孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  進まない銃規制議論の現実

2011-01-15 17:51:12 | 世相

(イギリスの著名な写真家Zed Nelsonが写した銃社会アメリカ “flickr”より By dansinch
http://www.flickr.com/photos/dansinch/3598173582/ )

1日約80人が銃が原因で死亡
アメリカ・アリゾナ州で今月8日に起きた、民主党のガブリエル・ギフォーズ下院議員ら20人が死傷した銃乱射事件をめぐり、“銃社会”アメリカでも銃規制強化の議論はあるようですが、逆に銃保有が進む動きなどもあって、“銃社会”の変革は難しいのが現実のようです。

下記記事は、1月10日ブログ「アメリカ  民主党穏健派下院議員へのテロ 「分断と憎悪」の果ての悲劇(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110110)」でも取り上げたものですが、アメリカでは1日約80人が銃が原因で死亡しているとか。

****進まぬ銃規制 9000万人が所持、自己防衛…個人の権利****
米国では銃乱射事件が起こるたびに銃規制を求める声がある一方、なかなか規制が進まない。銃の所持は自己防衛を目的とした個人の権利だとする建国以来の国民意識が背景にある。
米合衆国憲法修正2条は「規律ある民兵は自由な国家の安全にとり必要であり、国民が武器を保有、携帯する権利を侵してはならない」と規定している。ロイター通信などによると、米国では現在、約9千万人が銃を所持し、約2億丁の銃が出回っている。1日約80人が銃が原因で死亡し、このうち半数近くが殺人事件とされる。
1980年代から銃規制論議が高まりをみせたが、銃所持の権利を擁護する有力ロビー団体、全米ライフル協会(NRA)が規制に反対してきた。昨年6月、米連邦最高裁は拳銃所持を禁止したシカゴ市の条例を違憲とし、論議を呼んだ。【1月10日 産経】
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昨年6月に米連邦最高裁が、自宅での銃所持を事実上禁じるシカゴ市の条例を違憲した件については、判決直後にシカゴ議会は対抗措置として、銃所持者が銃を携帯して自宅家屋から外に出ることを禁じる新条例を全会一致で可決しています。
新条例では、シカゴ市内での銃器店営業を禁止。銃所持者が自宅家屋の外の庭や車庫などに銃を持って出ることを禁じています。また、銃を1丁登録する度に15ドル(約1300円)、3年ごとの免許更新に100ドルの支払いも義務付けています。【10年7月4日 毎日より】

全米で2番目に「緩い州」】
事件直後の世論調査では、「銃規制を強化すべきだ」と回答した米市民は47%と依然低く、銃規制強化が進展しそうにない状況を示しています。
****米国:銃規制論議高まる アリゾナ州乱射事件で*****
米アリゾナ州で米下院議員を狙った8日の銃乱射事件を受けて、米メディアやインターネット上で銃規制の是非を問う声が高まっている。しかし、銃を持つことが憲法上の権利とされる米国で、規制強化が実際に進むかどうかは不透明だ。

ジャレド・ロフナー容疑者(22)は昨年11月、半自動式拳銃を銃器店で購入し、少なくとも31発を続けざまに発射し一気に20人を死傷させた。弾倉の交換時に周囲の人に取り押さえられており、弾倉に込められた弾数が少なければ、犠牲者は少なかったはずだとみられている。
このため銃規制推進派の複数の上院、下院議員らは、事件で使われたのと同じタイプの大容量弾倉の販売を禁止する法案の作成を始めた。ほかにも国会議員や政府職員の近くで銃を携帯することを禁じる法案が検討されている。
事件のあったアリゾナ州は銃規制緩和の方向に進み、昨年、21歳以上の成人が許可なく銃を隠し持って携帯することを認める法律を成立させた。どこでも誰でも銃が持てる状態に近く、事件を捜査する同州ピマ郡の保安官は「新法が事件の一因となった」と指摘する。
81年のレーガン大統領暗殺未遂事件をきっかけに銃規制強化法が成立したが、州ごとに規制の厳しさは異なり、銃規制推進団体はアリゾナ州をユタ州に次いで全米で2番目に「緩い州」と位置づけている。アリゾナ州議会には昨年の新法に加え、大学構内で教授や学生が銃を携帯できるようにする法案も提出されている。

銃規制に積極的な民主党に対し、反対する共和党というのが米国の基本的な構図だが、米国では銃を持つことは憲法上の権利。銃撃された民主党中道派のギフォーズ下院議員自身、銃所持の範囲を広げたアリゾナ州の新法に賛成していた。また、事件直後の米CBSテレビの世論調査では、「銃規制を強化すべきだ」と回答した米市民は47%と依然低く、世論が割れていることを示した。【1月12日 毎日】
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容疑者が使用した銃の売り上げが伸びる
乱射事件後、アリゾナ州など複数の州で拳銃の販売数が急増していることも報じられています。
****議員銃撃、容疑者使用の半自動ガン売り上げ伸長*****
米民主党下院議員らが銃撃されたアリゾナ州での乱射事件後、同州など複数の州で拳銃の販売数が急増していることが、連邦捜査局(FBI)の調査で明らかになった。
事件を機に自らの手で身を守る意識が高まっているためとみられ、銃が米社会に深く根ざす現実を浮き彫りにした格好だ。
FBIによると、8日の事件発生から2日後となる10日の、アリゾナ州での1日あたりの拳銃の販売数は前年比60%増の263丁。他州ではオハイオ州で65%増の395丁、イリノイ州は38%増の348丁、ニューヨーク州でも33%増の206丁が売れた。全米では、5%増の7906丁が販売された。
アリゾナ州からの報道によると、州内で最も売れたのは、乱射事件の容疑者が使用したオーストリア製のグロック19型半自動拳銃だった。【1月14日 読売】
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事件容疑者が使用した銃が売り上げを伸ばす・・・というのは、日本的な感覚では納得し難いものがあります。
「銃を手にして乱射事件を引き起こすイカれた奴らに立ち向かうためには、こっちもますます銃を増やして彼らを止めなければならい」という考えが、銃保有を進めています。

【「全ての人が銃を持ち歩けば、誰も犠牲者にならずにすむ」という狂気
また、犯人を取り押さえるのに協力した銃を保持した男性の“勇敢な”行動が、こうした銃所有を肯定する立場を勢いづかせているとも報じられていますが、その行動は無関係の人間に発砲しかねない相当に危ういものだったようです。

****銃乱射で勢いづく銃支持派の狂った論理*****
アリゾナ州トゥーソン郊外で起きた銃乱射事件の教訓を生かし、アメリカは銃規制を厳格化すべきだろうか──まさか!
個人が銃器を持つ権利を保障した憲法修正第2条を支持する人々は、銃乱射事件をそんなふうには捉えていない。銃を手にして乱射事件を引き起こすイカれた奴らに立ち向かうためには、こっちもますます銃を増やして彼らを止めなければならい、というわけだ。
91年にテキサス州キリーンのレストランで発生した銃乱射事件では、23人が死亡。店の客の1人は銃を持ち合わせていたものの、「馬鹿げた法規制のせいで」店内に持ち込めず、外の車に置きっぱなしになっていた。
バージニア工科大学での07年の銃乱射事件では、32人が死亡。学内に銃を持ち込んではいけないという大学の「バカ正直な」決まりのせいで、教室にいた学生たちの誰1人として銃を所持していなかったからだ。銃さえあれば命が救えたのに・・・という理屈らしい。
この考え方で今回の乱射事件を見たとき、銃支持派は何と言うだろうか。「もっと銃を導入せよ」と言うに違いない。
アリゾナ州は既に、許可がなくても銃器を隠して持ち歩くことを認めている。州議会はこの権利を強化するためさらに2つの法案を検討しているし、アリゾナの市民団体は政治家やスタッフに銃器の取り扱い訓練を提供する州法を制定しようと活動を始めている。

全員が銃を持てば誰も死なずにすむ
彼らはそれを、今回の事件で重体に陥ったガブリエル・ギフォーズ議員と亡くなった側近の名をとってギフォーズ・ジマーマン法と呼んでいる。「全ての人が銃を持ち歩けば、誰も犠牲者にならずにすむ」と、銃支持派の同州議員は言う。アリゾナ以外の州でも、少なくとも2人の連邦議会議員は、自らの選挙区に出向くときに銃を携帯するだろうと発言している。
この議論の広告塔として突如躍り出たのが、ジョー・ザムディオ――今回の銃乱射事件の「英雄」だ。ザムディオは事件が起きたとき近くのドラッグストアに居合わせた。彼はたまたま拳銃を所持していた。
彼は事件現場に駆けつけ、犯人を取り押さえるのに協力。テレビは彼の勇気を称え、銃支持派のブログは彼の英雄的行為は銃を所持していたからこそ可能だったと書きたてた。「持っていた銃が僕の背中を押してくれた」と、ウォールストリート・ジャーナル紙は見出しにうたっている。
ザムディオは勇敢な行動を取った、だから銃を所持することは正しい――銃支持派はそう主張するだろうが、彼らの意見を受け入れる前に、この一件の全貌を知っておく必要がありそうだ。
ザムディオがワイドショーで語ったところでは、彼は上着のポケットに入れた銃に手をかけながら現場に向かい、銃を持った男を見つけて「銃を置け!」と叫んだ。だがその男性は、犯人と格闘して銃を取り上げた人物だったのだ。「もし撃っていたら、大変な間違いを犯すところだったね」と記者に指摘され、ザムディオはうなずいた。「僕はとても幸運だった。ものの数秒で決断しなければならなかった」
さらに銃の訓練を受けたことがあるのかと問われ、ザムディオはこう答えた。「幼い頃に父に拳銃を与えられて育ったから、銃の扱いは慣れている。軍隊やプロのトレーニングを受けたことはない」

訓練された兵士でも誤射は起こる
これは、一般に報道されているよりもずっと危険な話だ。ザムディオは拳銃の安全装置を外し、銃を持った犯人と思われる人物を見かけたら発砲するつもりだった。彼が銃を撃つかどうか判断するまで一瞬しかなかったのだ。彼は銃を持っていた男性を犯人だと確信して壁に押し付けたが、発砲は思い止まった。罪のない人を撃ち殺すまで、ほんの紙一重だったわけだ。
銃を持って殺人の事件現場に駆けつける人には、誰にでも起こりうることだ。混乱と緊張の中で、間違った相手を撃ってしまう可能性だってある。あるいは、現場で自分の銃を取り出したために、自分が犯人と間違われる可能性もある。
バーン! 一発で終わりだ。運が悪ければ、銃を持った罪のない人々の間で銃撃戦が起こり、バンバンバンバンバン!になるかもしれない。それは、訓練を積んだ兵士の間でも起こりうる事態だ。一般市民では、その危険はずっと大きくなる。
正式な訓練を受けたことのないザムディオが、瞬時に正しい判断を下せたのは、本当に運が良かったとしか言いようがない。次の銃乱射事件のときにも同じようにいくとは限らない。
今回の事件を受けて、アリゾナ州が議員やスタッフを対象に、銃器の正しい取り扱い方を指導する訓練を行うことを期待する。彼らが選挙区の会合の場に銃を携帯して出席するつもりだとしたら、その時にはこの訓練を思い出してほしい。だがさらに言うならば、そもそも彼らが銃を持ち歩かないことを望みたい。【1月12日 Newsweek】 
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「全ての人が銃を持ち歩けば、誰も犠牲者にならずにすむ」・・・・“銃依存症”とも思える狂った議論です。
西部劇のヒーローのように、自分が悪漢をバタバタと撃ち倒せるとでも思っているのでしょうか。
皆がポケットの中で引き金に指をかけて、びくびくしながら周囲の他人を窺う・・・そんな社会を望んでいるのでしょうか。

コメント (1)
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