孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラム社会との関係 アメリカ:「グラウンド・ゼロ」の隣にモスク フランス:「ブルカ禁止法」

2010-05-21 22:09:43 | 世相

(フランス・マルセイユの街を歩くニカブ着用の女性 正確な定義は別として、一般的には、目の部分以外を覆う衣服をニカブ、アフガニスタン女性が着用している目の部分も網目で覆った衣服をブルカと呼ぶことが多いようです。“flickr”より By erphotos2009
http://www.flickr.com/photos/erphotos2009/4205781617/)

【「架け橋」か「宣戦布告」か?】
9.11やアフガニスタン・イラクでの戦争、世界に広がるテロの脅威・・・今世紀の世界の大きな流れとして、欧米社会とイスラム社会の衝突・対立があげられます。
日本と異なり、国内に多数のイスラム教徒を抱える欧米社会にあっては、国内におけるイスラム教徒との関係が重要かつ困難な問題となります。

****9.11テロ跡地そばにモスク建設計画、賛否両論*****
2001年9月11日の米同時多発テロで崩壊したニューヨークの世界貿易センタービル跡地「グラウンド・ゼロ」の隣にイスラム教のモスクを建設する計画がもちあがり、平和を希求する思いと不信による怒りの狭間で揺れている。
約3000人が命を落とした同時多発テロの現場から2ブロック離れた一角には、放置されたブティックのほか今は何もない。そこにモスクを中心とする数階建てのイスラム教センターを建てる計画を率いているのは、ニューヨークのイマム(イスラム教の指導者)フェイサル・アブドゥル・ラウフ師だ。

■イスラム教徒以外にも解放、「架け橋」めざす
モスクにはスポーツ施設や映画館、デイケア・センターなども併設し、イスラム教徒だけでなくあらゆる人に利用を開放する方針で、イスラム教徒たちも地元コミュニティーの一部なのだとアピールしていきたいと語るラウフ師。同師によると米国内でこうした施設はこれまで存在しない。
同時多発テロ以降、アメリカのイスラム教徒たちは世論からも当局からも「テロリズムの温床」というレッテルを貼られ、辛い時を送ってきた。ラウフ師は計画しているセンターが、テロ事件で沈みきったロウアーマンハッタンに活気をもたらすとともに、イスラム教徒に対する米国民の見方を変えることができたらと願っている。

■「まるで宣戦布告」と怒りの声も
しかし、事件をいまだ「昨日のことのよう」に思い出してしまい、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を訴える市民からは、モスク建設への抵抗感を訴える声も聞かれる。ラウフ師の平和の願いに反し、「グラウンド・ゼロ」間近の立地について「宣戦布告」のようだと怒りをあらわにしたり、アウシュビッツにドイツの文化センターを作るようなものだと批判する人々もいる。
強い反対があることについて尋ねると、ラウフ師はそれでも、センターがイスラム教徒と外部の大きなコミュニティーとをつなぐ架け橋になることを願うと語った。「これは米国人イスラム教徒のアイデンティティー作りでもある。第2世代、第3世代のイスラム教徒の中には、(米国の)一部だと感じていない者たちもいるが、それではいけない。この数年、『穏健派のイスラム教徒の声はどこに行ったのだ?』という声を耳にしてきた。今こそ、『ここにいます』とわたしたちは伝えたい」【5月20日 AFP】
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“イスラム教徒以外にも解放して、アメリカ社会とイスラムの「架け橋」をめざす”というラウフ師の理念は高く評価されるべきものでしょうが、モスクという宗教施設を中心にして「グラウンド・ゼロ」の隣に・・・というのは、現実問題としてはいたずらに軋轢を高める結果にもなりかねません。
もう少し地道な信頼醸成が必要にも思えますが、現実には紛争・テロによって欧米・イスラムの亀裂は深まるばかりです。

【「国家の価値観と相容れない」】
欧州では、イスラムを象徴するようなブルカ・ニカブという女性の服装が問題になっています。
ブルカ・ニカブ、あるいはスカーフというイスラム女性の衣服は、誰の目にも一目瞭然のため、欧州社会にあっても、イスラム社会にあっても、文化的対立あるいは宗教と世俗の対立の象徴として常に問題となります。

****仏、ブルカ禁止法案を閣議決定*****
フランス政府は19日、イスラム教徒の女性が顔や体を覆うベールの公共の場での着用を禁じる法案を閣議決定した。7月に議会に上程する。
法案は、仏国内の公共の場所で「顔を隠すようデザインされた衣服」の着用を禁じる内容。違反者には150ユーロ(約1万7000円)の罰金か、フランス国民の価値観を学ぶ講習会への出席が求められる。また、脅迫や暴力、社会的地位の乱用によって女性に顔を隠す衣服の着用を強制した者には、禁固1年と1万5000ユーロ(約170万円)が科される。
法案が定義する「公共の場」は、道路、商店、映画館、レストラン、市場など一般の人が立ち入ることができるあらゆる場所と、すべての政府施設とされている。【5月20日 AFP】
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法案によると、ブルカなどの名称は明示していませんが、頭から爪先までを覆うイスラム女性の「ブルカ」や「ニカブ」を想定したもので、イスラム教徒を狙い撃ちにした法律です。
禁止される「顔を隠す着衣」の例外は、オートバイ運転時のヘルメット、外科手術を受けた後のマスク、カーニバルでの仮装などに限定されそうです。
なお、仏内務省は、同国内で頭からつま先までを覆うベールをかぶっている女性は2000人に満たないとしています。

議会審議は7~9月に予定されていますが、議会は与党・民衆運動連合が多数を占めているため、この「ブルカ禁止法」は成立する見通しです。なお、ベルギーでも4月末、同様の法案が下院で可決されています(法律の成立は夏以降にずれ込む見通し)。

この「ブルカ禁止法」に先だって、フランス国民議会(下院)は今月11日、イスラム教徒の女性が顔や体を覆うベールは「国家の価値観と相容れない」とする決議を出席議員全員の賛成で採択しています。
決議はブルカなどが「女性の尊厳と男女平等を侵害」するとし、「着用を強制される女性を守るため、必要なあらゆる措置」を検討すべきだと主張。サルコジ政権の右派与党のほか最大野党の社会党も賛成しました。共産党や緑の党は棄権しています。

右派のサルコジ大統領は昨年6月、「ブルカは女性の従属の象徴だ」「フランスはブルカを歓迎しない」と発言し、ブルカ禁止へ向けた動きが進んできましたが、仏国務院(行政最高裁)は3月、公共の場でのブルカ着用を全面禁止することは、「自由や人権と相いれず違憲の疑いがある」とフィヨン首相に勧告しました。
サルコジ政権がこれを振り切って厳格な禁止を目指す背景には、3月の地方選で大きく躍進した移民排斥の極右勢力・国民戦線の支持基盤を突き崩したい思惑があるとも報じられています。【5月12日 読売】

「ブルカ禁止法」を推進した有力与党議員のルカ氏は取材で次のように語っています。
“「ブルカは政教分離の原則にも反する。着用者と市民は共生できない」と強調。(1)ブルカを隠れみのにした強盗など、犯罪防止の観点からも問題(2)世論調査では市民の約6割が禁止法を求めた--など、禁止派の代表的意見を代弁した。
ルカ氏は、ブルカ問題に関する下院調査委の委員。同委は1月、学校など公的機関での着用禁止を勧告した。だが、同氏は「学校では子どもを迎えに来た母親に身元確認のためブルカを脱ぐよう求めている」と述べ、公的機関で事実上の禁止が進んでいると指摘。さらに全面禁止が望ましいと語った。
ルカ氏は「法の目的はブルカを徐々に消滅させることだ。今、禁止しなければ、現在2000人の着用者が、10年後には10倍に増える」と主張した。”【4月24日 毎日】

フランスでは、公的な場所でのスカーフなど宗教色が強い衣服の着用が政教分離を国是とする共和国の理念に反するという観点から、04年に公立学校でのイスラム教のスカーフ着用が禁止されるなど、従前からスカーフなどイスラム女性の衣服が問題となっていました。
今回の顔を隠すニカブ・ブルカについては、更に男女平等の理念にも反し、治安上の問題もあるということで、禁止法に強い反対はなかったようです。

【移民排斥の政治的保守化の底流、女性の社会心理的側面】
こうした流れの底流には、3月の地方選で移民排斥の極右勢力・国民戦線が大きく躍進したように、移民・イスラムの増加が社会の価値観・規範を崩壊させるのではないかとの恐れが、国民の間に広まっていることが考えられます。この移民排斥・保守化の政治的流れは、フランスだけでなく他の欧州諸国でも見られる現象です。

なお、今回ブルカ禁止法は、女性に顔を隠す衣服の着用を強制した者への罰則を厳しく科し、女性は被害者との立場をとっていますが、フランス社会では、夫の強制などによって着用するのではなく、若い女性が進んで着用する場合が多いとも言われています。
なぜ彼女らはニカブなどを着けたがるのか?・・・というのは社会心理学的な問題でもあります。

【受容すべき社会の価値観】
宗教対国家の問題、女性隷属の象徴、治安問題、そして女性の心理的問題・・・検討すべき要素は多々ある訳ですが、個人的な感想としては、日本を含めた欧米的民主主義は、個人が自らの意思を自由に表明することによる市民相互のコミュニケーションを前提にした社会であり、“顔を隠す”という行為はどうしてもこのコミュニケーションを拒絶しているように思われ馴染めません。顔を隠してしまえば、ある意味、正体を隠したような気楽さもあるかも・・・でも、それでは市民社会は成立しないのでは。
宗教的・文化的な問題はあるでしょうが、欧米社会で生活する以上は、その基本的価値観を容認せざるを得ないのではないでしょうか。

「女性のズボン着用は厳禁する」という法律が、フランスでは今も残存していることが話題になりました。
法案が制定されたのは革命直後の1799年。「健康上の理由以外」での女性のズボン着用を禁じ、その後の「改正」で「乗馬などの際に限って」の着用が認められたとか。
今回の「ブルカ禁止」が将来どのように見られるか・・・との指摘もありますが、今となっては無意味な「ズボン禁止」も、当時の社会にあっては、社会秩序維持の観点から十分に意味のあったものだったのでしょう。

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ナイル川の水資源利用に関する上流国と下流国の対立

2010-05-20 22:15:39 | 国際情勢

(ナイル川 流域には濃い緑が、しかし、離れると不毛の大地 “flickr”より By Ed Yourdon http://www.flickr.com/photos/yourdon/3140354193/)

【「エジプトはナイルの賜物」】
古代ギリシャの歴史家ヘロドトスは、著書『歴史』のなかで、「エジプトはナイルの賜物」と書いています。
現在のエジプトにとっても、ナイル川は貴重な水源です。エジプト国内で一年間に消費される水のうち、86%は青ナイルの水で、14%は白ナイル川の水で賄われています。
【「互敬の世界へ」(http://gokei.seesaa.net/article/149919865.html)より】

ただ、ナイルの水が貴重なのはエジプトだけでなく、ナイル上流国も同様です。
ナイル川はアフリカ大陸の10カ国を流れる国際河川です。

【新協定「ナイル流域協力枠組み協定」】
東南アジアでは、異常渇水のメコン川をめぐる流域各国と上流国中国の対立があること、経済的・政治的影響力を高めている中国が流域各国の不満を抑え込んでいるようにも見えることは、4月7日ブログ「メコン川異常渇水 流域国首脳会議は中国に“配慮”して沈黙」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100407)で取り上げたところです。

アフリカでは、ナイル川の水資源利用をめぐって、エジプト・スーダンの下流国と上流国の間で、やはり対立があるようです。
この地では、「水は命」「血の一滴」とも言われます。

エジプトは人口急増で1人当たりの取水量が年々減少しており、容易に妥協できない事情があります。
一方、上流の各国も人口増や経済発展のため、発電やかんがい用の水需要が増加しており「水が必要ならエジプトは上流国から買うべきだ」(ケニア)と譲りません。

昨年7月末も、エジプト・アレクサンドリアで「ナイル流域イニシアチブ(NBI)」の閣僚会合が開かれ、ナイル川の水利用に関する新協定案の合意を目指しましたが、結論は出ず、協議は半年間延長されました。
また、2010年4月13日にNBIの臨時閣僚協議会がエジプトで開催され、新たな取水割当量を定める協定について話し合われましたが、1959年の協定の維持を求めるエジプトとスーダンの反対により、合意に至ることはできませんでした。

****ナイル川流域の新利水協定、上流4か国が署名 下流国は欠席******
ルワンダ、エチオピア、ウガンダ、タンザニアのアフリカ4か国は14日、ウガンダのエンテベで、ナイル川流域国の公平な水利用を目指す新協定「ナイル流域協力枠組み協定」に署名した。
ナイル川上流の諸国は、下流のエジプト、スーダンと協議して、かんがい施設や水力発電所の建設ができるようにしたい意向だが、利用可能水量の減少を恐れ新協定に反対している下流のエジプトとスーダンは会合に欠席した。
エジプトとスーダンが1959年、ナイル川の水の90%以上を両国で利用することで合意していた。新協定は、流域国は他国に悪影響を与えない範囲で自由に水を使えると定めている。
ケニアは署名はしなかったが新条約を支持する声明を出した。ブルンジとコンゴ民主共和国(旧ザイール)は会合に出席しなかった。【5月18日 AFP】
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その後の報道によると、ケニアも署名しました。
“エジプトとスーダンは、上流7か国がかんがい施設や水力発電所を建設した場合、自国への水供給が大幅に削減されるとして、新協定に反対している。エジプト政府は、「新協定には法的拘束力がなく、自国の水の取り分が減らされるいかなる協定も拒否する」と表明している。
署名に臨んだケニアのチャリティ・ヌギル(Charity Ngilu)水利相は、「(署名を拒否する)2か国は、協定の導入を妨げることはできない」と強気の姿勢を見せた。”【5月20日 AFP】

【「歴史的権利」か、植民地時代の「悪しき残滓」か】
歴史的にみると、ナイル川流域国の水配分は基本的に、1929年にエジプトと英国(支配下のアフリカ4カ国を代表)、59年にエジプトとスーダンがそれぞれ結んだ二つの協定に基づくとされています。
この協定では、ナイル川の年間水量を推定840億トンと規定。うち約100億トンを蒸発喪失分として差し引き、エジプトは555億トン(約75%)、スーダンは185億トン(約25%)の取水権を持ちます。
他の流域国の取り分については「要求があれば両国が共同対処する」(59年協定)とあるだけ。
エジプトは自国の取水に影響が出る上流国でのナイル川関連事業などに対する事実上の拒否権(29年協定)も保持しています。

こうした歴史的経緯から、ナイルの水使用を「歴史的権利」と考えるエジプトに対し、60年代初頭に独立した上流・水源国のほとんどにとって、既存の協定は植民地時代の「あしき残滓(ざんし)」と映っています。
エチオピアやケニアでは干ばつの影響で、1600万人以上が食料不足に直面しているとの国際NGO報告もあります。この地域には人口増加率が高い貧困国が多く、水は国の存亡にかかわる資源です。【09年10月5日 毎日より】

“世界では水を巡る争いは枚挙にいとまがない。米オレゴン州立大の調査では、48~99年に37件の武力衝突が発生した。中東では、ヨルダン川の水利問題が67年の第3次中東戦争の一因になったと言われる。世界的にも「21世紀には水資源の争奪から戦争が起きるだろう」(世銀幹部)との懸念がくすぶる。ヨルダンの元水資源相、ムンター・ハッダディン氏は「合意できなければ国際司法裁判所を利用する方法もある。武力で水紛争を解決するのでは意味がない」と話している。”【同上】

【水資源の有効活用】
上流国当事者が参加していない29年、59年の協定を押し付けられても、上流国は納得できないでしょう。
上流国の利益を考慮した新たな枠組みが必要とされています。
いずれにしても、貴重な水資源の有効利用が求められています。
上記毎日記事では、そうした水資源の有効利用を可能とする日本の活動も紹介されています。

“流域国の政治的駆け引きが続く一方、ナイル川の水の有効利用を目指す草の根的な事業もある。その一つが、日本の国際協力機構(JICA)が支援するエジプトの「水管理改善プロジェクト」だ。灌漑(かんがい)施設の整備、水利組合の設立・活動促進による水配分の効率化が狙いだ。・・・「米の収量は10~15%向上。使用可能な耕地も増えた」(エジプト水資源灌漑省の出先機関担当者)・・・また、灌漑水路からの取水を巡る地域住民のトラブルも「年間40~50件の水争いが半減した」”

アフリカでは急速な経済発展、中国・インドなどの資源獲得競争などが報じられていますが、日本のこうした地道な活動を国家的に支援・拡大していけば、将来の日本にとっても大きな利益が還元されるのではないでしょうか。

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イラン追加制裁決議草案、中ロも合意 しかし、採択は難航するとの見方も

2010-05-19 21:57:08 | 国際情勢

(NPT再検討会議で熱弁をふるうイラン・アフマディネジャド大統領 “flickr”より By United Nations Photo
http://www.flickr.com/photos/un_photo/4579678882/)

【「イランは依然、深刻な懸念の元凶」】
イランの核開発問題をめぐる動きが急になっています。
一昨日ブログで、トルコ外交の観点からとりあげたように、新興国であり、また安保理非常任理事国でもあるトルコ・ブラジルの仲介によって、イランとの間で一応の合意が得られました。
ただ、その内容はアメリカなどがこれまでイランに求めていたIAEA案とは異なる内容でもありました。

****低濃縮ウラン イラン、移送に合意 トルコ保管、IAEA案となお相違****
国連安全保障理事会で追加制裁の論議が進むイラン核開発問題で、イラン政府は17日、低濃縮ウラン(LEU)のトルコへの移送に同意し、核危機回避の仲介に当たっていたトルコ、ブラジル両国と合意文書に調印した。これにより、争点となってきた低濃縮ウランの国外移送は可能となるものの、対イラン制裁強化を目指す米欧からは「イランの核開発計画全体が突きつけている問題を解決するものではない」(フランス外務省報道官)などと疑念を表明する反応が相次いだ。

イランのモッタキ外相らによると、(1)イランはLEU(濃縮度3・5%)1・2トンをトルコに移送し、引き換えにウィーン・グループ(米仏露3カ国)は1年以内に医療用原子炉用ウラン燃料(濃縮度20%)120キロをイランに提供(2)イランは、米仏露の合意受諾から1カ月以内にLEU移送を開始(3)合意不履行の場合、LEUは無条件にイランに返還される-などが合意の骨子だ。合意は1週間以内にIAEAに正式に通知される。
合意をめぐっては、「イランの核平和利用の権利」を擁護するブラジルのルラ大統領が16日、テヘランで最高指導者ハメネイ師らと会談。核危機の深刻化を懸念する隣国トルコのエルドアン首相も同日深夜、急きょテヘラン入りし、17日朝、アフマディネジャド、ルラ両大統領との3者会談で最終合意に達した。
アフマディネジャド大統領は17日、イラン核問題にかかわる国連安保理常任理事国5カ国とドイツに対し、新たな対話に入るよう呼びかけ、トルコのダウトオール外相は「新たな制裁や圧力を科す根拠はなくなった」と強調した。

当初のIAEA案は、昨年秋の時点でイランが保有していたLEUの約8割に相当する1・2トンをロシアに移送し、20%に濃縮。さらにフランスで研究用原子炉用の燃料棒に加工して返還するという内容。イランは国内での同時交換を主張し、交渉は膠着(こうちゃく)状態に陥っていた。
イランはこの間、新たな濃縮施設建設計画を発表するなど濃縮活動拡大の動きを早め、昨年秋には1・5トンだったLEU保有量は現在、約2トンに増加。サレヒ原子力庁長官は17日、今年2月に独自に開始した濃縮度20%のウラン濃縮を今後も継続すると改めて表明しており、イランが保有するLEUのほとんどを国外に搬出し、兵器転用の難しい燃料棒に加工するとされたIAEA案の当初の狙いは焦点を失いつつある。

一方、イランは今回の合意で国外移送には応じるとしたものの、LEUはトルコに留め置かれ、燃料棒に濃縮・加工する方法は不透明なまま。制裁に同調する動きを見せ始めていた中国やロシアと、米欧の対応が再び割れる可能性も強く、対イラン制裁協議撹乱(かくらん)の狙いも透けてみえる。
欧州各国からは17日、「イランは依然、深刻な懸念の元凶」(英政府高官)などとし、制裁強化を求める声が相次いだ。【5月18日 産経】
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このイランの低濃縮ウランのトルコへの移送合意について、オバマ米政権は「本質的な部分で内容に新味はなく、米国は懐疑的なままだ」(クローリー米国務次官補)と、今後も国連安保理の追加制裁を求める姿勢に変化がないと強調。イランには過去に何度も合意不履行を繰り返してきた「前科」があり、今回の合意も制裁回避を狙った時間稼ぎの側面があるというのが、アメリカ側の見方です。
安保理決議に違反する核兵器にも転用可能な濃縮度20%のウラン製造をイランが継続するとしている点も問題になります。
また、イランは2065キロの低濃縮ウランを保有しているとみられており、1200キロをトルコに移送しても865キロが国内に残ります。しかも1日の低濃縮ウラン製造能力は4キロと推定され、約1年で原状回復が可能だとみられています。

【アメリカ:追加制裁決議案提示】
このため、アメリカはあくまでも追加制裁を科す方向で動いており、クリントン米国務長官は18日、上院外交委員会で証言し、イランの核開発をめぐる国連安全保障理事会の追加制裁決議案に中国とロシアが合意したことを明らかにしました。
(トルコなどが仲介に動くにあたっては、当然アメリカ側の意向も踏まえているはずですが、このあたりはよくわからないところです。)
そして、国連安全保障理事会は18日、緊急の非公式協議を開き、アメリカがイランの核開発に対する追加制裁決議案を提出しました。

****米がイラン追加制裁決議案、ブラジル拒否****
記者会見したライス米国連大使によると、新たな措置として、北朝鮮制裁で適用した核関連物資の輸送が疑われる船舶などに対する検査と押収物の廃棄を盛り込み、弾道ミサイル関連の活動を禁止した。だが、非常任理事国のブラジルが拒否を表明、協議は難航しそうだ。
過去の決議では、国連加盟国にイランからの武器輸入のみを禁じ、イラン向け輸出は「警戒」を求めたが、追加制裁では輸出も禁止。また、イランによる核やミサイル関連の海外投資を禁じ、国際金融取引を阻止する措置を強化する。決議の履行状況を監視する専門家グループの設置も初めて盛り込んだ。
中国が反対していた石油ガス関連への制裁はなく、エネルギー分野の収入と核拡散の「潜在的な関係」を指摘するにとどめた。
決議案は、イランのアフマディネジャド大統領が支持基盤とする革命防衛隊と核拡散の関係を指摘。同隊関係者を中心に、資産凍結や渡航禁止の対象が今後の協議で拡大される方向だ。
決議案には制裁に難色を示していた安保理常任理事国の中国とロシアも合意。採択されれば4本目の制裁決議となる。
今後、非常任理事国のブラジル、レバノン、トルコなども含めた協議に入る。【5月19日 読売】
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【ブラジル・トルコは反発 中国は?】
ブラジルのビオッティ国連大使は草案の提示後、国連本部で記者団に「ブラジルはこの草案についてはいかなる協議にも関与しない」と述べ、イランとの合意を重視する考えを強調しています。
トルコのダウトオール外相は、合意によって「新たな制裁や圧力を科す根拠はなくなった」と強調、アパカン国連代理大使も追加制裁決議案について、「問題解決への機運が台無しになる」と否定的見解を述べています。

微妙なのは追加制裁決議案に合意したとされる中国です。
中国の李保東・国連大使はトルコ・ブラジル仲介による合意を歓迎しつつ、「我々がバランスの取れた決議案をつくったかどうかを安保理で検討するのは、良い機会だ」、「対話と交渉こそが最善の解決策だ」と交渉の余地が残っていることを示唆しています。今後の成り行き次第で・・・というところでしょう。
なお、ロシアのメドベージェフ大統領は17日、イランが低濃縮ウランのトルコへの移送に同意したことについて、「興味深い知らせだ」としながらも、国際社会の懸念は残るとし、関係各国と一刻も早く協議すべきだとの立場を示しています。
いずれにしても、ブラジル・トルコなど非常任理事国が反発しており、採択は難航が予想されています。【5月19日 毎日より】

“このまま採決に持ち込めば、非常任理事国から多くの棄権や反対票が投じられる可能性もある。また、国連本部では核不拡散条約(NPT)再検討会議が開催中だ。安保理常任理事国であり、核保有国でもある米国などの対応次第では、非核兵器国の反発を呼び、全会一致による最終文書の採択にも影響が出ると見られている”【5月19日 朝日】

【NPT再検討会議への影響】
国連本部で開かれている核不拡散条約(NPT)の再検討会議は、これまで全会一致方式をとってきましたが、今回は問題の当事者イランの参加もあって、史上初の投票による採決が取り沙汰されています。

****全会一致の伝統変わるか NPT会議、投票採決も視野*****
発効40年のNPTの歴史で、最終文書を巡る採決は一度も行われていない。手続き上、理論的には採決にかけることは可能だ。ただ、各国の安全保障にかかわる事象を扱うNPTで、少数意見を切り捨てる方法はなじまないとの考えは根強くある。
しかも、脱退表明した北朝鮮を除く加盟189カ国の大半は途上国が占めており、先進国は「数の勝負なら、勝ち目はない」(外交筋)。へたをすれば国際社会の分裂を印象づけかねないため、採決を回避したいのが本音だ。

全会一致の伝統を守れるかどうかを左右する最大の要因となりそうなのが、核兵器開発疑惑を持たれるイランだ。
米国は開幕前には、イランの反対を念頭に「はみ出しもののせいで合意形成に至らなくても、NPT強化は可能」(タウシャー国務次官)と、最終文書採択にはこだわらない姿勢を見せた。
これは「会議が失敗した場合に備え、期待値を下げる戦略」だとの見方が外交筋の間では大勢だ。イランの孤立を際立たせるため、あえて採決に持ち込むとの憶測も飛ぶ。

だが、安全保障理事会の非常任理事国トルコとブラジルが仲介に入り、イランからトルコへの低濃縮ウランの国外搬出で合意したことで、事態はさらに複雑になった。なお追加制裁に積極的な米国への批判から、イランに同調する国が出てくる可能性もある。
それでも採決説が出てくる背景には、1カ国でも反対すれば成果がでない全会一致方式への疑問がある。
国連のジュネーブ軍縮会議では3月、核兵器の「原材料」となるプルトニウムと高濃縮ウランの生産を禁じる兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約の交渉が、パキスタン1カ国の反対で暗礁に乗り上げた。全会一致の原則が足かせであり、軍縮会議以外で議論すべきだとの意見が出始めている。(中略) 国際原子力機関(IAEA)も最近は採決が定番になりつつある。昨年11月の理事会(日米など35カ国)では、イランのウラン濃縮施設の建設中止などを求める決議案を、先進諸国が主導して採決に持ち込み、賛成多数で採択した。【5月19日 朝日】
******************************

安保理で追加制裁決議採決を強行すれば、NPT再検討会議で、途上国などの多数をイラン側支持に追いやる危険もあります。アメリカにとっては難しいかじ取りが要求されます。

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香港  民主派“捨て身”の辞職作戦、実質的な失敗

2010-05-18 22:01:55 | 国際情勢

(07年1月1日の香港での民主化要求デモ 香港のデモと言うと天安門事件のときの百万人デモの記憶もあります。しかし、中国の存在感が増すなかで、香港・民主派の今後については厳しいものがあるようです。“flickr”より By The-Wu
http://www.flickr.com/photos/the-wu/684492543/)

【民主派:事実上の住民投票を狙う】
行政長官選挙と立法会選挙での全面的な直接選挙実施を求める、香港立法院のいわゆる民主派議員5名が敢えて辞職し、補欠選挙を実施し、直接選挙の実現など民主化要求の是非を民意に問う形で事実上の直接選挙早期実施に関する住民投票としようという“捨て身”の作戦は、失敗に近い不発に終わりました。

****香港補選、再出馬の民主派5人当選…投票率最低*****
民主派議員5人の辞職に伴う香港立法会(議会=定数60)の補欠選挙が16日行われ、辞職、再出馬した5人がそのまま当選した。
香港政府に選挙制度改革進展を促そうとする民主派は、今年1月、辞職による補選を仕掛けて世論喚起を図る戦術を採った。しかし、議会で過半数を占める親中派各党は候補者を立てず、投票率は17・1%と1997年の中国返還以来、最低となった。
民主派は今補選を「事実上の住民投票」と位置づけたが、失敗に終わった。【5月17日 読売】
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香港の現在の選挙制度では、トップの行政長官は間接選挙によって選ばれ、立法会の議席も半分は商業、漁業など各業界代表から選ばれています。いずれも親中派が選ばれやすい仕組みで、民主派は12年に行われる次回の選挙で全面的な直接選挙の実施を強く求めています。
香港特別行政区政府は昨年11月、行政長官を選ぶ選挙委員の増員などを含む2012年の両選挙の制度改革案を発表しましが、それには全面的な直接選挙は含まれておらず、民主派は反発を強めていました。

“これまでの世論調査では、香港市民の多くが直接選挙の早期実施を支持しているが、最近、北京との良好な関係を望む声が高まり、民主化や直接選挙への社会的関心が低下している。民主派としては、直接選挙枠のある5つの選挙区で有力議員5人を辞職させ、補欠選に立候補させて再当選を目指し、直接選挙の早期実現に道筋を付けたいところだ”【1月23日 産経】という狙いでの、辞職・補欠選挙実施でした。

【親中派:候補者を立てず】
民主派の焦りも感じさせる、思い切った“賭け”のような作戦でしたが、親中派は「社会を混乱させる行為だ」と猛反発、中国政府は議員辞職について「香港は中国の一つの行政区域であり、住民投票制度を創設する権利はない」と反対する声明を発表、1月の辞職当時は“阻止しようとする親中派による必死の抵抗は不可避で、芸能人など強力な候補者の擁立で対抗することが予想される。香港メディアは、辞職した5人が再び当選できるかどうかは微妙な情勢だと伝えている。”【1月23日 産経】とも報じられていました。
また、香港の中国系メディアからの、「1億香港ドル(約12億円)を超える補欠選費用は税金の無駄遣いで、福祉にまわすべきだ」といった批判もありました。

結局、親中派は候補者を立てずに選挙をボイコットする形で、事実上の直線選挙早期実施を問う住民投票としようという民主派の目論見を封じ込める作戦をとりました。
民主派候補は泡沫候補相手に再選ははたしたものの、投票率は17・1%と1997年の中国返還以来、最低となり、民主派陣営の基礎票とされる20%にも満たなかったことから、「完敗」との指摘もあります。
親中派の中央政府寄りの政党が対立候補擁立を擁立せず、曽蔭権(ドナルド・ツァン)行政長官はじめ政府高官は投票棄権を宣言するなど、周到な封じ込めが成功した形となりました。

【厳しい民主派の今後】
“このため、補欠選挙は意味がなかったとして、議員を辞職させた民主派に対する市民の批判が強まっており、中国政府などに対して直接選挙の実施を求める民主派の政党は、今後の活動の見直しも迫られる形となっています”【5月17日 NHK】と、民主派の今後について厳しい見方がされています。
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トルコ外交  ギリシャと関係改善 イラン核問題を仲介

2010-05-17 23:14:15 | 国際情勢

(手前で拍手しているのが、左トルコ・エルドアン首相、右ギリシャ・パパンドレウ首相
5月14日 “flickr”より By GreeceMFA
http://www.flickr.com/photos/greecemfa/4614780592/in/set-72157624058414280/)

【財政危機のギリシャにトルコが手を】
経済成長を背景に、地域大国としての存在感を増しているトルコですが、昨日・今日と、その外交成果に関する記事が目につきます。
ひとつは、ギリシャとの経済協力・軍事費削減に向けての合意です。

****ギリシャヘ救いの手 トルコ 経済協力で融和狙い キプロス再統合交渉前進へ道筋*****
ギリシャのパパンドレウ首相とトルコのエルドアン首相が14日、アテネで首脳会談をし、経済協力の強化とともに、軍事費削減に向けて両国が努力することで合意した。深刻な財政危機のギリシャに経済成長著しいトルコが手を差し伸べた形で、キプロスの分断をめぐって対立してきた両国の関係が一気に改善に向かう可能性が出てきた。           

6年ぶりのギリシャ訪問となったエルドアン首相は、10閣僚と約150人の財界人など計約400人を引き連れてアテネ入り。ハイレベル協議を毎年実施することを決めたほか、貿易、教育、エネルギー、環境などの分野での協力協定に署名した。両国の貿易額を現在の約2倍の50僚ユーロ(約5700僚円)にまで引き上げることを目標としている。
記者会見でエルドアン首相は「エーゲ海を分断の海ではなく、平和の海にしたい」と述べ、防衛費削減にも前向きな考えを示した。パパンドレウ首相も「多くの島国からなる我が国は、トルコが我々から島を奪うのではないかと恐れている。この脅威を我々が取り除きたい」と応じた。

財政危機のギリシャは欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から総額1100値ユーロ(約12・5兆円)の融資を受ける条件として、公務員の削減や年金の削減、付加価値税の増税など厳しい緊縮策を決めたが、国民の反発は収まる気配がない。
その中で、ギリシャにはトルコとの関係改善によるメリットは大きい。海運業と観光業、農業ぐらいしか産業がないギリシャにとって、トルコからの投資拡大は救いだ。トルコは有力な新興経済国の一つで、今年は4%近い経済成長率が見込まれている。
さらに、両国の緊張緩和が進めばギリシャは国内総生産(GDP)の5%以上にのぼる軍事支出も削減でき、財政再建にも寄与する。
一方のトルコには、南北に分断ざれているキプロスの再統合交渉を前進させたい思惑がある。EU加盟を目指すトルコは、その条件としてキプロス問題の解決を迫られているが、交渉は遅々として進まないうえ、今年4月に北キプロス・トルコ共和国で再統合に慎重なエロール大統領が就任し、再統合の行呑暗雲が垂れ込めていた。【5月16日 朝日】
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記事にもあるように、両国およびキプロスにとって影響の大きい合意です。
財政危機で欧州ひいては世界経済破綻の発火点となりかねないギリシャは、トルコからの投資拡大、軍事費削減による財政負担軽減が期待できます。

【南北キプロス再統合交渉への影響】
南北分断が続くキプロスでは、トルコからの支援を受ける形で島の北半分を支配する北キプロス・トルコ共和国で4月18日行われた大統領選挙は、南北キプロスの再統合に消極的なエロール首相(72)が約50・4%を獲得して当選、南のギリシャ系のキプロス共和国との交渉を続けてきた統合推進派の現職、タラト大統領が敗北しました。

“2008年に始まった南北キプロスの再統合交渉では、中央政府の下でトルコ系の北キプロスが自治権を行使する方向で和平が検討されてきた。エロール氏は勝利宣言で、「交渉を継続する」と言明したものの、「南北2つの国家の共存による国家連合の実現」が持論だ。キプロス共和国のフリストフィアス大統領は、交渉の方向性の見直しには応じない構えであり、エロール氏の当選で今後、さらに交渉が停滞する懸念が出ている。”【4月20日 産経】といった状況にありますが、南北キプロスそれぞれの後ろ盾であるトルコとギリシャの関係が改善すれば、南北キプロス間の交渉進展の可能性も出てきます。

そしてキプロス問題の前進は、トルコにとっては悲願のEU加盟への扉を開くことにもなります。
(もっとも、EU側はイスラム文化のトルコ加盟には消極的で、仮にキプロス問題で前進があっても、なかなか扉を開かないのでは・・・とも思われます。)

いずれにしても、今回のギリシャ・トルコの合意は、いろんな面でタイムリーな交渉でした。

【「(制裁回避への)最後のチャンス」】
もうひとつ、今日の話題として、トルコ・ブラジルが仲介してきたイラン核開発問題に関する協議で、イランとの合意に達したという事案があります。

****イラン:トルコと合意か 低濃縮ウラン搬出で******
イランの核開発問題で、ブラジルとトルコが仲介役となって進めていた協議で、トルコのダウトオール外相は16日、テヘランで、イランとの間で合意に達したことを明らかにした。ロイター通信が伝えた。合意の詳細は不明だが、イランから持ち出す低濃縮ウランと外国がイランに提供する核燃料を、トルコなど第三国で同時交換することで合意した可能性がある。ただし、米欧諸国が合意内容に納得するかどうかは不透明で、対イラン制裁回避につながるかは不明だ。

09年10月以降の交渉で、米欧諸国は、イランが保有する低濃縮ウランの大半を持ち出して露仏両国で再濃縮、核燃料化を進め、後日イランに戻すとの計画を提案。イランはこれを拒否し低濃縮ウランと核燃料のイラン国内での同時交換なら応じるとの対案を提示。米欧・イラン両者の溝は埋まらず、米欧は国連安保理で制裁強化を模索している。
この問題で、ルラ・ブラジル大統領とエルドアン・トルコ首相が相次いでテヘランを訪れ、16日夜にアフマディネジャド大統領と3者会談した。また、外相レベルで3カ国が会談を続けた結果、イラン側が一定の譲歩をしたとみられ、合意内容は17日に正式発表される見通し。

しかし、制裁強化を急ぐ米欧諸国は、ブラジルとトルコによる仲介について「(制裁回避への)最後のチャンス」としている。米欧には、イランの対応に不信感が根強く、イラン側が大幅な姿勢転換を示さない限り、制裁回避にはつながらないとみられる。【5月17日 毎日】
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まだ内容については明らかではなく、アメリカなどの了解が得られるものかどうかはわかりません。
ただ、ブラジルやトルコといった新興国の国際的役割の高まりを印象づける記事です。

****イラン:ウラン搬出 存在感増した「誠実な仲裁者」トルコ****
イラン核問題で仲介したトルコは近年、欧米とは一定の距離をおく独自の外交政策で、中東の安定に向けた「誠実な仲裁者」の役割を担おうとしている。専門家は今回の合意について、トルコが「国際社会でのアピールに成功した」とみる。

トルコ外交の第一人者で、大統領顧問も務める中東工科大学(アンカラ)のフセイン・バージュ教授(国際関係)は、イランが核兵器開発を放棄せずに、制裁回避に向け時間を稼げたと指摘する。「イランはイスラム世界と第三世界のスター(トルコとブラジル)をバックにつけることで、伝統的な、したたかな外交に成功した」
今回の仲介外交について、トルコは米国と綿密に打ち合わせて「青信号をもらった」という。米国はイラクとアフガニスタンでの戦争を二つ抱え、イランに対し強硬姿勢をとれない中で、同じく「時間稼ぎが必要だった」。
トルコは今月中旬、国内初の原子力発電所建設に向け、ロシアの協力を得ることで合意を得たばかりで、原発後進国だ。核燃料の交換を監視するとはいえ、そもそも交換には「米国または西欧の協力が不可欠」と話す。米欧とイラン双方の思惑を仲介する形で、イランを交渉の場に引き出し、核開発を遅らせる結果となり、「トルコとブラジルも勝者だ」という。

トルコは国民の大半がイスラム教徒ながら、北大西洋条約機構(NATO)加盟国として、また欧州連合(EU)の加盟を目指し、従来は米欧寄りの政策をとってきた。03年、初のイスラム系政党の単独政権としてエルドアン首相(公正発展党)が就任して以来、中東のイスラム諸国やロシアとの関係も重視。08年には、シリアとイスラエルの和平交渉を8年ぶりに再開させる外交努力で存在感を高めた。
またイランの核開発を巡り、国連安全保障理事会の非常任理事国として、対イラン制裁に反対してきた。隣国であるイランとは原油輸入などを通じ経済関係が深まっており、制裁の影響が自国へ波及することを恐れたことも背景にある。
【5月17日 毎日】
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核拡散防止条約(NPT)再検討会議とオバマ米大統領の「核兵器なき世界」

2010-05-16 13:34:47 | 国際情勢

(NPT再検討会議開幕の前日の2日、ニューヨーク・タイムズスクエアをデモする日本からの市民団体 “flickr”より By asterix611
http://www.flickr.com/photos/28722563@N05/4585252920/sizes/m/
“国連本部で開催されている核拡散防止条約(NPT)再検討会議は7日午後、民間活動団体(NGO)が各国政府代表らに核廃絶などを直接訴えるセッションが行われ、被爆者や秋葉忠利・広島市長らが「核兵器なき世界」に向け、世界が一つになって取り組むよう求めた。セッションには約300人が出席。日本原水爆被害者団体協議会を代表し、長崎で被爆した谷口稜曄(すみてる)さん(81)が再検討会議で初めて被爆体験を証言。背中にやけどを負った自身の写真を掲げ、「私を最後の被爆者にするため、廃絶の声を全世界に」と訴えかけると、政府代表らは立ち上がって拍手で応えた。”【5月8日 読売】

【「非常に速いテンポ」で草案】
5月3日~28日まで4週間にわたって国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議は14日、3委員会の議長が前半の議論を締めくくる報告の草案を示しました。
核兵器保有国の増加を抑止し、核兵器保有国には核兵器の削減義務を課すNPTは、国際的な核軍縮・不拡散を実現するための最も重要な基礎となるものです。
しかし、核兵器保有国であるインドとパキスタンは、条約が制定時の核兵器保有5か国にのみ核兵器保有の特権を認め、それ以外の国には保有を禁止する不平等条約であるため未加盟であり、核兵器を保有していると疑われているイスラエルも未加盟です。

会議では「核軍縮」「核不拡散」「原子力の平和利用」について3委員会に分かれて討議されており、今回示された草案は最終文書の土台となります。
草案は、オバマ米大統領の「核兵器なき世界」を求める政策に後押しされる形で、核兵器廃絶に向けた行程表作りを求めるなど「核軍縮」促進で踏み込んだ点が目立つとされています。
ただ、“核軍縮分野で非核国の、核不拡散分野で核保有国の意向をそれぞれ強く反映させ「落としどころ」を探った妥協の産物でもある”【5月15日 毎日】とも指摘されており、最終文書とりまとめに向けた後半の議論の過熱が予想されています。

****NPT合意草案:「核廃絶行程表」14年に国際会議で作成*****
国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議のカバクトゥラン議長は14日、核軍縮、核不拡散、核の平和利用をテーマにした主要3委員会が提出した合意文書草案を各国に配布した。毎日新聞が入手した草案では核廃絶への行程表を作る国際会議の14年開催など26項目の行動計画を明記した。
オバマ米大統領の「核兵器なき世界」を求める政策に後押しされ「非常に速いテンポ」(外交筋)で草案が出た。ただ核保有国、非核国のバランスに配慮した「たたき台」で、17日から文言を巡る交渉が激化する。
草案は、具体的な行動計画を策定した。具体的には、核保有国に対し11年までの核軍縮交渉の開始、12年までの加盟国への報告を求めた。また14年に「期限を切った核廃絶」に向けた行程表を討議する国際会議を開くとした。
このほか、核実験全面禁止条約(CTBT)の批准▽兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約の交渉開始▽12年までの核兵器転用可能な核分裂物質の備蓄量公表▽核兵器や運搬手段の数、種類の公表▽査察の能力強化による信頼性、透明性の向上も求めた。(後略)【5月15日 毎日】
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【「単なる言葉でなく、行動で先導している」】
5年前の再検討会議では、核保有国と非保有国の溝が埋まらず失敗に終わりました。今回、何らかの合意に至らない場合、NPT体制が危機にひんするとの認識が核保有国には強く、米国のオバマ政権は自国が核軍縮に努力している姿勢を示すことで、非核保有国との溝を埋めたい考えだと報じられています。

4月にロシアとの間で新核軍縮条約(新START)に調印したアメリカ・オバマ政権は、NPT再検討会議が開幕する5月3日、アメリカが昨年9月末時点で5113発の核兵器を備蓄しており、ピーク時の1967年末から84%削減したと発表しました。アメリカ政府が核軍備の実情を公表するのは極めて異例のことです。
クリントン米国務長官は3日のNPT再検討会議での演説で、非核国による原子力の平和利用を後押しするため、国際原子力機関(IAEA)に5年間で5000万ドル(約47億円)を拠出すると発表するとともに、核兵器備蓄数の公表について「(アメリカ政府は)単なる言葉でなく、行動で先導している」と語っています。

更に、オバマ米大統領は13日、上院へ送付した米露新戦略兵器削減条約(新START)と同時に提出した議会向け報告書(機密扱いで一部のみ公表)の中で、同条約に基づき削減する戦略核兵器の運搬手段の現行保有数と削減予定数の内訳を初めて明らかにし、情報公開を進めています。

もっとも、アメリカ国内事情については、“新核軍縮条約(新START)の批准案に関する審議は今年いっぱいはかかる見通しだ。また、核実験全面禁止条約(CTBT)の批准案の上院提示はそのさらに後で、しかも、批准には上院の3分の2の賛成が必要。11月の米中間選挙で民主党が議席を減らせば、見通しは厳しい。”【5月9日 毎日】というハードルも存在します。
定数100の上院での批准には67人の賛成が必要ですが、民主党系は59議席にとどまり共和党の一部の賛成が不可欠です。しかも、11月の中間選挙を前に党派対立が強まっています。

【新たな通常戦力で軍事的優位】
アメリカ・オバマ政権の核軍縮への積極的な対応は、裏を返せば、テロに使用される危険の増大した核兵器に頼らなくても、通常兵器で軍事的優位を維持できるという“自信”があるとも言えます。
****地球のどこでも1時間以内に攻撃 米、通常兵器で軍事優位に*****
米国防総省が地球上のどこでも1時間以内に攻撃できる通常兵器を開発しており、早ければ14年の配備開始を構想していることが23日、判明した。長距離ミサイルに搭載して超音速で移動し、照準地点近くで分離、衛星情報を得ながら誘導する。同日付の米紙ニューヨーク・タイムズが報じた。核軍縮を進めながらも新たな通常戦力で軍事的優位を確保するオバマ政権の戦略が鮮明になった。【4月24日 共同】
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【招かれざる客、イラン大統領】
なお、今回のNPT再検討会議には、核兵器開発疑惑で追加制裁が検討されているイランのアフマディネジャド大統領も出席しています。
イランも条約加盟国ですので、アメリカとしても「来るな」とは言えません。
イランは追加制裁回避に向け外交攻勢を強めており、NPT参加もその一環とみられています。
今回会議で核不拡散に対する国際社会の意見をまとめたい米国などにとっては、会議進行の不確定要素ともなる「招かれざる客」です。

*****イラン大統領「NPT脱退しない」 1時間半超の大会見******
核不拡散条約(NPT)再検討会議のためニューヨークを訪れているイランのアフマディネジャド大統領は4日、記者会見し、NPTに違反して核開発を進めている疑惑に反論したが、「NPTを改定して公正なシステムにしたい」と述べ、脱退する考えのないことを強調した。
ニューヨーク市内のホテルで行われた1時間半超にわたる会見には、100人以上の報道陣が集まった。
アフマディネジャド氏は、イランに批判的な質問にも淡々とした口調で対応。しかし、米国、国連安全保障理事会などに対しては鋭く批判した。安保理常任理事国などが協議中の対イラン追加制裁については「歓迎はしないが、恐れもしない」と述べた。【5月5日 朝日】
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止まらぬユーロ信用不安 “ユーロ離脱”や“死のスパイラル”も

2010-05-15 13:07:02 | 国際情勢

(ギリシャ 5月5日 政府の財政赤字削減法案に反対するデモで荒れる市街 巻き込まれた観光客でしょうか? 首都アテネ中心部のデモでは、一部の参加者が投げた火炎瓶が銀行の入った建物に引火、建物が炎上し3人が死亡しました。 “flickr”より By George Laoutaris http://www.flickr.com/photos/laoulaou/4591689924/)

【ギリシャ 年金改革へ24時間スト】
ギリシャが欧州諸国と国際通貨基金(IMF)から3年間で総額1100億ユーロ(約12兆7500億円)の大規模融資を受ける条件となるギリシャ政府の財政赤字削減法案について、反対するデモ隊の火炎瓶による火災で死者3人が出るという混乱の中、ギリシャ国会は6日これを可決しました。
法案には公務員給与や年金の削減、増税などが盛り込まれ、財政危機脱出のための荒療治となっていますが、結果的に国民生活を疲弊させ、デフレにより債務状況をさらに悪化させる危険も指摘されています。

財政再建の根幹となる年金改革については、10日、ギリシャ政府の閣議決定がなされています。
****ギリシャ政府、年金改革法案を閣議決定*****
ギリシャ政府は10日、財政赤字削減策に向け、年金制度改革法案を閣議決定した。
法案は、女性の退職年齢を引き上げると共に、年金の早期受給の条件を厳しくする。
ロベルドス労働・社会保障相は閣議後の記者会見で「現世代だけでなく将来の世代のためにも、年金・医療制度を救済している」と語った。
法案は今後10日以内に議会へ提出され、6月に採決が行われる見通し。与党は議会で過半数を占めている。
ロベルドス労相は、年金制度改革を断行しなければ、政府の負担は2050年に対国内総生産(GDP)比で最大24%に達する可能性があると警告した。【5月11日 ロイター】
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一方、2月のギリシャ失業率は12.1%に上昇(昨年2月の失業率は9.1%)。これは少なくとも過去6年で最高の水準で、債務削減に向けた厳しい緊縮財政措置の実施に伴い、今後さらに上昇するとみられています。
こうした厳しい情勢、緊縮策の提示に対し、国民からは激しい反発も出ています。
ギリシャの公共・民間セクターの労働組合は12日、年金制度改革に抗議し、20日の24時間スト実施を呼びかけています。

【厳しいユーロ防衛】
ドイツの慎重姿勢などでもたつきながらもギリシャ支援を決めたEUは10日、ギリシャ財政危機が他国に波及し、更なるユーロ信用不安が起こることを防止すべく、資金繰りの悪化したユーロ導入国を対象に総額最大7500億ユーロ(約90兆円)を融資する新たな支援制度の創設を発表しました。
また、欧州中央銀行(ECB)も10日、ギリシャ危機の拡大を阻止するため、ユーロ圏の国債や民間債を買い取る措置を初めて導入すると発表、深刻化するユーロの信用不安の解消のため、EUとECBが異例の包括策を打ち出しています。

****EU:ユーロ防衛に90兆円…融資制度創設****
・・・・新制度は「欧州版IMFに向けての一歩」(バロワン仏予算相)とされ、ポルトガル、スペインなどに、ギリシャの影響が波及してユーロが崩壊の危機に陥るのを防ぐのが狙い。新制度を適用して融資を受ける国々には、財政赤字削減に積極的に取り組むことを融資条件に据える。
EU条約は加盟国に対する金融支援の強行発動を原則として禁じているが、自然災害や「制御不可能な例外的な事態」に陥った場合には特例として認めている。非ユーロ圏の英国などが「新制度は禁止されている金融支援にあたる」などと難色を示したため、調整は10日未明まで11時間に及んだ。
ホワイトハウスなどによると、ギリシャ危機によるユーロの信用不安が世界同時株安を招いた事態を踏まえ、オバマ米大統領は9日、メルケル独首相、サルコジ仏大統領と相次いで電話協議し、「EU諸国が市場の信頼を確立するための措置を取る必要性」で合意した。

一方、ECBは国債や民間債券の買い取り措置の導入を決めた。市場や一部首脳や欧州委員会からも、ポルトガルやスペインなどへの危機拡大を防ぐため、ECBに国債購入の検討を促してきたが、国債購入は、ECBの資産劣化を招き、共通通貨ユーロの信認を損なう恐れもあり、ECBは一貫して導入に否定的な考えを示してきた。
しかし、ポルトガルなど深刻な財政危機に陥った諸国の国債は、市場で買い手がなく暴落が続いている。危機の根を断つには、ECBが国債などの買い手となり、市場の不安を抑制する措置が不可避と判断した。【5月10日 毎日】
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こうしたギリシャの財政再建努力、EUの信用不安防止対策にも関わらず、ユーロ安に歯止めがかっていません。
****ユーロ/ドルが1年半ぶり安値、欧州経済を懸念=NY市場*****
14日のニューヨーク外国為替市場では、ユーロが対ドルで1年半ぶり安値に下落した。ぜい弱な欧州経済の回復が緊縮財政措置でさらに弱まるとの懸念がユーロを圧迫した。
ユーロ/ドルは2008年末以来の1.24ドル割れとなった。週間ベースでは4.2%下落し、08年10月26日終了週以来の大幅下落となった。
経済指標が米国の景気回復を示す一方で、ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの歳出削減や増税により欧州経済の成長が遅れるとの見方が投資家の間で強まっている。(中略)
フォレックス・ドットコムの首席ストラテジスト、ブライアン・ドラン氏は「依然として大幅なユーロ下落への調整過程にある。長期の平均は1.18ドル付近で、現在はまだこの水準を上回っている」と話した。・・・・【5月15日 Newsweek】
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99年1月にユーロが導入された際のユーロ/ドルは1.20ドル未満であり、恐らくユーロ売りは今の水準では収まらないのではないでしょうか。

【ユーロ離脱】
信用不安が増大するユーロについては、“ユーロ離脱”という言葉が欧州各国指導者の口から聞かれるようになっています。
3月17日、メルケル首相は独連邦議会で、財政条件満たさない国に関して、「最後の手段だが、ユーロ離脱条項を条約に 盛り込むことを将来、検討しなければならない」との考えを示しました。
ドイツでは、支援に踏み切れば、支援を受ける国が「モラルハザード」に陥り、 同様に財政赤字に苦しむ国々が次々と支援を要請するとの懸念が強く、国民の反発が根強くあります。

当然のごとく、ギリシャのパパンドレウ首相は同日、「ユーロから離脱する可能性はゼロだ」と 強い不快感を示していますが、ドイツ自身も財政赤字のGDP比が02~05年と09年に3%を超えたほか、累積赤字も02年以後、60%を上回る状態が続いており、今回のメルケル発言について、英フィナンシャル・タイムズ紙は 「ドイツ自身がEUにとどまりながら、ユーロを離脱することを考えているのではないか」との見方を紹介しているそうです。【3月18日 毎日より】

また、EUの最大90兆円のユーロ防衛策を巡り、5月7日のユーロ圏首脳会議で、フランスのサルコジ大統領が自国がユーロから離脱する可能性をちらつかせながら、対策に消極的なドイツのメルケル首相に協力を強く迫ったとスペイン紙パイスが14日伝えたえています。
“サルコジ大統領は机をこぶしでたたきながら「(防衛策は)すべての国が関与すべきだ」と強調し、「それができないなら、フランスはユーロに対する態度を考え直さなければならない」とユーロ離脱の可能性を示唆したという”【5月14日 毎日】
フランス、ドイツ、スペイン関係国は、この報道を否定しています。

ギリシャの抱える財政危機は、膨らむ社会保障費の増大で財政悪化が進む他国も同様です。
また、ユーロ圏内の各国財政政策を調整すべき中央集権的なシステムも存在しません。
“出て行け”にせよ、“出て行く”にせよ、そうした発言が出る文脈はいろいろあるにせよ、また、その真偽のほどは定かではないにせよ、そうした“ユーロ離脱”という言葉が表面化すること自体が、傾きつつあるユーロ圏の現状を表しているように思えます。

【死のスパイラル】
今後の展開については、悲観的な見通しが多く語られています。
厳しい財政緊縮策をギリシャが実行できるとは思えない・・・仮に、すべて計画どおりに進んでもギリシャ政府の債務残高は最高でGDP比150%に達し、金利支払いだけで7.5%にのぼる、これは政治的に耐えられないだろう・・・ギリシャ危機は欧州の同様に財政危機にある国々に信用不安という形で伝染する・・・危ないギリシャ国債を大量に抱えるギリシャの銀行が危機に瀕すると、ギリシャの銀行に資金的に依存するブルガリアやルーマニアで信用収縮が起きる・・・ギリシャ国債を抱えるEU諸国の銀行も同様に危機に陥る・・・

最近“死のスパイラル”という言葉もよく目にします。
財政赤字による信用不安で国債金利が上昇し、債務返済コストが更に膨れ上がり赤字が増大する、対応策として厳しい緊縮策をとれば国内景気は悪化し、税収は低下し、更に赤字が増える・・・

各国の財政状況悪化の根底には膨大な社会保障費の存在があります。
各国とも高齢化が進むなかで、今後増大が見込まれ、この“聖域”に切り込むことは政治的に容易ではありません。
第1次大戦後、金本位制の従来経済秩序に固執し、世界大恐慌へと突入した世界経済になぞらえて、現在の世界経済は膨らむ社会保障費への対応がとれず世界恐慌へ至る危険があることを指摘する意見もあります。

また、当時はイギリスなど欧州経済が疲弊し、アメリカが台頭する世界経済秩序の変革期でしたが、現在は欧米先進国経済が停滞し、新興国が台頭する変革期でもあります。
その台頭する新興国が輸出主導から内需主導経済に転換し、先進国からの輸出を引き受けてくれるシステムになれば、新しい経済秩序が形成されるのでしょうが・・・。

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タイ  タクシン元首相派の強硬派指導者狙撃 更なる混乱か、収束か?

2010-05-14 22:03:45 | 国際情勢

(5月13日 狙撃される直前のカティヤ少将 “flickr”より By RealThai
http://www.flickr.com/photos/43334420@N00/4604207702/)

【首相 和解案を白紙撤回】
タイ・バンコクでのタクシン元首相支持派「反独裁民主戦線」(UDD)(通称“赤シャツ隊”)による市街地占拠・騒乱につては、5月5日ブログでは、アピシット首相が11月14日の総選挙実施など政治的解決策を示し、UDDのウィーラ議長も「衝突による犠牲者をこれ以上出さないため」として首相提案の受け入れを表明したことを取り上げ、根本的解決ではないものの、とりあえず混乱状態は収束することになった・・・と書きました。

しかし、事態は一向に収束していないことは報じられているとおりです。
UDDは10日、軍とUDDの4月10日の衝突で多数の死傷者が出た責任を政府側が認め、治安維持の責任者だったステープ副首相が警察に出頭すれば、3月中旬から続けてきた大規模抗議行動を終結すると表明しました。
これを受け、ステープ副首相は11日、警察ではなく法務省の管轄下にある特別捜査局に「出頭」しました。
しかしUDDは「副首相に対する訴追手続きが取られなかった」などとして、占拠解除に応じませんでした。

こうしたUDDの対応に、アピシット首相は態度を硬化、総選挙早期実施の和解案を白紙撤回しました。
****タイ政府、和解案を撤回 元首相派の集会続行受けて*****
タイ政府のパニタン報道官は13日朝、反政府集会を続けるタクシン元首相派に対し、アピシット首相が先に和解案の軸として提示していた総選挙の早期実施について、元首相派が政府が要求した期限までに集会を終えていないことから「(選挙日程は)白紙になった」と発言した。
元首相派は下院の早期解散・総選挙を集会終結のための最低条件に挙げていた。政府が提案を撤回したことで、2カ月にわたる騒乱の当面の収束は難しい情勢になった。
また報道官は、元首相派が占拠する首都中心部への水道や電気の供給などを停止する「兵糧攻め」について、「技術的な問題があった」として、いったん実施を発表したものの中止にしたことを明らかにした。

アピシット首相は今月3日、政治解決に向けた5項目からなる和解案を提示。12日までに集会を終えるよう元首相派に要求していた。
これに対し、元首相派は和解案の原則受け入れを表明したものの、多数の犠牲者を出した4月10日の武力衝突について副首相が責任をとって警察へ出頭するよう要求。これが実施されていないとして、13日も朝から集会を開いている。【5月13日 朝日】
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また、タイ陸軍は13日、バンコク都心部のUDDが占拠する地域の周辺道路を、武装車両などを用いて封鎖すると発表、緊張が高まっていました。

【「赤い司令官」カティヤ陸軍少将狙撃】
そうした緊張のなかで、「赤い司令官」と呼ばれるタクシン元首相派の強硬派指導者、カティヤ少将を狙撃した1発の銃弾が、事態を一気に混乱へと導いています。
“「ドサッと音がして、首からがくっと崩れ落ちた。私はちょうどカティヤ将軍とわずか30センチほどの距離におり、撮影している最中だった。あっという間に周りが一面、血だらけになった」(中略)毎日新聞特別嘱託・三留理男氏はまさに銃撃の瞬間、ルンピニ公園内の一角で少将をカメラで撮影中だった。現場は地下鉄シーロム駅に近く、少将周辺には30人以上の「私兵」がいたという。(中略)眉間(みけん)を撃たれた模様という。
少将が銃撃されたことが判明した直後、私兵部隊とみられる集団が一斉にM16とみられる自動小銃を取り出し、公園の外側に向け銃撃を始めた。”【5月13日 毎日】

一発で頭部を撃ち抜くあたりは、プロのスパイナーの仕事のように思われます。
この数時間前、軍は、占拠地域への人の流入を防ぐため、周辺道路を封鎖しスナイパーを配置すると警告していました。

****タイ:タクシン派少将銃撃 強硬派幹部負傷で深まる混迷*****
タイの首都バンコクで、都心部を占拠するタクシン元首相派の強硬派指導者、カティヤ陸軍少将が銃撃された。軍のスナイパーによる狙撃の可能性が指摘され、人々に大きな衝撃が広がっている。
「反独裁民主戦線」(UDD)強硬派が今後、政府に対して反発を強める恐れがある一方で、指導者の負傷で強硬派が力を失い、政府との対話路線が再開する可能性も否定できない。情勢はますます混迷の度を深めている。
カティヤ氏が撃たれた直後、狙撃現場となったUDD占拠地域の南端に近いルンピニ公園周辺では銃撃戦や爆発が起き、現場は大混乱となった。

カティヤ氏は、現役のタイ陸軍高官の中でタクシン氏支持を公言していた異例の人物。「赤い司令官」と呼ばれていた。自身に忠誠を尽くす元軍人らを民兵組織として率いているとされる。その過激な言動でUDDから絶縁を言い渡されたが、UDDが都心部を占拠した後は連日のように占拠地域に顔を出し、配下の者に地域の警備に当たらせた。
アピシット首相は、多数の死傷者が出た4月10日の軍とUDDの衝突について、「カティヤ派の元軍人らが引き起こした」として、カティヤ氏を「テロリストの黒幕」と名指しで非難していた。
だが、カティヤ氏は毎日新聞の取材に、民兵集団を率いているとの情報を否定。一連の爆破などの事件に対しても「かかわっていない」としていた。

UDDが、政府との間で占拠終結へ向け、水面下の交渉でほぼ合意する中、カティヤ氏はUDD幹部に対し、占拠の継続を強く求めたとされる。このため、政府はUDD強硬派の背後にカティヤ少将がいるとみて、少将の拘束や殺害の機会を狙っていた可能性がある。【5月13日 毎日】
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【拡大する混乱】
カティヤ少将狙撃によって、混乱が拡大しています。
****タイ:元首相派、軍と衝突1人死亡 地方にも非常事態宣言*****
バンコクで13日、タクシン元首相派の強硬派リーダー、カティヤ陸軍少将が都心部ルンピニ公園で何者かに狙撃された事件を機に、同日夜から14日未明にかけタクシン派市民と軍が衝突。市民1人が死亡した。負傷者は最大20人とみられる。政府は地方への混乱の拡大を恐れ、元首相の地盤のタイ北部や東北部の各県に非常事態宣言を拡大した。
カティヤ少将が狙撃されたルンピニ公園周辺では14日朝、軍による検問を突破しようとしたタクシーに兵士が威嚇射撃。公園内では断続的に銃声や破裂音が続いており、緊張した状態が続いている。

少将は搬送された病院で、頭部から銃弾を摘出する緊急手術を受けたが、意識不明の重体が続いている。公園周辺の高層ビルから狙撃されたとみられ、軍の狙撃兵による可能性もあるが、政府は事実関係の確認を避けた。
13日夜、カティヤ氏銃撃の情報を聞いたタクシン派支持の市民が次々に集まり、午後11時ごろから警戒の軍兵士と衝突。投石や手製のロケット花火の発射を繰り返す市民に、軍はゴム弾を発砲。同公園付近では14日未明にかけ断続的に爆発音や発砲音が響き、騒然とした状況が続いた。25歳の男性が顔面にゴム弾の直撃を受け死亡。負傷者は20人に上るとの情報がある一方、地元当局は負傷者はカティヤ氏を含む計8人としている。
都心部繁華街を占拠しているタクシン派「反独裁民主戦線」(UDD)は14日も占拠を継続。軍は装甲車を出動させ、占拠地域を含む約3キロ四方を封鎖し人や車両の出入りを厳しく規制する方針。地元紙によると封鎖範囲内にある米国、英国、オランダ大使館は14日、臨時閉館を決めた。【5月14日 毎日】
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【漂流する運動の行方】
混乱の事態を受け、国外逃亡中のタクシン元首相はバンコクの代理人を通じて声明を発表し、政府に対し治安部隊の後退と対話を求めています。
また、UDD指導部については、“状況が緊迫するなか、元首相派の穏健派指導者で政府との交渉を担ってきたウィーラ氏が占拠地域を離れて自宅に戻ったとの情報が流れるなど、元首相派の分裂が指摘されている。同派は、強硬派のカティヤ氏が撃たれたこともあり、14日夕、対応を再び協議する。別の幹部は「様々な意見がある」としており、占拠継続か退去かをめぐって指導部内が揺れている模様だ。”【5月14日 朝日】と、混乱・分裂状態が報じられています。

すでにUDD穏健派指導部は、次第に過激化する赤シャツ隊を十分にコントロールできず、政府との交渉を進めたくても支持者強硬派からの突き上げでそれもできない状態にありました。
一般的に徹底抗戦を叫ぶ強硬派の主張をおさえて一定の妥協点に着地するためには強力な指導者が必要ですが、UDDでは「死ぬまで戦う」というスローガンに煽られた運動を制御できずに、運動が漂流し始めていました。
アピシット首相も軍・警察との間に溝があり、強制排除したくてもできない情勢が報じられていました。
こうした全体を制御できる指導者がいない状態で、強硬派をリードしてきたカティヤ陸軍少将の狙撃が、事態をどのような方向に進めるのか・・・更なる混乱か、それとも収束か・・・全くわかりません。
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アメリカ  止まらぬルイジアナ州沖の原油流出 箱作戦、ゴミ詰め、更には核爆弾も

2010-05-13 22:24:32 | 災害

(犠牲者11名を出して炎上する石油掘削施設Deepwater Horizon “flickr”より By SkyTruth
http://www.flickr.com/photos/skytruth/4543315980/)

【「米国の知力を結集して問題解決にあたる」】
アメリカ南部ルイジアナ州沖の石油掘削施設爆発による原油流出は、原油を止める作業が難航し、事故から23日目となる現在も、原油は一日あたり約32万リットル以上が流出していています。
アメリカ海洋大気庁と沿岸警備隊の推計では、12日までの総流出量は約1750万リットルに上るとみられており、流出した原油の大半は、沖合で漂流を続けています。
(はっきり記憶していませんが、今朝か昨日のTVニュースで、流出は原油からガスに変わりつつあり、ひところよりは“まし”になりつつあるという報道があったような・・・気もします。)

石油掘削リグを操業していた英エネルギー大手BPでは、8日、ドーム状構造物を原油が流出している箇所にかぶせる方法を試しましたが失敗しました。
****原油阻止「箱作戦」断念、ガスが邪魔 メキシコ湾流出****
米南部ルイジアナ州沖のメキシコ湾で起きた原油流出事故で8日、流出を止めるために巨大な箱状構造物を上からかぶせようとしたが、新たな問題が発覚し、作業が中断された。水深約1500メートルの海底で水和化したガスが構造物の中にたまり、上部にある原油を吸い上げる口をふさいでしまっているという。【5月10日 朝日】
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進展しない事態に苛立つオバマ大統領は、科学者たちによる顧問団を結成したとか。
****続く米原油流出、政府が専門家チーム結成*****
米ルイジアナ州沖で起きた石油掘削基地の爆発・水没事故以降、油井からの原油流出を食い止めようとしている英エネルギー大手BPをサポートするため、バラク・オバマ米大統領は科学者たちによる顧問団を結成した。

約3週間前に起きた同事故以降、原油はメキシコ湾に流出し続けている。ノーベル物理学賞の受賞者でもあるスティーブン・チューエネルギー長官は12日、報道陣に「米国の知力を結集して問題解決にあたる」と語った。
チュー長官によると政官民、学界から最高レベルの物理学者、エンジニア、物質科学者、地質学者らを集め、「型にはまらない発想」で流出を停止させる方法を探る。「事態は改善しつつある。1週間前よりもましな気分だ」と述べたチュー長官は、そう楽観的に語れる新たな材料については言及しなかった。

停止作業は現在、流出個所をふさぐように海底に箱を沈め、中にたまった原油を長いパイプを使って海上の船上へくみ上げる方法を週末までには開始しようと、最終準備に入っている。
また、事故後に正常に作動しなかった油井からの流出を止める噴出防止装置に、ゴルフボールや古タイヤの破片といった「ごみ」を詰め込んで漏れ口をふさぐ作業も準備されている。【5月13日 AFP】
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【最悪のタイミング 不思議と少ないオバマ批判】
今回の事故は、オバマ大統領にとっては最悪のタイミングでした。
大統領は3月31日、環境への影響を懸念する民主党内の反対を押し切って、アメリカ沖合での石油・天然ガスの調査・開発にゴーサインをだしたばかりでした。

****米国:石油掘削拡大 オバマ大統領、前政権の政策踏襲*****
オバマ米大統領は3月31日、ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地でエネルギー安全保障政策に関して演説し、大西洋沿岸とメキシコ湾東沿岸、アラスカ北部沿岸での石油・天然ガス掘削を拡大する方針を明らかにした。米政府は今後、環境影響評価などを行った上で、沖合での資源開発を進める。
共和党が主張してきた沖合掘削の拡大策を採用することで、医療保険制度改革でこじれた同党との関係修復を図り、気候変動対策法案の議会審議で協力を取り付けたい狙いがある。ただ、クリーンエネルギー開発など環境重視路線からの軌道修正には反発の声も出ている。オバマ政権は、エネルギー政策の合意形成に微妙なかじ取りを迫られそうだ。
米沖合での資源掘削は81~90年にかけて、環境保護を目的に議会の立法措置や大統領令によって順次、禁止区域が拡大された。しかし、原油価格が高騰した08年7月、ブッシュ前大統領は掘削禁止を撤廃する大統領令を出しており、オバマ大統領は「ブッシュ路線」を踏襲した。

オバマ大統領は演説で、クリーンエネルギー開発を米国再生の要とする方針に変わりないことを強調する一方で、「持続的な経済成長、雇用創出、米産業の競争力確保のために伝統的な燃料源も必要だ」と掘削の重要性を強調。さらに「米国の政治は分断状況にある」と指摘し、意見の対立を乗り越えて「バランスの取れたエネルギー政策」を追求する考えを示した。
共和党のマコーネル上院院内総務は「(大統領の演説は)正しい方向への第一歩だ。さらに掘削を推進すべきだ」と述べ、一定の評価を示した。一方、オバマ政権の支持基盤でもある環境保護派からは「失望した」(自然保護団体・シエラクラブ)などの批判が出ている。【4月1日 毎日】
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ブッシュ前大統領は、ハリケーン「カトリーナ」被害への対応の遅れで激しい非難を浴びました。
今回事故のタイミングの悪さ、事故処理がうまくいっていないこと、大統領が現場に出向いたのは事故から11日後だったことを考慮すると、オバマ大統領自身への風当たりがさほどきつくない現状は、オバマ大統領にとっては大変恵まれた状況と言えます。ブッシュ前大統領はきっと“フェアじゃない”と怒っているのではないでしょうか。

【ミニドーム案とゴミ詰め案】
前出【5月13日 AFP】で現在準備中と報じている“流出個所をふさぐように海底に箱を沈め、中にたまった原油を長いパイプを使って海上の船上へくみ上げる方法”は、8日に失敗したのと同じようなドーム状構造物を、原油が流出している3カ所のうち1カ所にかぶせる案ですが、構造物のサイズはかなり小さめになります。
かぶせた構造物にたまった原油を上部についたパイプを通じて海上へくみ上げ、回収する仕組みです。

この方法に関しては、
“長所:8日に失敗した原因は、構造物の内部にガスと水が結合してでき氷状の結晶が形成され、原油をくみ上げる穴をふさいでしまったため。この結晶は低温下で水とガスに大きな圧力がかかると形成される。
ミニドーム案は構造物が小さいので、同様の問題が生じるリスクは低くなると技術者たちは期待している。また8日のプランでは構造物を沈めた後に原油をくみ上げるパイプを設置することになっていたが、今回はパイプを最初から設置。そこから凍結防止用のメタノールを注入して結晶の形成を防ぐ。
短所:原油の流出を一部しか食い止められない。先ごろ失敗した案で用いた構造物は、全流出量の約85%を回収できるはずだった。ミニドーム案の場合はサイズが小さいので、成功しても回収量は大幅に少ないだろう。”【5月12日 Newsweek】とのことです。

また、“事故後に正常に作動しなかった油井からの流出を止める噴出防止装置に、ゴルフボールや古タイヤの破片といった「ごみ」を詰め込んで漏れ口をふさぐ作業も準備されている”という方法は、大量のゴミを防噴装置(BOP)に注入して原油の流出を食い止め、さらに泥やコンクリートを注入して油井を完全に封印する方法だそうです。【同上】
“ゴミを詰め込む”というのは、いかにも素人的な発想ですが、結局そういう方法が一番確実なのかも。

【5 回実践して、1 度を除き成功】
もっと物騒な方法もあるようです。
“ロシアで一番売れているという日刊紙 Komsomoloskaya Pravda が「現在メキシコ湾で起きている大規模原油流出は核爆弾で止められる」と報じているそうだ。
ソビエト時代には原油流出事故は管理された核爆発で止められてきたとのこと。「地下爆発によって岩を動かし、圧力をかけ、経路を塞ぐ」という方法で、ソビエト時代にはこの方法を 5 回実践しており、1 度を除き成功しているとのことだ。”【5月13日 Slashdot】
原油流出より更に悲惨な結果を生む危険もありそうな・・・そんな不安もあります。
ハリウッド映画的ではありますが。

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アフガニスタン  米軍増派に対抗してタリバンも兵力増強

2010-05-12 22:06:16 | 国際情勢

(アフガニスタン第2の都市カンダハル周辺はタリバンの本拠地でもあります この地域の支配権をめぐって今後激しい戦闘も予想されています。 “flickr”より By slightlyfamous
http://www.flickr.com/photos/slightlyfamous/4486264035/)

【無人航空機による攻撃への報復】
ニューヨークのタイムズ・スクエアで5月1日に起きた車爆弾によるテロ未遂事件については、ホルダー米司法長官が9日、「パキスタンのタリバンが事件を指示したことを示す証拠を固めている」と明言しており、パキスタン系米国人のファイサル・シャザド容疑者(30)が、パキスタンの武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)から、テロの訓練や資金援助を受けたとされています。
TTPが事件に関与した動機としては、オバマ政権発足後に強化された無人航空機による攻撃への報復が指摘されています。

一方、アフガニスタンのタリバンは8日、声明を出し、駐留外国軍などを標的とした新たな攻撃作戦を10日から開始すると予告しています。
****タリバンが新たな攻撃予告=駐留外国軍など標的-アフガン*****
声明は米国などの駐留外国軍のほか、アフガン議会議員、外交官らが攻撃対象になると警告。具体的には爆弾攻撃や殺人、誘拐などを実行すると主張している。
これに対し、ワルダク国防相は「タリバンが自分たちの主張を実行に移す能力を持っているとは思えない」とし、単なるプロパガンダにすぎないとの見方を示した。【5月9日 時事】
*******************************

【双方が衝突する日は近い】
最近、アフガニスタンでの戦闘については、新聞記事などではあまり目にしません。
しかし、タリバンが兵力を増強しており、今後の戦闘が激化することを指摘する下記の記事がありました。

****タリバンも「増派」、決戦秒読み*****
米軍の3万人増派に向けて、タリバンにも新兵が続々と加入──双方が衝突する日は近い
ロン・モロー(イスラマバード支局長)、サミ・ユサフザイ(イスラマバード支局)

毎晩明け方まで、年代物の自動車と小型トラックの車列がパキスタン北ワジリスタンの無法部族地帯、ダッタヘルを進んでいく。目的地はアフガニスタン。車両は米軍と戦う新しいジハード(聖戦)要員で溢れかえっている。
彼らのほとんどは、ダッタヘル郊外にある複数の訓練・宿泊施設からやって来る。地元民によると、こうした郊外の大部分はアフガニスタンとパキスタンのイスラム原理主義勢力タリバンが支配している。「この辺では、1つの家族から少なくとも男1人はアフガニスタンに向かっている」
これはタリバンが意図的に行なっている「増派」とみられる。今回の増派は、雪解けの時期を見計らって繰り返し行なわれてきた過去の増派よりも大規模だ。目的はアフガニスタン南部のタリバンを増強すること。新しい戦闘員らは、バラク・オバマ米大統領が数カ月後にこの戦闘地帯に新たに送り込む3万人の米軍兵士と対峙することになる。
彼らだけではない。さらに、冬をパキスタン北西部やパキスタン南西部のバルチスタンの難民キャンプで過ごしたり、パキスタン一帯に点在するマドラサ(イスラム神学校)で宗教的、イデオロギー的な訓練を受けた新たな戦闘員も列を成している。タリバンの増派は、おそらく今年2月にアフガニスタンのマルジャで米軍率いる連合軍との戦いでの敗北を繰り返さないためのようだ。

タリバン兵は20分でリクルート可能
パキスタン軍は、アフガニスタンにジハード要員が流出するのを阻止するため、国境に常備軍と民兵合わせて10万人を配置して治安に当たらせているという。国境沿いにある900カ所以上の前哨基地と道沿いの検問所を守っている。
だが、パキスタン軍の努力は報われてはいないようだ。パキスタン北西部で国境近くの町ミラムシャーとミールアリでは、タリバン兵が幅を利かせているらしい。これらの場所では、タリバンはハエが飛び交うレストランや粗雑なインターネットカフェでたむろし、アフガニスタン警察から盗んだフォードの小型トラックを乗り回し、堂々と武器を持ち歩く光景が見受けられる。すべてが、パキスタン軍の大規模な陣営の目と鼻の先で行なわれている。
アフガニスタンのジハード要員を集めるのは難しくないと、匿名を条件に本誌の取材に応じたタリバン幹部は言う。地域に米軍が駐留していること、そしてテロ容疑者に対する米軍の無人機攻撃が増えていることに憤慨している教養も職もない部族地帯の若者たちは、タリバンによるプロパガンダの格好の人材だ。
「20分もあれば、今すぐ戦闘員になれる若者を確保できる」とこの幹部は言う。アフガニスタン南部ヘルマンドの軍閥指導者アブドゥル・マリクは、新たな戦闘員たちが地元戦闘員の士気を高めていると言う。「彼らの存在は我々の士気を大きく鼓舞してくれる」【4月27日 Newsweek】
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パキスタンからアフガニスタンのタリバンへの兵力補給は、従前のタリバン政権樹立時からのものであり、今に始まった話ではありません。
ただ、アメリカが撤退スケジュールを明らかにしているなかで、敢えて増派して、アメリカの増派と正面から対抗しようとするタリバン側の戦略はちょっと意外でした。
アメリカの撤退時期がくるまで、のらりくらりとかわす長期戦の方針かと思っていました。

記事には“今年2月にアフガニスタンのマルジャで米軍率いる連合軍との戦いでの敗北を繰り返さないため”とありますが、タリバンにとって、マルジャを奪われたことは相当に痛手だったのでしょうか。
米政府高官は「マルジャの掃討は、カンダハルでさらに包括的かつ大規模な掃討を行う前哨戦だ」と位置付けた上で、「アフガン全土でタリバンの勢いをそぐには、年内にカンダハルで勝利しなければならない」と述べ、年内にタリバンの本拠地カンダハルで更に大規模な作戦を展開することを明らかにしています。

上記記事の線でいけば、タリバン側もこれに備えた兵力増強を進めているということで、両者がカンダハルで激しくぶつかることが考えられます。
個々の戦闘では、物量に勝るアメリカ側が優位に立ちますので、正面からぶつかりあう展開はアメリカも望むところでしょう。
ただ、いくらマルジャやカンダハルをおさえても、パキスタン北西部で「20分もあれば、今すぐ戦闘員になれる若者を確保できる」という状態では、長期的な展望はなかなか困難です。
そして、そうしたタリバン側の戦闘員確保を容易にしているのが、アメリカによる無人航空機による攻撃増加という構図です。

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