goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリア沖海賊  困難な訴追 韓国軍による人質救出作戦

2011-01-22 20:55:42 | 国際情勢

(ソマリア海賊 “flickr”より By drewva
http://www.flickr.com/photos/drewva/3443631472/in/photostream/)

増加、広範囲化の傾向
ソマリア沖の海賊については、日本を含めて各国が護衛艦等の艦艇を派遣していますが、ソマリア本土の無政府状態が相変わらずのため、基本的な改善には至っていません。

****ソマリア海賊活発化、密輸や人身売買も 国連報告書*****
ソマリアの海賊による乗っ取りの成功件数は増加傾向にあり、武装組織化されて活動範囲も広がりつつあるとする国連の報告書が2日発表された。
報告書は、ソマリア海賊対策などを話し合う安全保障理事会を前に作成されたもので、今年1~10月の乗っ取り成功件数は37回と、前年同期の33回を上回ったとしている。
国際海事機関(IMO)の調べでは、各国艦艇などのパトロールが功を奏して、船舶への襲撃件数は前年同期の193件から164件に減少した。今年に入りNATO軍の艦隊だけで148件の攻撃を阻止することができた。だが、10月11日現在、まだ解放されていない船は18隻、人質は389人にのぼっている。 

■密輸や人身売買も
ソマリアの海賊は武装組織化が進み、活動範囲を広げている。大型の母船と2、3隻の攻撃用小型モーターボートによる海賊の船団が現れ、「海賊行為グループ(Pirate Action Group)」と呼ばれている。活動範囲は紅海の最南部やモルディブ近海にまで及んでいるという。さらに、密輸や人身売買などの新たな犯罪に手を染め始めていることを示す証拠があるという。
国連の潘基文(パン・キムン)事務総長は、ソマリア海賊対策の特別顧問に、フランスの元閣僚、ジャック・ラング氏を任命した。ラング氏は現在、海賊対策の国際的な法整備に関する勧告をとりまとめているところだ。安保理は今月、ソマリア海賊に対する新たな決議案を採択すると見られている。【10年11月3日 AFP】
********************************

なお、海賊はソマリア沖だけではありません。
日本関係船舶でみると、昨年10年中は前年比10件増の15件で、過去10年間では14年の16件に次ぐ多さとなっており、発生場所は、マレー半島西側のマラッカ海峡付近を含む東南アジア周辺が10件、ソマリアの沖合やアデン湾、インド洋沖が5件となっています。

“ただ、両地域では手口が全く異なる。東南アジアの海賊は夜間に停泊している船に忍び込んで刃物などで脅し、現金や船のケーブルなどの備品を奪うことが多いが、増加しているアデン湾などに出没するソマリアの海賊はマシンガンなどの重火器で攻撃、大型船ごと乗っ取るなど、より過激だ。
外務省の担当者は「乗っ取った船の乗組員を人質にとり、日本円で億単位の身代金を請求する。東南アジアが窃盗、強盗ならソマリアは誘拐だ」と指摘する”【1月17日 産経】

【ケニアが訴追受入れ拒否 ロシア海軍の“漂流刑”】
ソマリア海賊がなくならない問題の根幹がソマリア本土の無政府状態継続にあることは言うまでもありませんが、その件は別にしても、逮捕しても裁判・服役の場所がない(ソマリアは無政府状態)という問題があります。
EU諸国やアメリカが逮捕した海賊の訴追を従来引き受けてきたケニアが、昨年4月、裁判所や刑務所の負担が大きすぎるとして、これ以上の海賊受け入れを拒む方針を決めています。

****海賊収容もう限界!訴追引き受けケニア「連れてくるな*****
(ケニアの)ウェタングラ外相は1日、「我々は最近、幾つかの国が訴追を求めてきた海賊を拒否している。別の場所を探してくれと伝えている。我々には国際的責任の重荷を背負いきれない」と語った。
ケニアはEU、米国、カナダ、デンマーク、中国、英国の艦船が捕まえた海賊を裁判にかけ、有罪になった海賊をケニア内の刑務所で刑に服させることで合意している。その見返りとしてケニア政府は、司法・矯正施設の改善支援のために国連機関から計100万ドルの支援を得てきた。これまでに訴追した海賊は100人以上に上るという。
だが、普段から手続きの遅れが問題になっている裁判制度や、過密状態が批判されている刑務所を抱えるなか、支援だけでは乗り切れない状態に陥っている。AFP通信によると、すでにデンマーク、英国との合意は撤回され、近くEUにも撤回が通知される見通しだという。これらの国は、別の引き受け国を探さなければならない。
逮捕された海賊に関しては、アフリカ東部の島国セーシェルも受け入れているが、小国のため対応できる人数には限界がある。【10年4月5日 朝日】
*******************************

そうした逮捕後の現実問題もあって、昨年5月にはロシア海軍がソマリア沖で海賊に乗っ取られたタンカーを解放した際、拘束した海賊10人をゴムボートに放置し、“漂流刑”で死に至らせたとみられる事件も起きています。
“検察当局は当初、拘束した海賊らをモスクワに移送する考えを示した。海軍はしかし、海賊から武器を没収した上でゴムボートに乗せ、沿岸から約600キロの沖合で“釈放”。国防省はその後、ボートの発する信号が1時間後にレーダーから消え、海賊らは「死亡したとみられる」と発表した。飲料水や食糧は与えたとしているが、ボートの測位システムは取り外してあったという”【10年6月1日 産経】

ロシア国防省が「海賊を裁く国際法の不備」を理由に“漂流刑”を正当化したのに対し、専門家からは「法的にも人道的にも問題だった」と反論が出ました。
なお、ロシアは昨年4月、国連安全保障理事会に海賊訴追の国際裁判所を設置するよう求める決議案を提出、全会一致で採択されています。

出生は・・・「24年前の雨期」「木の下で」】
ケニアでの訴追ができなくなったため、ドイツは捕えた海賊を自国に連れて帰り裁判にかけていますが、これがなかなか大変で、不謹慎ながら笑えるような話も報じられています。

****ドイツ海賊法廷混乱  ソマリアの犯罪、裁くと・・・・*****
ドイツの裁判所でアフリカ東部ソマリアの海賊10入に対する裁判が続いている。ソマリア沖で自国の船の被害に悩む欧米諸国が海賊を捕らえたのはいいが、無政府状態のソマリアから連れて来た被告の年齢を特定することから始めなくてはならない始末。法制度も生活慣習もまったく異なる土地で裁くことに意味があるのかどうかを問う声も出ている。

ハンブルク検察によると、10人は4月5日、ソマリア沖でドイツ船籍の貨物船を武装して襲ったとされる。海賊は船長らを人質にとって身代金を奪う狙いだったが、周辺海域で警戒していたオランダ海軍のフリゲート艦の兵士が船を奪還し、海賊を拘束した。
DPA通信などによると、先月22日の初公判は海賊の年齢をめぐって紛糾。海賊たちはだれも正確な生年月日を知らないとされ、出生を証明する書類もない。特に1人の海賊について弁護側は「13歳の少年で刑事責任を問われない」と主張。これに対し検察側は、専門家によるあごや鎖骨の鑑定から「18歳以上で、すでに22歳かもしれない」と反論した。ほかの海賊たちも生年月日や生まれた場所を尋ねられると、「木の下で生まれた」「24年前の雨期」などと答えた。           ヽ

欧州連合(EU)諸国や米国が逮捕した海賊はこれまでケニアで訴追されてきたが、負担が大きくなったケニアが受け入れを拒むようになったため、今月はドイツが自国で裁くことになった。ただ、遠く離れた欧州で裁いてもソマリアでの海賊行為の抑止や海賊たちの「社会復帰」にはつながらないと指摘される。また、弁護側は内戦と飢餓に苦しむ現地の事情を考慮すべきだとも主張している。(後略)【12月27日 朝日】
*****************************

韓国軍の「アデン湾の夜明け作戦」】
そんななか、今日、韓国軍による人質救出作戦のニュースがありました。
****韓国海軍、ソマリアの海賊8人射殺 船員を全員救出*****
韓国海軍が21日、インド洋で、海賊に乗っ取られていた韓国の化学物質運搬船(1万1500トン)の救出作戦を行い、海賊8人を射殺、タンカー船員21人全員を救出した。また、海賊5人を拘束した。軍幹部が語った。
救出作戦が行われたのはソマリア沖から北東に1300キロの海域。韓国海軍特殊部隊SEALは夜明け前にタンカーに乗り込んで人質全員を解放し、船内で海賊と銃撃戦となった。船長は銃撃戦の際に腹部に銃弾を受けたが命に別状はない。また、特殊部隊隊員の負傷者はでなかった。
韓国軍統合参謀本部のLee Sung-Ho中将は、会見を開き「この作戦は、海賊による違法活動を今後許すつもりがないという韓国政府の強い意志を示した」と語った。作戦成功で韓国軍の士気は高まっているという。

韓国人8人を含む乗員21人を乗せたこの韓国のタンカーは、アラブ首長国連邦(UAE)からスリランカに向かう途中の15日に、アラビア海で海賊に乗っ取られた。事件発生を受けて、韓国政府は駆逐艦をアデン湾に派遣して海賊を追跡。李明博(イ・ミョンバク)大統領は、船員救助に「あらゆる方策を」用いるよう命じていた。【1月21日 AFP】
**********************************

この韓国軍による「アデン湾の夜明け作戦」については、“ヘリコプターの援護射撃を受け、特殊部隊が小型ボートでタンカーに接近、突入して機関銃などで武装した海賊8人を射殺し5人を拘束した。制圧までにかかった時間は約5時間だった。韓国軍は米軍の駆逐艦や偵察機の支援も受けた。”【1月22日 産経】とのことです。

また、“韓国では、海賊被害が多発しているとして昨年、海軍部隊を派遣。今回の事件対応をめぐっては「軍事的な制圧には法的根拠がない」とする議論も出ていたが、「李明博大統領の政治的判断で『専守防衛』から軍事行動に切り替えた」(政府筋)という。韓国では昨年、インド洋でタンカーが海賊に乗っ取られ、217日ぶりに解放される事件があった。この時は、高額な身代金を支払ったとして政権に対し、「韓国はソマリア海賊の上客になった」と厳しい批判が出ていた。”【同上】とのこと。

恐らく、北朝鮮との問題で弱腰批判も受けた韓国政府としては、この問題で“強い姿勢”を見せることにしたのではないでしょうか。北を想定した格好の実戦訓練にもなりますし。

こうした軍事作戦による海賊射殺に対しては、海賊側が「報復」を企て、カネ目当ての“海賊ビジネス”が過激化するとの見方もあります。
09年4月に、ソマリア沖で米軍が12日に海賊3人を、仏軍が10日に海賊2人を射殺した際にも、ある海賊は現地の報道関係者に「今後、人質の中に米国やフランスの兵士が含まれていれば殺害する」「捕らえられた米国人は今後、われわれの慈悲を期待できない」と語ったとされています。
ただ世論に問えば、そうした弱腰が海賊たちをのさばらせることになるとの、果敢な軍事作戦を支持する考えの方に分がありそうです。

今後、日本人船員が人質なった場合、日本でも韓国同様の救出作戦を求める声も出てくるでしょう。
「専守防衛」をどうするのか、救出行動に出て日本側に大きな犠牲者が出た場合のことも含めて、難しい対応を迫られそうです。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする