孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リビア  仏英米を中心とした多国籍軍による空爆開始

2011-03-20 20:58:43 | 国際情勢

(反政府勢力側の戦車 一応こうした兵器もあるようですが、政権側に比べると明らかに劣勢です。士気の高さだけが頼りとも言え、今後の地上戦がどういう展開になるのか注目されます。“flickr”より By شبكة برق | B.R.Q http://www.flickr.com/photos/brqnetwork/5510256193/ )

【「オデッセイの夜明け」】
戦力的に圧倒的に優位にあるリビア・カダフィ政権の反攻により、反政府派拠点ベンガジが陥落寸前の危機的状況にあることに対し、反政府派を支援する仏英米などが国連安保理の武力行使容認決議を受けて軍事介入を行う構えを見せていることは、一昨日ブログ「リビア 反政府派拠点ベンガジ陥落か、英米仏中心の連合軍による空爆か・・・一刻を争う情勢」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110318)で取り上げたところですが、日本時間で今日早朝から空爆等の攻撃が開始されました。

****リビア:多国籍軍が空爆 カダフィ政権側は徹底抗戦の構え****
仏英米を中心とした5カ国からなる多国籍軍は19日夜(日本時間20日早朝)、リビアの首都トリポリや北東部ベンガジ周辺などで、カダフィ政権軍の防空施設や車両などを空爆した。リビアへの武力行使を容認した国連安保理決議に基づく軍事行動。カダフィ政権側は徹底抗戦する構えで、リビア情勢は国際社会を巻き込んだ重大局面に入った。
多国籍軍にはカナダ、イタリアが加わったほかカタールやアラブ首長国連邦(UAE)も参加を表明した。共同作戦名はギリシャ叙事詩から「オデッセイ(冒険)の夜明け」。

仏国防省や米国防総省などによると、統合作戦本部はドイツ・シュツットガルトの米軍基地に置かれた。仏英軍が航空機により現地攻撃し、米英軍のミサイル駆逐艦や潜水艦は、トリポリの防空網を破壊する目的で巡航ミサイル「トマホーク」計112発を発射した。攻撃は飛行禁止空域を確立するのが目的。安保理決議は「外国による占領」を許可していない。

一方、リビアの国営テレビは、トリポリの民間人地域やミスラタの燃料貯蔵地が空爆され48人が死亡、150人が負傷したと報じた。リビア政府は国連に安保理緊急協議を開くよう要請した。
リビア政府報道官は19日、空爆を主導する仏英両国に対し「不正義で、明らかな侵略行為」とするカダフィ氏の声明を発表した。【3月20日 毎日】
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【「これでようやく政権側と反体制派の形勢は五分になった」】
追い詰められ、政権側による虐殺の危険もある反政府派はこの多国籍軍の軍事介入を歓迎していますが、カダフィ政権を首都トリポリにまで追い詰めた当初は外国の介入を拒否していたこともあって、一部には複雑な思いもあるようです。
仏英米もそうした感情にも配慮して、アラブ連盟の支持を取り付けたうえで、カタールやアラブ首長国連邦(UAE)のアラブ諸国も加えた形をとっています。

****リビア:市民の歓喜あふれる広場 多国籍軍の空爆開始*****
「リビア! リビア! リビア!」。歓声や拍手が広がる。機関銃の祝砲が空にあがり、車のクラクションが鳴らされている。安保理決議に基づき仏英米など多国籍軍が最高指導者カダフィ大佐率いる政府軍の関連拠点への攻撃を開始した19日、北東部トブルク中心部に入った。広場では、街頭テレビの中継をじっと見守っていた市民数千人が「フランスの攻撃開始」のニュースが流れた瞬間、歓喜の声を一斉にあげた。
涙を浮かべる者、抱き合う人々や祈りをささげる姿もある。リビア・コールの後には「フランス」「サルコジ」の連呼もこだました。

同日朝から政府軍は反体制派の拠点、北東部ベンガジへの攻撃を激化。トブルクでも反体制派は「背水の陣」でのぞんでいた。港湾管理員のハムザ・ユーサさん(23)は北中部の要衝アジュダビアからトブルクへと続く幹線道路上で政府軍との対決に備えていた。「私たち若者には未来を手に入れたい強い願望がある。犠牲となった友人の思いも背負っている。不必要な流血はもはや必要ない」と力を込めた。(中略)

一方で、爆撃を見る市民には複雑な思いもある。街頭テレビ前で、無職のユスフ・サイードさん(25)は「独力で市民革命を達成したかったが、(政権側と)兵力の差があった」と残念そうだ。だが「国際社会のカダフィ政権への攻撃は残された唯一の選択肢だった。これでようやく政権側と反体制派の形勢は五分になった。リビア全土の和平はまだ先だ」と気をひきしめた。【3月20日 毎日】
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アメリカ:突出の意思なし
イラク・アフガニスタンを抱え、今回軍事行動に慎重だったアメリカは、後方支援にまわるようです。
****リビア:「多国籍軍に指揮権移行」 米、共同作戦を強調*****
国連安保理決議に基づく19日の対リビア軍事行動は仏英米主体で始まった。しかし、米軍は中心的役割を担うのには消極的。軍事行動は今後、北大西洋条約機構(NATO)加盟国とアラブ諸国に枠組みを広げたものに移行する見通しだ。

決議に盛り込まれている軍事行動は「市民保護のための必要なあらゆる措置」と「飛行禁止空域の設定」の2種類。19日の軍事介入のうち、仏軍機の空爆によるリビア軍車両の破壊は反体制派市民の保護が目的で、米英の巡航ミサイル「トマホーク」による防空施設攻撃は禁止空域設定の準備の側面がある。
市民保護のため戦車などの地上部隊を破壊するピンポイト空爆は、限られた数の航空機でも可能。だが、リビア全土上空の飛行禁止は湾岸戦争(91年)後、イラク北部・南部に設定された禁止空域の6倍以上の広さとなり、1日50~70機の軍用機が必要とされる。

初日の巡航ミサイル「トマホーク」による攻撃の大半は米軍によるものだったが、戦闘開始後に米国防総省で会見した統合参謀本部のゴートニー事務局長(海軍中将)は「これは国際的な軍事活動」と強調。攻撃目標の設定が「同盟国との共同作業だった」と明らかにした。さらに、今回の攻撃で作戦指揮を執ったアフリカ軍のハム司令官が「近く多国籍軍側に指揮権を移行することになるだろう」とまで明言した。
遠方からピンポイントを狙った攻撃能力で圧倒的な優位性を持つ米軍としては、リビア軍の攻撃能力を無力化する得意分野では先陣を切ったものの、長期にわたり米軍が突出して戦闘を続ける意思がないことを示したものと言えそうだ。

このため初期段階の作戦は仏英米が担ったが、禁止空域についてはNATO加盟国主体の枠組みで設定されるとの見方が有力だ。すでにベルギー、カナダ、デンマーク、ノルウェー、スペイン、イタリアが戦闘機の出撃準備を整え、艦船をリビア沖の地中海に展開している。長期間にわたって禁止空域を維持するにはリビアに近い発進基地が不可欠で、イタリア、スペインは基地の使用をNATOに認めている。

また、アラブ世論対策上、カギを握るのはアラブ諸国の参加だ。米英仏は軍事行動が「欧米の介入」と映ることを嫌い、フランスのアロー国連大使によると、アラブ首長国連邦(UAE)とカタールが航空機とパイロットの派遣を表明しているという。
軍事介入に反対してきたトルコは「安保理決議の枠組みで必要な準備を進めている」(外務省)とされ、ドイツも「軍事行動には参加しないが、アフガニスタンでより多くの責任を担う」(メルケル首相)と述べ、側面協力の構えだ。【3月20日 毎日】
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仏英の思惑
作戦を一貫して主導してきたのはイギリスとフランスです。
イギリス・キャメロン首相は、攻撃に先立ち「行動する時が来た」と、その決意を語っています。
****行動の時」=英首相*****
キャメロン英首相は19日、パリでのリビア問題の緊急国際会議閉幕後、「行動する時が来た」と述べ、軍事行動を開始する考えを明らかにした。
キャメロン首相は「(リビアの最高指導者)カダフィ大佐は国際社会を欺いた」と非難。その上で「国連(安保理)の意思を実行しなければならない」と強調した。【3月20日 時事】 
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当然、こうした行動は国内政治、国際事情などを配慮した結果でもあります。
先陣を切って空爆を決行しているフランスの場合、サルコジ大統領の失地回復の思いもあることが報じられています。

****フランス、名誉挽回狙う 対応遅れで批判受け****
フランスはリビアへの武力行使を認める国連安保理決議(17日)の採択に向け、米国を説得するなど積極的に動き、武力行使の是非を判断する19日の多国間会合も主催した。これらの背景には、12月以降のチュニジア、エジプトの民主化デモに対するフランスの対応が遅れ、大きく批判された事情がある。

チュニジアのデモが始まった当初、仏のアリヨマリ外相(当時)はデモ沈静化のため、ベンアリ政権を援助する用意があることを示唆。強く批判されたほか、外相自身が年末休暇を同国で過ごし、ベンアリ大統領(同)の側近に接待されたことも発覚、外相は辞任した。フィヨン首相も年末休暇でエジプトのムバラク大統領(当時)の接待を受けており問題となった。
この対応に追われる中、サルコジ仏政権の中東民主化デモへの対応は後手に回った。サルコジ政権の今回の積極策には、12年の大統領選もにらみ名誉を挽回する意図がある。

一方、リビアへの軍事介入には独が反対するなど、欧州連合(EU)には一連の問題に対し団結できない部分がある。サルコジ政権には、この中で積極策を打ち出し、EU外交の主導権を握る狙いもありそうだ。【3月19日 毎日】
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安保理決議で棄権した中国・ロシアは“遺憾の意”を表明しています。
****リビア:攻撃開始 中国とロシアが遺憾の意****
リビアへの武力行使を容認した国連安保理決議の採決で棄権した中国とロシアは、多国籍軍によるリビア攻撃に遺憾の意を表明した。
中国外務省の姜瑜(きょうゆ)副報道局長は20日、「中国は一貫して国際関係での武力行使には賛成しない」とする談話を発表。「情勢ができる限り早く回復・安定し、武力衝突の拡大で民間人の死傷者がさらに増える事態を回避するよう望む」と指摘した。

ロシア外務省も19日、一般市民の被害回避と速やかな攻撃停止を求める声明を発表した。ロシアのロゴジン駐北大西洋条約機構(NATO)大使は、リビア攻撃が「紛争の拡大と制御不能の連鎖反応につながり、北アフリカや中東地域全体の過激主義を助長する」と警告した。
また、ロシアの軍事専門家はインタファクス通信に対し、リビアにはS200など旧ソ連製の地対空ミサイルが配備されているが老朽化が進み、攻撃国の最新兵器に対抗できないと指摘。カダフィ体制の終幕は時間の問題との見方を示した。【3月20日 毎日】
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反体制派にとっては正念場が続く
今後の戦闘の見通しについては、反政府派にとって楽観は許されない状況も指摘されています。
****リビア 反体制派、続く正念場 大佐側、戦力なお優勢****
国連安全保障理事会の決議に基づきフランスが19日、リビアの最高指導者カダフィ大佐の反体制派に対する攻撃阻止に向けて軍事行動に踏み切った。窮地に立たされている北東部ベンガジを拠点とする反体制派には当面、態勢を整えるゆとりが生まれ、反転攻勢に向けた準備も可能となる。しかし、飛行禁止区域設定が実現しても、戦力面ではカダフィ氏側がなおも優勢を保っており、反体制派にとっては正念場が続くことになる。(中略)

ただ、火力や兵員の練度では反体制派が劣勢なのは明らか。英仏などによる空爆と飛行禁止区域の設定によって反体制派はベンガジ防衛で一息つくことにはなるものの、戦局が一気に有利になるわけではない。
中部ブレイガや北西部ザーウィヤなど石油施設の多い要衝はすでにカダフィ氏側に奪還されており、戦闘で奪い返すには大きな犠牲を覚悟する必要がある。

一方、カダフィ氏側は19日、英仏首脳に向けた声明で「介入すれば後悔することになる」と“脅迫”した。しかし、カダフィ氏にとり、英仏などによる空爆を実力で阻止することは戦力の面からも不可能だ。
警告していた「地中海を飛行・航行する飛行機や船舶への攻撃」も、国際社会との全面対決を招くもので現実的ではない。カダフィ氏としても、戦局打開に向けた決め手に欠くのが実情といえる。
米欧は反体制派への軍事顧問団派遣も検討しているとされるが、今後は戦力差を埋めるためにさらなる軍事支援に踏み込まざるを得なくなる可能性もある。【3月20日 産経】
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カダフィ政権側は崩れ始めたら早いような気もしますが、短期で決着がつくのか、それとも、朝鮮戦争のように中国・国連軍の軍事介入によって戦線が移動を繰り返したあげく膠着状態になるのか・・・今後の展開が注目されます。
なお、昨日ブログでも取り上げたように、バーレーンでは、リビアとは逆に、サウジアラビアな湾岸諸国が政権側支持の立場で軍事介入しています。

コメント
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