孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット  若きリーダー・カルマパ17世の僧院で大金隠匿? 中国との関連は?

2011-01-30 19:12:52 | 国際情勢

(カルマパ17世(右)とダライ・ラマ14世(左) 4年ほど前の写真です “flickr”より By francoish
http://www.flickr.com/photos/francoish/326815446/ )

カルマパ17世 事情聴取
チベット問題の今後に影響を与える可能性もあるニュースがありました。
高齢のダライ・ラマに代わって今後のチベットの宗教・政治活動を率いるリーダーとなるのでは・・・とも見られている若きカルマパ17世(25歳)の僧院に大金が隠匿されており、その大金の出所として中国との関係が取り沙汰されているというものです。

****チベット仏教最高位チベットの僧院 大金隠匿容疑で捜索****
インドのPTI通信によると、同国北部ヒマチャルプラデシュ州の警察と税務当局は29日までに、同州ダラムサラにあるチベット仏教カギュー派最高位カルマパ17世が滞在するギュート僧院を大金を隠し持っていた疑いで家宅捜索した。インドルピーや中国元などが押収されたほか、カルマパ17世の側近が逮捕された。当局はなぜ大金がギュート僧院にあったかを調べているが、中国による資金提供疑惑も浮上している。

報道によると、家宅捜査は27、28両日に行われ、ギュート僧院内にあるカルマパ17世の事務所が対象となったもよう。同州警察によると、20カ国以上の外国通貨が押収されたといい、約110万中国元(1400万円)と60万米ドル(5200万円)も含まれていた。僧院関係者は、金は寺院建設を目的とした土地購入代としている。
事件は、今月同州内で逮捕された男2人が、1千万ルピーを所持していたことが端緒となったという。一部メディアは情報筋の話として、印中国境インド側のチベット仏教寺院に影響力を及ぼすため、中国がカルマパ17世側に定期的に資金提供をしていた可能性があると報じている。

ダラムサラにあるチベット亡命政府議会議長はPTI通信に、「法的な知識を欠いていたために寄付で集まった大金を所持していた」と語り、カルマパ17世と中国の関係を否定した。
カルマパ17世はチベット仏教主要宗派の一つであるカギュー派の最高位活仏(かつぶつ)。1992年に中国政府よりカルマパ17世と認定され、2000年1月、14歳でインドに亡命した。【1月30日 産経】
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インド警察当局は、カルマパ17世本人からも28日夜、事情を聴いたそうです。
カルマパ17世は、チベット仏教カギュー派の活仏として、中国政府から認定を受けましたが、1999年末に中国側から姿を消しインドに亡命。その聡明な資質・人望から、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の後継体制で、重要な役割を担う可能性があるとみられています。

【“空白期間”を摂政で】
現在のチベット世界のリーダー、ダライ・ラマ14世には大きな問題があります。
高齢のため、彼のあとを誰が継ぐのか?という問題です。
ダライ・ラマ14世と激しく対立する中国当局は、彼が死亡したらチベットの政治運動は衰退あるいは瓦解するだろうとも見ています。

ダライ・ラマは転生によって引き継がれる活仏ですので、“生まれ変わり”探しの難しい問題を別にしても、後継者である幼い“生まれ変わり”を今から選んでも、実務をこなせる成人になるまで20年間を要するという問題があります。
つまり、20年の“空白期間”が生じます。

ダライ・ラマ14世もこの問題に対処するため、自身の政治的役割を縮小して首相と議会に一層の権限を持たせる方針であることを明らかにしています。
****ダライ・ラマ、選挙を機に権限移管の意向*****
ダラムサラに本拠を置くチベット亡命政府のサムドン・リンポチェ首相(71)は30日、本紙と会見し、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(75)が、2011年に行われる亡命政府首相・議会選挙を機に、自身の政治的役割を縮小して首相と議会に一層の権限を持たせる方針であることを明らかにした。

リンポチェ首相によると、ダライ・ラマは、3月20日投票の選挙(有権者約8万人)後に招集される亡命議会で、亡命政府の公式文書への署名や、閣僚の就任宣誓への立ち会いなど、現在行っている儀礼的役割を首相や議会議長に移管する考えを表明する。
首相は、「ダライ・ラマの指導力への依存は減らす必要がある。次のダライ・ラマが成人するまで20年かかる」と述べ、亡命政府の権威確立を急ぐ必要を強調した。【12月31日 読売】
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しかし、亡命政府の権威確立をはかるにしても、やはり核になる人物が必要です。
その“核”として期待されているのが今回話題になっているカルマパ17世です。
彼はすでに別の人物カルマパの転生者なので、ダライ・ラマの生まれ変わりにはなれません。
そこで、次期後継者が成人するまでの“空白期間”を乗り越えるため、ダライ・ラマがカルマパを摂政に指名する・・・という案があります。
チベット仏教界の多くが、カルマパ17世を将来の指導者候補として挙げています。

もちろん問題はあります。
ダライ・ラマとカルマパは同じチベット仏教でも、宗派が異なるライバル関係にあります。
“ダライ・ラマのゲルク派のライバルにあたるカギュ派の指導者だ。カルマパを摂政に指名することは、ゲルク派のリーダーを別宗派から連れてくることにほかならない。これは米国聖公会の代表がバチカン市国を20年間統括するようなものだ。”【09年3月5日号 Newsweek】

2人のカルマパ17世
ただ、カルマパ17世には、その資質・人望意外にも、重要な特質があります。
それは、彼が中国政府からも活仏として認められており、チベット・中国双方が認める唯一の活仏であるということです。このことは、今後のチベット・中国間の困難な交渉をリードしていくうえで重要なポイントになりえます。

そもそもカルマパ17世は8歳で中国政府からも認定されてから、中国政府側の厚遇を受けチベット・ラサで教育を受けていました。
中国政府はカルマパ17世を、亡命中のダライ・ラマ14世に代わる親中国共産党派のチベット仏教指導者に育てあげようと考えていた・・・とのことです。【ウィキペディア】

しかし、カルマパ17世は14歳の2000年に、ヒマラヤ山脈を越えて、チベット自治区からインドに亡命しました。
“ネパールの首都カトマンドゥを経てインド国内に入る。そこまでの交通手段は徒歩や馬、列車、バス、レンタカーを乗り継いだとされる。ムスタン南部を抜ける際には僧侶がチャターしたヘリコプターを利用し、逃亡中の資金や食料は信者が支援した。8日間に及ぶ逃亡によってカルマパの足は凍傷し、顔の皮膚もひび割れていた。”【ウィキペディア】
その亡命・逃避行の具体的な様子は、ダライ・ラマ法王日本代表部事務所公式サイト(http://www.tibethouse.jp/news_release/2000/Karmapa/karmapa22.html)に詳しく紹介されています。

しかしながら、中国とダライ・ラマ双方が認めているカルマパ17世の転生認定には異論もあります。
“歴代のカルマパは、自分がどんな人に生まれ変わるのかを遺言として残したが、16世は、明確な遺言を残さなかった。しかし死後9年経った1990年、タイシトゥ・リンポチェ(一部のカギュ派内では、中国寄りであると考えられている)は、カルマパがくれたお守りの中に、遺言があるのを見つけたと発表しウゲン(現在のカルマパ17世)を探し出したのだが、捜索メンバーの1人シャマル・リンポチェが、遺言はでっち上げられたものだと言い出し、中国政府を嫌う亡命チベット人たちの支持を受け、1994年、別の少年をインドで即位させた。”【「チベット・仏教、インド びんぼー生活 ・・・のそのもろもろ・・・」http://ykpiman.blog71.fc2.com/blog-entry-440.html 】

チベット仏教における転生者探しは、遺書とかお告げとか宗教的な側面とは別に、宗派指導者としてふさわしい人物かどうかの資質面からの現実的な調査・観察から行われているように見えます。
遺言云々はそうした現実的な後継者選びに宗教的権威を付与する“ウソも方便”的なものでしょう。

どういう内部事情かは知りませんが、正面切ってこれを“ウソ”と断じたのがシャマル・リンポチェで、中国政府からの影響を嫌ってブータンで探し出したもう一人の少年ティンレー・タイェ・ドルジェをカルマパ17世として即位させ“二人のカルマパ17世”が生じました。

これにより、カギュ・カルマ派は多数派と少数派(シャマル派)のふたつに分裂。シャマル・リンポチェが即位させたティンレー・タイェ・ドルジェは現在、やはり“カルマパ17世”を名乗って欧米で独自の宗教活動を広げています。
シャマル・リンポチェ派は中国政府からの影響を嫌っており、突然中国チベットからやってきた多数派の認めるカルマパについては、中国政府の意を受け、インドの亡命チベット政府を崩壊させるためにやってきた存在と見ているとも。【「チベット・仏教、インド びんぼー生活 ・・・のそのもろもろ・・・」http://ykpiman.blog71.fc2.com/blog-entry-440.html 】

もし、冒頭で取り上げたニュースにある中国からの資金提供云々が事実なら、シャマル・リンポチェ派の言うところの“中国政府の意を受け”という主張もあながち的外れではないことにもなりかねません。

中国との関係は?】
カルマパ17世と中国との関係については、【09年3月5日号 Newsweek】に次のような記載があります。

****チベットを担う若きリーダー****
・・・・ダライ・ラマの後継指導者になれるかと尋ねると、自分は多くの候補の1人にすぎないと、カルマパは答えた。「ダライ・ラマは太陽のようだ。どれだけ星があっても太陽のようには輝かない」(中略)
「中国共産党は、神聖な力をもつダライ・ラマの存在が現在大きな役割を果たしていることを理解すべきだ」とカルマパは言う。「ダライ・ラマには怒りが爆発しないよう封じる大きな抑止力がある。彼のような人物がいなくなったら、大混乱が起きかねない」
カルマパ17世にもダライ・ラマ14世と同様な役割を果たせるのではないか。
「私には目標がないし、絶大な影響力をもつという野心もない」とカルマパは語った。「だが、私に変化を生む力が授かれば、その力を発揮する」(中略)

中国との接触はない?
・・・・カルマパを後継者にすることにさまざまな問題があるとしても、メリットはある。ダライ・ラマがカルマパを摂政に指名すれば、チベット人を分裂させるのではなく団結に向かわせるだろう。
「宗派間の論争は二次的な問題になりつつある」とハーバード大学のロブサンは言う。ロブサンのみるところ、カルマパを摂政にすることは「チベットの政治運動の現実」に即している。
「彼は若い」と、世界に3万人の会員をもつ自由チベット学生組織のツェワン・ラドンは言う。「今はその話題でもちきりだ。カルマパは宗教だけでなく、チペット社会の精神的・政治的な面でも影響力を及ぼせる人物だ。チベット人を支配しようとする中国に対抗心を燃やす、新しい世代の代表になれる」

2度目のインタビューの際に中国政府との接触はあるかと聞くと、カルマパは躊躇して話をそらした。代わりに、中国がチベットに取るべき政策は、大国としての度量を示して、ダライ・ラマが求めるチベット自治の要求をのむことだと語った。
カルマパは退席しようと立ち上がったが、記者が再度、中国との接触について答えてほしいと促すと足を止めた。「接触はない。(中国側の)誰とも政治的な接触はない」と語ってから、本当のことを明かした。
中国はインド政府を通して、カルマパはいかなる政治活動もすべきではないという意向を伝えてきた。ただし、彼が純粋な宗教指導者であり続けるなら、中国はカルマパとの関係を絶たないという。
「それはまったく問題ない。政治に関しては素人だから」とカルマパは笑顔で言う。
真意はわからないが、笑顔は正反対のことを意味していたのかもしれない。 【09年3月4日号 Newsweek】       
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今回事件の真相、裏事情に興味がひかれます。

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