフガニスタン南部での戦闘は2人の上級司令官が指揮しているが、その信頼度は低い。「指導力がなく、重責を担う精神的準備ができていない」と、ザビフラは言う。

地元住民の心も離れる
現場では、各司令官が好き勝手に行動しているようだ。元大臣によれば、クエッタ・シューラなどの意思決定機関やタリバンの主要勢力の間でも、協調関係はないに等しい。
その結果、上官の権威は失墜している。殺害されたり拘束された中・下級司令官の後を継いだ者の多くは、部隊を統率できていない、とタリバン内部の複数の情報提供者はこぼす。
無差別攻撃や誘拐、強奪行為のせいで、以前は好意的だった地元住民の心も離れている。
とりわけ大きな不満の種が、戦闘の巻き添えになる民間人犠牲者の急増だ。国連の統計によれば、反政府勢力の攻撃が原因で死亡した民間人の数は10年1月から10月までの期間だけで1800人。米軍およびNATO(北大西洋条約機構)部隊の攻撃による死亡者の3倍だ。
こうしたタリバンの変化に、ヤハヤは嫌悪感を抱いた。彼がタリバンに参加したのは、「不信心者」のアメリカ人を故国から追い出すためだった。だがタリバンは、残忍で非イスラム的な組織に堕落しているという。(中略)

それでもタリバンの活動がやむことはない。彼らは今、雪解けを迎えて戦闘を再開する春を前に米軍への大規模攻撃を計画している。「(パキスタンの)ワジリスタンで募った新兵などこれまでより多くの戦闘員を動員する」と、元大臣は宣言する。厭戦と悲観主義の中でヤハヤが言うように、新兵はたやすく見つかるはずだ。「タリバンは悪い組織だ。だが人々は無実の者を捕まえたり殺したりするアメリカ人、アヘンやカネを盗むアフガニスタン警察や軍に怒っている」。冬の寒さの中、ヤハヤは2枚のコートをしっかり身に巻き付ける。「私と同じ考えを持つタリバンのメンバーは2%もいない」
厭世的で悲観的なのは、ある元司令官も同じだ。アメリカとアフガニスタンで2年間拘束された後、タリバンを離脱した彼は、ヤハヤと同じくパキスタンにあるマドラサで隠遁生活を送っている。「戦闘にはもううんざりしている」
それでも元司令官は、アメリカはいつか負けると今でも考えている。こうした見方が根強く残る限り、アフガニスタンでの戦いに終わりはない。【3月9日号 Newsweek日本版】
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最高指導者オマル師の姿が見えないのは、組織維持を図るタリバンにとって最大の問題です。
また、イラクでのブッシュ政権による増派が内戦状態のイラク安定化に貢献したのと同様に、オバマ政権による増派・南部のカンダハル州やヘルマンド州での軍事的攻勢はそれなりの打撃をタリバン組織に与えているようです。

【「タリバン、政府、米国の3者で信頼を醸成する必要がある」】
カルザイ政権側の対応として、タリバンとの対話促進の呼びかけも報じられていますが、タリバン側からの反応は今のところないようです。
****タリバンの「要求受け入れる」=和平評議会がオマル師に書簡―アフガン****
アフガニスタンのカルザイ大統領がタリバンなど反政府勢力との和解交渉の窓口として創設した「高等和平評議会」が対話促進に向け、タリバンの最高指導者オマル師ら指導部に対し「アフガンの法を踏まえたタリバンの提案、要求は全て政府が受け入れる」と明記した書簡を送付していたことが分かった。評議会幹部のアルサラ・ラフマニ氏が28日までに時事通信に明らかにした。
ラフマニ氏の発言は、カルザイ政権が許容できる範囲内であれば、タリバン流の政治改革を採用する譲歩姿勢を示したものだ。同氏は「要求内容はタリバンが決めること」とし、評議会は具体案を想定していないとした。

書簡は約1カ月前に送付。「戦争が唯一の解決策ではない。和平へ実効性のある行動を取るべきだ」と呼び掛けている。旧タリバン政権時代に教育省の高官を務めたラフマニ氏は書簡の狙いについて、「タリバンは政府や米国を全く信用していない。彼らが提案を出せるような環境をわれわれが整備し、タリバン、政府、米国の3者で信頼を醸成する必要がある」と説明した。ただ、タリバン側からはまだ返答がないという。【3月1日 時事】
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