孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

各地で頻発する反政府抗議活動  チュニジア政変“飛び火” 食料品価格高騰 腐敗・汚職体質

2011-01-25 20:13:37 | 国際情勢

(アルジェリアでの暴動 1月7日 アルジェリアでは、25歳未満の若者の失業率は推定30%に達し、また、政府施策によって食用油と砂糖は1月に20%値上がりしました。物価上昇の暴動への影響は定かではありませんが、暴動を受けて政府は価格引き下げ政策をとっています。 “flickr”より By magharebia
http://www.flickr.com/photos/magharebia/5352296368/ )


【「友達のベンアリの所に行け」】
今、世界の各地で強権的な支配体制に対する国民による抗議活動が頻発しています。
その“引き金”になっているのひとつの要因は、チュニジアでの政変です。

****イエメン:大規模な反政府デモ チュニジアから飛び火****
アラビア半島南西部のイエメンで反政府デモが発生し、22日には首都サヌアや南部主要都市で学生や野党勢力ら数千人が集まってサレハ大統領の辞任を求めた。21年にわたって同大統領による独裁体制が続くイエメンだが、大統領を名指しした大規模な抗議活動は初めてとみられる。チュニジアでベンアリ前大統領の亡命につながった民衆蜂起が飛び火した形だ。
現地からの報道によると、サヌアでは約2500人のデモ参加者が「アリ(サレハ大統領の名前)よ、友達のベンアリの所に行け」と叫んだ。

イエメンでは、今回の騒乱前から、北部でのイスラム教シーア派の一派ザイド派の反乱や国際テロ組織アルカイダ系団体「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の活動、南部での分離独立運動という「三重苦」に直面してきた。高失業率や大統領周辺の腐敗、地方の開発の遅れなど、国民はチュニジアと同様の環境の中で苦しんでいる。
イエメンはテロ対策で米国の支援も受ける。しかし、掃討作戦で民間人が死亡しており、反米、反政府感情は強い。AQAPは米欧を標的にした爆破テロ未遂事件も起こしており、サレハ体制の動揺は、国際テロの活発化を招く懸念もあり、民主化は「もろ刃の剣」と見る専門家もいる。

サレハ大統領は、首都サヌアの要所に治安部隊を配備する一方、ムタワキル通産相の解任など懐柔策も発表して、「アメとムチ」を使ってデモの抑え込みを図っている。
一方、チュニジアでの政変後、アルジェリアやヨルダンでも政権の退陣を求める抗議デモが続く。食料価格の高騰を背景に1月初旬に暴動が始まったアルジェリアでは22日、首都アルジェで治安部隊とデモ参加者が衝突、少なくとも約20人が負傷した。アルカイダ系組織が活発なため、民主化がイスラム過激主義の台頭につながる可能性が指摘されている。【1月23日 毎日】
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“アラブ最貧国のイエメンでは、国民の約半数が貧困層で失業率は30%を超えるといわれる。政府はチュニジア政変後に減税や物価抑制策を発表し国民の不満解消を図っているが、サレハ氏は大統領任期の無期限延長を可能にする憲法改正や息子への世襲をもくろんでいるとされ、野党勢力の反発は強い。”【1月24日 産経】
ただ、“部族が政治・社会に大きな影響力を持つイエメンでは即座に大規模な民衆動員につながる可能性は低いとみられる”【同上】とも。

イエメンは毎日記事にもあるように、アルカイダに対するテロ対策の拠点国家でもあり、その“民主化”を求める政情混乱はアメリカにとっては複雑なところです。アルジェリアについても同様の懸念があります。
暴動の起きるような政権だから、アルカイダなどの活動も存在しているのでしょう。

こうしたチュニジアからの“飛び火”はアルジェリア、ヨルダンなどでも起きています。

****チュニジアの革命、我が国でも 中東圏相次ぐ反政府デモ****
失業問題などに抗議する青年の焼身自殺をきっかけに、ベンアリ前大統領の強権支配を覆す市民デモが起きたチュニジアに続こうと、中東や北アフリカで市民による反政府デモが相次いでいる。チュニジアのケースに触発されたとみられる焼身自殺も相次ぎ、当局は体制を揺るがす事態にならないか警戒を強めている。

チュニジアの隣国アルジェリアでは22日、民主化とブーテフリカ大統領の退陣を求めるデモが起き、警官隊との衝突でデモ参加者ら40人以上がけがをした。イエメンでも同日、首都サヌアの大学構内で学生ら約2500人がサレハ大統領の退陣を求め、「アリ(サレハ大統領の名)、友達のベンアリと一緒に去れ」と叫んだ。
ヨルダンでは21日、数千人がデモをして物価高などに抗議し、内閣総辞職を要求。エジプトでは、市民グループなどが「25日の警察記念日にデモをしよう」「チュニジアに続け」などとネット上で呼びかけている。チュニジアでは23日も、暫定政権からの旧与党系閣僚全員の退陣を求めるデモが続いている。

中東・北アフリカ地域は1次産業や観光業以外の産業が乏しい一方で人口が増え、若者の失業が深刻。富の分配が不平等で貧富の差が開き、インフレも進んでいる。また政権の長期化や腐敗、言論の自由の欠如といった問題も共通している。それだけに、23年続いた強権支配を平和的なデモで倒したチュニジアのケースに、この地域の多くの市民が共感を抱いている。

焼身自殺も相次ぎ、未遂を含めると10件を超えた。カイロでは21日、35歳の男性が路上でガソリンをかぶって火をつけ、大やけどを負った。エジプト紙などによると、男性は結婚資金をためるために地方から出てきたものの、低賃金の日雇い仕事しか見つからず絶望したという。
この日、エジプトで別の男性2人も焼身自殺を図ったほか、サウジアラビアでも男性が焼身自殺。アルジェリアでもこれまでに少なくとも7人が、モーリタニアでも1人が焼身自殺を図った。

イスラム教では自殺が禁じられており、イスラム教徒が自殺を選ぶのはまれだ。このため、焼身自殺した青年への同情からデモが始まったチュニジアのケースに触発された可能性が高い。
エジプトでは、チュニジアの政変後に焼身自殺が相次いだことを受け、政府が食料品への補助金の増額を決めたほか、各モスクに礼拝でイスラム教が自殺を禁じていることを改めて説くよう要請するなど、懸命に「飛び火」を防ごうとしている。
だが、市民の間には不満がたまっており、各国の政府が抑え込めるかどうか予断を許さない状況だ。【1月25日 朝日】
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チュニジアのベンアリ前大統領については、政変が起きるまでその名前すら知りませんでした。
チュニジアについても、古代ローマと地中海覇権を争ったカルタゴの遺跡があるところ・・・ぐらいの認識しかありませんでした。
もし、今回の政変“飛び火”でアラブ社会に変動が起きれば、ベンアリ前大統領は“ベルリンの壁崩壊”同様の変革をもたらした人物として、カルタゴのハンニバルと並んで世界の歴史に名を残すことになります。

新興国需要により長期持続しそうな物価高騰
チュニジアの政変が容易に“飛び火”しやすいのは、基本的に、これらの国に高失業率、最近の物価上昇という生活苦があり、社会に貧富の差、腐敗・汚職の蔓延といった問題が存在し、国民の間に政権への不満が充満しているからです。

中でも、チュニジア政変とならんで、抗議活動の“引き金”になっているのが食料品などの物価高騰です。
08年にも投機マネーによる食料品・燃料価格高騰によって各地で暴動・政変が起きましたが、今回の高騰は、投機に加え、新興国需要の増大と悪天候という要素もあるようです。

****トリプルパンチ 新興国需要+悪天候+投機****
「新興国における実際の需要の増加、天候不順、投機マネーの『トリプルパンチ』を食らった状態だ」(大手商社関係者)。2008年にも原油や小麦が史上最高値を記録し、原材料価格が高騰したが、当時の主犯が投機マネーだったのに対し、今回は「複数犯」だ。

過去最高値を更新し続けているタイヤ原料の天然ゴム。元々、新興国の需要増による自動車生産の拡大に伴い不足気昧だった。そこに昨秋、一大生産国のタイを豪雨が襲い供給不足が強まる。値上がりすると予測する投横筋がゴム市場に入り高騰に拍車がかかった。この構図はトウモロコシや大豆、麦などの穀物、砂糖やコーヒーなどにも当てはまる。
特に価格を押し上げているのが新興国による実需というのが関係者の一致した見方だ。穀物事業に力を入れる商社、丸紅の水本圭昭・執行役員は「生産国である新興国が経済成長で所得の向上を果たし、自国の消費に回すようになってきた」と指摘する。
例えば、こんな例がある。砂糖の供給国のブラジルでは自国消費が増えている。コーヒー豆でも、産地のブラジルやベトナムでコーヒーを飲む入が増えている。生産1位のブラジルのコーヒー消費量は00年の1300万袋から、09年には約5割増の1900万袋になった。

中国やインドが大豆などの食料や資源を大量に輸入する「爆食」も見逃せない。石炭では豪州、インドネシアなどで豪雨災害が相次いだ。発電用の一般炭は中長期的に電気料金に影響する。取引価格は昨夏の1トン90ドル台半ばから足元は130~140ドルに。ただ天候要因だけでもなさそうで、中国などがいずれ大量の買いに出るという恐怖感に似た先高感があるためだ。

米国の金融緩和でマネーがあふれ出し、投機マネーもうごめく。ただ、投機マネーはいずれは市場から引いていく。天候不順も一時的な要因だ。だが実需で価格がかさ上げされた部分は、長く続く可能性が高い。すでに中国や韓国は、南米やアフリカで農業関連の投資を積極的に行い、食料の安定確保に動き始めている。
「食料はもはや『資源』だ」(大手商社首脳)。日本は新たな資源争奪戦に直面している。【1月22日 朝日】
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新興国の需要は今後さらに増加することは確実で、それによる価格水準の変動は長期にわたり世界各国に影響を与えそうです。
南米ボリビアでも、食料品やガソリンなどの値上げに対する暴動が発生しています。

****食料品・ガソリン値上げに怒り、5千人デモ ボリビア****
南米ボリビアの都市ラパスから南に約300キロ離れたアンデスの町ジャジャグアで24日、食料品やガソリンなどの値上げに怒った鉱山労働者や農民らが商店を襲撃し、食料品や電気製品などを奪った。
ジャジャグアは人口約4万5千人の町。AP通信などによると、組合の呼びかけで労働者ら約5千人が食料品値上げに反対するデモ行進をしていたところ、一部が投石するなどエスカレートし、商店や倉庫にある品物を略奪した。
同国では昨年末、モラレス大統領が燃料を83%値上げしたことをきっかけに、各地でデモが起きている。【1月25日 朝日】
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汚職体質への怒り
政権の汚職・腐敗に対する怒りが起爆剤となっているのはアルバニアです。

****アルバニア:反政府デモに警官発砲 市民らに死傷者 首都****
AP通信によると、アルバニアの首都ティラナで21日、約2万人が参加した反政府デモの一部が暴徒化し、警察の発砲で市民3人が死亡、警察官24人を含む54人が負傷した。ベリシャ政権の汚職疑惑で副首相が辞任を強いられ、野党や市民は首相に退陣と前倒し選挙の実施を求めていた。

同日夜の会見でベリシャ首相は「我が国はチュニジアにはならない。暴力は厳しく取り締まる」と語った。一方、警官がデモ隊に実弾を発砲したことに対し、ティラナ駐在各国大使ら外交団は「深い遺憾」を表明した。
アルバニアの民放テレビは今月初め、首相経験もあるメタ副首相の汚職疑惑を暴露するビデオ映像を放映。昨年3月に撮影したとされる映像で、副首相はプリフティ建設相(当時)にダム建設工事の入札で便宜を頼み「我々には70万ユーロ(約7860万円)と受注額の7%が入る」と語っていた。副首相は「偽造の映像だ」と疑惑を否定したが、「司法で無実を明かすため」と14日、副首相兼経済相を辞任した。
アルバニアでは08年3月、27人が死亡する軍需工場での事故が起き、政府や軍関係者による無届けの武器取引が発覚した。また09年9月には運輸相が高速道建設で水増し予算を組もうとしたことが明らかになっている。似たような疑惑は他にもあり、ベリシャ政権の汚職体質に怒った住民が今回、大規模デモに走った。

人口約320万人のアルバニアはナチス・ドイツの占領から解放された1944年から85年までホッジャ将軍による左翼独裁政権が続き、90年までソ連や中国とも距離を置いた共産主義を貫いた。民主化後の96年には、大規模なねずみ講投資で財産を失い、怒った国民が首都ティラナで大暴動を起こしている。【1月22日 毎日】
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各国に独自の背景はありますが、腐敗・汚職が蔓延する政権が有効な経済対策を打てず、高い失業率、食料品価格の高騰を許し、国民の生活苦が増大する・・・そういったなかで、これまでの強権支配に対する不満が噴出しているようです。
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